すでに崩壊か、日本の議会制民主主義? 神奈川県真鶴町で「不正選挙」、松本一彦町長と選挙管理委員会の事務局長が選挙人名簿などを3人の候補者へ提供  黒薮哲哉

10月31日に投票が行われた第49回衆院選は、自公政権が過半数を大きく上回る結果となった。一方、「野党連合」は失敗に終わった。自民党総裁選をめぐるテレビによる洪水のような自民党PRを考えると、このような結果を予測したひともかなりいるのではないか。権力構造の歯車としてのマスコミが現政権の維持に一定の役割を果たしていたのだ。

選挙の後には、かならず何件かの選挙違反が摘発されるのが通例だ。そこで意外に知られていないが、今後、考えなければならない「不正選挙」の手口を紹介しよう。今回の衆院選とは関係がないが、不正工作を考える格好の題材となる。

◆選挙人名簿と住民基本台帳が特定候補者の手に

真鶴は、神奈川県の太平洋岸の町である。人口、7000人。志賀直哉が短編小説『真鶴』で、陸と海の光景を、「沖へ沖へ低く延びている三浦半島が遠く薄暮の中に光った水平線から宙に浮かんでみられた」と描写している。

この真鶴町で、先月、議会制民主主義の信用を失墜させる「不正選挙」の手口が明らかになった。日本では選挙が公正に行われていると信じて疑わない人々を面食らわせる事件が発覚したのである。事件を告発した元真鶴町議の森敦彦氏が言う。

「選挙管理委員会の実態を公にするために告発に踏み切りました」

森氏によると、少なくとも2度にわたり選挙人名簿や住民基本台帳が町役場から外部へ流失した。それが選挙の道具として使われていた。

森氏が説明した不正選挙の手口は、真鶴町だけに限ったことなのか。それとも水面下で広域に広がっているのか。どのような経緯で書類が流出して、どう使われたのか。わたしは事件の深層に迫った。

真鶴町(出典=Wikipedia)

◆舞台は2020年9月の真鶴町長選

10月26日、真鶴町の松本一彦町長は、記者会見を開き、みずからが関与した「不正選挙」の手口を説明して謝罪し、辞任を表明した。

発端は、1年ほど前の2020年9月にさかのぼる。真鶴町で町長選挙が行われた。この町長選には、現職で3期目をめざす宇賀一章(68)氏のほか、新人の北沢あきお氏と松本一彦(54)氏の3人が立候補した。しかし、事実上、現職の宇賀氏と新人の松本氏の一騎打ちだった。

松本一彦氏のFacebook。牧島かれん・衆議院議員、松沢成文・元神奈川県知事、島村大・参議院議員が「必勝」のメッセージ。岸田内閣の下で、牧島議員はデジタル大臣を、島村議員は厚生労働大臣政務官兼内閣府大臣政務官を務めた

松本氏は、出馬までは真鶴町の役場に町民生活課長として勤務していた。職員を辞職して町長選に挑んだのである。投票結果は次の通りだった。

松本一彦:  2,812票
宇賀かずあき:1,673票
北沢あきお:  78票

◎出典 http://www.town.manazuru.kanagawa.jp/soshiki/soumubosai/senkyokanri/r2chouchousenkyo

新人の松本氏が現職町長に圧勝したのである。

この選挙では、元神奈川県知事の松沢成文氏が選挙戦初日から松本候補の応援に入った。(https://www.youtube.com/watch?v=E_baKYbhGco&t=328s

松本氏の事務所には、牧島かれん衆議院議員、島村参議院議員、松沢しげふみの3氏による「祈 必勝」の文字が入ったメッセージが張り出された。松本氏の当選は、ひとつには幅広い人脈を使って、活発な選挙活動を展開した結果だったが、別の勝因もあったようだ。

◆選挙人名簿で有権者のターゲットを絞る

この町長選に挑むために松本氏は、真鶴町の選挙管理委員会から選挙人名簿を盗み出していたのである。選挙人名簿は合理的な選挙戦略の格好の道具になるからだ。

地方自治体の選挙から国政選挙まで、立候補者が自分の推薦者名簿を作成することは当たり前に行われている。日頃の議員活動や「票読み」をしながら、支援者と思われる人を推薦者一覧に登録する。それ自体は、違法行為でもなんでもない。政党を問わずにあたりまえに行われていることである。

しかし、推薦者一覧は、投票権がある全住民を把握しているわけではない。従って選挙戦に突入して、議員の選挙事務所が「電話」を使ったローラー作戦を展開してみると、住民登録がなく、選挙権を有していないひとに行き当たることも少なくない。

こうした状況の下で、仮に選挙人名簿が手に入れば、議員の選挙事務所は、住民のうちだれに投票権があるかを即座に把握することができる。その結果、有権者だけにターゲットを絞った合理的な選挙活動が可能になる。選挙が短期決戦になればなるほど、選挙人名簿は威力を発揮する。

余談になるがこれに類似した手口は、実は2021年10月31日に投票が行われた衆院選でも発覚している。「FLASH」(10月26日)(https://smart-flash.jp/sociopolitics/161395/1)は、「立憲民主党・篠原豪氏 横浜市民の署名簿を自らの政治活動に不正流用! 元秘書が明かす“手口”」と題する記事を掲載した。「カジノの是非を決める横浜市民の会」が集めた約19万筆のIR反対の署名簿の一部を使って、「票読み」をしていたというのだ。

IRに反対するひとは、反自民の傾向があるわけだから、立憲民主党にとって署名簿は、格好の選挙道具になる。

◆松本一彦町長が選挙人名簿をコピー

朝日新聞(10月27日、電子)は、26日に行われた松本町長の謝罪会見を次のように報じている。

「会見での説明によると、松本町長は町民生活課長だった昨年2月ごろ、本庁舎の職員の引き出しから倉庫のかぎを取り出し、別棟の倉庫にあった選挙人名簿を持ち出した。他の職員がいない夜間に庁内のコピー機を使い名簿をコピーしたという。」

わたしがこの事件を知ったのは、松本市長が記者会見を開く1週間ほど前である。わたしは、事件を告発した真鶴町の元町議会議員・森あつひこ氏から、告発に至る事情を聞いた。

告発の発端は、松本氏が圧勝した町長選から1年後、2021年9月に行われた真鶴町議選だった。森氏は再選を目指して出馬することにした。森氏は、再選されるのを確信していた。自分の当選を楽観視していたのだ。

この時期に森氏は、松本町長から電話で奇妙な打診を受けた。森氏が言う。

「自分が町長選挙で使った時の推薦人名簿があるので提供したいと言ってきました。わたしだけではなく、他の候補にもそれを提供しているとのことでした。推薦者名簿であれば、違法ではないので、わたしは承知しました。もっともあまり役に立つと思っていませんでしたが。町長の言葉通り、わたしのもとに大きな封筒が届きました。それを届けたのは、なぜか町の選挙管理委員会事務局長である尾森正氏でした。わたしは推薦人名簿など使わなくても、当選できると思ったので、礼儀上、受け取ったものの中身を確認せずにそのまま放置しました」

松本町長が、「推薦人名簿」の提供を申し出たのは、森氏に「恩を売る」ことで、議会運営を優位に進める体制を構築しようという意図があった可能性が高い。「派閥」の形成の布石だったのではないか。実際、この資料は、森氏だけではなく他の2人の候補にも提供されていた。

しかし、この選挙で森氏だけが落選した。結果は、次の通りである。

当選  青木 たけし    534票
当選  田中 しゅんいち  526票
当選  岩本 かつみ    475票
当選  海野 弘幸     368票
当選  黒岩 のり子    351票
当選  高橋 あつし    330票
当選  天野 まさき    325票
当選  村田 ともあき   281票
当選  山下 あみ     272票
当選  木村 いさむ    263票
    加藤 りょう    255票
    森  あつひこ   156票
    北沢 あきお    27票
    島内 かずき    26票

落選後、森氏は選挙管理委員会の尾森事務局長が届けた封筒を開いてみた。そして中身が推薦人名簿ではなく、真鶴町の選挙管理委員会に保存させている選挙人名簿だったことを知ったのである。さらに別の3種類の書面も入っていた。「転出決定者一覧表」、「死亡者一覧表」、「職権消除者一覧表」である。これらは住民基本台帳である。

書面が網羅しているデータの登録日は、いずれも「平成31年4月7日~令和3年6月30日」である。つまり町議選の直前に、選挙人に関する最新データがプリントアウトされ、複数の候補者にばら撒かれたことになる。

◆事件告発の背景に選挙管理委員会に対する不信感

町議会選挙で当選した10人のうち、現職と元職が1位から8位を占めた。9位の山下あみ氏と10位の木村いさむ氏が新人だった。

森氏は、2人には真鶴町での生活実態がないとして、2人の当選の無効を申し立てた。選挙管理委員会は、それを受理した。

これに対して木村氏は、わたしの取材に対して「5月に真鶴に転入した。生活実態もある」と話している。また 山下氏も、「今年の春に真鶴に転入した。生活実態もあり根も葉もないこと」と話している。

その後、10月14日の午後9時ごろに、森氏は尾森事務局長から電話を受けたという。その中で、尾森氏は、次のような趣旨のことを言ったという。木村勇議員は、居住実態があるので、「白」で決まりだが、山下亜美議員は、「黒」だ。森氏は次点で落選したのではないから、当選無効を申し立てても「繰り上がり」で議員にはなれない。マスコミに騒がれて、かえって損をするとも付け加えたという。

この言葉を聞いたとき、森氏は選挙管理委員会が選挙結果をコントロールしているのではないかと疑ったという。その真実性はともかくとして、これが不正選挙の手口を告発するに至った引金である。

