渡辺昇一の「朝日憎し」提訴原告数が「在特会」構成員数とほぼ一致

まだ生きていたのか! 1月27日の新聞報道を見て声に出してしまった。本当は奴が生きていることは書店で質の悪い月刊誌の表紙などで名前を目にするから知ってはいたのだけども、懲りもせずにまたぞろいじましい老醜をさらしているので、徹底的に叩かせていただく。

歴史改竄主義確信犯で、差別者、日本財団(元日本船舶振興会)の理事を務めたこともある渡辺昇一だ。渡辺は『知的生活の方法』で名前が売れた後に、これでもか、これでもかと歴史改竄運動の先陣を走り続けてきた人物だ。80年代には「またあのアホが」程度にしか相手にされなかったけれども、世情の変遷と共に不幸なことにこのような「法螺吹き」が堂々と闊歩する時代になってしまった。渡辺は「南京大虐殺の被害者は40人から50人」、「沖縄戦での集団自決は左翼に先導された人が騒げば金が出ると堕落した結果」、「ヒットラー、ムッソリーニは共産主義者」、「適度の放射能とは、実際にどのくらいか。著者はおそらく毎時20ミリシーベルトと毎時50ミリシーベルトの間にあるのではないかと推定している」(ちなみに毎時20ミリシーベルト被爆すると全員が死亡する、民間人の法定上限は「年間1ミリシーベルト」だ)などの真顔で述べる人間だ。

◆相も変わらずの「何が何でも朝日新聞憎し」

奴を団長に8700人余名が笑わせてくれる提訴を1月26日、東京地裁に行った。新聞の見出しではこうだ。

「朝日慰安婦報道で国民名誉傷つけた」

ほー、どんな訴えなのだろう記事によると、

「朝日新聞従軍慰安婦報道について、8700人余りの市民が『誤った事実を国際社会に広め、日本国民の人格権や名誉を傷つけた』として、同社に一人1万円の慰謝料と謝罪広告の掲載を求める訴えを起こした。原告には研究者やジャーナリスト、国会議員らも含まれている。追加訴訟で原告数は最大で1万3千人程度になる見込みだという」そうだ。

さらに「訴状では『日本の官憲が慰安婦を強制連行した証拠はない』と主張。朝日新聞が1980~90年代に報じた故・吉田清治氏の証言に基づく記事などを挙げ≪日本軍に組織的に強制連行された慰安婦≫というねじ曲げられた歴史を国際社会に広めた原因になった』と指摘した」としている。

そして原告団長の渡辺昇一は、「朝日新聞が国民に恥ずかしい思いをさせていることに心から怒りを感じている」と述べている。相変わらず渡辺の「何が何でも朝日新聞憎し」の姿勢は変わらないようだ。

私は渡辺昇一の30年来の言論活動に「心から怒りを感じている」。正直早く帰天なさればと思う。

誣告罪(虚偽親告罪)は刑法にしか適用されないから、この提訴は原告敗訴で終わるだけだろうが、にしても税金を使ってまったく意味のない裁判が行われることに「怒りを感じる」。

◆政府と「歴史改竄主義者」の妄動こそが国際社会では恥

「スラップ(SLAP)訴訟」という概念がある。大企業や政府などの力の強い、また経済的に圧倒的な強者が弱者や権力のない個人に対して恫喝や発言の封じ込めを目的に提訴する裁判を意味する。読売新聞が頻繁に利用する手法だ。渡辺らの行動は権力者のそれではないものの、奴らは明確に「表現圧殺・歴史改竄=歴史殺し」を目的としている。原告数を組織動員し学者や国会議員なども加えてることを勘案すれば、この訴訟は分かりやすい「権力者」や「強者」のそれではないけれども、目的と性質は限りなく「スラップ訴訟」に近い。悪質極まりない。

本コラム「『朝日新聞叩き』で進行する『原発事故の本質』隠し」 の中でも触れたが、朝日新聞の「慰安婦報道問題」は全く枝葉末節の事実誤認であり、朝日新聞は謝罪する必要すらない。何故ならば「慰安婦問題」については報道機関ではなく日本政府や日本軍による証拠書類が多数残されており、吉田清治氏の証言は一民間人の発言に過ぎないからだ。

日本国内だけでなく、国連も「慰安婦」についての調査結果を1996年に報告書として発表しており、その際に吉田発言は全く引用されていない。実は昨年10月、外務省の高官が国連に派遣され1996年の国連調査を「訂正してくれないか」と願い出たが、「バカなことを言うな」と国連に一蹴されている。この件は日本国内ではほとんど報道されていないけれども、菅官房長官の意向で「報告書訂正願い」が行われたのだ。ニューヨークタイムスでは「国粋主義者安倍の意向を受けた」や「歴史改竄主義者」と散々な書かれ方をしている。

国際社会で恥をかかされているのは朝日新聞報道ではなく、政府を含めた「歴史改竄主義者」の妄動であることが明確にわかる。

笑わせてくれるのは、「国際社会で恥をかかされたから一人1万円慰謝料を払え」というユスリ同様の要求だ。今8700余名が原告に名を連ねていると言うが、その人々全員の氏名をどこかのサイトで公表してもらえないものだろうか。また、最終的に追加訴訟で原告数が1万3千人程度になる見込みらしいが、その数が不思議なことに「在特会」の推定構成員数と一致しているのはどういう偶然だろうか。

国際社会で恥をかかされて慰謝料が請求できるという論理に則れば、政府の不祥事は全て請求対象になるではないか。殊に東京オリンピックで招致スピーチで完全な嘘を発言した安倍には1億2千万人全員が慰謝料請求を行わなければならない。

歳を取ってボケが進行しているのだろうが、馬鹿もたいがいにしろ!渡辺!

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎イスラム国人質「国策」疑惑──湯川さんは政府の「捨て石」だったのか?
◎人質事件で露呈した安倍首相の人並み外れた「問題発生能力」こそが大問題
◎安倍内閣は「人質の身代わり」に大臣を派遣すべし!
◎「イスラム国」人質事件で見えてきた「人命軽視」の安倍外交
◎「シャルリー・エブド」と「反テロ」デモは真の弱者か?

イスラム国人質「国策」疑惑──湯川さんは政府の「捨て石」だったのか?

