知人から以下のメールを頂いた。

〈こんばんは。突然、閃きました。神の啓示でしょうか。政治家と官僚は利権狙いで、バカな政策を作ります。末代まで祟る無駄使いです。なぜ、バカな無駄使いをするのか? 自分の利権狙いです。

ならば、政治家と官僚に毎年予算からお金を差し上げれば良いのです。
・政治家 1億円×500人=500億円。
・一種官僚(今の総合職官僚)1,000万円×1万5千人=1,500億円。
 合計2,000億円。

国の年間予算は100兆円ですから、予算の500分の1をプレゼントするだけです。このブレゼントで、政治家も高級官僚も、アホな政策を主張する必要がなくなります。500分の1をドブに捨てて、残りの500分の499を有意義に使いましょう。その方が日本のためになります。

我ながら名案でしょ。数年に一度の名案です。〉

この方は雪多い地方に暮らし、どちらかといえば穏健保守的なお考えの持ち主だった。その彼にしてもこの10年ばかりの政治状況には強く違和感を抱いておられるらしく、平素から断片的に、現政権批判や社会批判のメールは頂いていた。念のために説明しておくと、彼はW大学の文学部ご出身で、インテリだ(ただし、アルコールが好きなのは私と同じ)。

夜に突然閃いたのだから、ひょっとするとアルコールが彼の脳を、過去にない回路で働かせ始めたのかな(要するに酔っぱらっていらっしゃった)?とも思ったが、「これで一本原稿が書けます、頂いていいですか」とメールを送ると、

〈これは突然閃いたのです。数十年に一回あるかないかの閃きです。是非とも世間に問うてください〉

と返信が帰ってきた。どうやら本当に彼には天啓があったようだ。実に荒っぽく、乱暴なアイデアに見えるが、ちょっと考えると案外これは、彼が興奮する通り、かなり有効な政策ではないかと思えてきた。積算根拠の国会議員数が衆参両院合わせた717名ではなく500名となっているのは、推察するに利権にさとい議員の推定数であろう。一人当たり1億円は、既得権を持っている議員には安すぎるきらいもあるが、そういう議員には「既得加算」で上乗せし、新人議員には若干減額する「きめの細かい運用」(政府が予算説明でよく用いるフレーズ)をすれば、おおよそ足りるだろう。中には対面を気にして「このようなお金を血税から頂くわけにはまいりません!」と、見栄を切る議員も出てこよう。新聞には「党派別受け取り辞退議員リスト」が掲載され、辞退した議員のイメージは上がるだろう。

官僚にとって、現役中の給与プラス年間1,000万(非課税)円は魅力ある数字だろう。10年で1億溜まるのだから、出世競争で天下り先を維持しなくても生活の心配はない。でも、東大法学部を出た連中の中には(官僚は圧倒的に東大法学部卒が多い)、民間のITやM&A、国際金融関連企業で年収数億円を超える知人がいくらでもいる。そうなると(欲深い人間の業は)1,000万円では満足しないかもしれない。そこで、ここは奮発して彼の原案に倍額回答とし(私には何の権力もないけど、仮定の話だからいいだろう)一人当たり2,000万円としてみよう。そうすると、

・政治家 1億円×500人=500億円。
・一種官僚(今の総合職官僚)2,000万円×1万5千人=3,000億円。
 合計3,500億円

が原資として必要となる。財源については「各省庁が知恵を突き合わせて、可能な限りスリムな予算案作成に、全力を上げて頂く」(前述同様、政府が予算説明でよく用いるフレーズ)ことにより捻出するものとする(あ、防衛費から全額引っ張ってもいいな)。年額3,500億円で、政治が「正常化」されれば安いもんじゃないか!

「何言ってるんだ!ただでも歳費2,300万円ももらっている国会議員にどうしてそんなムダ金をやらなきゃならない!」と至極真っ当なお叱りを受けるであろうことは覚悟の上である。それでも、

「迷惑なことをしてくれるよりは、何もしない方がいい」

こんな人あなたの職場にいないだろうか? 私的経験から組織に属して仕事をしていた頃、どの職場にも、「迷惑なことをしてくれるよりは、何もしない方がいい」(存在自体が迷惑だから本当はいて欲しくない)同僚や上司が、必ず数人はいた。私だけでなくほかの人からも背面服従で嫌われていた。でも居るんだから仕方ない。下っ端に人事権はないし、そんな「迷惑さん」に限って、どういうわけか管理職であったりする。余計な口出しをするアルバイトさんだけども、気が強すぎて、こちらから注意出来ない人の場合もある。

「早く帰ってくれないかな。要らない仕事、頼むからこれ以上作ってくれるなよ」とあなたをイライラさせる職場の人間はいないだろうか。そんな人でも仕事を辞めさすわけにはいかないから、少しその方には俸給を上乗せし、その代わり「要らぬお世話を一切しない」と誓約してくれたらどうだろう。私だったらその案に飛びつく。

要はそういう発想同様の「国家改革像」が、雪国の知人に閃きとなって降臨したのだ。これは案外有効かもしれない。どうせ与野党問わず議員のほとんどは名誉と、権力欲だけのために議員になっているんだから、連中には黙っておかせる方がよっぽど有益じゃないか。知人からはさらに追伸がきた。

〈政治家と高級官僚に5,000億円を毎年を差し上げます。すると彼らは利権を求める必要がなくなり、日本全体の利益を考えて働くようになります。愛国者になってくれます。この予算を「おだて予算」と呼びます〉。

総額が5,000億円に増額している理由は問うまい。乱暴そうだけども、案外妙案かもしれない「おだて予算」案。やっぱり優しい穏健保守のあの人らしい「閃き」だなあ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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