聞き手=青木泰(紙の爆弾2026年3月号掲載)

マイナンバーカードをめぐり、政府は「取得は個人の自由」と言いつつ、紙の健康保険証を廃止し、マイナ保険証への一体化を進めている。推進に巨額を注ぎながら、利用率が37.4%(昨年10月時点)に満たないは明らかな政策の失敗だが、それを隠して総括することなく、デジタル庁はさらに関連予算を増額する動きだ。現状と狙いを把握し、私たちは防衛策をとることが必要である。2023年10月号でインタビューした堤未果氏に再び聞いた。
◆旧保険証が廃止されても資格確認書で代替可能
── マイナンバーカードについて、番号法(注1)第16条の2では、本人の申請が条件で、健康保険証・免許証の登録を含めて強制してはならないと定められています。ところが、いわゆる旧保険証の2025年12月1日での廃止を発表後、期限を今年3月まで延期したものの、マスコミ報道は「廃止」を強調。そこには健康保険資格確認書(以下、資格確認書)のことが全く抜け落ちていました。ほとんどの報道は、3月までにマイナ保険証に切り替えなければ、医療機関の受診が出来なくなるかの内容で、政府の切り替え推進を後押ししています。
堤 マイナに切り替えたくない人の場合、各保険(国民健康保険・社会保険・後期高齢者医療制度)によって少しずつ違いがありますが、表1に示したように、旧保険証に代わり資格確認書が交付されます。国保の場合、自治体によっては有効期限が1?5年の違いがあります。後期高齢者はマイナ保険証の有無にかかわらず資格確認書を配布することになっています。

── いずれにせよ、マイナ保険証を持たなくても、旧保険証と同じ役割を持つ資格確認書が交付されるということですね。
堤 新聞やテレビは「わざわざマイナ保険証に切り替えなくとも資格確認書を提示すれば医療機関を受診できる」というもっとも重要な事実を伏せて報道しているので、国民の間に混乱と誤解が広がっているのです。
── 結局、旧保険証を残せばよかったのでは? なぜ廃止したのでしょうか。
堤 その通りです。資格確認書は今までの保険証と色が違う程度で、ほぼ同じ。無駄な時間と手間がかかり、医療機関では受付が混乱し、新しいカードを作る事務手数料が政府与党のお友だち企業に入るだけ。いつもの税金の無駄使いです。
そもそも政府は保険証にしても免許証にしても、従来使っていたものをそのまま使い、マイナを持つ、持たないは国民各自が決めていいと言ってきました。でも、政府の本命はカードを持つ、持たないではありません。マイナンバーカードに健康保険・運転免許や銀行口座などあらゆる個人情報を紐づけし、国民を一括管理する体制をつくる方向に進めているのです。
そこでまず、マイナカードを作る誘導策として、2020年から国民1人2万円、国家予算にして1兆8000億円(マイナンバーカード作成で5000円、健康保険証登録で7500円、給付金の受取口座を明かせば7500円)を餌にマイナポイントキャンペーンを仕掛けました。それでも作らない国民が多いので、誰もが使う保険証を入口にするやり方に切り替えたのです。
── ちなみに「紐づけ」とは?
堤 マイナカードだけなら、入っているのは本人の住民票に基づく氏名・住所・生年月日・性別、そして個人番号(マイナンバー)と顔写真です。「紐づけ」とは、その後、この個人番号と健康保険を一体化させたり、免許証として使えるようにしたり、年金や給付金の受取口座と連動させていくこと。マイナカード一枚に個人情報を集めていくのです。
── 紐づける情報が増えれば、一枚のカードでいくつもの役割を果たせるというのが売りですね。しかし……。
堤 一枚ですむ一方で、カードを紛失したり、盗まれたり、偽造されたりすると、入っている情報が多いほど大変な被害が生じます。また、4桁の暗証番号の管理の問題もあります。番号を覚えられない高齢の方や、認知症の方をどうするかについても、政府は答えを出していません。
たとえば、今までの保険証なら、子どもの修学旅行にはコピーを持たせれば、いざ怪我や急病の時に病院で使えたのに、なくすリスクを考えるとカードを持たせることはできません。
── マイナカードを持てば、住民票なども含めて利便性が高まるというのが、カード導入の一番の触れ込みでした。
堤 そうです。ところがふたを開けてみると、利便性が上がるどころか、今までは紙の保険証を病院の受付で渡せばすぐにカルテを取り出して診療に移れていたのが、マイナ保険証は、受付でカードを読み取る機械の不具合が多発しています。うまく読み取れないとか、顔写真の照合でエラーが出るなど、かえって時間がかかってしまう。そうしたトラブルが、医療機関の8割で起きているのです。
── 私も、これまで受付で並んだことのない病院で、昨年ごろから行列ができるようになったのを経験しました。
堤 受付は大変です。今年3月まで使える旧保険証、マイナ保険証、そしてマイナ保険証を作らない人が使う資格確認書、この3種が出されます。確認手続きの手間が三倍に増えたということ。カードリーダでうまく読み取れない場合は、「資格情報のお知らせ」や「被保険者資格証明書」など、本人確認のための別の書類を出してもらわなくてはなりません。マイナ保険証は本人申請が条件ですが、お年寄りや寝たきりの人、引きこもりの人などは申請に行けませんから、資格確認書を使わざるをえません。多くの医療機関はそのことをわかっていたので、最初からこの制度に反対していました。
── 資格確認書の有効期限は、現状で発行から一年という自治体が多いようですが、中には五年とした自治体もあるとのことですが。
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