《建築漂流06》裂け目の機能 ── すみだ北斎美術館

すみだ北斎美術館はその名の通り葛飾北斎を紹介する美術館で、北斎が生涯を過ごした墨田区亀沢、JR両国駅から徒歩約10分のところに立地している。開館当時にはメディアで大きく紹介されていたのでご存知の方も多いだろう。美術館の建設構想は1989年に始まっており、土地を購入するところまではすぐにたどり着いたのだが、やがて資金繰りが難航し計画が中断。2006年、近隣の押上地区に東京スカイツリー建設が決まったことを受け構想が再始動し、2016年11月にようやく開館したという、まあそんな歴史がある。

◆裂け目の内側に入る

まずはサラっと外観を眺めてもらいたい。風景の写り込みを想定したという鏡面アルミパネル仕上げの外壁が輝いている。そしてスリット(裂け目)がある。きっとスリットのどこかが入り口なのだろう。しかし遠目にはいまいち判然としない。

ぐるっと周りを一周してみて、あれ、と思った。どこが正面(ファサード)なのかが分からないのだ。いや、ファサードはおそらく公園側なのだろうが、“裏”らしいところが見当たらないのだ。これはなかなか面白い。いいね。

そしてやはり入口はスリット内にあった。このスリットは内側で全て繋がっており、どちらが裏だか分からないその裏側や、同様の側面へ通り抜けることができる。建築面積約700平米・高さ22メートルというそこそこ大きな鉄筋コンクリート造りであるにもかかわらず軽快な感じがするのもスリットの機能ではないだろうか。

“大きなひとつ”を“中くらいのいくつか”に分けることで内向きの力を発散させ、またわずかではあるが向こう側を見通せることにより風景と同化し、つまり異物としての排他的な重厚感を打ち消している。

東京タワーに比べてスカイツリーが景色に馴染まないのも同じ理由ではないだろうか。スカイツリーは大きさの割にボテっとし過ぎており、景色を分断してしまっているのだ。もう少し隙間を作ってやればいずれ東京タワーのように愛されたかもしれないが、もはや諦めるしかない。あれは失敗作だろう。

◆女性建築家・妹島和世のラディカリズム

すみだ北斎美術館の設計を担当した妹島和世(せじまかずよ)についてもいくつか。1988年の鹿島賞受賞を皮切りに数多くの建築賞を受賞しており、2010年には女性としては2人目、日本人女性としては唯一(2017年現在)のプリツカー賞(「建築界のノーベル賞」と呼ばれている)受賞を果たした。

西沢立衛と共に立ち上げた建築家ユニット「SANAA(サナー)」での活動は世界に知られており、身近なところでは「金沢21世紀美術館」や「ディオール表参道」がその作品だ。妹島和世の作品は外観が非常に現代的であり、その印象は素材に金属板やアクリルを用いていることとも関係している。

また部屋や通路の配置が大胆であることなどとあわせてラディカルな作家として認知されているが、本人としては奇抜なことをやろうというつもりはなく、あくまでも自分なりの合理性を貫き通した結果だという。一見変わった造りのすみだ北斎美術館も先のとおり合理的な一面を持っており、実際に館内を歩いてみてもその感は薄れない。良い建築だと感じると共に、これを設計した妹島和世という建築家に対する興味が一気に噴出してきた。他の作品も見学してこようと思う。

◆北斎という衝撃

西の世界へジャポニスムという大衝撃を与えた葛飾北斎。西洋の人々の葛飾北斎に対する評価は、日本に暮らす私たちが想像するよりも遥かに高いのだという話は、直接あるいは読書を通じて間接的に何度も耳にしている。そんな葛飾北斎について知りたければ、すみだ北斎美術館へ行ってみるといいだろう。そして2017年10月末には国立西洋美術館にて『北斎とジャポニスム』展が開催されるというからこちらも要チェックだ。

[撮影・文]大宮浩平

▼大宮 浩平(おおみや・こうへい)
写真家 / ライター / 1986年 東京に生まれる。2002年より撮影を開始。 2016年 新宿眼科画廊にて個展を開催。主な使用機材は Canon EOS 5D markⅡ、RICOH GR、Nikon F2。
Facebook : https://m.facebook.com/omiyakohei
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Instagram : http://instagram.com/omiya_kohei

『NO NUKES voice』12号【特集】暗い時代の脱原発──知事抹殺、不当逮捕、共謀罪 ファシズムの足音が聞こえる!
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神風シリーズ vol.3 NKBを背負いし者たちの戦い!

高橋一眞vs村田裕俊。村田のパンチもヒット、後に引けない両者の交錯
村田裕俊vs高橋一眞。打ち負けない我慢比べが一眞に傾く
村田裕俊vs高橋一眞。ムエタイ技でも蹴り負けなかった一眞のヒザ蹴り
村田裕俊vs高橋一眞。一眞の返し技、村田より強く蹴り返したヒザ

またも感動を呼ぶ試合を行なった高橋一家。4度目の対決となる、因縁膨らむ村田裕俊vs高橋一眞のNKBライト級王座決定戦。新人3回戦時代に2度KOで勝利している高橋一眞は、昨年4月、NKBフェザー級王座決定戦で村田に判定で敗れる失態。続けて対森井洋介戦、対鷹大戦と3連敗を喫する。その後ライト級に上げ、今年2月に洋介(渡辺)に5Rにハイキック一発KO勝利し復活を遂げるも、心理的にもライト級としての体格に於いてもまだ不安の残る状況でした。

昨年の村田裕俊は、ムエタイ修行の成果を出してチャンピオンになって以降、10月にノンタイトル戦でWMC日本同級チャンピオン.久世秀樹(レンジャー)に判定勝利、12月に優介(真門)に5R・KOでNKBフェザー級王座初防衛。更に調子を上げ、今年2月に「KNOCK OUTイベント」において実績ある森井洋介と引分ける善戦で存在感アップさせるも、4月に高橋三兄弟三男・聖人に判定で敗れる意外な敗北で評価は大きく後退。互いに階級アップしたライト級での実績不足と、それぞれの敗戦から精神的に立ち直れているか不安定な中での再戦は王座を争う戦いでもあり、それまでの展開はファンの関心を高める中、一眞が接戦の攻防を制する展開を見せました。

一旦劣勢になれば挽回は苦しくなる為、互いに打ち負けない踏ん張りが見られました。一眞はこれまでよりガードを固め、首相撲では組み負けない圧力、微妙な差でしたが、攻められても返し技が早く、一発当てた後の繋ぎ技が効果的でした。
苦戦強いられる試練が続き、一戦一戦が感動を呼ぶ三兄弟というのも注目集まる要因でしょう。

次、目指すものは「“KNOCK OUT”に出たい」と語る一眞でした。また三兄弟での同時チャンピオン君臨も近い将来の目標。「KNOCK OUTイベント」も三兄弟で同時出場できれば、それも叶わぬ夢ではない大きな目標となるでしょう。

◎神風シリーズ vol.3 / 6月25日(日)後楽園ホール17:30~21:10
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

◆第15代NKBライト級王座決定戦 5回戦

NKBフェザー級チャンピオン.村田裕俊(八王子FSG/61.1kg/27歳)
VS
NKBライト級1位.髙橋一眞(真門/61.2kg/22歳)
勝者:髙橋一眞 / 判定1-2
主審 前田仁 / 副審 川上50-49. 鈴木48-49. 佐藤友章48-49

高橋一眞vs村田裕俊。一眞の前蹴りも好印象を与える
村田裕俊vs高橋一眞。多彩に攻めヒジ打ちもヒットさせた一眞
西村清吾vsチャンデー。技は健在、チャンデーの底力

◆ミドル級3回戦

NKBミドル級1位.西村清吾(TEAM-KOK/72.4kg/38歳)
VS
チャンデー・ソー・パランタレー
(元・ルンピニー系ライト級チャンピオン/タイ/70.0kg/44歳)
勝者:チャンデー / 判定0-3
主審 川上伸 / 副審 佐藤彰彦29-30. 鈴木29-30. 前田29-30

おそらく20年以上前のルンピニーチャンピオンだったチャンデーは速くて重い蹴り、ヒジ打ちと接近戦でのヒザ蹴りの上手さが目立つ。ミドル級での試合、ブランクを経た勘の鈍りはあるにしても西村を突き放すテクニックは充分でした。5回戦だったら展開は変わっていたかもしれない西村のパンチと蹴りの踏ん張りもあり、互角に近い攻防で会場を沸かせました。

チャンデーvs西村清吾。パンチしか勝機がなかった西村の反撃

◆フェザー級3回戦

NKBフェザー級2位.優介(真門/57.0kg/32歳)
VS
同級9位.坂本秀樹(大塚/56.7kg/30歳)
勝者:優介 / KO 1R 2:26 / カウント中のタオル投入による棄権
主審 佐藤友章

◆ウェルター級3回戦

NKBウェルター級4位.稲葉裕哉(大塚/66.5kg/29歳)
VS
チャン・シー(SQUARE-UP/66.6kg/33歳)
勝者:稲葉裕哉 / 判定2-0
主審 鈴木義和 / 副審 前田30-29. 川上30-30. 佐藤友章30-29

◆バンタム級3回戦

NKBバンタム級3位.海老原竜二(神武館/53.2kg/26歳)
VS
同級6位.佐藤勇士(拳心館/53.2kg/25歳)
勝者:佐藤勇士 / 判定0-2
主審 川上30-30. 前田29-30. 佐藤友章29-30

