私の内なるタイとムエタイ〈43〉タイで三日坊主! Part.35 体調回復!

我々が泊まったクティとこの地域を走るトゥクトゥクが停車中
ノンカイでの托鉢を撮って貰いました Photo by Nate Badenoch

◆油断大敵!

昨日(12月20日)の祭りのソムタム(唐辛子入りパパイアサラダ)が効いた。元に戻ったどころではない。深夜から何度トイレに行ったことか、発熱に下痢に嘔吐まで、より酷くなった。短い時は10分も経たないうちにトイレに向かう。寝返るだけで漏らすほどひどい。体調崩してから力付けようと何でも食べたが、昨日の祭りのソムタム、スイカは信者さんに勧められて食べたが、逆にダメだった。

朝4時の読経に行く前、汚れたサボン(下衣)を廊下のソファーの下に隠す。戻ってから外のタライに水を張って、そのサボンを浸して托鉢に向かう。

朝食はほとんど食えない。オカズをひとつ摘んで御飯をスプーンで2掬い口に入れただけ。昼食も全く手が出ない。美味しい肉野菜炒めもあるのに美味しそうに見えない。もうソムタムには絶対手を出そうとは思わない。こんな食べる量の少ない日は初めてだ。自分の体力が心配になってきた。朝食後は何とか洗濯を済ませてまた横になる。

昼以降、またネイトさんと藤川さんが仲良く市場へ買い物に行って、ミロと湯沸しポット買って来たらしい。早速お湯を沸かしてみるネイトさん。ちゃんと湯が沸く。日本製でもない頼りないものがしっかり沸いている。その湯でミロを作ってくれたので頂いた。

朝の読経で読まれます。ページは5ページほどあったかと思います

寝ながら見ていた、いつもと違う私のグロッギーな状態にネイトさんが薬をくれる。いつもは元気そうに立って歩いたから、そんな深刻に見えなかったらしい。あまり勧めたくない薬のようだが、あまりに青い顔で寝ている私に勧めてくれた薬だった。バンコクで買った薬らしい。

◆僧名、チャナラトーの意味!

そういえば2ヶ月前の私の得度式で僧名を頂いているのに、全く忘れていた。あの得度式の前、「堀田さんは“チャナ・オハルサン”だそうですよ!」と高津くんが言っていた。

「ウソだろ、和尚さんに頼まれて藤川ジジィが考えたのか、この野郎!!」と思った。私はタイの比丘らしい“アリアラッタノー”とか“プッタラッタノー”といったカッコいい僧名が欲しかったのだ。しかし得度式の後、ケーオさんから頂いた得度証明書に、“チャナラトー”と書いてあったので、あの時はそんな疑念も消えて嬉しかったなあ。

そんなことで夜、藤川さんらと話している時、僧名の話題になった。藤川さんは“チンナワンソー”という。手紙が来る度、この名前が書いてあったから忘れない。それでこの私の“チャナラトー”と僧名を言ってみたら、その意味をネイトさんが仏教辞書で調べて、「座禅組むのが好きな人」と訳すと、いきなり藤川さんが「よし、今日は3人で座禅組もう!」と言い出す。

朝食後、その場で読経となる経文、このページのみです

ああ、ネイトさん余計なことを。しょうがない、3人で座禅に入るしかない。

無言で座禅を組んで心を無にする。これは非常に難しいことである。

人間、何も考えないということは出来ない。いや、修行を積めば出来るのだろうが邪念が入るのである。

誰とも話していないとき、本を読むとかテレビを観るといった行為をしない時、必ず何かを考えてしまう。その邪念を振り払い続けて到達するのが“無の境地”なのだそうだ。

何かが頭を過ぎる。それを追ってしまう。それを振り払う。そしてまた次のことが頭を過ぎる。それを振り払う。“何も考えない”と思うと、そう思うことが頭を過ぎっている。それも振り払う。これを延々続けると、本当に何も頭を過ぎらない、無の境地になるのだそうだ。

無理だ。誰かが部屋に入って来た。バリカンで剃髪してくれたスアさん、石橋正次似の比丘である。「オッ、何かやっとるわい」といった感じで遠慮して出て行かれた。ということが頭を過ぎっている。藤川さんと同じで、女の子が夢に出て来るような、生臭坊主の私が悟りを開く訳が無い。座禅は30分ほどで格好だけで終わった。

市場に行った際のお店に立ち寄るネイトさん

◆薬が効いた!

その翌朝(22日)は鐘が鳴る朝までぐっすり眠れた。下痢が止まったのだ。ネイトさんから貰った薬が一発で効いた。タイの薬は強いのである。おそらく日本では厚生省の認可が下りない。でもとにかく治った。嬉しくてしょうがない。

托鉢はもう日数も無いし、元気が出てきた私は、ネイトさんに撮影をお願いしてみる。「私の姿だけ撮ったら帰っていいから」と言うと、本当に2枚だけ撮って帰られた。やっぱり人物撮りは難しく、知らない人に接近して撮ることは怖さがあるのだ。ネイトさんはビエンチャンではよくやってくれたと改めて思う。だから薬の御礼を含め、剃髪と得度式はしっかり撮ってあげようと思う。

朝食は御粥にすることを思いつく、ネイトさんが買って来た湯沸しポットでお湯を沸かしてもらっておいて、御飯にお湯かけて簡易御粥にするつもりだった。かなり昔、居酒屋で御粥を頼んだ時、キックボクサーの稲葉理さんが、「こんなもの、飯に永谷園のお茶漬け海苔とお湯ぶっ掛けただけだ」と言ってたことがあった。これだ、こんな程度でいいから御粥が欲しくなった。ネイトさんはお湯を持って来てくれたが、こんな日に限ってカオスワイ(白米)は無く、カオニアオ(もち米)だけだった。でも食欲も沸き、寒い時期の温かいお湯が優しくお腹に効いた。

◆家庭教師の存在感!

先日、ラオスから戻った後のネイトさんの出家願いに、プラマート和尚さんに御挨拶に行った後、倉庫部屋に戻ると、そこには17歳ぐらいのネーンが勉強(高校一般教科)していた。

元々彼の部屋だったようで、精悍な悪ガキぽい顔つきだが、優しい奴で、御丁寧に部屋を譲ってくれようとした。名前はバーレーという。ここでも我々よそ者が邪魔して悪いと思うも、そこで機転利かせたネイトさん。バーレーくんの臨時家庭教師となった。英語もイサーン語も出来て、大学出の学力があっては言うこと無しである。英語で問いかければ反応して食い付いて来る。こんな田舎で、いきなりアメリカ人教師登場の運命に驚きのバーレーくんだった。

そんな学業に励むバーレーくん達を見て、藤川さんはこの日、彼らの学校に見学に行った。夕方頃帰って来て語るその感想は、「ラオス(ビエンチャン)の学校の方は教材も足りんで、設備整っておらん分真剣にやっとるが、タイ(ノンカイ)の方は設備整っておる分、不真面目になって雑談が多いな。恵まれるとやっぱり乱れていくんかなあ」と言う。

しかし、バーレーくんはネイトさんを頼って勉強を教えて貰おうとやって来るようになった。今しかないチャンスを活かす探究心はラオスの生徒達と同じ心境だろう。こんなノンカイでもラオスでも頑張っている奴は多いのだと実感する。

ネイトさんが家庭教師を受けたバーレーくん
剃髪近いネイトさんとその演出を考えた藤川さん

◆意義ある剃髪へ!