◆国際監視団の導入を

議会制民主主義の歴史が浅い地域、たとえば中央アメリカや南アメリカの国々は、国政レベルの選挙では、必ず国際監視団を入れて「不正選挙」を厳重に監視する。小選挙区制の下で、民主主義が劣化した日本では、そろそろ国際監視団の導入を検討する時期に来ているのではないか。真鶴町の事件が本当に一地方だけの問題なのか、再考する必要がある。

真鶴で発覚した「不正選挙」のメソッドが、アメーバーのように広がっている可能性もある。

もしそうであれば、「政権交代」など絶対に起こり得ないのである。

真鶴町は、関係者の処分について、「第3者委員会を設置して、事実関係を調査して、処分を決めたい」と話している。また、尾森氏と松本町長からはコメントがなかった。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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自民党の単独過半数確保が意味すること ── 総選挙を総括する 横山茂彦

与党(自公)で安定過半数233議席をクリアし、自民党は単独過半数も確保した。自民党の40前後と予想された議席減は15、公明党は3議席増やすという「快挙」である。総じて、苦戦を噂されていた与党の圧勝といえるのではないだろうか。

野党共闘は小選挙区で機能したものの、立民党の比例区での大幅減に象徴されるように、肝心の政党選択では、ほぼ完全に敗北というしかない。立民党は14議席減、共産党も2議席をうしなった。社民党も1議席にとどまり、来年の参院選挙では「政党要件」を失いかねない崖っぷちである。

これで「政権選択の役割をはたした」と言っているようでは、安倍晋三なみの「虚言」「見当はずれ」ではないだろうか。唯一、議席を伸ばしたのは、れいわ新選組だけだった。

さて、注目すべきは維新の会の「大躍進」であろう。自民党批判の大半は、この党に流れたとみるべきである。政権批判の受け皿は、野党共闘ではなく維新の会が果たしたのだ。

党派別当選者数

下記のリンクは、ほぼ完全に予想をはずした本通信(横山の記事)である。読者のみなさん、すいませんでした。

「総選挙展望 ── 政権交代は起きるか〈前編〉自民単独過半数は無理」(2021年10月23日)
「総選挙展望 ── 政権交代は起きるか〈後編〉静岡補選の衝撃と安倍晋三長期政権による政治的凋落への審判」(2021年10月26日)

◆清新さのない野党共闘

ではなぜ、立民党と共産党は党勢が伸びないのだろうか。共闘の名による独自性の喪失、といった批評がテレビのワイドショーでは語られている。

野党共闘に与しなかった国民民主党の3議席増加が、党の独自性をうしなわなかったからか。だがそれは、単に党のイメージだけではない。

そう、支持層のうち固めという、選挙運動にとって基本的なことが、今回の野党共闘にはなおざりにされてきた。華やかな相互の選挙応援、派手なパフォーマンスで風が起こせなかったのは、むしろ党の基礎単位で動ききれなかったからではないか。

もうひとつ、党の顔の清新さのなさ。ではないだろうか。政治評論家の田崎史郎によれば、永田町には政治家の「賞味期限」があるという。世間を驚かせる言動や新鮮な印象で登場する政治家たちも、やがて「飽きられる」のだ。パフォーマンスがマンネリ化することで「もう古い」と言われるのだ。そして活躍が冴えなければ「終わった人」とされるものだ。

自民党総裁選で躍進中の河野太郎を支援し、まるごと敗退することで「総理の芽はなくなった」とされる石破茂、おなじく人気だけでは通用しないことを証明してみせた小泉進次郎。これらの人びとと同じく、今回の選挙は大物があいついで落選した。

小沢一郎、石原伸晃、甘利明(比例復活)、辻本清美……。立民党の枝野代表もかろうじて逃げ切ったが、約6000票差のまさに辛勝である。

◆党首選挙の重要性

選挙の顔(党首)も、やがて飽きられてしまう。

維新の会の躍進がその意味では、かつての橋下徹・松井一郎(大阪市長)から吉村洋文(大阪府知事)へと党の看板が変わり、首長であるがゆえに発信力が増加していたのは、今回の勝利と無関係ではないだろう。

この点は、名古屋の減税日本(河村たかし)や都民ファーストの会(小池百合子)が国政に進出できないのは、蓄積や力量の差だけではなく、維新の会の「大阪発」という特性があってのことだ。大阪人の中央(東京)にたいするパワーは、阪神タイガースそのものといえる。

それにしても、共産党との共闘が野党共闘の成否のネックであり、小選挙区での一定の勝利と、それを掘り崩す比例区での惨敗。共産党が「反共シフト」と呼ぶ者だが、それには彼らが気づいても変えられない理由がある。これはひとつには、共産党の党内選挙なき、中国や北朝鮮の指導部をほうふつとさせる組織の性格である。

レーニンの「何をなすべきか」(1902年)は、非合法化されたロシア社会民主党の立て直しのために書かれた記事をまとめたものだが、そこでレーニンは選挙ができないツアーリの弾圧とともに、同志的信頼にもとづいた「民主主義以上のあるもの」が指導部を選出すると説いている。

日本共産党もふくめて、レーニンの民主集中制を採る共産主義政党は、ことごとく党内選挙を経ずに指導部を「党大会で選出している」のだ。下級は上級に従い、上級は全体(党大会)に従う。この原則はしかし、党大会に提出される議案が、中央委員会およびその上級機関である政治局(日共は常任幹部会)によって決められていることが前提だ。そして肝心の人事案も、最初から決まっているものを承認するにすぎない。

共産党の場合、最初から「飽きられ」「賞味期限」がとっくに切れている委員長志位和夫が、明日も明後日も、来年も再来年も選挙の顔であるところに、その致命的な弱点があると指摘しておこう。このままでは、野党共闘は来年の参院選挙でも自民・公明・維新の会の後塵を拝すと断言できる。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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四半世紀で中央紙は1000万部減、東京新聞25紙分の部数が消えた、急増する新聞を読まない人々、電車の車両内で調査 黒薮哲哉

新聞崩壊が急速に進んでいる。1995年から2021年8月までの中央紙の発行部数(新聞販売店へ搬入された部数)の変化を調べたところ、この約26年のあいだに1000万部ほど新聞の部数が減ったことが分かった。これは発行部数が約40万部の東京新聞が25紙分消えたに等しい。中央紙は、坂を転げ落ちるよう衰退している。

特に2015年ごろから、発行部数は激減している。かつて「読売1000万部」、「朝日800万部」などと言われていたが、今年8月の時点で、朝日新聞は約460万部、読売新聞は約700万部に落ち込んでいる。毎日新聞と日経新聞は、200万部を切り、産経新聞はまもなく100万部のラインを割り込む可能性が濃厚になっている。次に示すのは、中央紙の5年ごとの部数(日本ABC協会が発表する新聞の公称部数)と、2021年8月の部数である。

1995年からの中央紙の部数

※5年ごとのデータは、各年度の1月~6月の販売店へ搬入された部数の平均。2021年8月のデータは、平均ではなくこの月のABC部数。

この1年間に限っていえば、朝日新聞と読売新聞も約5万部を減らしている。毎日新聞は約10万部を、日経新聞は約21万部を、産経新聞は約15万部をそれぞれ減らした。この速度で新聞離れが進めば、新聞社経営は、さらに多角化を進めない限り破綻する。

少しでも経営を好転させるために、新聞人らは文部科学省と連携して、NIE(学校の学習教材に新聞を使う運動)を進めている。2020年度から実施されている小・中・高等学校の学習指導要領には、新聞の使用が明記されている。

しかし、新聞記事そのものがインターネットで配信されており、あえて「紙」にする理由に説得性はない。新聞社と文部科学省との癒着関係が、教育内容を歪めたり、新聞を世論誘導の道具に変質させかねないという批判も出ている。

◆電車の車両内で「新聞を読む人」はゼロ

10月21日付けの『ディリー新潮』は、『新聞「紙」が消え「地上波テレビ」凋落の韓国最新メディア事情 ソウル打令』と題する記事を掲載した。それによると、韓国では、日本よりもメディアの電子化が進んでいて、新聞を売っているコンビニが激減しているという。記事は、「それはコンビニの問題ではなく、韓国人が紙の新聞を読まなくなっているから」だと結論づけている。

2021年10月22日、わたしは電車の車両内で新聞を広げている乗客がどの程度いるのかを調査してみた。車両内で新聞を読むのは、「昭和」・「平成」の光景だった。日経新聞を購読するのが、ビジネスマンの常識のように思われていた。

わたしが調査に選んだ鉄道は、自宅沿線の東武池袋線である。乗り込んだ電車は、成増駅を13時28分に出発する池袋駅ゆきの準急電車である。池袋駅まで途中に10駅あるが、準急電車は直通で、途中停車がない。従って成増駅を出発した時点で、池袋駅まで乗客数に変化がない。所要時間は10分。調査の条件が揃っている。

わたしは10両ある車両の最後部から先頭車両までを歩き、新聞を読んでいる乗客の人数を確認した。

結論を言えば、新聞を読んでいるひとは1人もいなかった。夕刊紙を読んでいる人もいなかった。本を読んでいるひとが数人いた。多くの人がスマホと向き合っていた。それでなければ、ぼんやりしていた。

次の写真は、2号車から通路の扉を通して撮影した1号車内の光景である。新聞を読んでいる人はひとりも写っていない。

車両内の様子。新聞を広げているひとはいなかった

復路でも同じ実験をしたが、新聞を読んでいる人はひとりもいなかった。成増駅で調査は終了した。緊張が解けたうえに、調査結果に衝撃を受けたこともあって、思考にふけり、下車予定だった駅を乗り過ごしてしまった。次の駅で下車して引き返した。その車中で、とうとう新聞を読んでいる人を発見した。