◆57.0kg契約3回戦

NKBフェザー級4位.安田浩昭(SQUARE-UP/57.0kg/30歳)
VS
NKBバンタム級1位.松永亮(拳心館/56.1kg/27歳)
勝者:安田浩昭 / TKO 2R 2:38 / カウント中のレフェリーストップ
主審 鈴木義和

他、5試合は割愛します。

元・NKBミドル級チャンピオン.若生浩次が高橋三兄弟を育てました

《取材戦記》

6月4日(日)に、興行本部長の小野瀬邦英氏が東京ドームホテルで結婚式・披露宴が行なわれました。新婦は真季さん。列席者総勢200名。梅野源治氏、小野寺力氏、かつてのライバルで、今もライバルのガルーダ・テツ氏も列席され盛大に行なわれた披露宴でした。

「やっぱりこの男強いなあ」と思ったのは、人生に於いて、私生活においていろいろ苦難が圧し掛かる中、興行を継続していくことの難しさに音を上げそうになるも、渡辺信久連盟代表から「男なら言い出したことは最後までやれ」と檄を飛ばされたことや、「苦しい時に支えてくれたのが妻・真季でした」と13分に渡る締めの挨拶の中のカッコいい言葉でした。

心が強ければ嫌でも音を上げることなく、星一徹のような頑固者の渡辺代表を越え、他団体興行に負けない、小野瀬体制興行は延々続いていくということになるでしょう。

私が、キックボクサー現役時代の試合や実績を見て、この男は引退しても次の世界で大きなことをやると予感できる選手が何人かいました。その内の一人が小野瀬邦英氏でした。SQUAER-UPジムを経営し、連盟興行本部長を務める今後もキックボクシング界を改革できる中の一人になるでしょう。

高橋三兄弟をやたら引き上げるのは、注目を浴びる三兄弟としての話題とチャンピオンを狙える強さ、彼らの素直さ、直向きさにあります。NKBに於いては彼らが必要な時代でしょう。ただこの先が順風満帆には行かない大きな壁が立ちはだかります。国内でのその壁を乗り越えた上、活性化している世界タイトルやムエタイ殿堂王座まで行けたら凄いものです。真門ジムや小野瀬氏の力も必要になりますが、この連盟の鎖国状態で過去に全く無かった飛躍をして欲しいものです。

日本キックボクシング連盟次回興行「神風シリーズvol.4」は9月23日(土)後楽園ホールにて17:30より開催されます。メインイベントはNKBミドル級タイトルマッチ、チャンピオン.田村聖(拳心館)の初防衛戦は王座決定戦で争った西村清吾(TEAM-KOK)です。過去、田村聖の1勝1分です。

NKBを背負いし小野瀬邦英の結婚式。祝福の拍手の中を歩く新郎新婦

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

愚直に直球 タブーなし!7月7日発売『紙の爆弾』8月号! 安倍晋三 問われる「首相の資質」【特集】共謀罪を成立させた者たち
一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

電事連の無茶苦茶な虚構広告──その真意を広報に問うてみた〈後〉

 
 

  

『NO NUKES voice』12号【特集】暗い時代の脱原発──知事抹殺、不当逮捕、共謀罪 ファシズムの足音が聞こえる!

『NO NUKES voice』や本コラムで本間龍氏が、原発と広告については毎号連載でその暗部を明かしてくれている。たまたま新聞を見ていたら石坂浩二が深刻そうに「エネルギー自給率6%」を指さした写真が大写しの電事連(電気事業連合会)の広告を目にした。

一言で言えば無茶苦茶な虚構である。しかしこの広告のために一体いくらの電気料金が使われたのかを考えると、むかっ腹が立ってきたので、電事連に6月20日電話取材をした。応対者は広報の「オオフサ氏」(男性)だ。前回に引き続きそのロングインタビューの後編を公開する。

石坂浩二が深刻そうに「エネルギー自給率6%」を指さした電気事業連合会の新聞広告

◆この自給率6%の中にウランも入ってるわけですか?

── 先ほど明確に(エネルギー自給率)6%というのは水力だとおっしゃっていただきましたけれども、この6%の中にウランも入ってるわけですか?
電事連 ここは入っていないです。
── だから私が申し上げているのは、エネルギー自給率6%というのは確かに深刻だということは同意しますが、その6%の中にはウランが入っていないのであって、ウランは残り94%の中に最初は入ってるわけですよ。それをあなたはリサイクル可能な燃料だという表現でご説明いただきましたよね。それはプルサーマルできるからということでそういう様な表現なさってるかもわからないけれども、そんなこと言うんだったら石炭を燃やした後の燃え屑を使うことだってリサイクルなんだから「準国産」に組み入れないと不合理でしょ。ところで原子力発電所の発電効率は何10%なんですか?
電事連 すみません、ちょっとそれは即答できないんです。
── 約30%です。だから3分の2は温水にして捨てるわけですよ。非常に効率が悪い。でもこの広告は極めて恣意的に原子力発電がいかにも有効であるかというような意識を植えさせようとしていますね。私たちが払ってる電気代でこんなことしないで欲しいんですよ。虚構ですよ、この数字も説明も。

 
 

  
── それから再生可能エネルギーという言葉はあるけれども、あなたは先ほどから「リサイクル」という言葉を何回かおっしゃいましたね。リサイクルできるプルトニウムというのは猛毒だということはご存知ですね。この間茨城県で事故があってプルトニウムを事故で吸い込んだ人がいましたね。
電事連 私がですか?
── あなたではなくて、大洗でプルトニウムを吸い込んでしまった事故があったでしょ、プルトニウムを吸い込んだ方は大変な健康被害の懸念があります。過去の研究結果からいったらそうなんです。そういう毒性の高い物を使って、運転しても大丈夫だということは確信持っていらっしゃるわけですね、電事連の方々は。
電事連 はい。
── 大丈夫なんですね。大丈夫だったけれど不思議なことに福島では黒煙が3号機からだけ上がったということですね。1号機、2号機、4号機爆発しましたけれども。黒煙が上がってあれほど高い所までに燃料棒が吹きあがったのは3号機だけですね。でも大丈夫なんですね。あなた方それ保証できるんですね。安全性を保証できるんですね?
電事連 その100%というところは、福島の事故を受けまして事故が起こったという反省に立ってわれわれも安全対策をしっかり取り組んでますし、それはこれからもやっていくことにはなると思いますけれども。

◆原発が動こうが動くまいが自給率は変わらないじゃないですか?

── なんであそこまで取り返しのつかない事故を起こしてまで、まだやろうと平気で考えられるのですか? 原子力緊急事態宣言というのがまだ発令中だというのはご存知ですよね。政府の。
電事連 はい。
── 終わってないんですよ。わたしの意見ではなくて。原子力緊急宣言というのはいまだに出っぱなしなんですよ。政府によればいまも緊急事態なんですよ。緊急事態の中でなぜ原因究明とか原状復帰もできない中でこういった嘘の広告が打てるんですか、あなたたちは。
電事連 われわれとしては嘘だとは思っていませんし。
── 嘘じゃないですか。だってまずは6%というところ。あなたが正直に教えてくれたけれども日本にウランはないんだから、ウランは輸入しなければいけませんてことでしょ。それならば原発が動こうが動くまいが自給率は変わらないじゃないですか。
電事連 …………
── 違います? ちゃんと説明していただいたら私も意見変えますから。教えていただければ。
電事連 冒頭申し上げた通りでして。
── あなた冒頭冒頭言ってるけれど、原発が動いたら6%という数字がどのように変化するんですか?
電事連 申し訳ないですけれども、繰り返しになってしまいます。原子力が動くことで準国産エネルギーというふうに位置づけられてる原子力が動くことで自給率向上というところを目指していると。
── 今プルサーマルで動いてるのは伊方と高浜と二つだけですね。これが営業運転を始めたら自給率はどれだけ上がるんですか?
電事連 すみません、その数字は手元には今ございません。
── それくらい準備しときなさい。
電事連 申し訳ありません。

◎[参考動画]「家庭生活×エネルギー自給率」篇(電気事業連合会2017年2月22日公開)
 
 

  

◆42基の原発をフル稼働させたら自給率どこまで上がります?

── プルサーマルをやったって、プルトニウムを高い濃度で入れられるわけないから、上がったって1%も上がりませんよ。だからこの広告は、最初の6%という数字を石坂浩二が示してることによって大きく読者をミスリードしているということを私は疑問視しているわけです。仮にですよ、日本に今、商業用で使える原子炉は42基ありますね。それをフル稼働したら自給率どこまで上がります?
電事連 この新聞広告に出てるエネルギーミックスを達成することで、おおむね25%程度ですね。
── 25%、フル稼働すると。というのはそれはプルトニウムも燃やしてということね。42基で、だけどその中でプルサーマルの炉は何基あるんですか?
電事連 現状でですか?
── そうです、今プルトニウムを入れて燃やすことができるプルサーマルの炉というのは全国にいくつあるんですか?
電事連 今3基ですね。
── 3基? 高浜の3号と、伊方と、もう一つは?
電事連 玄海ですね。
── 3基だったら、どうしてさっきあなたがおっしゃたように20何%まで上がるの? 説明が全然比率としておかしいでしょう。そりゃ20基、30基プルサーマル燃やせる炉があったら数%上がるかもしれないけれど、プルサーマル燃やすときにプルトニウム混ぜる割合ってウランに対して、ウランとプルトニウムを何対何で入れて燃料作るんですか?
電事連 …………。

◆違うでしょ、私は原子力だけを聞いてる!

