注目される裁判で抽選券を求めて並ぶアルバイトは、「並び屋」と呼ばれ、5年ほど前までは週刊誌やテレビ局が「当たらなくても5000円」は約束されていた。当たれば1万円~1万5000円が相場。オウム真理教の代表だった麻原彰晃被告の初公判があった96年4月には、48席の傍聴席に1万2292人が殺到し、当選した抽選者には「10万円」の報酬が出た。

だがそれはもう過去の話で、このところ価格破壊が起きている。価格の下落はメディアの不況と連動しているといえるだろう。雑誌は部数を落とし、テレビはスポンサーが離れて制作費が激減している。

◆高知東生裁判でも『最小限対応』のテレビ局

8月31日、元俳優の高知東生(本名・大崎丈二)被告と、知人の飲食店従業員の五十川敦子被告の初公判が東京地裁で行われた。これに先立ち、傍聴希望者が18席の一般傍聴席を求めて1198人が並び、約66倍もの抽選となった。抽選場所となった中庭では、無言でガッツポーズをする女性が抽選券を握りしめて裁判所に入っていく。

「番号がありました」とテレビ局クルーが数人待つ場所に中年男性が駆け込む。

男性に話を聞くと
「腕にタグがバチッと貼られる清原和博さんのときみたいな抽選だと人に譲れないのですが、今回は抽選券は紙なのでテレビ局のスタッフに売れるのです。ギャラは並ぶだけで1000円、当たれば7000円です。週刊誌はもっと渋いですよ。並んで800円、当たれば5000円です。ネット媒体は僕はやったことがないですが、たぶん当たってもあたらなくても2000円くらいじゃないでしょうか」とのこと。

それにしても、暑い中、当選番号の発表を待っていると、戦後に食料の配給を待っているか。もしくは大学受験時の合格発表のようであり、情けなくなってくる。写真を撮影しようとすると「裁判所の敷地内では撮影しないでください」と警備員の怒号が飛ぶ。

やってきた媒体はテレビ、新聞で11社、記者は40名前後。

「今回は高知と五十川だけが来ることがわかっていたので、スタッフは減らしています。いわゆる『最小限対応』。清原とかASKAに比べればそんなにマークすべき相手じゃないってことですよ。高島礼子が来れば、抽選での『並び屋』も今日の倍くらいはつくかもしれませんけどね」(テレビ局スタッフ)

◆裁判自体に全く無関心な「並び屋」たちの増加

ネットニュースの場合は、並んでも相場は「500円+交通費」で、当たっても「特別報酬」が出るケースは少ない。

こうして「注目される裁判の抽選の並びバイト」の価格は、破壊されるいっぽうで、在日の中国人や韓国人、ベトナム人、インド人たちも進出。本来は日本人しか傍聴できないが、別にパスポートがチェックされるわけじゃない。在日外国人で大学生も多く来ている。

「だって並べばいいわけだから、健康で時間を守れば成り立つバイトですよ。ただし、何時から抽選が始まるかわからないので、時間が自由に使える人たちの仕事にちがいありませんが」(並んでいた中国人男性)

そして裁判そのものに「並び屋」たちはまったく興味を示さないのも特徴。
抽選で外れた20代男性は「高知ってテレビに出ていたのですか? 見たことがないですね。まあ有名人が犯罪を犯せば僕らは金になるから被告さまさまですけどね」と言う。

有名人が逮捕されて歓喜する職業、汝の名は「裁判抽選の並び屋」。しかしその職業すらも、廉価で外国人に奪われようとしている。

(伊東北斗)

外部との交流を厳しく制限され、獄中生活の実相が世間にほとんど知られていない死刑囚たち。その中には、実際には無実の者も少なくない。冤罪死刑囚8人が冤死の淵で書き綴った貴重な文書を紹介する。8人目は、山梨キャンプ場殺人事件の阿佐吉廣氏(67)。

阿佐氏が綴った手記の原本計16枚

◆「虚偽証言だけで死刑が確定」

〈今、私は、山梨キャンプ場殺人事件で共犯と呼ばれる、元社員達の、自分の罪を軽くしたい、あるいは逃がれたいと思う虚偽証言だけで死刑が確定いたしました。他に証拠は何ひとつありません。〉

これは、今年2月に発売された私の編著「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(鹿砦社)に、阿佐氏が寄稿した手記の一節だ。

事件が発覚したのは03年の秋だった。山梨県警がタレコミ情報をもとに都留市のキャンプ場で、3人の遺体が埋められているのを発見。3人は阿佐氏が営む会社「朝日建設」の元従業員だった。阿佐氏は、部下らと共に殺人などの罪に問われ、「自分は無関係」と無実を訴えたが、12年に最高裁で死刑が確定。現在は死刑囚として東京拘置所に収容されつつ、甲府地裁に再審請求中である。

阿佐氏が収容されている東京拘置所

◆冤罪を疑う声が多い理由

専門筋の間では、阿佐氏の冤罪を疑う声は非常に多いのだが、その最大の理由は、裁判で共犯者とされる元部下がこんな証言をしたことである。

「取り調べや裁判の最初の頃には、阿佐社長が被害者らを殺し、私たちも手伝ったと証言していましたが、あれは嘘です。本当は、阿佐社長は殺害の現場にいなかったのです」

この元部下によると、殺害行為を実行したのは、事件発覚時にはすでに死去していた「副社長格のY」だった。Yは被害者らとトラブルになり、首を絞めて殺害したが、その時に元部下も被害者の足を押さえるなどして手伝った。しかし警察の取り調べでは、阿佐氏が主犯だというストーリーを押しつけられたという。

「私は朝日建設を辞める際、阿佐社長に見捨てられたように感じて恨んでいたので、阿佐社長が被害者を殺害したとみていた警察に、話を合わせてしまったのです。でも、自分の嘘で阿佐社長が死刑にされたことに耐えられなくなり、本当のことを話したのです」(同)

一方、東京拘置所で収容中の阿佐氏は、前掲の手記で、自分を貶めるウソの供述をした共犯者たちへの思いも次のように綴っている。

〈彼らの虚偽「供述」や虚偽「証言」は決して彼らが意図して言ったものでは無く、取調官に誘導され、強要されて出来上ったものです。その冤罪の被害者は私だけでなく、彼らも被害者なのです。私は、だからこそ一日も早く、真実を明らかにして、楽な気持にさせてやりたいとの思いで一杯なのです。〉