我々は明日23日の夕方頃、ネイトさんの剃髪をすることに決定。私がカメラマンを務めることで、藤川さんが演出に凝りだす。

「場所はメコン河をバックに土手の上、バリカンは断ってカミソリでやって貰おう」とスアさんにお願いすると快く了承して頂いた。

その前準備に、ネイトさんは親代わりをお願いしているオバサンを呼ぶか迷っていた。なかなか多忙な方だからだそうだ。

藤川さんが、「剃髪にオバサンがハサミ入れなかったことが後で心に引っ掛かるようならタクシー代100バーツ掛けてでもオバサンに会いに行ってお願いした方がええんちゃうか」と言うと決心し、明日行くことにしたようだった。

体調復活した私はまたカメラマン魂が沸いて来て撮影体勢に入っていくのでした。
 
▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」
 

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囁かれる政界入り 貴乃花の逆襲が始まった! 貴ノ岩の日馬富士民事提訴は、角界改革の手はじめである


◎[参考動画]貴乃花親方が退職届提出 傷害事件の告発状巡り(KyodoNews 2018/09/25公開)

突然の親方引退と部屋の移籍、そして日馬富士氏の断髪式を待っての民事訴訟。これらは計画された戦術だったのだ。千賀浦部屋に移籍した貴ノ岩が、かりそめにも父親代わりである千賀浦親方に何ら相談することもなく、総額2400万円の損害賠償事件の民訴を行なったのである。

弁護士事務所は貴乃花氏の代理人と同じであることから、貴乃花氏の意向がつよく働いているのは誰の目にも明らかだ。そしてこの民事訴訟のねらいは、損害賠償金が目的ではないのも明白だ。なぜならば、あまりにもかけ離れた金額(日馬富士氏側は50万円)では、そもそも和解調停が不可能だからだ。

では、いったい何のために判決まで引っぱる訴訟を起こしたのか。これも少し考えればわかることだ。貴乃花氏の突然の「引退」の謎も、そして角界から身を引いた彼が何をしようとしているのかも、ほの見えてきたというべきであろう。

◆貴乃花告発状の真否を争う裁判に

和解調停が不可能であれば、証拠調べ・証人尋問と公判が開かれることになる。その最大の証拠が、貴乃花氏が内閣府に提出した「告発状」なのである。この告発状は弟子の暴行事件でいったん取り下げられ、さらには大相撲協会の危機管理委員会によって、事実ではないと否定されたものだ。

貴乃花氏が「引退」する契機になった「日馬富士暴行事件の事実関係」の真相が「告発状」にあると言っていいだろう。その真否をめぐって、暴行事件の関係者たちが、偽証のゆるされない法廷で証言をしなければならないのだ。

白鳳をはじめ、現役力士たち、さらには教会関係者の出廷を強いる。これほど効果的な大相撲協会への揺さぶりはないだろう。そして事実関係が白日のもとに晒されれば、貴乃花氏が引退する理由となった危機管理委員会の報告書、すなわち大相撲協会の屋台骨がゆらぐことを意味する。その先にあるものは、大相撲の大改革である。

◆囁かれる政界入り

それにしても、貴乃花氏は角界をみずから引退しているのだ。協会内でほぼ完全に孤立していたとされる貴乃花氏が、いったいどうやって大相撲協会を改革できるというのだろうか。ここで、ある噂がにわかに信憑性を帯びてくるのだ。

そう、一部のマスコミで囁かれている貴乃花氏の政界入りである。すでに一部の報道では、来年の参議院選挙への出馬をと、自民党が声をかけたとされている。もともと「相撲は国体のために」などと口にしてきた貴乃花氏である。

この国体とは国民体育大会ではない。天皇を象徴にいただく国家のあり方という意味である。国の中心に天皇を据える国体思想はすなわち、天皇の元首化を明文化すること。つまり自民党が政治日程に上せようとしている改憲である。

 
元大鳴門親方『八百長 ― 相撲協会一刀両断』(1996年4月鹿砦社)

自民党が貴乃花氏を改憲運動の看板にしようとするのは、火を見るよりも明らかだ。そうやって政治利用されることに、貴乃花氏もある重大な決意で大相撲協会の改革を政治家として行なおうとしているのではないか。

◆高鐵山いらいの告発も?

もともと貴乃花氏は、現役時代にある告発をもとに引退を決意したことがある。それは兄弟対決となった、95年11月場所の「八百長」をめぐって、それをやらせた父への告発を一冊の本にしようとしていたのだ。版元の社長の判断で原稿は日の目を見なかったが、ガチンコが身上の貴乃花氏ならではの決意だったといわれている。

これまでにも、高鐵山の元大鳴戸親方が大相撲協会および北の富士氏を告発した『八百長―相撲協会一刀両断』(元大鳴戸親方、鹿砦社刊)がある。みずからの八百長体験で実態を暴露した元大鳴戸親方は、後援会長とともに不幸にも事件性の高い事故で亡くなっている(一部には謀殺説も)。改革の夢やぶれて大相撲協会から身を引いた形の貴乃花氏だが、外側からの改革に政治家として乗り出す。じつはあの「引退」劇も、計画として戦術だったのだろう。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)

著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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金明秀教授暴行問題について関西学院大学から新世紀ユニオンへ調査委員会設置などの回答 鹿砦社はさらなる激烈な戦術選択を宣言! 鹿砦社特別取材班

8月2日に新世紀ユニオンと関西学院大学側で行われた、団体交渉の合意事項を受けて、関西学院大学から新世紀ユニオンに9月22日付けで回答があった。ユニオン側から提出を要請した就業規則などの6種の規定の文面と、調査委員会には大阪弁護士会所属の弁護士が就任する旨が伝えられた。調査委員の選任はまだ完了していないが、新世紀ユニオンの角野委員長は、団交の際に調査委員会に第三者を入れることを要請したのに対して、第三者のみで構成される調査委員会の発足が回答されたことに対して、前向きに評価している。

関西学院大学が調査委員会に中立であることが期待できる、弁護士を登用し、第三者委員会を立ち上げることは、公平な調査が行われることへの期待抱かせる。大学側も真剣にA先生暴行事件の調査に、遅ればせながら取り組む姿勢を明らかにしたものといえよう。ユニオン側は回答を得て、質問と要望を大学に送付した(その内容は現時点では明らかにできない)。

金明秀(キム・ミョンス)関西学院大学教授が2016年5月19日、ツイッター上でM君に向けて行った書き込み。金教授の問題はA先生への暴行事件だけではない!

ユニオン側並びにA先生は、いたずらに争議を騒ぎ立てるつもりは全くなく、A先生が金明秀教授から受けた被害の回復、と適切な処分を求めているに過ぎない。関西学院大学も団交の中で、その要求の正当性を理解したと思われるので、今後調査員会が誠実な調査を実施し、適切な判断が下されることを取材班は見守りたい。金明秀教授の問題は、A先生への暴行事件だけではないので、関西学院大学が妥当な判断を下すことを期待する。

ところで、A先生の件とは別に、取材班ならびに、鹿砦社は“10・19M君の対5人裁判控訴審判決”を控え、ここに重大な最終的かつ新たな法廷内外での激烈な闘争に決起したことを読者の皆さんにお伝えする。「M君リンチ事件」を端緒に、この3年近く、取材班並びに鹿砦社は「対しばき隊」言論戦に、否が応でも直面せざるを得なかった。いうまでもなくM君の被害回復と加害者(事件への直接の加害者にとどまらず、M君を事件後セカンドレイプ的に攻撃した勢力)への、一定の責任追及を5冊の出版物を編纂する中で、その判断を世に問うてきた。初期にはほとんど著名人からの反応はなかったが、のりこえネット共同代表の前田朗東京造形大学教授が『救援』紙上で、旗幟を鮮明にされて以降、元読売新聞記者の山口正紀さんほか、名前は出せないが(つまり著名で、しばき隊のそばにいる人物たち)知識人・ジャーナリストからの支持が広がっていった。

私たちの戦線は、M君の対5人裁判を軸に、対野間易通裁判、鹿砦社が原告となった対李信恵裁判へと展開し、李信恵も鹿砦社を訴えてきた。ここに至り、取材班ならびに鹿砦社は、読者諸氏の想像が及ばないであろう、戦術を闘争の武器として採用することを決断した。このかん鹿砦社を舐め切った態度で、罵詈雑言を浴びせていた諸君や、鹿砦社に後ろ足で砂をかけた記憶のある諸君は覚悟して、“その時”を待つがよい。これまで取材班は数度にわたり「闘争宣言」を発してきたが、そのたびになんらかの驚愕的事実の暴露や、衝撃を誘う行動に実際に踏み出したことを想起されたい。

われわれは揺るぎない決意で、ルビコン川を超えた!

取材班はいつまでも「しばき隊」のお守りをするつもりはない。彼らの本質が既に相当程度明らかになった(=取材班は成果を確認できた)ので、M君の対5人裁判判決後、今後の方針を検討したのち、しかるべき時期に取材班は、発展的転身を遂げるであろう。しかし、その前に社会的正義に照らして、容認することのできない人物や行為には、きっちりケジメをつけておく。たとえ相手がどのような職業・肩書の人物であろうとも!!

