学園祭はその大学の学風や個性を知るのによい機会だ。模擬店で軽食を売る光景はどこの大学でも見られるが、時に目を疑うような光景に出くわすことがある。

私が勤務していた当時、その大学にはなんと年に2回学園祭があり、業界では「知る人ぞ知る」存在であった。学園祭期間中、大学内の統治は実質的に「学園祭実行委員会」に委ねられ、私たち職員は万が一の事故や怪我、事件備えて事務室で待機していた。「待機」といえば聞こえはいいが、1名飲酒しない職員を確保して、その他の職員は昼間から学生ともども酒を食らっていた。

とはいえ、学園祭の前には事故や近隣住民と問題を起こさない為に「学園祭実行委員会」と我々大学側でかなり細密な打ち合わせを行っていた。進行の全体像は毎年の蓄積があるので双方さして異論はないが、一番の焦点になったのがメインステージで行われるイベントの内容だ。学生側はそれまで行われた企画を超えようと、さらにインパクトのある(危険であったり、ワイセツギリギリであったり)企画を準備してくる。大学としては物理的に明らかに危険が予知されるものは許可するわけにはいかないので、押し問答となる。

実際それまで学園祭で前例のなかった、3メートル超の高さから、じゃんけんで負けた方が飛び下りる、という企画を事前会議で提案された際、「この高さから飛び降りると、地面はコンクリートだから骨折の可能性がある。下にマットを2重に敷いて2メートルから君たちが実験して、危険がなければ」との条件を付けて認めたが、学生どもはその検証実験を行わなかった為に、じゃんけん敗戦者が飛び降りると大声をあげて痛みを訴える者が続出。中には脛から骨が飛び出している者まで出る始末。当日私は運悪く「飲酒禁止」の当番にあたっていたので、3人の学生を次々と病院に搬送する羽目となる。

模擬店や教室を利用しての企画ものは事前申込制で「学園祭実行委員会」が全て把握していたが、その枠を無視して多数俄作りの建物が出現する。学生の腕と工夫は見上げたものだった。学内的にも「規則違反」なのだが、建設現場で使う足場と発電機、さらには数十種類の洋酒を揃えた本格的なバー。周りを囲んで男女誰でもが順番に利用できるように作られた「五右衛門風呂」。そして極めつけは100人以上は収容できようかという複雑な建築様式で?「規則違反」をもろともせずに立てられた「SM小屋」だ。

◆「アバンギャルド」といえば、そうともいえる

学生が「SMショー」をゲリラ的に行うという噂は事前に入っていた。当日私は幸い飲酒禁止の当番ではなかったので、後にその大学で学長を勤めることになる教員の責任者と一緒に昼からいい気分になっていた。

「○○さん(教員の名前)、学生がSMショーやりよるって聞いてはります」
「知ってるで、うちの専攻の学生やわ。その子はMで女王様を東京から呼んでるらしいで」
「SMって、まさか女の子が裸になって、本当にやるんじゃないですよね」
「いや、やるみたいやで」
「どうします?フェミニズムの教員から後でたたかれたら厄介ですよ。それに裸といっても一体どこまで・・・」
「うん。見に行かなあかんな!職務として」
「ただのスケベ職員やて、いわれへんかなー」
「いや、芸術か、単なるワイセツかを見極めるのは極めて重大な大学の任務や」
「そ、そうですね」

というわけで「SMショー」が行われる「芝居小屋」に向かった。入り口には学生が列をなし、我々も入場料を徴収される。確か1000円だった。「職務権限」で押し切りはいることは無論可能なのだが、列をなしている学生の手前、またこれから始まる「ショー」が一体どんなものなのかという興味と不安で自然に入場料を支払ってしまう。

「先生、来てくれはったん!」と赤い皮の衣装を身に着けた女子学生がこちらに寄ってきた。同行している教員の教え子がこの子らしい。身に着けている皮の衣装はかなりきわどいが、幼い顔をしている。

「観客できたんちゃうで、? 勘違いせんといてや!」
「嘘や!先生私の喘ぐ姿見に着たくせに」
「いや、大学としての責任があるからな。何があるか見届けなならんし」

こんなすっ飛んだ会話、日本の大学ではもう100%ないだろう。牧歌的といえば牧歌的。アバンギャルドといえばそうも言える光景だった。

狭い舞台の上では小さなメガホンを握って、これまた怪しい風体の男子学生が素人とは思えない慣れた節回しで観客を誘導し、舞台開始までの間をつなぐ。そしていよいよ「女王様」の登場だ。170センチくらいある20代後半の女性が黒いムチを持って現れた。

やわらムチを地面に叩き付ける。「ビシッ!」
思いがけず大きな音に観客から「おおお」と声が上がる。
先ほどの赤い皮を着た学生が登場する。
あれ! すでに上半身は服を着ていない!
床に寝ころぶと女王様が彼女の腹部にムチを打ち付ける。
「あ、ああ」

「○○さん、これええんやろうか・・」
私は本来の職務を思い出し、教員に語り掛ける。
「今のところ、芸術や。問題あらへん」
「どこで、区別すんのよ。芸術とワイセツと」
「ワイセツが悪ではないで」
「え!なら何しても黙認するん?」
「黙認ちゃうがな、見ながら確認するんや」

このおっさん、酔ってるのか正気なのかわからない。
舞台の上のMの子は既に全裸だ。女王様の道具がムチから蝋燭に代わっている。
いかがわしい語り口の小さいメガホンが絶妙な合いの手と解説を入れる。
こいつら大学来ていったい何やっとんじゃ!と思いながらもその完成度に見入る自分が優ってしまう。

最後にMの子が悦楽に果て、ショーは終わった。
「冷や冷やもんでしたね」
「あそこまでやるとは、ワシ思わんかった」
「あれ、芸術ですか?ワイセツですか?」
「うーん・・・」

芝居小屋出る長蛇の列に並んでいるとまた赤い服をまとった学生が寄ってきた。
「先生、どうやった?私今日はホンマにすごかったでしょ」
「うんうん、よかったで」

何が「よかった」のか。芸術だったのか、ワイセツだったのか。
学園祭後も学内で特に「SMショー」が問題にされることはなかった。
現場にいた教職員はたぶん我々2人だけだったのだろう。と安心していたら、
「田所さん!学園祭でSMショーやってたん、知ってはります」と学生がやってきた。
「そんなん知らんけど」ととぼけると、
「フライデーに出てますよ。ほら」
なんと、事前にフライデーの記者が「学園祭でSMショー」を察知して、わざわざ東京から取材に来ていたのだ!

扱い自体は小さいが大学名も入ってるし、写真はあらわな学生の裸体を載せている。
「知らんかったわー。これ知ってたら早く教えてくれな」
「僕も知らんかったんです。後で噂聞いて。見に行きたかったなー」
「あほ。来年からこんなん禁止じゃ」

ヒヤヒヤモノであった。

(田所敏夫)

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