この文章からは、凶悪殺人犯として死刑判決を受けた阿佐氏が本来、暖かい人柄の人物であることが窺える。

阿佐氏の再審請求が審理されている甲府地裁

◆一目でいい、母に会って・・・

徳島県出身の阿佐氏には、裁判中から遠路はるばる面会に来てくれていた母親がいる。80代後半になり、現在は認知症に陥っているというが、前掲の手記には、その母親への思いも綴られている。

〈私の大切な、たった一人の母も、ときどきは正気に戻る時には、私に会いたいと切望していることでしょう。私も一目でいい、母に会ってこの胸、一杯にある感謝の言葉を伝えたいと思っております。〉

人は極限的な状況に置かれた時、何より心の拠り所にするのはやはり肉親ではないか。阿佐氏の手記はそんな感想を抱かせる。前掲書に掲載された手記全文には、母との思い出や阿佐氏の半生、事件の経緯などが克明に綴られている。
 
【冤死】
1 動詞 ぬれぎぬを着せられて死ぬ。不当な仕打ちを受けて死ぬ。
2 動詞+結果補語 ひどいぬれぎぬを着せる、ひどい仕打ちをする。
白水社中国語辞典より)

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

前回は電通の女子新入社員自殺事件について書いたが、10月14日、この事件を契機として東京労働局が電通に対し、抜き打ちの強制調査に乗り出した。本社だけでなく大阪や名古屋の支社に対しても一斉に実施しており、これは異例のことだ。朝日新聞は14日夕刊、15日朝刊共に1面で報道。15日の朝刊では2面も全部割いて詳報し、労働局は刑事責任を視野に入れていると踏み込んだ記事を書いている。

また、今回の調査にはブラック企業を専門に調査する東京労働局の「かとく」(過重労働撲滅特別対策班)が入っていることから、東京労働局や厚生労働省の本気度がうかがえる。


◎[参考動画]電通に東京労働局が立ち入り調査 新入社員の過労自殺受け(共同通信社2016年10月13日)

NHK2016年10月14日

毎日新聞2016年10月14日

◆電通のイメージが地に堕ちた

今回の抜き打ち調査には、正直少々驚いた。電通をはじめとする広告代理店業界の残業依存体質は昔からよく知られており、実際に自殺者も出ている状態が長い間放置されてきたからだ。

前回紹介した女子新入社員の労災認定と、その一連の報道や世論の動向を非常に的確に捉えた動きであろうし、業界トップ企業を狙い打ちにした「一罰百戒」としての意味もあると思う。そして今回の件で、揺らいでいた電通のイメージはすっかり地に堕ちた。圧倒的な業界首位であり、いわゆる「勝ち組」でもある有名企業で、短期間でここまでイメージが悪化した企業も珍しいのではないか。同社の手がけたCMやプロモーションを毎日紹介しているツイッターアカウント「電通報」は10日以降更新されておらず、「コミュニケーションのプロ」を自認する同社でさえ、もはや何をどう発信していいのやら苦悩している様子がうかがえる。

ファイナンシャル・タイムズ2016年10月14日

◆これでテレビも報道せざるをえなくなる

ここまでくると、「電通タブー」を貫いて来たメディア各社もさすがに報道せざるを得なくなるのだろうか。9月末の不正請求事件、7日の新入社員自殺、そして今回の強制調査と電通の名は一ヶ月の間に3度も世を騒がせており、これでも報道しないとなると、逆に不自然が際立ってくる。ここでいう「報道」とは、第一報の後の追跡報道、独自取材に基づく詳細報道のことだ。9月の不正請求事件もそうだったが、電通に関する報道は、ほぼ最初の「第一報」だけで終わってしまう場合が非常に多い。記者会見などは報道するが、その後の詳細な掘り下げ、追跡調査が行われないのだ。

特に世論に影響力の強いテレビ各局でその傾向が強く、不正請求事件や新入社員自殺事件は第一報を除いて殆ど報道されていない。現在ワイドショーは必ずと言ってよいほど、どの局も東京都の豊洲や五輪施設問題を遡上に挙げ、コメンテーターや専門家が都の対応を批判しているが、普通なら話題になりそうな女子新入社員の自殺事件でさえ、きちんと時間をかけて報道したテレビ番組はない。この一週間でのネット上での過熱ぶりに比べれば、テレビ局の「完黙」ぶりは明らかに異常である。

だが今回は一部上場で広告業界におけるトップ企業への「強制調査」は異例中の異例だから、さすがにこれは報道せざるを得ないのではないか。とはいえ、ワイドショーのコメンテーターの大半は何らかの形で電通のお世話になっているから、厳しいコメントが出しにくい。これまで電通を批判的に報道したことなど無く、さらにはそういう視点で話が出来る関係者や有識者を登場させたことがないのだから、そうした点でも各局は番組制作に頭を悩ませているだろう。

 

週刊朝日2016年10月28日号

◆注目記事は「週刊朝日」

雑誌関連も動きが鈍い。先週発売の週刊誌で女子社員自殺をきちんと報じたのは週刊文春とフライデーのみだった。過労死認定の記者会見が先週7日だったので月曜・火曜発売の雑誌は締め切りが厳しかったかもしれないが、それにしても少ない。自殺した女性は学生時代に週刊朝日のレポーターを務めていたこともあり、10月18日発売の週刊朝日(10月28日号)には「電通新入社員自殺が労災認定 本誌で活躍した24歳の無念」という記事が掲載される予定で、大いに注目している。(※本稿は10月16日執筆)

さてこうなると、私に出演依頼をして直前にキャンセルしてきた東京MXテレビの「電通に関する報道は全てNG」という社内コードがどうなるのかも見物だ。ここまできてもなお電通関連の報道をやらないのなら、もはや放送免許を返上すべきだろう。

◆複雑なまなざしの博報堂

それにしても、一連の騒ぎをもっとも複雑なまなざしで見ているのが、電通のライバルとされる博報堂だろう。一般的には、ライバル社の失態は歓迎すべきだと思われるが、こと労働時間にかけては博報堂もいつ調査を受けてもおかしくない状況であり、決して対岸の火事ではないからだ。仮にスポンサー各社が電通との取引を削減したいと思っても、すぐに全て取って代われるほどのマンパワーが足りない。電通から逃げる仕事は不正請求が発覚した高度で煩雑なデジタル領域の業務だから、それらをこなすにはそれなりの体制が必要だ。そこを無視してやみくもに受注すれば、それこそ職場が今以上の残業地獄となって、次は博報堂が労働局の標的となる可能性が高まる。電通が未曾有の不祥事で窮地になっても、その屋台骨を揺るがすほど売り上げを奪えないのが現実なのだ。

