チェルノブイリ原発を奪取したプーチンのウクライナ侵攻と核による威嚇に対し、広島・長崎から同時に断固抗議! さとうしゅういち

2022年2月24日、ロシアのプーチン大統領は「平和維持活動」と称してウクライナへの侵攻を開始。ロシアが世界最大の核兵器保有国であることを強調しています。プーチン大統領の行動は、核兵器による威嚇という、核兵器禁止条約(ロシアは加入していないが、50ヶ国以上の批准で国際法としては発効している)で禁じられている行動でもあります。相手を切りつけまではいかなくとも、日本刀を抜いて見せびらかしているような話です。さらに、ロシア軍はチェルノブイリ原発を奪取。ウクライナには14の原発があり、万が一「原発戦災」になれば、それこそ地球滅亡にもつながりかねません。

これに対して被爆地の広島と長崎の市民有志がよびかけて、開戦3日目の2月26日、広島の原爆ドーム前と長崎の爆心地公園で同時に以下のプラカードを掲げ、プーチン大統領に侵攻をやめるとともに、威嚇を含めて核兵器を使わないよう求めました。

11時2分、60人の参加者は一斉にプラカードを掲げました。これは、長崎に原爆が投下された時間に合わせたもので、「核兵器使用は長崎で最後にしてほしい」(呼びかけ人のひとりの安彦恵里香さん、写真)との願いをこめてのものです。

2003年のイラク戦争のときは、2ヶ月前からアメリカがイラクを攻撃することが火を見より明らかでしたので、抗議デモも多くの人が参加しました。しかし、今回のロシアによるウクライナ侵攻は急なことです。それでも「どれだけ人が集まるか心配だっただがSNSなどを通じておもったより多くの人が参加」(安彦さん)しました。

今回の行動は「ロシアの人(一般市民)も巻き込まれただけだとおもう。市民同士でつながっていきたい」と、ロシアでもデモなどに参加して戦争に反対する人が少なくないことを念頭に、市民の連帯を重視したものです。

以下はステートメント《日本語》です。

私たちは、77年前に被爆した広島・長崎に暮らす市民です。

2月24日、ロシアはウクライナへの軍事攻撃を開始しました。プーチン大統領は、今回の軍事攻撃開始にあたって、核兵器使用の可能性を繰り返し述べています。また、ウクライナには15基の原発があり、ロシアはすでにチェルノブイリ原子力発電所を占拠したとの報道があります。私たちは、核兵器がもたらす破滅的な被害を知る被爆地の人間として、今回の争いが核による惨事を引き起こさないか憂慮しているとともに、核による脅威を振りかざすロシアに強く抗議します。

被爆から77年、未だ被爆者たちは原爆による健康被害とその不安に苦しみ続けています。被爆者たちはこうした自分達や家族が受けた苦しみから、核兵器を「人間として生きることも死ぬことも許さない」兵器であると訴えてきました。もう二度と、ヒロシマ・ナガサキをくり返してはなりません。

戦争で傷つくのはいつでも力のない市民です。私たちは、ロシアに国際法と国連憲章のもとに、市民の命や生活を脅かす全ての軍事行動を今すぐに停止することを求めます。そして、国際社会に軍事力ではなく、外交努力による平和を追求することを求めます。

NO MORE HIROSHIMA
NO MORE NAGASAKI
NO MORE WAR

2022年2月26日
広島・長崎の有志一同

広島:安彦恵里香、川崎梨乃、田中美穂、高垣慶太、高橋悠太
長崎:林田光弘

以上

◆ウクライナが核兵器を放棄しかったら偶発的核戦争の危険が増大するだけ

さて、今回のウクライナ侵攻をめぐって、日本でも「ウクライナは核兵器を放棄したから、ロシアに侵攻された」「だから、日本も核武装、憲法9条改正を」という意見が強まっています。このことについては、参加者の中からも危機感を感じました。

たしかに、ソビエト崩壊時にウクライナには世界第三位の核兵器が「放置」されました。しかし、中英仏を上回る核兵器を人口が4000万程度いわゆる中進国のウクライナが維持でできるかといえばそれはできないでしょう。核兵器をソビエトの後継国家であるロシアに返すしか、選択肢はなかったわけで「たら、れば」はナンセンスです。

よしんば、核兵器をウクライナが所持していればむしろ全面核戦争の危険はまします。キエフとモスクワはミサイルで数分の近さです。モスクワとワシントン、北京とワシントンの距離なら正体不明の飛翔体が確認された場合、相手国を問いただす時間があります。しかし、モスクワとキエフの距離だと時間はないです。正体不明の飛翔物体がうちあがった場合、「問答無用」で核ミサイルを相手にぶっ放すしか生き残る道はない、という判断を指導者がすることになります。誤解による偶発的核戦争の危険が非常に高まります。

また、そもそも、旧ソビエトが崩壊した時点ではNATOは無用の長物でした。解体するか、ロシアもふくむOSCEを主たる欧州の集団的安全保障の枠組みにするか?また、ウクライナなどについては、中露(つい最近まで国境が確定しないなどかなり緊張関係もあった)に挟まれたモンゴルのような非核兵器地帯にするなどの方策もあったはずです。それをせずに、ロシア抜きのNATOをロシアに接するところまで拡大した西側も調子にのりすぎた感はいなめません。反作用としての、ロシアのウクライナへの圧力を招いたのも否定できません。こうした外交プロセスがどうだったか?検証もせずに、核武装だ、憲法9条改正だ、というのはナンセンスです。

もちろん、だからといって、プーチンが一般市民も巻き添えにし、原発事故の危険すら顧みずにウクライナを攻撃したのは全く正当化できません。今の時点ではとにかく、戦争をやめさせるのが最優先です。ともかく、まるで、核兵器を放棄したのが悪いなどという議論は、一歩間違えれば、核保有国は非核国に対して何をしてもいい、ということになりかねません。あるいは、核戦力の増強に突き進む朝鮮の金正恩総書記を喜ばせるだけです。

◆戦闘停止と核不使用を迫ることが最優先 余計な核武装・改憲議論は核へのハードルを下げるだけ

核兵器の悲惨さは、核保有国も非核兵器国への核兵器の使用を躊躇する背景になってきました。

「こんなひどいものを使えば国際的な非難をあびて自分は失脚するかもしれない。」と思って核兵器の使用をためらった例は少なくありません。有名な例は、朝鮮戦争で当時は非核国だった中華人民共和国(国連的にはまだ中華民国が正統性を認められていた時代)への核兵器の使用をアメリカが検討したが断念した例はあります。あるいは、ブッシュ政権時代のアメリカはイラン、イラクやシリアなどについては「核兵器の使用をふくむ先制攻撃」を国家戦略としていました。イラクやシリアは攻撃しましたが核兵器は結局使いませんでした。核保有国に対してはとくに日本政府も広島・長崎の市民も先頭に立って、核兵器の非人道性をきちんと訴え、使用をあきらめさせる国際世論を維持・強化していくべきです。日本政府があまりやる気がない以上は市民がやるしかないでしょう。 

世界で最初の核兵器被害を受けた日本が、プーチンの土俵に乗って、核武装、憲法9条改正などと言い出せば、核保有国の核兵器使用や、非核国の核兵器開発へのハードルを下げることにもなりかねません。

もちろん、日本には石油などの値上がりの影響も及びます。それについて、たとえば、ガソリン税ゼロとか消費税ゼロなどで市民生活のこれ以上の困窮を防ぐのも大事な議論です。

ロシアでも26日現在でデモが60都市で行われ、1800人以上が拘束されたそうです。日本は事実上の一党独裁下とはいえ、言論の自由はロシアに比べればまだまだあります。しっかり行使をしていきましょう。ロシアの国内外の声でまず、核兵器の使用という最悪の自体を食い止めていきましょう。

◆長崎市民も参加してビキニ・デー講演会 「長年の核被害の軽視がプーチン暴走を後押し」

同じ26日は、午後には広島県原水協の主催で3.1ビキニ・デーの集会がオンライン併用で行われました。オンライン併用という特色を生かして、長崎の市民の方も参加しました。

1954年3月1日のビキニ環礁における水爆実験は、筆者の小学生時代には「第五福竜丸事件」と言われたものでした。しかし、実際には高知県など、多くの日本漁船、そして現地住民が被害を受けたことから、ビキニ・デーという呼称が定着しているようです。この事件を契機に原水爆禁止運動が高まったのは周知の事実です。