優先席に座った老婦人が、腕を前に延ばして新聞を広げていた。近づいて、興味津々に紙面を覗き込んでみると、『公明新聞』の文字が視界に飛び込んできた。

わたしは苦笑しながら、電車を降りた。

◆読売「押し紙」裁判に登場し続ける喜田村洋一弁護士

しかし、新聞社経営の行き詰まりは、ABC部数の激減が暗示するよりもはるかに深刻だ。と、言うのもABC部数の中には、大量の「押し紙」、あるいは「積み紙」が含まれているからだ。従ってABC部数も正確には新聞没落の実態を反映していない。実態ははるかに深刻なのだ。

「押し紙」というのは、端的に言えば、新聞社が販売店に対して課しているノルマ部数のことだ。たとえば新聞の購読者が2000人の販売店は、2000部と若干の予備紙(従来は搬入部数の2%とされた) があれば経営できる。ところが新聞社がかりに3000部を搬入すれば、約1000部が過剰になる。この過剰部数が「押し紙」である。

これに対して「積み紙」というのは、販売店が部数を多く見せかけて、折込み広告水増しなどをするために、みずから注文した新聞のことである。

「押し紙」と「積み紙」を総称して残紙と呼ぶ。

新聞販売店が新聞社に対して「押し紙」による損害賠償を求める裁判は、「押し紙」裁判と呼ばれる。「押し紙」裁判では、残紙の中身が「押し紙」か「積み紙」かが争点になる。

このところ「押し紙」裁判が多発している。特に読売新聞は、現在、東京本社、大阪本社、西部本社が「押し紙」裁判の被告として、法廷に立たされている。このうち西部本社を被告とする裁判では、次のような残紙の実態が明らかになっている。ひとつの例として、2015年度の実態を紹介しよう。

YC早岐中央(長崎県佐世保市)の部数内訳。「プラス2%」とは、予備部数が配達部数の2%の意味。配達部数+2%の予備紙が、販売店経営に真に必要な部数

読売新聞社の東京本社と西部本社を被告とする裁判では、読売新聞の代理人として、日本を代表する人権擁護団体・自由人権協会の喜田村洋一・代表理事が登場している。喜田村弁護士は、読売新聞社には1部も「押し紙」は存在しないと主張している。喜田村弁護士は、約20年前から読売新聞の「押し紙」

裁判にたびたび登場して、「押し紙」は存在しないと繰り返してきた。

しかし、残紙の中身が「押し紙」であろうと、「積み紙」であろうと、過剰な部数の新聞が販売店に搬入されていることは紛れもない事実である。当然、広告主に損害を与えている可能性も検証する必要がある。広告主の中には、広報紙の新聞折り込みを発注している地方自治体も含まれている。大阪府、滋賀県、東京都、埼玉県、千葉県などである。

◆残紙率およそ70%、毎日新聞・蛍が池販売所

毎日新聞の「押し紙」裁判では、わたしが把握している限り、残紙率が70%を超えるケースが過去に2件ある。このうち次に示すのは、大阪府豊中市の毎日新聞・蛍が池販売所の部数内訳である。

毎日新聞蛍が丘販売所(大阪府豊中市)の部数内訳。「プラス2%」とは、予備部数が配達部数の2%の意味。配達部数+2%の予備紙が、販売店経営に真に必要な部数

生前、元店主は残紙と一緒に折込広告を廃棄していたことに自責の念を感じていたようだ。それが新聞社のビジネスモデルだとも話していた。

産経新聞も朝日新聞も過去に「押し紙」裁判で、法廷に立たされている。

◆権力構造の歯車

新聞没落の背景には、インターネットの普及だけではなく、残紙問題や文部科学省との癒着に象徴されるジャーナリズムの信用失墜もあるのではないか。公正取引委員会が「押し紙」を独禁法違反で取り締まらないのも、新聞社が権力構造の歯車に、「広報部」として組み込まれているからである。少なくとも、わたしはそんなふうに考えている。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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岸田総理の地元、広島市の衆院選の終盤情勢 さとうしゅういち

10月31日執行の衆院選。岸田総理の地元である広島市の最終盤の情勢をご報告します。

◆広島1区──爆心地ながら超保守王国の総理の地元に初日から社民・福島党首が殴り込み

広島1区は爆心地を抱える選挙区。わたくし・さとうしゅういちが住んでいます。しかし、過去の選挙では岸田文雄総理が(民主党候補に僅差に迫られた2009年以外は)圧勝してきた超保守王国です。民主党とその推薦候補の亀井静香さんで1-7区まで占めた2009年でさえ岸田さんが勝ったということは、いかに1区が保守王国かというのがよくわかります。

岸田総理に対して共産党新人の大西理さん、社民党新人の有田優子さんらが挑む構図になっています。残念ながらというべきか予想通りというべきか、岸田さんが大幅にリードしています。

広島1区の各候補のポスター

しかし、こんなところに、党首でただひとり、殴り込んだ人がいます。社民党党首の福島みずほさんです。わたしは、そのことにちょっと感動して、その場にうかがいました。福島さんは、平和公園の入口で有田優子候補の応援のマイクを握り、その後、献花しました。

福島さんの口から出た「核兵器禁止・脱原発でぶれない」というフレーズに感動、他の内容を失念するありさまでした。なぜなら、広島では伝統的に野党第一党が、原発製造関連企業の超大手労組などに忖度して脱原発を叫ばない悪しき伝統があるからです。この悪しき伝統とわたしは悪戦苦闘してきたようなものだからです。

わたしは、比例ではもっとも庶民にやさしい経済政策を打ち出すれいわ新選組支持を呼びかける立場です。しかし、24年来の交流がある大学の先輩でもある福島さんの熱意にこたえ、岸田総理の地元で、なおかつ原発推進企業労組も強い1区で立候補しようという有田さんを応援しなければ、少しでも総理を追い上げ、総理をヒヤリとさせなければ、という思いをつよくしました。

有田さんは、地元生まれ地元そだち。岸田さんは東京うまれ東京育ち。地元の庶民の暮らしを岸田さんはどの程度わかっておられるのか? 政権交代がもし今回できなくても、岸田さんに、地元の庶民の声に耳をかたむけざるをえない状況をつくれれば、という想いです。あるいは、いままで日本政府が反対してきた核兵器禁止条約もオブザーバー参加ぐらいはせざるを得ない状況をつくりたい。広島1区の一有権者として有田さんを応援する理由です。

平和公園で出発式の福島みずほ社民党党首と有田優子さん

◆広島2区──原則的左派の大井候補、「立憲民主党」の表示がない選挙カーで野党統一をアピール

大井赤亥候補

広島2区は広島市の西部と廿日市市、大竹市などで構成されます。この2区では40歳の若き政治学者の大井赤亥さんが、自民党の前職の平口洋さんに挑んでいます。広島2区では大井さんが野党統一候補です。

マスコミの情勢調査では平口さんが大きくリードという状況です。実はこの選挙区では2003、2009年と民主党の候補が平口さんを破って当選してきました。民主党候補が改憲派に対して平口さんが、2012年のマスコミアンケートで9条改憲反対と回答するなど、「ねじれ」がありました。

今回の立憲民主党候補の大井さんは、わたしとも生前、懇意にさせていただいた地元では著名なフェミニスト活動家を母親に持ち、ご自身も英国労働党左派に近いと自認される大井さん。大きくすべき政府のサービスは大きくし、小さくすべき個人の生き方への介入は小さくする。左翼のあるべき姿を絵に描いたようなスタンスをビラなどでも公言しています。

ラジカルな市民運動家が多数支援するなど、以前の2区の民主党とは様変わりです。選挙カーも「立憲民主党」の表示がないもので、まさに野党統一を意識しています。

ただ、2003年の初めての立候補以来、2005、2009、2012、2014、2017と6回立候補して4回当選、しかも、穏健なイメージものこっていて中道リベラルくらいにも人気のある平口さん相手に苦戦しています。

小選挙区では大井さんのような原則的左翼は厳しいかもしれない。それでも、これまで政策論議不在だった広島の政治に新風を吹き込む意味でまだまだ若い論客の大井さんに政治家としての活躍を期待をしています。

◆広島3区──斉藤国交相を再逆転へ食いつくライアン真由美候補

広島3区はいわずと知れた河井夫妻の地元です。事件の震源地です。ここでは、公明党の比例前職の斉藤鉄夫国交相が、防災対策充実を訴え、公明党支持層の9割と自民党支持層の7割を固めややリード。これを立憲野党統一のライアン真由美候補が激しく追い上げる展開です。また、公示の直前に維新が擁立した瀬木寛親さんが、当選圏外ではあるものの、一定の支持を広げているように体感されます。

岸田総理誕生、斉藤国交相就任までは明らかに、ライアン候補が優勢でしたが、同じ広島市出身の岸田さんが総理になり一挙にムードは逆転しました。災害が続く3区で災害担当の国交相に期待する方が出たのはやむを得ないとはおもいます。

一方で、野党共闘という概念が一般市民に浸透していないことを思い知らされることもあります。

「さとうさんはもうライアン真由美さんの応援はやめたんでしょ?」

広島3区でこんなお話をうかがい、びっくりしました。

「だって、さとうさんは、れいわ支持でしょ。だから立憲のライアンさんは支持していないのかとおもった。」

とおっしゃるのです。

「わたしの方針は #小選挙区はライアン真由美 #比例代表はれいわ です。野党共闘ですから、当然、れいわの候補者がいない #広島3区はライアン です。」

と申し上げると「そうなんだ?!」とびっくりしておられました。

まだまだ野党共闘という概念が浸透していないし、比例と小選挙区の使い分けも難しいと痛感しました。

3区のポスター

それでも、この選挙区は参院選広島再選挙では、当選した立憲系の宮口治子議員の57359票と、わたくし・さとうしゅういちの3357票の合計の得票60716票は自民党候補の53627票を大きく上回っています。ライアン真由美候補が再逆転するポテンシャルは十分あります。

もうひとつは、わたしを維新系と誤解されているかたもおられ、そういう方が維新の瀬木候補に流れている面は感じます。わたしについて、「若い男性が勢いよく演説しているのは維新」という思い込みから、わたしが立候補した選挙ではわたしに、わたしが立候補しない選挙では維新に投票されている方もおられるのは把握しています。

また、再選挙では、多くの若手有権者が棄権しました。そういう方が衆院選は、野党に投票するかといえば、こころもとない。正直、「河井事件」よりも給料アップとか、児童手当増額、教育費負担減などを求める声が若手、とくに女性の方からはおおくうかがいました。れいわを比例区で支持されるような方もそういう傾向はみられます。金権腐敗の追及は年配者には食いつきがよくても若手にはそうでもないのも現実だし、若手労働者、とくに女性の皆様がおかれた厳しい環境を考えたらうなずけます。

しかし、他の小選挙区ならいあざしらず、河井克行受刑者(有罪確定)の選挙区で与党が勝てば広島の恥です。また、地元の公明前職が国交大臣に就任されたことを喜ばれる方もおられる。お気持ちはわかるが、東京以外の地域がさびれるような政策をとってきたのも与党です。大臣の地元でなくても、公正に防災対策や、地域が元気になるような施策を受けられるのが法のもとの平等であり、政府の責務ではないでしょうか?