▼本間龍(ほんま りゅう)
1962年生まれ。著述家。博報堂で約18年間営業を担当し2006年に退職。著書に『原発プロパガンダ』(岩波新書2016年)『原発広告』(亜紀書房2013年)『電通と原発報道』(亜紀書房2012年)など。2015年2月より鹿砦社の脱原発雑誌『NO NUKES voice』にて「原発プロパガンダとは何か?」を連載中。

10月16日、大阪は夏の暑さが戻ったようだった。最高気温は28度。

「僕みたいな市井の人間が難しいことは解らないけど」と何度も、何度も繰り返し断った上で、内田さんは「何となく感じる気持ち悪さ」、「普通に話せるはずなのに、そうはいっていない」状況への違和感を終始紳士的に語って下さった。

内田勘太郎さん(2016年10月16日大阪にて)

◆屈指のギタリスト内田勘太郎さんと大阪で会う

内田さんとは、憂歌団のギタリスト内田勘太郎さんのことだ。次回発行『NO NUKES voice』10号のインタビューに10月16日大阪市内で応じて頂けた。憂歌団を知っている若者は少ないかも知れないが、70年代から80年代関西で(いや関西だけでなく、全国で)音楽を聴いていた人ならば知らない人はいないだろう。内田さんは世界にも名を知られたギターリストだ。

これが日本の、しかも高校を出たばかりの若者が作った曲か、と仰天半分で彼らの楽曲を聞いた記憶がある。憂歌団の楽曲は40代、いや50代くらいの齢を重ねていなければ奏でるのが不相応にも思える、ある種「老成」したかに聞こえるブルースの珠玉の数々だ。でも私より年上の彼らが実際に、楽曲を織りなし、カルピスの瓶をはめた内田さんの左手はギターが、「こうも語るんだよ」と言わんばかりに独自の味わいを70年代から奏でていた。私は観客席から内田さんの演奏を何度も聴いたことがあるけれども、直接まとまった時間お話を伺うことができる機会が訪れるとは、幸運も極まれりである。

内田さんは1995年から沖縄に住んでいる。2011年3月、初めてのお子さんをもうけた。だから「2011年3月は大変な月だった」と語っていた。いつも頭の中で幾通りもの位相が織りなされて、片意地を張るわけではないけれどもモノを深く考えている人、優しい人だなあと感じた。

10月2日熊本で行われた『琉球の風』に常連ミュージシャンとして参加していた内田さんが、打ち上げの席で(酔った勢いのためか)、「『NO NUKES voice』いいですね。何でも協力しますよ!」と鹿砦社社長、松岡に声をかけて頂いたのをきっかけにこの日インタビューは実現した。詳しい内容は『NO NUKES voice』次号でお伝えする予定なので乞うご期待!


◎[参考動画]内田勘太郎「一陣の風」(2014年「DES’E MY BLUES」より)内田勘太郎さんオフィシャルサイト 

米山隆一=次期新潟県知事(NHK2016年10月16日付記事)

◆同じ日の夜、新潟県知事選で米山隆一氏当選という「一陣の風」

内田さんのインタビューを終えて帰宅後、夜は新潟県知事選の開票が気になっていた。国政選挙や知事選でも最近大手マスコミや、通信社の事前予測は与党候補有利の報道が当たり前のようになり、信用できない。また投票行動にもその影響は及んでいるだろう。しかし、新潟は先の参議院選挙で1人区ながら、野党統一候補の森裕子がギリギリ当選している。

米山隆一さん公式ブログより

保守大国、なぜか最近ちょっとした「田中角栄回顧ブーム」もあり、選挙の行方は自公が推す森民夫が有利に思われた。ところがパソコンの画面を眺めていると、予想外に早く米山隆一に「当確」が出た。

現職泉田知事は原発に関して、全国の知事の中で最も明確に「再稼働反対」を打ち出し、それが理由で元々自民党の一部も推していたのにもかかわらず、地元経済界や議会から大いに足を引っ張られていた。足を引っ張られていたなどという表現では軽すぎるだろう。「私は絶対に自殺はしませんから、遺書が残っていても自殺ではないから必ず調べてださい」とまで発言していた。

米山隆一さん公式ブログより

5月、別件の取材で新潟に出向いたとき、泉田知事はほかの地域から評価されているのと真反対に、地元では相当な窮地に追い込まれていることを人々から聞かされていた。地元紙、「新潟日報」の泉田氏攻撃が殊に激烈だと聞いた。だから泉田氏が「出馬をしない」と表明した時にも「ああ、そこまでシビアだったんだ」と残念ながらもその理由の一端は理解できた。

一方、米山候補は出馬への準備時間も短く、繰り返すがイメージとしては「保守大国」新潟でどこまで戦えるのか、当選は厳しいのではないか、と危惧していた。しかし、米山候補は「原発再稼働を止める」ことを公約とし、新潟県内に留まらず、全国の反原発陣営の応援も取り付けた。

米山隆一さん公式ブログより

反自公統一候補であると同時に「反原発」象徴候補として全国からの支援を取り付けることに成功した。広瀬隆氏(作家)、鎌仲ひとみ氏(映画監督)、佐高信氏(週刊金曜日編集委員)、山本太郎氏(参議院議員)らが応援しているのはなるほど、と頷けたが、なんと「政治は大嫌いです」と常々発言してきた小出裕章(元京大原子炉実験所助教)氏までが応援のメッセージを寄せていた。

反自公の野党統一候補が「原発再稼働反対」を公約に知事に当選した意味は大きい。新潟県民は中越地震を忘れてはいなかった。黒い煙を上げた柏崎刈羽原発事故を忘れていなかったのだろう。

もし、インタビューの後に内田さんと飲んでいればきっとこの話題で盛り上がったに違いない。


◎[参考動画]新潟県知事選 再稼働に慎重 米山隆一氏が初当選(ANN=テレビ朝日2016年10月17日)


◎[参考動画]新潟県知事選立候補者 米山隆一氏インタビュー(kenohcom2016年10月14日公開)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

国でも人でも「仲が良い」ことにこしたことはない。お近く同志であれば尚更のことだ。日本政府はかつての「仮想敵国」であったロシアと何故か最近やけに仲が良さそうだ。

12月15日に山口県長門市で行われる安倍とプーチンの首脳会談を前に10月7日「1兆円超の対露経済協力」が発表された。この首脳会談で、安倍は歴史的な「日ロ平和条約」締結を結実させ、一気に歴史を残す名宰相に上り詰めようとの目論見があるらしい。外務省ロシア課は大わらわで交渉準備にあたっているそうだ。