そして再度認確する。取材班と鹿砦社はあらゆる差別に原則的に反対であることを。

(鹿砦社特別取材班)

《関連記事》
【緊急報告!】8・2金明秀暴行&不正問題で関西学院大学と被害者A先生が加盟する「新世紀ユニオン」との団交行われる! 関学側「調査委員会」設置を約束?(2018年8月4日)
【金明秀教授暴力事件続報!】関西学院大学に質問状送付! (2018年7月4日)

M君リンチ事件の真相究明と被害者救済にご支援を!!

第4次安倍改造内閣 黒い人脈に絡む〈お友だち内閣〉瀕死モードで新たな船出

 
安倍晋三総裁選特設サイトより

自民党幹部からも「軽量級安売りセール内閣」と揶揄されている第4次安倍改造内閣である。7期・8期組の、いわゆる閣僚登用待ちがその大半であるがゆえに、実力派ではなく派閥の数あわせとなったからの揶揄だ。とはいえ、筆者も直接知っている自転車議連でネトウヨの原田義昭環境相(福岡)や渡辺博道復興相(千葉)など、「地道に下働き(笑)」をしてきた苦労人も多いのは事実で、地味だから「軽量級」などと揶揄するのはいかがなものか。むしろ問題なのは、甘利明元経済再生相を党選挙対策委員長に、下村博文元文部科学相を党憲法改正推進本部長に起用したことだろう。あいかわらずの「お友だち人事」である。

 
衆議院議員甘利明Official Webより

◆黒い人脈のお友だちを党の中枢に

甘利明選挙対策委員長はUR(独立行政法人都市再生機構)への口利き疑惑で建設業者(任挟系右翼)から100万円の現金、下村博文本部長も加計学園から200万円の闇献金疑惑がある。

甘利氏の疑惑は、わずか2年前の2016年のことである。柏市にある建設会社「薩摩興業」が道路建設をめぐって甘利氏に口利きを依頼し、総額1200万円の現金提供や接待を受けたと「週刊文春」が報じたものだ。このうち、大臣室での50万円と地元事務所への50万円が事実として認定されるも、けっきょく不起訴になっている。

「良い人とばかり付き合っていると、選挙に落ちてしまうんです」という名ゼリフを残して大臣を辞任したのは記憶に新しい。ところが、この件の不起訴をもって、甘利氏は「禊ぎは不要」と記者会見では開き直った。そもそも、この薩摩興業なる建設業者の社長が元稲川会系の任挟ヤクザで、右翼団体の代表なのである。この黒い人脈こそ、俎上にのぼせられるべきであろう。

 
衆議院議員下村博文公式WEBより

◆政治資金規制法違反の「博文会」

いっぽうの下村博文氏は、上述した加計学園からの闇献金とは別に、後援会組織の「博文会」に政治資金規正法上の問題がある。この博文会は関係者が学習塾を経営する教育関係者だが、政治家の講演会として、下村氏への事実上の政治献金にあたる会費(懇親会など)を徴収しながら、政治団体登録をしていないのだ。

政治資金規正法は「特定の公職の候補者を推薦し、支持し、又はこれに反対することを本来の目的とする団体」は政治団体となり、届け出をした上で毎年、政治資金収支報告書を提出する必要がある。下村氏の「博文会」がこれに違反するのは誰の目にも明らかであろう。

さらにその支持者のうち、やはり反社会勢力に近いとされる塾関係者が名を連ねていることが、国会で野党から指摘された。「何が問題なのですか?」と逆に質問するなど、厚顔無恥ぶりを披瀝したものである。

 
安倍晋三総裁選特設サイトより

◆女性閣僚がわずか一人

記者会見では「日本の女性活躍はスタートしたばかりなのです」「片山さつき(地方創生)大臣は、女性ふたり分」などと、さすがに糊塗しなければならなかったが、それは自民党の「女性活躍」であって、日本のではないはずだ。

野田聖子元総務相(女性活躍担当)からも、今回の人事における女性軽視はあきれられる始末だった。「女性活躍担当」や「少子化対策」などの役職はなくなってしまい、庶民の子育ての苦労は絶えなくなるようだ。そのじつ、シビリアンコントロールを果たせなかった稲田朋美元防衛相、つまり安倍チルドレンで将来の女性宰相候補を筆頭幹事長に据えるなど、お友だち人事はここでも発揮された。

◆無理がありすぎる改憲

安倍総理が意欲をみせている改憲についても、少しだけ触れておこう。このかん、自民党憲法改正草案を親しい憲法学者と検証したところ、現行憲法の前文を取っ払ったことで、改正草案は明治憲法よりも封建的な内容であるとの指摘をいただいた。ルソーの社会契約説など近代法の理解がないまま、たとえば社内就業規則のようなものになっているというのだ。自民党の草案が近代法ではないとしたら、安倍の9条加憲論は「ただし書き(例外規定)」を設けることで、自衛隊の合憲を担保するものだ。この「ただし書き」が憲法条文そのものを掘り崩してしまうと考えられる。つまり一般法令のように例外規定をもうけて、法律の柔軟な運用を目的とする「ただし書き」は、憲法には馴染まないのだ。この憲法論の一知半解が暴露されるのは、そう遠くないはずだ。


◎[参考動画]安倍改造内閣が発足(ANNnewsCH 2018年10月2日公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)

著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

衝撃満載!月刊紙の爆弾10月号
横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

熊本「琉球の風 島から島へ FINAL」台風24号接近で無念の開催中止

 
実行委員長の山田高広さん

「残念だったですね」、「せっかくやったのにね。台風じゃ仕方ないわ」異口同音に台風24号の直撃を受けた九州・熊本で9月30日に開催が予定されていた「琉球の風 島から島へ FINAL」の中止を惜しむ声が聞こえた。

実行委員会ではギリギリのタイミングまで開催の可否の判断を待ち、いったんは「開催」をアナウンスするも、諸般の事情から直後に「中止」を決断した。実行委員長の山田高広さんは「きつかったですよ、本当に」と「中止」決断に至るご苦労が並大抵ではなかったことを語っておられた。

「琉球の風」には沖縄在住のミュージシャンと、本州はじめ熊本から見れば、北の方向からやってくるミュージシャンたちも参加する。沖縄から参加するミュージシャンたちはすでに9月27日から熊本入りしており、30日を迎えたが、他の地域から参加予定のミュージシャンたちには28日に「中止」決定が伝えられた。

本来であれば「打ち上げ」の場となるはずの熊本市内某所で、9月30日夕刻に関係者だけの「ミニ琉球の風」が開かれた。例年は本番のステージで活躍したミュージシャンのほとんどが参加するので、スタッフの方々の中には打ち上げに参加できない方もいるが、今年は多くの関係者スタッフの皆さんが会場を埋めた。

知名定男さんを囲んで

打ち上げというには本格的な「ミニ琉球の風」。本番で司会の予定だったはミーチュウさんと岩清水愛さんが揃い、「それでは第10回琉球の風をただいまから行います!」と元気の良い開会宣言からはじまった。この日はネーネーズ、新良幸人、島袋優、下地イサム、知名定男さんらがソロやセッションを繰り広げた。

中止になろうが、なるまいが、今年是非この人にお話を聞きたい、と事前から私的には期待していた人がいる。BEGINの島袋優さんだ。島袋さんはBEGINとしての活躍はもちろん、他のミュージシャンに楽曲を提供したり、例年「琉球の風」では大物であるにもかかわらず、気楽に誰とでもセッションに応じていた。ベテランなのにステージ上でのMCはどこかシャイで、偉そうにするところが全くない(実は酔っているためだったのではないかとも思われるが……)。

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BIGINの島袋優さん

島袋優さんにお話を伺った。

── 「琉球の風」に島袋さんは何回出演していただいたのでしょうか?

