6月16日、大阪市大国町の社会福祉法人ピースクラブで、3月に再審開始が決定した「湖東記念病院事件」の冤罪被害者・西山美香さんと、主任弁護士の井戸謙一さんを招いて講演会を開催した。最初に井戸弁護士より事件の経緯と問題点を解説してもらった。

6月16日(日)大阪で開催された「湖東記念病院事件」冤罪被害者・西山美香さんを囲む会

2003年5月22日明け方、湖東記念病院に入院中の男性患者(74歳、半年間植物状態、呼吸器で命を長らえていた)が意識不明で発見され、その後死亡が確認された。当初「業務上過失致死容疑」で開始された捜査は、1年後の7月2日西山美香さん(当時23才)が任意の取り調べで「(呼吸器の)管を抜いた」と自白したことから「殺人事件」に切り替わり、滋賀県警をざわつかせた。7月6日「殺人罪」で逮捕された美香さんは、その後起訴され、懲役12年の実刑判決が下された。美香さんは何故ウソの自白をしたのか? 井戸弁護士の解説から、当時美香さんを取り調べた滋賀県警の山本刑事と美香さんの関係に言及された箇所に焦点を絞り、検証してみる。

◆「業務上過失致死容疑」が「殺人容疑」に! 舞い上がる滋賀県警!

男性の死亡後、滋賀県警・愛知川(えちがわ)署は、人工呼吸器の管が外れ、アラームが鳴っていたのを見過ごし、窒息死させたとする「業務上過失致死罪容疑」で、当夜当直だった看護師A、Bと看護助手美香さんを取り調べた。その際A看護師が「管が外れていた」とウソをついてしまう。男性患者の痰の吸引を2時間ごとにする義務があったが、1回行っていないことから、怠慢を問われると案じ、咄嗟についてしまったウソだ。しかし管が外れている場合鳴るはずのアラーム音を聞いた者は誰もおらず、「呼吸器の不具合」との病院側の主張も、鑑定で「問題ない」となった。

1年後、前任に代わり美香さんを担当したのが滋賀県警から派遣された若い山本誠刑事だった。密室の取調室で山本は、死亡患者の写真を置いた机をバーンと叩き、椅子を蹴りあげ、美香さんに尻もちをつかせるなど威嚇しながら「アラームが鳴っていただろう」と迫った。怖くなった美香さんは「アラームは鳴った」とウソの供述してしまう。そのとたん山本は急に優しくなったという。

◆精神科に通うまでに美香さんを追い詰めた滋賀県警!

一方でA看護師はアラーム音を認めてなく、美香さんの供述との食い違いを迫られノイローゼになっていた。そのことを知った美香さんは「A看護師はシングルマザーで、逮捕されたら生活できない。自分は正看護師でもないし、親と暮らしている」と、一旦認めた「アラーム音を聞いた」の供述を撤回した。しかし山本刑事は受け入れない。6月23日深夜2時30分、美香さんは一人で愛知川署を訪れ、当直に山本刑事への手紙を託した。撤回させようと必死だったが、撤回は叶わなかった。

7月2日、美香さんは午前中、精神科を受診している。カルテはあるが、美香さんにはその記憶がないという。それほどまでに追い詰められていた。その足で警察署を訪れた美香さんは「故意に管を抜いた」と供述してしまう。7月6日美香さんは「殺人罪」で逮捕。「えっ? 私、逮捕されるの? なぜ、誰も殺してないよ?」。美香さんはパニック状態に陥った。「管を抜いた」が「殺害した」になるとは夢にも思っていなかったからだ。

3月に設立した「冤罪犠牲者の会」共同代表の青木恵子さん(東住吉事件)。右後ろに並んで座っている冤罪被害者・西山美香さん(後ろ右)と主任弁護士の井戸謙一さん(後ろ左)

◆滋賀県警に組織的に追い詰められ、自白してしまった美香さん

長い取り調べの間、山本刑事は美香さんの話を親身に聞き、相談に乗ったりもした。時には自分の私生活を話すこともあったという。幼い頃から友達を作るのが苦手で、当時つきあう男性もいなかった美香さんは次第に山本刑事に惹かれていく。携帯電話の番号も交換しあった。美香さんの警察への出頭日数は、5月は6回、6月は17回、うち6回は呼び出しもないのに自主的に出頭している。警察への出頭や捜査への協力が、山本刑事に会いたい一心からきていることがよくわかる。

逮捕後も滋賀県警と山本刑事は組織的に美香さんを包囲し、追い詰めていく。家族に会えない美香さんに「上司が毎日両親に会いにいっているから心配するな」とウソをつき、その上司のもとに美香さんを連れていき、上司に「山本の言うことだけ信じていればいい」と言わせた。「弁護士は信用できない」などと言われた美香さんはますます「山本刑事しか信じられない」と洗脳されていく。なお逮捕から起訴まで留置された大津署で美香さんは、山本刑事が持ち込んだマクドナルドのハンバーガー、ケーキー、ミスタードーナッツのドーナッツを食べている。飲み物は3回ともQOOのオレンジ。若く、社会性もまだ乏しい美香さんを、滋賀県警は組織的にあの手この手を使い洗脳したのだ。

何故、美香さんはウソの供述をしたのか? それについて井戸弁護士は、美香さんのシングルマザーのA看護師に対する罪悪感や、アラーム音についての供述を撤回させて貰えないことから、仕方なく供述してしまったのではないかという。さらに山本刑事を好きになったが、当時A看護師の「アラーム音を聞いてない」と、美香さんの「聞いた」が矛盾することから、捜査は膠着し、呼び出されなくなっていたため、新しいことを言えば、山本刑事が自分に関心を持ってくれるのでは、と考えたからではないかとも述べている。

◆アラーム音を出さずに窒息死させる方法を美香さんに教えた滋賀県警・山本刑事!

そもそもアラームは鳴っていない。管も外れていない。では美香さんの「故意に管を抜いた」(窒息死させた)との自白は、どう維持できたのか? 逮捕後、コロコロ変わる美香さんの自白から、滋賀県警や山本刑事が見立てたストーリーに合わせ、美香さんの自白が作文されていた可能性が出てきた。書いたのはもちろん山本刑事だ。

7月2日の供述では「(管を)外して病室を出た。アラームは10分鳴り続け、A看護士が消した。動機はA看護師が寝ていたので腹が立って、偶発的にやった」だったが、A看護師が「アラームは絶対鳴っていない」「居眠りしていない」と供述、さらに子供の付き添いの親が「10数回ナースコールをしたが、アラームは鳴っていない」と供述するや、7月10日には「アラームは鳴っていない。私が消音ボタンを押し続けた」に変わった。同じ日、滋賀県警は「アラームを鳴らさずに窒息死させることはできるのか」と、人口呼吸器の実況見分を行っている。

その結果から編み出されたのが「消音ボタンを1回押せば1分間(60秒)アラーム音が消える。1分直前に再度ボタンを押し、アラーム音が消えた状態を継続させる。それを3回続け、患者を窒息させた」という供述だ。しかも偶発的ではない、ほかの患者も殺そうとした計画的犯行だとした。しかし看護師ですら知らない、消音時間が正確に60秒であることや消音状態継続機能を、資格も専門知識もない、看護助手の美香さんが知り、かつ確実に実行できると、ふつう考えるだろうか?

