MAGNUM.44 キックの原点は、「打倒ムエタイ」にあり!

ヨードヤーンガームvs江幡塁。どんな技でも倒せるひとつの試運転パンチで圧倒
ヨードヤーンガームvs江幡塁。ローキックをブロックされても問題無し

今興行テーマは「より強く」──。江幡塁、緑川創、重森陽太、喜多村誠、ラジャダムナン王座挑戦を目論む臨戦態勢の選手たち。緑川以外は挑戦経験ありますが、再度挑戦を狙う立場でもあります。「打倒ムエタイ」は選手個人の目標であり、キックボクシング発祥の老舗団体を受け継ぐ新日本キックボクシング協会の野望でもあります。

江幡塁は第1ラウンドに左ハイキックでダウンを奪い、ローキックも鋭くヒット。2ラウンドには、ヨードヤーンガームにそれまでにダメージあったか、左ローキック一発で倒し、レフェリーが即座に試合を止めました。「どんな技でもどんな相手でも倒すことができます」──。圧倒的勝利後のアピールに、いよいよ近いかと予感させる、塁にとって4年ぶりのラジャダムナン王座挑戦が見えつつあるところです。

江幡塁vsヨードヤンガーム。この左ローキックで悶絶ノックアウト
緑川創vsゲン。手応えあったと言う左右ボディブローを打つとゲンは苦痛の表情で倒れ込んだ

  

左右フックのボディブローで悶絶ノックアウトした緑川創は、8月20日の「KNOCK OUT vol.4」出場予定で、対戦相手がWBCムエタイ・スーパーウェルター級チャンピオンの宮越宗一郎(拳粋会)に決定。「70kg級ではいちばん強いこと証明します」と宣言していた緑川。宮越との対戦も過去、実現し難かった団体間の壁がありましたが、ここに来てKNOCK OUTに於いて道開けました。いずれ、一度勝利しているT-98(=今村卓也/前・ラジャダムナンSW級C)との再戦も実現すればラジャダムナンへ向けても興味ある対戦が続くでしょう。

緑川創vsゲン。KOに結び付ける上下を揺さぶるローキックの緑川
緑川創vsゲン。ボディブローは息苦しさで心折られる苦痛、とりあえずコーナーに戻ること促されます

重森陽太も鋭い右ローキック一発で仕留める圧勝。苦痛の表情で倒れ込んだタヌーペットでした。重森も「KNOCK OUTvol.4」出場予定で、話題豊富な村田裕俊との対戦が予定されており、フェザー級路線の戦いに注目が集まる存在となるでしょう。

喜多村誠は、昨年12月に緑川がKO勝利しているイッキュウサンを、終始威圧的に攻め、パンチやミドルキックのヒットでイッキュウサンをたじろがせるも返してくるイッキュウサンのしなりある蹴りに喜多村の脇腹が腫れ上がり、攻められながら凌ぎきったイッキュウサンのしぶとさもあって僅差となりましたが、キック的には喜多村誠の圧勝の流れでした。

◎MAGNUM.44 / 7月2日(日)後楽園ホール17:00~20:15
主催:伊原プロモーション / 認定:新日本キックボクシング協会

◆56.0kg契約 5回戦

WKBA世界スーパーバンタム級チャンピオン.江幡塁(伊原/55.8kg)
VS
ヨードヤーンガーム・デットラット(元・ラジャダムナン系バンタム級2位/タイ/55.6kg)
勝者:江幡塁 / TKO 2R 0:56 / ノーカウントのレフェリーストップ
主審:椎名利一

◆70.0kg契約 5回戦

緑川創(前・日本W級C/藤本/70.0kg)
VS
ゲン・ペットプームムエタイ(元・アーウナーンスタジアムSL級C/タイ/69.2kg)
勝者:緑川創 / TKO 1R 2:13 / カウント中のレフェリーストップ
主審:桜井一秀

タヌーペットvs重森陽太。重森のこのローキックで悶絶KO
タヌーペットvs重森陽太。2歩ほど後退して痛々しく倒れ込んだタヌーペット

◆59.0kg契約 3回戦

日本フェザー級チャンピオン.重森陽太(伊原稲城/58.9kg)
VS
タヌーペット・ペットプームムエタイ(タイ/58.65kg)
勝者:重森陽太 / KO 1R 1:02 / カウント中のタオル投入
主審:仲俊光

◆70.0kg契約 3回戦

喜多村誠(前・日本ミドル級チャンピオン/伊原新潟/69.7kg)
VS
イッキュウサン・ペットプームムエタイ(タイ/69.5kg)
勝者:喜多村誠 / 判定3-0 / 主審:少白竜
副審:椎名30-29. 仲30-29. 桜井29-28

イッキュウサンvs喜多村誠。喜多村の攻勢も脇腹には痛々しい腫れが残る
イッキュウサンvs喜多村誠。パンチでは負ける要素無し、喜多村の攻勢

◆68.0kg契約3回戦

日本ウェルター級チャンピオン.渡辺健司(伊原稲城/67.6kg)
VS
MA日本ウェルター級チャンピオン.為房厚志(二刀会/68.0kg)
勝者:渡辺健司 / 判定2-1 / 30-29. 29-30. 30-29.

◆53.0kg契約3回戦

泰史(前・日本フライ級C/伊原/53.0kg)
VS
森下翔平(M-BLOW/52.65kg)
勝者:泰史 / 判定:3-0 / 30-26. 30-25. 30-25.

他、6試合は割愛します。

《取材戦記》

揺るぎない新日本キックの永きテーマ、「打倒ムエタイ」に重点を置くことで、
これを目指して来ました。近年は外国人選手のラジャダムナン王座獲得が目立ちましたが、現役の中では、T-98は防衛1度、梅野源治は初防衛成らず、厳しい洗礼が待ち受けている殿堂スタジアムです。

この日勝利した4名と江幡ツインズ兄、睦を含む5名で一気に挑戦ができれば ビッグマッチとなる、そんな興味も沸く新日本キックボクシング協会へのファンの声も聞かれます。

“イッキュウサン”は日本での試合用リングネームかと思いましたが、タイでの通常のリングネームであるようです。在日タイ選手に使われることも多い、日本語混じるリングネームですが、タイ選手にはタイ現地で使っている、そこで支持を受けたリングネームの方が実績が解りやすく、本物である証明のような気がします。

しかし考えてみれば、タイは頻繁にリングネームが変えられる場合があり、日本人もタイに渡ると現地の名前に替えられたりしますので、仕方ないかと思うこともあります。

プロボクシングでさえ、勇利アルバチャコフや、グッシー・ナザロフ、マル・マトベイなど、あまり違和感無く、分かる人には分かる”日本用”リングネームがありました。

考え方が古くなると、頑固な拘りになりつつあることに気付く日々であります。という反省も心に想い、キックテーマもイッキュウサンとなって(一休みして)、タイの旅レポートに気分転換している日々となっています。

「タイは若いうちに行け」、若い選手にそんな忠告もあった昔、今や幼いうちからタイに行かせている現状も見に行きたいものです。

勝利者賞を受けて記念撮影に収まる江幡塁

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

愚直に直球 タブーなし!最新刊『紙の爆弾』8月号! 安倍晋三 問われる「首相の資質」【特集】共謀罪を成立させた者たち

《殺人現場探訪06》 未解決の習志野女性殺害事件 献花から窺える遺族の思い

全国に未解決の殺人事件はあまたある。その中でも4年前に千葉県習志野市で起きた女性殺害事件は、特異な経過をたどった事件として印象深い。

現場は、習志野市茜浜1丁目の遊歩道脇の緑地帯。女性が仰向け状態で倒れ、死んでいるのを清掃員が発見したのは2013年6月24日の朝だった。千葉県警の調べにより、ほどなく女性は派遣社員の廣畑かをりさん(当時47)と判明。解剖の結果、死因は首を圧迫されたことによる窒息死の可能性が高いと判定され、財布から金を抜き取られているのもわかった。こうした状況から千葉県警は行きずりの強盗殺人の可能性を疑い、捜査を展開したと伝えられている。

そんな事件は多数の捜査員が動員されながら、4年経った今も未解決。だが、この間には一度、被疑者が検挙されたことがある。

現場近くには多くの人が暮らす団地もあるが、有力な目撃情報はない

◆一度は被疑者が検挙されたが……

千葉県警が廣畑さん殺害の容疑で中国籍の男を逮捕――。事件発生から3年近く経った2016年3月初め、マスコミ各社は一斉にそう報じた。報道によると、被疑者の男は、別の窃盗事件の容疑で有罪判決をうけ、関東地方の刑務所に服役。現場に残されていた遺留物の鑑定の結果、男が事件に絡んでいる疑いが浮上したとのことだった。

そんな報道が出れば、事件は解決に向かったと誰が思う。しかし捜査の結果、千葉地検は「起訴に足る証拠が集まらなかった」と男を釈放し、不起訴に。男は中国に帰国し、事件は再び未解決の状態となり、今に至るわけである。

殺人の容疑で逮捕された被疑者が嫌疑不十分で不起訴になること自体が珍しいが、これほどの重大事件ともなると、警察は普通、検察に相談したうえで逮捕に踏み切るものである。そういう意味でもこの中国籍の男が不起訴となったのは特異なことだった。

現場の遊歩道。夜は暗く、死角になる場所も多い

◆暗く、死角になる場所も多い夜の遊歩道

派遣社員だった廣畑さんは事件当時、現場近くの食品加工会社で働いており、遺体で発見される前日も夜10時から出勤予定だったが、無断欠勤していた。そのため、廣畑さんは夜9時台に出勤していたところを犯人に襲われたとみられている。そこで私もちょうどそのくらいの時間に現場の遊歩道を歩いてみた。

すると、現場は暗いだけならまだしも、生け垣や公園など死角になる場所も多かった。この道を夜9時台に歩いていたとされる廣畑さんが突如、隠れていた犯人に襲われた場面が鮮明に想像できた。遺体が見つかった緑地帯には、花と水が供えられていたが、まだ花は新しく、遺族がこまめに訪れていることが窺えた。遺族は広畑さんの冥福を祈ると共に犯人が検挙されることも切実に願っていることだろう。

一方、千葉県警のホームページでは、様々な未解決事件に関する情報提供が求められているが(http://www.police.pref.chiba.jp/so1ka/safe-life_coop-vicious.html)、中国籍の男が逮捕されて以来、この事件に関しては情報提供が求められなくなっている。