── そもそもウラン燃料は一本当たり、プルサーマルでなくてですよ、一本当たりの重量はどのくらいですか?
電事連 すみません、ちょっと今それは……。
── そんなことも知らないのか君は! だいたい1トンですよ。ジルコニウムで包んであって中にペレット状のウランが入ってるわけですよ。そのペレット状のウランを特殊加工してその中にプルトニウムを混ぜる。その資料はありますか?
電事連 ちょっと今手元にはないです。
── だからね、あなた何にも資料手元になくて、何にもご存知なくて、なんでそこに座って私に応対できるの? 素人の私の方が知っていてどうするんですか? プルサーマル燃料を燃やせる炉は3基しかないわけでしょ。3基しかなくて1年動いたら定期検査で止めなければいけないでしょ。だから3基の原子炉が仮にあなたのおっしゃるようにリサイクルしながら動いていても24時間365日ずっと動くということはないわけですね。それで何で3基だけ動いて自給率が6%から25%にまで上がるんですか。
電事連 そこはすみません。そういうふうに申し上げたつもりはなかったんですけれども。新聞広告に書いてある2030年の電源構成という円グラフが描いてあると思うんですけれども、この電源構成を達成すれば25%程度と……。
── 達成すればと、もう少しわかりやすい言葉で言っていただくと?
電事連 この電源構成を実現していくと自給率が25%程度に達成すると……。
── 電源構成を実現するとは具体的にどういうこと?
電事連 その広告に書いてある……。
── つまりプルサーマルを新設するということなんですか?
電事連 いえ、今止まってる発電所でも設置許可の申請をしてるところもありますし……。
── 違うでしょ。私、あなたに聞いたのは日本の中でプルサーマルができる炉はいくつあるのって聞いたら、あなた3基しかないっておっしゃったじゃない。
電事連 そこは申し訳ありません。
── 他にもあるの?
電事連 今手続きを取ってるところもありまして。
── いやいや、止まってる所も含めて日本の中でプルサーマルができる炉はいくつあるのですか?
電事連 実績としては3基ですね。福島第一原発3号機を除くと3基という形になります。
── じゃあ3基で間違いないわけでしょ。これ以上燃やしようないわけでしょ。玄海はまだ止まってるけど伊方と高浜はもう動き出したからそこで燃やしてるわけでしょ。で玄海が動き出したらいきなり6%が25%になるんですか?

 
 

  
電事連 いえ、そこは違いますね。
── じゃ、どういう計算になるんですか。教えて下さい。あなたの説明では前提となる数字と結果の間に大きな齟齬があって理解できない。
電事連 申し訳ありませんでした。
── 「ありませんでした」じゃなくて、3基がフル稼働したら今の6%の自給率が25%に上がるというのはどんな根拠に基づくんですか?
電事連 いえ、そうは申し上げてないです。
── じゃあわかりやすく教えてください。どうしてそうなるのかということを。
電事連 ですので、2030年の電源構成というのを達成すれば自給率としては25%程度まで改善すると。
── だから具体的にどういうことを意味するわけですか。私がさっきお尋ねした通り新たにプルサーマルで燃やせる炉を新設するということを意味するわけなんですか?
電事連 いえ、それだけではなくて再生可能エネルギーの導入拡大ですとか……。
── 違うでしょ、私は原子力だけを聞いてる。ここのグラフにも実際に20~22って書いてあるじゃないですか。再生可能エネルギーの話は聞いてないですよ。原子力にフォーカス絞ってお尋ねしてるんです。できようないでしょ、そんなものは。再生可能エネルギーはどんどん上がるかもわからないですよ。プルサーマルの今ある3つの炉で思いっきり燃やしたところで、あなたたちリサイクルと言うかもしれないけれども事故の危険が増すだけの行為ですよ。それを「準国産」というのは「産地偽装」と一緒ですよ。あなただってアメリカで作られた牛がスーパーで売っていて佐賀県産とか何とか県産とか書いてあって高いお金出して買ってきて食べて後でそれが報道でアメリカの安い肉だったと聞いたら怒るでしょう。それと一緒のことじゃない。何が準国産ですか。そんな乱暴かつ無茶苦茶な概念を平気で使ってるということ自体が常軌を逸しています。そんなこと言ったらね、ごみも全部「準国産」ですよ。焼却ごみも。燃えるごみって出すでしょ。燃えるごみは中にいろんなものが入ってるけど、あなた方の理屈で言えば「準国産」のエネルギーってことになりますね。ごみ焼却場で燃やされたエネルギーは室内プールやお風呂とか暖房とかに現実に利用されていますよね。けれども可燃ごみを「準国産エネルギー」というような馬鹿な人は日本中探したってどこにもいないですよ。聞いたことないでしょ、あなただって。さらに言えば、ごみの中には毒性のあるものも含まれているけれども、プルトニウムほどに毒性の強いものは家庭からのごみにまずないですよ。電事連が主張なさっているリサイクルエネルギーという概念は私が今ご提示したように家庭から出る焼却ごみを「準国産」称して、しかも家庭から出るごみの中にはそれほどの毒性の強いものは含まれていないにも関わらず、プルトニウムという猛毒を混ぜて事故が起きたら破局的なことを迎えることが証明されているにも関わらず、それを強行しようとしているということを私はお話を聞きながら理解をするのですが、それに対するこちらが安心できるようなご説明は一切いただけないですね。残念ながら。私の疑問点はおわかりいただけました?
電事連 はい。

◆プルサーマルの炉だけでなんで6%が25%に跳ね上がるのか?

── この表示の仕方はどう考えてもおかしいですよ。それから政府の2030年の電源構成予定というのも完全に絵に描いた餅です。お考えになったらわかると思うけれどもね、これから予定して新しく作るプルサーマルの炉といったら大間ぐらいでしょ。
電事連 建設中のものと言ったら、はい。
── それができて燃やしたところで、なんで25%に跳ね上がるかということです。あなたそこに座っていらって、こういう質問が出た時にはその積算根拠がパッと答えられるように準備していないのであれば、要するにそれは「答えられないこと」だなと質問者は取りますよ。答えられないことなんです実際にね。すみません、お忙しい中時間取らせて、恐縮です。ごめんなさいお名前何とおっしゃいます?
電事連 オオフサと申します。
── オオフサ様。電気事業連合会の広報のオオフサ様。いろいろ教えていただくというか、長い時間恐縮でしたが。
電事連 いえ、とんでもないです。
── ちょっとオオフサさんもご自分でお調べいただけると有難いですね。よろしくお願いいたします。
電事連 はい、わかりました。どうも有難うございます。 (了)

◎[参考動画]エネルギーバランス(電気事業連合会2017年2月13日公開)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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『NO NUKES voice』12号【特集】暗い時代の脱原発──知事抹殺、不当逮捕、共謀罪 ファシズムの足音が聞こえる!
多くの人たちと共に〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』

電事連の無茶苦茶な虚構広告──その真意を広報に問うてみた〈前〉

 
 

  

『NO NUKES voice』12号【特集】暗い時代の脱原発──知事抹殺、不当逮捕、共謀罪 ファシズムの足音が聞こえる!

『NO NUKES voice』や本コラムで本間龍氏が、原発と広告については毎号連載でその暗部を明かしてくれている。たまたま新聞を見ていたら石坂浩二が深刻そうに「エネルギー自給率6%」を指さした写真が大写しの電事連(電気事業連合会)の広告を目にした。

一言で言えば無茶苦茶な虚構である。しかしこの広告のために一体いくらの電気料金が使われたのかを考えると、むかっ腹が立ってきたので、電事連に6月20日電話取材をした。応対者は広報の「オオフサ氏」(男性)だ。そのロングインタビューを2回に分けて公開する。

石坂浩二が深刻そうに「エネルギー自給率6%」を指さした電気事業連合会の新聞広告

◆日本に原発の燃料になるウランの埋蔵はあるわけですか?

── 新聞広告について教えていただきたいのですけれども。
電事連 はい、どのようなことでしょうか?
── 石坂浩二さんが「エネルギー自給率6%」を示している新聞広告を見ました。これ電力安定供給のためにはエネルギーミックスが必要だと考えますということが書かれているのですが。この広告は何を主張していらっしゃるのでしょうか?
電事連 電力の安定供給を行っていくために、いろんな電源さまざま特徴がございますのでそういったものを組み合わせて使っていくというようなことを申し上げているつもりなんですけれども。
── 2030年の電力構成政府案という円グラフがありますね。最初に20~22%で原子力で、次に27%が天然ガスで、26%が石炭と順番になってるんですが、原子力の燃料は国産できるんですか?
電事連 いったん輸入をすればリサイクルができるという観点で、いわゆる準国産エネルギーというふうに言われてます。
── エネルギー自給率6%というのを石坂さんが示してるわけでしょ。
電事連 はい。

 
 

── 準国産は国産ではなくて、もとは輸入しなければいけないということをおっしゃってるわけですね?
電事連 うーんと、まあそうですね、はい。
── 日本に原発の燃料になるウランの埋蔵はあるわけですか?
電事連 ないです。
── ない! だったらこの広告ミスリードじゃないですか。
電事連 うーん、と申しますと?
── エネルギー自給率6%。6%自給できているものは何ですか?
電事連 日本で出せるものです
── 「資源の多くを輸入に頼る日本のエネルギー自給率は原子力発電の停止によってわずか6%にまで落ち込んでいます」と書いてありますけれども、今のご説明ですと、原子力発電の燃料も輸入に頼ってるわけでしょ、ここにも書いてあるけれども、原発が止まろうが動いていようが自給率の割合は変わらないじゃないですか、輸入してるんだったら。
電事連 ただ、リサイクルできるという観点で……。
── リサイクルというのは要するに核燃サイクルでしょ。核燃サイクルは「もんじゅ」をやめるから破綻したじゃないですか。
電事連 まあ、プルサーマルということで進めていくということもありますし。
── それは輸入して一端ウラン燃料を燃やした後でしょう?
電事連 それはそうですね。

◆原発が停止していなければエネルギー自給率はもっと高かったんですか?