冤罪・鈴鹿殺人事件の加藤映次さん(長野刑務所に収監中)のご両親

◆盛りすぎた供述調書で、ウソが暴露された滋賀県警・山本刑事!

美香さんの最終的な自白内容は、「動機は病院に対する恨みを晴らすことであり、出勤前から犯行を計画していた、(ナースステーションから様子がうかがえる患者のベットの)カーテンも閉めず、枕灯もついたまま、素手で患者の人工呼吸器の管を抜いた、アラームがピッと鳴ったのでボタンを押して音を消した。頭で数を数え、1分たつ前にまた押した。患者はハグハグと苦しそうにしていた。2~3回で死んだのでチューブをつなぎ、点灯ランプを消し、ナースステーションに戻った」となっている。

しかしこの自白には、なぜ美香さんが消音状態継続機能を知っていたかの説明がない。また正確に60秒を数えるために、美香さんが腕に巻いた時計を利用してないこと、カーテンを閉めない、枕灯を消さない、(殺害を実行する際に)指紋がつくことを気にしないことなどについて多くの疑問が残されている。

有罪認定された判決は、美香さんの自白について「現場にいた人でなければ語れない迫真性に富む」としている。「口をハグハグ」「目をギョロギョロ」の箇所だ。しかし亡くなった患者は大脳が壊死しており、苦しみを感じないから、そもそも「口をハグハグ」や「「目をギョロギョロ」することは、医学的にありえないと弁護側は反論する。では、この「口をハグハグ」「目がギョロギョロ」という供述調書は、誰が作文したのか? 山本刑事だ。

6月16日、井戸弁護士が山本刑事が作成した調書の一部を紹介した。「壁の方には、追いやった呼吸器の消音ボタン横の赤色のランプが、チカチカチカチカとせわしなく点滅しているのが判りました。あれが、Tさんの心臓の鼓動を表す最後の灯だったのかも知れません」。何とも劇画チックな表現だ。彼の調書は全編このような感じだという。「私は~」からと一人称で始まる調書は、あくまでも容疑者が話したことを、刑事が文章にまとめたものだ。果たして美香さんがそのようなことを話すだろうか?

予定を変更し、急きょかけつけてくれた桜井昌司さん(布川事件冤罪被害者)

再審決定の骨子は「入院患者は自然死の可能性がある」「捜査段階の自白は誘導や迎合による虚偽の疑いがある」「西山さんが犯人とする合理的な疑いが残る」としている。検察は再審裁判で有罪主張すると宣言していたが、先の三者協議では「弁護団の主張を見てから判断する」などと筋違いなことを言ったという。いい加減にしろ!メンツのために長々と裁判を引き伸ばすようなことをせず、正々堂々と公判で有罪を主張してみればいい!自ずと美香さんの無罪は明らかになるはずだ。

なお、井戸弁護士のお話のあと、西山美香さんへのインタビュー、冤罪・鈴鹿殺人事件の加藤映次さんのご両親のアピール、3月に結成された「冤罪犠牲者の会」の共同代表・青木恵子さん、サプライズでかけつけた桜井昌司さんのアピールが続いた。美香さんのインタビューと、冤罪・鈴鹿殺人事件については、後日、改めて寄稿したい。

▼尾崎美代子(おざき・みよこ)https://twitter.com/hanamama58
「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主。

〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』20号 尾崎美代子さん渾身の現地報告「原子力ムラに牛耳られた村・飯舘村の「復興」がめざすもの」、井戸謙一弁護士インタビュー「『子ども脱被ばく裁判』は被ばく問題の根源を問う」を掲載!

創業50周年!タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』7月号

以下は6月17日正午現在、滋賀医大附属病院のホームページである。
http://www.shiga-med.ac.jp/hospital/index.html

「病院からのお知らせ」の冒頭に6月11日付けで、「前立腺がん治療に関する情報提供」が掲載された。この日は通称「モルモット事件」の第5回口頭弁論が行われた日である。

滋賀医大附属病院のホームページより

「前立腺がん治療に関する情報提供」をクリックすると、

滋賀医大附属病院のホームページより

と、病院長名での文章が現れ、「詳しくはこちらをご覧ください」の「こちら」をクリックすると、

滋賀医大附属病院のホームページより

滋賀医大附属病院のホームページより

滋賀医大附属病院のホームページより

が表示される。冒頭に、

滋賀医大附属病院のホームページより

と、注意書きのようなものがあるが、これだけではどの部分が「国立がん研究センター」による発表であるのか、また引用はどの箇所かが判然としない。そこで17日国立がんセンターの広報担当に「このような記載が滋賀医大病院のHPにあるが、国立がんセンターのHPを探しても、一部を除いて同じ記述を見つけることができない。このような発表はあったのでしょうか」と質問をした。17日夕刻同センターから、

《お問い合わせにつきまして、担当部署に確認いたしました。
当センターの情報は、1ページ目の当センターロゴから前立腺がんの表まで、
そして、1ページ目の用語の説明のみでございます。以上、ご報告いたします。》

との回答が返ってきた。え!この文章には1/3、2/3、3/3とページが付されている。「普通の感覚」で読めば、一連の文章と理解しても無理はなかろう。しかも各病院ごとの治療成績なども「国立がん研究センター」が作成した図表だと思う人が多いのではないか。実際に複数の現職医師(脳外科医、診療所勤務医)に読んでもらったところ二人とも「がん研究センター、不思議な資料を作るね」と、やはり誤解していた。現職の医師でも誤解するのだから、一般人はなおのことであろう。

この文章掲示が、ただちに法的な問題だ、というつもりはまったくないが、少なくともまぎらわしく、誤解を与えやすい体裁であることは間違いないだろう。それにしても、どうして滋賀医大病院院長松末氏は、専門が整形外科にもかかわらず、「前立腺がん」にこのようにこだわるのだろうか。同病院には多数の診察科があるのに、「病院からのお知らせ」10件のうち、4件が岡本医師関係の記載とは、不自然ではないだろうか。読者諸氏にも是非ご覧いただきたい。わたしの感覚がおかしいのだろうか? 