島袋 何回でしょかね。細かいことは覚えていないんですけど、BEGINで2回でて、それ以外に数回出ているのでたぶん5回くらいじゃないでしょうか。

── 27日から来られて、きょうはあいにくステージは中止でしたけれども、他のミュージシャンの方と数日間過ごされて、どんなことを感じていらっしゃいますか。

島袋 きょうはできなかったけど、俺が大尊敬する定男さん。しかもちょっとキュートな知名定男に「優、お前俺がこういうことを企画しているからやれ」っていわれて、それから始まったんです。中止になっても定男さんと亡き東濱さんと山田さん(実行委員長)の気持ちが絶対に残っているんですよ。こうやって飲んでで僕らいいんだろうか、とも思うんですけど、じゃないとダメだなと思ったんですよ。初日から定男さんと飲み、2日目はキヨサク(MONGOL800)と飲み、みたいな。イベントが無くなったのは凄く残念です。とくにお客さんに対して申し訳ない。でもうまく言えないんですけど「なにかもう一回お前たち考えろ」って言ってくれてるのかもな、という気はなんとなくしています。俺たちは知名定男さんっていう大先輩に甘えていて。それを「もう少し楽させてあげろや」って言われているのかなとか、いろんなことを考えますね。でもね、正直なことを言ったら多くを語れません。俺は付いていくだけです。熊本の皆さんの沖縄の音楽に対する熱意とかは、年々感じていました。だから仲良くなっていくしこうやって毎年熊本で「琉球の風」という名前でやってくれているのは凄いと思います。

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知名定男さん

お名前が何度も登場した知名定男さんは、昨年大腸がんの手術を受けてからのご参加で、体調もいまひとつ優れないご様子だったが、今年は常に泡盛の入ったグラスを片手に「いやーもう元気になったよ。去年が嘘みたい」とふっくらしたお腹周りが体調の良さを伺わせていた。

ミュージシャンではなくても沖縄には酒に強い人が多い。そして私の知る限り、ミュージシャンの飲み方は豪快である。だから沖縄のミュージシャンの宴はなかなか終わりを迎えはしない。そのためであろうか、あるいは偶然か。30日晴天であれば行われる予定であった「琉球の風」にはたしかに「FINAL」の文字がったが、宴(?)の中では「きょうは残念だった」と皆が口にしたけども「『琉球の風』が終わってしまって残念だ」、「いいイベントだったのにね」と過去形で振り返る言葉を耳にした記憶がない。わたしの勘違いかもしれないが「これで最後」という雰囲気がどこにも感じられなかった。

 
ネーネーズの皆さん

もちろん「FINAL」だったのだから、これで今までの「琉球の風」は終焉を迎える。しかしまた新しい風が琉球から吹いてこないとは限らない。ミュージシャンたちはお世辞ではなく、このイベントを楽しんでいた。島袋優さんのお話にも「これでおしまい」のニュアンスはなかった。

10年も非営利目的でボランタリーに運営にかかわって来られたスタッフの方々には、ただただ頭が下がる思いで、「お疲れ様でした」と申し上げるほかない。けれども「琉球の風」で初めて訪れて出会った熊本の人々の個性豊かさと力強さからは、また何か新しいものが産まれてくるのではないか、との予感を禁じ得ない。

雨天中止で残念ではあったが、それゆえに発見もあった第10回「琉球の風」であった。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

「琉球の風2018 FINAL」幻の記念グッズセットをデジ鹿読者にプレゼントします!

上記写真のエコバッグ(版画=名嘉睦稔、題字=龍一郎、鹿砦社提供)とシート、パンフレットは
毎回「琉球の風」の会場で先着1000名様にプレゼントしている記念グッズセットです。
今回は台風24号接近で無念の開催中止となったため、幻の記念グッズとなりました。
そこでデジタル鹿砦社通信の読者の方々にプレゼントさせていただきます。
ご希望の方は「琉球の風グッズ希望」と明記の上、郵便番号・住所・氏名を記載し、
下記メールアドレスにお申し込みください。
matsuoka@rokusaisha.com
10月10日までにお申し込みの方には全員、送料無料にて発送いたします!
(鹿砦社代表・松岡利康)

第1回~5回までの記録『島唄よ、風になれ!~「琉球の風」と東濱弘憲』特別限定記念版(DVD映像付き)。こちらもぜひご購読お願いいたします。

《殺人現場探訪18》大教大池田小児童殺傷事件 惨劇をしのばせる厳重な防犯体制

社会を騒がせた殺人事件の現場を訪ねると、事件から何年も経っているのに、惨劇をしのばせる形跡を目の当たりにすることが少なくない。2000年代初めに社会を震撼させる大量児童殺傷事件が起きた、大教大付属池田小学校(以下、大教大池田小)を訪ねた時もそうだった。

大教大付属池田小学校旧正門を入ったところにある「祈りと誓いの塔」。追悼式典では現役の生徒が鐘を鳴らす
学校の外壁には鉄線が張り巡らされている

◆児童8人が刺殺された

「死刑になりたかった」

犯人の男が凶行に及んだのは、そんな身勝手な動機からだった。2001年6月8日の朝、大阪府池田市の無職、宅間守(当時37)は、自宅マンションの近くにある大教大池田小に侵入し、出刃包丁で次々に児童8人を刺殺。他にも児童13人と教員2人を刺して傷害を負わせた。

現行犯逮捕された宅間は、大阪地裁であった裁判でも「幼稚園ならもっと殺せた」と言い放つなど不遜な態度に終始。2003年8月に死刑判決を宣告されると、弁護人が大阪高裁に行った控訴を自ら取り下げ、死刑を確定させた。そして翌年9月、死刑の確定から1年に満たない異例の早さで、死刑を執行されたのだった。

◆外壁には鉄線、侵入者を威嚇するような防犯カメラ

校内に設置された防犯カメラ

私がそんな大事件の現場となった大教大池田小を初めて訪ねたのは、2015年6月7日のこと。その翌日は事件から14年の追悼式典が開かれるということで、旧正門を入ったところには、「祈りと誓いの塔」というモニュメントの周囲に参列者用のテントが張られ、パイプ椅子が並べられていた。

そんな大教大池田小で、私が目を奪われたのは、小学校らしからぬ厳重な防犯体制だった。学校の外壁は、部外者の侵入を困難にするために鉄線が張り巡らされ、校内にも侵入しようとする者を威嚇するかのように防犯カメラが設置されていたのである。

小学校というと、休日でも校門が開けられているような無防備なところも少なくない。しかし、この大教大池田小では、何年経っても学校関係者たちがあのような惨劇を2度と起こしてはならないという強い思いを持ち続けているのだろう。

今年の6月で、事件から17年。大教大池田小は今も毎月8日を「学校安全の日」と定め、避難訓練を実施するなどしているという。


◎[参考動画]クローズアップ現代+【傷ついても、きっと歩きだせる~附属池田小事件 15年目】6月8日 2011年度日本記者クラブ賞受賞(rudolph gunnel 2016年9月17日公開)

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

《鼎談》排除の歴史と闘うための書籍『手話の歴史』/映画『ヴァンサンへの手紙』〈3〉ろう者の人権尊重や本当の意味での「選択の自由」を求めて

映画『ヴァンサンへの手紙』(レティシア・カートン監督)(C)Kaleo Films

聞こうとする心があるなら、耳が聞こえなくても
何の問題があるのですか。本当の「聾」、
癒しがたい「聾」とは、聞こうとしない閉ざされた心を言うのです。

2018年6月に刊行された、フランスに生まれアメリカに渡ったろう者教師ローラン・クレールの語り形式による大河物語のようなノンフィクション『手話の歴史』(ハーラン・レイン著:築地書館)。上の言葉は、エピグラフとして記された、文豪ヴィクトル・ユーゴーがろう者フェルディナン・ベルティエに贈ったものだ。これは、10月13日よりアップリンク渋谷ほか全国で順次公開されるドキュメンタリー映画『ヴァンサンへの手紙』(レティシア・カートン監督)にも共通するメッセージであり、テーマ。いずれにも、手話という大切な言語を奪われているろう者たちの苦悩や怒り、悲しみ、そして手話を用いる喜びや手話表現の美しさなどが描かれている。

 
 

筆者自身は、小学生の時に手話の五十音や簡単な数の数え方のみを覚え、現在の活動では現場や集会などでろうの人に出会うこともあるという程度。しかし、上記の作品を通じ、初めて手話の背景や排除、闘いの歴史を知り、より多くの人にも知ってもらうことを願っている。また、これらの作品は、言語とは何か、コミュニケーションとは何か、表現とは何かをも問うてくるのだ。