2022年ビキ二デーは、元広島平和研究所職員で今は奈良大学教授史学科の高橋博子さんが「封印された放射性降下物~黒い雨・ビキニ水爆被災」と題して講演されました。

40数年にわたる運動の結果、「黒い雨」訴訟は広島高裁でも“全面勝訴”しています。地裁判決をさらに踏み込み、11疾病に罹患していなくても当時その地域に居住し、放射性降下物にさらされた人全員を「被爆者」と認定することを命じています。しかし政府は、11疾病に罹患していることにこだわり、司法の判断を無視しようとしており、広島市もこれに屈しています。ビキニ水爆被災の真相をわずか7億2000万円の見舞金と引き換えに隠蔽・封印、福島原発事故の放射線被害の解明にも後ろ向きの日本政府の責任を厳しく批判する趣旨です。

高橋さんは、1950年に米軍が長崎の西山地区という場所で放射性降下物質を調査したにもかかわらず、全くそれが報告されていないこと、また、仁科博士が同じく1950年の遺稿で「西山地区の放射能は強い」「住民の白血球が高」と書き残していることを紹介。しかし、こうしたことが最近まで隠蔽されてきており、その隠蔽工作を2021年8月9日のNHKスペシャルがあばいたが、政府は現在でも「塩対応」だそうです。

そもそもが、ヒバクについての研究がアメリカ主導で、放射性兵器の開発のために行われてきたわけです。また、民間防衛のためにも行われてきたそうですが、その内容は「6000ミリシーベルトの放射能を浴びても何人か生き残る可能性がある」などというお粗末なものでした。

冷戦が終わったとき、核兵器がなくなるかも、という期待が広がりましたが、実際には「アメリカは力で冷戦に勝った」という神話がひろまってしまった、と高橋さんは、指摘。核の非人道性が十分問題とされないまま現在にきてしまった。日本政府も及び腰の中で、プーチンら旧東側も、バイデンら西側も核兵器の非人道性を十分認識しないまま、今に至っていることが、今回のウクライナの事態の背景にある、と厳しく批判しました。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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ゼレンスキー VS メドヴェドチュク ── 東西に挟撃されたウクライナ権力闘争の深層 横山茂彦

◆1年以上前から綿密に計画されてきた軍事征服・政権転覆

ロシアによるウクライナ侵攻は、ウクライナ軍およびウクライナ国民の反撃に遭い、現地は膠着状態だという(2月28日現在)。一説には、ロシア軍の安易な侵攻計画によるものだという。ロシア軍の装備はともかく、兵員に経験不足の新兵が多く、ベラルーシでの共同訓練で練度をかさねたものの、ウクライナ軍の士気の高い反撃に遭った。新兵たちがとまどっているのではないか、というものだ(軍事評論家)。

じっさいは、ロシアの作戦計画は政治的に安易だったとはいえ、計画そのものは1年ほどかけて練られてきたものだった。英王立防衛安保研究所のジャック・ワトリング(主任研究員)によると、ロシア軍の侵攻作戦は1年以上前から綿密に計画されてきたという。その計画には何段階もの軍事征服・政権転覆の計画があるという。

渋谷ハチ公前広場でのウクライナ支援集会(2022年2月26日筆者撮影)

◆ウクライナ騒乱の歴史的な流れ

ウクライナ騒乱の歴史的な流れを、ここで簡単に解説しておこう。

1991年 ソビエト連邦崩壊により、ウクライナ独立 
2004年 オレンジ革命でユシチェンコが大統領に
    ※ロシアとの対立が顕在化する
2010年 親ロ派のヴィクトル・ヤヌコーヴィチが大統領に
2014年 ウクライナ騒乱
    ※親ロ派のヤヌコーヴィチ大統領が失脚
    親ロシア派騒乱 (2月~ 5月)で、ロシアによるクリミア併合
2014年 9月5日、ミンスク議定書=ウクライナ・ロシア・ドネツク人民共和国・ルガンスク人民共和国(調印したが休戦に失敗)
    ※ドンバス戦争(=東部内戦は、現在まで継続)
2015年 2月11日、ミンスク2(ミンスク合意)調印
2022年 2月25日、ロシアがウクライナ危機に侵攻

ソ連邦崩壊後の東欧民主化では、ポーランドやバルト三国をはじめ、軒並みに旧ソ連邦諸国がNATOに加盟した。ウクライナでもオレンジ革命以降、親西ヨーロッパ派が政権主流を占めてきたのである。

2010年にヤヌコーヴィチが大統領になったものの、反政府運動で姿をくらますなど、親ロ派は東部でも少数派に転落する。

◆ウクライナ侵攻の引き金となったメドヴェドチュク自宅軟禁事件

さて、そのかんの政治舞台では脇役だったが、ロシアにとって重要なキーパーソンが、昨年の5月に自宅軟禁される事態が起きた。じつは、これが今回のロシアによるウクライナ侵攻の引き金となったのだ。そのキーパーソンとは、「プーチンの傀儡」と言われる大富豪政治家、ヴィクトル・メドヴェドチュク(Viktor Medvedchuk)ある。

メドヴェドチュクは、自宅軟禁に先立つ2月に、国家反逆罪・国家領土に対する侵害罪で公訴されている。野党プラットフォーム「人生のために」の集会で「ドンバス地区を自治区にしなければならない」と発言したことが根拠となったものだ。この公訴こそ、1年前から侵攻が計画されたことに符合するのだ。


◎[参考動画]Russia: Putin says Medvedchuk has ‘noble mission’ after Vladivostok meeting(Ruptly 2019年9月6日)

◆全住民による抵抗

ウクライナ軍の意外な抵抗は、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領がキエフにとどまり、軍と国民を激励しているからだという。大統領はコメディアン出身らしく、その立ち居振る舞いに訴求力がある。

若いカップルが戦闘現場に行く前に結婚式を挙げ、同僚の兵士たちがそれを祝福する。花嫁も「女性にも出来ることがある」と現地にとどまる姿は、思わず涙をさそう。全世界がプーチンを糾弾し、ウクライナに同情的なのはもう勧善懲悪主義のストーリーを観ているようだ。

いっぽうで、ウクライナ政府は火炎瓶の作り方を指導し、AK47(カラシニコフ)をかたどった木製銃で国民たちが訓練をする。18歳以上、60歳以下の男性には国外脱出が禁止された。このあたりはコミューン(ソビエト)原則、住民が武装して外敵と戦う、ヨーロッパの伝統が、われわれ平和に慣らされてきた日本人には「怖い」。

◆軍事的な決着か、それとも政治的な妥協はあるのか

さて、その侵攻作戦の収拾はどうなるのか。プーチンの前時代的な戦争発動が、ほかならぬプーチン政権の終わりの始まりになる、との観測がメディアの論調になっているが、きわめて楽観的なものというしかない。

20年以上も独裁者に政権をゆだねてきたロシア連邦という国家が、簡単に民主化できるとは思えないからだ。17年革命から数えれば100年以上も、かの国は独裁者を称賛、高度な管理国家機能に従属してきたのだ。いや、共産主義政権時代よりも、よりいっそう独裁的な国家になったと言えるかもしれない

すなわちロシア連邦は、ソビエト連邦時代のロシア共和国ではなく、85の連邦構成体(46の州・9の地方政府・3つの連邦市・22の共和国・5つの自治管区および自治州)からなる連邦国家なのだ。生産手段の国有化が独占資本の管理下に代わったものの、その国家と経済組織を牛耳るのは、ソ連時代と変わらないノーメンクラツーラ(技術官僚・国家官僚)なのである。共産主義の理念がなくなった分だけ、その搾取と強権は、資本主義的な剥き出しのものになっているといえよう。

ロシア軍がウクライナ全土を制圧するにしても、侵攻作戦の頓挫で和平交渉になった場合(ベラルーシで開催が決定)でも、メドヴェドチュクがキーパーソンになるのは間違いないであろう。メドヴェドチュクとプーチンの関係は極めて親密で、プーチンはメドヴェドチュクの娘の名付け親でもあるという。

◆スタグフレーションの危機

最後にもうひとつ。ウクライナ情勢による天然ガス・石油不足である。ロシアに対する経済制裁(とくに3大銀行の資産凍結)が、ロシア資本の決裁を困難にする結果、エネルギー不足が日本にも波及している。

