冤罪疑惑のある桶川ストーカー事件の取材を千葉刑務所が妨害

悲惨なストーカー殺人事件が起こるたび、マスコミが必ず引き合いに出すのが、1999年に埼玉県で女子大生が刺殺された桶川ストーカー殺人事件だ。先日、三鷹市で女子高生が元交際相手のストーカー男に殺害される事件が起きた際、ストーカー規制法ができるキッカケにもなったこの事件を思い出した人は多いだろう。

この事件で被害女性にふられた弟のため、殺害を命じた「首謀者」とされ、無期懲役判決が確定した小松武史氏(47)にも「冤罪疑惑」があることは今年5月に当欄(http://www.rokusaisha.com/blog.php?p=2572)で紹介したが、実はその後、この事件をめぐって非常に理不尽なことがあった。小松氏の服役先の千葉刑務所が何ら理由を示すことなく、今年の夏ごろから筆者と小松氏の手紙のやりとりを全面的に禁じるという取材妨害を敢行してきたのである。

筆者は、昨年の春ごろからこの事件を再検証する取材を重ねてきたが、現在まで小松氏との面会は千葉刑務所側に一切認められていない。そのため、手紙のやりとりは、小松氏本人から事情を聴くための唯一の手段だった。冤罪事件の取材では、本人取材は非常に重要なことなのに、手紙のやりとりを禁じられ、その機会が完全に奪われてしまったのである。

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刑事への好意につけこまれた女性冤罪被害者が2度目の再審請求

以前取材した冤罪事件で、再審請求がなされたというニュースが舞い込んできた。
再審請求したのは、和歌山刑務所で服役中の西山美香さん(32)。西山さんは2003年、看護助手として働いていた湖東記念病院という滋賀県の病院で、意識不明で寝たきりだった男性患者(当時72)に装着された人工呼吸器のチューブを外して殺害したとして翌2004年に殺人容疑で逮捕・起訴された。

逮捕当時24歳だった西山さんは、裁判では無罪を求めて最高裁まで争ったが、2007年に懲役12年の判決が確定。その後、2010年に大津地裁に再審請求したが、翌2011年に棄却されたのち、大阪高裁への即時抗告、最高裁への特別抗告も相次いで棄却された。このほど大津地裁に対して行った再審請求は、2度目の再審請求ということになる。

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伝聞証拠だけで「母親殺し」の濡れ衣を着せられた男性の話

元妻を殺害したとして起訴され、「疑惑の男」として全米の注目を集めたドリュー・ピーターソンというイリノイ州の元警察官が今月初め、州の裁判所の陪審団に有罪の評決を下されたというニュースが日本でもテレビなどで報じられて話題になった。報道によると、ピーターソン本人がテレビに出て無実を訴えるなどしたことから、事件は劇場化。亡くなった元妻が生前、ピーターソンにナイフを突きつけられたことなどを訴えていたと知人らが証言した「伝聞証拠」だけで有罪の評決が下されたことも議論を呼んでいるとか。

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和歌山県警科捜研の「捏造疑惑」はカレー事件まで遡る

和歌山県警の科学捜査研究所(科捜研)の男性主任研究員(49)が鑑定結果の捏造を繰り返していたという疑惑が報じられ、注目を浴びている。報道によれば、この男性研究員は担当した交通事故、無理心中などの8件の鑑定について、上司への説明資料を作成する際に別事件のデータを流用するなどした疑いがもたれているという。

そんな中、この疑惑を熱心に報じている「YOMIURI ONLINE」に8月21日、《和歌山県警鑑定捏造 科捜研職員を書類送検へ》という気になる記事が出た。この記事によれば、和歌山県警はこの研究員を虚偽公文書作成・同行使と有印公文書偽造・同行使の疑いで書類送検する方針を固めたという。つまり、このような多数の余罪があることが疑われる類の事件で、和歌山県警はこの研究員を逮捕せず、書類送検で捜査を終結させようと考えているらしい。そのこと自体がどうかと思うが、この記事の中でさらに気になったのが記事の末尾の以下のような文章だ。