おそらく千葉県警としては、自分たちが逮捕した中国籍の男こそが不起訴になろうとも犯人で間違いないという思いから、この事件の捜査は打ち切っているのだろう。これでは犯人が検挙される可能性はきわめて乏しいと言わざるをえず、廣畑さんや遺族が気の毒でならない。

遺体が見つかった緑地帯に手向けられた花。遺族がこまめに訪れていることが窺える

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

愚直に直球 タブーなし!最新刊『紙の爆弾』8月号! 安倍晋三 問われる「首相の資質」【特集】共謀罪を成立させた者たち
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

M君リンチ事件から李信恵を守るジャーナリスト、安田浩一の矛盾〈後〉

 
 

  
前回に続き、安田浩一へのインタビュー(2016年3月23日の電話)の後編を公開する。

《安田から2度目の電話》

安田 あの田所さん、ごめんなさい、もしかしたら『紙の爆弾』とかに書こうとされていますか?
田所 いえ、別に寄稿の依頼はありません。私はこちらから持ち込んで書いてもらえる(ようなところはありません)。『紙の爆弾』に記事を書いたことはありますけれども、今の段階で別にどこのメディアどうこうって全く予定はありません。
安田 あ、そうですか。どちらに書かれるのもご自由だと思いますし、僕が何も制限させてもらうつもりはないんですけれども、『紙の爆弾』であれば、僕はある種何か意趣返しじゃないかなと感じたものですから。
田所 はい? とおっしゃいますと?
安田 『紙の爆弾』でもある種、運動圏に対して非常に厳しい冷たい視線を向けたりしてることが最近ありましたから、『紙の爆弾』はね。あるいは反原連の関係におきましても。しかも『NO NUKES voice』など見ますと、更に大きいネタを掴んでる、みたいなことをたしか松岡さんが書かれてたような記憶もありますんで、そういう文脈であるのであれば嫌だなと思ったのは正直なところです。
田所 今のところ私はこの件では、李信恵さんに電話取材しまして、今日安田さんに電話させていただきまして、あとは実際にカウンターされている方に二、三、情報は聞いてはいるんですけれども、まだまだとてもではないですけれども全体像が掴めていませんので、それがどんな感じのものなのかということ自体がまだわかっていない段階です。それが果たして記事にできるものなのかということすらまだわからない段階で、むしろそういうことの指針をいただきたくて安田さんにはお電話差し上げたということです。
安田 指針なんて言われるほどのものでもないし、どんな媒体に書いてもそれは僕は自由だと思いますから、そこに何か是非を加えたり加えようと思うことは僕はないんです。ただ『紙の爆弾』であれば、松岡さんが何かそういった大きなネタを掴んでるといったような文脈の延長線上に今回の取材があるのであれば、非常に不愉快だなと思って。
田所 それは全くないです。
安田 そうですか。やっぱりそんなにデカいヤマ(事件)なのかどうかっていうことに関して、僕は甚だ疑問ですし、結果的にどうなるかって考えると、もちろんどうもならなくていいし、目的もない記事を量産してきた僕は言えないんだけれども、結果的に何か運動を縮小させたり、せっかく頑張って傷付いて戦ってる人を更に傷付けるってことが目的であるのならば、嫌だなと思ったわけです。
田所 そういう目的は少なくとも私は持ってないつもりです。
安田 今回のことに関してはデマや誇張された形で持っていって流通してるようにも感じますし、誰が喜ぶのか、誰を喜ばせるのかってことを考えた時に、僕は喜ぶ人の顔が見えてすごく嫌なんです。

安田浩一(『人権と暴力の深層』より)
 
 

  
◆「何か運動の中の組織的に行われた暴力ってわけじゃないんでしょ」

田所 誇張したデマなどももうネットには出ているわけですか?
安田 出てますよ。暴力事件がどうのこうのとか。で、結果的に誰が喜ぶのか、誰を利するのかと考えると嫌だなという気はするんですね。結果的にどんな取り繕おうが、どんな美辞麗句を使おうが結果的に運動に分断を持ち込んで、亀裂を深めさせ、対立を煽ることにしかならない。僕個人はそう考えてる。これが社会的大問題であればですよ、例えばかつて新左翼と呼ばれた方々の内ゲバに発展することであったり何かそこで凄惨な粛清が行われたのであれば、それはそれで社会的な問題として提起することが可能であったでしょうけども、そんな問題でもないでしょうしね。
田所 私が伝えられた内容は鼻の骨を折る大怪我をして顔の形が変わっているという表現で伝えられたんですね。
安田 でもそれがね、何か運動の中の組織的に行われた暴力ってわけじゃないんでしょ。なんかよくわからない喧嘩っぽい。
田所 それはわからない。まず私は被害者の方に聞かないことにはわからない。
安田 それはそうですね、それは裏取りする必要がある。
田所 憶測で判断したくはないなと思っているんです。
安田 それをどういう形でもって発表されるかわかりませんし、ただ結果的に僕は疑ってるのは紙の媒体の意図の中で何かうまい具合にネタが作られているような気がしないでもないんですよね。
田所 ネタが作られてる?
安田 ええ。
田所 紙の媒体の中で?
安田 『紙の爆弾』の意思や意図が反映されてるんじゃないかという気がしますし、田所さんがこの取材をされてるということはね。何に興味を持たれてるのかなぁというのが疑問にあります。いったいこの問題のどこに問題があるのか。
田所 かつての新左翼の粛清と言いますか暴力による内ゲバみたいなことがありましたよね。そんなことを私は歴史的には知ってるんだけれども、肉感的には知らないんですね。今のカウンターの人たちがどういう様な形で動いているのかということは、私は現場に行って皆さんと一緒に行動して、安田さんのように現地で取材をするとか、これをメインのテーマとして扱っている人間ではないものですからよく知らないんです。側面から見ていて在特会の問題とかお金の流れとか、そういうことを自分で調べながら記事にすることはあるんですけれども、実際の在特会がものすごい無茶苦茶なヘイトスピーチをしている所へ出て行ってカウンターの方の抑えてる場面とかを取材したことはないんですね、私自身。
安田 そっちの方がよっぽど問題としては大きな問題であって、一方的な暴力によってむしろ傷ついてるのは李信恵をはじめとする在日当事者であって、そしてカウンターと一口におっしゃいますけども、カウンターって組織じゃないですからね。何か組織があるわけではご存知の通り、カウンターって称するって、この間も東住吉に大勢の人が集まりましたけど、誰一人として組織に属してるってわけでもないし、いわば自発的に集まってる人の総称としてカウンターとして呼んでるのであって、論調の違いでもって何かトラブルが起きるとかそういうのはない。まだまだ地雷を抱えながらそれぞれがそれぞれの戦いをしてるのであって。何が問題なのか僕はわからない。
田所 ちなみにちょっと古い話になるんですが、私は20数年前から辛淑玉さんと親しくさせて頂いてまして、石原知事だった頃の「第三国人」発言の際には私も及ばずながら共闘した人間です。ただ私が聞いているのは被害者が顔を殴られて骨が折れて顔の形が変わっているという話です。発表するしないは別に、その真偽を確かめたくなるのは安田さんにもお分かりいただけると思います。もし本当であれば、安田さんがさっきおっしゃったように、そんな軽いことではないという可能性も出てくると思うんですね。
安田 うーん

安田浩一と香山リカ(『人権と暴力の深層』より)
 
 

  
田所 だから安田さんもまだ詳細はご存じないわけであって、私もわからないわけであってそのことに対する評価というものはまだする段階ではないと思うんですね。
安田 わかりました。そういう熱意を持って取材される意味が僕にはよくわからないんだけど。取材されるのは自由ですから、これ以上特に言及することはないんですが、少なくとも、ただここまでお話しましたから万が一、僕の懸念もわかっていだいたと理解した上で取材していただいたと思いますけれども、何度も言いますように一つこう約束してください。僕は取材拒否ということはしたくないので、極力どんなお電話でも取りますし、どんな自分と考え方の違う人の問い合わせであっても極力答えるようにしております。ですから今回もそう思ってあえてこちらからお電話差し上げましたけれども、もしカギ括弧を使うのであれば、僕は運動を貶めるための目的や意図があるのであればご協力したくないということだけ、カギ括弧として使ってください。申し訳ございません、お約束いただけますでしょうか。
田所 もちろん確実にわざわざお電話までいただいて、それを裏切るようなことは決していたしませんので。 (電話の会話は以上)

◆「M君」に対する心遣いの言葉の断片も聞くことはなかった

どうだろうか。太文字と赤い下線の部分を特に注意して再度ご覧いただきたい。安田は最初に「僕もそういう話は聞いたことはありますけれども」と言い、また「僕その場に居たわけじゃありませんし、また聞きですからね」はずなのに、終始事件を「取材」すること自体に疑問を呈し、「訳が分からない」と繰り返している。詳細を知らないはずなのに「だけどもことさら取り上げることの意味がさっぱり分からないし、なんとなくその取材に向かう回路そのものに僕は胡散臭さを感じてるんで、」と極めて神経質に、事件の内容が明らかになることを警戒している。そして明言はしないものの、「取材をしてくれるな」というニュアンスが至る所に見られる。

安田が田所の取材に警戒心を隠さなかったのは、せっかく功を奏しそうだった「M君リンチ事件隠蔽作戦」が社会に広く知られれば「結果的にどんな取り繕おうが、どんな美辞麗句を使おうが結果的に運動に分断を持ち込んで、亀裂を深めさせ、対立を煽ることにしかならない。僕個人はそう考えてる」のと、「僕とすればこれは明らかに李信恵を貶めるための情報だと思うので一切協力はできない」のが本音だろう。

しかしここで安田の言う「運動に分断を持ち込んで、亀裂を深めさせ、対立を煽ることにしかならない」という理由は逆に言えば、「被害者M君の被害回復よりも、運動のほうが大切だ」ということになる。そして事件への言及で安田の口からは、ついぞ「M君」に対する心遣いの言葉の断片も聞くことはなかった。おそるべき加害者擁護、運動第一主義である。