◎患者会のURL https://siga-kanjakai.syousengen.net/
◎ネット署名へもご協力を! http://ur0.link/OngR

《関連過去記事カテゴリー》
滋賀医科大学附属病院問題 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=68

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

創業50周年!タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』7月号

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

本欄をご愛読の方々は、すでに「しばき隊リンチ事件」およびそれに付随した論争はご周知のことと思います。Mさんリンチ事件の民事裁判は最高裁まで争われ、下級審控訴審判決どおりMさんの勝訴で決着した(2人の被告に114万円余の賠償金)。刑事事件も同様に、被告2人に有罪罰金刑となっている。不十分ながら、被害者が勝訴したのは幸甚です。

それはともかく、当該リンチ事件に批判的だった(「救援」紙に2度の論考を掲載)前田朗さんが、しばき隊の「関係者」とイベントで同席することに関して、鹿砦社の松岡利康さんから批判があった。

その件で双方の応酬があり、本欄はしばらく論争の場と化した(前田さんは、ご自身のブログで応答)。これを揶揄して「リンチ事件の場外乱闘」などと評すことはできない。言論人としての誠実さ、論旨の精緻さが問われる論争であって、そこから「リンチ事件」の本質を抽出し、その解決、謝罪や和解にむけた道筋を明らかにする内容がもとめられたはずだ。これは今も変わらないだろう。

「鹿砦社・松岡利康さんへのお詫び」(2019年6月13日付け前田朗氏ブログ)

3度にわたる応酬ののち、前田さんから松岡さんへの「お詫び」が明らかにされた。前田さんが「(鹿砦社の)炎上商法」と揶揄した批判が、不適切だったというものだ。その他の論点には触れられていない。したがって見解は変わらないものと理解します。

謝罪した前田さんの誠実さは、本欄での論争の帰趨を落ち着いたものにした。しかし前田さんが「資格がない」として今後の発言を自制されたのは、ちょっと残念なことである。というのも、いくつかの点で誤解や性急さがあり、事件の本質および「謝罪」あるいは「和解」への脈絡が閉ざされたやに感じられるからだ。

前置きはこのくらいにしたい。じつは松岡さんからわたしに、第三者的な意見をという要請があり、不肖ながら論点の整理をしようと思った次第である。およそ論争というものは論軸を逸らしたり、別の議論にすり替えたりしてしまうと、何も生み出さない。批判のための批判、収拾のつかない言い合いになってしまうからだ。今回はそんな様相(第三者への批判のひろがり)を見せながらも、前田さんの真摯な態度で論争は「中断」した。いずれふり返られて、反差別運動への何らかの教訓が提言できれば良いのではないか。

ともあれ、ここでは松岡さんと前田さんの議論にかぎって論点を整理し、読者諸兄姉の解読の一助となるのを目的にしたい。それがリンチ事件の解決・和解に向かう道筋の糸口になれば幸いである。ただし論争のジャッジメントではなく、あくまでも現在のわたしの批評にすぎない。読者諸兄姉のご批評をたまわれば幸甚です。

そこで論点を拾ってみたが、細かい点はともかく、わたしが気になったのは以下の3点、いずれも前田さんの論点およびわたしが読み込んだ論点である。

《1》処分なしの判決が出たのだから、李信恵さんのリンチ事件関与はなかったのか?

《2》たとえリンチ事件に関係する団体の関係者でも、同席することに問題はない

《3》被差別当該・複合差別の当該は、無条件に擁護するべきか

このほかに前田さんが云う、リンチは複数犯であることが構成要件との認識は論外であり、また判決は複数被告に有罪であるから、前田さんの論法をもってしても「リンチ事件」であるのは明白で、あえて論点とはしなかった。

◆《1》処分なしの判決が出たのだから、李信恵さんのリンチ事件関与はなかったのか?
  ── 法的責任はなくとも、リンチ事件への関与は批判されるべきである

前田さんは「李信恵さんについて言えば、共謀はなかったし、不法行為もなかったことが裁判上確定しました」(第1回返信)「受け入れがたい事実であっても、双方の立証活動をふまえた上で裁判所が下した判断が確定したのですから、社会的に発言される場合には、確定した事実をもとに発言されることが肝要です」(第2回返信)と述べている。

これでは、すべての事件・社会問題の解決は裁判所の判断にゆだねるべきで、事実誤認があっても受け容れよということになる。前田さんは「批判は自由だ」としながらも「社会的に発言される場合には、確定した事実をもとに発言されることが肝要」と云っているのだ。これは肯んじかねる。

松岡さんの反論はこうだ。

「先生は裁判で私たちの主張が否定されたのだから、これに従うようにと諭されています。しかし、住民運動や反原発の運動で、ほとんど住民側が敗訴し、裁判所の周りでがっかりしている住民の姿をよく見ますが、これでも裁判所がそう判断したのなら従えとの先生のご教示は同義だと思います」

松岡さんが指摘するとおり、前田さんは不当判決とされるものも「確定した事実をもとに発言」するべきだというのだろうか。この論法だけ切り取っていえば、袴田巌さんは有罪、狭山事件の石川一雄さんも有罪ということになる。裁判所の政治権力寄りの、あらゆる不当判決を是認することになるではないか。被害者側の視点・立場が欠けているから、このような裁判所無謬論とでもいうべき立論に陥ってしまうのだ。

前田さんは「この件で『冤罪』と言えるのは李信恵さんだけ」というフレーズを入れている。まさに李信恵さんの立場に立ってのみ、この裁判を見ていたのではないだろうか。

裁判判決が不当なものであれば、判決を批判するのは当然のことである。必要ならば再審を訴えることで、被害を回復するのも当然の権利である。そのための大衆運動は、これまでにも多くの被害者たちが行なってきた。それを知らない前田さんではないはずだ。一般論になってすみませんが、そのうえで加害者には道義的責任も問われるべきである。

前田さんも、李信恵さんの道義的責任を指摘している。

「法的責任はないとしても、道義的責任は残り、かつ大きいはずだと考えます。その意味で『救援』記事を訂正する必要はありません。関係者の行動にはやはり疑問が残ると言わなければなりません」

前田さんの「救援」の記事中、李信恵さんの道義的責任に関する箇所は以下のとおりだ。

「C(李信恵=引用者)をヘイト団体やネット右翼から守るために、本件を隠蔽するという判断は正しくない。Cが重要な反ヘイト裁判の闘いを懸命に続けていることは高く評価すべきだし、支援するべきだが、同時に本件においてはCも非難に値する」

