堀田春樹
大田拓真が技と駆引きで優ったノックアウトでWBCムエタイ世界王座奪取。
星拓海が嵐にノックアウト勝利の番狂わせで王座獲得。
繋那が落ち着いた攻防で藤井昴を倒したTKOで王座獲得。
オープンフィンガーグローブの吉田凛汰朗vs健太は壮絶な打ち合いの末、無判定引分け。
◎KING OF CHALLENGER / 6月8日(日)後楽園ホール17:15~21:26
主催:オフィス超合金 / 認定:NJKF、WBCムエタイバンコク本部
放送:U-NEXT
この記事では最初の試合を第1とし、ナンバーはプログラムと異なっています。
◆第9試合 WBCムエタイ世界フェザー級タイトルマッチ 5回戦
選手権者.アントニオ・オルデン(1991.10.14スペイン・マドリード出身/ 56.95kg)
51戦43勝(7KO)7敗1分
VS
挑戦者9位.大田拓真(新興ムエタイ/1999.6.21神奈川県出身/ 56.95kg)
42戦32勝(11KO)8敗2分
勝者:大田拓真 / KO 3ラウンド 1分49秒
スーパーバイザー:山根千抄(日本)
主審:パリン・ハンタナブーン(タイ)
副審:テーチャカリン・チューワタナ(タイ)、中山宏美(日本)、宮沢誠(日本)
両者の蹴りの距離からパンチに入る牽制の様子見。徐々に大田拓真の良い動きで組み合ってもウェイト乗せた攻防は優っていく印象。狙って打つ蹴る大田がリズム掴み、アントニオ・オルデンも初回から手数あるが大田を圧せない中、第3ラウンドには大田がオルデンをニュートラルコーナーに追い込む流れで右前蹴りとなる三ヶ月蹴りを蹴り込むと、オルデンは苦しそうにノックダウン。レフェリーのパリン氏はカウント6で試合をストップした。


大田拓真はリング上のコメントで「世界一の実感はないですけど、とにかく嬉しいです。まだ僕はこれからも、もっと上を目指していきます。」と語った。
連盟代表で新興ムエタイジムの坂上顕二会長は「世界戦は実力だけじゃ獲れなくて、いろいろな壁を乗り越えていく中で、しっかり作戦どおり力出してくれたので、もうおめでとうと言いたいだけですね。」
「最後の三ヶ月蹴りは、あれで絶対嫌がると思うからいろいろな攻撃パターンが生まれる中で、大体作戦がハマっていたところでしたね。」

防衛戦については「WBCムエタイ本部から指名して来るので、アントニオ・オルデンの奪還戦になるか、他の海外の選手になるか、そして日本でやるかスペインでやるか、いずれも倒してしまえば文句無いのでどこでやろうと防衛戦はしっかりやっていきたいですね。」と語られました。
アントニオ・オルデン陣営の通訳されました川久保悠(伊原プロモーション)氏は「オルデン選手は試合はコントロール出来ていたので、あの三ヶ月蹴り貰ったのは凄く勿体無かったと言い、第4~5ラウンドに進んでいれば、そこでの展開は自信があった様子で、奪還戦についてはぜひ挑戦したいと言っていました。」ということでした。
◆第8試合 第9代WBCムエタイ日本バンタム級王座決定戦 5回戦
1位.嵐(=坂本嵐/KING/2005.4.26東京都出身/ 53.45kg)19戦13勝(6KO)4敗2分
VS
3位.星拓海(IDEAL/2005.7.26東京都出身/ 53.5kg)11戦8勝(3KO)2敗1分
勝者:星拓海 / KO 3ラウンド 2分22秒
主審: 宮沢誠
ローキックでの探り合いからミドルキックへ繋ぐ嵐。星拓海は焦りも怯みも無く蹴り返していく。第1ラウンド終盤に嵐が攻勢掛けたのはマストシステムでの印象点掴む戦略もあっただろう。
第2ラウンドも嵐から上下変化掛けながら蹴って出ても、星拓海もダメージ無く蹴り返す展開。徐々にリズムに乗って来たのは星拓海。飛びヒザ蹴りも繰り出し、第3ラウンドには三ヶ月蹴りと言われる前蹴りで嵐は蹲ってしまった。そのまま苦しそうにテンカウントを聞いた嵐。トップに立つと常勝は難しくなる壁でもあるだろう。


星拓海は「ボディーブローが効いた様子が有ったので三ヶ月蹴りで追い打ちを掛けました。」と語った。更に防衛戦は重ねて行きたいと言う。そこから大田拓真のように上位へのチャンスも生まれるだろう。