今回、『手話の歴史』を訳した斉藤渡さんと監修・解説を担当した前田浩さんに、『ヴァンサンへの手紙』をアップリンクと共同で配給する「聾の鳥プロダクション」の牧原依里さんから、第2回 手話を禁じた「ミラノ会議」の影響に引き続き、お話を聞いて(見て/読んで)いただいた。第3回である今回が、最終回となる。

◆従来の医療モデルを壊し、ろう者のあるがままを認める運動を

 
「聾の鳥プロダクション」の牧原依里さん

牧原 フランスでは、聴者が手話を学びたいと思ったら、ろう協会が主催している手話講座を受けることができます。また手話通訳者になるための大学もあり、手話通訳者の育成システムが整備されている。手話が言語であることが尊重されている印象があります。日本では、聴者が手話サークルで学び、通訳者になる道がほとんどです。

また日本では聴者が手話の指導を進めている部分がありますが、フランスでは手話指導はろう者自身が進めていくものという考え方が一般的です。

前田 日本のろう学校で手話を使ったり学んだりする環境はできてきてはいますが、きこえない子どもたち自身が成長した時に、地域や職場で手話を教えたり説明したりできるようになるためのカリキュラムが組まれていないのが実状です。

学校を卒業した彼らが、地域で手話講習を担当するには、手話言語に関する技術面・知識面でまだまだハードルが高いと感じます。

斉藤 映画では、ろう者のステファヌが手話を教育する際、単語だけを教えるのでなく、目線の話をしたり、身体表現としての視覚言語の大切さを伝えたりしていましたね。

牧原 フランスの手話は図像性が強いのが特徴。目でみて分かるというのが大変魅力的ですね。さて、今までの話に出てきたように、ろう者と社会の間で様々な問題が起こっていますが、この問題をいわゆるマジョリティの聴者に関心を持っていただくにはどうしたら良いのか。聴者の斉藤さんにお伺いしたいです。

 
『手話の歴史』を翻訳した斉藤渡さん

斉藤 難しいですね。地道に努力し、具体的な場所で、その事情に合わせてやっていくしかありません。私は聴者とろう者双方の話を聞き、互いをつなぐという支援が仕事です。よい例があれば、それを広げていくということかな。私は大学3年生で初めて聞こえない人や聞こえにくい人と出会い、その人たちや聞こえるほかの仲間と一緒に、どうしたらお互いが通じ合えるのかを考えることから始めました。手話の使用についても悪戦苦闘。でも、お互いがつながるために手話がありました。また、京都の左京区の手話サークルに通うなかで前田さんとも出会いました。これらの経験が人とのつながりを考える基本となり、聞こえない人との関わりと自分自身とは切り離せないものになったのです。

牧原 なるほど、人とのつながり。斉藤さんと映画の主演でもある聴者のレティシア・カートン監督に共通点がありますね。自分にとっての身近な人をテーマに撮影すると監督はおっしゃっていた。そしてレティシアとヴァンサンがつながるために手話があった。斉藤さんも、さまざまな方々との出会いで、耳が聞こえない人との関わりが人生の一部になったのですね。そしてやはり、「電話リレーサービス」などが普及すれば、より生活はスムーズになり、また聴者との交流も拡大していくのかもしれません。そこで、日本のろうコミュニティの未来は、どのように変わっていくとお考えでしょうか。

 
『手話の歴史』の監修・解説を担当した前田浩さん

前田 昭和60年代から平成にかけては、様々な法改正の取り組み、そして手話通訳の制度化という差し迫った運動課題がありましたが、そうした中で手話の国民的認知が広がっていきます。地域の小中学校で手話の歌が歌われたり、さまざまな場面に手話通訳が派遣・配置されたりしていったのです。  

しかし、真の意味でろう者の生活のクオリティが飛躍的に向上していったか、ろう者自身の言語意識が高まってきているかを考えるとき、福祉の文脈をはじめ、ろう者がどこで生きていこうにも伸びやかに生活できる土壌が必要です。映画『ヴァンサンへの手紙』にもありましたが、手話を用いる言語的マイノリティとして、同時に、日本語をもちいる生活者としてろう者を理解してほしいということです。

医療モデルという問題で、現在進行中の大きな問題は、人工内耳の装用者が急速に増えてきていることです。これは、以前に耳鼻科の高名な先生がおっしゃっていたことですが、日本の耳鼻科は、アメリカの外科医学の「有効と判断すれば外科的手術に躊躇はしない」という考え方の流れの影響を受けている部分があるとのことです。人工内耳に関しては、さまざまな生活上の制限や身体に残る手術痕等のことが指摘されてきたのですが、幼い子どもに人工内耳のオペを受ける判断の基本もなく、自己決定権が十分でない状況の中で、保護者に決断が迫られるわけです。

大学医学部の研修カリキュラムの中で、ろう者だけではないですが、様々な障害者当事者からじかに学ぶ研修をきちんと入れていく必要があると思います。障害者当事者と数日間、ともに共同の作業なり取り組みを行うプログラム等、企画はいくらでも可能ですから。

ただ単に理解してほしいと訴えるのではなく、さまざまな分野の方々に「一緒に勉強しませんか」と呼びかけていくスタンスが大切ですね。

斉藤 「与えることは奪うこと」ということについて、考えなければなりません。育児や教える場において、何かを与えることは、それ以外のことを与える機会を奪うことになります。また、手話を学ぶ機会や方法は増えていますが、手話通訳者が育成されているとはいいきれません。私たちの時代のように、ノウハウを自ら探さなければならなかった状況とは異なっています。家庭でも学校でも、機会を与えることは、自ら挑むという経験を奪うことになりはしないか。このような親や教師の限界を自覚していないと、マジョリティは独善的になります。

前田 同感です。

牧原 確かに。聴者がろう者を治そうとする。『手話の歴史』でも頻繁に出てきた、悪気ないその「善意」をろう者に与えることで、ろう者は「ろう者らしく生きることを奪われる」という解釈もできます。

私自身、将来は口話が主流となるろう者がさらに増え、手話を用いる人が「遺産」となってしまうのではないかという危機感を抱いています。そんな中、『手話の歴史』や『ヴァンサンへの手紙』はろう者が今まで生きてきた歴史を受け継いでいく、重要な役割を背負っている大切な作品といえると思います。
本日は、ありがとうございました。(了)

ハーラン・レイン『手話の歴史 ろう者が手話を生み、奪われ、取り戻すまで』(上/下)翻訳=斉藤渡、監修・解説=前田浩(築地書館2018年6月刊)


◎[参考動画]ドキュメンタリー映画『ヴァンサンへの手紙』(レティシア・カートン監督)(C)Kaleo Films
配給:アップリンク・聾の鳥プロダクション、宣伝:リガード
監督:レティシア・カートン、主演:ヴァンサン、ステファヌ、サンドリーヌほか
112分/2018年10月13日(土)よりアップリンク渋谷ほか全国順次公開

◎《鼎談》排除の歴史と闘うための書籍『手話の歴史』/映画『ヴァンサンへの手紙』(全3回)
〈1〉『手話の歴史』翻訳本誕生の背景
〈2〉手話を禁じた「ミラノ会議」の影響
〈3〉『手話の歴史』翻訳本誕生の背景

▼小林蓮実(こばやし・はすみ)[文/写真] 1972年生まれ。フリーライター、エディター。労働運動等アクティビスト。『紙の爆弾』『NO NUKES voice』『現代用語の基礎知識』『週刊金曜日』『neoneo』『情況』『救援』『現代の理論』『教育と文化』ほかに寄稿・執筆。書評、映画評、著者・監督インタビューなども手がける。

『NO NUKES voice』Vol.17 被曝・復興・事故収束 ── 安倍五輪政権と〈福島〉の真実
衝撃満載!月刊紙の爆弾10月号

老いの風景〈03〉高齢者を騙して得をしようと企む人たち

平均寿命が延び、高齢の親御さんやご親戚家族の健康について、悩みを抱える方が多いのではないでしょうか。私自身、予期もせず元気で健康、快活だった母の言動に異変を感じたのは数年前のことでした。そして以降だんだんと認知症の症状が見受けられるようになりました。今も独り暮らしを続ける89歳の母、民江さん。母にまつわる様々な出来事と娘の思いを一人語りでお伝えしてゆきます。同じような困難を抱えている方々に伝わりますように。