一方、若手の皆様にはライアン候補が金権腐敗追及「だけ」でなく、女性会社役員としての経験から、労働条件の改善に力を入れていることもご存じいただきたいのです。公明党もふくめて与党こそがこの20年かけて労働条件をぶっこわしてきました。労働条件の改善、とくにコロナで厳しさをます女性の労働条件の改善など、ライアン候補には国会で取り組んでいただければとおもいます。

ライアン真由美候補の出発式

◆核兵器禁止条約発効・コロナ後・西日本大水害後・製鉄所閉鎖後、河井事件後最初の衆院選、政策論議不在に終止符を

今回の衆院選は、核兵器禁止条約発効後、最初の衆院選です。かたくなに条約そのものにさえ反対してきた自民党の姿勢が問われます。また、コロナ災害の発生後、さらに西日本大水害2018後最初の衆院選です。現場公務員削減などで危機管理体制も弱体化してきた自公の新自由主義が問われます。そして、災害が頻発するなかで、安心してくらせる広島、日本をどうつくるか、が問われます。気候変動にも広島からどう対応するか。問われます。そして、製鉄所閉鎖などの中、広島が依存してきた重厚長大産業が大きな曲がり角を迎えます。そして、河井事件後最初の衆院選でもあります。

これまでの政策論議不在の広島の政治に終止符を打たないと大変なことになります。候補者も市民も大いに語り合いたいものです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

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《追悼》福島県飯舘村の長谷川健一さん 長谷川さんと共に歩んだ「西成青い空カンパ」の10年 尾崎美代子

3・11以降、西成の仲間とつくった「西成青い空カンパ」で支援し続けてきた、福島県飯舘村の長谷川健一さんが亡くなった(享年68歳)。ここ数年、私は行き来していなかったが、お別れを前に、長谷川さんとの「思い出」を記しておきたい

長谷川健一さん

◆「西成青い空カンパ」と飯舘村

2011年3月11日の東日本大震災と原発事故後、西成の仲間と「西成青い空カンパ」を立ち上げた。ライブなどでカンパを集め、最初は日本赤十字社に送っていた。その後、直接カンパを渡たす場所を探していたところ、飯舘村に出会った。原発から40~50キロ離れた飯舘村は、事故までは原発とは無関係だった。しかし、爆発した福島第一原発から放出された放射能は、風向き、気候などに左右され、3月15日飯舘村に大量の放射能を降らせた。村に入ったジャーナリストらから、村の線量が非常に高いことを聞いた長谷川さんは、菅野村長(当時)に子供たちだけでも避難させろと迫ったが、村長は聞く耳を持たなかった。そのため子どもたちばかりか、村民も大量に初期被ばくした。それを知った私たちは、この村にカンパを送ろうと決めたのだった。   

その年の8月、京都で長谷川健一さんの講演会があった。前田地区の区長を務める長谷川さんは、なるべく皆で同じ仮設住宅に入居しコミュニティを守りたいと奔走した。伊達東仮設住宅に同地区の村民を避難させ、最後に自身も避難したあと、講演活動を始めていた。独特のしわがら声で「大勢の人にこの現状を知ってほしい」と訴える長谷川さん。私はすぐに楽屋を訪れ、長谷川さんと大阪講演の約束をした。双方の都合があわず、講演が実現したのは暮れの12月17、18日だった。

それ以降、ほぼ毎年大阪で講演会を行ってきた。来られない年は、仲間と長谷川さんの撮った映画「飯舘村 わたしの記録」や私たちが制作した「飯舘村ADR集団申立 謝れ!償(まや)え!かえせ ふるさと飯舘村」の上映会や支援ライブを行ってきた。

2013年4月の講演会後の親睦会で、長谷川さんは「関西の人はもう関心なくなったんかな」とポツリと漏らした。私たちの力不足もあり、参加者は年々減っており、私は申し訳ない思いでいっぱいになった。

西成での講演会のあと、ライブなどで集めたカンパを長谷川さんに直接手渡してきた。後ろ姿はヤンシ
私たちのカンパを一部にして購入されたコピー機。長谷川さんが住んでいた伊達東仮設住宅の自治会室に置かれていた

◆「原発ADRを闘おう」

長谷川さんが、頻繁にメールしてきたのは2014年春先あたりからだ。長谷川さんが「原発ADRを闘おう」と呼びかけ、参加者が増えている。休日、会場を取り、弁護士が手弁当で一人一人の聞き取り調査を行ってくれている。参加者が増えて、弁護士が足りないなどとのメールに、私たちが送ったカンパを一部にして購入したコピー機の写真が添付されていた。「裁判資料を作るのにとても重宝しています」とコメントも添えてあった。元気になってきた長谷川さんの顔を見るために、東京でのADへの申し立てには、ぜひ同行しようと決めていた。

申し立ての前日の11月13日、私は福島に行き、長谷川さんに飯舘村を案内してもらった。その後、長谷川さんは、弁護団との最終打ち合わせのため慌ただしく東京へ向かった。伊達東仮設住宅で、私と奥さんの花子さん、「飯舘村の母ちゃんたち 土とともに」を撮った古居みずえ監督の3人で、花子さんの作った「芋煮汁」を何杯もお代わりし、遅くまで話し込んだ。

翌朝、大型バスに村の皆さんと乗り込み東京へ向かった。皆さん、冗談を言い合い、上機嫌だった。いよいよ闘いが始まるからだ。しかし、その後、ADRはなかなか上手く進まないようだと聞いた。

「西成青い空カンパ」制作のDVD。長谷川さんが飯舘村を案内する様子、翌日ADRへの申し立て、記者会見の様子が入っています

◆「みんな疲れた。俺も疲れた」

「みんな疲れた。俺も疲れた」。2016年4月、再び福島を訪れた私に、長谷川さんはそう告げながら、「復興」が進む村を案内してくれた。

事故後始まった村の復興計画を長谷川さんは「雲の上から降りてきた」と表現した。村には20の行政区があり、避難指示解除後は、高線量の長泥地区を除く19の地区で、それぞれ復興していく計画だった。しかし、その後「深谷地区」を先行的・集中的に復興させていくと変更された。2013年9月、安倍晋三が「汚染水は制御されている」と嘘のプレゼンを行い、2020東京五輪の招致に成功したからだと私は考えた。その深谷地区を通る幹線道路沿いには、道の駅「までい館」、メガソーラー、「ふれあい館」など立派なハコモノが立ち並んでいた。ここを聖火リレーが走れば、世界中の人たちは「飯舘村は復興した」と思うだろう。そのために飯舘村の復興計画は変更された、と私は確信した。

緑豊かな山々に囲まれた沼平で、土壌、植物などの線量を測り、SNSで発信し続ける伊藤延由さんにお話を伺ったあと、福島駅に送ってもらう途中、耕作できない田畑を眺め、長谷川さんが私にこう聞いた。「尾崎さん、この畑やたんぼ、将来どうなると思う?」。草ぼうぼうの田畑をみながら私は「冬に草が枯れて、また春に草が生えて……その繰り返しですか?」と答えた。すると長谷川さんはこう言った。「違う、森になるんだ。俺はチェルノブイリで見てきた」。

◆「夏、ここいらがそばの花で真っ白になる。それを見にきたらいい」

実は数か月前、何かの記事で、長谷川さんの祖父が新潟県出身で、しかも私の故郷の近くであったことを知った。そうして村に入植した人たちが、鍬や鋤1本で山林の木を伐り、土地を耕し、田畑を作ってきたことは、滞在中、菅野哲さん、安斎徹さんからも聞いていた。しかし何故だろうか、長谷川さんにそのことを確認した記憶はない。

そう肥沃でなかった土地に、村の8割を占める山林が作る豊かな腐葉土と、畜産・酪農で作られた堆肥を、までいに(村の方言で丁寧になどという意味)鋤き込み作り上げてきた土と、昼夜の寒暖差が大きいことが作用して、野菜、コメを美味しく、花を色鮮やかにし、りっぱな「商品」に仕立ててきた。もちろん事故後は、除染できない山林の腐葉土に放射性物質が大量に残存したままで、もとに戻るには300年かかるという。

避難指示解除後、長谷川さんはお父さんと花子さんの3人で飯舘村の自宅に戻ると聞いていた。前田の家で、家の前の広大な土地にそばの種をまくと話され、「夏、ここいらがそばの花で真っ白になる。それを見にきたらいい」と言われていたが、私は見に行く機会を失っていた。

