二風谷(にぶたに)は、一度行ってみたいところだった。
北海道沙流郡平取町にあり、アイヌの聖地と呼ばれている。
北海道でアイヌの文化に触れられる土地としては、阿寒湖畔にアイヌコタンがある。
毎日、アイヌ古式舞踏やイヨマンテ劇の上演があり、アイヌ料理の店もある。
昔からアイヌを観光の要素として、打ち出してきたのだ。

それに対して二風谷は、観光化されていないアイヌの聖地だと聞いていた。
村に入っていくと、まず目につくのは、巨大な二風谷ダムだ。
チプサンケと呼ばれるサケ捕獲のための舟下ろし儀式などが行われる、アイヌにとって重要な土地が、ダムによって水没している。
アイヌの間から反対運動が起き、土地所有者であるアイヌも一切の補償交渉に応じなかった。
そのために、北海道開発局は土地収用法に基づき1987年に強制収用に着手し、1997年にダムは完成した。

とてもひどい話だが、それだけでなく、村を寸断して大きな道路が通っている。
無理矢理造られたダムはもちろん許せないが、それ以外は、草原の広がる静かな村だと思っていた。
泊まった民宿の真ん前もこの道路で、味も素っ気もない景観だ。
「二風谷アイヌ文化博物館」「萱野茂二風谷アイヌ資料館」があり、アイヌの貴重な資料が収められているが、車に乗って無粋な道路を走っていかなければならない。
草原の中の道を、のんびりと見て歩けるものだと思っていたのだが。

アイヌに関する品物を売る土産屋はあるが、アイヌの料理が食べられる店はない。かろうじて、アイヌ風ラーメンがメニューにある店があったが、アイヌ料理そのものではない。
景観があまりにも破壊されてしまったため、旅人を呼び込む訴求力がないのだろう。
宿に泊まっていたのも、道路の標識を調べる道庁の職員だけだった。

2008年には、「アイヌを先住民族として認めるよう政府に促す国会決議」が衆参両院とも全会一致で可決されている。
二風谷のアイヌの人たちに聞くと、「決議でも何も変わっていない」と声を揃える。
アイヌの人たちにとって主食であったシャケでさえ、捕獲すると漁業法で罰せられる。

二風谷の人々は、政府に何を求めてもしかたがない、と諦め気味だ。
願わくば、一人でも多くの旅人が二風谷を訪れて、少しでも活気を与えてほしい。

(FY)