2022年、年間表彰式が第1試合前にリング上で行なわれました。

最優秀選手賞:馬渡亮太(治政館)5戦5勝(3KO)
技能賞:藤原乃愛(ROCK ON)
KO賞:馬渡亮太(治政館)
殊勲賞:睦雅(ビクトリー)
精鋭賞:内田雅之(KICKBOX)
男子新人賞:正哉(誠真)
女子新人賞:藤原乃愛(ROCKON)
優秀選手賞:永澤サムエル聖光(ビクトリー)4戦4勝(1KO)
藤原乃愛(ROCKON)6戦5勝(2KO)1分
年間最高試合賞:9月18日、馬渡亮太(治政館)vsガン・エスジム(タイ)

年間表彰式に登場、左から正哉、藤原乃愛、馬渡亮太、永澤サムエル聖光、睦雅

◎KICK insist 15 / 3月19日(日)新宿フェイス
主催:(株)VICTORY SPIRITS / 認定:ジャパンキックボクシング協会(JKA) 

岩上哲明記者試合レポート(一部編集含む)

【第2部】18:00~20:11

◆第7試合 62.5kg契約5回戦

WBCムエタイ日本ライト級チャンピオン.永澤サムエル聖光(ビクトリー/1989.11.10埼玉県出身/ 62.5kg)
       VS
ペットプーパン・ソー・サクナリン(元・タイ国ムエサヤーム・スーパーフェザー級Champ/タイ/ 61.7kg)
勝者:永澤サムエル聖光 / KO 1R 2:48
主審:少白竜

前日計量ではコンディション調整が上手くいった様子でリラックス状態が続いていた永澤サムエル聖光。試合当日も順調で「勝ちますよ」と頼もしいコメントを残していた。

永澤はセコンドの指示通りローキックとパンチで上下に技を散らしていく。ペットプーパンは様子を見ながらミドルキックを放つ。このまま第1ラウンドが終わるかと思われた終盤に、永澤の右ストレートがペットプーパンのボディーにヒットすると、悶絶の10カウントアウト、永澤はタイ遠征した2月2日のラジャダムナンスタジアムでの敗戦を払拭するようなノックアウト勝利に満足していた様子。

ボディーへ牽制右ストレートを打ち込む永澤サムエル聖光、KOはこの後

永澤サムエル聖光の今度は強いボディーブローでペットプーパンを悶絶のKO

◆第6試合 ジャパンキック協会ライト級王座決定戦5回戦

1位.睦雅(ビクトリー/1996.6.26東京都出身/ 61.23kg)
        VS
2位.内田雅之(KICK BOX /1977.12.26神奈川県出身/ 61.23kg)
勝者:睦雅(王座獲得) / 判定3-0
主審:椎名利一
副審:少白竜50-42. 仲50-42. 中山50-42

前日計量では、睦雅選手は体重調整が上手くいったこともあり笑みを浮かべ、内田選手も「調子いいよ」とコメントをして計量パスした。

睦雅が攻勢を維持、タフな内田雅之を追い詰める

新チャンピオンとなった睦雅、永澤サムエル聖光を追い越せるか

試合は、睦雅はローキック、内田はパンチで主導権を取ろうと試みている様子。第1ラウンド終了時に睦雅の右ストレートが決まり、内田はノックダウンを喫したが、第2ラウンドに入ってもダメージを引き摺らずにパンチ主体で睦雅を切り崩しにかかる。睦雅は冷静にローキックで勢いを止め、逆にパンチを決めていく。

第3ラウンドには内田は得意のパンチで劣勢を打開しようとするが、睦雅のパンチとローキックに阻止され、睦雅は左右のストレートでこの試合2度目のノックダウンを奪う。

第4ラウンド、睦雅は内田をコーナーに追い詰めていき、離れてはローキックで更なるダメージを負わせる。内田は鼻血を流しながらも、隙をみてパンチを繰り出す。

最終ラウンド、後がない内田は得意のパンチで打ち合いに持ち込もうとするが、逆に睦雅の右ストレートを貰い、この試合3度目のノックダウンを喫する。睦雅の攻勢は続くが、内田はタフネスぶりを発揮し耐え凌いだが、睦雅の大差判定勝利となった。