2019年、再び飯舘村を訪れたが、私は長谷川さんに連絡をしていなかった。福島駅に迎えにきてくれた安斎さんからは、事前に「当日、ふれあい館で前田地区の人が集まる」と聞いていたので、そこに行き、偶然長谷川さんや花子さんに会えたらいいなと期待したが、会は既に終わってしまっていた。道の駅から長谷川さんに電話すると、「なんで、連絡してくれなかったんだ」と言われ、私が答えられずにいると「俺は出かけるが、そこでちょっと待ってろ」と言われ、しばらくすると花子さんが炊き込みご飯を届けてくれた。

◆「飯舘は営農でどんどん復興してますなんて書かれたんじゃ、たまったもんじゃねえ」

講演会の帰りに皆で長谷川さんをホテルに送る途中、仲間が撮った写真。講演後も話は尽きなかった

今年に入り、数ヶ月前、Facebookで長谷川さんから友達申請がきた。「あれ? 友達なのに」と見たら、携帯を変えたらアカウントが消えたとあった。その後に「軽い気持ちで診察したら即入院となった。今まで手術、放射療法だったが、いよいよ抗がん剤治療が始まる」と書かれ、しかし「そばが気になったので、無理を言って明日退院です。抗がん剤治療は通いでやります」と書かれていた。9月9日の投稿だった。

しかし、私は電話もメールもできないまま、訃報を知る日を迎えた。そんな時、長谷川さんを取材し続けた豊田直己さんの記事を読んだ。そばの栽培は希望に満ちた営農再開ではなかったと書かれていた。

「マスコミがかぎつけて、そうやってそば作って(農地を)荒らさないようにやってるって、すぐ(取材が)始まんだよ。俺、全部(取材を)断ってる。いかにも復興してやってますよ、みたいな広告塔にはなんねえ」

「(そば作りは)生業にはなんねえ」「だから、飯舘は営農でどんどん復興してますなんて書かれたんじゃ、たまったもんじゃねえ。本当の現実をとらえて欲しいんだ」。

ああ、長谷川さんは、10年前、初めて会った時と全然変わってはいなかった。祖父が鋤1本で開拓してきた土地を、チェルノブイリで見たような森に戻したくなかったんだ。それを知り、私は初めて涙した。

長谷川さん、お疲れ様でした。ゆっくりお休み下さい。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)「西成青い空カンパ」
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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総選挙展望 ── 政権交代は起きるか〈後編〉静岡補選の衝撃と安倍晋三長期政権による政治的凋落への審判 横山茂彦

◆野党共闘が奏功した静岡補選

132におよぶ与野党一騎打ちの小選挙区で60前後が激戦になり、その大半が野党共闘の有利に進んでいる。その実態を裏付けたのが、10月24日の参院補選静岡選挙区である。

無所属新人の山崎真之輔を立憲民主と国民民主が推薦し、自民党の新人を1万6000票あまりで破った(56万票)。共産党候補も10万票を獲得し、もともと革新系が強い静岡とはいえ、野党共闘の効力が証明された格好だ。

いっぽう、自民党王国の参院山口選挙区では、共産党候補が7万3000票、N党候補5000票と、自民候補の21万票に大差をつけられ、野党一党単独候補では太刀打ちできないことが、あらためて立証された。

一騎打ちの選挙区で相手に10ポイント以上の差をつけ、当選が有力な候補は43人(自公37、立憲16)である。「自公」「立憲」候補が10ポイント差の範囲で競り合っているのは57選挙区にのぼる。そのうち、前回野党候補が敗れた選挙区は39もあり、与野党逆転のオセロゲームの可能性も十分あり得るのだ。

◆一騎打ちでの激戦区

上記の静岡で、ことに話題となっているのは民主党(民進党)から希望の党(集団移行)の旗振り役だった細野豪志であろう。

ここは立憲民主の小野のりかず、無所属で出馬の細野豪志、自民党の吉川たけるの三つ巴となった。

周知のとおり、細野は希望の党崩壊後は自民党(二階派)入党に転じ、支持母体だった連合を裏切るという破天荒な動きに出ていた。だが、反共産党的な言辞いがいに大義名分のない移行は、地元の怒りを誘いこそしても、自民党の一部からしか歓迎されていない。まだ50歳と政治家としては若手の細野が、単なる風見鶏に終わるのか、自民党政治家として大成するのか、注目に値すると提言しておこう。

さらに他の選挙区の情勢を見てゆこう。

小選挙区制導入以降、8回の選挙で自民が議席を独占してきた東京25区は、前回は自民の井上信治がダブルスコアで圧勝したが、野党一本化で状況は一変している。井上と立憲の島田幸成氏横一線で並ぶ展開になっているのだ。

福島4区は前回選挙では、希望・共産・社民と野党候補が乱立していた。希望の小熊慎司はわずか1200票差で自民菅家一郎に敗れたが、今回は立憲から出馬の小熊氏に一本化され、菅家氏とは10ポイント以上の差をつけて優位に立っている。

自民の桜田義孝が3連勝中の千葉8区も、野党統一候補の本庄知史(立憲新人)が桜田に大差をつけている。桜田義孝は五輪担当大臣でありながら「パラピック」発言、サイバーセキュリティ戦略副本部長でありながら「パソコンは打ったことがない」「(USBを)使う場合は穴を入れるらしいが、細かいことは、私はよくわからないので、もしあれ(必要)だったら私より詳しい専門家に答えさせるが、いかがでしょう」などと言う無能政治家だが、無能であることと選挙で強いのは別問題で、2009年の与野党逆転選挙以外は、すべて選挙に勝ってきた7期目のベテラン議員である。

与野党一騎打ちが激戦となっている証左として、野党有力候補の圧勝という情勢がそれを裏付けてもいる。

与野党一騎打ちとなった香川2区の玉木雄一郎(国民民主)は圧勝の情勢、沖縄1区も赤嶺政賢(共産)が当選圏である。立憲が57選挙区を次々と制すれば、まさかの政権交代も夢ではなくなる。

◆維新の三倍増は、自民党への忌避か

野党共闘を「選挙談合」と批判している維新の会が、専門家の分析では三倍増(公示前の11から30前後へ)となりそうだ。小選挙区では大阪いがいは苦戦しているものの、比例で得票を伸ばすと見られている。明らかに保守層の自民忌避であろう。

久々に候補者4名という総裁選挙で求心力を回復したかにみえたが、自民党らしい収束の仕方、すなわち派閥とキングメーカーの争闘と妥協で、岸田新政権は難破寸前といえよう。従来の枠組みを取り払い、清新な印象の公約もことごとく覆し、政権自体の人気は急落している。何を喋っているのか、よくわからない。野党党首との討論のさいにも基本的な事実を間違える(立憲と共産党の公約をちゃんと読んでいない)のポンコツぶり、いっぽうでは意味不明の饒舌さに、岸田の政治能力が疑われはじめているのだ。

◆一掃される安倍チルドレン

日に日に、自民凋落の気配が濃厚となるなかで、危機感を強めているのが安倍元総理である。当落線上にある細田派の18人のうち、安倍チルドレンが6人もいるのだ。

子飼いの政治家が一掃されかねない情勢なのだ。まさに驕れる者も久しからず、である。岸田自民党の敗北というよりも、安倍晋三長期政権の政治的凋落こそが、国民の審判になるのかもしれない。(了)

当落線上にある細田派18人のうち、安倍チルドレンが6人(名前色付き)を占める

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ〈3〉森 奈津子

しばき隊が提案し、東京レインボープライドが乗ったデモ「杉田水脈の議員辞職を求める自民党本部前抗議」。

多くのLGBT当事者は、ツイッター上で流れてきた現場の写真を見て初めて、そのデモの異様さを把握した。

杉田氏の顔写真を引きのばし、醜悪に加工したり、侮蔑的な言葉を書き加えたプラカード――まさに悪魔化である。と同時に、呆れるほど幼稚なセンスだ。小学生が音楽の教科書のベートーベンの肖像に落書きするのと大差ないお子様マインドだろう。

あるいは、銃のスコープで杉田氏の顔を狙うデザインのプラカード。これは、しばき隊界隈の活動家・谷口岳氏がコンビニのネットプリントを利用して配布したものだが、かっこいいとでも思ったのだろうか?

中二病患者は自分が中二病であることに気づかないという証明をしていただき、その羞恥プレイめいた自己犠牲の精神には敬服するばかりである。

しばき隊界隈でご活躍のカメラマン秋山理央氏も実況ツイート

抗議デモには、「FUCK」と書かれたレインボーフラッグも登場した。

過去に東京レインボープライドで、立憲民主党が性的多様性のシンボルであるレインボーフラッグに党名を入れた小旗を用意し、LGBT当事者から「我々の誇りであるレインボーフラッグに軽々しく党名を入れるとは、非常識で身勝手だ」と批判された事件を把握していれば、とてもできないことだろう。

それと、中指を突き立ててポーズをとるデモ参加者の写真は……会場の片隅で「下品」と「中二病」の博覧会でも開催していたのだろうか?