◆「C.R.A.C.」はいまも存在するし、悪名高かった「男組」は明確な組織だった

安田は「カウンターって組織じゃないですからね。何か組織があるわけではご存知の通り」とここでも明白な虚偽を述べている。現在に至るも野間易通が君臨する「C.R.A.C.」は存在するし、解散はしたが悪名高かった「男組」は明確な組織だったじゃないか。そして、何よりITOKENこと伊藤健一郎が鹿砦社元社員藤井正美に宛てたメールにあった「説明テンプレ」と「声かけリスト」はカウンター全員ではなくとも、その中の一部が「組織化」されていた動かぬ証拠だ(詳細は『反差別と暴力の正体』参照)。

「カウンターは組織ではない」、「リンチ被害者などどこにもいない」ように世論形成をしたがっている安田は、「差別反対」であれば「集団リンチ」も黙認し、被害者を無視、いや攻撃さえする。さらには冒頭述べた通り、障害を持つ田所の公開を望まないのに写真を掲載した野間のツイッターを肯定するなど、最近の言葉でいう「アウティング」(身分晒し)を肯定していることになる。

この男、策略と矛盾だらけではないか。

◎M君リンチ事件から李信恵を守るジャーナリスト、安田浩一の矛盾〈前〉(2017年7月17日公開)

(鹿砦社特別取材班)
最新刊『人権と暴力の深層』カウンター内大学院生リンチ事件真相究明、偽善者との闘い(紙の爆弾2017年6月号増刊)
AmazonでKindle版販売開始!『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾2016年12月号増刊)
重版出来!『ヘイトと暴力の連鎖 反原連―SEALDs―しばき隊―カウンター 』(紙の爆弾2016年7月号増刊)

M君リンチ事件から李信恵を守るジャーナリスト、安田浩一の矛盾〈前〉

 
 

  
鹿砦社に「M君リンチ事件」の情報がもたらされたのは2016年2-3月。取材班が結成され、その中で田所敏夫がさしあたり、李信恵、安田浩一、辛淑玉に電話取材を行い、取材班は同時期に被害者「M君」から直接話を聞くことになる。

その時は、まさかこれほどの「闇」が背後にあろうとは予想しなかった。私たちがいま目にしているのは、まぎれもなく「闇」だ。加害者や加害者側とされる人びとの取材には骨が折れた。

◆取材班・田所の顔写真を載せた野間のツイッターに「いいね」を押した安田浩一

以下に紹介する安田浩一への電話インタビューは2016年3月23日に行ったが、李信恵にはそれに先立つ3月20日、辛淑玉には3月28日、また少しあとだが被害者「M君」の側に立ちながら突如加害者側に寝返った趙博から電話があったのは5月6日だ。
李信恵を取材したらどういうわけか、野間易通のツイッターに田所の顔写真が大写しで掲載された。あるシンポジウムをIWJが放映した際のアーカイブから取られたものであることは田所の指摘ですぐに判明した。そしてこの映像の情報を野間に知らせた人物もすでに特定できている。

田所は通常写真撮影されることを、よほどの状況でない限り「お断り」している。取材班しか知らないが、田所は複数の障害を抱え、目にも病を抱えており、これまで2度の手術を受けている。それゆえファッションではなく、常時(夜間でも)サングラスをかけている。田所は人前で話す際には、必ずこの理由を説明しサングラスをかけたまま、話す失礼をお詫びしてから話をはじめる。

安田浩一は鹿砦社から「田所の顔写真が野間のツイッターに無断で掲載されたことをどう思うか」、との質問に対して(ちなみに安田は野間ツイッターに掲載された田所の顔晒し投稿に「いいね」をしている)「書くものの覚悟」だと回答してきている。障害があるが故に「不本意な形で」自分の顔写真の撮影、公開を望まないのは「書くものの覚悟」なのか。障害について語るか語らないかは本人の自由ではないのか。それとも「どんな障害か説明しろ」と迫られればならないのか。それが言論界のルールなのか。

◆安田浩一の警戒ぶりと矛盾

さて、そんな安田へのインタビューをご覧になればお分かりいただけようが、安田の警戒ぶりと矛盾は甚だしい。田所の質問に「僕もそういう話は聞いたことがある」と一応事件を知ってはいることを認めながら、田所が「取材をすることの意味が解らない」、「何がしたいんですか」と詰め寄る。

2016年3月20日、田所が安田の携帯に電話をかけたが留守録だったので、電話をかけた趣旨を残したところ、安田からの着信があったという。一度目の会話が終わり、しばらくしてまた安田から電話がかかってきた。まずは田所と安田のやり取り(蛇足の部分は省いてある)をご確認いただこう。

《安田から1度目の電話(コールバック)》

安田 すみません、お電話いただきまして。
田所 申し訳ありません、コールバックいただきまして。わたくし田所と申します。初めて電話をさせていただいて恐縮でございます。実はわたくしのところに、「クラック(C.R.A.C.)関西のイトウ」と名乗る方から非通知で電話がありまして、この電話があったのが一月ほど前なのですが、「2014年12月17日に大阪である方が、いわゆるカウンター界隈の方なんですけれども、何人かの人に大変な暴力を受けた事件があるけれども知ってるか」と言うタレコミの様な電話があったんですね。そのようなことがあったことについて、安田さんは聞きおよびではございませんでしょうか。
安田 僕もそういう話は聞いたことはありますけれども。まずネタ元がまず確かなのかどうかということと、クラック(C.R.A.C.)関西という組織ありませんし、クラック(C.R.A.C.)大阪はありますけどもね。イトウと名乗る人物、多分ITOKENのことなんだろうけども、本人そういうことをどこかに電話するっていうことはありませんし。
田所 私が聞いた感じでは関西弁ではなくて、東京なまりの人でしたので、まあ東京なまりの人も関西に住んでますけれども。
安田 尋ねられればね、僕も書き手の一人としては取材拒否するということはありませんけれども、まずネタとして成立しそうな話なんですかね。暴力事件と言いますけども、具体的にどういう状況でどういう環境の中で行われたかって、僕その場に居たわけじゃありませんし、また聞きですからね。その詳しく状況がわからないなかで。
田所 そうですね。安田さんはそこにいらしたわけではありませんね。
安田 で、何が起きたのかとか何がどうだったのかということはできませんし。それ、どこか媒体か何かに載せられる設定で取材されてるんですか?

 
 

  
田所 場合によったらそういうこともあるかもわかりませんけれども、まず全体像がわからないものですから。ただですね、わたくしに伝えてきた人は暴力をふるった人の一人に李信恵さんがいらっしゃると明言されていたんですね。実は数日前に李さんに失礼ではありましたがお電話さしあげまして、そういったことがあったのでしょうかとお尋ねをしようとしたのですが、お話はいただけませんでした。「松井やより賞」受賞された彼女が本当にかかわっているのであれば事件だという認識を私は持っています。そういうことがあったということは耳にしていらっしゃるのかどうかというあたりを、まずそれだけをご存知かどうかということをお尋ねしたくてお電話差し上げた次第です。
安田 わかりました。やっぱり取材者の立ち位置と、どこの媒体に掲載するのかということが明確にわからなければ、僕、何もお話はできませんし、李信恵は体張って先頭立って戦ってる女性でして、賞を受けたかどうかは関係なく知名度も関係なく、彼女のある種運動をけん引するような立ち位置にあることは事実なわけで、僕は彼女を貶めるようなことに関しては正直言って協力したくないんですね、結果的に。

◆「何が目的なんでしょうか? 暴力事件なるものを明らかにされるというのが目的なんですか?」

田所 今も裁判なさってますもんね。
安田 関わってるし、最も激しく傷つきながらこの問題に対峙している人間の一人です、彼女は。そうした中で、特に例えばこれが対外的な暴力事件みたいなことでスキャンダル的に取り上げるような価値があるのであればまた別ですけれど、僕からすればそういう価値は全くないと判断してますし、なおかついわば結果的におそらく、田所さんがどういうお立場なのか僕は存じませんが、李信恵を貶めるためであるならば僕はやっぱり全く協力、このことに関して言及したくないし。
田所 私の立場を申し上げますと、差別については明確に反対の立場です。
安田 まず暴力を振るったとされる方と振るわれたとされる方、双方にお話をあてたんですか? まずそちらに当てるのが先なんじゃないですか? 事実関係を。
田所 ええ、ですから李信恵さんは加害者ということで情報があったものですから、李さんにはお電話を差し上げました。ただこの事件について聞くのは難しかったです。そもそもそういう事件があったのだろうという傍証は取れましたが、安田さんはこういう界隈のこと俯瞰的に非常に高いところからご覧になってらっしゃる方だと思いますので。
安田 買い被り過ぎです。高い所から俯瞰して見るという慣習は僕の中にはなくて、僕は常に取材者であると同時に当事者でありたいと思ってますから。僕はそれはだから特に僕としては何か問題があったという認識では僕はないですし、それでいったい何を目的にそれを取材されて、どこにどんな記事を書くのかということは当然気になりますし。何が目的なんでしょうか? 暴力事件なるものを明らかにされるというのが目的なんですか?
田所 クラック(C.R.A.C.)関西のイトウと名乗る方が私に伝えてきた内容というのは相当衝撃的ではあるんですね。
安田 ほおほお。
田所 被害者の方が負ったケガの程度も軽度ではないですし、いまだに治療されているということでした。顔の形が変わるほど殴られたという話です。仮にそれが事実であれば「顔の形が変わって骨折する」というのはそれほど軽いことではないのかなと考えます。
安田 でもそれちゃんと裏取りした方がいいですよね。事実なのかどうかとか。
田所 もちろんそうですね。だからこれから。被害者の方に、まだちょっと被害者の方の電話番号などもわからないんですけれども、被害者の方に直接お会いして。
安田 そこまでは知りませんし。
田所 ええ、それは私の方でこれから。
安田 それからきちんと裏取りすべきだと思うし、そこでどんな問題が生じたのか、単に一方的に殴っただけなのかどうかとかそういったことを含めて、それこそ田所さんのお立場から聞くのであれば俯瞰的に見る必要は当然でてきますよね。それによってどんな影響が出るかということも考えてますのでね、単に貶めるだけであるんだったら、僕はやっぱり信頼して協力はしたくないな。
田所 そうですね、私も差別者を利するような取り上げ方をしたくないとおもっているのですね。

安田浩一(『人権と暴力の深層』より)
 
 

