5月3日、横浜の「みなとみらい公園」で3万人を集めて行われた「5・3憲法集会」に行ってきた。公園内にブースが出ており、反原発で知られる活動団体「たんぽぽ舎」の横で、僭越ながら、鹿砦社の反原発マガジン「NO NUKES voice」や月刊「紙の爆弾」などの販売のお手伝いを微力ながらさせていただいた。

したがって、耳に入ってくる大江健三郎や落合恵子、香山リカなどのスピーチは断片的にしか聞こえず、残念だったが、それでもなお、「平和」と「命の尊厳」を基本に、日本国憲法を守り、活かすということ。そして、集団的自衛権の行使に反対し、戦争のためのすべての法制度に反対する、というスタンスは、賛同すべきものだ。

もちろん、ひとりのジャーナリストとして、改憲を含めて憲法について踏み込んだ答えを今、出すのは早計だと考えている。鹿砦社において、憲法について語る有能で知己をもつ先輩はたくさんいるし、ここで僕が叫んでも若さゆえに誰も聞く耳をもたないと思うので、声高に「憲法を守れ」と一席ぶつもりはない。ただ、僕は僕の経験の中で憲法を語ろう。

5月3日、横浜「みなとみらい公園」での「5・3憲法集会」にはおよそ3万人の人々が集まった

◆天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、憲法を尊重し擁護する義務を負ふ(憲法第99条)

まず、小学校3年生のときに、わりとリベラルな担任の教師のS氏は「日本には憲法九条があるから、戦争を絶対にしないのである」と何度も繰り返し言っていたのを強く覚えている。その説明は、もはや叫びに近かった。

もちろん、憲法は国の、政府のものであり、国民は基本的には追従する立場だ。どんな法律の入門書にも、たとえば行政書士の受験参考書にもそう書いてある。

憲法99条の条文はこうだ。

「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」

つまり99条には、大臣や国会議員や裁判官に対して「憲法を尊重せよ」という義務が定められているのだ。ここで留意すべきは、国民にはこの義務を課していないということになる。つまり99条は国民ではなく、国家権力の担い手に「憲法を尊重し、 擁護せよ」と命令しているのだ。だから憲法の基本原理である「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」の3つを遵守すべきは、一次的には国家権力だ。

だから「原発推進」は、たとえば僕に言わせれば「国民主権」に反している。大間原発ひとつとってみても、あれだけ反対者がいるのに建設が始まろうとしている。そう、誰か登壇者がいみじくも語ったが、私たちは実は「憲法」を使いこなしていない。

それなのに現政府は、改憲だと言い出しているから目も当てられない。今、憲法は戦後最大の危機にあると言ってもいいすぎではない。もはやうだるような5月の暑さの中で、たくさんの人がこの集会に集まった背景には、「私たちの憲法が危ない」という危機感が現前としてあるように思う。

多くの人は脱原発社会で、平等な社会をめざし、貧困・格差の是正を求めている。もちろん僕もそうだ。それなのに、私たちの声は、たとえば国会の議場には届かない。

◆見直すべきは「選挙制度」であり、憲法ではないと思う

4月の地方統一地方選挙で、全国規模で考えれば「無投票当選」が300人以上出たという。だれしもが政治家になりたがらないのだ。民主主義が崩壊の危機にある。

このままでは「5人も殺しましたが、悔い改めてこれから政治の世界でがんばります」「ヤクザですが、市民のために頑張ります」という御仁が出てきても、理論的にはおかしくはない。基本的には、禁治産者でない限り、年齢さえクリアしていれば選挙には誰でも出れる。もちろん日本国籍があって供託金を払えればの話だ。

「このままでは、三権が少なくとも崩壊するね。まあ日本を動かしているのは行政府でも司法府、立法府でもなく、官僚なんだけどさ」と、全国紙の記者がつぶやいた。その通りだと思う。

自民党はごらんのとおりのていたらく。野党ももう機能しない。

たとえば民主党は、東京の千代田区の選挙で区議の定数が25もありながら、ひとりしか出せないていたらくだ。 そのひとりの候補者でさえ、連日のように海江田元代表がそこかしこに応援に来ていた。過保護にもほどがあるし、民主党も地に堕ちた。

さて見直すべきは「選挙制度」であり、憲法ではないと思う。政府は完全にはきちがえている。

たとえば私が住むさいたま市北区も無投票で候補者は全員が当選だ。ところが人口は1万4000人を超えている。1万4000人の行政を、たとえば無投票の候補者に全面的にゆだねてしまっていいのだろうか。

話を「5.3憲法集会」に戻せば、実に多くの方が鹿砦社やたんぽぽ舎の書籍を買い上げてくださった。心より御礼したい。

脱原発社会の実現を目指す市民ネットワーク「たんぽぽ舎」のブース

◆安倍政権の人権感覚は「オウム真理教」以下

閑話休題。なぜ「みなとみらい公園」でこの憲法集会は行われたのだろうか。聞けば毎年、いくつかの団体がバラバラに行っていたのが、今年は「政府が憲法改正などと言い出したから」、合同で行ったのだという。

問題の根っこは、みんなつながっている。米軍基地の普天間基地から辺野古への移設に反対している人たちが船上で海保に暴力に遭っている。 これも日本政府の傲慢だ。

僕はオウム真理教が大嫌いだ。歴史から抹殺したくなるような事件をいくつも起こしてきた連中だ。だが麻原という男は、ひとつだけ的を得ることをあるセミナーで言った。

「数が多いほうが正しい。こんなバカな話はない」

そう思う。

麻原でさえ、到達した事実に、安倍某という首相は気がついていない。

現在の政権の人権感覚のなさ、盲目ぶりは、僕に言わせれば「オウム真理教」以下のしろものである。なぜ「憲法集会」は、みなとみらい公園で行われたのだろうか。横浜は世界へと通じる船の玄関口だ。戦争も原発も、貧困も、差別の問題も、もはやグローバルに論じるべきだ。だからこそ、みなとみらい公園で憲法集会が開催されたのではないか。そんな気がするのだが考えすぎであろうか。

(小林俊之)

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