── この日本にある6%は何なのですか?
電事連 水力発電とかがありますね。
── ああ、水力で。全部水力ですか?
電事連 ではないですね。再生可能エネルギーですとかそういったものもありますし。
── この広告の言う、「原子力発電所の停止によってわずか6%にまで落ち込んでいます」というのは、事実と反しますよね。原子力発電所が停止していなければエネルギー自給率はもっと高かったんですか?
電事連 そうですね、はい。
── どうして?
電事連 そこは準国産エネルギーというふうに位置づけられてますので。
── なんで?あなたおっしゃったじゃない、「日本にはウランの埋蔵はないから輸入しなきゃといけない」と。それがどうして国産になるんですか?
電事連 先程申し上げたつもりなんですけれども。
── 日本にはないんでしょ? 燃料になるウランは。
電事連 そこはない、はい。
── ないのに何で原子力発電が止まったら自給率が下がるんですか? もともとないものが動いていようが止まっていようが関係ないでしょ。
電事連 うーん、そこは繰り返しになってしまいますけれども、リサイクルできるという観点で準国産エネルギーというふうに位置づけられてまして。
── そんな馬鹿な理屈が通るのはあなたたちの頭の中だけです。準国産というのは、そんなこと言ったら石炭だって石炭燃やしたカスをまた使えば準国産になるっていう解釈だって可能になりませんか。
電事連 うーん。

◎[参考動画]「社会生活×エネルギー自給率」篇(電気事業連合会2017年2月22日公開)
 
 

 
◆古い原発はプルサーマルを想定して作られていますか?

── あなたに教えていただいたけれども、まずは輸入してるわけでょ。
電事連 はい。
── まず日本にないわけでしょ。
電事連 はい。
── ないんですね。
電事連 はい。
── それがなんで国産エネルギーなんですか?
電事連 すみません、そこはちょっと繰り返しになってしまいますけれども。
── 繰り返しじゃなくて、それはあなたがたの解釈が間違っているということですよ。エネルギー自給率6%というのは確かに深刻だとは思いますよ。だけどその6%の中に原子力発電を動かしたらそれが向上するような要素があるようにミスリードしてるでしょ。
電事連 いや、そういうつもりはないです。
── じゃあ、どういうことなんですか?
電事連 申し訳ないですけど、繰り返しになりますけれども、リサイクルできるという観点で自給率が上がると……。
── リサイクルというのは一般的には再利用ですよね、言葉の意味からして。原子力発電所における燃料の再利用というのはいったん原子力発電所で燃やしたウランの中からプルトニウムをごみとしておけないからウラン燃料と混ぜてプルサーマルで燃やすと、そういうことではないんですか?
電事連 おっしゃる通りです。
── それはリサイクルとは言いませんよ、社会的通念から言えば。そもそも、今ある古い原子力発電所はプルサーマルを想定して作られていますか?
電事連 そこはしっかり審査いただいて。
── いえ、違います。私がお尋ねしているのは設計時にですよ。作る時にあの炉の中で燃やす燃料はその中にプルトニウムが入るということが想定されて設計されていますか?
電事連 そこはしっかり審査をいただいて使えるということで。
── 審査ではなくて、設計の段階であの炉はもともとウラン燃料を燃やすということを前提に作られた炉ではないのですか?
電事連 いや、そこは審査をいただいて。
── 審査じゃない。私が聞いてるのは審査ではなくて設計の話を聞いてるわけですよ。メーカーが設計時にどういうものを作ろうかということを聞いてるわけですよ。
電事連 はい。既存の炉でも使えるということは確認いただいてます。
── 事後的にでしょ。最初に売る時に、自動車に例えたら「この自動車はガソリンと軽油と両方入れて走れます」と売ってる自動車ないですね。それと似たようなことなさってるんじゃないですか。
電事連 そこはまあ審査いただいて。
── いや、設計時にメーカーがあくまでもウラン燃料を燃やすということを前提に作られていたものを、審査基準というものがプルサーマルするために追認をしているというのが事実関係ではないのですか?
電事連 はい。
── そうですね?
電事連 はい。
── ということは先ほど私が申し上げたように、「この車にはガソリンと軽油を入れて使えます」という車を売っていないのにガソリンと軽油を入れて使っていると。ガソリンと軽油を入れたってすぐには爆発しませんよ、車だって。
電事連 うーん。
── そういうことですね?
電事連 ただまあ安全性を確認いただくために、しっかり審査を受けて然るべき手続きを取ってやってるということにはなりますけれども。

◆安全対策を講じたらそれで絶対に事故が防げるんですか?

── その審査というのはどなたがなさっているのですか?
電事連 ……どなたというと……。
── 今だったら原子力規制委員会ですか?
電事連 はい。
 

 
 

 
── その前だったら保安院(原子力安全・保安院)。
電事連 はい、そうです。
── でも福島第一原発の3号機爆発したでしょう。黒煙揚げて。福島でプルサーマルやってたのは3号機だけですね? 1号機、2号機、4号機、それぞれ違う理由で爆発しましたけれども、黒煙を上空高くまでドーンと飛んでいったの3号機だけですよね。
電事連 はい。
── あれでも安全という審査なわけですね?
電事連 福島第一原子力発電所事故以降は電力会社としても様々な安全対策を講じてますし。
── 講じたらそれで絶対に事故が防げるんですか?
電事連 そこは常に安全を追い求めていくと言いますか……。
── 違います。私の質問は「絶対に防げるんですか?」ということです。
電事連 事故が起こらないように日々努力して行くということ以外にないと
── 違います。「絶対に防げるんですか?」とお尋ねしているのです。
電事連 そこは常に安全を求めていくということ。
── だから防げない訳でしょ、「求める」ということは。常に安全を求めるということは、安全を100%保証できるということではないということでしょう。保証するわけではないでしょう。
電事連 …………

◆ウラン燃料を輸入してるわけでしょ? 

── でね、この広告の欺瞞はやはり許せませんよ。なぜかというと私たちの電気代からこれ出てる訳ですよね、電事連が広告を出すのは。電事連というのは電気事業連合会、だから全国10電力の連合体ですよね。そこがこういう広告を出すわけですよね。「私たちが知っておきたい数字です。エネルギー自給率6%。」これどうやったら上がるんですか?
電事連 上がるというのは?
── 6%が深刻だということを知っておきましょうということでしょ。そりゃそうですよ、エネルギー自給率が低かったら心配ですよ。そこの説明の文章を見ると原子力発電所を動かせばこの問題が解決できるというような解説がなされてますよね。本当にそうなんですか?
電事連 そこはちょっと冒頭申し上げた話の繰り返しになってしまいますけれども、原子力を再稼働させる、それだけではなくて再生可能エネルギーの投入拡大ですとか、そういったものをいろいろやっていくということにはなるとは思いますけれども。
── そんなこと書いてないじゃないですか! この文章に書かれているのは、原子力発電所の停止によってわずか6%まで落ち込んでいます、と。そのことだけ書いてあって「再生可能エネルギーを増やしましょう」というようなことは一言も書いてないですよ。この広告の意図はその文章で明確です。ですから、広告であっても嘘を書かないでください。あなたがおっしゃったように、原子力発電所の原料は輸入に頼ってる訳でしょう。6%の中に入ってないわけでしょ。エネルギー自給率の。
電事連 原子力がってことですか?
── ウラン燃料を輸入してるわけでしょ。
電事連 はい。
── だから自給してるわけじゃないですか。違うんですか?
電事連 そこはすみません。お客様と私が申し上げてることは、ちょっと繰り返しになりますけれど、食い違ってることがあると思うので。 (後編につづく)

◎[参考動画]エネルギーバランス(電気事業連合会2017年2月13日公開)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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《殺人現場探訪05》米原汚水タンク殺害事件 冤罪疑わせる「夜は見えない現場」

滋賀県米原市でこの事件が起きたのは8年前に遡る。2009年6月12日の朝、伊吹山のふもとを走る農道脇に設置された2つの汚水タンクの1つから作業員が被害者の女性A子さん(当時28)の遺体を発見。A子さんは2日前から行方不明になっており、家族が警察署に捜索願を出していた。

この事件が当初からセンセーショナルに報道されたのは、まず何よりA子さんの亡くなり方があまりに痛ましかったためである。A子さんの遺体は派遣社員として勤務していた大手メーカーの工場の作業着姿だったが、鈍器のようなもので頭部や顔面を頭蓋骨が陥没するほど乱打されており、両手の防御創を合わせると、30回以上も攻撃を受けていた。そして瀕死の状態で汚水タンクに突き落とされ、し尿を吸引して窒息死していたという。