諸情報を総合すると残念ながら湯川遥菜さんがイスラム国によって処刑された確度が高そうだ。湯川さんはPMC(Private Military Company)JAPANという会社の社長で、この会社は「民間軍事会社」と名乗っている。あくまで国外での軍事的人命救助や防御を「業務目的」にしているが、「業務実績」はない(国内で「民間軍事会社」は当たり前だが憲法、法律違反だ。目的の如何を問わず「軍事行動」を行えば「内乱罪」や「凶器準備集合罪」で重刑に処される)。

◆二人の人質を繋ぐライン

この会社のサイトには現在も人質として囚われている後藤健二さんの写真や湯川さんと後藤さんが一緒に移った写真が掲載されている。それだけでなく、湯川さと後藤さんが昨年5月イラクで共に現地メディアの取材を受けている動画も掲載されている(応対をしているのは英語が話せる後藤さんで、おそらく湯川さんが映像を撮影したと思われる)。

さらに、英語を中心として構成されている同社のHPには「INDEPENDENT PRESS」というタグがあり、これをクリックすると昨年5月シリア、トルコ国境で後藤さんが撮影した写真を掲載した後藤さんの所属する(実質的には後藤さんの個人の)事務所住所などが掲載されたページへ飛ぶ。

湯川さんは同社HPの中に「CEOブログ」を持っていて活動内容などを記載している。田母神俊雄との交流や彼自身の国際観が綴られており、湯川氏の歴史観や世界観は田母神氏に近いようだ。

◆後藤健二さんとJICAの関係

先の本コラム記事で短く「なぜ今回の人質事件では『自己責任』論が政府から語られないのか」と書いたが、その後の取材でいくつかの事が明らかになった。湯川さんと後藤さんは昨年少なくとも複数回以上イラクやシリアを二人で訪問している。湯川さんは軍事業務目的というよりは取材(もっと言えば単なる訪問)で、後藤さんの取材アシスタント的色合いが濃かったこと(湯川さんは英語もアラブ語も話せないが、ビデオカメラの撮影は手慣れている)。

後藤さんは「子供」の救済などをこれまで中心に手掛けてきたと報道されてるが、紛争地帯の取材経験も少なくない。また紛争地帯を取材するフリージャーナリストが子供に想いを馳せて写真集を出したり、活動することも珍しいことではない。昨年の度重なるイラク、シリア訪問は紛争地取材が目的だったことなどだ。その一部は「報道ステーション」などテレビでも放送されている。また後藤さんは過去、次のような仕事もなさっている。

・JICA研修/広報DVD・ビデオ 『現場に見る人間の安全保障 Ⅱ』和英版
(英版『PROMOTING HUMAN SECURITY IN PRACTICE Ⅱ』)
2007年05月 JICA(国際協力機構)
・JICA研修/広報DVD・ビデオ 『現場に見る人間の安全保障 Ⅰ』和英版
(英版『PROMOTING HUMAN SECURITY IN PRACTICE Ⅰ』)
2006年05月 JICA(国際協力機構)
・外務省 安全対策管理ビデオ 『脅威から我が身を守れ!』
2005年04月 NHKプロモーション

◆「最初から湯川は捨て石だった」

そして、政府と近い消息筋からは意外な言葉が漏れてきた。

「最初から湯川は捨て石だったんだ。その為に国が相当額を出資している」

この発言がどこまで信憑性を持つか私には判断できない。だが、日本政府は昨年8月頃には既に湯川氏が人質となった事を知っていたはずだ。そして湯川氏が社長のPMC JAPANは1月31日現在もHPを開設したままだが、この内容を犯行グループが見れば、解放など望めないことは素人でもわかる。何故不利な証拠以外の何物でもないHPを放置した(させた)のだろうか。

湯川氏がAK47の試射をしている映像までもがいまだに掲載されたままだ。余談だがそこからは彼が武器の扱いに慣れてないことが伺われる。セミオートとフルオートでの試射だが最新型AK47は少年でもそれほど反動を受けないのに、湯川氏はセミオートの単射でも衝撃を体に強く受けて肩を後ろに反らしている。

このシーンを撮影したのはおそらく後藤さんだろう。

英語も話せない湯川さんが、紛争地帯取材に赴くことは、極めて不自然だ。だから後藤さんの同行という形にしたのだろうけれども疑問は残る。湯川さんは中東でも「民間軍事会社社長」を名乗っている。

消息筋に質問してみた。

「捨て石ってまさか、最初から殺されたり人質になることを想定していたのか?」
「そんなことは答えられるはずがないだろう。でも現実が一番雄弁に事実を語ってるだろう」

私個人で真相を探るのには限界がある。金も人手もあるマスコミこそ金太郎飴のように毎日代わり映えのしない報道をしていないで、真相に迫る事実を暴き出そうとは思わないか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎人質事件で露呈した安倍首相の人並み外れた「問題発生能力」こそが大問題
◎安倍内閣は「人質の身代わり」に大臣を派遣すべし!
◎「イスラム国」人質事件で見えてきた「人命軽視」の安倍外交
◎「シャルリー・エブド」と「反テロ」デモは真の弱者か?
◎イオン蔓延で「資本の寡占」──それで暮らしは豊かで便利になったのか?
◎粗悪な食文化の伝道企業=マクドナルドの衰退は「自然の理
◎リクルートの「就活」支配──なぜ国は勧告指導しないのか?
◎2015年日本の現実──日本に戦争がやってくる

イオン蔓延で「資本の寡占」──それで暮らしは豊かで便利になったのか?

イオングループが不振であるようだ。日本経済新聞(2015年1月9日付)によると「価格政策など消費増税後の対応を失敗した」(岡崎双一=イオン専務執行役)そうで、「消費者の支持を得られなかった」という。結果、食料品や衣料品などを幅広く扱う総合スーパー(GMS)事業の不振からイオンの連結営業利益は493億円と前年同期から48%減少。連結対象に加わったダイエーの業績悪化も響き、営業損益で289億円の部門赤字(前年同期は65億円の黒字)を計上した。

◆「AEON」増殖風景の気持ち悪さ

それにしてもあっという間に「AEON」の看板や店舗が日本全国にあふれるようになった。イオンは「イオンモール」を経営する「イオン株式会社」もと「イオンリテール株式会社」が中核をなす。大型ショッピングモールを経営するのは「イオンモール株式会社」で、スーパーマーケット等小規模店舗を経営するのが「イオンリテール株式会社」である。

同社のHPによると、営業収益6兆3951億円(3期連続で日本小売業営業収益NO.1)で、モール型店舗は国内外で168、小型店舗は611に上るという。「イオン」を名乗らないけれども「TOP VALUE」や「ダイエー」と言った小売店も資本系列としてはイオン傘下なので、全国に展開する「イオン」関連の店舗数は数を数えるのが難しいほどだ。

元は「ジャスコ」の名前でさほど派手な印象はなかった「イオン」だが、大規模「イオンモール」を全国に展開し始めてから俄然存在感が高まった。当初は土地の安い都市部から遠隔地に大規模モールを建設し、専ら自動車利用の顧客中心の店舗展開だったが、その後駅前など利便性の高い場所への出店も相次ぎ、「営業収益6兆3951億円」企業へと成長した。