エネルギー系物資不足による日用品の高騰が、インフレと不況(スタグフレーション)をもたらそうとしているのだ。昭和時代の不況の再来となる可能性が高まっている。ウクライナ情勢から目が離せない。


◎[参考動画]小泉悠=東京大学先端科学技術研究センター特任助教2021年7月16日講演「プーチン・ロシアの『2024年問題』独裁色強まる内政と板挟みの外交」(公益財団法人 日本証券経済研究所「資本市場を考える会」 2021年9月22日配信)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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《3月のことば》花も虫も動物たちも…… 鹿砦社代表 松岡利康

《3月のことば》花も虫も動物たちも……(鹿砦社カレンダー2022より。龍一郎揮毫)

3月になりました。今年もあっというまに2ヵ月が過ぎました。新型コロナ第6波急拡大と、例年にない厳寒の中で気づいたら、もう3月――。

「冬の寒さに耐えて生きていたんだね」

コロナ禍で、多くの方々が、それまでの生活のペースが狂いました。みな「冬の寒さに耐えて」います。かく言う私(たち)も例外ではありません。昨年の今頃と現在とでは見える風景が全く違っています。それでも、まさに「冬の寒さに耐えて生きて」きました。

しかし、春は一歩一歩確実に近づいています。もうすぐコートを脱げる時がやって来るでしょう。

(松岡利康)

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3月3日、名張ぶどう酒事件の再審開始の可否が出されます! 名古屋高裁・鹿野裁判長は再審開始の決定を! 尾崎美代子

1961年、三重県名張市の小さな村でおきた名張毒ぶどう酒事件の第十次再審の異議審で、名古屋高裁が3月3日に再審開始の可否の判断を出すことが分かった。元死刑囚・奥西勝さんは、第九次再審請求中の2015年10月、89歳で病気で獄死、兄の意思を受け継いだ妹・岡美代子さんが第十次再審請求を申し立てたが、2017年10月に棄却、岡さんは異議を申し立てていた。

◆ぶどう酒に毒を入れることができたのは、奥西さんだけだったのか?

村の懇親会で出された毒ぶどう酒を飲み、女性5名が死亡、12名が重軽傷を負ったこの事件で、奥西さんが犯人とされたのは、死亡した女性のなかに奥西さんの妻と愛人がいたことから、「三角関係を解消しようと犯行に及んだ」ととされたからだ。奥西んさんは一旦は自白に追い込まれたが、それ以降は一貫して無実を訴えていた。

物証や目撃証言が乏しいなか、検察は村人から聞き取り調査を行った際、とりわけ会長に頼まれぶどう酒を購入したAさんが、何時に会長宅に瓶を届けたかが焦点となった。結局、Aさんの供述は当初の「午後2時」から、奥西さん自白後に「午後5時」に変わり、ならばその後、公民館にぶどう酒瓶を運び、一人になった奥西さんしか毒を入れることはできないとされた。

さらに、他の村人の証言も、奥西さんの自白を前後して不自然に変遷したが、わずか8戸(当時)の小さな村内で、どうしても犯人を捜す必要にかられ、村人は警察官を交えた「話し合い」で、消去法で奥西さんを犯人にするしかなかったようだ。

しかし、津地裁は、こうしたからくりを「検察官のなみなみならぬ努力の所作」と皮肉を込めて批判し、一審で奥西さんに無罪を言い渡した。これを不服とした検察が控訴、名古屋高裁は、ぶどう酒瓶の王冠についた歯形が奥西さんの歯形と位置するとして、一審・無罪判決を破棄し、逆転死刑判決を言い渡し、1972年刑が上告が破棄され、刑が確定した。死刑囚となった奥西さんは、獄中から第一次から第四次までの再審請求を、自身で申し立てたが、いずれも棄却。その後、日弁連によって弁護団が結成され、再審で次々と奥西さんが犯人でないとの証拠が暴かれていった。

第七次再審請求審で、2005年4月5日、名古屋高裁(刑事1部)小出(金へんに亨)一裁判長は、再審開始と奥西さんの死刑執行の停止を決定したが、検察は、即座に異議を申し立た。2006年12月26日、名古屋高裁(刑事2部)門野博裁判長は、再審開始決定を取り消したが、2010年4月、最高裁は決定を取り消し、名古屋高裁に差し戻した。しかし、2012年5月25日、差し戻し後の異議審・名古屋高裁(刑事2部)下山保男裁判長は、再審開始決定を取り消し、請求を棄却、2013年年10月16日、最高裁もこれを追随した。

◆奥西さん、無念の獄死と第十次再審請求へ

2012年、肺炎を患い、名古屋拘置所から東京八王子医療刑務所に移送された奥西さんは、2015年10月4日、第九次再審請求中に無念の獄死を遂げた。11月6日、兄の意思を受けついだ妹・岡美代子さんにより第十次再審請求が申し立てられた。

これに対して、名古屋高裁(刑事伊津部)山口裕之裁判長は、2年もの間、「三者協議」を開かないまま、2017年12月8日に請求を棄却、その後、異議審を審議する名古屋高裁(刑事2部)・高橋徹裁判長も同様に、2年間「三者協議」を開かず、放置していた。これに対して、弁護団は3回にわたって裁判官らの「忌避」を申し立てたが、高橋裁判長はこれを却下し続けながら2019年11月1日、とつぜん依願退官したのであった。無責任極まりない対応だが、これも3度にわたり「忌避」を申し立てたり、裁判所へ抗議を続けた弁護団、支援者らの活動の成果であることは間違いない。そして、新たな裁判長への交代が、長い審議放置の暗闇に一筋の光を灯すこととなったのである。

◆裁判長交代で、59年ぶりに開示された新証拠

鹿野(かの)伸二裁判長が新たに就任するや、長く放置されていた裁判が慌ただしく動き始めた。弁護団の面談の申し入れに、裁判長もなるべく早くすると答え、12月8日には面談が実現。弁護団は、そこで、申立人の岡さんが高齢であるため、早急な解決を望むこと、ぶどう酒瓶に撒かれた封かん紙の裏側に付着するのりの成分の再鑑定を許可してほしいこと、更に検察官が未提出の証拠開示について、裁判所からも強く開示するよう働きかけてくれるよう訴えた。

2020年1月10日、検察官がようやく提出してきた意見書には、少なくとも7名の村人の9通の未開示の警察官調書があることがわかった。検察はこれらについて「開示する必要はない」と主張したが、裁判所が強く開示を求めたため、3月3日、事件から59年ぶりに、9通の調書が開示された。

9通の調書は、いずれも奥西さんが自白した4月2日よりも前、事故直後の村民の記憶が鮮明な時期に作成されたものだが、そこには、奥西さんの「自白」と矛盾する驚くべき事実が書かれていた。7名のうち女性2名と男性1名は、親睦会の席上で開けられたぶどう酒瓶には、封かん紙がまかれていたと供述していた。奥西さんの自白では、ぶどう酒瓶に毒物を入れるため、火鋏で瓶の外蓋を突き上げて外した際、外蓋にまかれた封かん紙も破れ、外蓋と一緒に落ちたままにしたというものだった。その自白通りならば、親睦会が始まる前に村人が見たぶどう酒瓶は、封かん神はまかれておらず、内蓋が絞められただけの状態であったはずだ。

しかも、これらの村人の供述は、もうひとつの奥西さんを無実とする証拠、すなわち封かん紙の裏側に製造過程で使ったのり(CMC糊)の成分のほかに、家庭で使う選択糊(PVA糊)の成分が検出されていたとする弁護団の新たな証拠とも合致するのだ。

実は、この糊の成分測定は、第十次再審請求時にも実施しており、製造過程と別の成分が検出されたため、鑑定書を提出し「真犯人が別の場所で毒物を入れ、封かん紙を貼り直した証拠だ」と主張していた。しかし、名古屋高裁は、分析結果が誤っていると否定し、請求を棄却していたのである。

弁護団は、新たな裁判長の許可を得て、再度測定を実施した。その結果、前回同様、家庭で使われる選択糊に含まれる成分が検出されたのであった。

◆検察官はすべての証拠を開示すべきだ

審議をさらに進めるために弁護団は、当時、警察から検察へ送致された証拠などを独自に整理し、「送致証拠整理表」を作成した。そこには多数の空白が存在していることがわかった。その空白は未開示の証拠である。中でも、村民らの供述調書と考えられる部分が多数あり、少なくとも村民の未開示の供述調書が50通も存在することがわかった。ここには、当然、奥西さんを無実をとする証拠、つまりぶどう酒瓶が会長宅に届けられた時刻がいつかを明確にさせる証拠などもあるはずだ。