◆第7試合 オープンフィンガーグローブマッチ スーパーライト級3回戦(延長2R)
NJKFスーパーライト級チャンピオン.吉田凜汰朗(VERTEX/2000.1.31茨城県出身/ 63.2kg)
29戦13勝(3KO)10敗6分
VS
健太(=山田健太/E.S.G/元・WBCMウェルター級Champ/1987.6.26群馬県出身/ 63.3kg)
125戦68勝(21KO)49敗8分
裁定は「無判定引分け」延長2ラウンド、計5ラウンドまで経過
主審:中山宏美
凄惨な試合となった。正攻法な二人だけに乱戦にはならないが、薄いグローブの影響は現れて行った。アゴにヒットして脳震盪を起こさなければ倒れないであろう中、健太の方の顔がボコボコになっていき、額を切り、鼻血を流し、口の中も切った流血も酷くなる流れ。ヒザ蹴りもタイミングよくボディーヒットさせた吉田凛汰朗。3回戦制ではあったが、判定されたとしたら吉田凛汰朗の優勢だろうか。KO決着の為、延長戦、再延長戦と進むも吉田凛汰朗がやや優勢の中、無判定引分けとなった。


健太は「もう僕はトップを目指せません。そしてもう目指してもいません。」と宣言。
「この試合が最後か分からないですけれど、人間はブレるので“辞めます詐欺”するかもしれないですけれど、その時は悪しからず。」と引退を匂わせながら現役継続とも取れるコメントを残した。
◆宮越慶二郎引退式
宮越慶二郎は過去NJKFライト級、WBCムエタイ・ライト級、WBCムエタイ・インターナショナル・ライト級王座を獲得。46戦29勝14敗3分。この戦績を通じて人生を教えて貰いましたという想いを語り、キックボクシングに僕なりの恩返しをしたいと思います。第二の人生に御期待ください」と挨拶し、テンカウントゴングに送られました。
◆第6試合 第11代NJKFスーパーバンタム級王座決定戦 5回戦
2位.繁那(R.S/2004.1.28京都府出身/ 55.3kg)17戦13勝(8KO)2敗2分
VS
3位藤井昴(KING/東京都江戸川区出身19歳/ 55.0kg)前戦含む6戦3勝(1KO)1敗2分
勝者:繁那 / TKO 1ラウンド 1分30秒
主審:宮沢誠
両者は2024年11月10日に対戦し引分けている中での再戦となる王座決定戦。
ローキックで藤井昴の脚を攻めバランス崩させる繁那。藤井がローキックを返すと繁那は左ストレート打ち込む。すでに繋那の圧力が活かされている展開。藤井の動きは悪くないが、繋那の距離感に嵌っている中、繋那は右ジャブから左ストレートでノックダウンを奪った。

再開後、すぐに向かわなかった繋那。藤井の出方を窺い、出て来る藤井に左ストレートを打ち込み二度目のノックダウンを奪い、立ってもフラ付く藤井をレフェリーはカウント中にストップを掛けた。