◆借金大国が気前よく他国に「経済協力」する理由

平和条約締結に異論はない。しかし素朴な疑問だが、借金大国日本は、気前よく他国に「経済協力」をばら撒いていられる場合なのだろうか。安倍は外遊に出ては行く先々で勝手に気前よく「経済支援」を約束して帰ってくる。9月23日にはキューバを訪れロシア支援に比較すれば少額ではあるが14億円の無償資金協力を約束している。

高度成長期、日本のアジアを中心とする国々へのODAは、一見当該国への純然たる資金援助に見せかけて、実は現地で日本の総合商社やゼネコンがプロジェクトを請け負い、資金は再び日本に還流してそれが与党政治家への献金に繋がるという、誠に汚い還流の構造があった。

ロシアへの経済協力にしても伊藤忠をはじめとする総合商社が石油の共同採掘にあたることが報じられており、単なる「援助」というわけではなく、それなりの先行投資的な読みがあるのだろう。しかし対ロシアでは経済と無関係に未解決の問題がある。ご存知「北方領土」問題だ。国後・歯舞・色丹・択捉の4島を占有するロシアに対して日本政府はロシア(ソ連時代)から返還交渉を呼びかけてきたが、全く進展を見ていない。

◆「4島一括返還」の可能性などありえない現状

領土問題に私が口を突っ込むのはあまり気が進まないのだけれども、こと北方領土に関しては、大日本帝国が第二次世界大戦の終結を誤り、いたずらに引き伸ばしたために、生じたことは間違いない。仮に1944年に降伏していればロシアの対日参戦はなかったのである。外交判断能力を完全に失っていた当時の日本は「日ソ不可侵条約」にすがりつき、連合国との講和の橋渡しを暗にソ連に依頼するが一蹴され、欧州でドイツを叩き終えたソ連軍が大挙して当時の満州国境に集結しているのを知りながら、本土決戦(米国を中心とする連合国に上陸されても迎撃する)を本気で敢行するつもりであり、そのために首都を長野県に移す準備に取り掛かり、各家庭には竹槍が2本以上準備されていたという。そこへのソ連参戦だった。

正気の沙汰ではないが、一度勢いがつくと、理性など吹っ飛んでしまうのがこの国の重ねていた歴史であり、その悪癖は今日も抜けることがない。ことさら対立せよなどというつもりは微塵もない。しかしいくらなんでも「1兆円」の経済支援とは破格すぎはしないだろうか。それが北方領土返還のために何らかの呼び水になるのではないか、との期待が政権や外務省にはあるのだろうが、帝政ロシア時代からソ連を経て現在のロシアに至る歴史と日本の関係を振り返れば、「4島一括返還」の可能性などほとんどありえないことは確実だ。

◆エリツィンの時代とは違うプーチンのロシア

過去それが可能だった時代はあった。ソ連崩壊後の混乱期、「独立国家共同体」と呼ばれていた時期であれば外交攻勢により返還交渉のハードルは現在よりはるかに低かっただろう。当時は経済マフィアが国内で利権の奪い合いにしのぎを削り、KGBの職を解かれた人間が民間企業に入り込み相当荒っぽい商売が目に見える形で横行していた。ボリス・エリツィンがかろうじて剛腕で群雄を抑えていたけれども、国内の混乱は極まり切っていた。あの頃日本が「1兆円援助」をちらつかせれば「4島一括返還」は可能だったかもいれない。

しかし、不思議なことに当時の外務省はそのようなアクションを起こしていない。やがてロシアとして復活する帝国はソ連時代に比すれば外交的な影響は低下したかもしれないが、驚くべき短期間で国内の新体制整備を終え、今ではかつてのボルシェビキなどなかったように装いを変えている。しかし、ロシアの国歌として一時新しい曲が使われたものの、歌詞が変更されてはいるがソ連時代の曲に戻っている通り、この国の伝統的な外交やものの考え方は再び落ち着きを取り戻し、マスメディアが報道する以上に力を蓄えてきている。

そのロシアに「1兆円」の経済支援をするから平和条約を締結して北方領土を返してくれ、と頼んでも「うん」とは言わないだろう。かつては禁句だった「2島返還」がオプションとして堂々と語られるようになったが、それすら可能性は非常に低いと私は考えている。平和条約締結は可能だろう。だがその内容は初期の前提から大幅に後退し、「北方領土」返還の前提は骨抜きにされるか、大幅な変更を余儀なくされるに違いない。

◆日露首脳の格差会談

自身もKGB出身で柔道の有段者であるプーチンと、成蹊学園の小学校から大学までエレベーター式に上がった安倍では残念ながら頭の中身も回転も、肉体的な強靭さも比較にならない。「私は行政府の長だ」と言って憚らない総理大臣安倍とは対照的に、プーチンは自らの手でかなり危うい仕事を現場で経験している。安倍は神戸製鋼から政界に進んでも、本質的に「修羅場」をくぐったことのない人間だ。格が違う。

今回の首脳会談が行われる山口県長門市には安倍の本籍が置かれている。故郷に錦を飾りたい安倍の思惑はどこまで通用するだろうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

坂口杏里のセクシー女優としてのデビュー作「芸能人ANRI What a day!!」が10月1日に発売され、ネット上で早速話題となっている。ところがこの作品は「使えないシーン」のオンパレードで編集に苦慮したようだ。そして、その「捨てたシーン」については箝口令が敷かれている。

「芸能人ANRI What a day!!」

「ヒップが荒れている、ヘアが剛毛でもじゃもじゃだ、とネットではさんざん叩かれているますが、実はあれでも『修正を重ねたほう』だというのが業界でもっぱら噂です」(AVライター)

というのは、「モザイクを入れるときに多少、肌の艶などがグラフィックで加工できるのです。ところが限界まで修正を重ねても、あの肌荒れだけは修正できなかったのです」(同)

さらに「あまりにも感じすぎてしまい、腰がまきつくように男優の肉棒をむさぼるシーンがあるのですが『デビュー作としては恥じらいがなさすぎる』としてカットされたようです。ほか、慣れないシーンだったのか、フェラチオの場面は男優に教わってもどうしてもじゅるじゅるとクリームソーダをストローで飲むような感じで口をすぼめてしまいNGを連発しましたから。そうしたシーンがあったことを隠したいのは、当たり前の話です」(撮影関係者)

そんなわけで「本人が緊張していて、キスや脱ぐ場面、そして挿入の場面などは力が入ってしまい。通常の倍はシュート(撮影)した」(同)という同作品は『初速の売れ行きは好調で、平均3000作しか売れないこの業界で、予約は3万入ったとも。小向美奈子がデビューした2011年のときよりも数字はいいはず』(流通関係者)という不思議さ。