前述したとおり、奥西さんにしか毒を混入できる人物はいないとしたのは、村人らの「ぶどう酒瓶到着時刻」がその後次々と変遷したからだが、その合理的理由は説明されておらず、しかも当初の村民の供述調書も開示されていない。

改めて整理すると、ぶどう酒を親睦会で女性らに提供すると決めたのは会長で、しかも当日朝だ。そして会長に頼まれぶどう酒を購入し、会長宅に運んだAさんが、到着時間を変遷させ、最終的には5時前に運んだとした。その後まもなく会長宅から公民館にぶどう酒を運んだ奥西さんしか、毒物を混入できる人物はいないとされたてきた。しかし、59年ぶりに奥西さんの無実を証明する証拠隠しが明らかになったのだ。検察は直ちにぶどう酒が何時に会長宅に届いたか、正確な時刻を証明する必要証拠を開示すべきだ。警察管にむりやり供述を変えさせられた村民もまた、警察、検察らの犠牲者なのだから。人の心をもった鹿野裁判長には、3月3日、ぜひ、再審開始の決定を岡さんに言い渡していただきたい。


◎[参考動画]映画『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』予告編(東海テレビ放送配給 2013年1月11日)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年3月号!

髙橋一眞、3度目の防衛で東京最後の試合を飾る! 堀田春樹

この興行でもコロナ感染や濃厚接触者発生で、2試合の中止が発生しました。

昨年10月予定からコロナ禍影響で延期となっていたNKBライト級タイトルマッチ、髙橋一眞は今回3度目の防衛戦を判定勝利で棚橋賢二郎を退け、東京での最後の試合を飾りました。次回、7月31日(日)の大阪176BOXで引退興行開催予定です。

過去2018年12月8日に髙橋が2度目の防衛戦で、棚橋の強打を貰わない上手い試合運びで3ラウンドKO勝利。今回もスリルある“倒すか倒されるか”の攻防に期待が掛かりましたが、打ち合い少ない展開に声援禁止にもかかわらず、鋭い怒りの野次が飛びました。

今回で引退を宣言している藤野伸哉はヒザ蹴りで野村玲央を最終ラウンドで仕留める有終の美。

笹谷淳は試合運びの上手さでJUN DA LIONを倒して1年ぶりの勝利。

◎喝采シリーズ 1st / 2月19日(土)後楽園ホール17:30~20:40
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

◆第11試合 NKBライト級タイトルマッチ 5回戦

Champ.髙橋一眞(真門/1994.9.7大阪府出身/61.2kg)     
VS
同級1位.棚橋賢二郎(拳心館/1987.11.2新潟県出身/60.9kg)
勝者:髙橋一眞 / 判定3-0
主審:前田仁
副審:鈴木50-48. 川上48-47. 佐藤49-48

打ち合いの距離では棚橋賢二郎の剛腕が怖い

髙橋一眞のローキック中心とした前進。棚橋はパンチは出さず、返しの軽いローキックで様子見の下がる一方。第2ラウンドに入って、高橋一眞は強めのローキックから高めの蹴りも見せるが棚橋は返してこない消極的戦法。高橋一眞が棚橋の強打を警戒しながら前進して誘いかけるが、棚橋が下がる展開は3ラウンドまで静かな流れが続いた。

第4ラウンド開始前には会場から「つまんねえんだよコノヤロー、サッサと倒せよコノヤロー!」と静かな会場に響く、周囲が緊張する語気強い野次が飛ぶ。“倒すか倒されるか”のキャッチフレーズを煽りながら、全く打ち合いに行かない想定外の展開にキレるのも分かる空気。ようやく棚橋が左ジャブを打ち、打撃の交錯が始まったが、高橋一眞はパンチの距離は避けたいところで、組み合ってヒザ蹴りに移り、棚橋はパンチを打ち込み難い展開も、やや手数増やし前進に転じた後半で判定に縺れ込んだ。

第4と5ラウンドを棚橋に付けたジャッジは一人。もう一人は第5ラウンドだけ棚橋へ。もう一人は互角だった。前半3ラウンドまでに手数少ないながらローキックで攻勢維持した高橋一眞のポイントを押さえたラウンドが勝利を導いた流れだった。

髙橋一眞のローキックは感度も効果的にヒットした
昔のテレビ放送席のような雰囲気でインタビューに応える高橋一眞
蹴りで攻勢を維持した藤野伸哉はヒザ蹴りで仕留めた

高橋一眞は26戦17勝(12KO)9敗。

棚橋賢二郎は18戦9勝(7KO)8敗1分。

◆第10試合 ライト級 5回戦

WMC日本スーパーフェザー級2位.藤野伸哉(RIKIX/1996.5.31東京都出身/61.15kg)
VS
NKBライト級3位.野村怜央(TEAM KOK/1990.3.27東京都出身/60.75kg)
勝者:藤野伸哉 / TKO 5R 1:37 /
主審:加賀美淳

両者は2018年6月16日に対戦、藤野がノックダウンを奪って3ラウンド判定勝利。

パンチで圧力掛ける野村。蹴りのテクニックでやや優っていった藤野は接近戦でヒザ蹴りもヒットさせスタミナを奪っていく流れ。

最終ラウンドには強烈なヒザ蹴りでスタンディングダウンを奪い、更に追い打ちのヒザ蹴りヒットさせたところで、苦しそうな野村は再びスタンディングダウンとなってレフェリーが試合ストップした。

藤野伸哉は23戦13勝(4KO)7敗3分。

野村玲央は20戦8勝(5KO)10敗2分。

藤野伸哉の応援団が引退の花道を飾る

◆第9試合 66.4kg契約3回戦

NKBウェルター級3位.笹谷淳(TEAM COMRADE/1975.3.17東京都出身/66.3kg)
     VS
NJKFウェルター級3位.JUN DA LION(E.S.G/1976.8.3埼玉県出身/65.8kg)
勝者:笹谷淳 / TKO 3R 0:45 /
主審:佐藤友章

第1ラウンド、蹴りの攻防は笹谷淳の蹴りから組み合っても圧し負けない展開が続いた。笹谷は左ストレートでプッシュ気味ながらノックダウンを奪う。

第2ラウンド以降も笹谷が組み合っての攻防の中、ヒジ打ちでJUNの額を切る。第3ラウンド、パンチから蹴りがボディーに入ると崩れ落ちたJUN。ダメージ見たレフェリーがノーカウントで試合を止めた。経験値が優った笹谷淳のTKO勝利。

笹谷淳が勢いを増した左ストレートでJUN DA LIONを追い詰める

◆第8試合 フェザー級3回戦

NKBフェザー級5位.矢吹翔太(team BRAVE FIST/1986.8.2沖縄県出身/57.0kg)
     VS
半澤信也(トイカツ/1981.4.28長野県出身/57.1kg)
勝者:矢吹翔太
主審:川上伸
副審:加賀美30-29. 前田30-29. 佐藤30-28

パンチで攻めたい半澤信也に対し、矢吹翔太は組み合っての攻防でスタミナを奪う流れ。決定打は無い流れも攻勢を維持した矢吹が判定勝利を掴む。

矢吹翔太が半澤信也の勢いを封じる展開で勝利を導く

◆第7試合 ミドル級3回戦

NKBミドル4位.釼田昌弘(テツ/1989.10.31鹿児島県出身/72.55kg)
     VS
スーパー・アンジ(KUNISNIPE旭/1999.10.28千葉県出身/72.1kg)
勝者:スーパー・アンジ / KO 2R 2:58 /
主審:鈴木義和

アンジはパワフルな圧力でパンチも蹴りも剱田昌弘を上回った。第2ラウンドに豪快な左ロングフックヒットでノックダウンを奪うと更にパンチの圧倒で2度目のダウンを奪い、更にパンチで圧倒したところで剱田がフラフラとなってレフェリーがストップし、3ノックダウンを奪う結果となった。

スーパー・アンジがパワフルに剱田昌弘を圧倒していく

◆第6試合 フェザー級3回戦

松山和弘(ReBORN経堂/2000.3.15宮崎県出身/58.15→57.6kg/+450g)
     VS
七海貴哉(G-1 TEAM TAKAGI/1997.4.17東京都出身/56.9kg)
勝者:七海貴哉 / KO 1R 2:43 / 2ノックダウン制によるストップ
主審:加賀美淳