◆第5試合 52.0kg契約3回戦
NJKFフライ級チャンピオン.西田光汰(西田/2001.2.13愛知県出身/ 52.0kg)
13戦8勝(1KO)4敗1分
VS
NJKFフライ級6位.明夢(新興ムエタイ/ 51.75kg)14戦5勝(1KO)6敗3分
勝者:明夢 / 判定0-2
主審:児島真人
副審:梅下29-30. テーチャカリン29-30. 宮沢29-29
西田光汰は当初、永井雷智との初防衛戦が決まっていたが、永井の負傷欠場により、明夢とノンタイトル戦となった。
西田光汰の蹴りパンチ攻勢に明夢が劣らず着いていく展開。蹴り合っても首相撲となっても引けを取らない明夢。互角に蹴りパンチが続き、西田のコンビネーションブローの見せ場もある中、明夢の表情が強気に見えた。際どい採点ながら明夢が番狂わせを起こす判定勝利となった。西田はこのリングでは(正確にはマット生地)滑り易いのか、蹴っても滑って転ぶシーンが目立った。
◆第4試合 バンタム級3回戦(EX1)
山脇飛翼(K-1ジム心斎橋チームレパード/2001.10.31大阪府八尾市出身/ 53.3kg)
14戦 9勝(4KO) 4敗 1分
VS
サンチャイ・テッペンジム(元・ラジャダムナン系ミニマム級Champ/1988.5.30タイ国ソンクラー県出身/ 53.0kg)295戦222勝(89KO)70敗3分
勝者:山脇飛翼 / KO 3ラウンド 29秒
主審:中山宏美
山脇飛翼は4月27日に嵐に判定負けも、ローキックで嵐を苦しめた強気の展開。その勢いでサンチャイをローキックでジワジワ攻め、ヒザ蹴りやミドルキックも加えて最後はローキックでサンチャイを倒し切り、テンカウントを聞かせた。
◆第3試合 スーパーバンタム級3回戦(EX1)
NJKFスーパーバンタム級6位.王清志(新興ムエタイ/ 55.1kg)24戦10勝(3KO)13敗1分
VS
NJKFスーパーバンタム級7位.中島大翔(GETOVER/ 55.3kg)12戦5勝(1KO)5敗2分
勝者:中島大翔 / 判定0-3 (27-30. 28-29. 28-30)
◆第2試合 女子ミネルヴァ48.5kg契約3回戦(2分制)
山崎希恵(クロスポイント吉祥寺/28歳/ 48.25kg)4戦2勝1敗1分
VS
あゆな(笹羅/22歳/ 47.9kg)2戦1敗1分
引分け 1-0 (29-29. 29-28. 29-29)
◆第1試合 フェザー級3回戦
陽平(TAKEDA/15歳/ 56.6kg)1戦1勝(1KO)
VS
高嶋隆一(PIT/25歳/ 55.6kg)1戦1敗
勝者:陽平 / TKO 1ラウンド 2分28秒
高嶋隆一がアグレッシブな猛攻だったが、距離感掴んだ陽平が蹴り返し、ヒザ蹴りやパンチ連打で高嶋を追い込み、顔面ヒザ蹴りで圧倒すると高嶋はノックダウンとなってカウント中にレフェリーストップとなった。
《取材戦記》
戦績は前回興行結果と今回のプログラムを参照し、この日の結果を加えています。プログラムに曖昧な部分が発生しており、正確さには欠けますが参考まで。
今回、繁那に敗れた藤井昴は4月21日のトーナメント準決勝での中島凛太郎との対戦で、股間ローブローによる試合続行不可能となり、「判定2-1で負傷判定勝利」とアナウンスがありました。公式記録も確認しましたが、そのとおり。私どもは藤井昴の負傷判定勝利と記載しました。
しかし、後のNJKFからのリリースで試合結果は、「ノーコンテスト。トーナメントの為、1R途中までの採点となり藤井が 2-0 で勝利」という発表がありました。
すでにこのリリースに矛盾した部分はあり、気が付く人は解り、解らない人は解らないままと思いますが、諸事情で敢えて突っ込みはしませんが御容赦ください。2-1が2-0になっている部分だけはNJKF側の誤記かと思います。マストシステムですから。
なお、今回のプログラムに藤井昴だけ戦績が更新されていない様子でした。記載忘れでなく以上の結果を考慮したものと考えられます。
“ノーコンテスト(無効試合)”という裁定を戦績に含むか含まないかは、いろいろな解釈があると思います。
「原因に係わらず試合していないのと同じという意味で戦績に含まない。」
「天変地異など災害によるノーコンテストは戦績に含まない。試合中の偶然のアクシデントによるものは戦績に含む。」などなど。
吉田凛汰朗vs健太戦は2月2日のタイトルマッチを行ない、吉田が僅差で勝利し初防衛しましたが、不可解な判定の疑念が残り、今回、ノンタイトル戦、オープンフィンガーグローブ使用で再戦。過去1勝1敗の決着戦となったが、KO決着のみの無判定試合と制定されました。これは法の下で活動する本場ムエタイ式に言えばカテゴリー外れ(違法ではないが)。プロボクシングJBC管轄下に例えれば認められないグローブ。キックボクシングはプロモーター主体の競技で規制無く実行出来てしまいます。
試合中、「死ぬまでやらせるのか!」といった野次も飛び交ったという。白いマットが鮮血で染まっていくオープンフィンガーグローブ使用の試合は、サミングも起こり易く、今後も行なわれるのか疑問が残るルールです。
大田拓真のWBCムエタイ世界王座獲得としては、2014年11月15日の大和哲也と梅野源治以来となりました。まだ世界の頂点という実感は無いと言う中、今後も防衛戦やONEでの参戦で結果を残しながらと世界の頂点を極めていく心構えである。
NJKF次回本興行は9月28日(日)に後楽園ホールに於いて武田幸三主宰CHALLENGERシリーズが行われます。
関西版は7月20日には大阪府堺市で誠至会興行「NJKF 2025 west 3rd」が開催予定です。
▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