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冤罪を作り出した検事の、身の処し方

元検事の市川寛さんのことは多くの方がご存知だろう。
市川さんは佐賀地検の三席検事だった11年ほど前、農協の組合長だった被疑者の男性を取り調べ中に「ぶち殺すぞ!」と恫喝するなどし、自白調書に署名させて起訴に持ち込んだ。しかしその後、良心の呵責に苦しんだ末、組合長の公判で自分の暴言を告白し、無罪判決が出ることに寄与。さらに弁護士に転身後、この事件を冤罪として取り上げたテレビ番組に実名顔出しで出演し、亡くなった組合長の親族に土下座して謝罪したことから一躍、全国的に有名になった。以来、「検事失格」という著書や講演などを通じて検事時代の経験を世に伝え、検察組織の問題を当事者の視点から体験的に語れる人物として注目を浴びている。

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第2の和歌山カレー事件にみる「事実は小説より奇なり」

「事実は小説より奇なり」というのは、たしかにその通りなのだろう。生きていると、「小説でもこんなことはないだろう」と感じるような不思議な出来事にしばしば遭遇するものだ。
しかし、筆者は冤罪事件を色々取材するようになってから、この言葉にある種の胡散臭さを感じるようになった。「小説より奇なり」と感じるような「事実」を見聞きしたら、まずはその「事実」が本当に事実なのか否かを疑うべきだと思うようになったのだ。

きっかけは、和歌山カレー事件だった。この事件は14年前の発生当初、「小説より奇なり」と感じるような「事実」がマスコミでずいぶん色々報じられていた。それはたとえば、こんな「事実」である。
この事件の犯人である女性は、事件以前、夫と共謀して様々な手口で保険金詐欺を繰り返していた。その中では、夫にも何度か死亡保険金目当てでヒ素を飲ませたことがあった。夫はそのせいで何度かヒ素中毒に陥って死にかけたが、それが妻の仕業とはまったく気づかず、妻のことを疑うことすらなかった。そして夫婦は騙し取った多額の保険金で一緒に贅沢な暮らしを続けていた・・・。

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和歌山カレー事件、発生から14年の歳月

「わしが何を言うても、『家族だから、かばってるんやろ』と思う人もいるからなあ……」
7月28日、大阪市内の会場で開かれた林眞須美さん(51)の支援集会。久しぶりに会った眞須美さんの夫・健治さん(67)が休憩時間中、そんなことを言っていた。
1998年7月25日、和歌山市園部で開かれた自治会の夏祭りで、何者かがカレーにヒ素を混入し、60人以上が急性ヒ素中毒で死傷した和歌山カレー事件。殺人罪などで逮捕・起訴され、一貫して無実を訴えながら2009年5月に死刑判決が確定した眞須美さんは今も無実を訴えて再審請求中だ。

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東電OL殺害事件の冤罪説はなぜ受け入れやすかったのか

再審開始決定に対する東京高検の異議申し立てについて、31日に東京高裁の決定が出る東電OL殺害事件。今では誰もが知っている有名な冤罪事件だが、15年前の事件発生当初は何よりも被害女性のプライバシーに世間の関心が集まっていた。
慶応大学を卒業し、東京電力に総合職として勤めるエリートOLだった被害女性。彼女は夜になると、渋谷区円山町界隈のホテル街の路上で客を引く売春婦という裏の顔を持っていた。事件発生当初、マスコミはそんな彼女のプライバシーを競って報じ、週刊誌の中には彼女の全裸写真を掲載したところもあったほどだった。

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「悪名は無名に勝る」は冤罪被害者も

「仕方ないですよね。私の事件は有名じゃないから……」
殺人事件に巻き込まれ、無実の罪で服役中の冤罪被害者I氏に先日、刑務所で面会した時のこと。彼はそう言って、苦笑した。自ら獄中でまとめた再審請求書を裁判所に提出し、その旨を地元の新聞社に手紙で伝えたが、いっこうにレスポンスがないのだという。このマスコミの冷たさは、自分の事件が有名ではないからだと彼は思っているのである。

マスコミの性質がよくわかっているな、と思った。
「悪名は無名に勝る」という言葉がある。冤罪事件を色々取材していて、この言葉は冤罪被害者にも言える場合があると思うようになった。そのことに気づくきっかけを与えてくれたのは、あの和歌山カレー事件の林眞須美さん(50)である。

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