関連会社は、銀行から保険不動産まで。財閥の体をなしてイオンであるが、その増殖振りはやや気持ち悪い。

長距離移動の電車に乗れば10分とおかず、車窓からは「イオン」の名前が目に入って来る。そしてイオンモールを訪れると、どの店も同様の仕様で建築されていて、専門店街に入っているテナントの種類も大差ない。

専門店街テナントは高級ブランドというわけではなく、価格的には中間層のやや上から低所得者層を想定しているようだが、平日に訪れると、イオン自体はともかくテナントに集まっている客がことのほか少ないことが分かる(程度の差こそあれ私が訪問した10店舗ほどのイオンモールは全国いずれもそうだった)。

聞くところによるとテナントとして入るにはかなり厳しい審査があるほか、テナントで働く人々への管理も相当うるさいらしい。更にテナント料が高く、一度は出店したものの、収益が期待期待できず撤退するテナントが後を絶たない。

まあ、それは「イオンモール」内のいざこざだ。本質的な問題はこのように巨大かつ画一的な「ショピングモール」が出来てしまえば、個人商店など到底太刀打ちできないことだ。東京、大阪といった大都市でも駅前商店街には閉店した店が並ぶ。地名を上げて申し訳ないけれども、岐阜などは駅前商店街がほとんど死滅状態だ。

◆つくづく感じる「資本の寡占」

個人商店の危機は深刻というレベルを通り越している。かつて「ダイエー」が栄華を誇った時代に、ダイエーの発祥の地である神戸では「ダイエーが神戸を壊した」と言われた。安価な大規模小売店は商店街や個人商店を直撃し多くの商店主が職を失った。しかし皮肉なことに飛ぶ鳥を落とす勢いで中国進出を本格的に画策していた「ダイエー」は経営破綻に陥りイオンの傘下に収まっている。近く「ダイエー」という屋号も消えるという。

コンビニエンスストアチェーンや「イトーヨーカードー」そして「イオン」を見ていると、何かしら「画一的な購買」しか許されていないような気がしてくる。

品ぞろえは確かに豊富だろうし、価格だって大量仕入れだから高い訳ではない。価格では個人商店より確実に優勢だ。

でも、顔見知りの魚屋さんで、おやじに「今日は何がいい?」と聞いたら「今日はハマチがええよ、お造りでばっちりや」、「ほなそれ貰うわ」といったやり取りや、こちらの嗜好とと懐具合を知り尽くしている店主に「お勧めを」任せられるような買い物は大型店では出来ない。イオンモールのような「怪物」が続出すれば、地域に根付いている商店文化も壊滅してゆくだろう。

資本の寡占が進むというのはこういうことだと「AEON」のロゴを目にするたびに感じる。商店街が懐かしく思い出される。

私たちの生活は本当に便利で、豊かな方向に向かっているのだろうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎粗悪な食文化の伝道企業=マクドナルドの衰退は「自然の理」
◎リクルートの「就活」支配──なぜ国は勧告指導しないのか?
◎人質事件で露呈した安倍首相の人並み外れた「問題発生能力」こそが大問題
◎安倍内閣は「人質の身代わり」に大臣を派遣すべし!
◎「イスラム国」人質事件で見えてきた「人命軽視」の安倍外交
◎2015年日本の現実──日本に戦争がやってくる
◎なぜテレビはどこまでも追いかけてくるのか?

《大学異論30》リクルートの「就活」支配──なぜ国は勧告指導しないのか?

今日4年制大学の学生が卒業後一般企業への就職を考えているならば、彼らが勉学に集中できる期間は2年あまりしかない。就職先を見つける活動を遅くとも3年次の中盤には(それでも遅いという説もある)始めなければ、「内定」を得ることは難しい。これが短期大学生になれば更に忙しことになり、ろくろく勉学をしている時間などない。

大学側は企業経営者連中に対してもう少し常識を持った「採用活動」を要請すべきだと私は思うのだが、そのような声を耳にすることは少ない(一部国立大学が経団連に要請を行ったことはある)。時期が多少ずれはしたけれども、かつては大学と企業の間に「就職協定」と呼ばれる「約束」が一応結ばれていた。例えば「学生の企業訪問解禁は4年生の10月1日とする」といった具合に、就職活動によって学生の学業への影響が出ないように配慮がされていた。水面下ではそれより早時期にが学生と企業の接触があり「青田買い」も起きてはいたが、それでも一定の節度が建前としてはあった。

◆一民間企業が学生に内定獲得の「苦行」を強いている現実

ところがなし崩し的に「就職協定」は廃止にされ、前述の通り、今の大学生は2年もかけて「就職活動」をしなければならない。しかもその方法も煩雑を極めている。「エントリーシート」なるフォーマットに自身の情報や志望動機を書き、企業へ提出するところから「就職活動」は始まるらしいが、その後も「SPI検査」(正確な名称は「SPI総合検査」)、筆記試験を経てようやく面接にたどり着く。面接は大企業なら最低3回はクリアしなければならず、学生が「内定」を得るのは苦行とも言える。またそれに要する費用も大きな負担となっている。

しかしこのような形態での「採用活動」や「就職活動」は自然発生的に定着してきたわけではない。ここまで私は敢えて使わなかったのだけれども学生の間で「就職活動」が「就活」と呼ばれるようになって久しい。私は日本人が不要と思えるほどに言葉を略して使う傾向があると以前から感じていたが「就職活動」を「就活」と言い換えるのはまさにその典型だ。そして自然発生ではない「就活」方法及び言葉としての「就活」は「リクルート」と言う一企業によって操作され作り出されたものだ。

◆「SPI検査」という「士商法」

大学生には入学直後から就職を意識した「キャリア」指導が行われる。ここで言う「キャリア」も正確な英語の意味から大きく外れているうえに、学生がどうして企業の目を意識して学生生活を送らなければいけないのか頭をかしげてしまう。そして多くの大学で行われている「キャリア」指導は的が外れている。企業就職を目指そうが、学者を志そうが大学時代に経験しておくべきは最低限基礎的な学問であり、自分の興味を持つことに時間を割き打ち込むことだ。大学1年生にとって「企業研究」や経済のにわか勉強など全くと言っていいほど不要である。そんなものにしか興味の持てない学生は結果として希望するような就職はできない。

にしても「リクルート」の罪は大きい。進学情報の根元を握っている同社は元々教育機関をメインの顧客に想定していたが、その対象を学生と企業にも広げ、両者の最も敏感である「採用活動」=「就職活動」を新たな儲けのターゲットとした。学生は「リクルート」を儲けさせているという意識はないのだが、前述の「SPI検査」を実施している母体は実質「リクルート」である。この試験が近年相当な存在感を持ってきたために、採用活動においては企業だけでなく地方公共団体も利用している。書店に行けば分かるが「SPI検査」対策の書籍が膨大に出版されている。