◆近所の家電量販店からの領収証

高齢者を狙った犯罪が後を絶ちません。詐欺や窃盗など、刑法に触れる犯罪は社会的に深刻な問題です。しかしそこまでいかない、普段の生活の中でちょっとした『ごまかし』によって、高齢者を騙して得をしようと企む人はたくさんいるようです。民江さん89歳にまつわるそんなエピソードです。

ちょうど二年前なので、まだ自分である程度身の回りのことをこなしていた頃のことです。「リビングの蛍光灯がつかなくなったんだけど、交換してもらって明るくなったわ」と嬉しそうに電話が掛かってきました。ゆっくり聞き直すと、昨夜電気がつかなくなったから、朝、近所の家電量販店に行き、先程お兄さんが来て交換してくれて、ありがとうと現金を支払って、お兄さんは帰ったということでした。

電気がつかない時に疑うのは、壁スイッチがOFFになっていることか、単なる蛍光灯の寿命のはずですが、なんとなくおかしい。「ところで何を交換してもらったの? 蛍光灯の管? まさか本体?」聞いても返事は曖昧です。「いくらだったの?」すると領収証を見ながら「35,000円よ」と。

つまりシーリングライト本体を交換したということです。民江さんにその時の様子を尋ねても、お兄さんが車に戻ってこれを持って来てくれたということ以外、詳細を聞き出すことはできません。

私は翌日民江さんの家へ行きました。なんと明るいのでしょう。6畳の居間は煌々としています。そして案の定、複雑なリモコンのどのボタンを押したらいいのかわからなくて今度は怒っています。

私は型番号を控えて家に戻り、製品について調べてから販売店に電話をし、事情を尋ねました。「お母様がLEDをご希望されましたので、そのような器具に取り換えさせていただきました」と。

それからやり取りをすること約30分。年配者には明るい方がいいから部屋の3倍である18畳用で、今後切れる心配のないLEDのシーリングライトに交換したという事がわかりました。そして販売店は蛍光灯を交換するだけで対処できたことを認めたのです。この件は、後日店舗へ行き、一番シンプルで使いやすいリモコンの付いた12畳用の商品に交換し、差額を返してもらうことで決着しました。

◆地銀のクレジット機能付きカード

次は半年ほど前の話です。民江さんから「○○銀行がお金をくれない! 私のお金なのに!」猛烈な勢いで電話が掛かってきました。カードが間違っていないか聞いても「お金が出てこない!」の一点張りです。たまたま居合わせた女性が電話を替わって現場の様子を教えてくださいました。日曜日なので行員さんは不在だし、非常用ボタンを押したためにSECOMが駆けつけて、とにかく大騒ぎになっているようです。私はすぐ家を出るので30分ほどで着くことを伝えて、急ぎ銀行へ向かいました。

到着すると、突っ立った若いSECOMのお兄さんに向かって民江さんが「こんな銀行!」と鬼の形相で怒鳴りつけ、横に女性が付き添ってくださっているという状況でした。まずその親切な女性にお詫びとお礼を申し上げました。それからカードを確認し、難なく希望の現金を引き出しましたが、民江さんの興奮はおさまりません。「もうこんな銀行には来ませんよ!」と大声で叫んでいます。現金を引き出す様子を離れて見守っていたSECOMのお兄さんにお礼を言い、民江さんを抱えるように車に乗せて家まで送りました。

さて、何故このような騒動になったのかということです。銀行のカードの図柄が以前使っていた物と違うことは、私にも一見してわかりました。紫色のそのカードは、クレジットカードとキャッシュカードが一体になっています。差込口に入れる時には、小さな文字を確認して矢印の向きに入れなくてはなりません。差し込む方向がわかりにくいのです。

私の知らない間に、民江さんはこの銀行でクレジット機能の付いたカードに変更をすることを勧められ、何もわからないまま了承して変更をしたということでしょう。

民江さんは昔から「クレジットカードで買い物するということは、借金をして買い物をするということだから、私は絶対にしません」と、クレジットカードを持つことすら拒否し続けてきた昭和一桁生まれです。この銀行は、もう数十年間も民江さんのメインバンクで、年金の振り込みを含めて日常的に利用し、最近では暗証番号を忘れたり印鑑を間違えたり、その都度お世話になっている地方銀行です。ですから民江さんの老化に気付いてくださっていたと思います。

その上でこのカードを勧めたのでしょうか。クレジットカードなんか使うわけがないじゃないですか。万が一落とした時はどうなりますか。サインレスでしょ。簡単にごまかすことができる高齢者を利用しようという人間の心理が働いていたのだと、私は思います。

余談ですが、この銀行は民江さんが端の破れた一万円札を持って交換のお願いに行った際、「ここではできませんので日銀に行ってください」と言ったそうです。90近いお婆さんにです。幸いすぐ傍の別の銀行に寄って交換してもらった民江さんが一枚上手でしたけど。

私達が気を配っていないと、本人が気付かないまま軽く騙され、結果高齢者はデメリットを被ることがあるのです。

▼赤木 夏(あかぎ・なつ)
89歳の母を持つ地方在住の50代主婦。数年前から母親の異変に気付く

衝撃満載!月刊紙の爆弾10月号

イケメン・マジ強 総勢24選手出場のNJKF 2018.3rd!

MOMOTAROの前蹴りが一仁のアゴへ度々ヒット
MOMOTAROのミドルキックで一仁を突き放した

「リアル・チャンピオン“超豪華”大集結。運命の9.22、いよいよ来たる!」

興行タイトルは格好良く、激しい試合も展開されましたが、セコンドや応援団の声ばかりが響く試合も多かった。

◎NJKF 2018.3rd
9月22日(土)後楽園ホール17:00~20:55
主催:NJKF / 認定:WBCムエタイ日本実行委員会、NJKF

◆第12試合 メインイベント 57.5kg契約3回戦

再起戦を飾ったMOMOTARO、海外からも声が掛かり戦う場が広い若きエース

WBC・M・IN・フェザー級チャンピオン.MOMOTARO(=小寺耕平/OGUNI/57.4kg)
VS
J-NETWORKフェザー級チャンピオン.一仁(真樹AICHI/57.5kg)

勝者:MOMOTARO / 判定3-0 / 主審:竹村光一
副審:中山30-27. 神谷30-27. 宮本30-28

序盤、離れた蹴り会いから距離が縮まり、組み合った接近戦でMOMOTAROがヒジ打ちを執拗に連打すると負傷した一仁だが、その後も怯まずに出て来る。しかし、MOMOTAROのタイミングいい蹴りと距離を取るフットワークに、一仁の蹴りやパンチもヒットは弱く、リズムを狂わされてしまう。MOMOTAROは終始落ち着いた表情で的確にヒットさせるが、一仁のしぶとさに深いダメージを負わせる決定打は無いまま、大差判定勝利を掴んだ。

◆第11試合 58.0kg契約3回戦

WBCムエタイ日本フェザー級チャンピオン.新人(E.S.G/57.7kg)
VS
MA日本フェザー級チャンピオン.宮崎勇樹(相模原S/58.0kg)

勝者:新人 / 判定2-0 / 主審:和田良覚
副審:中山29-29. 竹村30-29. 宮本29-28

宮崎がパンチのリズム感と連打がヒットし攻勢を印象付ける勢いがあったが、打ち合いは避けたい新人は蹴り中心の的確さで試合を進める。新人が僅差ながら判定勝利。

宮崎勇樹VS新人。蹴りの距離で優勢を保った新人(右)のミドルキック
接近戦での打ち合いとなった実方拓海(左)と真吾YAMATO

◆第10試合 64.0kg契約3回戦

NJKFスーパーライト級2位.真吾YAMATO(大和/63.8kg)
VS
WMC日本スーパーライト級チャンピオン.実方拓海(TSKjapan/63.7kg)

勝者:実方拓海 / 判定0-3 / 主審:神谷友和
副審:中山28-30. 竹村28-30. 和田28-29

積極性と的確さがやや優っていた実方。第2ラウンドにはヒジでカットさせ調子を上げるが、真吾も下がらず応戦してくる。第3ラウンドもパンチとヒジ、蹴り合っても実方の勢いが目立ち、印象的にも優位に立って判定勝利を掴む。