  
◆「男の子としての喧嘩なんていくらでもやったことありますし」

安田 ネットとかでも最近出てるじゃないですか、そういう話が。なんか暴力事件があったとか何とか、僕もネット見ましたけども、結果的にその時点でもって差別者を喜ばせてますし、それを材料として喜んでる人がいっぱいいるわけですよ。僕自身は暴力を丸々肯定するわけではありませんけれども、僕ももともと男の子としての喧嘩なんていくらでもやったことありますし、差別者の胸ぐら掴んで殴り倒したい気持ちになったことはいっぱいありますし、それをいちいち僕は小さな否定はしてないんですよね。暴力を大声でもって肯定することはしてませんけれど、そういう小さな衝動なんていうものは僕もいくらでも抱えているものであって、ましてやそれを問題視し記事化するってことが社会的な影響力ってことも当然僕も考えますから、丸乗りすることは僕はできないですね。心情的にはとても無理です。田所さんが一生懸命取材されてることはわかりますけれども、もちろんそれによって差別者の立場からそれを肯定するうえで記事を書こうとしてるんじゃないということは十分理解します。だけどもことさら取り上げることの意味がさっぱり分からないし、なんとなくその取材に向かう回路そのものに僕は胡散臭さを感じてるんで、田所さんではないですよ、その取材に向かわせようとする動きそのもの、その回路そのものに僕は胡散臭さいものをとっても強く感じてますので、これまでの文脈から、今までに僕に聞いてきた人物も含めて、だから僕は回路そのものを疑っているので、疑っているというか胡散臭さを感じてますので、僕とすればこれに関して何か言及することはできないし、そもそも事実関係を正確に知ってるわけでも何でもありませんから、推測だけでものを言いたくもないし。

◆「李信恵をはじめとする一生懸命活動している人間を貶めるための情報に僕は協力はすることはできない」

田所 そもそも安田さんは何かあったということは聞いていらっしゃるけれども細かいことはご存じないので、当然のことですけれども知らないことは細かいことについて論評のしようもないし、それプラス伝わり方というかそれに対して関わって来てる人間が別の意図を持って関わって来てるんじゃないかという心象を持ったこともあると。
安田 だからその片言を取られると困るんですけれども、僕とすればこれは明らかに李信恵を貶めるための情報だと思うので一切協力はできない。カギ括弧にするんだったらそうしていただきたいです。それは僕からのお願いです。僕のカギ括弧をもし使うとするならば、「李信恵をはじめとする一生懸命活動している人間を貶めるための情報に僕は協力はすることはできない」 そういうカギ括弧を使っていただきたいと思います。
田所 わかりました。
安田 是非そうしてくださいとしか言いようがありません。
田所 形になるかどうか自体もまだわかりませんし、これから被害者の方に当たったりというような段階ですので、一応今のカウンターの中では権威でいらっしゃる安田さんがひょっとしてご存知だったらどういうご見解かなということでお伺いしたんですが、ご丁寧にもコールバック頂いて大変恐縮で、ありがとうございました。
安田 見解というのは今私が言ったことだけですね。申し訳ありません、それ、紙として、田所さん信頼していますけど、分けて書いて下さい。僕とすれば李信恵をはじめとするそういった人々を貶める、運動そのものを貶めるものであれば協力はできないと。そのカギ括弧以外は使わないでください。
田所 わかりました。

(後編につづく)

(鹿砦社特別取材班)
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《鳥取不審死・闇の奥05》 上告審弁論で弁護人が証明した上田被告の「クロ」

2人の男性を殺害するなどしたとして一、二審共に死刑とされながら、無実を訴え続ける鳥取連続不審死事件の上田美由紀被告(43)。その上告審を担当している最高裁第一小法廷はこのほど、6月27日午後3時から判決公判を開くと決めた。

私は当欄でお伝えしてきた通り、上田被告に対する一、二審判決の有罪認定は妥当だと思っている。そして去る6月29日、最高裁第一小法廷で開かれた上告審弁論を傍聴した結果、もはや何かの間違いで一、二審判決が覆る可能性も皆無になったと思った。上田被告の無罪を主張する弁護人の弁論がかえって上田被告の「クロ」を動かしがたく証明していたからである。

◆あっというまに終わった上告審弁論

6月29日の午前10時30分から最高裁第一小法廷で始まった上田被告の上告審弁論。傍聴券の抽選こそ行われなかったが、最終的に48の傍聴席は満席となり、この事件に関心を持つ人が世間にはまだそれなりに存在することが窺えた。

だが、いざ開廷すると、上田被告の無罪を主張する弁護人の弁論は約20分、上田被告を有罪・死刑とした控訴審までの判断は妥当だとする検察官の弁論は10分もかからず、公判はあっというまに終わった。そんな最終審理で何より印象深かったのは、弁護人の無罪主張の内容があまりに苦しく、かえって一、二審判決の有罪認定にスキがないことを際立たせていたことだ。

6月29日に上田被告の上告審弁論が開かれた最高裁

◆睡眠薬の薬効が出たことは証明されていないと言うが……

一、二審判決によると、上田被告は2009年4月、借金270万円の返済を免れるためにトラック運転手の矢部和実さん(当時47)に睡眠薬などを飲ませて意識もうろうとさせたうえ、海に誘導して溺死させた。さらに同10月、電化製品の代金約53万円の支払いを免れようと電気工事業の圓山秀樹さん(同57)を同じ手口により川で殺害したとされる。

弁護人がそんな一、二審判決を覆すため、上告審弁論で示した「無罪の根拠」は2点ある。

1点目は、「2人の被害者に睡眠薬の薬効作用が発現していたことが証明されていない」ということだ。弁護人は、2人の遺体の血液中における睡眠薬成分の濃度などが調べられていないことを根拠にそのような主張をしたのである。

しかし、事実関係を知る者からすると、この弁護人の主張はかなり無理がある。捜査段階に行われた鑑定によると、矢部さんも圓山さんも血液や胃内容物などから睡眠薬や抗精神薬の様々な成分が検出されているし、2人が海や川で溺死した事情が自殺や事故であることは現場や遺体の状況から考え難かった。客観的事実は2人が何者かに睡眠薬を飲まされ、意識もうろう状態で海や川に誘導されて溺死したことを動かしたく裏づけていたのである。

しかも、2人の遺体から検出された睡眠薬や抗精神薬の成分の組み合わせは、上田被告の知人男性が鳥取市内の病院で処方され、上田被告の手に渡ったとされる睡眠薬や抗精神薬の成分の組み合わせと一致していた。この睡眠薬や抗精神薬を上田被告の知人男性に処方した主治医は「私がこれまで1000人以上診察した患者の中には、同じ組み合わせで睡眠薬や抗精神薬を処方した患者はいなかった」と証言している。

2人の被害者が睡眠薬を飲まされて殺害されたことや、飲まされた睡眠薬と上田被告が結びつくことがこれほど確かな根拠をもとに認定されているのである。弁護人の主張するような根拠で、睡眠薬を使った殺害行為を否定するのは無理だと言わざるをえない。

◆「再現実験」もしていたが……

弁護人が上告審弁論で示した無罪の根拠の2点目は、「一、二審判決が認定したような犯行は架空の物語で、上田被告には不可能」ということだ。矢部さんが海の中に誘導されたとされる砂浜、圓山さんが川の中に誘導されたとされる橋の下はいずれも足場が悪かったり、段差があったりするため、上田被告が意識もうろう状態の被害者を誘導し、そのような犯行に及ぶのが「不可能」だというのだ。

しかし、私は両方の現場を実際に訪ねてみたが、いずれの現場も一、二審判決が認定したような犯行が不可能だとはまったく思えなかった。弁護人たちは圓山さんが殺害されたとされる川では再現実験もしており、「男性の我々でもそういうことはできなかったのに、女性の上田さんにそういうことは不可能」とも主張していたが、この主張にいたっては逆に上田被告を有罪に追い込んでいるように思えた。

というのも、当欄でお伝えした通り、上田被告は控訴審の公判において、事件当時に同居していた男性A氏が真犯人であることを明言したに等しい供述をしている。「男性でも犯行が不可能」という弁護人の主張は、この上田被告の控訴審での主張を否定しているに等しい。

圓山さんが殺害された場所は橋の向こう側。道幅は狭いが、歩けないほどではない

◆「弁護人が『クロ』を証明した」という意味

さて、ここまで上告審弁論における弁護人の主張を否定してきたが、実を言うと私は上田被告の2人の弁護人のことをむしろ熱心で、優秀な人たちなのではないかと思っている。

私は主任弁護人とは会って話したことがあるが、東京の弁護士なのに、上田被告が拘禁された松江刑務所までしばしば面会に行っているようなことを言っていた。わざわざ東京から鳥取まで行って、殺害現場の川で実験をしたという話にもよくもまあ、わざわざ・・・と本当に頭が下がる思いだった。2人の弁護人は国選である。金銭的に大赤字だろう。

そんな熱心で、優秀な弁護人たちでもこのような無理筋の無罪主張しかできないのだ。だからこそ、私は弁護人の弁論がかえって上田被告の「クロ」を動かしがたく証明したというのである。

【鳥取連続不審死事件】
2009年秋、同居していた男性A氏と共に詐欺の容疑で逮捕されていた鳥取市の元ホステス・上田美由紀被告(当時35)について、周辺で計6人の男性が不審死していた疑惑が表面化。捜査の結果、上田被告は強盗殺人や詐欺、窃盗、住居侵入の罪で起訴され、強盗殺人については一貫して無実を訴えながら2012年12月、鳥取地裁の裁判員裁判で死刑判決を受ける。判決によると、上田被告は2009年4月、270万円の借金返済を免れるためにトラック運転手の矢部和実さん(当時47)に睡眠薬などを飲ませて海で水死させ、同10月には電化製品の代金約53万円の支払いを免れようと、電気工事業の圓山秀樹さん(同57)を同じ手口により川で水死させたとされた。そして2014年3月、広島高裁松江支部の控訴審でも控訴棄却の判決を受け、現在は最高裁に上告中。

《鳥取不審死・闇の奥》
《01》「悪」とは別の何かに思える被告人
《02》弁護人も悲しげな表情で聞く被告人の荒唐無稽な弁解
《03》様々な点が酷似していた2つの殺人事件
《04》同居男性が真犯人であるかのように語った上田被告
《05》上告審弁論で弁護人が証明した上田被告の「クロ」

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)
愚直に直球 タブーなし!最新刊『紙の爆弾』8月号! 安倍晋三 問われる「首相の資質」【特集】共謀罪を成立させた者たち