加えて、容疑者として検挙された男性B氏(当時40)は、A子さんが勤める大手メーカーの正社員だったが、妻子がある身でありながら独身のA子さんと不倫関係にあった。そのために報道はいっそう過熱し、A子さんが事件前、B氏のDVを友人に訴えていたという疑惑も報じられるなどして事件は社会の耳目を集めたのだった。

B氏はその後、2013年2月に最高裁で上告を棄却され、懲役17年の判決が確定している。B氏は裁判で無実を訴えていたのだが、その訴えを正面から報じたメディアは皆無に近かった。

事件現場となった汚水タンク

◆裁判で浮かび上がっていた有罪を否定する事情

実を言うと、私はこの事件を取材し、B氏のことを冤罪だと確信している。B氏がA子さんを殺害した犯人であることを否定する様々な事情があるからだ。

まず、B氏の車の血痕の付着状況だ。B氏はA子さんが行方不明になった日、その直前まで自分の車でA子さんと一緒にいたのだが、車の左後輪ブレーキドラムの内側からA子さんの微量の血痕が検出されたことが有罪の大きな根拠の1つとされている。しかし、A子さんの遺体の状況からすると、犯人は返り血を浴びていることが濃厚であるにも関わらず、B氏の車の運転席やその周辺からは一切の血痕が検出されていなかったのだ。

一方、左後輪ブレーキドラムから検出されたA子さんの微量の血痕について、B氏は「A子さんがタイヤ交換をした際、足を怪我したことがあるので、その時のものではないか」と説明していたのだが、この説明はとくにおかしくない。こうしてみると、B氏の車の運転席やその周辺から血痕が一切検出されていないにも関わらず、左後輪ブレーキドラムの微量の血痕を有罪の根拠にするのは無理がある。

また、A子さんに対するB氏のDV疑惑については、たしかにA子さんは事件前、友人に「殴られ、首を絞められるなどしている」「このまま殺されるかもしれない」などと訴えていたようだ。しかし、裁判で明らかになったところでは、友人たちはA子さんのこのような訴えを深刻には受け止めておらず、A子さん自身も警察に相談するなどの対策を講じていなかった。むしろメールの履歴を見ると、A子さんはB氏に何か不満があれば、積極果敢に伝えており、B氏がA子さんに暴力をふるっていたような兆候は見受けられなかったという。

事件現場の汚水タンクのある場所。昼間は走行中の車からもよく見える

◆一見有力な目撃証言は存在するが……

私は2010年に大津地裁でB氏の裁判員裁判が行われた頃、現場の汚水タンクがある場所を訪ねている。事件当日の夜10時30分頃、この場所をトラックで通過した運転手が「B氏の車と似た車」が汚水タンクのかたわらに停まっていたのを目撃したと証言し、この証言も有罪の根拠の1つとされている。

しかし、このトラック運転手の証言は、夜間に時速60キロくらいで走行中のもので、視認状況が良いとは言えないうえ、車種に関する証言内容の変遷も激しかった。そこで私も実際、この時間にレンタカーで汚水タンクがある場所を走ってみたのだが――。

結論から言うと、視認状況は思ったよりはるかに悪く、汚水タンクやその周辺の状況など何も見えなかった。昼間は目印になる汚水タンク脇の「ポイ捨て あカン!!」の大きな看板も闇の中に沈み、間近に迫るまで一切見えないほどだった。目撃証人の運転手は「B氏の車と似た車」について、「ヘッドライトを切った状態で停まっていた」と証言しているが、ヘッドライトを切っている車など通りすぎる際に到底見えないだろうと思わざるをえなかった。

B氏の裁判では、裁判官や裁判官が実際に汚水タンクがある場所まで足を運び、自分の目で現場の状況を確認するような検証は一切行われていない。そういう検証が行われていれば、私はトラック運転手の証言が有罪の根拠として裁判でまかり通ることはなかったろうと思えてならない。

控訴審段階で弁護側から提出された証拠によると、事件以前からインターネット上にA子さんを誹謗する書き込みが多数あったことも確認されており、B氏とは別の真犯人が存在しても何ら不思議はない。被害者やその遺族のためにも、B氏が犯人だということで片づけていい事件ではないと思う。

夜になると、走行中の車から現場の汚水タンクがある場所はまったく見えない。目撃者によると、実際には車はヘッドライトもつけていなかった

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

愚直に直球 タブーなし!7月7日発売『紙の爆弾』8月号! 安倍晋三 問われる「首相の資質」【特集】共謀罪を成立させた者たち
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

小池百合子の矛盾 一極集中と経済第一主義からの脱却なしに東京は変われない

〈この20年の硬直した都政の下で、アジアの金融拠点はシンガポールに、物流拠点は上海に、ハブ空港は仁川に後塵を拝しつつある。東京が産業構造の変革の波の中で、世界をリードする絵図を描けているか。少子高齢化が叫ばれながら、福祉対策の転換を導いているか。老朽化する都市は輝きを失うのではないか。様々な危機に対する準備は万全か。これまでの延長線をなぞるだけの都政でよいのか。〉

 
都民ファーストの会HPより

小池百合子都知事が代表を務める「都民ファーストの会」のHPにある言葉からの引用である。よくぞ平然と言えたもんだと呆れる。「この20年」都知事にはどんな人間がいた? 傲慢ファシスト石原慎太郎、その子分猪瀬直樹、そしてみすぼらしく切り捨てられた舛添要一。こいつらは全て自公の推薦だったじゃないか。

◆カタカナ言葉を多用する人間は疑ってかかった方がいい

そしてもう一つ気に入らないのは、不要なカタカナ言葉の多様である。「都民ファースト」などという名前に、まず禍々(まがまが)しさを直感する。小池百合子は同HPの挨拶の中で、

〈昨年の夏、私は「セーフシティ」「スマートシティ」「ダイバーシティ」の3つのシティを実現し、東京大改革を成し遂げると都民の皆様にお訴えし、暑い熱気の中で291万余の皆様から信託をいただきました。〉

とこれまた政策の3本柱をカタカナで表現している。これは英語のくせに、くだらない韻を踏んでいるところが益々いかがわしい。英語の単語を用いると、なにか新しかったり、人の知らない概念が出て来るように勘違いされた時代が過去あった。役人や広告代理店は今でもその手法をしばしば用いるが、小池の戦法はまさにそれである。カタカナ言葉を多用する人間は疑ってかかった方がいい。これは業界を問わずだ。

◎[参考動画]都議選 選挙戦最終日に各党幹部が“最後の訴え”(ANNnewsCH 2017年7月1日公開)

◆小池百合子は少し前まで自民党のど真ん中にいた人物

そして小池は、少し前まで自民党のど真ん中にいた人物であり、上記文章のいうところの「この20年の硬直した都政」を応援していた。なにを他人事のように批判しているのか、批判する資格などないじゃないか。

築地市場の豊洲移転に関して、豊洲では猛烈な毒物が再々検出されているのに、結局豊洲への移転を決め、築地も併用すると小池はいう。つまり旧来の利権政治同様、築地の改築や運用と、豊洲の改装や補強工事の両方から「利権」を得ようと企図しているのである。豊洲移転を問題として取り上げた小池への賛辞は聞くが、問題が何が何一つ解決されていない、このあいまいな豊洲移転を鋭く突く声は小さい。小池とはこういった「世論騙し」には長けている政治家だ。

◆公明党なしでは足腰ガタガタの自民党

7月2日に行われた都議選で自民党は大敗した。獲得議席はこれまで最低の38から35あたりと予想していたが、それを大幅に下回る23議席は、壊滅的敗北と言っていいだろう。

国政選挙区ではめったに落選者を出さない公明党は、今回も手堅く候補者23名全員を当選させた。そして「都民ファーストの会」は55議席を獲得した。選挙前から公明党は「都民ファースト」に擦り寄っていたので、選挙区によっては両党の票割が行われ、その相乗効果も獲得議席数に現れている。公明党なしでは自民党も足腰ガタガタで、単独ではとても議席確保が容易でない、近年の投票力学を現す結果ともなった。

東京都議会・政党別議席数の推移(選挙ドットコムより)

◆無思想な一極集中と経済第一主義を見直さない限り、東京は変われない

さて、これから都政がどうなるのか、と言えば、10年程まえに大阪で起こったことと同様の現象が繰り広げられるだろう。「都民ファーストの会」など所詮、自民党の別働隊に過ぎず、根本政策には何の違いもない。小池は元々改憲派だし、公約を見ればわかるが、まだまだ東京の一極集中と経済成長を狙っている。

東京にお住まいの方には失礼に当たるが、もう東京の圧縮振りは、限界を超えている。食料自給率ゼロの東京がこれ以上の成長を遂げようというのはひたすら無謀な目的だ。東京オリンピックを開催する発想だって「狂っている」としか言いようがない。都内にもいまだに局地的に放射線の高濃度汚染地域が点在する東京都は、まずこれまでの無思想な一極集中と、経済第一主義を見直さない限り、いずれ訪れる物理的破綻による被害はますます大きくなるだろう。

◆「安倍支配」終焉のきっかけを作ったことにおいてのみ「都民ファーストの会」は評価されてよい

当面解散総選挙でもなければ、国会に議席を持つことはないだろうが、大阪の維新同様、中央では自公政権を補完する役割を演じるに違いない。「反自公勢力」や「野党」などと考えていればそれは大きな間違いだ。都政内では公明党と接近していても、国政では、都議選のように自民党がズタボロになる兆候が現れるまで、公明党が自民党と袂をわかつことはない。大臣の椅子を1つ貰っているのだ。公明党は極めて冷静に状況を見極め、その先主導権がどちらに転ぶかを見極めてから「転身」を決める。