そう、李信恵さんは、本件については非難に値するのだ。したがって法的には無罪が確定したとしても、道義的責任は相互の論争の場において、あるいは表現の場において批判に晒されるべきであろう。言論において判決に従がう必要などまったくないのだ。そうであればこそ、前田さんが「救援」で述べられている内容は「社会的に発言される場合には、確定した事実をもとに発言されることが肝要です」という教示とは明らかに矛盾し、みずからMさんの立場から李信恵さんらを批判しているのだ。 

◆《2》たとえリンチ事件に関係する団体の関係者でも、同席することに問題はない
  ── 論者には多面性がある

もともとこの論争は、松岡さんの側から前田さんがイベントで、事件に関係する団体の関係者3人と同席することへの批判だった。関係者の個々の関与については、寡聞にしてよく知らないので、かなり一般論に傾くことをご容赦ねがいたい。

わたしの立場は、たとい暴力事件に関わっていたとしても、表現の場は保障されなければならないというものです。ただし大衆運動の局面では、今回のようなイベントの場合はとくに、主催者および当該団体が出席の可否を判断するべきだと考えます。そこには生身の人間が介在するからだ。しかし、表現の場では自由でいいのではないか。

じっさい、わたしが編集している雑誌に、しばき隊の運動に過去に参加した論者が社会運動に関する論考を発表している。そのことについて、松岡さんから批判を書かせて欲しいとの要請があり、これを了解している。当該の論考には書かれていない事実についての批判になりそうなので、これには事実関係のみを先方に確認してもらう作業が必要となる。もちろん批判された論者にも、反論の場を提供するつもりだ。論争は事実関係が鮮明となり、論点が明確になる貴重な成果が見込めるからこそ、誌面を解放する意義があるのだ。したがって、事件に関与したから排除する、あるいは同席しないという立場は、わたしは採らないのです。

そこで、前田さんの見解を引用させていただくが、これには大いに賛成せざるを得ない。

「人間人格は多面的であり、決して一次元的ではありません」「社会的には立派な医者や弁護士と思われていても、自宅ではDVに励んでいる夫がいるのではありませんか。道徳教育の重要性について熱弁を振るっている政治家が、セクハラ常習犯というのは良くある話です。世の中には、マイノリティ女性に激しい憎悪むき出しでストーカー状態になっている人物が、孤立した被害者救済のために立ち上がった義侠心溢れる好漢ということもあるかもしれません」「一面を取り上げて鬼の首を取ったように決めつけ、全否定する論法は時として誤りにつながることもあるのではありませんか。人は多面的であり、しかも可変的でもあるのです」(第3回返信)

松岡さんは今回の事件に関連して、長らく仕事をともにしてきた方と訣別しなければならなかったと云われています。個々のケースがあるので一概には言えませんが、わたしはそうはしなかっただろうと思います。出版活動・出版事業はどこまでも理論闘争であり、相手を排除するのは政治闘争だと思うからです。

今回のリンチ事件は、加害者側が隠ぺいをするという政治的な対応をしてきたので、いきおい政治的な応酬(排除・訣別)となったのはやむを得ない。ことは運動内部の暴力であり、なかったことにするのは運動に対する無責任、事件を見ないふりをするのは思想的な頽廃です。

ひるがえって、排除や訣別も相互討論の放棄につながりかねない行為だと思います。被害者のMさんの闘い、鹿砦社と松岡さんの支援の闘いを支持しつつも、前田さんの見識に理があると考えました。もうひとつ付言しておけば、出版・編集という立場は、出版権・編集権という権力を持っています。政治的な対応はきわめて慎重を要し、抑制的にすべき立場にあるのだと思います。

◆《3》被差別当該・複合差別の当該は、無条件に擁護するべきか

このテーマは、一般的な運動論になります。

前田さんの論調には、李信恵さんの差別との闘い、とくに「複合差別」との闘いを「無条件に」高く評価するべき、との力点が感じられました。前田さんをして、今回の事件をめぐる論点を曖昧にしたものがあるとすれば、この力点ではないでしょうか。わたしは《2》に挙げた人間の多面性の観点から、李信恵さんの闘いは評価すべきだと思います。その意味では「救援」の論考を撤回せずに、李信恵さんをリンチ事件では批判するが、在日差別・反ヘイトクライム運動においては評価する立場はあるのだと思います。ただし、それに参加したくなるかどうかは、また別問題です。

わたしが高校生のころの話です。東京で朝鮮高校の生徒と国士舘高校・大学の学生が駅頭や列車内でくり返し乱闘となり、日本人の左翼系の高校生・学生のなかで「無条件擁護闘争」が起りました。乱闘の間に割って入り朝鮮高校生を無条件に護る、ようするに代わりに殴られるというものです。わたしの地元である北九州は在日朝鮮韓国人が多く、地元の不良高校生との喧嘩が少なくありませんでした。大学の学生活動家から一緒に「無条件擁護闘争」をやらないかと誘われたことがありました。

しかし北九州の実態は、朝鮮高校生からわたしたちが強喝されるのが日常茶飯事で、とくにわたしが通っていた高校はいわゆる坊ちゃん学校だったので、喧嘩の強い朝鮮高校生たちに角帽を奪われる(戦利品?)事件が頻発していました。とても「無条件擁護闘争」など参加する気分になれなかったものです。たったひとりでも、同世代として声を交わし合う朝高生がいれば、殴られるだけの闘争に参加したかもしれない。そんなことを後年、筑豊出身の在日の方と飲みながら話した記憶があります。無条件擁護はあってもいいと思うが、現実にはその運動に魅力があるかどうかではないでしょうか。

今回のリンチ事件を、運動の関係者がいち早く隠ぺいに動いたのには、理由があったはずです。運動内部の暴力が露顕すると、運動の広がりが阻害されると考えたからにほかならない。それはしかし、運動の発展をみずから阻害することでしかありませんでした。

暴力事件が起きたのは残念ながら仕方がないとしても、それを謝罪・反省することなく隠蔽しようとしたところに、浅薄で取り返しのつかない問題があると指摘しておきましょう。そこには運動は簡単に操作できる、政治工作で人を操れるという安易さ、社会運動のいちばん悪い面が凝縮しているからです。そんな人を騙すような体質の運動に、人を参加させる魅力があろうはずはありません。

社会運動がつねに清く正しくとは思いませんが、困難ながらも関係者が当初の「謝罪」に立ち返り、和解への途を模索することこそ、運動のおおらかな発展につながると確信してやみません。

[参照記事]
◎松岡利康【カウンター大学院生リンチ事件】前田朗教授の豹変(=コペルニクス的転換)に苦言を呈する!(2019年5月24日付けデジタル鹿砦社通信)

鹿砦社・松岡利康さんへの返信(2019年5月26日付け前田朗氏ブログ)