「共謀罪法」施行初日の7月11日、全国各地で沸き起こる反対行動の狼煙

5月28日、新宿駅西口で行われた共謀祭の様子

7月11日、ついに「共謀罪(テロ等準備罪)法」が施行される。これに反対して廃止を求める行動が全国各地で一斉に開催される予定だ。

数あるイベントの中で、歌や音楽・スピーチでアピールする「全国一斉共謀祭」とプラカードなどを街頭で掲げる「全国一斉スタンディング」を紹介したいが、その前に共謀罪について改めて基本を確認しておこう。

◆明日、監視・密告社会が到来する

日本の刑法では、基本的に犯罪の既遂(実際に行う)があって初めて処罰される。しかし殺人罪など重要な犯罪については、実際に人を殺す行為をしていなくても「未遂罪」などが適用されるわけだ。

ところが共謀罪は、未遂の段階よりはるか前の、計画や合意があったと警察が認定した段階で強制捜査に着手できる。しかも、その合意とは黙示的な合意も含まれ、形にあらわしたり言葉で賛意を表さなくても成立してしまう。

当然のことながら、客観的な証拠がないから、計画・合意の事実を示すものとして盗聴(電話、ファックス、メール、SNS、話し合いの現場)が必要になる。また、計画に参加したとする者の自首・密告、あるいは捜査官が潜入して計画と合意があったと主張しなければならない。

まさに監視社会・密告社会が到来することになる。合意のあとの「準備行為」が必要だと政府は説明しているが、花見に地図や双眼鏡をもっていけば準備行為、キノコ狩りにいけばテロ資金獲得のための準備行為、などと国会でも答弁されているとおり、準備行為が構成要件を厳しくするのではなく、逆に何でもありという事態になりかねない。

2017年5月23日、衆議院で「共謀罪」法案可決。賛成議員と反対・棄権・欠席議員(東京新聞2017年5月24日付)
2017年6月15日、参議院で「共謀罪」法案可決。賛成議員と反対・棄権・欠席議員(東京新聞2017年6月16日付)

しかし、些細なことをでっち上げて、権力に都合の悪い人や組織を弾圧することはこれまでもなされてきた。だから、共謀罪は必要ない。では、なぜ共謀罪法案を強行採決させたのか。

それは、活動家や団体だけでなく、一般人・全国民に監視・弾圧の対象を拡大させるためである。この法律は廃止するしかない。

だからこそ、共謀罪法施行第1日目に、どれだけ廃止の声をあげるかが重要になってくる。

◆新宿ジャック・全国一斉共謀祭

まず、「全国一斉 共謀際」が行われる。

東京では、新宿駅西口の小田急百貨店前で、一般人有志の会主催の「新宿ジャック・全国一斉共謀祭」が開催される。ミュージシャンらに加えて、評論家の鈴木邦男氏や経済学者の植草一秀氏らが登壇する。

午後4時スタートで夜9時までの5時間という長丁場だが、法施行1日目という重要な局面なので頑張るという。この間に5時30分から6時30分までは、「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会が呼び掛けるリレートークもある。

全国主要都市でも連帯の「共謀祭」が行われる。7月7日現在の情報では、北海道、大阪、愛知、愛媛、千葉、静岡などから、参加の声が上がっているという。共謀祭に関する情報はフェイスブックページで確認していただきたい。

◆共謀罪をぶっ飛ばせ!全国スタンディング

一方、「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会は、「共謀祭」と同日に全国一斉のスタンディングを呼び掛けている。やり方は参加者にまかせるが、可能ならば施行日である7月11日を象徴するため、17年7月11日午後7時11分前後にプラカードを一斉に掲げ、共謀罪法廃止をアピールしよう、というのが呼びかけの趣旨だ。

東京での行動は、前述の「新宿ジャック共謀祭」と連動することになる。まず、午後四時に新宿駅西口の小田急百貨店前で「新宿ジャック共謀祭」開始。夕方5時30分から6時30分までの1時間は、百人委員会呼びかけのリレートークとなる。
・「ブッ飛ばせ! 共謀罪」百人委員会 フェイスブック
ブログ ・HP

7.11全国「共謀」の日 福岡第4弾 共謀罪法葬送・街頭アピール(主催=福岡市民救援会)

◆福岡では喪服で共謀罪葬送デモ

工夫を凝らしたイベントとしては、福岡で実施される福岡市民救援会主催の葬送デモがあげられる。実は6月25日にも同様のアピール活動があり、次回が第2弾になる。萎縮など一切せずに、共謀罪法を「葬り去ろう」というのがその趣旨だ。

葬送デモというからには、もちろんドレスコードは、喪服(黒い喪章、黒ネクタイ、モーニングベールなど)である。そして葬式では個人の遺影がはいるパネルに共謀罪法と墨守し、黒いリボンをかけるなどのパフォーマンスも行われるだろう。

施行日の「711」にかけて、午後7時11分には、お経風シュプレヒコールで声をあげます。が、どんなシュプレヒコールなるかは、参加するかネットの動画で見られるだろう。

主催者は、「共謀罪法の遺影や位牌を用意します。みなさんも、是非黒い服を着て、マイ木魚、マイ鈴、マイ棺桶を持参して街頭アピールに参加しませんか?」と呼びかけている。なお、「その御気持ちあるのに参加できない人は、共謀罪法葬儀への弔電やお香典も受け付けます?」ということだ。

場所は福岡パルコ前。毎週第2火曜日18時30分~19時30分に定例で行われている「福岡辺野古アクション」とのコラボ企画になる。

全国的に展開される各地のイベントを過去最大規模に盛り上げることが、廃止につながるだろう。

▼林 克明(はやし・まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)ほか。林克明twitter 

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《建築漂流06》裂け目の機能 ── すみだ北斎美術館

すみだ北斎美術館はその名の通り葛飾北斎を紹介する美術館で、北斎が生涯を過ごした墨田区亀沢、JR両国駅から徒歩約10分のところに立地している。開館当時にはメディアで大きく紹介されていたのでご存知の方も多いだろう。美術館の建設構想は1989年に始まっており、土地を購入するところまではすぐにたどり着いたのだが、やがて資金繰りが難航し計画が中断。2006年、近隣の押上地区に東京スカイツリー建設が決まったことを受け構想が再始動し、2016年11月にようやく開館したという、まあそんな歴史がある。

◆裂け目の内側に入る

まずはサラっと外観を眺めてもらいたい。風景の写り込みを想定したという鏡面アルミパネル仕上げの外壁が輝いている。そしてスリット(裂け目)がある。きっとスリットのどこかが入り口なのだろう。しかし遠目にはいまいち判然としない。

ぐるっと周りを一周してみて、あれ、と思った。どこが正面(ファサード)なのかが分からないのだ。いや、ファサードはおそらく公園側なのだろうが、“裏”らしいところが見当たらないのだ。これはなかなか面白い。いいね。

そしてやはり入口はスリット内にあった。このスリットは内側で全て繋がっており、どちらが裏だか分からないその裏側や、同様の側面へ通り抜けることができる。建築面積約700平米・高さ22メートルというそこそこ大きな鉄筋コンクリート造りであるにもかかわらず軽快な感じがするのもスリットの機能ではないだろうか。

“大きなひとつ”を“中くらいのいくつか”に分けることで内向きの力を発散させ、またわずかではあるが向こう側を見通せることにより風景と同化し、つまり異物としての排他的な重厚感を打ち消している。

東京タワーに比べてスカイツリーが景色に馴染まないのも同じ理由ではないだろうか。スカイツリーは大きさの割にボテっとし過ぎており、景色を分断してしまっているのだ。もう少し隙間を作ってやればいずれ東京タワーのように愛されたかもしれないが、もはや諦めるしかない。あれは失敗作だろう。

◆女性建築家・妹島和世のラディカリズム

すみだ北斎美術館の設計を担当した妹島和世(せじまかずよ)についてもいくつか。1988年の鹿島賞受賞を皮切りに数多くの建築賞を受賞しており、2010年には女性としては2人目、日本人女性としては唯一(2017年現在)のプリツカー賞(「建築界のノーベル賞」と呼ばれている)受賞を果たした。

西沢立衛と共に立ち上げた建築家ユニット「SANAA(サナー)」での活動は世界に知られており、身近なところでは「金沢21世紀美術館」や「ディオール表参道」がその作品だ。妹島和世の作品は外観が非常に現代的であり、その印象は素材に金属板やアクリルを用いていることとも関係している。

また部屋や通路の配置が大胆であることなどとあわせてラディカルな作家として認知されているが、本人としては奇抜なことをやろうというつもりはなく、あくまでも自分なりの合理性を貫き通した結果だという。一見変わった造りのすみだ北斎美術館も先のとおり合理的な一面を持っており、実際に館内を歩いてみてもその感は薄れない。良い建築だと感じると共に、これを設計した妹島和世という建築家に対する興味が一気に噴出してきた。他の作品も見学してこようと思う。

◆北斎という衝撃

西の世界へジャポニスムという大衝撃を与えた葛飾北斎。西洋の人々の葛飾北斎に対する評価は、日本に暮らす私たちが想像するよりも遥かに高いのだという話は、直接あるいは読書を通じて間接的に何度も耳にしている。そんな葛飾北斎について知りたければ、すみだ北斎美術館へ行ってみるといいだろう。そして2017年10月末には国立西洋美術館にて『北斎とジャポニスム』展が開催されるというからこちらも要チェックだ。

[撮影・文]大宮浩平

▼大宮 浩平(おおみや・こうへい)
写真家 / ライター / 1986年 東京に生まれる。2002年より撮影を開始。 2016年 新宿眼科画廊にて個展を開催。主な使用機材は Canon EOS 5D markⅡ、RICOH GR、Nikon F2。
Facebook : https://m.facebook.com/omiyakohei
twitter : https://twitter.com/OMIYA_KOHEI
Instagram : http://instagram.com/omiya_kohei

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神風シリーズ vol.3 NKBを背負いし者たちの戦い!