ただし、見方を変えれば都議選の自民大敗は、自民党内の派閥抗争に例えることが可能であり、その結果、信任を得られなかった安倍の足元は急速にぐらつくだろう。すでに自民党内からも安倍の責任を問う声が上がり始めている。内閣支持率もおそらく、妥当な数字に下がってゆくだろう。閣僚や党重鎮の失言(本音)はもう数えきれないし、不祥事も可燃ごみに出す程度ではなく粗大ごみ位にたまって来た。長すぎた「安倍支配」がようやく終焉を迎えるきっかけを作ったことにおいてのみ「都民ファーストの会」は評価されてよい。それにしても「都民ファーストの会」からの当選者には、なんと変節者の多いことだろうか。元民進党(民主党)、元自民党といった理念なき輩がほとんどではないか。

◎[参考動画]落選候補の怒り(PlaceUniversity 2017年7月2日公開)

◆「奴らは自民党の別動隊に過ぎない」

所詮は自民党の別動部隊に過ぎないので、「都民ファースト」の大勝には警戒を怠ることができない。そして、自公=安倍政権に反対で、不満を持つ層の受け皿になるべき、本来的「野党」が都政にも国会にもないことが最大の問題点であろう。日本共産党は小池都政と寄り添う姿勢を見せていたし、社民党や自由党は都議会には一人もいない。自民・公明・維新・「都民ファースト」はいずれも党名は異なっても同じ方向を向く勢力、大政翼賛会のようなものだ。

それにしても最近の安倍自民党は「保守」ではなく「極右政党」になり果てている。バランスをとるために必要なのは、明確に大政翼賛会的与党・政党に異議を唱えるまっとうな政党、野党の出現だ。かなり難しい課題ではあろうが、それが果たせなければ国会の大政翼賛会化はますます進行するだろう。「都民ファースト」の圧勝をなにか慶事のように喜ぶ向きがあるので、あえて繰り返し釘を刺しておく。「奴らは自民党の別動隊に過ぎない」と。

◎[参考動画]安倍総理へ「やめろ!」「帰れ!」の嵐(Movie Iwj 2017年7月1日公開)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

愚直に直球 タブーなし!『紙の爆弾』7月号【特集】アベ改憲策動の全貌

アルゼ(現ユニバーサル)岡田和生と私の15年戦争 [鹿砦社代表 松岡利康]

盛者必衰!? 奢れる者、久しからず!?
私を逮捕-勾留に追い込み、鹿砦社に壊滅的打撃を与えた
岡田和生(旧アルゼ創業者、前ユニバーサルエンターテインメント取締役会長)が失脚!
自らが設立し育てた会社を追われる!

6月29日の大手パチスロメーカー「ユニバーサルエンターテインメント(旧アルゼ)」の株主総会において、創業者で、事実上のオーナーとして同社を支配していた岡田和生が放逐されたニュースには驚かされた。自ら1969年の創業以来育ててきた会社の株主総会への入場を拒絶される姿は、(放映されてはいないので想像するに)絶頂期を知る一人として哀れを感じさせる。「盛者必衰」、「奢れる者、久しからず」とは古人もよく言ったものだ。

ユニバーサルエンターテインメント(UE社)といってもピンとこず、われわれにとっては旧社名の「アルゼ」といったほうが馴染みが深い。かつて岡田和生はアルゼの株式の過半を持つ創業者オーナーだった。それを、岡田一族の資産管理会社「オカダ・ホールディングス」に移行させ、オカダ・ホールディングがUE社の株式の過半を持つ。また、ここがポイントだが、オカダ・ホールディングスの株式の約46パーセントを岡田和生が保有するが過半ではない。残りは岡田の長男、長女らが保有していて、この長男・長女の株式を合わせると過半となり、岡田兄妹らは本年5月、岡田和生をオカダ・ホールディングの取締役から解任する。長男・知裕が父・和生と不仲なのは、15年ほど前に私たちがアルゼに取材を開始し関連書籍4冊を出版した頃から囁かれていた。

鹿砦社が出版したアルゼ関係4部作。右から『アルゼ王国の闇』(2003年4月)、『アルゼ王国はスキャンダルの総合商社』(2003年8月)、『アルゼ王国の崩壊』(2004年2月)、『アルゼ王国 地獄への道』(2005年3月)

◆父・和生の横槍で頓挫した長男・知裕による「アルゼ-松竹」の蜜月

当時経営難に喘いでいた「松竹」と提携、大阪道頓堀「中座」の買収に成功。さらに映画配給の共同出資会社「松竹アルゼコミュニケーションズ」を設立、長男・知裕が担当取締役に就任し『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ラッシュアワー2』『ドリブン』『ショコラ』『陽だまりのグラウンド』などヒット作を立て続けて配給。しかし、そうした長男・知裕が担当となって進めていたアルゼ-松竹の蜜月関係も、父・和生の横槍で頓挫し訴訟沙汰にまで発展する。「松竹アルゼコミュニケーションズ」は解散、この後一時、知裕はアルゼを去っている。

この事件が父・和生と長男・知裕の関係に亀裂を生じさせる一要因になっていることは否めない。それが、今回の放逐劇に繋がっているとは……。ちなみに、松竹との関係悪化と共に、くだんの「中座」は原因不明の火事に見舞われている。

◆カリスマ岡田和生なき「アルゼ王国」はやがて「崩壊」に向かう?

今回の「クーデター劇」は、子飼いのUE富士本淳社長、岡田実子らが組んで挙行したものといわれている。さらには、岡田和生の妻も関わっているとの情報もあるが定かではない(取締役として残っているので情報が錯綜しているのだろう)。発端となったのは、20億円を経理担当者に命じて自らが支配する関連会社に不正に送金させたことだといわれている。これについて真相究明の特別調査委員会を設置し岡田和生らの不正の有無の調査を開始したという。

UE社については、この数年、朝日新聞とロイター通信が、フィリピンでのカジノ進出について政府高官らへの接待や資金の不正流出などがあったことを報じ、これも訴訟に発展している(ロイター、朝日両社とも実質勝訴)。このように、なにか批判的記事を書けばすぐに巨額訴訟に打って出ることで、アルゼは一時マスコミタブーになっていた。そのタブーを破ったのがわれわれだったが、警察天下り企業をナメてかかっていたことは大反省点だ。当時、警察キャリア出身の阿南一成が社長として雇われていたが、メンツにかけて牙を剥いてくるだろう。

UE社のフィリピン・カジノスキャンダルを報じる朝日新聞2012年12月30日朝刊
松岡逮捕につながった『アルゼ王国はスキャンダルの総合商社』

UE社(アルゼ)のカジノ進出については、カジノ王といわれるスティーブ・ウィンと組んで開業したラスベガスやマカオでの「ウィン・リゾーツ」を発端として開始されたが、Sウィンと対立し放逐され訴訟沙汰に発展している。フィリピンはUE社単独での開発だが、カリスマ岡田和生なき後、今後どうなるのか、興味深々だ。

鹿砦社が出版したアルゼ関係書籍は4冊、『アルゼ王国の闇』(2003年4月)『アルゼ王国はスキャンダルの総合商社』(2003年8月) 、『アルゼ王国の崩壊』(2004年2月)、『アルゼ王国 地獄への道』(2005年3月)である。

このうち『アルゼ王国はスキャンダルの総合商社』により、岡田和生らにより刑事告訴され、私の逮捕→192日の勾留→有罪判決(懲役1年2カ月、執行猶予4年)が最高裁で確定。また民事でも、出版差止仮処分→損害賠償300万円(一審)→同600万円(控訴審)が最高裁で確定、まさに「地獄への道」に落とされたが、今の岡田和生もまさに「地獄への道」に落とされた気分だろう。人をハメた者は、いつかは自らもハメられる――因果応報だ。カリスマなき「アルゼ王国」も、やがて「崩壊」するだろうと私は予測する。

松岡逮捕を報じる朝日新聞(大阪本社版)2005年7月12日朝刊

◆呪いか、祟りか──鹿砦社を地獄に落とした者たちに降りかかる因果応報

ところで、私や鹿砦社を地獄に落とした、「名誉毀損」に名を借りた出版弾圧事件、岡田和生はじめ、これに関わった者らに、偶然だが不幸が訪れている。「鹿砦社の呪いか、マツオカの祟りか」と揶揄される所以だ。人の不幸を喜ぶわけではないが、あえて挙げておこう。――

大坪弘道検事(当時、神戸地検特別刑事部長) 
 のちに栄転した大阪地検特捜部長の時に、厚労省郵便不正証拠隠滅事件に連座し逮捕、有罪確定、失職。

宮本健志検事(当時、主任検事で私に手錠を掛け取り調べた) 
 のちに栄転した徳島地検次席検事の時、深夜に泥酔し一般人の車を傷つけ戒告・降格処分を受けた。

阿南一成(当時、アルゼ社長。元警察キャリア。元参議院議員) 
 耐震偽装会社との不適切な関係を問われ辞任。

鹿砦社代表 松岡利康
『人権と暴力の深層』カウンター内大学院生リンチ事件真相究明、偽善者との闘い(紙の爆弾2017年6月号増刊)
『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾2016年12月号増刊)
『ヘイトと暴力の連鎖 反原連―SEALDs―しばき隊―カウンター 』(紙の爆弾2016年7月号増刊)