人気実力急上昇中の実方拓海(左)が22歳同い年の真吾YAMATOにハイキックで攻める

◆第9試合 WBCムエタイ日本スーパーバンタム級タイトルマッチ5回戦

地花デビット(右)を蹴り続けた波賀宙也、再浮上へ執念を燃やす

暫定チャンピオン.波賀宙也(立川KBA/55.3kg)
VS
WMC日本フェザー級チャンピオン.知花デビット(エイワスポーツ/55.3kg)

勝者:波賀宙也が正規チャンピオン / 判定3-0 / 主審:宮本和俊
副審:神谷50-47. 竹村49-47. 和田50-47

波賀は距離をとってミドルキック中心に知花のパンチの距離に入れさせないテクニックで波賀が優った。知花デビットも勝負を掛けてパンチで前に出るが、波賀は接近戦でもヒジ打ちや組み合ってのヒザ蹴りなど波賀が体重を掛けていく有利な体勢で、知花デビットの距離を潰してしまう。波賀が判定勝利で正規チャンピオンに昇格。

主導権は波賀宙也(右)が握ったまま、知花デビットは今ひとつ力及ばず
NJKFを一番の団体に、満員にしたい、エースとなる,力強いアピールが続いた琢磨

 
 
◆第8試合 61.0㎏契約3回戦

WBCムエタイ日本スーパーフェザー級チャンピオン.琢磨(東京町田金子/60.3kg)
VS
NJKFスーパーフェザー級1位.澤田曜祐(PIT/60.4kg)

勝者:琢磨 / TKO 3R 2:13 / カウント中のレフェリーストップ
主審:中山宏美

初回からパンチからローの琢磨、更にハイキックと多彩に繰り出していくが澤田もパンチで応戦し、第3ラウンドのボディブローのヒットから一気にヒザ蹴りやパンチや距離に合わせた打撃が続く中、更に左のボディブローがヒットすると、効いた様子の澤田はついにダウンを喫する。

立ち上がるもコーナーを向いたままでレフェリーストップされてしまう。

「Knock outは正直、すごい出たいなあと思うんですけど、僕はこのNJKFをキック界一番の団体にして来年僕はメインイベンターで、エースとして、この舞台に立ちたいと思っているので、その時は会場を満員に出来るようにしたい。」というコメントを残しました。

ボディブローで防戦一方となる澤田曜祐へ琢磨(左)の猛攻が続く
目まぐるしい展開を見せた松谷桐(右)の左ストレートで高坂侑弥が仰け反る

◆第7試合 51.0kg契約3回戦

NJKFフライ級チャンピオン.松谷桐(VALLELY/50.8kg)
VS
WMC日本バンタム級3位.高坂侑弥(エイワスポーツ/50.9kg)

勝者:松谷桐 / 判定3-0 / 主審:竹村光一
副審:神谷30-28. 宮本29-28. 中山30-27

スピーディーで激しい打ち合いが最後まで続き、松谷がパンチの連打、ボディブローも印象付け、飛び技も見せた攻勢が高坂を下がらせたが、パンチの交錯では高坂も打ち負けない展開を見せ、松谷も右目瞼辺りが大きく腫れる被弾の跡が残る痛々しい表情となった。

終始、わずかに上回る松谷の攻勢の印象が残る中、ポイントも僅差から大差まで開く結果となった。これも5回戦で見なければ総合力が現れない結果でもあった。

◆第6試合 スーパーフェザー級3回戦

NJKFスーパーフェザー級5位.梅沢武彦(東京町田金子/58.8kg)
VS
同級9位.山浦俊一(新興ムエタイ/58.9kg)

勝者:山浦俊一 / 判定0-2 / 主審:
副審:竹村29-29. 宮本28-30. 中山29-30

◆第5試合 スーパーライト級3回戦-中止-

NJKFスーパーライト級7位.敦YAMATO(大和)
VS
同級10位.木村弘志(OGUNI/63.3kg)

敦YAMATOの体調不良によりドクターストップが掛かり、中止(場内発表は木村弘志の不戦勝)。

◆第4試合 56.0kg契約3回戦

将泰(PIT/55.8kg)VS 鈴木力也(ZERO/55.9kg)

勝者:鈴木力也 / TKO 1R 1:50 / カウント中のレフェリーストップ
主審:宮本和俊

◆第3試合 スーパーフェザー級3回戦

吉田凜汰朗(VERTEX/58.5kg)VS 吉田優佑(K&K/58.2kg)

勝者:吉田凜汰朗 / 判定3-0 / 主審:
副審:宮本30-28. 和田30-28. 神谷30-28

◆第2試合 スーパーバンタム級3回戦

雨宮洸太(キング/55.0kg)VS 雅(PIT/55.1kg)

引分け 0-0 (28-28. 28-28. 28-28)

◆第1試合 フライ級3回戦

宇宙YAMATO(大和/50.8kg)VS EIJI(E.S.G/50.8kg)

勝者:EIJI / TKO 1R 0:22 / ドクター勧告及び戦意喪失

正規王座を奪回した波賀宙也

《取材戦記》

総勢9名のチャンピオンの肩書きを持つ選手が出場。更にイケメンやマジ強のキャッチフレーズが付いた興行に反し、観衆の少なさは何を物語るか。

6月のNJKF 2018.2ndで健太が「僕はもう一度NJKFを満員にしたい」と語り、今回は琢磨もTKO勝利後、“来年はエース格宣言”したように「キックを良くしたい、盛り上げたい、満員にしたい」と言う宣言はよく聞かれるマイクアピールです。

セミファイナル以前の選手が「まだいい試合が続くので最後まで観て行ってください」とマイクアピールしてもメインイベント(最終試合)に近付くにつれ観衆が減っていくのは6月に続き、この日も見られた光景でした。

チャンピオン対決が行われてもこの状況。これらの増え過ぎた国内王座はどれほどの規模か。その先の頂点に繋がるものかどうか。ファンは見抜いているのでしょう。

現在のNJKFエース格、MOMOTAROは昨年6月18日、カルロス・セブン・ムエタイ(スペイン)の持つWBCムエタイ・インターナショナル・フェザー級王座に挑戦し、2ラウンドTKO勝利で王座奪取。最近は海外遠征や敗戦が続くも、約1年ぶりのホームリングで復活となりました。

来年に向けてメインイベンターとなるのは健太やMOMOTAROが続く他、琢磨が加わり、または前回のタイトルどおり、新たなニューウェーブ到来か。それらが超満員に導く存在となってくれるでしょうか。

NJKF年内プロ興行は、11月25日(日)に埼玉県春日部市ふれあいキューブに於いてPITジム主催の「絆 Ⅺ」、12月2日(日)に「NJKF 2018.4th」於:後楽園ホール、12月16日(日) 大阪・阿倍野区民センターに於いて誠至会主催の「NJKF 2018 west 5th」が開催予定となっています。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

《鼎談》排除の歴史と闘うための書籍『手話の歴史』/映画『ヴァンサンへの手紙』〈2〉手話を禁じた「ミラノ会議」の影響

映画『ヴァンサンへの手紙』(レティシア・カートン監督)(C)Kaleo Films

聞こうとする心があるなら、耳が聞こえなくても
何の問題があるのですか。本当の「聾」、
癒しがたい「聾」とは、聞こうとしない閉ざされた心を言うのです。

2018年6月に刊行された、フランスに生まれアメリカに渡ったろう者教師ローラン・クレールの語り形式による大河物語のようなノンフィクション『手話の歴史』(ハーラン・レイン著:築地書館)。上の言葉は、エピグラフとして記された、文豪ヴィクトル・ユーゴーがろう者フェルディナン・ベルティエに贈ったものだ。

これは、10月13日よりアップリンク渋谷ほか全国で順次公開されるドキュメンタリー映画『ヴァンサンへの手紙』(レティシア・カートン監督)にも共通するメッセージであり、テーマ。いずれにも、手話という大切な言語を奪われているろう者たちの苦悩や怒り、悲しみ、そして手話を用いる喜びや手話表現の美しさなどが描かれている。

 
 