松山和弘はウェイトオーバーにより減点1が課せられた。

パンチとローキックの攻防から七海のリズムが優っていく中、右ストレートでノックダウンを奪う。更にパンチで攻める中、松山は弱気な表情に変わる。七海がパンチで攻め続けた中、松山2度目のノックダウンとなって崩れ落ちた。

七海貴哉がパンチで圧倒していくと松山和弘は戦意喪失気味

◆第5試合 バンタム級3回戦(新人)

中島隆徳(GET OVER/2005.4.8愛知県/52.95kg)
     VS
安河内秀哉(RIKIX/2003.10.7東京都/53.4kg)
勝者:中島隆徳 / KO 2R 1:23 / カウント中のタオル投入による棄権
主審:佐藤友章

第1ラウンド開始早々に左ストレートでノックダウンを奪う中島が主導権を奪った展開で安河内は蹴りでやや持ち直したが、第2ラウンドに仕留められてしまった。

スピード感が優った中島隆徳は飛びヒザ蹴りも見せる勢い優る展開

◆第4試合 56.0kg契約3回戦(新人) 笠原秋澄欠場で翼出場

蒔田亮(TOKYO KICK WORKS/2000.6.23千葉県/55.6kg)
     VS
翼スリーツリー(ダイケンスリーツリー/1997.7.2山梨県/55.8kg)
勝者:蒔田亮 / 判定3-0
主審:鈴木義和
副審:前田30-25. 川上30-25. 加賀美30-25

◆第3試合 女子57.0kg契約3回戦(2分制/新人)

寺西美緒(GET OVER/1995.11.27愛知県/56.8kg)
     VS
田中美宇(TESSAY/1994.7.30新潟県/56.2kg)
勝者:寺西美緒 / 判定2-0 (30-28. 30-28. 29-29)

◆第2試合 63.0kg契約3回戦(新人)

哲太(Team S.A.C/1997.11.26千葉県/62.5kg)
     VS
折戸アトム(PHOENIX/1982.3.1新潟県/62.95kg)
勝者:折戸アトム / 判定0-3 (28-30. 29-30. 28-30)

◆第1試合 59.0kg契約3回戦(新人)

合田努(TOKYO KICK WORKS/1989.5.18愛媛県/58.75kg)
     VS
古木誠也(G-1 TEAM TAKAGI/1996.11.10神奈川県/58.2kg)
勝者:古木誠也 / 判定0-3 (27-30. 28-30. 26-30)

《取材戦記》

髙橋一眞の引退理由は「デビューして10年。満足いくまで戦えたからです。デビューから6連勝(6KO)で天狗だった頃、初めての敗戦の悔しさ、フェザー級のベルトを獲り損ねた悔しさ、連敗から抜け出せず諦めそうになったこと。チャンピオンになり一つの夢が叶ったこと、三兄弟で三階級を制覇したこと。KNOCK OUTに参戦出来た嬉しさ。世界最高峰王者、ヨードレックペットと戦えたこと。思い返せばいろんな思い出が蘇って来ます。ほんとに幸せな10年間でした。残る試合を自分らしい試合をして燃え尽きたいと思います(主催者発表インタビュー、一部引用)」。

試合直後のマイクアピールでは「棚橋選手はパワーあるしパンチ強いしビビったあ~!」と本音を漏らした髙橋一眞。

試合展開については緊張のあまりか、前半の手数少ない戦略や攻防も、野次が飛んだことも覚えていないと言う。健闘を称えに控室を訪れた高橋一眞は、ローキックの攻防について打ち明けていた両者。高橋は引退を宣言しているが「まだ3度目の対戦も有り得るから効いたところはバラすなよ」と言いたいところだった。

デビューから6連勝したこ頃は確かに太々しさが表れていた高橋一眞。3連敗から立ち直った頃がメインイベンターとした風格が感じられたものである。引退まであと一試合、“倒すか倒されるか”に全力で挑んで貰いたい。

セミファイナル出場の藤野伸哉も今回が引退最終試合。

引退試合に際し、NO KICK NO LIFEがホームリングでRIKIXジム所属である藤野伸哉に対し、しっかり5回戦が設定。5回戦だから展開出来たテクニックでのTKO勝利は感動的でもありました。

藤野伸哉は公認会計士講座講師として将来設計あっての引退となる模様です。

「日本キック連盟でのテンカウントゴングに送られるのか」と意外な感じもしたところで、記念贈呈品も無い、シンプルな引退テンカウントゴングが打ち鳴らされました。

若くしての引退は復帰したくなる気持ちが高くなる可能性もあるだけに、高橋一眞と藤野伸哉には、数年経った頃に徐々に復帰を誘いかけたら面白いかもしれません。

次回、日本キックボクシング連盟興行「喝采シリーズvol.2」は4月23日(土)に後楽園ホールにて開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年3月号!

核兵器使用を明言した妄執の独裁者、ウラジーミル・プーチンとは何者なのか? ── 個人が世界史を変える可能性 横山茂彦

◆どういう人物なのか?

ウクライナのNATO加盟阻止。および東ウクライナの独立承認をもって、東西の緩衝地帯獲得をねらった侵略戦争の動機は、プーチンの個人的な体験にあるという。

ウラジーミル・プーチンはレニングラード国立大学を卒業後、KGBに就職して情報将校として16年間勤務している。そのかん対外情報アカデミー(赤旗大学)で諜報活動をまなび、東ドイツのドレスデンに派遣されている。

東ドイツでの勤務中は、情報機関・秘密警察である国家保安省(シュタージ)の身分証を持っていたことが、2018年になって明らかになっている。

ソ連邦共産党員でありKBG情報将校、同時に東ドイツの秘密警察だったのだ。この筋金入りの諜報員あがりの政治家は、ソ連邦時代を理想にしているという。

自身のトラウマになっているのは東ドイツの崩壊のとき、民衆が政権を崩壊させるために立ち上がった「壁の崩壊」だったというのだ。秘密警察の事務所で、勤務後にドイツビールを飲むのが楽しみだった男は、民衆の行動に驚愕し、恐怖したという。これがプーチンのトラウマとなった。

1991年8月の共産党解体までは共産党を離党せず、本人曰く党員証は今も持っているという(ロシアビヨンド)。


◎[参考動画]プーチン氏、ウクライナ2地域の独立を承認 軍派遣を命令(BBC News Japan 2022年2月22日)

共産党崩壊後はロシア大統領府総務局次長として、旧共産党資産の市場移行の管理を行ない、エリツイン政権の中枢に地位を築いてきた。そこから先は、チェチェン紛争(爆弾テロ)の鎮圧に辣腕をふるい、記者会見では「テロリストはどこまでも追跡する。便所にいてもぶち殺す」と発言して物議をかもした。いや、つよいロシアを待望する国民の拍手喝さいを浴びたのだった。エリツインによる禅譲後は、中央政権の権限の強化をはかりつつ大統領職を独占してきた。メドヴェージェフと大統領を交代しながらの、すでに20年にわたる長期専権となっている。

大統領権力の基盤が確立されたのは、エリツイン時代のオリガルヒ(新興財閥)との対決を通じてであった。

生産性の低下を小手先の国債乱発で乗り切ろうとしたエリツイン政権は、ハイパーインフレと軍の崩壊を招いていたが、プーチンはオリガルヒの脱税を取り締まることで、財閥の一部を取り込むことに成功したのである。もともとロシア経済の基幹産業は、豊富な天然資源と軍事産業である。警察と軍を再建することで、国家資本主義モデルともいうべき新体制を回復したのである。

◆民族主義と愛国主義

警察と軍、軍需産業を基軸にした国家である以上、民主主義は形がい化している。今回、ロシア国内ではウクライナ侵攻に反対する行動をした1700人が、治安当局によって拘束されたという。まさにKGB・シュタージの手法で民主主義を弾圧しているのだ。

プーチンが理想とするソ連邦の再来はしかし、共産主義ではなくロシアショービニズムともいうべき、民族主義的・愛国主義的な貌をしている。

20世紀がイデオロギーの時代だったと総括するならば、21世紀は宗教と民族主義・愛国主義(一国主義)の時代なのであろうか。民族主義と愛国主義には、じつはイデオロギーがない。誰もが民族の繁栄と国益を大義名分に、あるいは愛国者であることを誇る。プーチンにとってそれは、壁の崩壊というトラウマを払しょくし、共産主義に代わる大義名分となった。

ウクライナ侵攻を皮切りに東欧圏のロシア化を段階的にすすめ、西側ヨーロッパとアメリカ中心の世界を変える。その野望のためには、核兵器の使用すらいとわない。いやすでに、チェルノブイリ原発を制圧下におくことで、核を人質にしているのだ(実際に職員が拘留されているという)。

われわれは80年数年前を思い起こす。ヒトラーとその政権が、誰も思わなかった世界大戦を引き起こしたことを。そのとば口はオーストリア併合であり、ズデーデン地方の割譲によるチェコスロバキアの解体だった。アドルフ・ヒトラーもトラウマは、ウイーン時代の貧困とユダヤ人たちの裕福さへの羨望だった。個人のトラウマが歴史を動かす。われわれは、いまそれを現認しようとしているのかもしれない。
NATO諸国と交戦した場合は、ただちに第三次世界大戦に突入する危険があることだけは、今の段階で指摘しておかなければならないであろう。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年3月号!