[左]デモで中指を立てる女性。海外のスラムでやったら殺される可能性が高いポーズ。[右]しばき隊界隈のゲイ活動家、ハスラーアキラこと張由紀夫氏もデモの準備に余念がない

滑稽だったのは、薄汚い格好にだらしない髪型の中高年男性のデモ参加者たちの姿に、LGBT当事者から困惑の声があがったことだ。

「あの人たちがゲイ?」

「違うでしょ……?」

「どうせ、動員されたパヨク活動家だろ!」

――そう。それはまさに「これぞ、人生を運動に捧げ、気づかぬうちに浮世離れしてしまい、外見に気を使わなくなったサヨク活動家のおじさん」というサンプルのごとき方々だったのである。

これはべつに、LGBT当事者を称賛してサヨク活動家をコケにしているわけではない。

同じ男性でも、ゲイは異性愛者と違って出会いの機会が少ない分、なにかと小綺麗にしている。今は出会い系アプリがあるとはいえ、大勢のゲイに自分の姿を見てもらえる機会ともなれば、そのファッションには気合が入るというものだ。

体だって、トレーニングで造りあげている者は珍しくない。そんな男たちは、Tシャツ一枚であっても、おのれの美しい筋肉をアピールできるデザインを選ぶ。

デブ専ゲイ受けを狙った体型のゲイでも、髪を短く刈り、男らしさを演出するものだ。

あえて無精髭で野郎っぽく見せても、髪は清潔に保つのがスタンダードであり、薄汚いファッションにボサボサの髪型なんて、絶対にありえない。

つまり、ゲイばかりが集まる場所には、緊張感に欠けただらしない格好をした男など、まず、一人もいないのだ。

女性政治家の顔を怪獣ダダと同一視してdisる見目麗しき殿方

あるとき、私は、ゲイの友人に訊いた。

「なんで、マッチョ系ゲイって、しゃべるとオネエなの?」

彼はこたえた。

「あれはね、マッチョの中身がオネエなんじゃなくて、その反対なの。オネエが男にモテたくてトレーニングをした結果、見かけだけはマッチョになったってだけなの」

……オネエであっても、男にモテたくて、マッチョになる。中身はオネエのままで。

それほどまでに、ゲイは「モテ」に重点を置き、老いも若きもイケてる男であろうとしている。

ゆえに、ゲイやゲイの生態を知るレズビアンやバイセクシュアルは、あのこ汚い格好の中高年を見て、ピンときたのだ。彼らは異性愛者だ、と。

ダサいならダサいで、それをファッションにまで高めるのが、長年アンダーグラウンドの存在とされてきた同性愛者の余裕であり、誇りなのだ。

ダサいけどキッチュでおしゃれで華やか。それは、ドラァグクィーンに象徴されるキャンピィ文化であり、しばき隊界隈は、残念ながらそれを理解していないし、身につけてもいない。

オネエはヒステリックな口調さえ、第三者から見て笑える「芸風」に変える。そうやって、自分を客体化して見る訓練ができているのだ。

反面、しばき隊界隈のヒステリックは、本気のヒステリックだ。ゲイのように、悪口を皮肉と笑いでくるんで提示してみせる知恵も能力もない。

ツイッター上で気に食わない者を集団ネットリンチし、根性がある批判者はみんなそろって予防ブロック。仲間内でエコーチェンバー現象を起こし――となると、次は当然、カルト化が待ち受けている。

野間易通尊師による「俺は神」とのありがたいお言葉

C.R.A.C.代表の野間易通氏に「尊師」というあだ名がついたのは、もちろん、地下鉄サリン事件他の凶悪犯罪を起こしたオウム真理教の教祖・麻原彰晃になぞらえてのことであり、つまり、しばき隊界隈の狂信性、カルト性は、とっくにウォッチャー各位に読み取られていたということだ。

世界中のゲイとレズビアンは、なぜ、デモではなくパレードという形で人権を訴えているのか?

それは、同性愛者が「けがらわしい異常者」「気持ち悪い変態」とあからさまに罵られ、蔑視されてきた歴史的事実と、無関係ではない。

自分たちに向けられてきたヒステリックな罵倒――それを相手に返したくはない。それを発する者がどんなに醜悪に見えるか、身にしみてわかっているからだ。

ゆえに、パレードという形で自分たちの存在を社会にアピールし、ハッピーで楽しい祭典に異性愛者たちを巻き込む形で、理解と共生を求めてきたのだ。

しかし、しばき隊/ANTIFA/カウンターは、LGBTを差別してきた異性愛者と同じ、ヒステリックな罵倒に依存している「正義中毒患者」だ。

ゆえに、いくら蔑視されても誇り高く生きてきたLGBT当事者が、彼らの姿に嫌悪感をあらわにするのも、当然のこと。

[左]コンビニプリントを利用して配布されたプラカード画像(作・谷口岳)[右]安易に鉤十字を使いたがる幼児性はいかがなものか

デモの性質に気づいたLGBTは、疑問を感じ、そして、LGBT活動家が暴力的な運動体と共闘している事実を把握する者も次第に増えていったのである。

「LGBT活動家がしばき隊と共闘しているだなんて、我々の印象が悪くなる」

「これまでしばき隊が起こした暴力事件や性犯罪の被害者を踏みつけにするのか?」

「そんなLGBT活動家が偉そうに我々の代表ヅラするな」

それらの批判は、後に何度も何度も繰り返され、「杉田水脈の議員辞職を求める自民党本部前抗議」は代表的な「LGBT運動の悪しき例」として蒸し返されることになったのである。(つづく)

堅実な生活を営むゲイ当事者、つよし・おすとらこん氏のデモ批判ツイート。活動家ではない一般のLGBT当事者の真っ当な感覚がここにある

◎[過去記事リンク]LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ
〈1〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40264
〈2〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40475
〈3〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40621
〈4〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40755
〈5〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40896
〈6〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44619
〈7〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=45895
〈8〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=45957
〈9〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46210
〈10〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46259
〈11=最終回〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46274

 

▼森奈津子(もり・なつこ)

作家。立教大学法学部卒。90年代半ばよりバイセクシュアルであることを公言し、同性愛をテーマにSFや官能小説、ファンタジー、ホラーを執筆。『西城秀樹のおかげです』『からくりアンモラル』で日本SF大賞にノミネート。他に『姫百合たちの放課後』『耽美なわしら』『先輩と私』『スーパー乙女大戦』『夢見るレンタル・ドール』等の著書がある。
◎ツイッターID: @MORI_Natsuko https://twitter.com/MORI_Natsuko

◎LGBTの運動にも深く関わり、今では「日本のANTIFA」とも呼ばれるしばき隊/カウンター界隈について、LGBT当事者の私が語った記事(全6回)です。
今まさに!「しばき隊」から集中攻撃を受けている作家、森奈津子さんインタビュー

《関連過去記事カテゴリー》
森奈津子「LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ」

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『暴力・暴言型社会運動の終焉』

総選挙展望 ── 政権交代は起きるか〈前編〉自民単独過半数は無理 横山茂彦

菅義偉の総理降板で、与野党の政権交代はほぼない。という結論で、それではどのくらいの自民敗北になるのかが、今回の総選挙の見どころとなっていた。自民党幹部は単独過半数は大丈夫、という見方であると報じられている。

ところが、である。各報道機関の世論調査、および調査機関の選挙分析によれば、自民単独過半数どころか、与党(自公)の過半数すら危ういのではないかという数字が出ているのだ。

小選挙区289のうち、自公候補と野党共闘の「一騎打ち」となったのが132。自民党は公示前勢力(276議席)から30~40議席を減らすとみられている(自民党関係者)。じつに63選挙区で接戦となっているのだ。

公明党も9選挙区のうち2選挙区が接戦で、比例区をふくめて公示前勢力の29議席確保が微妙であるという。

つまり与党の過半数(233)確保がギリギリではないかと、大半のメディア・調査機関が選挙予測をはじき出しているのだ。派手に政策論争をかわし、メディアを独占したかの様相だった総裁選挙の勢いはどこへ行ったのだろうか。

たしかに自民党は、比例代表投票先の調査(共同通信、10月16・17日)で29.6%を占めている。2位以下、立憲民主党は9.7%、共産党が4.8%、維新の会3.9%、国民民主0.7%、れいわ新選組0.5%、社民党0.5%で、野党共闘(4党)の15.5ポイントを大きく引き離している。公明党の4.7%と合わせれば、安定多数は確実視されても不思議ではない。

しかるに、同調査ではじつに39.4%の回答が「まだ決めてない」のである。

◆自民党の「選挙の神様」が予測する30~40減

元自民党事務局長で「選挙の神様」と呼ばれる久米晃氏によると、自民党30~40減の根拠はこうだ。

「4年前の総選挙を基準に考えています。野党は、立憲民主党と希望の党に割れて、共産党からも維新からも候補者が出た。あの時、マスコミの何社かが、仮に野党が統一候補を組んでいたら、あるいは立憲、希望が割れなかったらどうなるかシミュレーションして、自民党はマイナス64になったんです。そこから私は、『野党が統一候補を組んだら1+1=2にならないが、1+1=1.5くらいにはなる。そうすると野党協力が進むという前提で自民党はマイナス30くらいになる』と。それを目算にして判断するという考え方です。マイナス30のベースからどれだけプラスにできるのか、あるいはさらにマイナスが増えるのか。うまくいけばマイナス20や10で済む。ただ、国民の期待と不満がどの程度なのか、まだ分からない。最悪マイナス40もある。これからの戦い方次第です」(日刊ゲンダイ)。

久米氏が言う「野党統一候補」は、10月13日に共産党が126人の候補者のうち、一本化のために22人を取り下げることで決着した。社民党関係者によると、「ほぼ90%は一本化が果たせたので、自公をギリギリまで追い詰めることができる」という。

とくに自民党では金田勝年、桜田義孝、石原伸晃、下村博文、松島みどり、後藤田正純、原田義昭、江藤征十郎といった閣僚経験者が当落線上にあるという。公明党も北側一雄 斎藤鉄夫らが危ないという。

与野党逆転の政権交代までは行かないものの、自民党の単独過半数割れが現実のものとなれば、これまでの独善的・強権的な国会運営は続かないであろう。

その現実性を、個別の選挙区でみていこう。

◆石原伸晃と下村博文がピンチ?

