羽曳野殺人事件 ── 「直接証拠なしで懲役16年」 最終弁論要旨を読んで気になっていたこと 尾﨑美代子

羽曳野殺人事件で懲役16年の有罪判決を受けた被告の山本孝さんと弁護団が10月11日大阪高裁に控訴した

弁護団長伊賀興一弁護士に「ぜひ後追い記事を書いてくださいよ」と言われてたので、金曜日夜伊賀事務所に判決文と控訴申立書を貰いにいく。30分だけお話した。

◆検察側証人が15人と非常に多い異例の裁判

山本さんがある男性を殺害したとして逮捕、起訴されたこの事件、詳細はまた何かで報告させてもらうが、6月に始まったこの裁判員裁判、審理が3ケ月半と長期に及ぶこと、検察側証人が15人と非常に多い異例の裁判となった。

私は被告人尋問しか傍聴出来てないが、新聞記事や事前に頂いた最終弁論要旨などを読み、とにかく気になっていたことがあった。

それは被害男性への殺害方法だ。近所のドラレコに映った画像(人がいるというだけで顔貌など判別できない)からわかるのは、犯人は被害者とすれ違いざま、被害者の顔を確認するような行為を行い、一旦すれ違ったあと、被害者に後ろから近づき、被害者の背中の肋骨と肋骨の間にナイフを横にして差し込み、心臓をいわば裏側からひとつきして殺害している。なので返り血など浴びておらず、被害者の死を確認することなく、現場からもすすっと離れている。

◆軍隊経験のない人が、そんな殺し方をできるのか

しかし、実は被害者と山本さんには面識がある。山本さんが被害者に殺したいほど恨みがあるとしても、いや、ならば当然、すれ違いざま、わざわざ顔を確認しないだろう。いや、もしかして、暗がりだから確認したかもしれない。なにしろ殺害するのだから。

でも、より確実に相手を殺害したいなら、しなければならないなら、山本さんはすれ違いざま、正面からどうどうと心臓めがけてナイフをさしいれるはずだ。わざわざ、後ろにまわり、肋骨と肋骨の間にナイフを横に差し入れるなどという、特殊な訓練を受けた殺し屋のような方法を、不謹慎な言い方だが、殺害初心者の山本さんは取らないだろう。

失敗したら大変だ。「山本に殺られた~」と叫ぶだろう。(実際ドラレコには被害者の最後の声が残されている)。

山本さんは長年スーパー勤務の男性だ。事件当日も、仕事から戻り酒を呑み、家族で夕食をとり、風呂にはいり、長女と居間でテレビを見ていた。そんな普通のおやじさんだ。紀州のドンファン事件の早紀被告ではないが(早紀被告だって検索していただけで犯行に及んだかは不明だ)、「背中から刺して殺す」「肋骨と肋骨の間からからナイフを入れて殺す方法」などを検索した履歴もない。

判決文には「検察官の主張する各間接証拠を検討した結果、その相当部分は、弁護人の主張するとおり、検察官の立証に問題があり、被告人が犯人であることを基礎付ける事実関係として採用することができないが、一部の間接事実は疑いを容れずに認定することができ、その間接事実を総合して推認することにより、常識的に考えて被告人以外の犯人を想定することができず、被告人が本件の犯人であると認めることに、合理的な疑いを容れる余地はないものと判断した」とある。

何度も言うが、スーパー勤務、仕事から帰宅後、大好きな酒を飲みながら家族との団欒を楽しむ山本さんが、まるでプロの殺し屋のような殺害方法で人を殺すなんて、「常識的に考えて」ありえないだろう!

そんな話をしたら、伊賀弁護士に「尾崎さん、鋭いですね」と言われた。いや、鋭いも何も、普通スーパー勤務で、自衛隊など軍隊経験のない人が、そんな殺し方しないだろうよ。

ほかにも不可解な点は山程あるが、山本さんには有罪判決が下され、控訴することになった。

「尾崎さんは驚いてくれたが、裁判員からは何の疑問や質問も出ないんですよ」と諦め顔の伊賀弁護士。そして「この事件についてはもっともっと広めていかないと」と。はい、頑張って広めていきますね。


◎【参考動画】【大阪・羽曳野隣人殺害事件】「懲役16年」有罪判決 捜査機関が有罪立証のもととした「ドラレコ映像」は「被告と犯人の特徴合致すると評価できない」(カンテレ「newsランナー」2024年9月27日)

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

官僚支配・憲法無視・米国追従「能動的サイバー防御」とは何か(足立昌勝)/日本の冤罪〈52〉プレサンス元社長事件 「村木事件」と同じ過ちを繰り返した大阪地検特捜部(尾﨑美代子)『紙の爆弾』10月号の注目記事 

月刊『紙の爆弾』の最新号記事がnoteで一部公開・購読可能となりました。記事単位での購入も可能になりましたが、『紙の爆弾』はあくまで紙がメインのメディアです。興味を持っていただけましたら、ぜひ書店でお手にとっていただければ幸いです。定価700円(税込)、年間定期購読7700円(1号分お得です)。ここでは10月号(9月7日刊行)の注目記事2本の一部を紹介します。

◆官僚支配・憲法無視・米国追従「能動的サイバー防御」とは何か
 取材・文◎足立昌勝

 
 

「有識者会議」の有名無実

政府は6月7日、国の重要インフラへのサイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御(アクティブ・サイバー・ディフェンス=ACD)」導入に向けた有識者会議(「サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた有識者会議」)の初会合を首相官邸で開いた。岸田文雄首相(当時。以下同)は「我が国のサイバー対応能力の向上は、ますます急を要する課題だ」と強調し、早期に関連法案を取りまとめるよう河野太郎デジタル相に指示した。

以上が、マスコミが報道した内容である。しかし後述するように、有識者会議では「能動的サイバー防御」という言葉は用いられず、「アクセス・無害化措置」という言葉に置き換えている。マスコミはそのことに触れないが、そこにこそ、政府・官僚の国民をだます姑息な手段を見ることができる。

会議では、次の3つのテーマについての分科会が設置された。①官民連携(官民の情報共有・民間支援)②通信情報の利用③アクセス・無害化措置(攻撃者のサーバー等の無害化)。これらの分科会では、最初に事務局である内閣官房サイバー安全保障体制整備準備室から「御議論いただきたい事項」が提示された。

このことは、非常に重大である。有識者会議は、専門家が各自の知識に基づき実質的な議論をするべき場所だが、実際は建前にすぎず、事務局(官僚)の構想によって動かされているからだ。

そもそも、有識者会議には17名の委員のほかに、政府側からも岸田首相・河野デジタル相・石川昭政デジタル副大臣に加え〝お付きの者?として、大臣と副大臣の官房副長官、国家安全保障局長、3名の内閣官房副長官補と内閣審議官が参加している。また、分科会には事務局であるサイバー安全保障体制整備準備室から室長を含め6名の幹部が出席し、議論をリードしていることがうかがえる。

その第1回会議で政府から提示された資料では、「現行制度上の課題」として、2022年12月に閣議決定された「国家安全保障戦略」に依拠する形で、今後の方向性を次の3点にまとめている。

①官民連携の強化⇒高度な侵入・潜伏能力に対抗するため、政府の司令塔機能、情報収集・提供機能の強化が不可欠。整理が必要な法令の例:サイバーセキュリティ基本法、各種業法

②通信情報の活用⇒悪用が疑われるサーバー等の検知には、「通信の秘密」を最大限に尊重しつつも、通信情報の活用が不可欠。整理が必要な法令の例:憲法21条(通信の秘密)

③アクセス・無害化措置⇒重大なサイバー攻撃の未然防止・拡大防止を図るためには、政府に侵入・無害化の権限を付与することが不可欠。整理が必要な法令の例:不正アクセス禁止法