◎松岡利康【カウンター大学院生リンチ事件】前田朗教授の誤解に応え、再度私見を申し述べます (2019年5月28日付けデジタル鹿砦社通信)

鹿砦社・松岡利康さんへの返信(2)(2019年6月1日付け前田朗氏ブログ)

◎松岡利康【カウンター大学院生リンチ事件】「唾棄すべき低劣」な人間がリーダーの運動はやがて社会的に「唾棄」される! 前田朗教授からの再「返信」について再反論とご質問(2019年6月4日付けデジタル鹿砦社通信)

鹿砦社・松岡利康さんへの返信(3)(2019年6月9日付け前田朗氏ブログ)

◎松岡利康【カウンター大学院生リンチ事件】前田朗先生、私の質問に真正面からお答えください! このリンチ事件をどう本質的に解決、止揚するかが社会運動の未来のために必須です(2019年6月13日付けデジタル鹿砦社通信)

鹿砦社・松岡利康さんへのお詫び(2019年6月13日付け前田朗氏ブログ)

◎松岡利康【カウンター大学院生リンチ事件】前田朗教授が「お詫び」ブログを公開! 私との公開書簡も、私の質問に答えず一方的に「終了」宣言。はたしてこれでいいのでしょうか?(2019年6月17日付けデジタル鹿砦社通信)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)
 

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鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000541

この間、公開書簡の形でやり取りをしている前田朗教授が「お詫び」ブログ
https://maeda-akira.blogspot.com/2019/06/blog-post_13.html
を公開されました。

前田教授の『救援』紙に公表された2つの論評は、教授の良心が現われている名文です。前田教授にはリンチの情報が伝わっておらず蚊帳の外に置かれていたようですが、これを私たちが作った本で知られ、教授の懸念と警告が、はたして加害者とこの周囲、神原元、上瀧浩子、師岡康子弁護士らに伝わったか疑問です。

少なくとも前田教授が、くだんの『救援』の2つの論評を書かれた際には、このリンチ事件に対して怒りと運動への懸念があったことは事実でしょう。

『救援』(580号。2017年8月10日発行)

『救援』(589号。2018年5月10日発行)

ならば、私(たち)からの質問には真正面から答えていただきたかったと思うと残念です。6月13日の通信でも述べていますが、私の一連の通信は前田教授と論争し教授を論破しようということを目的としたものではありません。「お詫び」なんて要りません。真正面から〈対話〉し、このままでは社会運動や市民運動への悪影響は否めませんから、なんとかこれを回避したいと思ったのです。前田教授の見識や立場からすれば、教授が意欲的にリンチ事件の本質的解決・止揚の作業に取り組まれれば、社会運動や市民運動への悪影響を阻止できると考えていました。

今回で、私とのやり取りも「終了」ということですが、読者の皆様方は、どう思われますか? 私の個人的意見としては、「お詫び」なんていらない、私からの質問にお答えいただくことを望むばかりです。そうでなく「終了」すれば、回答に窮し逃げたとの印象を読者の皆様方に与えかねないので、ヘイト研究の第一人者の前田教授にとってもマズイと思うのですが……。

◆リンチ事件訴訟、加害者に約115万円の賠償金支払い確定のM君勝訴!

先週12日、リンチ被害者M君が加害者5人を訴えた訴訟の上告が棄却されたとの報せがありました(正式決定日は11日)。直接の加害者の2人に約115万円ほどの賠償金支払いが確定しました。賠償金も、一審の80万円から増額になっています。当初の願望が大きかったこともあり不満が残る内容ではありますが、M君の勝訴です。もっとレベルアップした内容を求めて上告しましたが、これが棄却されたということです。不満が残る内容があるとはいえ、勝訴は勝訴です。私は長年多くの訴訟を経験しましたが、裁判とはこういうものです。完全勝訴など、ほんの一部です。M君や弁護士の先生、支援していただいた皆様――マスコミも完全無視するなど圧倒的少数派の中で頑張りました。彼らがよく使う言葉〈マジョリティ―マイノリティ〉の力学では、M君や私たちのほうが圧倒的にマイノリティで、マスコミや多くの知識人らを味方にした李信恵氏らのほうが圧倒的にマジョリティでした。

しかし、M君勝訴をかき消そうとしているかのように、加害者側代理人・神原弁護士や李信恵氏らはリンチ事件を「でっち上げ」と言い狂喜乱舞しています。当の加害者側の李信恵氏や野間易通氏らは大学院生M君の実名を出して攻撃しています。M君はまだ学生、日頃「人権」という言葉を口にしているのなら、いささか配慮がないんじゃないでしょうか。敗訴して狂喜する神経も理解できませんが、はたしてこのリンチ事件は「でっち上げ」なのでしょうか? 被害者M君が何の目的で「でっち上げ」ないといけないのでしょうか? リンチ事件(加害者らはリンチという言葉を殊更嫌うようですので集団暴行事件と言ってもいいでしょう)があったことは、私たちの綿密な調査・取材によって明らかになっています。フェイクではありません。これを私たちは5冊の本にまとめ世に問いました。これに対する加害者側からの反論本などは一切出ていません。「デマだ」「でっち上げだ」と鸚鵡返しにツイートするばかりです。

リンチ(集団暴行)があったことは裁判所も認定しており、激しい暴行は李信恵氏がM君の胸倉を掴んだことが口火になったことも認定されています。李信恵氏は決して清廉潔白ではなく、リンチの最中も、悠然とワインをたしなみ、これをインスタグラムで配信するという神経、さらには瀕死の重傷を負ったM君を師走の寒空の下に放置して立ち去ったという非人間性――到底理解できるものではありません。さらには、いったんM君に渡した「謝罪文」を一方的に反故にし活動再開したことも、人間としていかがなものでしょうか?

