近年、非正規職員で契約満期やその他の事情で職を失った人たちが労組を結成し、大学との「非正規問題」を議論する争議が増えてきている。大規模大学の労組は概して非正規職員には冷たく組合に加入できない場合がほとんどであるので、職を失った人たちが中心となり、労組を結成しなければ交渉の場すら得ることが出来ない。

◆卒論「遅刻」学生の救い方

もう時効だろうから、私自身の経験を告白しておこう。
私はかつて大学の職員だった。
そして、ほぼ同様の卒論の遅刻提出を専任職員時代に何度か経験した。

広い事務室ではないが、私以外にも複数の専任職員がいる前で学生は卒論を提出しようとする。「はい、わかりました」と受け取るのでは時間を厳守した学生に申し開きできない。

大学を卒業するためには卒業要件を満たしていること(決められた単位数を取得していること)と、学費が完全に納付されていることが条件となる。だから、まず卒論遅刻提出学生が発生した場合は事務室ではなく、別の場所で学生を待たせて、単位取得状況と学費が完納されているかどうか、さらには指導教授が誰であるか、所属サークルなどを調べ上げる。中には卒業要件の半分ほどしか単位を取得していないのに卒論を提出しようとする猛者もいるが、そのような学生はどうあがこうが留年決定なので卒論は受け取らない。

卒業要件ををすべて満たし、卒論の提出時刻のみが遅れてしまった学生の場合、私は受領印を隠し持ち事務室を出て、待機する学生から卒論を受け取り、そこに受付印を押印する。他の学生、ことに下級生にこのことは口外しないように言い聞かせ、卒論を封筒に入れて事務室に持ち帰る。

やや時間をおいて、すでに提出済みの卒論を収納した段ボールを取り出し、整理に取り掛かる。ほとんどの学生は定刻以前に卒論提出を終えているが、それは受け付け順に段ボールに収められているだけであるので、学籍番号順に揃え直す必要がある。その作業の最中に何気ない顔をしながら受け取った「遅刻」卒論をダンボールに放り込めば一件落着である。

◆お礼は無用だったのに!

ところが後日、困った事態が起こった。「口外しないように」と伝えていたにもかかわらず、学生が紙袋を持って「田所さんこの間はありがとうございました! これお礼です」と再び事務室にやってきたのだ。

紙袋の中身はウイスキーだ。誰に聞いたのか知らないが、その学生は私が酒好きであることを知り、ありがたくも迷惑なお礼を持参してくれたのだ。

まさか「おおきに」と言って受け取るわけにはいかない。「なんか勘違いしてるで。私は君に何にもお礼言われるようなことはしてへんよ。でも一緒に飲むんやったら断らへんから5時以降に来てくれるか」といってお帰り頂いた。

そんな牧歌的な話は20年以上前のことである。今日では「コンプライアンス」重視は大学にも行き渡っているので私のような不届きな職員はいないであろう。
(田所敏夫)

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