筆者の勤務先、ついにクラスターに! 職員不足とのダブルパンチで「野戦」状態に さとうしゅういち

介護福祉士である筆者は、衆院広島1区(広島市中区、東区、南区、総理の地元)内と広島4区(安芸区、安芸郡、東広島市の大部分など)内の介護施設に勤務しています。このうち、広島1区の介護施設に2022年2月14日、ご利用者1人、職員1人の感染が確認され、ついにコロナが上陸してしまいました。広島県内の感染者数も減少傾向に入ってほっとした矢先の出来事でした。

そして、2月22日までに当該施設の感染者はご利用者6人、職員2人に増え、5人というクラスター発生の基準を上回ってしまいました。いつかは、くるかも、と頭の中では考えてはいました。しかし、現実に自分が勤務する施設でクラスターが発生すると、まるで夢をみているような状況に不覚にもなってしまいました。

◆これまでの経過

これまでの状況を年表風にまとめると以下のようになります。

1/24(月)広島4区の介護施設に入居する予定の方がコロナ感染。入居延期に。
1/25(火)広島1区の介護施設に入社予定の職員がコロナ感染発覚。勤務開始の目処たたず。
2/10(木)筆者、1区の施設にコロナ上陸前最後の出勤
2/11(金)~13(日)筆者の仕事はお休み。
     広島市内で街頭演説や炊き出しのボランティア、労働組合の役員会など活動。
2/14(月)筆者、広島4区の介護施設に勤務。
     1区の介護施設でご利用者1人、職員1人の感染発覚 筆者は知らず
2/15(火)筆者は、ワクチン接種のため、お休み。広島市内の団体や政党など挨拶回り。
2/16(水)筆者、広島1区の介護施設に上陸後最初の勤務。
     職員1人の感染発覚。累計でご利用者1,職員2の感染者。
2/17(木)筆者、広島1区の介護施設に勤務。
2/18(金)筆者、広島1区の介護施設に勤務。
     あらたにご利用者1人の感染発覚。累計ではご利用者2人、職員2人の感染者。
2/19(土)筆者は仕事休み。
2/20(日)筆者は広島4区の介護施設に勤務。
2/21(月)筆者は広島4区の介護施設に勤務。
     広島県では、まんえん防止措置は延長も認証店では酒類提供可能に。
     2/19-2/21の3日間にあらたに1区の介護施設で2人のご利用者感染。
     ご利用者4人,職員2人の累計6人の感染者でクラスターに発展。
2/22(火)筆者、広島1区の介護施設に出勤。あらたに2人のご利用者感染。
     ご利用者6人、職員2人。合計8人に。

ちなみに、広島県、隣接する岩国市、そして感染の震源地とされる米軍岩国基地の新規感染者数の推移は以下です。

02/01 1056-20-17
02/02 1027-27-11
02/03 1179-20-13
02/04 1233-19-11
02/05 1277-22-0
02/06 1109-19-0
02/07 748-22-4
02/08 892-13-9
02/09 1042-10-10 広島県再び前週同日比増加
02/10 1008-9-10
02/11 1080-9-7
02/12 820-15-0
02/13 736-12-0
02/14 606-11-0
02/15 922-12-9
02/16 972-21-9
02/17 896-14-17
02/18 764-21-5
02/19 791-25-0
02/20 771-22-0
02/21 490-30-0
02/22 671-20-0

◆要介護度が低い方への感染契機に状況悪化

今回の施設内クラスターで最初に利用者で感染された方はほぼ、ねたきりの方でした。しかし、要介護度が低い方が感染して、一挙に状況が悪化しました。要介護度が低い方が感染するとなぜ状況が悪化するのか?ご説明します。

ねたきりの方の場合は、食事などで例外的に個室から出てこられる以外は出てこられません。ですから、
1 ご利用者には個室で食べて頂くようにする。
2 職員は徹底した手洗いなどを大前提にオムツ交換などに向かうときは、上下完全防備のガウンとフェイスシールドを着用し、個室を出る前に脱いで捨てる。マスクはもちろん、完全防備の医療用のもの(写真)をつかう、
を守っていれば問題は比較的少ないのです。

しかし、要介護度が低い方は、お元気です。他のご利用者とも普段からコミュニケーションは盛んにとっておられました。他のご利用者の個室にもよく遊びにいかれます。こうした方々がほぼ無症状で、意識しないで、大声でいろいろな人に話しかけられるということが起きます。マスクも職員とちがってきちんとすることはない。要介護度が低い方はいわゆる「スーパースプレッダー」になるリスクが極めて高いのです。また、こういう方々はお元気ですから、隔離されても、個室の外へ出ようとされます。そのことを制止しようとするだけでも相当なストレスです。

◆食事時間帯は人員不足とダブルパンチで野戦状態に

介護施設のクラスターで一番、大変なのは、朝昼夕の食事時間帯です。感染拡大防止のために、ほとんどのご利用者には、個室で食べて頂くことになります。ただし、食事の際に介助が必要な非感染者の方の多くは、食堂で食べていただくことになります。こうした方々は、きちんと見守りをしないと、誤嚥のおそれもあるからです。食事介助を必要とされる全てのご利用者の個室に職員を派遣して介助をする余裕はもちろんありません。

一方で、感染者の方は絶対に個室で食べて頂くしかありません。とくに問題は中途半端に立ち上がる能力はあるけれども、安定して歩けない方が感染した場合です。こういう方も個室で食べて頂かないといけません。職員は他の利用者の食事介助もしなければなりません。

そういうときに、このタイプの感染者のご利用者が歩こうとして倒れたら大変です。そうはいっても、転倒したご利用者を助けにいくのなら、ガウンにフェイスシールドを装備しないといけません。帰りは脱いで捨てるしかありません。そうこうする間に、元気な感染者が、個室を出ようとされたり、食事介助を必要とされる方が誤嚥をおこされたり、ということもあり得ます。

まさに、野戦のようなありさまです。これが、まだ、最低でも10日程度続くと予想されています。たまったものではありません。

◆やはり十分な人員確保とそれに向けた抜本的待遇改善が必要だ

さて、たとえば、利用者を歩かないよう拘束すれば、これは高齢者虐待防止法などで禁じられた違法行為になります。やむを得ず拘束をするにも、3つの要件がそろい、家族の同意が得られてからです。さりとて、このままでも転倒する方などが増えます。

そうすると、介護現場の人員を増やしすしかないのです。人員に余裕があれば、緊急時にも対応しやすくなります。当該施設においては、退職者があいつぐいっぽうで、補充で新規に入社予定の方がコロナ感染で出勤のメドが立たない状況の中で起きたクラスターでした。

その人員確保のためにも、地元の総理・岸田さんに対しては、3%賃上げなどと心細いことではなく、ガツンと財政出動による月給10万円アップをお願いします。そして、短期的にも今回のパンデミック対応として、危険手当の支給をお願いするものです。また、一時は当該施設でも濃厚接触者となった労働者が出勤停止となり、「野戦」状態はさらにひどくなりました。濃厚接触者となった人への補償もありません。濃厚接触者となった介護・保育労働者への補償もお願いするものです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年3月号!