高橋一眞vs村田裕俊。村田のパンチもヒット、後に引けない両者の交錯
村田裕俊vs高橋一眞。打ち負けない我慢比べが一眞に傾く
村田裕俊vs高橋一眞。ムエタイ技でも蹴り負けなかった一眞のヒザ蹴り
村田裕俊vs高橋一眞。一眞の返し技、村田より強く蹴り返したヒザ

またも感動を呼ぶ試合を行なった高橋一家。4度目の対決となる、因縁膨らむ村田裕俊vs高橋一眞のNKBライト級王座決定戦。新人3回戦時代に2度KOで勝利している高橋一眞は、昨年4月、NKBフェザー級王座決定戦で村田に判定で敗れる失態。続けて対森井洋介戦、対鷹大戦と3連敗を喫する。その後ライト級に上げ、今年2月に洋介(渡辺)に5Rにハイキック一発KO勝利し復活を遂げるも、心理的にもライト級としての体格に於いてもまだ不安の残る状況でした。

昨年の村田裕俊は、ムエタイ修行の成果を出してチャンピオンになって以降、10月にノンタイトル戦でWMC日本同級チャンピオン.久世秀樹(レンジャー)に判定勝利、12月に優介(真門)に5R・KOでNKBフェザー級王座初防衛。更に調子を上げ、今年2月に「KNOCK OUTイベント」において実績ある森井洋介と引分ける善戦で存在感アップさせるも、4月に高橋三兄弟三男・聖人に判定で敗れる意外な敗北で評価は大きく後退。互いに階級アップしたライト級での実績不足と、それぞれの敗戦から精神的に立ち直れているか不安定な中での再戦は王座を争う戦いでもあり、それまでの展開はファンの関心を高める中、一眞が接戦の攻防を制する展開を見せました。

一旦劣勢になれば挽回は苦しくなる為、互いに打ち負けない踏ん張りが見られました。一眞はこれまでよりガードを固め、首相撲では組み負けない圧力、微妙な差でしたが、攻められても返し技が早く、一発当てた後の繋ぎ技が効果的でした。
苦戦強いられる試練が続き、一戦一戦が感動を呼ぶ三兄弟というのも注目集まる要因でしょう。

次、目指すものは「“KNOCK OUT”に出たい」と語る一眞でした。また三兄弟での同時チャンピオン君臨も近い将来の目標。「KNOCK OUTイベント」も三兄弟で同時出場できれば、それも叶わぬ夢ではない大きな目標となるでしょう。

◎神風シリーズ vol.3 / 6月25日(日)後楽園ホール17:30~21:10
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

◆第15代NKBライト級王座決定戦 5回戦

NKBフェザー級チャンピオン.村田裕俊(八王子FSG/61.1kg/27歳)
VS
NKBライト級1位.髙橋一眞(真門/61.2kg/22歳)
勝者:髙橋一眞 / 判定1-2
主審 前田仁 / 副審 川上50-49. 鈴木48-49. 佐藤友章48-49

高橋一眞vs村田裕俊。一眞の前蹴りも好印象を与える
村田裕俊vs高橋一眞。多彩に攻めヒジ打ちもヒットさせた一眞
西村清吾vsチャンデー。技は健在、チャンデーの底力

◆ミドル級3回戦

NKBミドル級1位.西村清吾(TEAM-KOK/72.4kg/38歳)
VS
チャンデー・ソー・パランタレー
(元・ルンピニー系ライト級チャンピオン/タイ/70.0kg/44歳)
勝者:チャンデー / 判定0-3
主審 川上伸 / 副審 佐藤彰彦29-30. 鈴木29-30. 前田29-30

おそらく20年以上前のルンピニーチャンピオンだったチャンデーは速くて重い蹴り、ヒジ打ちと接近戦でのヒザ蹴りの上手さが目立つ。ミドル級での試合、ブランクを経た勘の鈍りはあるにしても西村を突き放すテクニックは充分でした。5回戦だったら展開は変わっていたかもしれない西村のパンチと蹴りの踏ん張りもあり、互角に近い攻防で会場を沸かせました。

チャンデーvs西村清吾。パンチしか勝機がなかった西村の反撃

◆フェザー級3回戦

NKBフェザー級2位.優介(真門/57.0kg/32歳)
VS
同級9位.坂本秀樹(大塚/56.7kg/30歳)
勝者:優介 / KO 1R 2:26 / カウント中のタオル投入による棄権
主審 佐藤友章

◆ウェルター級3回戦

NKBウェルター級4位.稲葉裕哉(大塚/66.5kg/29歳)
VS
チャン・シー(SQUARE-UP/66.6kg/33歳)
勝者:稲葉裕哉 / 判定2-0
主審 鈴木義和 / 副審 前田30-29. 川上30-30. 佐藤友章30-29

◆バンタム級3回戦

NKBバンタム級3位.海老原竜二(神武館/53.2kg/26歳)
VS
同級6位.佐藤勇士(拳心館/53.2kg/25歳)
勝者:佐藤勇士 / 判定0-2
主審 川上30-30. 前田29-30. 佐藤友章29-30

◆57.0kg契約3回戦

NKBフェザー級4位.安田浩昭(SQUARE-UP/57.0kg/30歳)
VS
NKBバンタム級1位.松永亮(拳心館/56.1kg/27歳)
勝者:安田浩昭 / TKO 2R 2:38 / カウント中のレフェリーストップ
主審 鈴木義和

他、5試合は割愛します。

元・NKBミドル級チャンピオン.若生浩次が高橋三兄弟を育てました

《取材戦記》

6月4日(日)に、興行本部長の小野瀬邦英氏が東京ドームホテルで結婚式・披露宴が行なわれました。新婦は真季さん。列席者総勢200名。梅野源治氏、小野寺力氏、かつてのライバルで、今もライバルのガルーダ・テツ氏も列席され盛大に行なわれた披露宴でした。

「やっぱりこの男強いなあ」と思ったのは、人生に於いて、私生活においていろいろ苦難が圧し掛かる中、興行を継続していくことの難しさに音を上げそうになるも、渡辺信久連盟代表から「男なら言い出したことは最後までやれ」と檄を飛ばされたことや、「苦しい時に支えてくれたのが妻・真季でした」と13分に渡る締めの挨拶の中のカッコいい言葉でした。

心が強ければ嫌でも音を上げることなく、星一徹のような頑固者の渡辺代表を越え、他団体興行に負けない、小野瀬体制興行は延々続いていくということになるでしょう。

私が、キックボクサー現役時代の試合や実績を見て、この男は引退しても次の世界で大きなことをやると予感できる選手が何人かいました。その内の一人が小野瀬邦英氏でした。SQUAER-UPジムを経営し、連盟興行本部長を務める今後もキックボクシング界を改革できる中の一人になるでしょう。

高橋三兄弟をやたら引き上げるのは、注目を浴びる三兄弟としての話題とチャンピオンを狙える強さ、彼らの素直さ、直向きさにあります。NKBに於いては彼らが必要な時代でしょう。ただこの先が順風満帆には行かない大きな壁が立ちはだかります。国内でのその壁を乗り越えた上、活性化している世界タイトルやムエタイ殿堂王座まで行けたら凄いものです。真門ジムや小野瀬氏の力も必要になりますが、この連盟の鎖国状態で過去に全く無かった飛躍をして欲しいものです。

日本キックボクシング連盟次回興行「神風シリーズvol.4」は9月23日(土)後楽園ホールにて17:30より開催されます。メインイベントはNKBミドル級タイトルマッチ、チャンピオン.田村聖(拳心館)の初防衛戦は王座決定戦で争った西村清吾(TEAM-KOK)です。過去、田村聖の1勝1分です。

NKBを背負いし小野瀬邦英の結婚式。祝福の拍手の中を歩く新郎新婦

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

愚直に直球 タブーなし!7月7日発売『紙の爆弾』8月号! 安倍晋三 問われる「首相の資質」【特集】共謀罪を成立させた者たち
一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

電事連の無茶苦茶な虚構広告──その真意を広報に問うてみた〈後〉

 
 

  

『NO NUKES voice』12号【特集】暗い時代の脱原発──知事抹殺、不当逮捕、共謀罪 ファシズムの足音が聞こえる!

『NO NUKES voice』や本コラムで本間龍氏が、原発と広告については毎号連載でその暗部を明かしてくれている。たまたま新聞を見ていたら石坂浩二が深刻そうに「エネルギー自給率6%」を指さした写真が大写しの電事連(電気事業連合会)の広告を目にした。

一言で言えば無茶苦茶な虚構である。しかしこの広告のために一体いくらの電気料金が使われたのかを考えると、むかっ腹が立ってきたので、電事連に6月20日電話取材をした。応対者は広報の「オオフサ氏」(男性)だ。前回に引き続きそのロングインタビューの後編を公開する。

石坂浩二が深刻そうに「エネルギー自給率6%」を指さした電気事業連合会の新聞広告

◆この自給率6%の中にウランも入ってるわけですか?

── 先ほど明確に(エネルギー自給率)6%というのは水力だとおっしゃっていただきましたけれども、この6%の中にウランも入ってるわけですか?
電事連 ここは入っていないです。
── だから私が申し上げているのは、エネルギー自給率6%というのは確かに深刻だということは同意しますが、その6%の中にはウランが入っていないのであって、ウランは残り94%の中に最初は入ってるわけですよ。それをあなたはリサイクル可能な燃料だという表現でご説明いただきましたよね。それはプルサーマルできるからということでそういう様な表現なさってるかもわからないけれども、そんなこと言うんだったら石炭を燃やした後の燃え屑を使うことだってリサイクルなんだから「準国産」に組み入れないと不合理でしょ。ところで原子力発電所の発電効率は何10%なんですか?
電事連 すみません、ちょっとそれは即答できないんです。
── 約30%です。だから3分の2は温水にして捨てるわけですよ。非常に効率が悪い。でもこの広告は極めて恣意的に原子力発電がいかにも有効であるかというような意識を植えさせようとしていますね。私たちが払ってる電気代でこんなことしないで欲しいんですよ。虚構ですよ、この数字も説明も。

 
 

  
── それから再生可能エネルギーという言葉はあるけれども、あなたは先ほどから「リサイクル」という言葉を何回かおっしゃいましたね。リサイクルできるプルトニウムというのは猛毒だということはご存知ですね。この間茨城県で事故があってプルトニウムを事故で吸い込んだ人がいましたね。
電事連 私がですか?
── あなたではなくて、大洗でプルトニウムを吸い込んでしまった事故があったでしょ、プルトニウムを吸い込んだ方は大変な健康被害の懸念があります。過去の研究結果からいったらそうなんです。そういう毒性の高い物を使って、運転しても大丈夫だということは確信持っていらっしゃるわけですね、電事連の方々は。
電事連 はい。
── 大丈夫なんですね。大丈夫だったけれど不思議なことに福島では黒煙が3号機からだけ上がったということですね。1号機、2号機、4号機爆発しましたけれども。黒煙が上がってあれほど高い所までに燃料棒が吹きあがったのは3号機だけですね。でも大丈夫なんですね。あなた方それ保証できるんですね。安全性を保証できるんですね?
電事連 その100%というところは、福島の事故を受けまして事故が起こったという反省に立ってわれわれも安全対策をしっかり取り組んでますし、それはこれからもやっていくことにはなると思いますけれども。

◆原発が動こうが動くまいが自給率は変わらないじゃないですか?