◆第5試合 58.0kg契約3回戦

WMOインターナショナル・フェザー級チャンピオン.瀧澤博人(ビクトリー/1991.2.20埼玉県出身/ 58.05→58.0kg)
       VS
スアノーイ・シッソー(元・タイ国イサーン地区スーパーバンタム級Champ/タイ/ 57.5kg)
勝者:瀧澤博人 / 判定3-0
主審:桜井一秀
副審:椎名30-28. 仲30-28. 少白竜30-28

初回、滝澤は上下に蹴り分け、スアノーイは様子を見るスタイル。ラウンド終盤になると、スアノーイの鋭いパンチが飛んでくるが、滝澤は上手くかわしてヒットさせず。

第2ラウンド、滝澤も蹴り主体で出て、ガードが空いたスアノーイのボディーに右ストレートを決め、更に果敢に攻めるがノックダウンまでは奪えず。

第3ラウンド、滝澤のボディー攻撃は的確に決まるが、スアノーイは変則的なガードで距離をとりダメージを受けない体勢。滝澤が攻勢を維持して判定勝利。

瀧澤博人が巧みにスアノーイをロープ際へ追い詰め、ローキックヒット

◆第4試合 女子(ミネルヴァ)アトム級(102LBS)挑戦者決定戦3回戦(2分制)

1位.祥子JSK(治政館/ 46.15kg)vs4位.ほのか(KANALOA/ 46.2kg)
引分け 1-0 /
主審:中山宏美
副審:椎名28-28. 桜井29-29. 少白竜29-28.
延長戦は三者とも9-10で、ほのかが挑戦権獲得。公式記録は引分け=ミネルヴァ実行委員会が公認。

初回、ほのかの首相撲とパンチの連打で祥子はペースを掴めず打たれる場面があった。

第2ラウンド、祥子は流れを変えようとミドルキックを繰り出すが、ほのかの接近戦にペースを掴めず、ほのかは的確なパンチで主導権を支配。
第3ラウンド、後がない祥子は打ち合いでほのかを青コーナーに追い込み、右フックを決めてノックダウンを奪う。ほのかは立ち上がり、打ち合いに持ち込むが終了。引分け裁定で挑戦者を決める延長戦に入った。

ほのかは終始、接近戦に持ち込み、右ストレートやヒザ蹴りを決めていく。祥子も打ち返すも手数で追いつかず、ほのかが延長戦を制した。

祥子JSKとほのかの攻防、際どくもほのかが挑戦権獲得

◆第3試合 フライ級3回戦

JKAフライ級2位.西原茉生(治政館/ 50.7kg)vs花澤一成(市原/ 50.8kg)
負傷引分け / TD 1R 0:28
主審:仲俊光

開始早々、打ち合いになり、早い展開で盛り上がっていた中、花澤一成が倒れる。西原茉生の右ストレートのカウンターが決まったと見えたが、TKO裁定は審議の上、偶然のバッティングと訂正。規定により負傷引分けとなった。立てない花澤は担架で控室に運ばれた。

試合後、西原選手からは「パンチが決まったかと思ったが、ビデオを見たら頭が当たっていた感じですね」と語り、「しかし、KO勝ちのイメージが出来たのは収穫です。再試合が組まれれば倒します!」と応えてくれた。

◆第2試合 ウェルター級3回戦

我謝真人(E.D.O/ 66.67kg)vs鈴木凱斗(KICK BOX/ 66.67kg)
勝者:我謝真人 / KO 1R 2:30 / 3ノックダウン
主審:少白竜

◆第1試合 ライト級3回戦

岡田彬宏(ラジャサクレック/ 61.15kg)vs来輝(BOMスポーツ沖縄/ 60.65kg)
勝者:岡田彬宏 / TKO 2R 3:00(終了ゴング同時の見極め)
岡田の右ヒジ打ちが来輝の右眉付近をカット。ドクターの勧告を受入れレフェリーストップ。
主審:椎名利一

【第1部】14:00~16:30

◆第7試合 女子(ミネルヴァ)ピン級(100LBS)タイトルマッチ3回戦

チャンピオン.藤原乃愛(ROCK ON/2005.1.6神奈川県出身/ 45.3kg)
      VS
挑戦者同級1位.撫子(GRABS/2000.7.7札幌市出身/ 44.6kg)
勝者:撫子 / 判定0-3 / 撫子が王座奪取、藤原乃愛は初防衛成らず
主審:中山宏美
副審:椎名28-29. 仲29-30. 桜井29-30