大学でも「SPI対策講座」などが行われる。テキストを販売しているのは「リクルート」だけではないがこれだけ「SPI検査」が社会認知を得ると受験対策テキストからの収入だけでも相当な儲けになろう。

「士(さむらい)商法」と呼ばれる手口がある。通信教育で資格取得を目的に教材を販売する商法だ。資格の多くには「税理士」や「行政書士」のように末尾に「士」が付くので「士商法」と呼ばれている。過去幾度も社会問題化しているこの商法、適当なテキストだけ作って売っておけば儲かる仕組みだ。

試験の実施母体がこの「士商法」を利用すればどうなるだろうか。試験を実施する企業や地方公共団体からは「試験問題」料金を徴収できるし、それを受験する学生は準備のためにテキストを購入する。テキストだけでなく「SPI検査トレーニング」を謳うセミナ―なども開かれており、中には参加費が20万円以上するものもある。

加えて「エントリーシート」はインターネット上で行われるのだが、そのフォーマット自体を特定サイトからしか記入できない仕組みを採用している企業が多い。そのサイト名は「リクナビ」、これまた「リクルート」である。企業も大学も学生も「就職活動」に関わる行程を「リクルート」に支配され、加えてリクルートはその過程ごとに儲かる仕組みになっている。

◆リクルート商法と巨大利権の闇

リクルートは江副元社長が贈賄で逮捕された過去を持つ会社だが、「就職活動」に関わる「リクルート」過剰ともいえる支配と商法は明らかにあくどい。単に露骨な金もうけに走っているだけではなく、学生生活の貴重な時間を奪い不要に長い「就職活動」を強制していることも許しがたい。

一民間企業の過剰支配にどうして厚生労働省や文部科学省は勧告や指導をしないのであろうか。また大学側もなぜ声を上げないのだろう。

巨大利権の裏に常に横たわる「政治」がここでも暗躍しているのではないかと疑われても仕方が無かろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎《大学異論29》小学校統廃合と「限界集落化」する大都市ニュータウン
◎《大学異論28》気障で詭弁で悪質すぎる竹内洋の「現状肯定」社会学
◎《大学異論27》「学ぶ権利」を奪われたマスプロ教育の罪──私的経験から
◎《大学異論26》「東大は軍事研究を推進する」と宣言した濱田純一総長声明文
◎《大学異論25》ロースクール破綻の無策と「裁判員裁判」の無法
◎《大学異論24》日本テレビが喧伝する「箱根駅伝」の不平等

 

1.17と3.11を忘れない!鹿砦社の震災・原発書籍

 

人質事件で露呈した安倍首相の人並み外れた「問題発生能力」こそが大問題

たった二人(うち一人は既に処刑されたとの報もある)の人質解放に対して、現政権はこれほどまでに対応能力がなかったのかと多くの方々が呆れていることだろう。

◆子どもの感想と変わらぬ発言を繰り返す安倍首相

対策本部をヨルダンに設置してみたところで、実際には何の成果もない。人質交換は「自国の人間が優先だ」とヨルダン政府が発表した通り、日本の存在は完全に無視されている。現地本部の面目は見事に潰された形だ。安倍は人質の画像公開されるたびに「許しがたい暴挙だ。今すぐ人質を解放すべきだ」と繰り返しているが、子供の感想と変わらない。首相なのだから感想を述べている暇があれば解決に向けて尽力して欲しい。

などと、安倍に望むのは間違っている。安倍には問題解決能力はない。人並み外れた「問題発生能力」を備えているが、自分のまいた種で問題が発生すると立ちすくんで小学生並の感想を述べることしかできない。安倍だけでなく現在の自民党はそういう政党であり、公明党も同様だ。さらに言えば野党各党もこの種の問題に対する能力という点では大差ない。共産党の志位は同党の池内沙織衆院議員がTwitterで安倍政権の人質問題対応を批判したことについて「政府が全力を挙げて取り組んでいる最中だ。今あのような形で発信することは不適切だ」と述べ発言を削除させた。さすが「民主集中制、日の丸つけた「スターリン主義政党」の本領発揮だ。

◆ISIS人質事件でなぜ「自己責任論」は語られないのか?

政治家は大方が外交現実対応において必要な能力や経験を備えていないことが分かる。

外交対応能力とは、外国語が話せることを意味しない。むしろ語学力などは二の次だ。世界には多様な価値観が存在し、私たちが「正しい」と考える判断も別の文化では「間違い」にあたることがあること。口頭の「約束」はほぼ必ず破られることが原則であること。「賛同」や「同意」は一時的なものでしかないこと。日本の常識がある国では「死刑」に該当する場合もあること。国際的に「日本人は交渉に弱い」と思われていることを知っておくこと。対応策は1つではなく最善策がダメな場合を想定し最低2つの次善策を用意しておくこと。など民間の大学職員であった私ですら経験的に学んだものだが、政府の対応にそのような痕跡は見られない。

外交評論家と自称する人々で的を得た指摘をしている人がどれほどいるだろうか。東京都知事のねずみ男は国際政治が専門の東大教員だったが、「世界各国回っていてわかったことは、どの国でも売春婦の値段は大学新卒給与の3分の1程度なんですよ」としたり顔で語っていた事を思い出す。売春婦の値段調査に世界中を回っていたのがねずみ男だ。その程度の人間が東大で国際政治を教えていたのだから卒業生である官僚たちの国際感覚も推して知るべしだ。

言い方は悪いが「たった二人」の人質解放に直面してこの体たらくだ。しかも現在人質にされている方は政府の意向でシリアに出かけた可能性が高いと消息筋の未確認情報もある。なるほど、だから今回は「自己責任論」が全く政府側から語られないのか。

◆安倍政権に「集団的自衛権」を担う能力はないことが露呈した

「集団的自衛権」=米国追従の「どの国に対してもの『宣戦布告』」は今回の人質事件と同様の、いや更に困難な事件を多発させるに違いない。それに政府は対応能力が全くないことを今回露呈した。

運転免許書を持っていないのに運転目的で自動車を購入するようなものだ。エンジンをかけて数分後にはどこかにぶつかるか、悪くすると死亡事故を起こすだろう。

勘弁してくれと言いたい。そんな連中が操縦桿を握るあやふやな船で一緒に沈没させられるのは御免だ。

願わくば今回政府の「無為無策」を多くの国民が認識し、それが経済政策や社会保障政策にも通底していることに気がついてほしい。こんな出来の悪い連中に執権を握らせていたら本当の破滅を招き入れる。それを希望する人はいないだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎安倍内閣は「人質の身代わり」に大臣を派遣すべし!
◎「イスラム国」人質事件で見えてきた「人命軽視」の安倍外交
◎「シャルリー・エブド」と「反テロ」デモは真の弱者か?
◎2015年日本の現実──日本に戦争がやってくる