これら3点を実現・促進するため、強力な情報収集・分析・対処調整機能を有する新たな司令塔組織を設置することが必要だと結論付けた。

ここで注意しなければならない点こそ、「能動的サイバー防御」の言葉が消え、「アクセス・無害化措置」に変更されていることだ。なぜこれらの用語変更をしたのかは、何の説明もないので不明だが、うがった見方をすれば「能動的サイバー防御」という言葉の持つイメージが非常に攻撃的であり、相手方サーバーに積極的に侵入し、攻撃力を消失させるという行為が、専守防衛を国是とする政府の立場から果たして許されるのかについての懸念が各方面から指摘されていたからではないか。
同様の言い換えは、「電話盗聴」を「通信傍受」、「監視カメラ」を「防犯カメラ」に換えて、盗聴や監視という本質を隠蔽し、国民を手なずけようとする官僚の常とう手段である。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/n3be6409e9d19

◆シリーズ日本の冤罪〈52〉プレサンス元社長事件 
「村木事件」と同じ過ちを繰り返した大阪地検特捜部
 取材・文◎尾﨑美代子

 
 

2019年12月16日、大阪地検特捜部は、東証一部上場企業(当時)の総合デベロッパー「株式会社プレサンスコーポレーション」社長だった山岸忍氏を業務上横領容疑で逮捕した。山岸氏は、日本史上最多の保釈条件を付けた6回目の保釈請求が通るまで248日間勾留され、多くの財産と、我が子のように育ててきた会社を奪われた。しかし、その後の刑事裁判で山岸氏には無罪判決が下された(検察が控訴しなかったため無罪が確定)。

大阪地検特捜部(以下、特捜部)は2009年、村木事件で当時の厚生労働省局長・村木厚子氏を逮捕するも、裁判で無罪が確定した。しかもこの件で特捜部は、担当検事や上司らが証拠隠滅罪・犯人隠避罪で逮捕され有罪判決を受けるという一大不祥事を起こしている。

プレサンス事件で再び同じ過ちを犯した特捜部は、今回、特捜検事が特別公務員暴行陵虐罪で刑事裁判にかけられる事態となった。事件の詳細を山岸氏の“最強弁護団”の1人・西愛礼(にし・よしゆき)弁護士に取材した(以下、山岸氏と検察官以外の個人名は仮名)。

 山岸氏はなぜ逮捕されたのか

山岸氏の逮捕は、プレサンスが土地売買を手掛けた学校法人明浄学院(当時。本部・大阪市。以下、学院)の元理事長・佐橋由美子氏が、2019年12月に業務上横領で逮捕されたことがきっかけだった。佐橋氏は、2016年4月の理事長就任以前から学校経営に並々ならぬ関心を持ち、いくつもの学校法人に狙いをつけており、学院はその1つだった。

2015年頃、山岸氏に学院の校地買収の案件が持ち込まれる。同案件を進めたのは山岸氏の部下の小森氏だったが、案件が進展しないなか、校地売却による学院の郊外への移転費用、移転先での新校舎の建設費用、退任する理事長の退職金などまとまった資金を、山岸氏の個人資産から貸し付けてほしいと依頼してきた。

当時のプレサンスは急成長を遂げ、3年先までの土地も確保していたため、無理してまで校地を手に入れる必要はなかった。しかし、貸付先が学校法人であること、部下の小森氏や間に入る不動産会社社長・山本氏への信用などから貸し付けを決めた。

その際、佐橋氏については事前の調査でコンプライアンス上の問題点があったため、山岸氏は理事長が別の人物であることを確認したうえで学院への18億円の貸し付けを決めている。

そして2016年3月、山岸氏は山本氏との間で「金銭消費賃借契約書」を交わし、2回にわたって山本氏の会社に送金した。18億円は、そこから学院に送金される予定だった。しかし、その後、佐橋氏によって、佐橋氏のダミー会社や退任する理事長などの手に渡っていた。佐橋氏が小森氏、山本氏を巧みに騙し、学院の経営権掌握に費やしたのだ。

小森氏と山本氏は、当初の計画の変更を余儀なくされるも、その事実を山岸氏に伝えてしまうと激怒され、案件が潰れてしまうことなどを恐れ報告しなかった。最終的に学院の校地を売却したお金で山岸氏への返済ができればよいと考えていた。

ところが、その後、学院と移転先の自治体との交渉が決裂したため、学院は元の校地の半分をプレサンスに売却し、半分に新校舎を再建することとした。プレサンスは土地購入の手付金として21億円を学院に支払ったが、佐橋氏はそのお金を私的に流用(横領)し、山岸氏に借りた18億円の返済に使った。

こうして山岸氏には18億円が返済されたが、山岸氏は全て学院とのやり取りだと認識しており、まさかそこに佐橋氏が関わっているとは全く知らずにいたのである。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/nad61e515d221

最新刊! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年11月号

『紙の爆弾』2024年 11月号

【特集】いま政治が問うべきこと
鈴木宣弘東大大学院教授が語る「食料安全保障」 日本の農と食を潰す洗脳を解く
国民を騙して導入し、人と国を弱体化させる消費税を廃止せよ 
川内博史・原口一博(立憲民主党衆院議員)
米国植民地からの脱却が東アジアの平和をつくる 
鳩山友紀夫(元首相)・末松義規(立憲民主党衆院議員)

河野太郎「マイナ保険証」の愚行 米アマゾンに売られる日本の「情報主権」 高野孟
巨大製薬企業は日本人を狙っている! 明らかになった子宮頸がんワクチンの危険性 神山徹
ウクライナ化するフィリピン 米中対立と「アジア有事」の現在地 浜田和幸
日本人が知らされない“極東”の隆盛 ロシア「東方経済フォーラム」で見た世界の現実 木村三浩
自民党総裁選「憲法改正」争点化の姑息 自民憲法改正案は「改憲」とはいえない 足立昌勝
告発者潰しにも維新議員が関与 兵庫パワハラ知事を生んだ維新の無責任と凋落 横田一
「政教分離」をかなぐり捨てる創価学会 公明党・山口那津男代表“一転”退任の真相 大山友樹
総裁選とは何だったのか 衆院解散・総選挙とその後の自民党 山田厚俊
プロボクシングに見た躍進するサウジアラビア 片岡亮
ジャニーズとNHK、そして大阪・関西万博 本誌芸能取材班
統一教会のオカルト洗脳で「脳死」させられたニッポン 佐藤雅彦
シリーズ日本の冤罪 53 茨城上申書殺人事件 片岡健

連載
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け:西田健
「格差」を読む:中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座:東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER:Kダブシャイン
【新連載】「ニッポン崩壊」の近現代史:西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/
◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DJ2KG1N5/

飯塚事件の6・5「不当決定」を許さない!「声なき声」を汲み続ける徳田靖之弁護士の9・14大阪講演会報告 尾﨑美代子

◆1時間お話するのに、5時間かけて来て下さるつもりだった徳田靖之弁護士に感謝感激

9月14日の徳田弁護士講演会に参加された皆様、お疲れ様です。東京、広島、和歌山からの方々や差様々な活動をされている方々など多くの参加者に集まっていただきました。

徳田弁護士のお話の前に私が少し話させていただきました。講演会前にあるアクシデントが起きましたが、結果、それは徳田弁護士ら飯塚事件弁護団が飯塚事件をいかに多くの方々に伝えたいかがわかるエピソードとなったということについてです。

講演会開催のきっかけは、映画「正義の行方」を見て、飯塚事件をもっと知りたいと考えたからでした。


◎[参考動画]映画『正義の行方』本予告

6月5日、飯塚事件の第二次再審の結果が福岡地裁で下されました。青木恵子さんが現地に駆けつけるというので、徳田弁護士に講演依頼を頼んでおきました。徳田弁護士はすぐに快諾してくださり、日程は9月14日と決まりました。