「ちなみに、撮影素材マスターは、流出などしないように数人しか持っていない。もし流出しても出所が割れるようになっている」ともいうから、もはやそれらは永遠にお蔵入りだ。

早くも2作目が撮り終えているというが「通常だと乱交もの→コスプレもの→旅行もの→ライトなSM→ドラマ仕立ての監禁もの」とジャンルがエスカレートしていくのがセクシー女優の辿る道。

「杏里本人はタレントに戻り〝バラエティ番組にも対応できるセクシー女優〟として『有吉反省会』(日本テレビ)に出たいと周囲に話をしているようですが、『借金でセクシー女優になったと報道されていてイメージはよくない』とバラエティ系演出関係者は見ている。〝堅気タレントとしての復帰〟はかなり難しいでしょう」(同)

くしくも、セクシー女優が所属事務所を相手どって「出演を強要された」と裁判を起こすなどして業界そのもののモラルが問われている。セクシー系作品への風当たりが強まる中、業界では「イメージアップの星」として起用される雰囲気も漂う。
「母親の坂口良子を思うと見れないという層が四十歳すぎに多く、よほど工夫しないと2作目以降は売れないと思います」(同)

かくして、坂口の作品がレンタルショップに並びメーカーは荒稼ぎ。だが2作目以降は「覚悟した絡みじゃないとファンはついてこないはず。いつかタレントに戻るというような中途半端なセックスに満足するほどAVファンは甘くない」(同)

「どうせなら、またタレントに戻ってほしい」というファンの願いをぶっちぎったほうが、坂口は成功する。

「最悪の場合は、小向美奈子が逮捕後、メーカーがそうしたように、デビュー作の『未公開シーン』を将来売るような事態は避けたい。そのためにはAVでも成功するべきだと思う」という声もある。果たして「床上手」な杏里をファンは楽しめるのだろうか。

(伊東北斗)

STRUGGLEジム代表の鈴木秀明氏と並ぶ中向永昌。師匠と弟子のツーショット

◎M-ONE 2016.3 rd
9月25日(日)ディファ有明16:00~21:25
主催:ウィラサクレック・フェアテックス
認定:WPMF日本支局

WPMF傘下に於いて、中向永昌、潘隆成が日本の新チャンピオン。Little Tigerが世界王座返り咲きました。

こちらもWPMF傘下で、日本で2階級制覇、世界でも2階級制覇、タイ国ルンピニー王座は奪取成らずも2度挑戦経験を持つ一戸総太が公式試合の後、引退式。看板選手としてウィラサクレックジムを支えてきた10年間の現役生活に終止符を打ちました。戦績46戦29勝(15KO)10敗7分

主要7試合

◆WPMF日本スーパーフェザー級王座決定戦 5回戦

3位.中向永昌(STRUGGLE/58.9kg)
VS
5位.津橋雅祥(エス/58.97kg)

勝者:中向永昌 / 判定3-0 / 主審 チャンデー・ソー・パランタレー
副審 ソンマイ 50-48. ナルンチョン 50-48. 北尻 49-48

離れた戦いから組み合う距離へ、中盤、中向永昌がヒジ打ち、ヒザ蹴りがやや優り、後半は組んでばかりが多くなるも判定で中向が勝利を掴み、第4代チャンピオン。

離れた攻防は互角の中での中向永昌のミドルキック

潘隆成が左ハイキックで突破口を開き、勝利に導く

潘隆成が第5代WPMF日本スーパーライト級チャンピオン

◆WPMF日本スーパーライト級王座決定戦 5回戦

6位.潘隆成(クロスポイント吉祥寺/63.3kg)
VS
4位.NOBU BRAVERY(BRAVERY/63.35kg)

勝者:潘隆成 / 判定3-0 / 主審 テーチャカリン・チューワタナ
副審 ソンマイ 49-48. チャンデー 50-47. 北尻 49-48

パンチとローキックで探り合いから、潘隆成がハイキックをヒットさせ、両者手数が増える流れも後半は疲れが出たような動きで判定までもつれ込み、潘隆成が第5代チャンピオン。

◆60.0kg契約3回戦(一戸総太引退試合)  

ポートーン・ソー・ロットリン(タイ/60.0kg)
VS
一戸総太(前WPMF世界Fe級C/WSR・F三ノ輪/59.5kg)

勝者:一戸総太 / 判定0-3 / 主審 ナルンチョン・ギャットニワット
副審 ソンマイ 28-29. チャンデー 28-30. テーチャカリン 28-29

接近戦で得意のパンチ、ヒジを強くヒットさせる公式戦を終えての引退式に臨んだ一戸総太。

器用さで優り離れてハイキック、接近戦でヒジ打ち、何でもこなせた一戸総太

◆WPMF女子世界ピン級(100LBS)王座決定戦 5回戦(2分制)

Little Tiger(元Champ/WSR・F/45.1kg)
VS
COMACHI(WPMF日本同級C/ MSJ/44.45kg)

勝者:Little Tiger / 判定3-0 / 主審 北尻俊介

副審 ナルンチョン 49-48. チャンデー 50-48. テーチャカリン 49-48

2Rまでの公開採点は3者とも20-20。19歳のCOMACHIがやや積極性があるが、33歳のLittle Tigerの組んでのヒザ蹴りがしつこく後半ほど優っていき執念の勝利で王座奪還。

ベテランLittle Tigerは経験値で優る余裕で攻める

◆WPMF世界フェザー級王座決定戦 5回戦

ヨーシラー・フェアテックス(タイ/57.15kg)
VS
ラジャシー・IT2000(タイ/57.15kg)

勝者:ヨーシラー・フェアテックス / TKO 3R 0:35
主審 ソンマイ・ケーウセン

蹴り足を抱えヒジ打ちカウンターで顔面をカットし、ドクター勧告でレフェリーストップ。

右ミドルキックをキャッチ後、右ヒジ打ちをカウンターしたヨーシラー

◆WPMF女子日本スーパーフライ級王座決定戦 5回戦(2分制) 

トモコSP(WSR・F/52.16kg)
VS
佐々木蝶里(尚武会/53.55→53.1kg=失格)

引分け / 1-0 / 主審 北尻俊介
副審 ナルンチョン 49-48. ソンマイ 48-48. テーチャカリン 48-48

17歳の佐々木蝶里はオーバーウェイトで失格。40歳のトモコSP(=スペシャル)が勝った場合のみ王座認定。動きの止まらない激しさはあるものの、差が開かず、結果は引分けで預かり。