もしこの人が落ちたら自民支持者だけではなく、ちょっと国民的なショックではないかと考えられるのが、東京8区(杉並区)の石原伸晃である。

この選挙区は、れいわ新選組の山本太郎代表が出馬表明した直後に撤回したことで、全国的な注目を集めてもいる。最終的に立憲民主党の新人吉田晴美氏が野党統一候補に落ち着いたが、ドタバタ劇で注目度がアップしたかたちだ。日本維新の会の新人笠谷圭司も出馬しており、まさに激戦区として注目をあびる。

前回(2017年)の総選挙では、立憲民主の吉田晴美が石原に約2万3000票差と迫る健闘だった。この時に出馬した共産党候補と得票を合計すれば、石原に約1108票差まで肉薄する計算となる。

その石原伸晃は出陣式の演説でマイクを握った瞬間、最前列の歩道から「何もやってないじゃないか!」と、絶叫して批判を繰り返した女性がいたため、演説を中断する事態となった。

杉並はもともと、新左翼の中核派系の区議・都議が長年議席を得る(現在は区議に二会派5名)ほど、いわゆる革新系の土地柄である。区議レベルでは、自民15人、公明7人、共産6人、立憲4人、新左翼系5人、自民反主流派(維新含む)4人、その他革新系無所属6人。ようするに、自公22人に対して、反自民が25人という構造なのだ。

東京11区(板橋区)の下村博文はどうだろう。前回、下村は104612票だったが、立憲民主の候補が60291票、希望の党が42668票、共産党候補が25426票だった。今回、立民と共産は統一候補とならなかったが、それでも前回票を参考にすれば、下村は1653票差という薄氷の勝利なのだ。

自民党総裁選挙出たことのある石原はもとより、危ない筋からの献金を居直った元文科相の下村博文を、知らない有権者は少ないことだろう。この二人が落選でもしたら、岸田政権の求心力は確実に落ちると断言しておこう。

ふり返ってみれば、8月ごろには自民党の独自調査で、64議席減という数字があったのだ。菅ポンコツ政権がこのまま続けば、確実に政権交代が起きると、この通信でも報じてきたとおりだ。

さらに個別の選挙区情勢に肉薄して、自民単独過半数割れの「危機」を予測していこう。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』11月号!

「結婚します」と聞けば、素直に「おめでとう」という姿勢に変化はないが…… 田所敏夫

世間ではその存在がよく知られた若者が結婚をするらしい。強制された結婚でなければ、基本的に結婚は慶事であるから、喜ばしいことだろう。同時に、有名であろうがなかろうが、結婚をする庶民は年中いるのであるから、この際分け隔てなく、「みなさん結婚おめでとう」と申し上げよう。

ただし、結婚はめでたいが、その後の生活の幸せを結婚が保証するかといえば、必ずしもそうではない。人の結婚にいちゃもんをつけるのは、へそ曲りの根性である。けれども、結婚後に多くの人が「結婚」ゆえに「困難」に向かいあわなければならないこともまた事実だ。

◆結婚が長期にわたる双方の幸せと直結することは、いわば「例外」といってもいいのかもしれない

配偶者との間で、双方に信頼・尊敬が成立する関係性に、ときどき出会うことがある。稀に出会うそんな関係をわたしは心底「素敵だな」と感じ入る。でも、多くの場合は双方が互いに幾分遠慮や我慢をしていたり、他人から見れば片方が、過剰に我慢したり、耐え忍んでいたり。あるいは平静を装う生活の中に、無言の毒針のようなものが飛び交っていたり、まことに結婚後一定期間を経た関係性は様々だ。そんなわたしの限られた見聞からすれば、結婚が長期にわたる双方の幸せと直結することは、いわば「例外」といってもいいのかもしれない。

仕事が適性や性分に合わなければ、転職することを今日、誰も咎めはしない。転職に後ろ指をさしたり、偏見を持つ人などもう皆無に近いだろう。一方、結婚生活が維持しがたくなったときに、迎えるかもしれない「離婚」は、簡単なこともあるかもしれないが、一般に転職ほど容易ではない。

かつて裁判官であった知人が現役時代に、離婚の裁判の「当事者」として「法廷闘争」に臨んだことがあった。普段は裁判官として事件を「裁く」立場の人間が、こんがらがった関係の清算に「当事者」として裁判所に解決を持ち込むしかない事態に陥ったのだ。

裁判官だから法律の知識は豊富だし、彼が負けるようでは日本の法曹制度に疑問符がつこうというものだが、あにはからんや、彼は敗訴ではなかったものの、実質的には負けてしまった。しかも負けの条件が信じられないくらいに「不利」であったのに、彼はその条件を呑んだ。

わたしは少々混乱した。彼が法衣を纏い裁判官として仕事をする姿を、わたしは何度か傍聴席から眺めたことがある。傍聴席よりもいくらか高い位置から原告・被告や傍聴席を見下ろす彼は、取り立てて、特徴のない普通の裁判官であって、業界内(?)での評価・評判も悪くなかったと聞いた。そんな人物でも、私生活の「結婚」に関係する問題では、法廷で惨敗してしまったのだ。

このように、結婚の対極にある「修羅場」を目撃したり、話を聞いたり、ましてや経験すると「結婚観」が変化する。わたしも青年期に比べて「結婚観」は変化した。しかし、結婚それ自体を否定したり、斜めにみるようになったわけではない。「結婚します」と聞けば素直に「おめでとう」という姿勢に変化はない。

◆後味の悪い予感を払拭できずにいる

ただし、世間には「利用目的」の結婚が実存することは断言できる。当事者が意識せずとも利用される結婚、当事者双方が意識的に副次的産物獲得を目的とした結婚。あるいは政治的とはいわぬまでも、社会的な影響を企図しての結婚。

そういった側面も結婚にはついてまわる。そのことだけは知っておいてもいいだろうと思う。騒がれている誰かさんの結婚は誰かがなにかを「利用」しようとしている側面を、わたしは感じる。だから一般に「結婚おめでとう」と祝う気持ちだけではなく、もう少し後味の悪い予感を払拭できずにいる。

またしても、わたしの偏見かもしれないが。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』11月号!

広島は今こそ賞味期限切れの「1975年の成功体験」から卒業を! 衆院選・知事選・県議補選・呉市長選を前に1975年生まれの筆者からの提言 さとうしゅういち

◆なぜ、広島の政治は全国でも群をぬいて保守的なのか? 長年の疑問

わたくし、さとうしゅういちは1975年に広島県福山市に生まれましたが、その後は東京で育ちました。2000年に広島県庁に入庁。11年近く、主に県内の山間部の介護や・医療などの行政を担当してきました。2011年にあの河井案里さんと県議選で対決するため退職。その後は広島市内を中心に民間での介護の仕事についています。一方で、わたしは、ジェンダー解消を求める「全国フェミニスト議員連盟」に所属し、全国で女性議員の応援に入らせていただいた経験もあります。この21年間、疑問に思っていたことがあります。

端的にいえば、「なぜ、広島の政治・行政は全国でも群をぬいて保守的なのか?」ということです。

全国でも群を抜いて政策不在の選挙や政治のあり方。政策もろくにかたらない与党勢力の候補が県議選では8割以上も得票する。

全国でも群をぬいて中央官僚のいいなりでの市町村合併・権限丸投げを進めるなど、中央に従属的な行政。

河井案里さんの有罪が確定したいま、案里さんからお金をもらった議員はいわば犯罪事実が確定したのにもかかわらず、だれひとり腹を切らない。

野党第一党も、全国と比べても非正規労働者やケア労働者が直面する問題に対して消極的。中央の市民連合や野党が合意している「原発なき脱炭素」にも後ろ向き。

これらは、いったいどうしてなのか? このままでは、広島は時代の流れから取り残されてしまうのではないか?

長年の疑問であり、わたしの危機感、苛立ちの原因でもありました。

重厚長大産業が立ち並ぶ呉市沿岸部

◆強烈すぎた? 1975年ころの「広島の成功体験」

しかし、とくに2011年以降、政治活動を本格化する中で、有権者のみなさまのお話しや過去の統計などを総合的に分析すると以下の仮説にたどり着きました。

「政治家や企業経営者もふくむ多くの広島県民が1975年ころ、広島がなしとげた成功体験にいまでもとらわれているのではないか? そしてその成功体験とはあまりにも強烈すぎたのではないか?」ということです。

具体的にお話しすると、1975年度、広島県のひとりあたり県民所得は東京、大阪についで第3位でした。わたしも、神奈川県や愛知県などの方が広島より上だったと思っていましたが、そうではなかったのです。

東京が156.7万円、大阪が135.6万円、そして広島は120.4万円でした。ちなみに神奈川県は114.3万円、愛知県が119.6万円。全国平均は111.8万円でした。 

また、この年、山本浩二・衣笠祥雄らを主力に古葉監督率いる広島東洋カープが初優勝。さらにこの年には新幹線が広島駅を通るようになりました。このころ、広島市の郊外には次々と新しく団地が開発され、まさに、広島は栄華を誇っていたのです。

その原動力のひとつは、「原発製造をふくむ重厚長大の大手企業」であることは間違いありません。一方で、戦前の「軍都広島」「軍港呉」の延長で広島が「中枢都市」だったことのメリットがあったのも見逃せません。こうしたことを背景に

・「中央の方針」に従っていれば間違いない。

・「原発製造ふくむ重厚長大産業中心に」突き進めば間違いない。

・山を削って土地をどんどんつくって開発すれば、どんどん工場や人が広島にやってくる。

・大手企業さえよければ、正社員たる男性世帯主を通じて子どもの教育や住宅も大丈夫だ。

という「成功モデル」が無意識のレベルまで染み付いているのではないか?