その後、私が徳田弁護士にチラシを送るなど連絡をしておりました。チラシには夜6時半開演と記していたので、当然、徳田弁護士はその日大阪で泊まるだろうと考え、ホテルも予約しました。が、そのことを私は徳田弁護士には伝えていませんでした。青木さんから徳田弁護士には「交通費など経費はちゃんとお支払いします」と伝えて貰っていたので、そこには謝礼、ホテル代も含んでいますよと勝手に考えていました。いや、私たちはこれまでどんな集会、講演会をやるときも必ず交通費、謝礼、ホテル代を払ってきました。それは当然と考えてきました。

先週になって徳田弁護士に「講演のお時間はどのくらいとりましょうか」とメールをしますと、徳田弁護士から「8時41分の新幹線が最終となりますので、約1時間ですね」と返事がきました。「えっ?帰られるの?」。

嫌な予感がないことはなかった……。青木さんが徳田弁護士に「交通費など実行委で出します」と伝えた際、「交通費なんかいりません」といわれたそうです。そう、徳田弁護士は手弁当で来られるつもりだったのです。その場合、帰れるなら帰ろうと思われたのでしょうか? あとでお聞きすると翌日15日も地元で用事があるということで、14日中に帰っておきたかったのかもしれません。結果として「ではお言葉に甘えさせていただきます」と連絡があり、宿泊することになりほっとしたのですが。それにしても、約1時間お話するためだけに、4~5時間かけて九州から来ようとされていたとは……。(実際は5時間かかってました)。

私からは、そんないきさつがあったことと、お話にも質疑応答にもたっぷり時間をとれるため、参加者の皆さんもしっかりお話をお聞きし、飯塚事件をさらに広めていきましょうと訴えました。

当日の講演内容は、書き起こししてまたご紹介いたします。

◆冤罪「みどり荘事件」

徳田弁護士をお呼びするにあたって、徳田弁護士のこれまでのご活動などを調べました。そこに「正義の行方」に一緒に出ている岩田務弁護士とともに闘った冤罪「みどり荘事件」というのがありました。どんな事件かと読み進めていくと、「あっ、この事件だったのか?」とハタと気づくことがありました。

20年以上前ですが、冤罪事件の専門書みたいな本に、ある事件で、検察が提出した証拠の中に犯人のものとされる毛髪があり、それは「15・6センチのロン毛の金髪」だったが、逮捕された男性の毛髪はパンチパーマの短髪だったという事件がありました。私はそれを読み「おいおい、ロン毛の金髪とパンチパーマってどれだけ違うねん。」と突っ込んでいましたが、その後、それがどんな事件だったかは忘れていたのです。

改めてこの事件を調べると、男性には一審で無期懲役が下されましたが、控訴審では無罪となりました。たしか、パンチパーマの件では男性が通っていた理髪店の大将が証人で出廷し、「こんなバリカンでこう刈っている」と事細かに証言し、いかに絶対15・6センチになることはない」と証言し、いかに出鱈目な証拠であるかを明らかにしていました。

一審で無期懲役だった原因としてほかにも多々あるのですが、徳田弁護士ら弁護団は、接見を通じて男性ときちんと信頼関係を築くことができなかったこともあると猛省し、二審に必死で取り組むのです。

そして、最終弁論の日を迎えます。

「最終弁論で、弁論の結びとなる『結語』は徳田弁護士が行った。徳田弁護士は、第一審から弁護についた者として自ら担当を願い出て、誰にも相談することなくひとりで『結語』を書き上げていた。その内容は、自らの第一審での弁護活動を痛烈に自己批判するものであった」。

「徳田弁護士が弁論を終えると、2時間にわたる弁護側の最終弁論を静かに聞いていた傍聴席から大きな拍手が沸き起こった。永松裁判長は、『静かにしなさい』と拍手を制止した。そして、『こんな立派な弁論に対して失礼でしょう』と付け加えた」とあります。

その後、裁判長は男性に無罪を言い渡したのです。詳細は「みどり荘事件」で検索を!

◆12月1日には神戸で徳田弁護士による「菊池事件」の講演会が開催!

徳田弁護士は別の記事で「誰にでも間違いはある」と話されています。昨日もそんなお話をしました。重要なのは、間違いについて、なぜそうなってしまったかをきっちり反省し、次につなげていくことではないでしょうか。

徳田弁護士は青木さんに「主催される方々は、冤罪事件に詳しく、いろんな活動を支援している」と聞いていたそうで、「ちょっと緊張して来ました」とおっしゃってました。それでも「本当に来てよかった」と、なんども言っておられました。

6月5日の不当決定以降、即時抗告の準備などもあり、こうした講演会は14日が初めてだったそうです。親睦会では美味しそうに芋焼酎をロックで飲まれ、周囲の方と楽しくおしゃべりをしておりました。

なお、12月1日、神戸市教育会館で徳田弁護士による「菊池事件」の講演会が開催されるそうです。私も駆けつける予定です。皆さん、会場でお会いしましょう!!

◎[関連記事]徳田靖之さん 弁護士/辺境の声なき声 酌み続け(川名壮志)(2024年1月配信日本記者クラブHP)

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

ある日、とつぜん殺人犯にされた人たち 「声なき声」を汲み続ける徳田靖之弁護士の講演会を本日9月14日(土)大阪ピースクラブで開催します!! 尾﨑美代子

ごく普通の日常生活を送っていた人が、ある日とつぜん殺人罪で逮捕されることがある。彼と彼の家族の人生は大きく狂わされてしまう。

8月28日 大阪地裁は、羽曳野路上殺人事件で逮捕・起訴された山本孝さんに懲役20年を求刑して結審した。6月に裁判員裁判がはじまった際、弁護団長の伊賀興一弁護士は、審理が長期に及ぶこと、証人が非常に多いことなど前代未聞の裁判だと述べていた。私は結局一回しか傍聴できなかったが、最終弁論要旨を読むと、これで山本さんに有罪判決が出せるのか? と驚くばかりだ。

被害者は山本さんの隣に住む女性と愛人関係にある男性Aさんだった。隣人女性と山本さんは垣根の塀の上に置いた植木鉢を巡り、ちょっとしたトラブルをおこしていた。しかし、その際、Aさんが間に入り上手く収めてくれたため、山本さんは当初Aさんに悪い印象は抱いてなかった。

一方の女性も、その件が大きなトラブルとは考えていなかったようだ。事件後警察の事情聴取で、Aさんが抱えていたであろうトラブルについていくつか話していたが山本さんとの件は話していなかった。しかし警察に「ちょっとしたことでもいいから、他にないですか?」と聞かれたため、女性は山本さんとの件を話した。そして警察は山本さんを犯人と見立てていくが、山本さんを犯人と決めつけるあまり、ほかの者が犯人である可能性について捜査してこなかった。

しかし、捜査しても山本さんを犯人とする決定的な証拠はでてこない。それから3年……、新たに捜査主任になった森本氏のもと、山本さん以外に犯人となる者がいないか、いわゆる「つぶしの捜査」を行うこととなった。対象者が誰かは不明だが、事件から3年が経過していることもあり、対象者が協力的ではなく、警察は思うように事情聴取できなかったという。そして、事件から4年後、山本さんを犯人とする直接証拠がないまま、山本さんを逮捕した。

裁判では、Aさんが抱える様々なトラブルが明らかにされた。詳細は省くが、それは山本さんと女性が抱えていた「ちょっとしたトラブル」をはるかに超える深刻なトラブルだった。しかし、捜査側はそれらのトラブルについて、きちんと捜査せずに山本さんを起訴してしまったため、裁判では山本さんをむりやり犯人とするため多くの証人を作り法廷に出廷させてきた、ということだ。