浪江町民の鈴木正一さんが詩で綴る〝原発事故棄民のリアル〟〈下〉 鈴木博喜

 
鈴木さんが自費出版した詩集「棄民の疼き」

「ふるさとの復興」
大平山霊園 災害公営住宅建設
「道の駅なみえ」オープン 請戸漁港再建
常磐線全線開通 世界最大水素工場や
県最大酪農牧場計画策定等々
視える確かな復興事業
中には待ち焦がれる帰還を疎外する施策も

2万1000人の町民
避難指示解除4年で帰還者7%
創生小中学校開校
1700人程の児童生徒は26人に
小中学校誰しも抱く心の拠り所
請戸小学校は震災遺構で保存決定
5つの小中学校は
閉校式もなく解体決定
住民意向調査の結果
「帰還しない」は54・9% 過半数を超えた
「要介護認定率」は郡内最大の増加23%超

住んでいない避難町民からも固定資産税や住民税を徴収
まるで核災がなかったかのよう…
余にも理不尽な政府の圧政・収奪
更にコロナ禍での生活困窮
「被災者に寄り添う」?
喜びより恨めしさがつのる
ふるさとの復興
(初出2021年3月「コールサック」第105号)

原発事故発生から間もなく丸11年。確かに浪江町役場周辺の景色は一変した。立派な道の駅が完成し、イオンもできた。常磐線が全線開通した。海側では、津波で壊滅的な被害を受けた請戸漁港が再建され、町立請戸小学校は震災遺構として残された。では、原発事故は「終わった」のだろうか。もはや「過去の出来事」なのだろうか。

自らを含む原発事故の被害者を「核災棄民」と名付けた鈴木さん。2019年5月の第1回口頭弁論では、法廷での意見陳述でこう訴えた。

「福島第一原発の事故は、巨大な人災です。核の人災です。加えて、浪江町は原発隣接地であるにもかかわらず、町民にはバスなどの避難手段も汚染の情報も国から提供されませんでした。浪江町民は皆、国から見棄てられた『棄民』です」

原告団長として先頭に立って国や東電と闘っている鈴木さん(右)。「浪江町民は国から見捨てられた『棄民』だ」と訴える

原発事故後の「棄民政策」は、町のシンボルでもある学校までをも奪う。

詩で触れられている「5つの小中学校は閉校式もなく解体決定」とは、大堀、苅野、幾世橋、浪江の4小学校と浪江中学校のこと。

卒業生から「希望者全員が参加出来るよう校舎見学会と閉校式を行ってください。それまで、校舎の解体を延期してください」と求められたが町は拒否。現在はすっかり取り壊された。背景には、環境省が国費での解体申請に期限を設けたことがあった。原発事故がなければ閉校する必要などなかったのに、加害当事者(国策として原子力発電を推進してきた)である国が「解体費用を出したくなかったら、さっさと解体を決めて申請しろ」と町に迫り、町もそれに従った。そこには原発事故に翻弄された卒業生たちの想いなどなかった。東京五輪の聖火リレーで出発地となった浪江小学校では、解体番号が書かれた看板が一時的に取り外され、復興の〝演出〟が終わるとあっという間に解体された。

2018年11月27日の提訴から今秋で4年。これまでの弁論期日では書面のやり取りばかりで、原告からは「判決はいつになりそうなのか」など、いら立ちとも中だるみとも言える言葉が出てくる。高齢であればなおさら「のんびりと裁判している時間などない」と考えてもやむを得ない面もある。このタイミングで詩集を配る背景には、改めて原告みんなで団結して裁判に臨みたいとの想いがある。

「『4年経っても、ちっとも前に進まないじゃないか』と考えている原告もいると思います。でも、今年は大きなヤマ場を迎えます。原告一人一人の本人尋問が始まります。5月には、現地進行協議という名目で裁判官が浪江町を視察します。その山に向かって、みんなでもう一度心をひとつにして闘いましょうという想いも詩集にはこめられているのです」

詩集の最後のページに収められたのは「歩み固かれ 目は遠く」という詩だ。

「性差別とか人種差別とか、世界中にいろいろな運動がありますよね。われわれの闘いもそれらに含まれるんだよと。われわれの裁判闘争にも希望を持っていただきたいということなんです。『歩み固かれ』というのは、みんなでしっかり団結して一歩ずつ前に進んで行こうという意味です。『目は遠く』というのは、勝利は遠く向こうにあるけれども、しっかり歩いて行けば自分たちの手に入れることができるということ。この言葉は、土井晩翠が作詞した県立双葉高校校歌の4番の一番最後の歌詞なんです。われわれも一歩ずつしっかり裁判を積み重ねて、そして勝利を目指してがんばろう。世界中で多くの人々がこういう運動をやっているんだよ、われわれだけじゃないよという希望をこめて書いたんです」

詩「歩み固かれ 目は遠く」には「浪江町民の闘いも世界中のさまざまな社会運動の1つ。闘っているのは私たちだけじゃない」という原告たちへのメッセージが込められている

60代で震災・原発事故に被災した鈴木さんも71歳になった。

「6月28日で72歳になります。年男です。前町長の馬場有さんは私の誕生日の前日に亡くなったんだよね。詩集を11月27日に発行したのは、提訴日だからです。では、なぜ11月27日に提訴したかというと、馬場さんの月命日に提訴したいという弁護団の想いがあったからなんです。弁護団は馬場さんとずっと一緒に集団ADRをやってきましたからね。それで月命日に提訴しようということになった。馬場さんの奥さんにも『墓前に供えてください』と詩集を贈りました。ちょっとした言葉や数字にも、私なりの想いがこめられているんですよ」

印刷代など全て自費。200部印刷し、弁論期日に駆け付けた原告などに無償で配っている。

「書店などで一般に販売しているものではなくて、個人的に200部印刷して持っているわけですから、電話をいただければ私から直接、送ります。無料で郵送しますよ」

詩集の希望者は鈴木正一さんの携帯電話090(8927)5640まで。

◎鈴木博喜「浪江町民の鈴木正一さんが詩で綴る〝原発事故棄民のリアル〟」
〈上〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=41937
〈下〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=41944

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年3月号!
〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』vol.30(紙の爆弾 2022年1月号増刊)

風雲急を告げる、ウクライナ戦争の本質 ── 戦争をもとめる国家・産業システム 横山茂彦

「平和の祭典(休戦期間)」オリンピックの終了とともに、事実上ウクライナ戦争(ロシアの侵攻)が始まった。

一部の報道によれば、プーチン大統領は21日、ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州の一部地域の独立を承認し、「平和維持」を目的として、この地域に対し、軍を派遣する命令書に署名した。

すなわち、ロシアのプーチン大統領が、親ロシア派が支配するウクライナ東部の一部地域の独立を承認し、同地域への軍の派遣を命令したというのだ。動員された規模は19万人で、第二次世界大戦いらいの規模だとされている。

ドネツク州とルガンスク州の一部地域は、2014年に人民共和国として一方的に親ロシア派が独立を宣言していたが、国際的には承認されておらず、独立を承認するよう今月21日にプーチン大統領に要請したものだ。

これに先立つ20日、アメリカのバイデン大統領は「プーチン大統領がウクライナ侵攻を決意した」と、記者会見していた。まるでバイデンがプーチンの決意を代弁し、それにプーチンが正面から応えたかたちで、戦争の火ぶたが切られようとしている。


◎[参考動画]Moscow Orders Troops To Ukraine’s Separatist Regions(MSNBC2022年2月22日)

◆地域覇権主義と軍産複合体

単純に言えば、ロシアの伝統的な拡張主義とアメリカの軍産複合体が、ウクライナ内戦の延長に軍隊を動かした、ということになる。

ロシアの拡張主義(地域覇権主義)は、それ自体は国家の本質的意志であり、旧共産党政権、プーチンなど独裁的な政権をこのむ国民性に支えられた強権外交である。

いっぽう、ロシアのウクライナ軍事侵攻をことさら過剰に喧伝し、みずからも数千人単位の兵員を周辺地域に動員したアメリカには、10年に1度は戦争をしないと、軍需商品が回転しない事情がある。したがって、国民の3000万人におよぶ軍産複合体の構成員たちの要望によるものだ。

そして、戦争発動の大義名分は東ヨーロッパ特有の、多民族の混住という特性において、自民族住民の保護を名目としている。この事情は、ナチスドイツの30年代後半の併呑主義の例をあげて、19世紀・20世紀いらいの国家と民族の矛盾にあると指摘してきた。

『平和の祭典』北京冬季五輪とウクライナの危機(2022年2月4日)
 
