「爆撃を受けた街」──。1995年1月17日早朝に起きた阪神淡路大震災の翌日、阪急電車西宮北口駅を降りた時の感想だ。駅周辺のアーケード商店街は軒並み潰れている。線路沿いを歩くと新築以外の一戸建て住宅はほぼすべて全壊している。ここは閑静な住宅街だった。幼少期を過ごした街は誇張なく「壊滅状態」だ。更に線路に沿って歩いているとかなり強い余震がある。電柱を見上げると揺れている。幾度も幾度も余震はやってくる。

完全に壊れ落ちた二階建て文化住宅の中には人の体の一部が見える。まだそこまで救助の手が回っていないのだ。この寒さの中動かない。もう亡くなっているだろう。新幹線の高架が何か所も落下している。地震発生が早朝であったのが不幸中の幸いだった。揺れがあと2時間遅ければ、落下した高架に突っ込んで更なる惨状が展開したに違いない。

地震発生直後、数分間は普通の電話が使えたけども、すぐに不通になった。関西地域では数日間に渡り電話がかかりにくい状態が続いた。私は事情があって当時既に携帯電話を持っていた。携帯電話は通常通りの通話ができた。

◆芦屋の知人のマンション廊下はひし形に変形していた

被災地を訪れたのはボランティアで普及作業をするためでも、取材のためでもない。知人が何人もそのあたりに住んでいて安否を確認したかったからだ。関西学院大学のあるあたりも相当にやられている。古い家は傾き、新しい家でも内部は家具が倒れるなどして惨憺たる状況だ。

そう、思い出した。まだあるのかどうか知らないが、関西学院大学正門前のパン屋はたった4つのロールパンを1000円で売ろうとしていた。売り主の顔が見たかった。

私の知人は全員無事だった。といっても家が全壊したり、半壊したり被害が少ないわけではない。とにかく命は取りとめていた。その日は別口からの要請もあって、倒壊した阪神高速道路近くの芦屋まで、車を確保して向かった。途中国道は警察が封鎖していると聞いていたので、ボンネットに大きく「重体患者移送中」と書いた紙を貼った。検問所で警察が寄って来たけどもボンネットを指さしたら肯きながらすんなりと通してくれた。救急車を要請しても圧倒的にたらない。119番は機能していなかったから警察も検問を固くはしていなかった。

芦屋の知人宅はマンションだが、廊下が菱形に変形していた。いつ崩れてもおかしくはないように感じた。

次の日は神戸、三ノ宮に出かけた。高層ビルがいくつも倒れてる。倒れないまでも大きく傾いているビルがある。そのビルが倒れる瞬間を撮影しようと多数のテレビカメラが狙っている。人影は極端に少ない。長田で燃えていた火事の煙はまだここからも見て取れる。

◆「記憶の風化」を憂うならばテレビは震災当時の映像をそのまま流せ!

阪神大震災から20年が経った。「記憶の風化」とか「経験を後世に伝えるべきだ」とか長年散々言われてきた。

不思議で仕方ない。そのような心配をするのであれば(私は見ないけども)当時のテレビ映像をそのまま流せばいいのだ。

悲しみを慰める行為として語り継ぎは個人的には大いに意味があるだろう。それを否定はしない。でも文字や人の語りでいくら状況を伝えようとするよりも、実際の映像を見せた方が絶対的に迫力がある。当時を知らない子供にも恐怖は伝わる。勿論PTSD(心的外傷後ストレス障害)の方や、惨状極まる記憶思い出したくもない人もいるだろう。そういう方々は見なければいい。

テレビは今年も「阪神大震災から20周年」の特集を放送した。そこでは身近な人を亡くした悲劇とそれに立ち向かう人の姿が描かれ、「この経験を風化させてはいけない」で結ばれる。

異議あり!だ。

悲劇は無数に起きている。そんな事は先刻承知だ。6000人以上が亡くなっているのだ。悲しい思いやつらい経験の片鱗は私にだってある。だがそれは人々の心的経験だ。

何が起きたか? 震度7の激震が神戸周辺を襲い街が壊滅した。心的悲劇を語る前にその事実の圧倒的な衝撃をこそテレビは繰り返し流すべきだ。「冷蔵庫が宙を飛ぶ」と言われる震度7の激震は人間が構築したものなど数秒で破壊し尽す事をこそ忘れてはならない。

でも不思議なことにその映像は流れない。演歌調のお涙頂戴ストーリーか、そこから立ち上がって前を向く人々の人間模様。テレビが好きなのはそういう「定型的」な物語なのだ。

嘘だとは言わない。でもそれは本質ではない。この国のテレビには「死体を放送してはならい」という不思議な自主規制コードがある。何か大切なことを示唆しているように思う。死体のある光景こそを逃げずに凝視するべきだ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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