証言者の中には、アバターの専門家までいる。「アバター? 映画『アバター』は面白かったけどな……」と思いながら最終弁論を読む進めるが、そもそもアバター云々はDNA型鑑定やルミノール反応などと違って、科学的捜査方法としての地位は確立されていない。それでもアバターの専門家に必死で証言させる検察……。

犯行現場近くの車のドライブレコーダーに残った映像からは、Aさんが背後から刃物で心臓を一突きされ殺害されていることがわかっている(検察は映像に映っている犯人の背恰好が山本さんと似ているとしている)。最終弁論によれば、「殺害方法は、Aさんと正面からすれ違って、本人確認したのち、隠し持っていた刃物を片手でスムーズに取り出し、被害者の背後から刃物を横向きに肋骨と平行になるようにして肋骨と肋骨の間から心臓を狙って約12センチの深さに達するほどの相当の力で心臓を一突きだけで殺害するというものであった」。

このとき、心臓を狙うけれども返り血がかからないような部位を素早く引き抜いて出血を抑えた刺し方をするなどの高度の医学的知識を、「スーパー勤務」の山本さんにはないだろう。さらに、そのような職業軍人なみの犯行を短時間で実行したのち、何食わぬ顔で家に戻り、出る前同様娘と居間でテレビを見て、いつも通り酒を飲んでいることなどできるだろうか。

ただ、残念なことだが、山本さんには犯人と疑われてしまう理由があった。それは警察の取り調べを受けた際、ちょっとした「うそ」をついてしまったことだ。事件の直前、自宅で娘とテレビを見ながら酒を飲んでいた山本さんは、Aさんの車が駐車場に着いた音を聞き、家から表に出た。駐車場から愛人宅に向かうAさんを監視するためだ。

というのも、Aさんも駐車場から愛人宅へ行く際、山本さんの家近くでタバコの吸い殻をポイ捨てすることなどがあり、そうさせないよう監視していたのだ。しかし、5分経ってもAさんが車から降りてこないために、山本さんは家に戻った。そして奥さんに「どうしたの?」と聞かれた山本さんは、散歩に行ってきたと「嘘」をついてしまった。これにも訳がある。山本さんの奥さんが、山本さんが隣人女性やAさんのふるまいをいちいち気にすることを嫌がっていたのだ。なので、山本さんは散歩と「うそ」をついてしまったのだった。

私は裁判を傍聴したのち、「日本の冤罪」を山本さんに送った。手紙を添えて……。返事はしばらくこなかった。拘置所に面会に通う青木恵子さんから、山本さんは手紙を書くのが苦手と言っていたと聞いた。(そうか、仕方ないか)と思っていたが、裁判が結審した数日後、返事が届いた。

裁判が終わりほっとしたのと、判決がどうなるか不安だという内容だった。そして……可愛い娘が2人います。名前は〇と〇です。早く会いたいですとも綴られていた。普通のお父さんの言葉だった。繰り返すが、そんな人が、職業軍人の訓練を受けたような殺害方法で人を殺せるだろうか?

ほかにも私が『日本の冤罪』で執筆しただけでも、「布川事件」「神戸質店殺人事件」「滋賀県バラバラ殺人事件」「東住吉事件」「湖東記念病院事件」「千葉県東金女児殺人事件」、そして本日9月14日(土)の講演会で徳田弁護士にお話ししていただく「飯塚事件」も……。多くの人たちが警察、検察、裁判所によって大きく人生を狂わされた。

◎[関連記事]徳田靖之さん 弁護士/辺境の声なき声 酌み続け(川名壮志)(2024年1月配信日本記者クラブHP)https://www.jnpc.or.jp/journal/interviews/35295

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

「声なき声」を汲み続ける飯塚事件弁護団共同代表・徳田靖之弁護士の講演会を9月14日(土)大阪ピースクラブで開催します!! 尾﨑美代子

◆最高裁で判決が確定しても、彼らは自分たちの誤り、非を認めない

9月2日朝の「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)でコメンテーターの玉川徹さんが、兵庫県の斎藤元彦知事がなぜ辞めないのかについて、「行政官僚らの無謬性(むびゅうせい)にあるのではないか」と話されていた。無謬性とは、日本の政府や大企業がの官僚組織でほとんど無意識のうちに前提とされている原則。ある政策を成功させる責任を負った当事者の組織は、その政策が失敗したときのことを考えたり議論したりしてはいけないという信念、だそうだ。

玉川さんの発言をXで書き起こしている人がいた。

「国が行政訴訟をおこされて、例えば冤罪とか薬害とか。絶対に最後まで求めない。最高裁で判決が確定するまでは」と。

◎[関連記事]玉川徹氏 斎藤知事を“分析”「最高裁で判決が確定するまでは認めない国と同じ感覚なのでは」(2024年9月2日配信スポニチ)

いや、それはちょっと違う。最高裁で判決が確定しても、彼らは自分たちの誤り、非を認めない。再審で無罪となったあとも、桜井昌司さん、青木恵子さんは警察、検察に「犯人と思っている」と言われたように。

 
青柳雄介『袴田事件 神になるしかなかった男の58年』(文春新書)

◆袴田巖さんに再度「死刑」を求刑した検察官

9月26日には袴田巖さんの再審に判決が下されるが、週末、青柳雄介さんの『袴田事件 神になるしかなかった男の58年』(文春新書)を一気に読んだ。

再審法廷で、弁護団の小川弁護士が検察官に向かって諭すようにこう話されたと書いてある。

「袴田巌さんに今日のこの日に出廷できないほどのダメージを与え続けたのは野蛮な警察、検察です。過去に、先輩たちがおこしたこと、あなたたちの責任ではない。ですからどうかこれ以上の有罪立証はやめてほしい」と。

しかし、検察官は延々と袴田さんが犯人とする立証を続け、残酷にも再度「死刑」を求刑した。

飯塚事件の久間三千年さんも一貫して無実を訴えていたが、死刑判決が下されたのち、2年あまりで死刑執行された。しかし、死刑執行されてもなお、闘い続ける人たちがいる。 遺族、支援者、弁護団……。そしてその後の2回にわたる再審請求で、久間さんが犯人でない多くの証拠が明らかにされた。 

◆9月14日は徳田弁護士のお話をお聞きするために、ぜひお集りください!

ずさんな捜査、嘘の証拠、捏造した証拠で久間さんを死刑にいたらしめた人たちは、何を考えているのだろうか? 斎藤知事のように、2人の職員を自死に追い込んでおきながら、ぬけぬけと「私(たち)の判断は間違っていなかった」といえるのだろうか?

9月14日は、徳田弁護士のお話をお聞きするために、ぜひお集りください!