◆私たちがリンチ問題に関わった3年余り前を想起する──

2014年12月以来1年以上も経った2016年2月末に、私はこの事件を知りました。被害者M君は村八分にされ、一部の方(一般には無名の普通の市民)のサポート以外には孤立していました。「いくらなんでも、それはないやろ」という素朴な義憤から、まずは被害者救済/支援のために、M君の話をしっかり聞き資料を精査しようということで、最後までご尽力いただいた当社顧問の大川伸郎弁護士と共に面談しました。2016年3月はじめのことです。慎重な性格の大川弁護士は当初難色を示されましたが、鹿砦社の顧問弁護士でもあり、私が押し切る形で受任いただきました。大川弁護士は、ある事件で国選弁護士に就き、それが敗訴し容疑者が実刑になった際に、「自分の力不足で実刑になり申し訳ありませんでした」と容疑者に土下座して謝ったということを、その容疑者本人から聞き驚きましたが、大川弁護士への信頼は、この事例に基づいています。

◆鄭玹汀さんの本質を衝いたコメント

折りに触れて私のFBにコメントを下さる鄭玹汀さんは今回も次のようにコメントされています。──

「以下の記事(引用者注:6月14日、本通信に先立って公開された私のFBの記事)で取り上げられている問題は、今後の日本社会の人権運動において非常に重要です。しかし、関連記事や本を読まない限り、この投稿だけでは理解するのが難しいと思います。
 特に、ヘイト問題研究の第一人者の前田朗氏がこれまで、リンチ事件の主犯について批判してきたのに、その態度を急に変えて、むしろこれまで複合差別と闘ってきた人だと弁護するようになったのは、決して看過することのできない問題だと考えています。
 私はこの問題について、周りに関心を呼びかけても、ほとんどの方々が自分には関係ないことだと見做していたので、内心驚きました。
 これは日本社会を覆う暗雲といっても決して言い過ぎではありません。」

こうした方がおられるのにはとても勇気づけられます。鄭玹汀さんのような方は現在少数派ですが、こうした方の声が徐々に拡がっていくことを望んでいます。

M君リンチ事件の真相究明と被害者救済にご支援を!!

Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B07CXC368T/
鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000541

2013年から始まった「絆」興行も12回目を迎え、日本の各ジムがトレーナー兼選手として招聘した第一線級を退いたタイ選手でも充分なベテラン技でムエタイを披露。日本滞在が長く、勝利者インタビューで日野リングアナウンサーが日本語で感想を聞くと、片言ながら日本語で照れながら「ありがとうございます。また頑張ります」程度の受け答えでもしっかり応えてくれるタイの選手達でした。

ノックアウトを狙うような技は少ないが、ダメージを与えるよりバランスを崩させる技、踏み込んだ前足を払う、蹴ってきた軸足を払う、足を掴んで吹っ飛ばす崩し、突進を拒むジャブのような前蹴り、どこを狙うか分からない素振りからのヒジ打ち、ヒザ蹴り。裏の裏をかくような相手のフェイントを見破ってフェイントを掛ける上手を行く技。若い日本人選手3名はムエタイ戦士の巧みな技に、ムエタイ技術を学ばせて貰ったような実戦での展開。タイ3戦士とも日本に慣れて、日本の選手を育てる役割を果たす、そんな指導者のような存在だった。

追い詰めるとジョッキーレックの左ミドルキックを浴びてしまう誓

組まれると動けない。ヒザ蹴りを喰らう誓

◎絆 Ⅻ
2019年 6月9日(日)
埼玉県春日部市ふれあいキューブ 16:00~20:15
主催:PITジム / 認定:NJKF

◆スーパーフライ級5回戦

ジョッキーレック・DRAGON(タイ/51.9kg)
   VS
NJKFフライ級2位.誓(=飯村誓/ZERO/52.0kg) 
勝者:ジョッキーレック / 判定3-0 / 主審:竹村光一
副審:君塚50-49. 松田50-48. 中山50-48 

蹴り足を取られ、吹っ飛ばされる誓

ジョッキーレックは過去にHIROYUKI、岩浪悠弥、佐々木雄汰といった国内チャンピオンを降してきた実力を持つ36歳。“ジョッキーレック・ポー・ポンスリン”が本来のリングネーム。

18歳の飯村誓がパンチを狙ってもジョッキーレックはスウェーでかわし、接近するとジョッキーは首相撲でしっかり組んでヒザ蹴りを出してくる。組んでから崩し倒すのが上手いジョッキーレック。中間距離では何を出してくるか読み難いムエタイ技に翻弄される誓。

第5ラウンドは勝ちを確信したら下がるパターンは仕方ないが、誓が出てくれば余裕の応戦。ムエタイの奥義見せたジョッキーレックだった。

誓のハイキックを軽くかわす余裕のジョッキーレック

ユットvs日下滉大。ロープ際でユットのパンチを貰ってしまう日下滉大

◆56.0kg契約3回戦

NJKFバンタム級3位.日下滉大(OGUNI/55.9kg)vsユット・ZEROジム(タイ/55.6kg)
勝者:ユット・ZEROジム / 判定0-3 / 主審:多賀谷敏朗
副審:君塚27-30. 竹村27-30. 中山26-30 

初回から積極的に蹴りが出る日下だが、ユットは余裕で見ながら、かわしたり蹴り返したり、更にガードの空く日下へパンチを打ち込むタイミングを見計らう。第3ラウンドには日下は蹴りに行ったところにユットの素早い右ストレート貰いノックダウンを喫する。軽いヒットだがフラフラと倒れ込む。上手さが目立ったユット。更にロープ際で蹴りを出したところへユットの右ストレートを浴びると2度目のノックダウン。倒しきるほどラッシュは控えた感じの大差で判定勝利を掴んだユットだった。

ユットと打ち合う日下滉大

ユットの右ストレートを浴びてしまう日下滉大

ポンと打ち合う吉田凛太朗

◆59.5kg契約3回戦

NJKFスーパーフェザー級7位.吉田凛太朗(VERTEX/59.3kg)
   VS
ポン・ピットジム(タイ/58.4kg)
勝者:ポン・ピットジム / 判定0-2 / 主審:松田利彦
副審:多賀谷29-30. 竹村29-29. 中山28-29 

吉田は正攻法な蹴りで前進気味に攻めるが、ポンは下がり気味でも圧力あるヒットが目立つ。組み合えばポンが吉田の頭をを押さえ付けて優位な態勢に持ち込んでヒザ蹴りを加える。吉田がパンチ連打で出るとポンは距離とって迎え撃つ。吉田のガードが空けばハイキックで顔面をかすめる。僅差ながらポンが上手さで優った。

ポンの右ストレートを浴びる吉田凛太朗

◆女子キック(ミネルヴァ)45.5㎏契約3回戦(2分制)

WPMF日本ピン級3位.田中“暴君”藍(PCK連闘会/45.3kg)vs祥子(JSK/45.3kg)
勝者:田中“暴君”藍 / TKO 2R 1:21 / レフェリーストップ
主審:君塚明 

◆女子キック(ミネルヴァ)48.0㎏契約3回戦(2分制)

アトム級1位.佐藤レイナ(teamAKATSUKI/47.8kg)
   VS
ライトフライ級6位.後藤まき(RIKIX/47.8kg)
勝者:後藤まき / 判定0-3 / 主審:中山宏美
副審:多賀谷28-29. 君塚29-30. 松田28-29 

◆女子キック(ミネルヴァ)スーパーフライ級挑戦者決定トーナメント準決勝3回戦(2分制)