《建築漂流05》新宿ホワイトハウス 磯崎新の処女作、ネオ・ダダの拠点

 

東京都新宿区百人町1丁目。山手線の新大久保駅を中心としたこの地域は歌舞伎町の裏手にあたり、水商売の匂いが消えない。韓国やトルコの人々が住み働く外国人街であり、また古くからの住宅街でもある。

雑然と散らかったこの街の空気はどこか澱んでおり、決して清潔な印象を持つことができないが、そういった諸々を人間臭さとして認めることで僕はこの街が好きになった。そんな百人町1丁目で発見した建築、新宿ホワイトハウスを紹介しよう。

◆磯崎新の処女作 ネオ・ダダ吉村益信の自宅 

新宿ホワイトハウスは、建築家・磯崎新の処女作であり、美術家・吉村益信の住居として設計された。代表作としてロサンゼルス現代美術館や水戸芸術館、東京造形大学八王子キャンパス等を挙げることのできる磯崎は、やはり建築界の大御所だ。

1960年、モダニズム建築を推し進めた丹下健三の運動に参加するも、モダニズムでは無視された装飾性や過剰性といった要素を取り戻すべきだという考えを抱くに至る。こうした思想の下、1980年代以降はポストモダニズム運動を牽引していくこととなり、その業績から建築のみならず美術の文脈を知る上でも重要な建築家として認知されている。

新宿ホワイトハウスに暮らした吉村益信は、1960年に登場した前衛芸術集団「ネオ・ダダ(ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ)」の主宰であり、ホワイトハウスはネオ・ダダの活動拠点であった。ネオ・ダダのメンバーとして有名な篠原有司男(通称:ギューチャン)、赤瀬川原平、荒川修作らに加え、メンバーではないが磯崎新もここホワイトハウスを度々訪れていたという。

 

◆「カフェアリエ」の“トマソン”

現在は、建物の一部を改装し喫茶店「カフェアリエ」として営業を行っている。ツタ植物に覆われた特徴ある外観だが、横道のさらに裏手に建っているため目立たない。

許可を得て外観を撮影していると、早速“トマソン”(ネオ・ダダのメンバーである赤瀬川原平が提唱した芸術概念。不動産に付着する無用の長物を指す。ここでは用途不明の2階の戸)を見つけた。

 
 

◆吹き抜け天井、白い壁、床に残った絵の具の跡

中に入ると、思わず深く息を吸いたくなるような吹き抜けの天井、白い壁。床には絵の具の跡が残っている。

バー・カウンターはカフェ開業に伴って据え付けたもので、ネオ・ダダ時代の押入れを改装して現在の厨房に仕上げたという。当時の台所もそのまま残っており、写真の通りだ。いかにもアトリエといった空気が心地よく、感傷的になってしまった。

本棚にはもちろんネオ・ダダ関連の書籍が並んでいる。ダダイスト諸兄には是非足を運んでもらいたい。

 

[撮影・文]大宮浩平

▼大宮 浩平(おおみや・こうへい)
写真家 / ライター / 1986年 東京に生まれる。2002年より撮影を開始。 2016年 新宿眼科画廊にて個展を開催。主な使用機材は Canon EOS 5D markⅡ、RICOH GR、Nikon F2。
Facebook : https://m.facebook.com/omiyakohei
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愚直に直球 タブーなし!『紙の爆弾』7月号【特集】アベ改憲策動の全貌
多くの人たちと共に〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』

6月18日興行、WBCムエタイを舞台に戦い続けるNJKF!

インター王座奪取し、健太と並んでNJKFのエース格へ進出のMOMOTARO

MOMOTAROは技の多彩さが勝機を導く展開でした。初回は勢いあったカルロスでしたが、MOMOTAROは蹴りの伸びやスピードが優っていました。蹴り勝つMOMOTAROは、2ラウンドに連打から左ストレートパンチでカルロスのアゴを捉え、ダメージ深いカルロスは立ち上がれず、担架で運ばれる衝撃の終了でインター王座奪取となりました。

20代最後の試合となった健太は、初回は様子見で、浅瀬石はパンチで威圧的に攻めるが、劣勢には至らない健太。2ラウンドから健太が出始める。パンチからヒジと圧力を強め、経験豊富な修羅場の底力を発揮、3ラウンドにはヒザ蹴りでダウンを奪う。4ラウンドも多彩に攻め、ヒジで浅瀬石を流血に追い込むTKO勝利で初防衛に成功。 今後もブランクを空けないハイペースで、他のイベント興行出場も含め世界進出を狙う意欲を感じます。

前田浩喜が蹴りとパンチでの速攻で2度のダウン奪ってレフェリーストップによる2階級制覇。金子貴幸は勢いに乗る前に仕留められてしまいました。

玖村修平は2度のバックハンドブローによるダウンを奪うこと含むパンチでの3度ダウン奪って王座獲得しました。

◎NJKF 2017.2nd 6月18日(日)後楽園ホール 17:05~20:50
主催:ニュージャパンキックボクシング連盟
認定:WBCムエタイ日本実行委員会、NJKF

◆WBCムエタイ・インターナショナル・フェザー級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.カルロス・セブン・ムエタイ(スペイン/27歳/56.75kg)
VS
WBCムエタイ日本フェザー級チャンピオン.MOMOTARO(OGUNI/26歳/56.95kg)

勝者:MOMOTARO / TKO 2R 2:04 / カウント中のレフェリーストップ
主審 多賀谷敏朗

カルロスの技量を見極め、グングン蹴り込んだMOMOTARO
ハイキックで攻めるMOMOTARO
カルロスは立ち上がれず、MOMOTAROの完勝
健太がヒジで追い込むも流血しながら諦めない浅瀬石

◆WBCムエタイ日本ウェルター級タイトルマッチ 5回戦

第6代チャンピオン.健太(E.S.G/29歳/66.68kg)
VS
挑戦者NJKFウェルター級チャンピオン.浅瀬石真司(東京町田金子/37歳/66.45kg)

勝者:健太 / TKO 4R 1:54 / タオル投入による棄権
主審 竹村光一

健太がしぶとい浅瀬石を追い込むが、簡単には倒れない頑丈な浅瀬石
浅瀬石真司vs健太。健太の最後の一撃、この後タオルが投入された
いつもの健太ポーズを加藤愛香さんととる健太
前田浩喜のハイキック、距離感が一気に勝利に導いた
NJKF2階級制覇した前田浩喜のベルト姿
日下滉大vs玖村修平。バックハンドブローでKO勝利した玖村修平
玖村修平のベルト姿

◆58.0kg契約 3回戦

NJKFフェザー級チャンピオン.新人(E.S.G/28歳/57.7kg)
VS
Bigbangスーパーフェザー級チャンピオン.駿太(谷山/35歳/58.0kg)
勝者:駿太 / 1-2
主審 少白竜 / 副審 竹村30-29. 大澤29-30. 多賀谷29-30

◆NJKFスーパーバンタム級タイトルマッチ 5回戦

第5代チャンピオン.金子貴幸(GANGA/28歳/55.2kg)
        VS
挑戦者同級1位.前田浩喜(CORE/36歳/55.2kg)
勝者:前田浩喜(第6代C) / TKO 1R 2:52 / カウント中のレフェリーストップ
主審 山根正美

◆第10代NJKFバンタム級王座決定戦 5回戦

1位.日下滉大(OGUNI/22歳/53.4kg)
VS
2位.玖村修平(K3B/20歳/53.2kg)
勝者:玖村修平(第10代C) / KO 4R 2:59 / 3ノックダウン
主審 大澤武史

◆69.5kg契約3回戦

NJKFスーパーウェルター級チャンピオン.YETI達朗(キング/32歳/69.2kg) 
     VS
NJKFウェルター級3位.山崎遼太(OGUNI/25歳/69.5kg)
勝者:YETI達朗 / KO 2R 1:39 / 3ノックダウン
主審: 多賀谷敏朗

◆女子(ミネルヴァ)55.0kg契約3回戦(2分制)

NJKF女子スーパーバンタム級チャンピオン.杉貴美子(TenClover/36歳/54.75kg)
VS
同級5位.和乃(新興ムエタイ/29歳/54.4kg)
勝者:杉貴美子 / 3-0
主審 竹村光一 / 副審 大澤30-27. 多賀谷30-27. 山根30-27

他、3試合は割愛します。

健太vs浅瀬石真司戦はダブルタイトルマッチではありません。下位タイトルの浅瀬石が上位タイトルの健太に挑んだ試合です。ボクシング的に言えば、負けた浅瀬石の王座剥奪はありません。いずれにせよ、この展開での剥奪ルールは無いキック団体です。

《取材戦記》

この団体での国内王座からインターナショナル王座へ挑むこと多くなったWBC傘下のタイトルを狙う選手たちです。そしてヨーロッパ勢との絡みが多くなるインター王座ですが、ムエタイ技術とパワーを持った強さが目立ち、苦戦すること多く簡単には獲れない王座です。

しかし、強豪ヨーロッパ勢に打ち勝つ技術を持った日本人選手が居ることも確かで、過去には2012年9月に大和哲也(大和)がスーパーライト級で奪取、2014年4月に梅野源治(PHOENIX)がスーパーフェザー級で王座奪取し、昨年7月、テヨン(キング)がスーパーライト級で、TOMONORI(OGUNI)フライ級で奪取しました。