◎[関連記事]徳田靖之さん 弁護士/辺境の声なき声 酌み続け(川名壮志)(2024年1月配信日本記者クラブHP)

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

大阪地検特捜部、またもや大失態! プレサンス事件の取り調べ特捜検事、刑事裁判へ! 尾﨑美代子

プレサンス事件で被疑者の机を叩き、長時間に渡って怒鳴り続けていた大阪地検特捜部の検事について、大阪高裁が「特別公務員暴行凌辱罪」で刑事裁判にかけるとした。


◎[参考動画]「刑事司法の歴史変わると言っても過言ではない」不動産会社元社長“違法捜査”、担当検事を刑事裁判へ(読売テレビニュース 2024年8月9日放送)

Xでこの速報をポストしたのは、元裁判官の弁護士、プレサンス元社長・山岸氏の最強弁護団の一人・西愛礼(よしゆき)氏だ。私は、プレサンス事件について、春先、西弁護士を取材していたが、執筆が遅れ、今必死で原稿をまとめている。

無罪判決を勝ち取った山岸氏は、国賠を提訴すると同時に、捜査に関わった特捜検事2人を刑事告発していた。特捜検事を「特別公務員暴行凌辱罪」で刑事裁判を開くよう求める不審判請求で、大阪高裁は8月8日、田淵大輔検事を審判に付す決定を出した。今後、刑事裁判が始まる。

プレサンス事件では、ある「業務上横領事件」の共犯としてプレサンス元社長・山岸忍氏と部下のKと不動産会社のYさんも逮捕された。

今回裁判にかけられるのは、Kを取り調べた田渕大輔検事だ。
 
しかし、Yさんを担当した末沢岳志検事もなかなかの曲者だった。Yさんもいったんは末沢検事に脅され、山岸氏関与を認めるウソの供述を強いられたが、その後「あの供述を撤回してください」と末沢検事に頼み込んだ。しかし、末沢検事は撤回はしなかった。そればかりか、必死で頼み込むYさんをせせら笑っていたようだ。

じつはプレサンス事件の最強弁護団は、KとYさんが取り調べられた録音録画の反訳(書き起こし)を行った。その時間は2人で142時間32分にも及ぶ。カメラに映るのは被疑者の方だが、Yさんが「笑わないで下さい。真剣にしゃべっているのに」というような場面が残っている。

そして最後の最後にYさんが再度「僕の山岸さんについての調書、あのままにしとくんですか」と尋ねると、末沢は「それだけいうんやったら、法廷でひっくりかえせばよろしんやん」などと言っていた。そして……Yさんは実際に法廷でひっくり返してやったんだけどね。詳細は、記事になったら読んでね。

大阪地検特捜部は2009年の村木事件で大失態をおかした。そこからの挽回を図ろうと思ったのかどうかしらないが、今回、関西経済界の大物中の大物、プレサンスを一代で築き、東証一部上場企業に押し上げ、飛ぶ鳥落とす勢いだった山岸忍氏を逮捕した。

起訴し、有罪にできると思ったのだろうか。しかし、あまりにずさんな捜査だった。次々とでてくる証拠はいずれも山岸氏無罪を証明するものだった。検察は「大川原化工機事件」と同様に起訴を取り下げるかと思いきや、ずんずん進んでいき、山岸氏に有罪を言い渡して結審した。

しかし山岸氏には無罪判決が下された。そして山岸氏は最強弁護団とともに「負けへんで」「とことんやったるで」と国賠訴訟を提訴した。同時に取り調べた田渕検事を刑事告発していた。田渕検事は大阪地裁によって不起訴とされたが、弁護団は裁判所に対して起訴するよう申し立てる「付審判請求」を行った。

これに対して地裁は、田渕検事について「特別公務員暴行陵罪の嫌疑が認められるべきである」などと判示したが、起訴までは行わなかった。その後弁護団は高裁に不服申し立てを行っていたところ、大阪高裁で追訴された、ということだ。いけいけ、もっとやったれ!

しかし、なぜ警察も検事も「自白」をとることだけに必死なのか? プレサンス事件でも、税金使って大々的な強制捜査やって、プレサンス、Yさんの会社、山岸氏の自宅などからそれぞれ100箱もの証拠物を押収してきたのに。それをきっちり精査することなく、いや、そんなに時間もかけずに、慌ててKとYさんを逮捕し、2人に嘘の供述を強いて山岸さんを逮捕した。

証拠品を精査せず、とにかく「自白」をとりたい。自白といっても、検察の思うような自白、つまり罪を認めるような自白だ。本当におかしい。なんのために、どういう仕事をしてんだよ! 大阪地検特捜部!

 
山岸忍氏の著書『負けへんで! 東証一部上場企業社長vs地検特捜部』(文藝春秋社)

山岸忍さんの著書『負けへんで!』から、改めて、田渕検事の怒鳴っている個所を読んでみた。本当に凄まじい。

「開き直ってんじゃないよ。なにこんなみえすいたウソついて、なおまだ弁解するか。なんだ、その悪びれもしない顔は。悪いと思っているのか。悪いと思っているのか。悪いと思っているんですか(しつこいな)。私は何度も聞いた。ウソはひとつもついてないのかと。明らかなウソじゃないか。なんでそんな悪びれもせずにそんなこというんだ。なぜですか?なぜだ。大ウソじゃないか。よしんばこれでウソを認めて、会社のなかで口裏合わせをしてましたと認めるならまだしも、そこからまた悪あがきをするとはどういうことだ。そういうことなんですか。何を考えているんですか、あなたは。ウソじゃないですか。ウソつきましたね。ついたよね。」
 
「命かけてるんだよ!検察なめんなよ!命かけてるんだよ、私は。かけてる天秤の重さが違うんだ、こっちは。」

そして最後にKさんに

「もうさ、あなた、詰んでるんだから。もう起訴ですよ。ってゆうか有罪ですよ、確実に」

「あなたはプレサンスの評判を貶めた大罪人ですよ。会社から今回の風評被害とかうけて、会社が非常な営業損害をうけたとか、株価が下がったとかいうことをうけたとしたら、あなたはその損害を賠償できますか。10億、20億の話じゃないですよ。それを背負う覚悟で今はなしてますか」

などと脅したのだ。

「あなたは大罪人……10億、20億の損害を賠償できるか」と詰められたら、そりゃびびるわな。

実際、?はこうして脅されウソの供述(山岸さんも関与)をしたが、その後の裁判でも検察側について、うそをつきとおしたのだ。それでも山岸さんは、この部下Kを取り調べた田渕検事を告発したのだ。

もう30年ほど前、ある冤罪の専門誌みたいな本を読んだ。そこには、「日本は未だに自白中心主義で……」と批判する箇所があった。30年経った今でもそのまんまじゃないか? 自白をとることだけに必死ではないか? どうなってんだ。日本の司法は? 警察、検察は? 税金で集めた証拠をちゃんと精査して、事件を解明しろや!

それにしても大阪地検特捜は、村木事件に続く今回の大失態をどう「決着」つけるのか。


◎[参考動画]【独自取材】特捜部検事に対する刑事裁判を開く異例の決定 冤罪事件となった「プレサンス」事件〈カンテレNEWS〉(2024年8月9日放送)

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

今こそ、鹿砦社の雑誌!!

◎『紙の爆弾』 amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0D8PP3BNK/
◎『季節』 amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DB1GZ5CM/

新型コロナ襲来以来苦闘する鹿砦社を今こそ、支援しよう! 尾﨑美代子

数年前、鹿砦社の松岡代表に勧められ、同社の『紙の爆弾』の「日本の冤罪」シリーズを始めるということで執筆させてもらうことになり、多くの冤罪事件を取材し、記事にまとめてきた。その18本の記事を、昨年11月一冊の本『日本の冤罪』にまとめて頂いた。本を読まれたいろんな方から手紙やメールなどを頂いていたが、先日鹿砦社に届いた読者カードを見せてもらい、ふと思った。私の書いた文章は誰かの心に響いているのだろうか……。

私自身にもたくさんの心響かせてもらった文章がある。小説、論文もあれば、Twitter(現在のⅩ)のわずか140字の文章もある。道に迷って前に進めずにいるとき、ふと取り出してそれを読み直す。そこから何か力をもらい前に進めるような気がしてくるのだ。同じように、私の書いた文章が誰かの心に響き、その人を前に動かせるようになったら、とても嬉しいと思っている。

そう願いながら、鹿砦社のタブーなき月刊誌『紙の爆弾』、書店販売雑誌としては国内唯一の反原発誌『季節』、「デジタル鹿砦社通信」などで原稿を書いている。私にはもっともっと書きたい題材がある。反原発問題では、声を大きく上げられない人たちの訴えを今後取り上げていきたいと考えている。