筆者自身は、小学生の時に手話の五十音や簡単な数の数え方のみを覚え、現在の活動では現場や集会などでろうの人に出会うこともあるという程度。しかし、上記の作品を通じ、初めて手話の背景や排除、闘いの歴史を知り、より多くの人にも知ってもらうことを願っている。また、これらの作品は、言語とは何か、コミュニケーションとは何か、表現とは何かをも問うてくるのだ。

今回、『手話の歴史』を訳した斉藤渡さんと監修・解説を担当した前田浩さんに、『ヴァンサンへの手紙』をアップリンクと共同で配給する「聾の鳥プロダクション」の牧原依里さんから、第1回『手話の歴史』翻訳本誕生の背景に引き続き、お話を聞いて(見て/読んで)いただいた。

◆口話主義がろう者の社会生活にもたらしたもの、ろう者のアイデンティティの揺らぎ

牧原 それでは、本書や本作でも繰り返されている、「なぜ独自の文化をもつろう者が、欠陥をもっているとみなされるのか」についてどのようにお考えでしょう。

 
『手話の歴史』の監修・解説を担当した前田浩さん

前田 言語にはすべて、まずはお互いにわかり合おうという伝達機能があります。フランスも日本もごく最近まで、ろう教育現場では「手話があった方が伝わりやすい」という実用面でしか、手話が評価されていなかった部分があります。言語は、コミュニケーション機能だけでなく、その言語と言語コミュニティで生きる人間たちが形成してきた歴史・文化をも背負っている。

日本にも大正末期以降、手話法と口話法の論争が長く続き、その間、手話が顧みられなかった残念な歴史があります。口話法自体は、母親法とセットになって提唱された聴覚口話法(口形を読む読話と補聴器による残った聴力の活用によって発音とコミュニケーション方法を学ばせる方法)の普及にとって代わられていきました。口話教育の誤りは、(一般社会では通用しない、口話を使う習慣がくずされる)からと、手話を教育の場から退け、そのことでろう者が誇りをもって手話言語を学び使うこと、手話によってわかる授業を受けたり、積極的に社会参加したりする権利も奪ってきたところにあるといえます。

1980年代以降になってやっと、ろう学校における手話復権と手話教育の必要性が叫ばれだしました。それは、法改正運動などをはじめ、ろう者の市民的権利を訴えていく運動が展開されていった中から出されてきたものです。

映画『ヴァンサンへの手紙』で触れていたフランスのろう教育の状況には、歴史的に日本と重なっていた部分があります。筑波大学で教えておられた斎藤佐和先生のレポートによると、フランスでは、LPCと言って日本でいうキュードスピーチに近いものですが、フランスで言う初等教育、つまり幼児レベルから導入する乳幼児センターがかなり多いようです。しかし、これには「この手段は聾の人たちからみると手話のライバルのように見え、話しことばに対する以上に反発が大きかった。…その背後には、政府の助成金がLPCの発展に対して与えられたのに、手話に関しては何の予定もないということに対する不満もあった」というのです。

そして、「1991年1月18日法」という、「ろう児の教育における二言語コミュニケーション(手話とフランス語)と、フランス語による口話コミュニケーションの間の選択の自由を規定するに至った」という一見、先進的な法規定が出されています。しかし、現実には、ろう難聴の乳幼児をもつ保護者に接する医療機関、乳幼児センター等にろう者がほとんど採用されていない中で、聴者の考え方が先行し、二言語コミュニケーションによる教育という選択肢が活用されてこなかったという事情があるようです。

 
「聾の鳥プロダクション」の牧原依里さん

牧原 そうですね。フランスと所縁がある日本のろう者たち等にお話を伺ったことがありますが、実はフランスの方が日本と比べて状況は深刻で手話と口話の二極化が深まってしまっていると聞いています。とはいえ、ろう者や手話に対する認識は日本もフランスも同じだと言えます。この映画を拝見された聴者たちから「手話は言語だということを初めて知った」と言われますから。

前田 牧原さんがおっしゃるように、ろう者が医療モデルの対象としてみられることが多い。聞こえないことを医療対象の症状としてしか見ない現実が、まだまだ残っています。手話言語をもちいて、ろう者があるがままに生きていくという当たり前だけれども大事なことが、本当に理解されているかどうかです。

牧原 たとえば、日常生活のなかでも、問題は多々あります。金融機関の本人確認において、私も会社の同僚に、かわりに電話に対応してもらったことがありますが、これは聴者には驚かれる事実ですね。欧米では、電話によるコミュニケーションが困難な人のために、文字や手話などで支援する「電話リレーサービス」が普及しています。いっぽう国内においては、そのような支援は普及していません。

前田 それは、日常の生活場面でも、実際にあちらで数週間生活してみればわかるのですが、アメリカ合衆国では日曜日のニュースでもワイプで手話通訳があったり、そうでなくても英語字幕が必ずついたりします。日本では、平日の早朝のニュースですと、日本語字幕がつかない番組がまだまだあります。日曜日となるともっと少なくなり、怒りを感じますね。

また、キャッシュカードの申し込み時に、いまどき電話による本人の音声での確認を求める信販会社が多いことにも困っています。そのような情報保障やろう者への配慮のクオリティ面では、日本は本当に発展途上にあると強く感じます。

牧原 前田さんは、その会社に問い合わせて対応を改善してもらったんですよね。『ヴァンサンへの手紙』に登場するろう者で手話講師のステファヌもこう言っていました。「犠牲者とは何? 憐れんでもらうこと?それでは何も進まない」と。こういった出来事に1人ひとりが声を上げていく行動が必要。とても大変で骨が折れる作業ですが、それが社会を変える1歩につながる。ところで、1880年のミラノ会議で手話の禁止について決議され、手話法は口話法よりも劣っているということにされます。『手話の歴史』でも、このことが取り上げられていますね。

 
『手話の歴史』を翻訳した斉藤渡さん

斉藤 ミラノ会議の決議は、過去のものではありません。現在の日本でも、たとえば旧優生保護法(1948~96年)によって障害者らが不妊手術や妊娠中絶を強制された当事者が、記者会見の場で悔しさを手話で訴えています。中央省庁の障害者雇用水増し問題もありました。だが、誰も処分されていません。障害者は軽くみられていると言わざるを得ない。その一方で本書の解説に前田さんが書いたとおり、「世界で、そして日本で、弱者を切り捨てる不寛容の精神が強さを増して」いるのです。

牧原 「ミラノ会議は今も続いている」。まさにその通りで、重い言葉です。現在も、聞こえない子をもつ親に対し、色々な情報を提供する前にすぐ人工内耳がすすめられる状況にあることからミラノ会議の口話法優先の考え方は基本的に変わっていないことが窺えます。

前田 ミラノ会議の影響もあって、教育方法としてだけでなく、ろう者の生活の場からも手話が排除されていったのです。聞こえる人と同じような言語生活ができるろう者つまり口話のみで社会生活ができるろう者を育てることが教育目標とされ、ろう者の人間性というより、発語や読話の能力でもって教育の成果をはかる風潮すら生み出してしまいました。

映画『ヴァンサンへの手紙』では、あのような形でもがき苦しむろう者の姿を通して、観る人たちに人間教育に関する根源的な問いかけをされているものと捉えています。(第3回につづく)

ハーラン・レイン『手話の歴史 ろう者が手話を生み、奪われ、取り戻すまで』(上/下)翻訳=斉藤渡、監修・解説=前田浩(築地書館2018年6月刊)


◎[参考動画]ドキュメンタリー映画『ヴァンサンへの手紙』(レティシア・カートン監督)(C)Kaleo Films
配給:アップリンク・聾の鳥プロダクション、宣伝:リガード
監督:レティシア・カートン、主演:ヴァンサン、ステファヌ、サンドリーヌほか
112分/2018年10月13日(土)よりアップリンク渋谷ほか全国順次公開

▼小林蓮実(こばやし・はすみ)[文/写真] 1972年生まれ。フリーライター、エディター。労働運動等アクティビスト。『紙の爆弾』『NO NUKES voice』『現代用語の基礎知識』『週刊金曜日』『neoneo』『情況』『救援』『現代の理論』『教育と文化』ほかに寄稿・執筆。書評、映画評、著者・監督インタビューなども手がける。

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