粗悪な食文化の伝道企業=マクドナルドの衰退は「自然の理」

マクドナルドの売り上げが思わしくないらしい。世界中に店舗を展開しコカ・コーラやディズニーと並んで、米国の代名詞に近いマクドナルド。関東では「マック」関西では「マクド」と呼ばれすっかり日本の外食社会に浸透して日の浅くない同社だが、昨年末には店頭で販売するポテトが品薄になり一時「S」サイズしか販売できなくなった、とニュースで報じられていた。

なんで、たかがファーストフードチェーンの商品販売ごときがニュースになるのか、とパソコンの画面を眺めながら、アホ臭いなぁと思っていたが、どうやら業績全体もかなり落ち込んでいるようだ。

◆マクドナルドを成功に導いたのはアメリカ料理のレベルの低さ

日本マクドナルド初代社長の藤田田が「親の舌をハンバーガーに馴染ませたら、子供も食べに連れてくる。徹底的に日本人の舌を変える」と宣言した通り、ハンバーガーは日本で日常的に買える商品になった。開業当初はハンバーガー1つが300円以上していたけども、デフレに合わせて100円バーガーを販売すると、中高生の利用者が爆発的に増え店舗数も3000を超えている。店内には無線インターネット環境も整えられ、ジャンクフードを食べながらそこで長時間過ごすことが出来る、ある種の独自空間にもなっている。

ところが、販売製品に異物が混入したり、他社との競争で劣勢に陥るなど、マクドナルドは全体に元気がない。

喜ばしいことだと思う。

ハンバーガーはきちんとしたハンバーグを作り、それを質の良いパンにはさんで新鮮な野菜を添えて食べれば立派な「料理」といえるが、マクドナルドで売っている、くず肉を使いどこで取れたのかわからない原材料を混ぜこぜにして出来上がった、薬の匂い臭いハンバーガーを喜んで食べるのは自由だけども、それが国民食になるような代物ではない。

この商売が米国で生まれ、そこそこ成功したのにはわけがある。商売方法のうんぬん以前の話だ。

米国には「まずい」食べ物が溢れていて、その中でマクドナルドは、比較的ましな味であったからだ(同様の現象は「ケンタッキーフライドチキン」にもあてはまる)。

多くの方はお気づきだろうが、「フランス料理」や「イタリア料理」、あるいは「地中海料理」などを耳にすることはあっても「アメリカ料理」という言葉を聞いたことはない。米国にちょっと滞在すればすぐにわかる。南部の黒人が独自の「ソウルフード」を伝統としている以外に、米国には「人に出せるような味の料理はない」ことを。

料理にかけて、米国のレベルは世界中でもかなり下位にランクされるだろう。これはひょっとしたら使用言語との関係があるのかもしれないと私的には感じている。英国、豪州、ニュージーランドでも「美味しいその国オリジナル料理」を聞いたことがない。つまり英語を母国語としている国共通の現象なのだ(私の限られた経験からは)。だからそれらの国では中華料理を筆頭に、和食、フレンチ、イタリアン等「外国料理」の店が繁盛する。

◆「アメリカ的」文化への憧憬が消滅すれば、ただ不味いだけのシロモノ

日本にマクドナルドが初出店したのは1971年だ。大阪万博の翌年で、庶民レベルでは文化的にも経済的にも米国はまだ憧憬の的だった。日本人はたぶん「味」にではなく「雰囲気」に惹かれてマクドナルド文化に引き寄せられていったのだろう。またソ連時代のモスクワに1990年マクドナルドが開店した時、何時間も待つ客の列が出来た。これも心象は日本と同様に「アメリカ的」な物への興味が為させた現象だったと想像できる。

マクドナルドの衰退は、他の米国資本のハンバーガーチェーンの日本参入や、コンビニエンスストアの爆発的増加など複合的な原因があろうが、私に言わせると、過剰に流行りすぎたのである。

あんなまずいも、そして体に悪いものを子供の食べさせてはいけない。

手造りのお握りを食べさせている方が余程体にいいだろう。

よくそこまでマクドナルドの悪口が言えるなぁとの声が聞こえてきそうだけども、これは私だけの尺度ではない。

「世界遺産」に「和食」が指定されたではないか(「世界遺産」などという胡散臭い権威を私は微塵も信じてはいないけれども)。

子供の頃からマクドナルドのハンバーガーを与えられて、味覚が形成されてきた方々にも一度試していただきたい。

「これは本当に旨いのか」と疑いながらマクドナルドで最も安いハンバーガーを買う。そして店内に腰かけて周りを見回す。交わされているのはどんな会話だろう。漂っているのはどんな匂いだろう。隣の人はどんな顔をしているだろう。くさぐさ面倒くさいことを敢えて考えた挙句に、覚悟を決めてハンバーガーにかぶりつくのだ。

そこから先のご感想を誘導するつもりはない。私も昔はマクドナルドを食らっていたのだし。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎安倍内閣は「人質の身代わり」に大臣を派遣すべし!
◎「イスラム国」人質事件で見えてきた「人命軽視」の安倍外交
◎「シャルリー・エブド」と「反テロ」デモは真の弱者か?
◎2015年日本の現実──日本に戦争がやってくる

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《我が暴走05》元同僚が実名顔出しで語る「マツダ工場暴走犯の素顔」

2010年6月、12人が死傷する惨事となった広島市南区のマツダ本社工場暴走殺傷事件。犯人の引寺利明(当時42歳)は犯行動機について、「マツダで期間工として働いていた頃、ロッカーを荒らされるなどの集スト(集団ストーカー)に遭い、恨んでいた」と一貫して主張し、2013年に無期懲役判決が確定した。だが、現在も服役先の岡山刑務所で無反省の日々を過ごしているのは当連載ですでにお伝えした通りだ。

実名顔出しで取材に応じた暴走犯の元同僚・藤岡範行氏。広島の裁判所前にて

そんな引寺が事件前、派遣社員として自動車部品の会社で働いていた頃の同僚だった男性が筆者の取材に応じ、殺人犯になる前の引寺の意外な素顔を語ってくれた。その男性は藤岡範行氏、43歳。現在は広島市内の会社で警備員として働きながら、筋力トレーニングと裁判傍聴を趣味にしている男性だ。そのインタビューを通じ、取材では窺い知れなかった凶悪事件犯の意外な素顔が見えてきた。

◆「引寺さんは本当に普通の人でした」

── そもそも、藤岡さんは引寺とどんな関係だったのでしょうか。

事件の10何年前、ぼくと引寺さんは自動車部品会社の工場で一緒に働いていたんです。当時24、25歳だったぼくは派遣社員で、引寺さんも別の派遣会社から派遣されてきていました。引寺さんは当時たしか29歳か30歳くらい。ぼくら2人とNさんという正社員が3人で1つのラインで働いていました。

── 藤岡さんの目から見て、引寺はどんな人物だったんでしょうか?