例えば、がん治療中のため本人への取材が困難だが、3・11後関東から大阪に移住し、現在、大阪市から住居の追い出し攻撃にあっている女性がいる。日々の生活が困難ななか、一度だけ知人の車に乗せてもらい、私の店にきてくれた。わずか数分だけだったが、彼女と話すことができた。その裁判も7月に結審を迎える。早急に記事をかき、多くの人に知ってもらいたい。

西成労働福祉センター周辺からの野宿者強制排除問題についてもぜひ、多くの方に知ってもらいたい。20数年前、この町に来た時にはバリバリ働いていた労働者の半分はもうなくなっただろう。

残っている人は高齢化し、町も変貌を遂げている。しかし、かつてと変わらないものがあるのではないか。それはガチの「釜ヶ崎人情」。装った釜ヶ崎らしさ、労働者の町らしさではなく、あるいはそれらしさから掠め取った上澄みではなく、ガチの「釜ヶ崎人情」、それを私は書き残していきたい。

そして取材して記事にしたい冤罪事件がまだ山ほどある。だから、ぜひ鹿砦社を存続させてほしい。どこにも誰にも忖度せずに 真実を追求できる表現の場はそうそうないのではないか? その証拠に鹿砦社は、関西で起きたM君リンチ事件に関して裁判の支援のみならず、関連本を6冊も出版してきた。

裁判には私も支援して関わってきたが、当初驚いたのは、関西で反差別、反権力を闘う人たちがほとんどいなかったことだ。考えたら当然かもしれない。M君にリンチを加えた人たち及び彼らを擁護してきた人たちは、それまでカウンターと称した反差別、反権力の闘いを果敢に闘ってきた人たちだからだ。そういう人たちは、反差別、反権力を訴え、闘う人たちが絶対に差別的なことをしないとでもいうのだろうか。皆さん、それほど立派な方々なのだろうか? 誰にでも間違いはある。問題はそれを自覚し、自らを糺していくことだ。

間違ったこと、非難されるべきことは、自身で自覚できることもあるが、他人から指摘され自覚できることもある。なぜ、それが叶わないのか?「忖度」という言葉しか思いつかない。確かにともに闘ってきた仲間を批判するのは、その後の関係性などを考えると面倒だ。できれば「スルー」したい。でも松岡さんが常々いうように、私も「私に悪いこと、間違ったことがあったら、ぜひ指摘してほしい」と思う。批判することイコール決別ではないのだ。私は、死ぬ間際まで「尾﨑さん、それ間違ってますよ」と指摘して頂きたい。

ここ数年、M君リンチ事件とその関連裁判が続くなか、常日頃、いろんな問題を討議しあう仲間とも、このリンチ事件はほとんど討議することはなかった。たまに話題になっても「ああ、なんか聞いたことあるわ。でももう済んだことでしょう」と言われたり「仲間うちのいざこざだろう」といわれたこともあった。

そんなこともあり、とにかく私もこの件で一回文章を書かなければと思っていた。それはリンチ関連本に掲載されている。読まれてない方もぜひ手に取って読んで頂きたい。様々な文章を書かせてもらったが、そのなかで、自分の好きな文章を選ぶとしたら、これは3本の指に入ります。

そんな記事が書けたのも、一切忖度なしの鹿砦社の表現の場があったからだ。

出版界はただでさえ構造不況業種だが、新型コロナ襲来以来、書店、取次会社(卸店)、そして多くの出版社が苦しんでいる。残念ながら鹿砦社もこれに巻き込まれ苦闘している。多くの方々が鹿砦社の支援に動いておられる。最寄りの書店で発売中の『紙の爆弾』を買い求め、その巻末に記載されている支援方法で、みなさんのできる範囲で支援いただきたい。この鹿砦社の存続のために、ぜひご協力をお願いしたい。

※               ※               ※

■『紙の爆弾』次号は、8月・9月合併号として7月6日発売となっております。ご購読お願いいたします。なお、8月発売号は諸事情でお休みさせていただくことになりました。

また、『季節』創刊10周年記念号(夏・秋合併号)は8月5日発売で、目下急ピッチで編集作業が進行中です。こちらもご予約お願いいたします。(松岡)

※               ※               ※

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

今こそ、鹿砦社の雑誌!!

◎『紙の爆弾』 amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0D5R2HKN5/
◎『季節』 amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CWTPSB9F/

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

「警察はなんであんなに頑固なのだろうか……」大阪・羽曳野市刺殺事件裁判 ── 直接証拠ゼロでなぜ、山本孝さんは逮捕されたのか 尾﨑美代子

「警察はなんであんなに頑固なのだろうか……」。

6月10日より大阪地裁で始まった裁判員裁判がある。大阪府羽曳野市で2018年2月、当時64歳の男性が刺されて殺された事件で、殺人の犯人として逮捕された山本孝さん(48歳)の裁判だ。事件発生から4年後に逮捕された山本さんは一貫して犯行を否認している。そしてようやく迎えた刑事裁判は、異例の長期審理となるそうだ。

弁護団長を伊賀興一弁護士が務めていることもあり、おつれあいの伊賀カズミさん(国民救援会大阪府支部会長)が青木恵子さんに「傍聴に来て」と依頼していた。青木さんは多忙な中、傍聴にいっていた。

私も行きたいところだが、仕事の時間と重なり行けなかったが、傍聴帰りに店に寄る青木さんにその都度、話を聞いていた。そうしたところ、6月20日の朝、青木さんから「夕方から弁護団が緊急の記者会見をやるそうです。ママは来れないね」とメールが来た。

確か来週月曜日に山本さんの本人尋問が予定されていたはず。なのに、なぜ今日(6月20日)突然に……と思い、私は店を休んで会見に行ってきた。


◎[参考動画]羽曳野市の殺人事件で初公判 被告の男「やっていません」起訴内容を否認(テレビ大阪 2024/06/10)

◆山本さんを犯人とする直接証拠は全くない

山本さんを犯人とする直接証拠は全くない。そのために「山本しかいない」とあれこれ「言い訳」するかのように証人が多く登場する。裁判が始まって10日目で、17人予定されている証人のうち11人が証言台にたった。

青木さんの話では、ある日は事件当日の夜、灯りがついていた山本さんの家に聞き込みにきた女性刑事が証言に立ったという。女性刑事に応対した山本さんの奥さんは「主人が散歩のため家を出た」と話し、散歩から戻った時刻がだいたい午後9時30分頃だったと話したという。

刑事の手帳にも「9時30分頃」との記述があり、刑事は裁判前、ほかの刑事に「(山本さんが)家に戻った時間」と言っていたという。しかし、裁判の証言台に立った女性刑事は「戻ったのではなく散歩に出た時刻」と証言したという。 

事件が起きた様子はこうだ。被害者の男性が、食事後内縁関係の女性を先に家の前で降ろし、男性は近くの駐車場に車を止めにいった。男性はそこから女性の家に歩いて帰る途中襲われた。

犯人が現場を去った時刻は周辺の防犯カメラやドライブレコーダーの映像などから午後9時44分とわかっている。そしてその不審な男性の背格好が、山本さんに似ていたというだけで、山本さんが逮捕された。もちろん顔など一切映っていない。 

◆山本さんの些細な嘘と警察の杜撰な捜査

実は、山本さんは、その女性と植木鉢をめぐって近隣トラブルを起こしていた。その日も「散歩」ではなく、車の音がしたので、降りてくる様子などを確認(見張り)に行ったのだった。

「見張り」していることを家族に知られたくなかったのか、山本さんは「散歩に行ってくる」と家族に告げて出ていた。その些細な嘘も、山本さんが疑われた背景にあったのだろう。

しかし、裁判で証言台に立った山本さんの家族(元つれあいと長女)は、散歩から戻った山本さんはいつも通りにくつろいで酒を飲んでいたと証言した。詳細は省くが、殺害方法が非常に残忍というか、一発で仕留めるような特殊な方法だが、そのようなスナイパーのような方法で殺害してきて、いつも通りにのんびり家族と過ごすことができるだろうか?