◆65.0kg契約3回戦

WPMF世界スーパーライト級チャンピオン
ゴンナパー・ウィラサクレック(タイ/64.8kg)
VS
ギャンペット・ギャットコンペット(タイ/62.25kg)

勝者:ゴンナパー / TKO 2R 1:37
主審 チャンデー・ソー・パランタレー

2Rにゴンナパーがヒザ蹴りで最初のダウンを奪い、パンチとヒザで攻勢を続け、左ミドルキックでダウンを奪ったところでほぼノーカウントストップ。

最初のダウンを奪った膝蹴り連打するゴンナパー

取材戦記

王座返り咲きのLittle Tiger

毎度の会場入りからムエタイ色満載のムードに包まれる興行でした。「他興行にもビッグマッチがある中、何でM-ONEに来たんですか」とある関係者に問われたりもして、明確な回答は難しいものの、強いて言えば、タイトル(王座)の在り方に共感を持てるところでしょうか。たとえ有名選手の出場は無く、ビッグマッチと言うほどでなくても、統一された団体や上層組織がある下で運営されているタイトル(王座)が今後隆盛を誇るか、衰退消滅の道を辿るか、その行方を見ておきたいところです。

WPMF女子日本スーパーフライ級王座決定戦で、引分けにより王座は空位のままという裁定が下りましたが、この裁定は正解でしょう。規定のラウンドを超えての延長は本来、行なわないものです。WPMF管轄下であることで、この辺の仕来りはしっかりしていますね。

ムエタイ興行として試合前に毎度、王室唱歌が吹奏されます。タイでは試合や一般の映画館などでも上映前に王室唱歌が全員起立の上、吹奏されます。国歌吹奏とはまた違った趣となりますが、タイ人は慣習的に起立し、日本人観戦者はタイ国歌も王室唱歌もわからないまま起立している人もいるかもしれませんが、律儀に起立する姿は日本人らしくあります。

ワイクルー(試合前の戦いの舞)も録音された市販のテープやCDを使われると思いますが、ワイクルーやラウンド中も生演奏を聴きたいものです。楽器は取り寄せ、演奏者は経費節減も含め、習えばムエタイにのめり込む日本人なら出来るのではと思います。

ゴンナパー・ウィラサクレックの対戦相手は当初、OU・HAOHUI(中国/漢名・呼び名不明)でしたが、19日に他興行出場したゴンナパーの試合を、この日の試合2日前にビデオで観て怖気づき「怖くて戦いたくない、という理由で欠場決定。気持ちの小さい選手でした。」と場内にリングアナウンサーによってアナウンスされる始末。主催者がウィラサクレックさんで、タイ人だけに堂々と発表してしまうので、それはまた違った意味で面白さがありました。代打として緊急出場のギャンペット・ギャットコンペット(タイ)が対戦しております。

タイ人レフェリーの名前で、ニックネームでアナウンスされる場合があります。公式試合たるもの、これは本名か現役時のリングネームで通して欲しいものです。「マット」と呼ばれていたレフェリーの現役時のリングネームは、テーチャカリン・チューワタナ。本名は、ウィティラム・サマートと言う方のようです。

出場した選手の中には、話題のKNOCK OUTイベントのRIKIXジムから新人・加藤有吾選手と藤野伸哉選手が判定勝利。NKBのテツジムから前島マルコス選手がTKO負け。新天地に出向くことで戦いの場は増え、敗れてもNKBは新化しつつあるようです。

次回のM-ONE興行は11月23日(水・祝)に昼の部でアマチュア大会、夜の部でプロ興行が行なわれる予定です。

かつて対戦したライバルと再会、自然と笑顔になるのも戦い分かり合えた者だけの心理

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

2002年に大阪市平野区で起きた母子殺害事件で、1度は死刑判決を受けながら逆転無罪を勝ち取った大阪刑務所の刑務官、森健充被告(59、現在は休職中)に対する大阪高裁の第2次控訴審が9月13日、結審した。判決は来年3月2日に宣告されるが、無罪判決が維持されるだろうというのが大方の見方だ。もっとも、そうなっても森被告は手放しで喜べないかもしれない。森被告はこの事件のこと以外でもう1つ、冤罪を訴えているからだ。

森被告の第2次控訴審が行われている大阪高裁

◆逆転無罪の経緯

事件の経緯は次のようなものである。

大阪市平野区でマンションの一室が全焼し、焼け跡から住人で主婦の森まゆみさん(当時28)と長男の瞳真(とうま)くん(同1)の遺体が見つかったのは2002年4月のこと。まゆみさんの首には、犬のリードが巻きつけられており、瞳真くんは浴槽の水に服を着たままの姿で浮かんでいたという。そして事件の7カ月後、大阪府警が殺人の容疑で逮捕したのが、まゆみさんの義父である森被告だった

森被告は一貫して無実を主張。裁判は第1審が無期懲役、第2審が死刑という結果になりながら、最高裁が審理を差し戻した大阪地裁の第2次第1審で逆転無罪判決が宣告されるという劇的な展開を辿った。これを検察が不服として控訴し、現在は第2次控訴審が行われているわけである。

もっとも、元々物証が乏しかったうえ、第2次控訴審で検察側が「最後の抵抗」として行ったDNA鑑定では、むしろ森被告の無実を裏づけるような結果が示された。凶器である犬のリードや、2人の被害者の着衣が徹底的に調べられたにも関わらず、森被告のDNA型が一切検出されなかったのである。

それゆえに、第2次控訴審では無罪判決が維持される公算が高いとみられているのだが、では、森被告が訴えている「もう1つの冤罪」とは何なのか。それは、事件前に被害者のまゆみさんに行っていたとされる「求愛」や「性的な接触」に関することである。

現場のマンションはこの通り沿いにある。今は地元でも事件を知らない人が多い

◆「求愛」や「性的な接触」は本当にあったのか

そもそも、この事件で森被告が警察に疑われた理由は、事件前にまゆみさん夫婦との間で人間関係の問題が生じていたことだった。

まず、森被告は事件当時、妻の連れ子である「まゆみさんの夫」と非常に仲が悪かった。森被告がまゆみさんの夫の金銭問題の尻拭いで大変な目に遭っていたにも関わらず、まゆみさんの夫が不義理な態度をとり続けていたことなどが原因だ。それに加え、まゆみさんは事件前、義理の母である森被告の妻に対し、次のようなことを訴えていたのである。