従って、自民党ですら河野太郎さんあたりは積極的な「原発なき脱炭素」に、広島では野党第一党の一部国会議員も後ろ向きの発信をSNSでする状況があるのも、支持はできませんが、事実認識としてはうなずけます。

◆1980年代には賞味期限切れ、1990年代末には破綻していた「成功モデル」

高校廃校で揺れる呉市焼山地区。デパートもあるのに閑散としていた

しかし、広島の政治も行政も経済界もとらわれていた「成功モデル」はとうの昔に賞味期限切れです。ひとりあたり県民所得の全国比較で見てみましょう。

1976年度には、ひとりあたり県民所得は、東京都171.5、大阪府159.1、愛知県136.5、神奈川県134.8、広島県133.1、全国124.6(単位、万円)と神奈川県、愛知県に抜かれてしまいます。

そして、1982年度からは、東京都272.7、大阪府224.2、愛知県217.3、神奈川県209.8、広島県189.0、全国189.8(単位、万円)と広島県は全国平均を下回っています。

円高不況がはじまった1985年度には、東京都320.3、大阪府242.3、愛知県258.8、神奈川県238.4、広島県212.1、全国220.5(単位、万円)と全国平均に引き離されていきます。鉄鋼や造船などが打撃を受けたことが背景にあったとみられます。

広島アジア大会が開催された1994年度には、東京都421.1、大阪府341.6、愛知県356.3、神奈川県336.0、広島県301.9、全国308.6(単位、万円)。

金融恐慌があった翌年の1998年度には、東京都417.5、大阪府337.1、愛知県359.4、神奈川県332.5、広島県301.3、全国309.3(単位、万円)でした。

このように、1990年代には、全国に遅れをとりつつあった広島ですが、工業団地をはじめとする土地開発が、河井案里さんの師匠で「天皇」と恐れられた県議会議長の檜山俊宏さんらが主導して進められます。開発をしても経済が伸びていないので、必然的に余ります。広島県の財政も悪化します。

◆中央の方針いいなりで新自由主義強行も事態好転せず

このため、1999年度以降は県職員の給料カットや総務省の指導にストレートに従った形での「市町村合併・権限移譲」という名前の「丸投げ・サービスカット」が強行されます。

基準が代わりますので一概に以下は比較できませんが参考までにひとりあたり県民所得の数字を挙げます。

わたしが県庁マンになった2000年には、東京都461.9、大阪府318.0、神奈川県343.1、愛知県343.3、広島県313.0、全国312.2(単位、万円)とやや盛り返すものの、小泉純一郎さんによる新自由主義が頂点に達した2005年度には、東京都454.6、大阪府300.1、神奈川県324.6、愛知県349.8、広島県301.3、全国309.3(単位、万円)と引き離されてしまいます。このころ、大阪が全国平均を下回り、閉塞感が橋下徹さん登場を準備したことも推測されます。

東日本大震災があった2011年度には、東京都526.6、神奈川県301.2、愛知県324.2、大阪府295.3、広島県279.9、全国298.5(単位、万円)と広島は取り残されてしまいます。

そして、西日本大水害があった2018年度には、東京都541.5、神奈川県326.8、愛知県372.8、大阪府319.0、広島県310.9、全国331.7(単位、万円)で、東京の「一人勝ち」構造が鮮明になります。他方で新自由主義が広島や大阪を余計に沈没させていることも見てとれます。

西日本大水害2018では、高度成長期に開発された住宅地が多数被害を受け、多くの方が犠牲になられました。さらに、2021年9月末で呉の日本製鉄が60年の歴史に幕を閉じました。

広島市東区や呉市の高台の住宅地では高度成長期に新設された高校の廃校なども問題になっています。いわゆる過疎地ではなく、都市部で広島が一番栄えた時代に郊外の高台の団地にできた高校の廃校が地域をゆさぶっています。呉駅前ではそごうの跡地が長年、利用方法が決まっていません。コロナ災害に輪をかけて暗いニュースが相次いでいます。

◆衆院選・広島県知事選・県議補選・呉市長選挙を前に 広島はどうすべきか?

10月31日、衆院選が執行されます。11月14日には、広島県知事選・県議補選・呉市長選挙が行われます。コロナと気候変動で多発する水害。二つの大きな災害にどう対応するか? これは大きな論点です。だが、 それは、広島がずっと依拠してきた成功モデルからの卒業を行政にも企業にも県民にも迫るものです。

一方で、広島は日本の都市では東京につぐ知名度があります。製造業の技術も健在です。新幹線駅のほぼ前に野球場がある、東京ほど密ではないが、北海道や東北などのように分散しすぎて不便というほどでもない、ほどほどの生活の便利さがあります。

上記のことを踏まえ、以下のことを県選出の国会議員や県知事、市長(の候補者)、経済界や市民運動・労働運動幹部に提言します。

中国電力本店。ここで原発ゼロを訴えて街宣をした候補者はさとうしゅういちだけだった参院選広島再選挙

「原発なき脱炭素」への転換と暮らしの保障を

たしかに、CO2をたくさん出す鉄鋼業や原発製造をふくむいわゆる重厚長大産業中心に、1970年代くらいまでの広島は栄えました。

しかし、気候変動によるとみられる水害に広島は2014年、2018年、2021年と何度もおそわれています。また、広島から90kmの伊方原発は、一般住宅より耐震性がおとり、地震の巣の上にあります。

鉄鋼についていえば、欧州の大手メーカーが炭素を使わない製鉄法に5兆円を投資しています。エネルギーは効率を考えても「大型の電源でつくって配る」従来の方法を改めてクリーンな方法での「分散型電源」にしていくことに広島のものづくりの技術をいかすべきです。

そして、構造転換に際しては新しいエネルギーや技術開発への投資ともに、従来の方法での現場、例えば原発関連で働いている人たちに思い切った補償・生活の保障をセットでするのです。大幅な財政出動が必要ですが、安倍晋三さんが総理時代に「お友達」やアメリカにばらまいたのとくらべたら、よほど前向きです。

大手企業出先より中小企業の本社誘致

今の時代、大手企業の出先を誘致することの費用対効果は、意外と悪いのではないでしょうか? それよりは、面白い中小企業の本社に移転してもらったほうが、税収の面でもプラスです。東京への密集を防ぐ上でも効果があります。呉駅前のそごう跡地のようなケースでは若い人に無料に近い低額で貸し出し、企業や様々な社会活動をしてもらう、などの手があるのではないでしょうか?

思い切った住まいや教育の保障でチャレンジャー誘致を

住宅や教育を「大手企業正社員たるお父さん」を通じて保障してきたのがこれまでのモデルでした。しかし、そこから外れる人には厳しいモデルでもあります。これからは、思い切った住まいの保障や、また教育の無償化などこそ、チャレンジャーを支援することになるのではないでしょうか? 広島県内では尾道市や佐伯区湯来町あたりなどに新しいことをはじめるために東京などから移住する人も少なくありません。そうした流れを後押しする施策や立法を、県知事にも県選出の国会議員にも望みます。

災害多発と人口減少時代に対応し、新自由主義と新規開発にストップ

人口減少時代にこれ以上の新規開発は無駄です。さらに空き家や空きビルを増やすだけです。また開発された場所によっては水害や地震によるリスクが高まるだけです。2021年7月、熱海では「やりくさし(広島弁でやりかけのまま放棄の意)」の開発が災害の原因となりました。広島でも西日本大水害2018では、南区でやりくさしの開発箇所が崩れ、犠牲者が出ました。国の責任で開発規制を全国で行うべきです。

広島をはじめ瀬戸内は昔から「台風はそれてくれる」というのが常識で災害が少ないと県民の多くも思い込んでいました。しかし、いまや、梅雨や夏期は熱くて湿った空気が瀬戸内地方を直撃し、記録的な豪雨が日常茶飯事になっています。「災害が少ない」という従来の常識をベースに進めてきた広島県の新自由主義はゆきづまっています。

これまで広島県が中央いいなりで強行してきた現場公務員の削減はストップし、ふやすべきです。災害救助隊(日本版サンダーバード)の創設とそれによる国際貢献。また、地方の医療や福祉、教育や防災などをになう公務員の補充および、非正規公務員の正規化をすべきです。前知事は大阪に先んじて新自由主義を進めましたが、新自由主義は東京以外にとっては自分の首を締める行為なのです。広島県民は新自由主義を脱却する議員を国会に送るべきです。

政策議論中心の選挙や政治を

広島の選挙や政治は全国と比べても群をぬいて政策不在です。そのことが、河井事件の背景にもありました。

河井夫妻だけでなく、アンチ河井の政治家も責任は重大です。金権の河井か?組織依存のアンチ河井か?それくらいの違いで、政策不在という点では違いはありません。

対抗するべき野党も現時点では、河井批判で手一杯になりがちでジレンマを抱えています。

ガチンコの政策議論を広島でも活性化する努力を政党や政治家はもちろん、マスコミもすべきです。

社会運動・労働運動もバージョンアップを

広島は世界最初の戦争被爆地であり、反核平和運動は強い。しかし、一方で、労働運動はどうでしょうか?

たとえば、他の地域と比べても非正規の問題、ケア労働者の問題などについての取り組みは遅れているのではないか?わたくし、さとうしゅういちは、この点は責任をもって、活動を担っていきたいとおもいます。

中央・東京への過剰な信仰をやめよ

戦前の広島は軍都であり、その延長で戦後は中枢都市としてのアドバンテージをもってきました。他方で、東京から降りてきたものを真面目にやっていれば大丈夫、という思い込みにもつながっているように思えます。必死で独自のものを考えずに済んだのは恵まれていた証拠です。しかし、変化が大きな時代にはそれが災いします。中央・東京への過剰な信仰はやめましょう。

いままでの「常識」を疑おう

いままでの常識は、たとえば、「山を削って海を埋め立てたり田んぼをつぶしたりして工場や宅地にする」のが進歩です。しかし、災害多発で人口減少時代、食料の入手が困難な時代には、逆に工場が潰れて食料生産工場や農地になるということもあり得ます。いままでと正反対が常識になることも考えて政策立案を!

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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写真1枚目は「重厚長大産業が立ち並ぶ呉市沿岸部」

写真2枚目は「高校廃校で揺れる呉市焼山地区。デパートもあるのに閑散としていた。」

写真3枚目は「中国電力本店。ここで原発ゼロを訴えて街宣をした候補者はさとうしゅういちだけだった参院選広島再選挙」