また、被害者は路上で殺害されたが、警察、検察は被害者は「密室」で殺害されたかのような主張を行っていた。つまりその住宅地に入るには3箇所しか入れる場所はなく、そのいずれの入口の防犯カメラでは、当社夜8時~11時の間、不審者が入った形跡はないというものだ。だから、犯人は当時その住宅地にいた者だと。4年間で約460人の容疑者が浮かんだが、結局地元に住む山本さんが犯人とされた。

今日(6月20日)の裁判では、先の3つの入口からしか入れないとの検察の主張が崩され、警察官が弁護側が主張する「ほかのルートもあった」を認めたという。

◆「なんで、警察というのはあんなに頑固なんですかね」

6月20日、私は店を休み、なるべく良い場所を確保しようと、弁護士会館に5時過ぎに着いた。6時まで別の会議が入っていたため、部屋の外で待っていると、カメラを担いだ報道陣などぼちぼちがやってきた。そのあとに「ここかな?」と不安そうにやってくる初老の男性がいた。青木さんから「今日の会見にはお父さんが出席するそうよ」と聞いていた私はとっさに「お父さんだな」と思った。

しばらく窓際で並んで黙っていたが、おもわず「山本さんのお父さんですか」と話しかけた。「そうです」と男性。「私はこういう者です」と持参した自著『日本の冤罪』を渡そうとした。青木さんから、裁判には両親、山本さんの姉、おばさんらが泣きながら来ていると聞いていた。

青木さんは、「自分が持っている『日本の冤罪』を今日の午前中の裁判で家族に渡す」と言っていた。何人かで読むのは時間がかかるだろうから、私も一冊家族に手渡す予定で持っていった。1冊を5000円、1万円で買ってくれる方もいるので、「これを読んで冤罪を知って下さい」と関係者に無料で渡す使い方もありだと考えていた。

するとお父さん、本をじっとみながら「これは、伊賀先生のところで『読んでおいて』と渡されました」という。ああ、そうだったんだ。そして、5階の窓の下に見えるきれいな花を見て、「きれいな色ですね。弁護士会館の外に咲いてたのと色がぜんぜん違う」とお父さんがいう。

そう、あの花、いつもこの時期、弁護士会館の入り口にきれいに咲いている花だ。そんなに色が違うとまで見ていなかった私は「玄関先に咲いてるのは排気ガスとか吸ってるからですかね」というしかなかった。

そしてまたぽつりとお父さん。「なんで、警察というのはあんなに頑固なんですかね」と。 

「今日来ている青木恵子さんなんか、再審で無罪になったのに、国賠で当時取り調べた刑事が、今でも青木さんを犯人と思ってると言ってましたよ」と話した。そして、「多くの人が警察は嘘をつかない、市民を守ると思ってますから」と話した。でも違うから。山本さんのお父さんがいうように、警察、検察は頑固だ。一度こうと決めたことを絶対に変えない。変えたくない。だからいつまでも冤罪が起きてしまう。伊賀弁護士は会見中何度も強く訴えていた。「山本さんの無実を勝ち取ること、そして冤罪を作らないために弁護活動をやっていきたい。」

会見中の弁護団(6月20日筆者撮影)

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

無罪判決の出た「プレサンス事件」の国賠 再び下手を打ってしまった大阪地検特捜部 尾﨑美代子

2019年末、東証一部上場企業の大手不動産会社「プレサンスコーポレーション」の山岸忍元社長が「業務上横領」で逮捕・起訴された事件で、山岸さんはその後一審で無罪を勝ち取った。

 
6月11日のテレビ報道

地検特捜部は控訴しなかったため、判決はそのまま決まった。その後、山岸さんが提訴した国賠訴訟が山場を迎えている。

事件については「日本の冤罪」シリーズで今後紹介したい。一代で大企業を築いた山岸さんはこの事件で248日間不当に囚われら、自身の子供のような会社を手放す羽目になった。山岸さんは、逮捕時より一貫して否認していた。しかし、山岸さんの前に逮捕されていた部下のKさんと関連不動産会社社長のYさんが「山岸さんも(横領に)関与していた」と供述したため、山岸さんも逮捕となった。

「なんじゃ、こりゃ」と思っただろう山岸さん。それもそのはず、飛ぶ鳥落とす勢いのプレサンスは当時で5年先までのマンション建設予定の土地を確保していた。そのため、わざわざ「横領」してまで、難しい土地を購入する必要などなかったのだ。ではなぜ山岸さんは逮捕されたのか。前述したが、KとYが「山岸さんも関与していた」と嘘の供述をしたからだ。

しかも、ゴーンさんの国外逃亡劇があった時で、山岸さんの保釈はなかなか認められなかった。山岸さんが当時で最高額の保釈金を積んだとしても、まだまだ金はあるから、ゴーンさんのように逃亡するのではないか、あるいはKとYを金で買収するのではないかと懸念されたのだ。

6回目にようやく保釈された山岸さん、さらに優秀な弁護士を集め裁判の準備を進める。詳細は省くが、次々に出てきた証拠はすべて山岸さんを無罪とするものだった。「なんじゃこりゃ」と山岸さんが思ったかどうかわからん。

 
6月11日のテレビ報道

弁護団が力をいれたのが、大阪地検特捜部の検察官がKとYを取り調べた際の録音録画の反訳(書き起こし)だ。

膨大な反訳を業者に依頼せず、弁護団自身で行った。その結果、大阪地検特捜部の検察官のとんでもない実態が明らかになった。脅し、脅し、机バン、気休め、小さな飴、利恫喝、脅しなどが繰り返され、KもYも結果として「山岸さん関与」を認める供述をしてしまったというわけだ。

今日大阪地裁の法廷に出廷したのは、Kを取り調べた検察官だ。

この検察官とのやりとりは本当にみたかった。でも裁判終了後の山岸さんらの会見をみてると、Kさんを取り調べた大阪地検特捜部・田淵大輔検事は、相変わらずいい加減な証言をしていたみたいだ。

裁判に出席した西弁護士のⅩ
 
山岸忍氏の著書『負けへんで! 東証一部上場企業社長vs地検特捜部』(文藝春秋社)

田淵検事の取り調べ内容とこのプレサンス事件のもうひとつの肝は、今回大失態を起こした大阪地検特捜部は、10数年前にも、村木厚子さんの事件で同じような大実態を犯しているということだ。郵便不正・厚生労働省元局長事件とも呼ばれる事件で、大阪地検特捜部は村木さんを逮捕・起訴したが、一審で無罪判決が下されている。

しかもこの事件では、特捜部の担当検事が裁判の証拠書類のフロッピーディスク(懐かしい響き)の文字を書き換え、証拠の改ざんをはかっていた。それが、その後ばれ、改ざんした検事はもとより、彼を庇っていた上司の検察官も逮捕されるという一大不祥事件に発展していた。

担当検事、上司らはその件で検察官としての政治生命は絶たれたが、当時もその大事件の真っただ中にいて、今回の山岸さんの事件にも関わっていた検事がいる。その人物こそが、山岸さんを取り調べた検事、組織内で「チーママ」と呼ばれ、バカラで飲ませる店でしか飲まないという山口智子検事だ。

そう、山岸さんが最初に任意の取り調べに呼ばれた際、「社長! いらっしゃーい!」とにこやかに迎えた女検事だ。今日は書かないが、この山口検事が村木事件でどのような役割を果たしたかを知ると、プレサンス事件での彼女の動きに何か味わい深いものを感じてしまう。いつまでもチーママな山口検事。実は彼女は山岸さんと同じ同志社出身らしい。特捜部の安っぽい脳みその持ち主の上層部が「ここは山口を当てれば山岸も落ちるだろう」と安易に考えていたのだろう。ところが、そうはいかなかった。私がこの事件で取材した西愛礼弁護士によれば、山岸さんは本当に嘘がつけない人なのだ。だから……。