「一緒に古新聞を運んでいる際に、エレベーターの中でお義父さんに抱きつかれた」

「キッチンでいきなり、お義父さんに首にキスされた」

「お義父さんに『まゆみのことが好きや』と言われたり、無理やり手を引っ張られて、勃起した部分を触らせられたりした。また、自分はセックスが上手であるという話をされ、『一回試してみよう』と手を引っ張られたので、流し台のワゴンをつかんで抵抗した」

「お義父さんから、愛を告白する『あいこくめーる』が送られてきた」

まゆみさんのこうした訴えは第1審判決、控訴審判決共に事実と認めているのだが、審理を差し戻した最高裁判決や差し戻し審の無罪判決でも、これらの事実関係はとくに否定されていない。しかし、実を言うと森被告は、まゆみさんに対するこれらの行為についても事実関係を否定しているのである。

実際問題、森被告がこれらの行為をまゆみさんに行っていたと示す証拠は、亡くなったまゆみさんの証言以外には存在しない。そういう意味では、「もう1つの冤罪」である可能性も否定し難いところなのである。来年3月2日に宣告される第2次控訴審の判決では、この部分についても何らかの判断が示されて欲しいものである。

なお、私は現在発売中の「冤罪File」第26号で、検察側の「真犯人放置疑惑」についてもレポートしている。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

MX出演中止事件についてもう少し書こうと思っていたら、10月7日の夕方、電通に勤めていた24歳の新入女子社員が昨年自殺し、しかもそれが過労死だったと認定されたというニュースが飛び込んで来た。

朝日新聞2016年10月8日付記事

さすがに死亡案件だけあってメディア各社も無視するわけにはいかず、新聞・テレビでかなり大きく取り上げられた。翌日、朝日新聞は一面でこれを報じた。

検索すればかなりの記事が見つかるので、事件の詳細は割愛するが、衝撃的だったのは2015年4月入社、10月本採用になったばかりの女性新入社員に過大な量の業務を背負わせ、その年の12月25日のクリスマスに投身自殺に追いやった、という凄まじいまでのブラック企業ぶりであった。

ANN=テレビ朝日系列2016年10月7日付報道より

◆1991年の電通社員自殺事件との類似点

電通や博報堂ではその重労働ゆえに毎年のように自殺者が出るが、中でも電通の場合は1991年にも新入社員が自殺し、遺族が10年近くかけて最高裁まで争い、過労死を認定させた事件があった。入社1年4ヶ月の男性社員が激務と社内パワハラの犠牲になって自殺したのだが、当時電通は遺族側からの和解要求を拒否し続け、裁判でも徹底的に争った末に敗訴した。

これは「電通事件」として日本の人権裁判史上、また過労死事件などの判例として必ず紹介されるほど有名な事件である。そして電通は敗訴後に過労死を防ぐための社内基準を新たに決めたなどとしていたが、今回それは何の役にも立っていないことが露呈した。

ANN=テレビ朝日系列2016年10月7日付報道より

男女の違いはあるが、91年と今回の事件には類似点が多い。まずは大学を卒業したばかりの新入社員であったのに、恒常的な残業過多の部署に配属されたこと。そしてその配属中に自分の担当得意先が増え、業務量がさらに増加したこと。

ANN=テレビ朝日系列2016年10月7日付報道より

そして本来は新入社員に気を遣うべき周囲や上司が、しばしばパワハラ的な言動を繰り返して本人を追い込んでいたこと、などである。91年当時も電通は残業における「月別上限時間」(60~80時間)が設けていたが、実際は名ばかりのもので、男性は月に140時間もの残業をこなしていた。今回の女性の案件でも、労基署は最高130時間もの残業があったことを認めている。凄まじいばかりの長時間労働である。

ANN=テレビ朝日系列2016年10月7日付報道より

今回の事件で女性が配属されたのは、9月末に不正請求事件が明らかになったデジタル広告(インターネット)部門であったことが注目された。朝日新聞の記事では、2015年10月になってから所属部署の人員が14人から6人に減った上で、担当得意先が増えたとある。これは9月の記者会見での「デジタル部門の人員が常に不足していた」との説明と符合する。

彼女の個別具体的な職務内容は明らかにされていないが、担当部署と時期からして、不正な書類作成に関わっていた可能性も有り得る。激務なのに人員を減らしたのは、03号(「電通不正請求問題 2つの重要な視点」 )でも書いたように、「儲からない部門」は社内評価も低いため、どんどん人員を削っていったと考えられる。人員を減らして業務も縮小するというのならまだ分かるが、営業収益を上げるために無理矢理人を減らした上で業務量は増大させるなど、およそ全く合理的でないことをやっていた。そしてそのあげくが、今回の女子社員の自殺を生んだのだ。

ANN=テレビ朝日系列2016年10月7日付報道より

◆軍隊のような上下関係を強制する企業体質に反省なし

彼女は東大文学部の卒業で、いわゆるコネ入社ではなかったようだ。電通は「コネ通」と呼ばれるほどコネ入社が多いのだが、当然そういう連中の多くは能力が低いため、いきなり難易度の高い部署には配属されない。逆に新卒で本当に優秀な者は、最初から激務の中に放り込まれる。即応性や順応性、業務処理能力が高いと判断されるからだ。これは博報堂でも同じで、東大卒だからと言って特に大事にされはしない。大事なのは激務の中を走りながらそつなく仕事をこなしていける能力であり、大学名や男女差などは関係ない。つまり彼女は本当に優秀だったがゆえに期待され、細かいチェック能力が必要で激務のデジタル部門に配属されたと考えられる。

しかし、そうやって配属された彼女を、担当部署はきちんと育てられなかった。電通は新入社員に富士登山をやらせたり、部内や得意先との飲み会の企画なども新入社員にやらせている。

毎日新聞2016年10月8日付記事

深夜残業の後でも飲み会を実施、そこも新入社員は必ず出席しなければならないという、まるで軍隊のような上下関係を強制する体質の会社であり、今回もそうした中で上司によるパワハラもあったようだ。そうした内情や、1年も経たずに過労死が認められたのは、彼女自身が残したツイッターがあったからだった。そのいくつかを転載する。

私は2015年12月25日に彼女が亡くなるまでの、約半年分のツイートを読んだが、確かに10月以降は業務が激増し、心身の余裕を失っていった様子が伺えて、読んでいて非常に辛いものがあった。希望に燃えて入社してきた若人をすり潰し、自殺まで追いやった電通の責任は大変重い。