── なんであそこまで取り返しのつかない事故を起こしてまで、まだやろうと平気で考えられるのですか? 原子力緊急事態宣言というのがまだ発令中だというのはご存知ですよね。政府の。
電事連 はい。
── 終わってないんですよ。わたしの意見ではなくて。原子力緊急宣言というのはいまだに出っぱなしなんですよ。政府によればいまも緊急事態なんですよ。緊急事態の中でなぜ原因究明とか原状復帰もできない中でこういった嘘の広告が打てるんですか、あなたたちは。
電事連 われわれとしては嘘だとは思っていませんし。
── 嘘じゃないですか。だってまずは6%というところ。あなたが正直に教えてくれたけれども日本にウランはないんだから、ウランは輸入しなければいけませんてことでしょ。それならば原発が動こうが動くまいが自給率は変わらないじゃないですか。
電事連 …………
── 違います? ちゃんと説明していただいたら私も意見変えますから。教えていただければ。
電事連 冒頭申し上げた通りでして。
── あなた冒頭冒頭言ってるけれど、原発が動いたら6%という数字がどのように変化するんですか?
電事連 申し訳ないですけれども、繰り返しになってしまいます。原子力が動くことで準国産エネルギーというふうに位置づけられてる原子力が動くことで自給率向上というところを目指していると。
── 今プルサーマルで動いてるのは伊方と高浜と二つだけですね。これが営業運転を始めたら自給率はどれだけ上がるんですか?
電事連 すみません、その数字は手元には今ございません。
── それくらい準備しときなさい。
電事連 申し訳ありません。

◎[参考動画]「家庭生活×エネルギー自給率」篇(電気事業連合会2017年2月22日公開)
 
 

  

◆42基の原発をフル稼働させたら自給率どこまで上がります?

── プルサーマルをやったって、プルトニウムを高い濃度で入れられるわけないから、上がったって1%も上がりませんよ。だからこの広告は、最初の6%という数字を石坂浩二が示してることによって大きく読者をミスリードしているということを私は疑問視しているわけです。仮にですよ、日本に今、商業用で使える原子炉は42基ありますね。それをフル稼働したら自給率どこまで上がります?
電事連 この新聞広告に出てるエネルギーミックスを達成することで、おおむね25%程度ですね。
── 25%、フル稼働すると。というのはそれはプルトニウムも燃やしてということね。42基で、だけどその中でプルサーマルの炉は何基あるんですか?
電事連 現状でですか?
── そうです、今プルトニウムを入れて燃やすことができるプルサーマルの炉というのは全国にいくつあるんですか?
電事連 今3基ですね。
── 3基? 高浜の3号と、伊方と、もう一つは?
電事連 玄海ですね。
── 3基だったら、どうしてさっきあなたがおっしゃたように20何%まで上がるの? 説明が全然比率としておかしいでしょう。そりゃ20基、30基プルサーマル燃やせる炉があったら数%上がるかもしれないけれど、プルサーマル燃やすときにプルトニウム混ぜる割合ってウランに対して、ウランとプルトニウムを何対何で入れて燃料作るんですか?
電事連 …………。

◆違うでしょ、私は原子力だけを聞いてる!

── そもそもウラン燃料は一本当たり、プルサーマルでなくてですよ、一本当たりの重量はどのくらいですか?
電事連 すみません、ちょっと今それは……。
── そんなことも知らないのか君は! だいたい1トンですよ。ジルコニウムで包んであって中にペレット状のウランが入ってるわけですよ。そのペレット状のウランを特殊加工してその中にプルトニウムを混ぜる。その資料はありますか?
電事連 ちょっと今手元にはないです。
── だからね、あなた何にも資料手元になくて、何にもご存知なくて、なんでそこに座って私に応対できるの? 素人の私の方が知っていてどうするんですか? プルサーマル燃料を燃やせる炉は3基しかないわけでしょ。3基しかなくて1年動いたら定期検査で止めなければいけないでしょ。だから3基の原子炉が仮にあなたのおっしゃるようにリサイクルしながら動いていても24時間365日ずっと動くということはないわけですね。それで何で3基だけ動いて自給率が6%から25%にまで上がるんですか。
電事連 そこはすみません。そういうふうに申し上げたつもりはなかったんですけれども。新聞広告に書いてある2030年の電源構成という円グラフが描いてあると思うんですけれども、この電源構成を達成すれば25%程度と……。
── 達成すればと、もう少しわかりやすい言葉で言っていただくと?
電事連 この電源構成を実現していくと自給率が25%程度に達成すると……。
── 電源構成を実現するとは具体的にどういうこと?
電事連 その広告に書いてある……。
── つまりプルサーマルを新設するということなんですか?
電事連 いえ、今止まってる発電所でも設置許可の申請をしてるところもありますし……。
── 違うでしょ。私、あなたに聞いたのは日本の中でプルサーマルができる炉はいくつあるのって聞いたら、あなた3基しかないっておっしゃったじゃない。
電事連 そこは申し訳ありません。
── 他にもあるの?
電事連 今手続きを取ってるところもありまして。
── いやいや、止まってる所も含めて日本の中でプルサーマルができる炉はいくつあるのですか?
電事連 実績としては3基ですね。福島第一原発3号機を除くと3基という形になります。
── じゃあ3基で間違いないわけでしょ。これ以上燃やしようないわけでしょ。玄海はまだ止まってるけど伊方と高浜はもう動き出したからそこで燃やしてるわけでしょ。で玄海が動き出したらいきなり6%が25%になるんですか?

 
 

  
電事連 いえ、そこは違いますね。
── じゃ、どういう計算になるんですか。教えて下さい。あなたの説明では前提となる数字と結果の間に大きな齟齬があって理解できない。
電事連 申し訳ありませんでした。
── 「ありませんでした」じゃなくて、3基がフル稼働したら今の6%の自給率が25%に上がるというのはどんな根拠に基づくんですか?
電事連 いえ、そうは申し上げてないです。
── じゃあわかりやすく教えてください。どうしてそうなるのかということを。
電事連 ですので、2030年の電源構成というのを達成すれば自給率としては25%程度まで改善すると。
── だから具体的にどういうことを意味するわけですか。私がさっきお尋ねした通り新たにプルサーマルで燃やせる炉を新設するということを意味するわけなんですか?
電事連 いえ、それだけではなくて再生可能エネルギーの導入拡大ですとか……。
── 違うでしょ、私は原子力だけを聞いてる。ここのグラフにも実際に20~22って書いてあるじゃないですか。再生可能エネルギーの話は聞いてないですよ。原子力にフォーカス絞ってお尋ねしてるんです。できようないでしょ、そんなものは。再生可能エネルギーはどんどん上がるかもわからないですよ。プルサーマルの今ある3つの炉で思いっきり燃やしたところで、あなたたちリサイクルと言うかもしれないけれども事故の危険が増すだけの行為ですよ。それを「準国産」というのは「産地偽装」と一緒ですよ。あなただってアメリカで作られた牛がスーパーで売っていて佐賀県産とか何とか県産とか書いてあって高いお金出して買ってきて食べて後でそれが報道でアメリカの安い肉だったと聞いたら怒るでしょう。それと一緒のことじゃない。何が準国産ですか。そんな乱暴かつ無茶苦茶な概念を平気で使ってるということ自体が常軌を逸しています。そんなこと言ったらね、ごみも全部「準国産」ですよ。焼却ごみも。燃えるごみって出すでしょ。燃えるごみは中にいろんなものが入ってるけど、あなた方の理屈で言えば「準国産」のエネルギーってことになりますね。ごみ焼却場で燃やされたエネルギーは室内プールやお風呂とか暖房とかに現実に利用されていますよね。けれども可燃ごみを「準国産エネルギー」というような馬鹿な人は日本中探したってどこにもいないですよ。聞いたことないでしょ、あなただって。さらに言えば、ごみの中には毒性のあるものも含まれているけれども、プルトニウムほどに毒性の強いものは家庭からのごみにまずないですよ。電事連が主張なさっているリサイクルエネルギーという概念は私が今ご提示したように家庭から出る焼却ごみを「準国産」称して、しかも家庭から出るごみの中にはそれほどの毒性の強いものは含まれていないにも関わらず、プルトニウムという猛毒を混ぜて事故が起きたら破局的なことを迎えることが証明されているにも関わらず、それを強行しようとしているということを私はお話を聞きながら理解をするのですが、それに対するこちらが安心できるようなご説明は一切いただけないですね。残念ながら。私の疑問点はおわかりいただけました?
電事連 はい。

◆プルサーマルの炉だけでなんで6%が25%に跳ね上がるのか?

── この表示の仕方はどう考えてもおかしいですよ。それから政府の2030年の電源構成予定というのも完全に絵に描いた餅です。お考えになったらわかると思うけれどもね、これから予定して新しく作るプルサーマルの炉といったら大間ぐらいでしょ。
電事連 建設中のものと言ったら、はい。
── それができて燃やしたところで、なんで25%に跳ね上がるかということです。あなたそこに座っていらって、こういう質問が出た時にはその積算根拠がパッと答えられるように準備していないのであれば、要するにそれは「答えられないこと」だなと質問者は取りますよ。答えられないことなんです実際にね。すみません、お忙しい中時間取らせて、恐縮です。ごめんなさいお名前何とおっしゃいます?
電事連 オオフサと申します。
── オオフサ様。電気事業連合会の広報のオオフサ様。いろいろ教えていただくというか、長い時間恐縮でしたが。
電事連 いえ、とんでもないです。
── ちょっとオオフサさんもご自分でお調べいただけると有難いですね。よろしくお願いいたします。
電事連 はい、わかりました。どうも有難うございます。 (了)

◎[参考動画]エネルギーバランス(電気事業連合会2017年2月13日公開)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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一言で言えば無茶苦茶な虚構である。しかしこの広告のために一体いくらの電気料金が使われたのかを考えると、むかっ腹が立ってきたので、電事連に6月20日電話取材をした。応対者は広報の「オオフサ氏」(男性)だ。そのロングインタビューを2回に分けて公開する。

石坂浩二が深刻そうに「エネルギー自給率6%」を指さした電気事業連合会の新聞広告

◆日本に原発の燃料になるウランの埋蔵はあるわけですか?