という訳で、話はかわりますが、先日再審請求に棄却が下された「飯塚事件」をもっと知ろうと徳田弁護士を大阪にお招きする計画を進めています。現在、関係者と「調整中」(小池百合子っぽいね)。8月頭の土曜日になる予定。頭の隅っこにそっとメモしててね。


◎[参考動画]【特捜部の「取り調べ映像」独自入手】「検察ナメんなよ」怒鳴り続けた検事 強引な捜査で『冤罪』 証言を強引に引き出す特捜部の実態 21億円の巨額横領(カンテレ「newsランナー」2024年6月11日放送)

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

福岡地裁の「不当決定」 飯塚事件の再審開始は認められなかった 尾﨑美代子

飯塚事件の再審開始は認められなかった。女児2人が何故殺害されたかはわからぬまま。

1992年、福岡県飯塚市で女児2人が通学途中何者かに連れ去られ遺体で発見された。この「飯塚事件」で久間三千年さんが逮捕・起訴され裁判で死刑が確定。わずか2年で死刑が執行された(執行時久間さんは70歳)。遺族が裁判のやり直しを求めていた第二次再審請求で、5日午前10時福岡地裁は再審開始を認めないという不当決定を下した。

久間三千年さんの遺族が裁判やり直しを求めた第二次再審請求を、福岡地裁は5日認めなかった(撮影=青木恵子さん)

今回新たな証拠となっているのは2点。1つは、久間さんではない若い男性が、車に女児2人を乗せているのを目撃したという木村泰治さんの証言だ。木村さんは、第二次再審請求を提訴した3年前の7月の記者会見に顔出し・実名で出席し、事件当日、飯塚市の八木山バイパスを走行中に白い軽自動車とすれ違った。その際、車の後部座席に幼い女児が2人乗っていたのを見たと証言した。

一瞬誘拐ではないかと疑ったが、2人で乗っているので違うだろうと考えたという。「うら悲しそうな顔をしていた」女児の顔が印象に残ったと語っていた。白い車を運転していたのは丸刈りで色白、30歳代の若い男で、眼鏡をかけ恰幅の良い久間さんとはまったくの別人。夜のニュースで女児2人が行方不明になっていることを知り警察に通報。

しかし、警察が木村さんを訪ねてきたのは数日後、それもたった一人の警察官がやってきて、木村さんの話をメモ帳に書き込んでいたという。しかし、その後、警察からの連絡は全くなかった。

報告集会で。左端でマイクを持つ男性が、事件当日女児2人を乗せた白い車を見たと証言した木村さん(撮影=青木恵子さん)

もう一つの新証拠は、事件当日、女児2人を三叉路で見たという女性の証言だった。女性は実は、女児を見たのは別の日だったが、警官に「その日(事件当日)に違いない」としつこく言われ、そのような間違った調書を作られてしまったと証言した。当時20代の女性はその後関東に引っ越したらしい。過去に警察でそのような調書を取られていたことを忘れていたかもしれない。

しかし、何かの拍子で久間さんに死刑判決が下され、しかもあっという間に死刑が執行されたことを知り、自分の曖昧な供述が久間さんを死刑にしてしまったのではないかと自分を責めていた。そして遺族が久間さんは無罪であると訴え、弁護士と共に再審を闘っていることを知り、2018年弁護士事務所に連絡をしてきたという。
三叉路で女児を見たのは事件当日でなかったという女性の証言は、これまで検察の書いてきたストーリーを覆すとともに、弁護団が気になっていた問題が解決したという。判決では、女児2人が失踪した現場を三叉路近くと特定していた。同じ頃、久間さんが乗っていた紺色のワゴン車と似た車を見たという証人もいた(5月21日掲載の「正義の行方」の記事で、西日本新聞が探し出した男性)。

女児らの遺留品が見つかった現場でも似た車が目撃されていた。そこからこれと似た車を持つ久間さんが疑われたのだった。しかし、もとの「事件当日三叉路で女児らを見た」との証言が間違っており、別の日であるならば、当日、女児らは三叉路近くで失踪したというストーリーは全く違ってくるのだ。

しかもこの証言で、弁護団はそれまで抱えていた矛盾を解決することができたという。それは、事件当日、三叉路近くにはほかにも数人の人がいたが、女性以外に女児らを見た人は誰もいなかったことだ。その問題・矛盾が解決できたということだ。

判決で女児2人が何者かに連れ去られたとされた三叉路。しかし、今回新たな証言で、ここではない可能性が強まったのに……(撮影=青木恵子さん)

第二次再審請求で新証拠として出されたのは以上の2つだが、この事件、調べれば調べるほど、1から10までいい加減、ずさんな捜査だったことがわかる。なぜこんなことになったのか?

飯塚市ではこの事件の3年前にも女児が失踪した事件が発生し未解決のままだった。そこに飯塚事件が発生し、福岡県警は一層世間の非難に晒される。今回はどうしても犯人逮捕にこぎつけたい。その思いは理解できる。そこで福岡県警は、3年前の事件でも犯人視された久間さんに目をつけたのではないか。

警察が出してくる証拠のどれもが、久間さんを犯人と決めつけたものだ。例えば、女児らの遺留品がみつかった近くの峠で久間さんの車と似た車(紺色のワゴン車)を見たと証言した男性の話。すれ違いざまの一瞬の出来事なのに、その車について、①やや古い型、紺色、②トヨタ、ニッサンではない、③ホイルキャップの中に黒いライン、④車体にラインが入っていない、⑤窓ガラスにフィルムを貼っていた、⑥後部タイヤがダブルタイヤ、⑦ラインは入っていない、などの情報のほかに、目撃した人物についてもめちゃくちゃ詳しい。そんなことってある?

特に車に「ラインが入ってない」については、先日、甲南大学で講演をお聞きした厳島行男教授は「普通ないものをなかなかないと報告することはない」という。なぜ男性はそんな供述をしたのか? 

じつは久間さんの乗っていた車の標準の仕様だとラインが入っているのだが、久間さんはそれを剥いでいた。男性の供述をとる前に、警察が久間さんの車を確認しラインがないことを確認していた。そして男性の供述を取る際「目撃した車にラインは入っていたか?」とわざわざ聞いたのだろう。本当にずさん過ぎる。

 
午後から支援者に案内され、事件に関係する様々な場所を訪れた青木恵子さん。女児らの遺留品が見つかった場所近くに作られたお地蔵さんに手を合わせてきた(撮影=青木恵子さん)

これも桜井昌司さんが良く言っていた「歪んだ正義」によるものだろう。警察、検察はこの事件を解決したいと考えている。できれば3年前の事件も……。そのため、久間さんをターゲットにして、久間さんだけを決めつけ、捜査を続けてきた。

だから、木村さんが不審車を見たと通報したが、木村さんの話を聞いて白い車、丸刈りの若い男を捜査することはなかった。捜査して白い車に乗る、丸刈りの若い男を探せて、その結果「ええ、あの日は僕の子どもと友達の2人が学校に遅れそうなので送ったのですが」と間違いであるとわかったら、それはそれで良いではないか。

冤罪の陰には必ず真犯人がわからないまま放置された遺族がいる。「うら悲しそうな目をしていた」女児らの遺族は、今、どう思っているだろうか?

そんなとき、今日午前中から、地裁前の写真などを送ってくれた青木さんから午後に支援者に案内してもらった現地の写真が届く。そのなかに、女児の遺体が置かれていた場所の近くに置かれたお地蔵さんの写真があった。

「うら悲しそうな目をしていた」女児らはどんなに怖くてつらかっただろうか。 そう考えて、初めて涙がこぼれてきた。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』