オリンピックが武器を持たない国家間の競争であるのとパラレルに、戦争は民族の防衛を名目とした国家間の闘争である。したがって、時期的にふたつのイベントが重なったのは、まったく偶然というわけではない。西側(米日・EU)が北京五輪を外交ボイコットするなか、プーチンは習近平との会談で合意を取り付けつつ、西側への圧力をつよめてきた。

そしてこの侵攻は二度目であり、前回とまったく同じ構造である。

北京オリンピックが閉幕したことで、現地メディアのなかでは、2014年のクリミア併合が、ソチオリンピック・パラリンピックの直後に行われたことを挙げて、歴史は繰り返されると予測されていた。まさにその通りになろうとしているのだ。

◆国境のない国

ここ数日間に、確認されているだけで1500件以上の「停戦合意違反」が生起し、ロシア系ウクライナ国民の大半が国境をこえているという。いや、事実上の国境は東ウクライナと首都キエフの中間にあって、武力制圧が国境線を決めることになる、いわば内戦下の国なのだ。

正規軍(ウクライナ軍)とロシア軍の衝突が、どのくらいの規模で起きるかは不明だが、ロシア軍が平和維持を名目に大軍でドネツク州とルガンスク州を制圧し、東ウクライナの事実上の支配権を確立することになるだろう。

ウクライナの全人口のうち、ロシア人は17.3%を占める。ほかに少数民族としてクリミア・タタール人、モルドヴァ人、ブルガリア人、ハンガリー人、ルーマニア人、ユダヤ人、高麗人(ロシア系朝鮮人)が4.6%。ウクライナ人は77.8%である。そして困難なのは、ロシア人の3分の1がロシア国籍(二重国籍)を持っていることだ。

このあたりが、われわれ日本人にはピンとこないところかもしれない。わが国の在留・在住外国人は280万人とされているが、帰化申請者は年間数千人(中国人・韓国人・朝鮮人など)におよぶが、国籍取得者は毎年千人前後である。

基本的に国籍条項で二重国籍が禁じられている(罰則なし)ので、積極的な二重国籍取得者はいない。

つまり、出生地主義の国(アメリカなど)で生まれた帰国子女、協定永住権取得者(在日韓国・朝鮮人)が帰化したさいに母国国籍を離脱しない場合など、特殊なケースを除いては二重国籍は発生しない。これがじつは島国の特性なのである。

ヨーロッパの、とくに東欧においてはたび重なる国境の書き替え(ウクライナの場合は、第一次大戦後のブレスト・リトウスク条約)によって、混住地域に国境線が引かれてきた。これが内戦の主要因であり、それに生じて大国間の地域覇権の争奪の大義名分となるわけだ。

いずれにしても、ウクライナが欧米に支援をもとめたことで、アメリカの軍事介入が日程に上りそうな勢いだ。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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新聞衰退論を考える ── 新聞人の知的能力に疑問、新聞社のビジネスモデルの闇、ABC部数検証・兵庫県〈3〉 黒薮哲哉

今回の記事は、兵庫県全域を対象として新聞のABC部数の欺瞞(ぎまん)を考えるシリーズの3回目である。ABC部数の中に残紙(広義の「押し紙」、あるいは「積み紙」)が含まれているために、新聞研究者が新聞業界の実態を分析したり、広告主がPR戦略を練る上で、客観的なデーターとしての使用価値がまったくないことなどを紹介してきた。連載の1回目では朝日新聞と読売新聞を、2回目では毎日新聞と産経新聞を対象に、こうした側面を検証した。

今回は、日経新聞と神戸新聞を対象にABC部数を検証する。テーマは、経済紙や地方紙のABC部数にも残紙は含まれているのだろうかという点である。それを確認した上で新聞部数のロック現象の本質を考える。結論を先に言えば、それは新聞社の販売政策なのである。あるいは新聞のビジネスモデル。

日経新聞と神戸新聞のABC部数変化を示す表を紹介する前に、筆者は読者に対して、必ず次の「注意」に目を通すようにお願いしたい。表の見方を正しく理解することがその目的だ。

【注意】この連載で紹介してきた表は、ABC部数を掲載している『新聞発行社レポート』の数字を、そのまま表に移したものではない。『新聞発行社レポート』の表をエクセルにしたものではない。数字を並べる順序を変えたのが大きな特徴だ。これは筆者が考えたABC部数の新しい解析方法にほかならない。

『新聞発行社レポート』は、年に2回、4月と10月に区市郡別のABC部数を、新聞社別に公表する。しかし、これでは時系列の部数変化をひとつの表で確認することができない。時系列の部数増減を確認するためには、『新聞発行社レポート』の号をまたいでデータを時系列に並べ変える必要がある。それにより特定の自治体における、新聞各社のABC部数がロックされているか否か、ロックされているとすれば、その具体的な中身はどうなっているのかを確認できる。同一の新聞社におけるABC部数の変化を長期に渡って追跡したのが表の特徴だ。

◆日経新聞のABC部数変化(2017年~2021年)

2017年4月から2021年10月までの期間における日本経済新聞のABC部数

部数のロックは経済紙の日経新聞でも確認できる。たとえば神戸市兵庫区では、2018年4月から2020年4月までの2年半の間、部数の増減は1部も確認できない。2年半にわたり部数がロックされていた。兵庫区の日経新聞の購読者数が2年半のあいだ1部たりとも増減しないことなどは、正常な商取引の下ではまずありえない。新聞社サイドが販売店に対して「注文部数」を指示していた可能性が極めて高い。

◆神戸新聞のABC部数変化(2017年~2021年)

2017年4月から2021年10月までの期間における神戸新聞のABC部数

表が示すように、地方紙である神戸新聞でもロック現象が確認できる。たとえば赤穂市では、2017年から2020年までの3年半に渡りABC部数が6222部でロックされている。赤穂市における日経新聞の読者数に1部の増減も生じないことなどまずあり得ない。新聞社が販売店に対して新聞部数のノルマを課している可能性が極めて高いのである。

ただ、ロックの規模は読売新聞や朝日新聞ほど極端ではない。これら2紙の部数表では、いたるところにロックを表示するマーカーが付いたが、神戸新聞の場合は、マーカーが付いていない自治体のほうが多い。これは他の地方紙でも観察できる傾向である。地方紙にも残紙はあるが、中央紙に比べるとその規模は小さい。

たとえば販売店が勝訴した佐賀新聞の「押し紙」裁判(2020年5月判決)では、おおむね10%から20%が「押し紙」だった。この数字は、中央紙に比べるとはるかに少ない。

◎判決文の全文 http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2020/05/saga_oshigami_sumi.pdf

◆新聞業界ぐるみの大問題

兵庫県全域を対象とした新聞のABC部数調査(朝日・読売・毎日・産経・日経・神戸)を通じて、新聞部数をロックする販売政策が新聞業界全体で行われていることが明白になった。もちろん熊本日日新聞のように注文部数を店主が自由に増減する制度を採用している社もあるが、それは例外である。部数をロックして、新聞を定数化(ノルマ化)する商慣行が構築されていると言っても過言ではない。その結果、大量の残紙が日本中の販売店に溢れているのである。

ちなみに、部数のロック行為は独禁法の新聞特殊指定に抵触する。新聞特殊指定の下では、「新聞の実配部数+予備紙」(「必要部数」)を超える部数は、理由のいかんを問わず原則として、すべて「押し紙」と定義されている。部数のロックにより、「必要部数」を超えた新聞が販売店に搬入されることになるわけだから、新聞特殊指定に抵触する。新聞社による「押し売り」の証拠があるかどうかは、枝葉末節なのである。

改めて言うまでもなく、残紙には予備紙としての実態がほとんどない。その大半が予備紙として使われないままトラックで回収されている。

残紙問題は新聞人の足元で展開している問題である。しかも、それが少なくとも半世紀は持続している。新聞人にその尋常ではない実態が見えないとすれば、知力とは何かというまた別の問題も浮上してくるのである。

◎黒薮哲哉 新聞衰退論を考える
公称部数の表示方向を変えるだけでビジネスモデルの裏面が見えてくる ABC部数検証・兵庫県〈1〉
新聞社が新聞の「注文部数」を決めている可能性、新聞社のビジネスモデルの闇、ABC部数検証・兵庫県〈2〉
新聞人の知的能力に疑問、新聞社のビジネスモデルの闇、ABC部数検証・兵庫県〈3〉

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉の最新刊『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』
タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年3月号!