11月には期待の健太(E.S.G)はウェルター級王座決定戦で強豪サモン・デッカーに敗れ惜しくも奪取成らずでした。世界の前に立ちはだかる壁としては良い試練となるインター王座なのかもしれません(他にも奪取した選手いたと思いますが割愛させて頂きます)。

しかし、キック系世界王座はWBCムエタイだけではない現実があり、更にそれを越える伝統のムエタイ最高峰があり、そこまでにそれぞれが目指す方向が違って日本人頂上決戦が行なわれ難い現実があります。選手同士は戦いたくても、プロモーターの権力と思惑が大きく遮る結果ともなっています。ファンの夢を噤む、そんな事態はもう終わらせたい今後のキック界でしょう。

NJKF 2017.3rdは9月24日(日)後楽園ホールで17:00より開催予定です。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

《鳥取不審死・闇の奥04》同居男性が真犯人であるかのように語った上田被告

2009年頃に社会の耳目を集めた鳥取連続不審死事件で、2人の男性を殺害するなどしたとして強盗殺人などの罪に問われ、無実を訴えながら死刑判決を受けた上田美由紀被告(43)。その最終審理とも言える上告審弁論も6月29日に最高裁で開かれ、あとは最後の判決を待つばかりだ。

私はこの連載で2つの殺人事件について、事件当日の上田被告や被害者の足取りをたどるなどしたうえで上田被告の無実の訴えは無理があることを論証してきた。

今回は2つの殺人事件のうち、上田被告が2人目の被害者・圓山秀樹さん(当時57)を殺害したとされる事件について、上田被告の弁明がどんなものだったかをみてみよう。

◆同居していた男性が真犯人であるかのように弁明

一、二審判決の認定によると、上田被告は2009年10月、電化製品の代金約53万円の支払いを免れるため、電気工事業の圓山秀樹さん(同57)に睡眠薬などを飲ませて意識もうろう状態に陥らせたうえ、摩尼川という川の上流で溺死させたとされる。

そして事実関係を見ていくと、事件当日の朝、圓山さんは内縁関係にあった女性に「集金に行く」と言って、用意された朝食も食べずに外出。そしてほどなく上田被告と合流し、殺害現場のほうに車で向かったのちに行方が途絶え、翌日、川の中で溺死体となって見つかっている。

加えて、上田被告は同年4月、借金270万円の返済を免れるために殺害したとされる1人目の被害者・矢部和実さん(同47)が失踪した当日も朝から矢部さんと行動を共にしていた。そして一緒に車で殺害現場である海まで向かったのち、矢部さんはそのまま行方不明になり、後日、溺死体で見つかっている。このように2つの事件が酷似した経緯をたどっていることを「単なる偶然」だと思う人はいないだろう。

そして2つの殺人事件では、上田被告の弁明も酷似していた。矢部さんが殺害された事件について、上田被告が当時同居していた男性A氏のことを犯人であるかのような弁明をしているのはすでに述べた通りだが、上田被告は圓山さんの殺害についてもA氏の犯行だったかのように主張しているのである。

圓山さんが殺害された当日、上田被告と一緒に赴いた岩戸港

◆詳細に事件当日のことを語ったが……

裁判の第一審では黙秘した上田被告。控訴審の法廷で黙秘を撤回し、圓山さんの事件について弁明した供述の要旨は次の通りだ。

・・・・・以下、控訴審判決をもとにまとめた上田被告の公判供述の要旨・・・・・

私は事件当日、知人の運転する車で、ファミリーマート鳥取丸山店に寄って、コーヒー、タバコ、お茶を購入した後、圓山さんが経営する電気工事業の事務所に赴き、圓山さんと合流しました。そして圓山さんの運転する車の助手席に乗って喫茶店に赴き、モーニングを食べ、その際に圓山さんから「電化製品代金のことでAと話がしたい」と言われたので、Aに電話をしました。そしてAに対し、圓山さんの言う通りに待ち合わせ場所を説明したのです。

それから、私は圓山さんの運転する車で、当時は名前を知らなかった岩戸港まで移動しました。そして岩戸港に到着後、10分か20分すると、Aが車を運転してやってきました。すると、圓山さんが「Aと1対1で話がしたい」と言ったため、圓山さんの車の助手席に座っていた私はAと交替しました。そして私はAが乗ってきた車の運転席で2人の話し合いが終わるのを待っていましたが、途中、自動販売機で買った缶コーヒー2缶を2人が乗っている車に差し入れました。

しばらくすると、Aと圓山さんが車から降りてきて、運転席に座っていた圓山さんが助手席に座り、助手席に座っていたAは缶コーヒー2本を海に投げ捨ててから、車の運転席に乗り込みました。そしてAは私に対し、「圓山さんは気分が悪いみたいだ。車を運転し、ついてくるように」と言い、圓山さんの車を運転して岩戸港から出発しました。そこで私も車を運転し、Aが運転する圓山さんの車についていったのです。

それからAは殺害現場の川のほうに車を走らせて行きましたが、その途中、Aの運転する車の助手席に座った圓山さんが窓に頭をもたれかけているのが見えました。それから私はクラクションを鳴らしてAの運転する車を停めさせ、Aに「ついていきたくない」と言いました。私は無免許運転だったため、このまま一本道を行くと、後ろからついてきていると思っていた警察に捕まるのではないかと思ったためです。

すると、Aは「待っとれ」と言い、私の運転する車を残し、自分は圓山さんを助手席に乗せた車で殺害現場の川の付近に向かっていきました。その後、私からAに電話をしたところ、Aから「まあ、ええけえ。ちょっと待っとれ」と言われましたが、私が乗っていた車を少し前進させたところ、Aが小走りで向かってきて、私が乗っていた車の助手席に乗り込んできました。

私は「何があったの?」と尋ねたり、自分と交替で運転席に座ったAに「車を進めて欲しい」と言いましたが、Aは膝から下を濡らした状態で、しどろもどろになってはっきり答えず、車を動かしませんでした。

・・・・・以上、控訴審判決をもとにまとめた上田被告の公判供述の要旨・・・・・

 
とまあ、上田被告は裁判で、かくも詳細に事件当日のことを語っている。A氏こそが圓山さんを殺害した犯人だと明言しているわけではないが、そう言ったに等しい供述内容だ。

◆罪を免れるための虚言

実際問題、検察の主張では、上田被告が圓山さんから「代金後払い」の約束で交付をうけていた電化製品は計12点・販売価格合計約123万円に及んだとされたが、そのうち6点・約69万円が圓山さんの作成した売掛帳ではA氏が債務者であるかのように記載されていた。そしてA氏本人は裁判で、自分が債務者であるかのようにされた電化製品6点は上田被告が注文したものだと主張したのだが、裁判では結局、A氏の証言が信用されず、A氏が問題の電化製品6点の債務者だったように認定されている。

しかし事実関係を見ると、上田被告が主張する通りにA氏が真犯人だと考えるのはやはり無理がある。

まず、そもそも上田被告らと圓山さんが取引を始めたのは、以前から知り合いだった上田被告と圓山さんが2009年8月頃、ドラッグストアでばったり会ったのがきっかけだった。さらに圓山さんと内縁関係にあった女性によると、圓山さんは事件の1週間前の朝、上田被告から電話があったことについて、「(電化製品の)代金を支払わない女性客がいる。その女性の親族が払ってくれる」と述べていた。そして携帯電話の通話記録を見ると、圓山さんと上田被告の間で頻繁に電話がかけられていた。こうした事実関係を見る限り、圓山さんが代金を請求する相手をA氏ではなく、上田被告だと認識していたことは明らかだ。

そして事件当日の朝、圓山さんは取引先に電話をかけ、「集金に来てくれという電話があったので、行かなければならないからまた後で電話をする」と伝え、その後に内縁関係にあった女性に「集金に行く」などと言い、用意された朝食を食べずに慌てた様子で出かけて行ったという。そして外出後、ほどなく上田被告と合流している。こうした事実経過をたどる中、圓山さんが突如、「電化製品代金のことでAと話がしたい」と言い出し、やってきたA氏がいきなり圓山さんを殺害するなどということはどう考えてもありえないだろう。

そしてA氏が圓山さんを殺害するということがありえないならば、圓山さんを殺害する機会や機会を有していたのは上田被告だけである。上田被告の無実の訴えについては、「罪を免れるための虚言」と評価せざるをえない。(次回につづく)

上田被告は、この橋の下を流れる川まで圓山さんを連れて行き、溺死させたとされる

【鳥取連続不審死事件】
2009年秋、同居していた男性A氏と共に詐欺の容疑で逮捕されていた鳥取市の元ホステス・上田美由紀被告(当時35)について、周辺で計6人の男性が不審死していた疑惑が表面化。捜査の結果、上田被告は強盗殺人や詐欺、窃盗、住居侵入の罪で起訴され、強盗殺人については一貫して無実を訴えながら2012年12月、鳥取地裁の裁判員裁判で死刑判決を受ける。判決によると、上田被告は2009年4月、270万円の借金返済を免れるためにトラック運転手の矢部和実さん(当時47)に睡眠薬などを飲ませて海で水死させ、同10月には電化製品の代金約53万円の支払いを免れようと、電気工事業の圓山秀樹さん(同57)を同じ手口により川で水死させたとされた。そして2014年3月、広島高裁松江支部の控訴審でも控訴棄却の判決を受け、現在は最高裁に上告中。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)
愚直に直球 タブーなし!『紙の爆弾』7月号!【特集】アベ改憲策動の全貌