ライトフライ級4位.佐藤”魔王”応紀(PCK連闘会/51.9kg)真美(TeamlmmortaL/51.8kg)
勝者:真美 / 判定0-2 / 主審:竹村光一
副審:中山29-29. 君塚28-30. 松田28-29  

同日、大阪市平野区で行なわれているNJKFミネルヴァ実行委員会西日本主催興行で、もう一方の準決勝で聖愛(魁塾)が楓(LEGEND)を破り、決勝戦は真美vs聖愛となります。

佐藤応紀vs真美。女子キック、ミネルヴァの戦いに勝ち上がった真美

◆55.0㎏契約3回戦

篠田兼一(DANGER/54.9kg)vs NJKFバンタム級4位清志(新興ムエタイ/54.8kg)
勝者:清志 / 判定0-3 / 主審:多賀谷敏朗
副審:中山27-30. 君塚28-30. 竹村27-30 

◆80.0kg契約3回戦

J-NETWORKライトヘビー級6位.中平卓見(北眞館/80.0kg)
   VS
クイック・チョップリー(打撃武道我円/78.0kg)
勝者:中平卓見 / TKO 1R 1:15 / カウント中のレフェリーストップ
主審:松田利彦 

◆ウェルター級3回戦

NJKFウェルター級7位.佐野克海(拳之会/66.68kg)
   VS
星裕久(ワイルドシーサー高崎/66.4kg)
勝者:佐野克海 / 判定2-0 / 主審:君塚明
副審:松田29-29. 多賀谷30-28. 竹村30-28 

◆52.0kg契約3回戦

清水保宏(北眞館/51.2kg)vsナカムラン・チャイケンタ(teamAKATSUKI/51.8kg)
勝者:ナカムラン・チャイケンタ / KO 2R 2:58 / テンカウント
主審:中山宏美

◆スーパーバンタム級3回戦

紺野大(DRAGON/55.1kg)vs雅(クローバー/55.0kg)
勝者:雅 / 判定0-3 / 主審:竹村光一
副審:松田29-30. 中山28-29. 君塚28-30 

大場総vs希望。タイを主戦場に戦うプロボクシングの大場総

◆70.0kg契約3回戦

中川達彦(打撃武道我円/69.6kg)vs謙(PIT/69.0kg)
勝者:謙 / 判定0-2 / 主審:多賀谷敏朗
副審:竹村29-29. 中山28-30. 君塚29-30 

◆ボクシングルール59.0kg契約3回戦

WBCアジア・スーパーフェザー級13位.大場綜(チームバカボン横浜西/58.3kg)
   VS
希望(D-TRIBE/56.8kg)
引分け(3R終了無判定) / 主審:松田利彦

大場綜はJBC管轄下のジムには所属せず、タイで実績を積み上げてきた選手。タイでのインターナショナル・スーパーフェザー級王座も獲得する経験を持つ。日本国内ではキックボクシング系のリングでボクシングマッチに出場している様子。

御挨拶に立つ権守幸男議員

《取材戦記》

今回、リングネームでちょっと不便に思うことがありました。実力を発揮したムエタイ3選手は在日タイ人で、タイで登録されるリングネームとは違った日本式リングネームで出場する場合がありますが、頻繁にリングネームを変えることは、過去の戦歴を調べ難いものとしてしまいます。

ポン・ピットジムは過去“ポンチャン”と言うリングネームで試合しており、来日経験豊富で国内チャンピオンクラスを下すベテラン選手。パンフレット製作者によって作られるものはしっかりインタビューや経歴、過去数戦の戦歴が載せられること多くなりましたが、過去の経歴や来日戦績を公表することは大事だなと思います。

松永嘉之プロモーターの御挨拶

各々の興行プロモーションによってはWebサイトで出場選手の詳しい戦歴・経歴が載せられるところもあるようですが、日本のキックボクシングの団体となる協会や連盟などの集団レベルではルールを基準とした管理・規制が行き届かない問題点。

プロボクシングでは昨年4月より、日本で試合するタイ人選手のリングネームは本名に限定されています。タイ人選手が複数のリングネームを使い分けることや、同一人物で複数の戦績が存在し、実力の無い選手、無気力試合をする選手を招聘する側が審査を逃れる手段であったところ、規制が厳しく改訂された訳です。但し、世界戦を戦うレベルの著名選手が来日した場合は特例でリングネームが認められるようです。

JBCのような管理体制がしっかりしたコミッションなら国内戦績・経歴がすべて管理されるところで、キックボクシング界も現在は団体単位でも、しっかりした体制造りが求められるところです。

マイクを持って立つラウンドガールの未来さん

毎度のラウンドガールを務める未来(みく)さんは今回は珍しくマイクを持ってちょっとだけ御挨拶。次の登場の埼玉県議会議員の権守幸男氏をコール。

権守氏は松永嘉之興行プロモーターと幼稚園からの同級生、とは何度か触れましたが、今回も演説慣れした御挨拶にリングに上がられました。選手が命を削る思いで今日まで練習してきて戦いに挑んでいることに敬意を表された権守氏。いつもは業務に追われ、早々に会場を後にすることもありましたが、今回はゆっくり最後まで観戦・歓談されました。

絆XIIIは来年6月14日(日)と1年後になってしまいますが、春日部パフォーマンスが行なわれます。 

ラウンド板を持ってファンに応える未来さん

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

創業50周年!タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』7月号

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

上條英男『BOSS 一匹狼マネージャー50年の闘い』。「伝説のマネージャー」だけが知る日本の「音楽」と「芸能界」!

M君が上告をしていた対5人裁判で6月12日、上告棄却が代理人に伝えられた(正式決定日は6月11日)。これで大阪高裁の判決が確定することとなり、被告2名に合計114万7,640円(プラス利息)の支払い命令が確定した。

2019年6月12日神原元弁護士の発信

この判決確定までには、かなりの時間がかかったので、あるいは最高裁で弁論が開かれるか、との観測もあったが、大阪高裁判決が確定することになった。「M君リンチ事件」法廷編は、内容的に不充分ながら「M君のほぼ全面勝利」で幕を閉じることになった。

ところが相も変わらず、虚偽発信の印象操作に忙しい人々がいる。判決内容を知らない知人から、「神原元弁護士のツイッターを見たんだけどM君は負けたの?」と問い合わせがあった。

「とんでもない! 負けてないよ。2人に114万円余りの賠償命令が出て『負け』なわけはないでしょ」と回答しておいたが、右記神原弁護士の発信を見れば、勘違いする方々がいても不思議ではないだろう。

参考までに2018年3月19日大阪地裁判決直後の神原弁護士の発信。これを見たら「被告勝訴か」と勘違いする方がいても不思議ではないだろう

神原弁護士は地裁判決後にも「祝勝会」を開く様子を発信し、一部に混乱をもたらしたが、弁護士として、事実と異なる内容を発信するのは問題行為ではないか。しかも、ことは自分が代理人を受任している裁判の判決である。