普通のオニーサンという感じでしたね。性格は柔らかく、おとなしかった。気を使わなくていい雰囲気の人でしたね。ぼくは妙に気が合ったというか、仲良くしてもらっていました。一緒に仕事をしていても、やりやすかったですよ。派遣社員は難しい人が少なくなく、派遣社員同士でケンカになることもあったんですが、引寺さんは本当に普通の人でした。

── 引寺と話すときはどんな話題が多かったですか?

引寺さんはしゃべらない人だったんですよ。冗談も全然言わないし、女性の話もしなかった。休憩時間も一人で煙草を吸っていることが多かったし、ご飯も一人で食べていました。それに作業の合間も、みんなが休んでいるのに、一人だけ掃除をしていたりする。『そのほうが、気を使わんでええけえ』と言っていました。

── それは意外ですね。私に対しては、面会でもよくしゃべるし、手紙でも「~であります(笑)」「ハハハハハハ~~~!!」などといつもハイテンションなんですが。

ぼくが知っている引寺さんとは全然違いますね。ぼくの印象では、引寺さんは決して明るい人ではなく、どちらかというと暗い人でしたから。そういえば、事件を起こしたときにテレビなどで姿を見た引寺さんは全体の雰囲気こそ当時と変わりませんでしたが、老けて、太っていましたね。ほくと一緒に働いていたころ、引寺さんは痩せていたんですよ。

── 引寺は趣味とかはなかったんでしょうか?

「車は、好きだったんでしょうね。自分から車好きだと話すことはなかったですが、スポーツタイプの凝った車に乗っていたんで、車好きだということはわかりました」

◆集ストは「被害妄想だと思います」

── 私に対しては、引寺は車が好きだという話は普通にするんで、ずいぶん印象が違いますね。引寺が事件を起こしたときは驚きましたか?

そうですね。警備の仕事で詰所にいたとき、事件の第一報をラジオで聞いたんですが、「ヒキジ」というのは珍しい名前なので、「えっ、ヒキジ!?」とすぐに引寺さんのことを思い出しました。まさか、あの引寺さんとは違うだろうと思いつつ、携帯でネット配信されているテレビのニュースを観たら、やっぱり引寺さんだった。「わっ、引寺さん」というのが率直な感想でしたね。ただ、事件を起こしたときも驚きましたが、それ以上に驚いたのが裁判のときでした。

── どんなことに驚いたんですか?

ぼくは当時、まだ裁判を傍聴する趣味はなく、引寺さんの裁判の様子は報道でしか知りません。でも、ずいぶんキレていたそうじゃないですか。先ほども話したように、ぼくが知っている引寺さんはおとなしく、やわらかい人だったんで、あんなにキレるのか、とビックリしました。裁判に行きたいとも思っていましたが、報道をみて、やめておきました。

── 私が引寺を取材したのは控訴審段階以降なんですが、第一審の頃から公判中に不規則発言を連発していたみたいですね。引寺は犯行動機については一貫して、マツダの工場で働いていたときに集ストに遭い、恨みがあったと主張していますが、あれはどう思いますか?

やはり被害妄想だと思います。

── 昔から被害妄想に陥るような人だったんですか?

いえ、一緒に働いていた時には、妄想とかは全然ない人でしたね。派遣社員は正社員に比べて待遇が悪く、低く見られていましたが、引寺さんは正社員のグチを言うこともそんなになかったように記憶しています。ぼくのことをよくいじめる正社員がいたんですが、そのことを引寺さんに話したときも『ああ、あいつか』という程度の答えしか返ってきませんでした。

── 旧知の仲である藤岡さんの目から見て、引寺はどうして、あのようになってしまったと思いますか?

社会の「ひずみ」のせいだと思います。極端な話、待遇のよい仕事に就いていて、お金に余裕のある人はあんな事件を起こさないと思うんですよ。秋葉原(通り魔殺人事件)の加藤(智大。)だって、そうでしょう。事件を起こしたわけじゃないですが、ぼくだって社会の「ひずみ」は感じていますよ。自分の現状については、誰のせいでもなく、自分が悪いだけなんですが、社会のせいだと思うこともありますし、親のせいにしたこともありましたから。いまの社会は仕事を自由に選べるとはいっても、正直、いい仕事も悪い仕事もありますからね。人のせいにしてはいけないんでしょうが、どうしてもしてしまうんです。

引寺が公判中に大暴れした広島の裁判所庁舎を悲しそうに見つめる藤岡範行氏

◆「ワシみたいになるなよ」と言われた

── 引寺もやはり、将来への不安などはあったと思いますか?

それはあったろうと思います。あれはたしか事件の2~3年前のことだったでしょうか。すでに引寺さんと同じ職場で働かなくなって随分年月が経っていましたが、立ち読みに行った本屋でたまたま引寺さんと会ったんです。会うのは久しぶりでしたが、引寺さんは「いまも派遣の仕事をしよるけど、よう休んどるし、クビになるじゃろう」「クビになったら、ワシはもうくたばるわ。社会保険も払っとらんし」などと暗いことを言っていました。国民年金も何年も滞納しているとのことでした。そういえば、ぼくと一緒に働いていたときも引寺さんは、仕事ぶりはマジメでしたが、風邪でよく休んでいましたね。そのときが引寺さんと会った最後になりますが、「藤岡くん、ワシみたいになるなよ」「手に技術を身につけとけよ」と言われたのが今でもとても印象に残っています。

── 藤岡さんは先日、引寺に手紙を出したそうですが?

岡山刑務所に手紙を書き、これで雑誌でも買ってくださいと少しお金を差し入れたら、丁寧なお礼の手紙が来ました。嬉しかったですね。引寺さんは以前、ぼくのことを「藤岡くん」と呼んでいたんで、「藤岡さん」と書いてあったことには少し違和感がありましたが(笑)。「~であります(笑)」とか「ハハハハハハ~~~!!」などということは書いてなくて、真面目な文面でしたよ。面会は刑務所が認めてくれるかどうかわからないそうですが、可能なら面会にも行きたいです。実は引寺さんから「手に技術を身につけとけよ」と言ってもらったこともあり、ぼくはいま、宅建の勉強をしています。試験はなかなか受かりませんが、このような勉強をしようと思ったのも引寺さんのおかげなんですよ。

以上、旧知の仲である藤岡氏の語った引寺利明像だ。事件の2~3年前に引寺が派遣社員の仕事に行き詰まりを感じ、悲観的な話をしていたという藤岡氏の証言が仮に事実だとしても、それを軽々と事件と結びつけるわけにはいかない。しかし、少なくとも「普通の人」だった引寺が「凶悪事件犯」に生まれ変わる過程で何らかの影響があった可能性が感じられた。また何か新しい情報が入手できたらレポートしたい。