◆ワタミ過労死では徹底糾弾し、電通過労死では沈黙するマスメディア

しかし同社はこれまでこの事件に関し正式な発表や謝罪もしていないし、同社のHPにさえ何ら経緯を載せていない。そしていつもの通り、メディア各社は第一報だけとりあえず報じたが、その後の追及は全くしていない。ワタミの同様の事件の際はあれだけ同社を糾弾しまくったメディア(例えば産経新聞2015年12月26日付記事「検証・ワタミ過労自殺和解(上)」)が、電通に対しては沈黙している。内部は反省せず、外部も強く批判しない。だからいつまで経っても、電通はまともな会社にならないのだ。


◎[参考動画]「死にたい」と家族に・・・電通社員の女性が過労死(ANN=テレビ朝日2016年10月7日)


◎[参考動画]電通新入社員の自殺 長時間勤務の「労災」(NNN=日本テレビ2016年10月7日)

▼本間龍(ほんま りゅう)
1962年生まれ。著述家。博報堂で約18年間営業を担当し2006年に退職。著書に『原発プロパガンダ』(岩波新書2016年)『原発広告』(亜紀書房2013年)『電通と原発報道』(亜紀書房2012年)など。2015年2月より鹿砦社の脱原発雑誌『NO NUKES voice』にて「原発プロパガンダとは何か?」を連載中。

10月8日の京都新聞朝刊一面は、ある意味壮観であった。トップに「東電再建 他電力と提携―改革委初会合 廃炉支援へ検討―」の見出し。リードでは「経済産業省は5日、東京電力ホールディングスの経営問題の決着を目指す有識者による『東電改革・1F(福島第一原発)問題委員会』の初会合を開き、経営改革と福島第一原発の廃炉費用支援の本格的検討に着手した。再建には原発や送配電事業で他の地域の大手電力との提携が不可欠との方向性を示し、収益改善には柏崎刈羽原発の再稼働が焦点になるとした。支援費用が増大して電気料金に上乗せさせられ、国民負担となる懸念がある」そうだ。

◆黒字決算で政府に12兆円支援を要請する犯罪企業・東京電力

まず指摘したい。何故に犯罪企業「東京電力」の経営改善を経産省が慮ってやらなければならないのだ。経営などという話をしている場合か。国は廃炉と除染で東電支援に約9兆円援助の枠組みを既に作っているが(時事通信2016年7月28日付)、それでは足らずに「さらに3兆余分に援助してくれ」と駄々をこねているのが東電だ。

しかも、東電は単年度では黒字決算を出しているというのだから、この収支はどう考えればいいのだ。複雑に考える必要はない。「東電の経営改善」などと誤った目標を設定するから議論が間違うのだ。東電の総資産を処分し、それでも足りない分は現役・退職した元役員から私有財産を没収し、さらに不足すれば歴代の経済産業大臣、文部科学大臣さらには、旧科学技術庁長官とそれぞれ省庁の事務次官経験者の資材も没収するのだ。

なにゆえ、被害者である国民が犯罪企業の再建に頭をひねり、血税をつぎ込む必要があるのだ。税金を払っている人の属性は、東電と関係がある、無しに関わらず、またどの地域に居住しているかも関係ない。法人税からか、所得税からか、消費税から捻出されるのか内訳なんか分かりはしない(もっとも最近の国家予算の構成を鑑みればその大半は国債に依拠していると考えるのが妥当だろう)。

◆「東電改革は福島復興の基礎」ではない

それにしても原発を4機爆発させておいて、どうして国から9兆円も援助がもらえるのか。非常に単純だがこんな例が他にあるだろうか。改革委の委員長伊藤邦雄一橋大学大学院特任教授は「東電改革は福島復興の基礎であり、電力改革のさきがけとなる」と述べたそうだ。何をとぼけたことを言っているのだ。東電は精算させるべきだ。そしてその資産を全て被災者の保障に宛て、東電社員は全員福島に移住させ、現場で作業員として、基準線量ギリギリまで廃炉作業に従事させるべきだ。

この日の会合のポイントとして、
・原子力や送配部門での大手電力との提携
・再稼働を目指している柏崎刈羽原発(新潟県)の運営の在り方の見直し
・電気料金に廃炉費用を上乗せし国民が負担する案を検討

とまとめがある。一々反論するのも馬鹿らしくなるが、「有識者」どもは本気でこんなことを議論している。「有識者」、「知識人」、「専門家」という肩書は全て疑ってかからなければない。悲しくも言葉が内容を裏切る時代を象徴した、笑うに笑えない悲喜劇だ。そしてこの会合にはオブザーバーとして東電の広瀬社長も出席している。面の皮が鋼鉄のようでなければ東電の社長は勤まらないようだが、広瀬の頭の中はどうなっているのだろう。

冷静に計算しても、東電がこれから存続し続ける可能性はない。何故ならば今議論されているのは当面必要な(それにしても途方もなく巨額だ)金の算段だけだが、廃炉作業はこの先人類的な尺度で言えばほぼ「永遠」に続くからだ。その前に国債を擦りまくり、残高が遂に1千兆円を超え(赤ちゃんからお年寄りまで一人当たり826万円)たこの国の財政は早晩破綻する。デフォルトは間もなくやってくる。そうなれば「国」の形は今のままで残りはしない。「有識者」と呼ばれる愚者どもの議論に騙されてはならない。

◆行政は「事故が起きたら」という犯罪的前提に何故こだわるのか?

その記事の横には「『美浜事故』ならセシウム汚染は──県予測 琵琶湖の魚基準値1.65倍」と地方らしい視点からの視野の狭い報告が掲載されている。再稼働させてはならない老朽原発「美浜原発」が事故を起こしたら琵琶湖はどの位汚染されるか。その設問自体、思考が劣化し尽した役人の愚にもつかない馬鹿げた作業だという認識がこの試算を伝える京都新聞の記者にはないようだ。

行政は「事故が起きたら」という犯罪的前提に何故こだわるのだろうか。この記事の下には図ったように「美浜3号機審査合格 稼働は相当先 規制委員長見通し」の記事が下支えをしている。紙面構成を考えた上でのことであろうが、この日の京都新聞一面がトータルで伝えてくれるのは、「こと原発問題に関する限り、この国のエスタブリッシュメントや、行政、報道に知性はない」という現実だ。

どれほどの破綻に直面しようと、確実な破局が目の前にあろうと、少し賢い小学生なら騙せない程度の虚構で突っ走ろうとする。その姿は第二次大戦中から敗戦に至るまで、全く理性を失い「神国日本」を信じ(信じさせられ)た、あの光景と二重写しのように思える。

理性無き時代、知性無き時代は益々加速している。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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