撫子が接近戦でのヒザ蹴りで藤原乃愛を苦しめた作戦勝ち

前日計量では、両者共に1回でパス、藤原選手は「ギリ(ギリ)JKファイターです。世界を目指していますので、防衛は当たり前です!」と王者の風格を見せた。撫子選手は「藤原選手とは3度目(過去1敗1分)で、3度目の正直で勝って北海道にベルトを持ち帰ります!」とコメント。

「藤原乃愛が防衛する」という声が多かったが、試合が始まると、撫子は藤原乃愛得意の蹴り技を封じる間合いを作り始めていく。撫子は首相撲からのヒザ蹴り、至近距離からのパンチで攻勢を仕掛ける。藤原は得意技を出す展開が少なく、少しずつ焦りが見えて来た。第2ラウンドも撫子は接近戦を仕掛ける。藤原は前蹴りで距離を取り、撫子の仕掛けを切り崩しに行くが、撫子はかわして接近戦に持ち込み、首相撲から顔面へのヒザ蹴り、パンチで追い込む。

最終第3ラウンドも撫子の接近戦は継続。藤原やセコンド陣は撫子の組み技に「反則だ」と声を出して主張するなど、今までと違う雰囲気になる。観客からも「藤原は心が折れ掛かっている」と心配する声が挙がっていた。藤原もブレイク後に得意の蹴りを仕掛けるがペースが掴めず終了。撫子がポイント的には僅差ながら主導権を奪った流れの判定勝利。

試合後、撫子は「ベルトを北海道に持ち帰れて嬉しい!」と語り、佐藤友則会長も「作戦勝ちです。撫子がしっかりと作戦を実行してくれました!」と両者、関係者共に奪取の喜びを爆発させていた。一方の藤原選手はノーコメント。代わりにセコンドが「今回はセコンドが悪かったです。乃愛には申し訳なかった!」と悔しさを交えてコメントしていた。いつもはインタビューに明るく応じてくれる藤原選手や関係者が悔し涙を流しているのを観て、「これが勝負の世界だ」ということを改めて認識させられました。

◆第6試合 72.6kg契約3回戦

JKAミドル級チャンピオン.光成(ROCK ON/ 72.5kg)
        VS
スーパーボーイ・ルークプラパーツ(タイ/ 71.1kg)
勝者:スーパーボーイ / TKO 2R 1:17
主審:少白竜

前日計量をパスをした光成選手は「セミファイナルですが、いい試合を見せます!」とコメント。当日もリラックスしていた表情。

初回はお互いに探り合いの蹴りの間合いで静かな展開だったが、スーパーボーイのヒジ攻撃が鋭く決まると、光成はアウトスタイルで自分の距離を取りパンチを繰り出す。

第2ラウンド、光成は得意なパンチを的確に入れていき、スーパーボーイもパンチ、ヒジ打ちを単発ながら入れていく。接近戦になり、スーパーボーイの右ヒジ打ちが光成の右眉間をカット。大きく出血はしなかったものの、再び首相撲中に右ヒジ打ちを今度は左眉上額に受け出血し、2ヶ所の負傷でドクターの勧告を受入れレフェリーストップとなった。

試合後の光成選手のセコンドは「アンラッキーだっただけ。よく戦っていたよ!」とコメント。光成選手は「そう言っていただければ嬉しいです。次回頑張ります!」と応えた。光成選手は眉間付近を2ヶ所カットで、それぞれ6針縫った様子。

パンチと蹴りで動きは良かった光成、接近戦は要注意の中で切られてしまった

◆第5試合 52.0kg契約3回戦

JKAフライ級1位.細田昇吾(ビクトリー/ 52.0kg)
        VS
宮坂桂介(ノーナクシン東京/ 52.0kg)
勝者:細田昇吾 / 判定2-1
主審:仲俊光
副審:椎名30-29. 中山29-30. 少白竜30-29

初回、細田昇吾はパンチを主体に攻めるが、宮坂は細田に距離を取らせないように蹴りで離しに掛かっていく展開。両者とも決め手に欠くが、細田が僅差2-1判定勝利。

◆第4試合 ウェルター級3回戦

JKAウェルター級1位.政斗(治政館/ 66.5kg)vs同級2位.正哉(誠真/ 66.67kg)
勝者:正哉 / 判定0-2
主審:桜井一秀
副審:仲29-29. 中山29-30. 少白竜29-30