【マツダ工場暴走殺傷事件】
2010年6月22日、広島市南区にある自動車メーカー・マツダの本社工場に自動車が突入して暴走し、社員12人が撥ねられ、うち1人が亡くなった。自首して逮捕された犯人の引寺利明(当時42)は同工場の元期間工。犯行動機について、「マツダで働いていた頃、他の社員たちにロッカーを荒らされ、自宅アパートに侵入される集スト(集団ストーカー行為)に遭い、マツダを恨んでいた」と語った。引寺は精神鑑定を経て起訴されたのち、昨年9月、最高裁に上告を棄却されて無期懲役判決が確定。責任能力を認められた一方で、妄想性障害に陥っていると認定されている。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年、広島市生まれ。早稲田大学商学部卒業後、フリーのライターに。新旧様々な事件の知られざる事実や冤罪、捜査機関の不正を独自取材で発掘している。広島市在住。

《我が暴走01》手紙公開! 無期確定1年、マツダ工場暴走犯は今も無反省
《我が暴走02》「刑務所は更生の場ではなく交流の場」引寺利明面会記[上]
《我が暴走03》「集ストはワシの妄想じゃなかった」マツダ工場暴走犯面会記[中]
《我が暴走04》「死刑のほうがよかったかのう」マツダ工場暴走犯面会記[下]
《我が暴走05》元同僚が実名顔出しで語る「マツダ工場暴走犯の素顔」

安倍内閣は「人質の身代わり」に大臣を派遣すべし!

人質処刑のタイムリミット過ぎたが、本稿執筆現在までのところ悪い知らせは届いていない(1月24日に人質の一人、湯川遥菜さんが殺害されたとされるビデオ映像が動画サイトに投稿されたものの真偽は未確定)。条件や交渉内容はどうであれ人質の解放が切に望まれる。

そして、日本政府が思い知るべきは、今回安倍が5億ドルの「対テロ支援」を宣言したことにより、このような事件が引き起こされたという教訓である。

安倍は「いや、あれは人道支援だ」などと、この期に及んで言い訳しているが「このような過激集団には毅然と対応する」と事件直後に語っていたではないか。その時の安倍の内心は「よっしゃ! 思ったより早く仕込みが効いてきたわい」ではなかったか。もう取り返しはつかないけれども、国際政治で「敵」をわざわざ作り出すような愚かな行為を繰り返さないことだ。

日本国内でも安倍の気まぐれな「対テロ支援」については批判が高まっているし、人質解放に向けて際立った判断や交渉が進展しているふしはない。欧米列強も口では「支援」と言ってはいるけども内心「日本の事は日本で解決しろ」という態度が見て取れる。特に米国の日本無視は露骨だ。

◆「安保と危機管理」に精通した石破国務大臣を人質の身代わりにしてはどうか?

そこで、私は「イスラム国」も必ず飲む交渉方法を提案する。

石破国務大臣 (地方創生・国家戦略特別区域担当)を2人の人質の代わりに差し出すのだ。そうすれば交渉の時間は稼げるし、いくら武装勢力とて「簡単」に現役の大臣を処刑することは出来ないだろう。何故石破氏かと言えば、彼こそは最近の政権右傾化と軍事化を先頭でけん引してきた人間であるからだ。国防の重要性やテロの危機を常に口にして防衛大臣の椅子にも座った。本音を言えば「安倍本人を」と言いたいところではあるが、さすがに首相自らが現場を離れることは難しかろうから、大臣が適任だ。

即だ。石破氏をシリアに飛ばすのだ。石破氏は嫌がりは出来まい。これまで散々「テロの危機」を説いてきたご本人だ。その危機に対応するのは政治家としての道義的義務でもある。心配しなくとも「地方創生」の仕事など、石破氏は実際には何の興味もないのだし、彼がいなくともがなくとも代わりはい幾らでもいる。「戦争」や「テロ」を語るからには現場に赴き自分が体でその緊張感と現実を体験してくるのが何よりの勉強ではないか。「軍事オタク」としても戦場で人質になる、これ以上、刺激的な体験があろうか。

◆安倍自民は「よど号」ハイジャック事件に学べ!

私の提案は荒唐無稽に聞こえるだろうか。でも同様の人質交換には前歴がある。1970年赤軍派による「よど号」ハイジャック事件の際、ソウル金浦空港で膠着状態に陥った機内に民間人の人質に代わり、単身乗り込んでいったのは山村新治郎議員だった。彼が一人で人質となり「よど号」はソウルを離れそのまま朝鮮に飛んでいった。山村氏は朝鮮で数日を過ごしたが帰国し、春日八郎が「身代わり新太郎」という歌まで歌ったほど、一気に時の人となった。

どうだ。この歴史を見れば石破氏には「世界のイシバ」と名をはせる絶好のチャンスではないか。また、安倍も本心では石破を嫌っているから、最悪石破が銃殺されても「心外だ。石破氏の死を無駄にはしない」と一応沈鬱な顔で語ればいいだけの事で、目の上のたんこぶを除去できるではないか。おまけに武装勢力の恐ろしさもさらに誇張できる。これぞ誰もが損をしない最高の解決策ではないか。

冗談に聞こえるかもしれないけれども、武装勢力を敵に回すということはそういうことだ。少なくとも彼らはこれまで日本を敵視はしてこなかった。これは「イスラム国」に限らず「タリバン」しかり、あるいはアラブ諸国全般に言えることだ。日本は欧米と親密でありながら、アラブの側は日本を欧米と同列に扱ってはこなかった。とても幸いだったのだ。

ところが、この僥倖もまたしても安倍の愚劣な思い付きにより、破綻を見ることになった。安倍自身が言うようにこれから日本人を狙った同様の攻撃は増加するだろう。日本自身が「あなたたちに敵対します」と宣言したのだから仕方がない。

安倍! お前はどうやって責任を取れるというのだ!