── 新聞広告について教えていただきたいのですけれども。
電事連 はい、どのようなことでしょうか?
── 石坂浩二さんが「エネルギー自給率6%」を示している新聞広告を見ました。これ電力安定供給のためにはエネルギーミックスが必要だと考えますということが書かれているのですが。この広告は何を主張していらっしゃるのでしょうか?
電事連 電力の安定供給を行っていくために、いろんな電源さまざま特徴がございますのでそういったものを組み合わせて使っていくというようなことを申し上げているつもりなんですけれども。
── 2030年の電力構成政府案という円グラフがありますね。最初に20~22%で原子力で、次に27%が天然ガスで、26%が石炭と順番になってるんですが、原子力の燃料は国産できるんですか?
電事連 いったん輸入をすればリサイクルができるという観点で、いわゆる準国産エネルギーというふうに言われてます。
── エネルギー自給率6%というのを石坂さんが示してるわけでしょ。
電事連 はい。

 
 

── 準国産は国産ではなくて、もとは輸入しなければいけないということをおっしゃってるわけですね?
電事連 うーんと、まあそうですね、はい。
── 日本に原発の燃料になるウランの埋蔵はあるわけですか?
電事連 ないです。
── ない! だったらこの広告ミスリードじゃないですか。
電事連 うーん、と申しますと?
── エネルギー自給率6%。6%自給できているものは何ですか?
電事連 日本で出せるものです
── 「資源の多くを輸入に頼る日本のエネルギー自給率は原子力発電の停止によってわずか6%にまで落ち込んでいます」と書いてありますけれども、今のご説明ですと、原子力発電の燃料も輸入に頼ってるわけでしょ、ここにも書いてあるけれども、原発が止まろうが動いていようが自給率の割合は変わらないじゃないですか、輸入してるんだったら。
電事連 ただ、リサイクルできるという観点で……。
── リサイクルというのは要するに核燃サイクルでしょ。核燃サイクルは「もんじゅ」をやめるから破綻したじゃないですか。
電事連 まあ、プルサーマルということで進めていくということもありますし。
── それは輸入して一端ウラン燃料を燃やした後でしょう?
電事連 それはそうですね。

◆原発が停止していなければエネルギー自給率はもっと高かったんですか?

── この日本にある6%は何なのですか?
電事連 水力発電とかがありますね。
── ああ、水力で。全部水力ですか?
電事連 ではないですね。再生可能エネルギーですとかそういったものもありますし。
── この広告の言う、「原子力発電所の停止によってわずか6%にまで落ち込んでいます」というのは、事実と反しますよね。原子力発電所が停止していなければエネルギー自給率はもっと高かったんですか?
電事連 そうですね、はい。
── どうして?
電事連 そこは準国産エネルギーというふうに位置づけられてますので。
── なんで?あなたおっしゃったじゃない、「日本にはウランの埋蔵はないから輸入しなきゃといけない」と。それがどうして国産になるんですか?
電事連 先程申し上げたつもりなんですけれども。
── 日本にはないんでしょ? 燃料になるウランは。
電事連 そこはない、はい。
── ないのに何で原子力発電が止まったら自給率が下がるんですか? もともとないものが動いていようが止まっていようが関係ないでしょ。
電事連 うーん、そこは繰り返しになってしまいますけれども、リサイクルできるという観点で準国産エネルギーというふうに位置づけられてまして。
── そんな馬鹿な理屈が通るのはあなたたちの頭の中だけです。準国産というのは、そんなこと言ったら石炭だって石炭燃やしたカスをまた使えば準国産になるっていう解釈だって可能になりませんか。
電事連 うーん。

◎[参考動画]「社会生活×エネルギー自給率」篇(電気事業連合会2017年2月22日公開)
 
 

 
◆古い原発はプルサーマルを想定して作られていますか?

── あなたに教えていただいたけれども、まずは輸入してるわけでょ。
電事連 はい。
── まず日本にないわけでしょ。
電事連 はい。
── ないんですね。
電事連 はい。
── それがなんで国産エネルギーなんですか?
電事連 すみません、そこはちょっと繰り返しになってしまいますけれども。
── 繰り返しじゃなくて、それはあなたがたの解釈が間違っているということですよ。エネルギー自給率6%というのは確かに深刻だとは思いますよ。だけどその6%の中に原子力発電を動かしたらそれが向上するような要素があるようにミスリードしてるでしょ。
電事連 いや、そういうつもりはないです。
── じゃあ、どういうことなんですか?
電事連 申し訳ないですけど、繰り返しになりますけれども、リサイクルできるという観点で自給率が上がると……。
── リサイクルというのは一般的には再利用ですよね、言葉の意味からして。原子力発電所における燃料の再利用というのはいったん原子力発電所で燃やしたウランの中からプルトニウムをごみとしておけないからウラン燃料と混ぜてプルサーマルで燃やすと、そういうことではないんですか?
電事連 おっしゃる通りです。
── それはリサイクルとは言いませんよ、社会的通念から言えば。そもそも、今ある古い原子力発電所はプルサーマルを想定して作られていますか?
電事連 そこはしっかり審査いただいて。
── いえ、違います。私がお尋ねしているのは設計時にですよ。作る時にあの炉の中で燃やす燃料はその中にプルトニウムが入るということが想定されて設計されていますか?
電事連 そこはしっかり審査をいただいて使えるということで。
── 審査ではなくて、設計の段階であの炉はもともとウラン燃料を燃やすということを前提に作られた炉ではないのですか?
電事連 いや、そこは審査をいただいて。
── 審査じゃない。私が聞いてるのは審査ではなくて設計の話を聞いてるわけですよ。メーカーが設計時にどういうものを作ろうかということを聞いてるわけですよ。
電事連 はい。既存の炉でも使えるということは確認いただいてます。
── 事後的にでしょ。最初に売る時に、自動車に例えたら「この自動車はガソリンと軽油と両方入れて走れます」と売ってる自動車ないですね。それと似たようなことなさってるんじゃないですか。
電事連 そこはまあ審査いただいて。
── いや、設計時にメーカーがあくまでもウラン燃料を燃やすということを前提に作られていたものを、審査基準というものがプルサーマルするために追認をしているというのが事実関係ではないのですか?
電事連 はい。
── そうですね?
電事連 はい。
── ということは先ほど私が申し上げたように、「この車にはガソリンと軽油を入れて使えます」という車を売っていないのにガソリンと軽油を入れて使っていると。ガソリンと軽油を入れたってすぐには爆発しませんよ、車だって。
電事連 うーん。
── そういうことですね?
電事連 ただまあ安全性を確認いただくために、しっかり審査を受けて然るべき手続きを取ってやってるということにはなりますけれども。

◆安全対策を講じたらそれで絶対に事故が防げるんですか?

── その審査というのはどなたがなさっているのですか?
電事連 ……どなたというと……。
── 今だったら原子力規制委員会ですか?
電事連 はい。
 

 
 

 
── その前だったら保安院(原子力安全・保安院)。
電事連 はい、そうです。
── でも福島第一原発の3号機爆発したでしょう。黒煙揚げて。福島でプルサーマルやってたのは3号機だけですね? 1号機、2号機、4号機、それぞれ違う理由で爆発しましたけれども、黒煙を上空高くまでドーンと飛んでいったの3号機だけですよね。
電事連 はい。
── あれでも安全という審査なわけですね?
電事連 福島第一原子力発電所事故以降は電力会社としても様々な安全対策を講じてますし。
── 講じたらそれで絶対に事故が防げるんですか?
電事連 そこは常に安全を追い求めていくと言いますか……。
── 違います。私の質問は「絶対に防げるんですか?」ということです。
電事連 事故が起こらないように日々努力して行くということ以外にないと
── 違います。「絶対に防げるんですか?」とお尋ねしているのです。
電事連 そこは常に安全を求めていくということ。
── だから防げない訳でしょ、「求める」ということは。常に安全を求めるということは、安全を100%保証できるということではないということでしょう。保証するわけではないでしょう。
電事連 …………

◆ウラン燃料を輸入してるわけでしょ? 

── でね、この広告の欺瞞はやはり許せませんよ。なぜかというと私たちの電気代からこれ出てる訳ですよね、電事連が広告を出すのは。電事連というのは電気事業連合会、だから全国10電力の連合体ですよね。そこがこういう広告を出すわけですよね。「私たちが知っておきたい数字です。エネルギー自給率6%。」これどうやったら上がるんですか?
電事連 上がるというのは?
── 6%が深刻だということを知っておきましょうということでしょ。そりゃそうですよ、エネルギー自給率が低かったら心配ですよ。そこの説明の文章を見ると原子力発電所を動かせばこの問題が解決できるというような解説がなされてますよね。本当にそうなんですか?
電事連 そこはちょっと冒頭申し上げた話の繰り返しになってしまいますけれども、原子力を再稼働させる、それだけではなくて再生可能エネルギーの投入拡大ですとか、そういったものをいろいろやっていくということにはなるとは思いますけれども。
── そんなこと書いてないじゃないですか! この文章に書かれているのは、原子力発電所の停止によってわずか6%まで落ち込んでいます、と。そのことだけ書いてあって「再生可能エネルギーを増やしましょう」というようなことは一言も書いてないですよ。この広告の意図はその文章で明確です。ですから、広告であっても嘘を書かないでください。あなたがおっしゃったように、原子力発電所の原料は輸入に頼ってる訳でしょう。6%の中に入ってないわけでしょ。エネルギー自給率の。
電事連 原子力がってことですか?
── ウラン燃料を輸入してるわけでしょ。
電事連 はい。
── だから自給してるわけじゃないですか。違うんですか?
電事連 そこはすみません。お客様と私が申し上げてることは、ちょっと繰り返しになりますけれど、食い違ってることがあると思うので。 (後編につづく)

◎[参考動画]エネルギーバランス(電気事業連合会2017年2月13日公開)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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