両者共に互角な展開でミドルキック、ローキック、パンチを互いに決めていく。攻撃の的確さで正哉がやや優勢の僅差で判定勝利。

◆第3試合 59.0kg契約3回戦

JKAフェザー級1位.櫓木淳平(ビクトリー/ 58.8kg)
        VS
ナロンチャイ・シンコウムエタイジム(元・ルンピニー系フライ級6位/タイ/ 59.15→59.05→59.0kg)
引分け 1-0
主審:椎名利一
副審:桜井28-28. 仲28-28. 少白竜28-27

初回、櫓木淳平はローキックで攻勢を保つもガードが下がったところ、ナロンチャイの左ストレートでノックダウン。フラッシュ気味で効いていないが、第2ラウンド以降へ長引くとスタミナが切れてきたナロンチャイにボディー主体に攻めて挽回するが、初回のノックダウンが響いて引分け。

◆第2試合 ライト級3回戦

JKAライト級5位.林瑞紀(治政館/ 61.23kg)
        VS
JKイノベーション・ライト級4位.井上竜太(HEARDWORKER/ 61.0kg)
勝者:林瑞紀 / 判定3-0 (30-27. 30-27. 30-26)

◆第1試合 フェザー級3回戦

隼也JSK(治政館/ 56.9kg)vs石川智崇(KICK BOX/ 56.9kg)
勝者:石川智崇 / 判定0-3 (29-30. 28-30. 28-30)

王座奪取した撫子の“なでしこポーズ”

《岩上哲明記者観戦記》

【第1部】
まずは藤原選手の敗戦について、敗戦要因はいくつかあるが、簡単に2つだけ挙げると、一つは、「藤原乃愛」が徹底的に研究をされていたことから生まれた「得意技封じ」という我々が忘れかけている戦略にハマってしまったことである。そして、撫子側に「北海道へベルトを持ち帰る」というドラマにもなるようなテーマが藤原選手の「世界を狙う」を上回ったことだと思われる。しかし、これで1勝1敗1分けのイーブンであり、リターンマッチになるかどうか分からないが、時間がかかっても再戦の実現を期待したい。

セミファイナルは「ヒジ攻撃の怖さ」を改めて思い知らされたと言えよう。光成選手はこの経験を次に活かして欲しい。

【第2部】
永澤サムエル聖光選手はこの興行をしっかり締めてくれたと思う。団体のエースとしての自覚も伝わり、興行全体を意識するメインイベントの戦い方をかなり覚えてきたと言えよう。そして、ライト級王座決定戦では、「巡ってきたチャンス」と「二団体王者になるチャンス」というお互いがテーマをぶつけ合う試合だった。KO決着は見れなかったが、内田選手の粘りは新王者になった睦雅選手にとっていい手本になったと思う。

判定決着が多かったが、それぞれのセミファイナル、メインイベントが盛り上がったことで、興行として良かったと思う。改めて思ったことは、「勝利」は、選手、セコンド、ジムを含めた関係者が三位一体になることで得ることが出来ることである。そして、観客の皆様は、そのことを知ることで、キックボクシングの試合の視点が変わり、新境地で楽しめることが出来るだろう。

《堀田春樹取材戦記》

ライト級王座決定戦は、上り調子の睦雅と老練なテクニックを持つ内田雅之の拮抗した競り合いが見所だったが、睦雅の若さが優った展開。ノックダウンを計3度喫し、最後はレフェリーに止められるかと思ったが、5回戦を耐え持ち堪えた内田雅之の底力が見られた試合だった。再度王座挑戦権が回って来るかは難しいが、また応援したくなるベテランである。

藤原乃愛の王座陥落はキックボクサーとして初めてのどん底かもしれないが、多くの名チャンピオンも通って来た道で、同様に這い上がって来るだろう。18歳(ギリギリ高校生、年度末まで)としても春から大学生、人生これからである。

次回、ジャパンキックボクシング協会興行は5月14日(日)に市原臨海体育館で開催されます。新日本キック離脱後はコロナ禍を経て、初めてとなります。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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