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎「イスラム国」人質事件で見えてきた「人命軽視」の安倍外交
◎2015年日本の現実──日本に戦争がやってくる
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《大学異論29》小学校統廃合と「限界集落化」する大都市ニュータウン

文科省は1月19日、公立小中学校の統廃合に関する手引き案を公表した。小学校は6学級以下、中学校は3学級以下で統廃合するかどうかの判断を自治体に求めるという。

このコラムでは日頃、大学の問題を中心に論じているが、少子高齢化は当然初等教育にも大きな影響を与えている。紹介した文科省の手引き案で言われる所の、小学校6学級とは、1学年に1クラスしか構成できない児童数を意味する。

◆児童数が激減する大都市郊外の巨大ニュータウン

都市集中で過疎地や限界集落にはそのような小学校があろうとぼんやり考えていたが、意外な場所にも児童数激減小学校があった。

それは多摩(東京)、千里(大阪)、高蔵寺(愛知)などの「ニュータウン」と呼ばれる地域だ。ニュータウンはこの3つに限ったわけではなく、全国に規模の大小はあれ、点在する。

そこで今、凄まじい人口減少が進行している。その結果ニュータウン内の小学校は児童数が激減し、既に廃校になった小学校も出てきた。ニュータウンはかつての住宅年整備公団が開発運営をしていたが、賃貸の団地が地域の多数を占める。

大規模ニュータウンの開発は1960年代終盤から始まり、全盛期にはニュータウンだけで、市が構成できる程の人口が溢れていた。小学校は1学年5クラス、6クラスは当たり前で、それでも児童を収容出来ない小学校が続出し、運動場の隅や校舎の間にプレハブ校舎が建てられた。

当然いつまでもそんな環境で子供に勉強させるわけには行かないから、新しい小学校が開校する。そうやってニュータウンは人口減など想像もせずに学校を増やしていった。

しかし、居住面積の割に高額な家賃、また設備の老朽化などが嫌われ、バブル辺りから団地には空室が目立ち始める。その後も人口減少に歯止めがかからず、現在は最盛期の4割程の居住者しかいない団地も珍しくない。当然、子供の数も大幅に減る。

◆3000名近くいた児童数が300名以下に激減!

私自身が数年間通ったニュータウンの小学校は当時1学年最低5クラスあり、総児童数は1000名を超えていた。だが昨日調べてみたら、なんと2年前に児童数減少で閉校していた。お隣の小学校に吸収されたようだが、それでもようやく各学年2クラス維持できる児童数しかいないようだ。

かつて2つの小学校で3000名近くいた児童が今では300名もいないわけだ。少数精鋭で教育できると言うプラス面もあろうが 、あまりに急激な人口の増減である。

小学校は児童数が減っても、教育ができないわけではない。でも街としてのニュータウンはもう限界近いだろう。空室だらけの団地は気持ちのいいものではない。安全面からも問題が多いだろう。

ニュータウンへ引っ越した後、幼ごころに感じたものだ。
山を切り開きコンクリートの団地を立てた地面からは、土地のすすり泣きが、切り開いた山に再度植えらえた街路樹からは、動物園の檻の中にいる飽きらめきった動物の哀愁のようなくぐもった声が。

新興住宅街とはそんなもんだよ、と思われるかもしれないが、ニュータウンの無機質ぶりは、人が長く住めるそれではなかった。結局、私の通った小学校は42年で閉校したそうだ。ニュータウンも人口減と高齢化が進展し、かつての新しい街が過疎化に苦しんでいる。

人間の歴史は400万年位らしい。あちこち移動しながら住みやすい場所に落ち着いていったのだろう。落ち着くにあたっては試行錯誤があったのだろう。何も古い街が優れていると言いたいのではない。古い街にだって過疎は起きているし、高齢化は全国的現象だ。ただニュータウンは余りにも乱暴をしすぎた為に街自体の寿命が極端に短かったのだろう。

利便性や経済性への配慮はあっても、人間の営みヘの視点が欠けていた。

それは今日我々の生活に通底することでもある。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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「イスラム国」人質事件で見えてきた「人命軽視」の安倍外交

イスラム国は、日本人人質2名を条件を飲まなければ処刑すると宣言した。前日に安倍が、中東諸国に25億ドルの援助を発表した直後の発覚だった。

しかし人質にされている方は昨日今日に身柄を拘束されたわけではなく、昨年来イスラム国側から保釈の条件を交渉するメールが御家族に届いていたという。御家族はもちろん政府に相談をなさっていたようだが、結果的に政府は身柄釈放に配慮することなく、イスラム国への宣戦布告に等しい周辺諸国への多額の援助を発表した。

◆「命」を救う気があるのか?

私は不思議なのだが、首相とはいえ25億ドルもの援助を事前に国会や政府の了解がなくとも勝手に決めても問題はないのだろうか。巨額の援助は外交政策だけでなく、予算にも関わる事項ではないのか。

何よりも昨年来、身柄を拘束されている方の「命」について何らかの戦略や配慮があるのだろうか。

ジャーナリストでイスラム国と独自のパイプを持つ常岡浩介氏は、人質解放のチャンスはあった、と述べている。もっとも常岡氏自身が大学生がイスラム国へ参加を計画していた嫌疑の協力者との咎により日本政府によりパスポートを没収されているそうで、動きが取れなかったようだ。

私は安倍が中東への対テロ対策援助を発表した時点から、安倍は意識的にイスラム国を刺激したがっているなと感じていた。そしてそれは現実のものとなった。イスラム国は人質開放の条件として中東援助と同額を支払え、と要求している。

武装勢力による人質事件の場合、解決には当事者同士ではなく、仲介役が大きな役割を果たす場合が多い。仲介役は表立って名前を出す時もあるけども、全く報道などに名前を出さないこともある。

日本政府は「英国や欧州の国と情報交換を行って」などとほざいているが、イスラム国からすれば、それらの国はいずれも敵国だ。素人目には全く成果が望めないのではと考えてしまうが、安倍や外務官僚には秘策があるのだろうか。

◆イスラム国から敵視されていない交渉役を抜擢せよ!

安倍は一応、人命尊重と口にはしているけれども、その前後の文脈から人質の命についての真剣味は感じられない。安倍は最初から、過激主義とイスラム教は違う、など的外れも甚だしい無知を毎日のように披歴しているけれども、私は訝る。

安倍の本心はイスラム国による邦人の犠牲者を期待しているのではないか。国内でもテロを警戒するよう指示したというが、その原因を作ったのは誰だ? テロが起これば軍事化へ向けた格好の口実に利用できる。安倍はテロを期待してはいまいか。

イスラム国の本質について私は正確な分析を行う情報を持ち合わせていない。しかし、自分がイスラム国の人間であれば、と仮定して考えれば自ずと展開は予想できる。

今、常岡さんやイスラム国に繋がりがある同志社大学客員教授の中田考さんが交渉役を担っても良いと表明している。人質の解放を望むなら彼らに交渉を依頼すべきではないか。

少なくとも彼らはイスラム国からは敵視されていない。彼らを猜疑的に疑い、前述の大学生がイスラム国参加問題が起きた時二人の自宅を家宅捜索したのは、日本の警察だ。

無能な外務官僚や安倍より交渉に於いては期待できる方々だろう。だが、それを政権が許容するだろうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

2015年日本の現実──日本に戦争がやってくる
「シャルリー・エブド」と「反テロ」デモは真の弱者か?
なぜテレビはどこまでも追いかけてくるのか?