ネット中毒で何件も裁判で負けている野間易通氏も、C.R.A.C.(何回目にしても、これが「反差別」を標榜する団体の名前とされていることへの違和感は消えない)アカウントから凝りもせずM君(及び鹿砦社)誹謗中傷を発信している。この手の低レベルな人間にはいちいち付き合わないが、問題は数年かけてM君が勝ち取った勝訴を、無きものにしてしまうような悪意と数の力である。

われわれはネット上での連帯や、グループ組織を一切持たない。この期に及んだので明らかにするが、裁判闘争に入る前に、取材班と鹿砦社、支援会の間の議論で申し合わせを行った。それは「M君支援を運動化しないこと」であった。

運動化するとどうしても構成員の中で民主的な意見調整を行わなければならず、それに割く時間と労力、費用は最小限に収めるべきだ、という点で合意を見た。また口頭弁論期日のあとに報告集会を開くべきではないか、との意見もあったが、同様の理由でそれも行わないこととした。

ツイッターへの書き込みでM君から提訴され、11万円の損害賠償判決を受け、M君に賠償金を差し押さえられた野間易通氏の書き込み。嘘満載

例外的に地裁判決、高裁判決後には報告集会を小さな規模で行った。貴重なカンパによって行われる裁判であるから、支援会、鹿砦社は襟をただし、浮かれた気分は微塵もなく最高裁まで闘うことができた。M君からはこの間お世話になった方々への語りつくせない謝辞が伝えられている。取材班、鹿砦社もこれまでご支援頂いた皆様にM君になり替わり、深く御礼と感謝を申し上げる。

皆様、ご協力本当にありがとうございました。

と、きれいに文章を終わりたいのであるが、やはり未だにM君攻撃を止めない中心人物の行動だけは、明らかにしておく必要があろう。仮にこの連中の行動が、日本の法律に抵触しなくとも、連中の行動は重大な「人道上の罪」である。成文法だけで人間は生きているわけではない。法に触れなければいいんでしょ、との言い訳は虞犯者の口にする言葉だ。下記(1)から(8)がリツイートしている人物(団体)、と誰の書き込みをリツイートしているかの一覧である。 

李信恵氏による神原氏・野間氏リツイート

これらのセカンド、サード「ネットリンチ」に手を染めている連中を、読者には是非ご記憶頂きたい。

(1)のりこえねっと=神原氏・野間氏リツイート
(2)ミサオレッドウルフ氏=神原氏リツイート
(3)影書房=野間氏リツイート
(5)香山リカ氏=神原氏・野間氏リツイート
(6)中沢けい氏=神原氏リツイート
(7)有田芳生氏=野間氏リツイート
(8)李信恵氏=神原・野間氏リツイート

いずれもリンチ事件隠ぺいや、事件後のM君攻撃に熱心だった御仁ばかりだ。その他のしばき隊平(ひら)戦闘員も多数、神原氏や野間氏の書き込みをリツイートしている。今回のリツイートで取材班は「のりこえねっと」を「集団リンチ肯定団体」と認定する。

「集団リンチ肯定団体」に「反差別」などを口にする資格はない。大阪地裁で鹿砦社に敗訴した李信恵氏は現在も鹿砦社と係争関係にあるが、M君の対5人裁判の法廷での反省の弁や、「謝罪文」はまったくの出まかせで、まったく反省していないということだろう。あとはいずれ劣らぬしばき隊幹部の面々である。

最後に、普通の日本語理解能力のある方には蛇足ではあるが、再度強調しておく。6月12日、上告棄却、大阪高裁の判決確定により、被告側2名が114万円余りをM君に支払う命令が決定された。どなたにも理解いただけようが、この裁判は「M君勝訴」で幕を閉じた。

(鹿砦社特別取材班)

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

M君リンチ事件の真相究明と被害者救済にご支援を!!

6月11日13時30分から大津地裁で、滋賀医大附属病院泌尿器科の河内、成田両医師が23名の患者さんに施術の実績がないことを伝えずに手術を行おうとした「説明義務違反」の損害賠償を求める裁判の5回目の弁論が開かれた。

滋賀医大病院をめぐっては、仮処分や裁判が立て続けに起こされている。有印私文書偽造の刑事告訴も大津市警察に行われ(告訴状は未受理)、患者会の皆さんが大津地裁に集まる頻度も上がる一方だ。

裁判期日には、毎回開廷前に大津駅前で集会が行われる。この日は北海道からの参加された患者さんの姿もあった。

学長・病院長・泌尿器科河内教授を批判するプラカード

患者会代表幹事の恵さん

集会では患者会代表幹事の恵さんが、
「5月20日に待機患者の治療を妨害するなとの、仮処分命令が下りましたが、どうしようもない言いがかりをつけて病院は邪魔しようと、異議申し立てをしました。そういう輩なのです。我々は一生懸命闘いますが、あの輩には『情けない人種』だとの気持ちも考慮に入れて。力ずくでは黙り込んだ狸のようなものですので、我々の気持ちが届いているのかいないのかわかりません。熱い気持ちは大事ですが、司法、マスコミの協力を得ながら頭を使ってこれからの闘いに望んでいただきたいと思います」
と、滋賀医大幹部の底抜けのどうしようもなさを指摘し、闘いの方針を提示した。

ついで、代表幹事の小山さんがアピールを行った。小山さんは愛知県在住にもかかわらず、毎週のように滋賀医大前のスタンディングに参加されている。実直なお人柄で社会運動などとは無縁であった方とは思われない日常を昨年以来送っておられる。

毎週愛知県から滋賀医大抗議に訪れる小山さんの訴え

「私たちは滋賀医大病院で前立腺がんの小線源治療を受けた患者とその家族です。滋賀医大病院には高リスクの前立腺がんでも95%以上完治させることができる岡本圭生医師がいます。この岡本医師の卓越した小線源を求めて北海道から沖縄まで、全国から多くの患者が訪れています。ところが滋賀医大病院は今年いっぱいで岡本医師を病院から追い出そうとしています。それはいったいなぜでしょうか。

4年ほど前滋賀医大病院泌尿器科の医師が未経験であるにもかかわらず、それを患者に説明しないまま小線源治療をやろうと計画しました。岡本医師はその危険性を指摘し治療を阻止して23名の患者を救ったのです。

しかしこれをきっかけに滋賀医大病院は、泌尿器科、病院長、学長がそろって岡本医師の排除に向けて動き始めました。200名を超える患者の治療予約を一時的に停止させたり、岡本医師の講座を閉鎖するために学内の規則を変更するなど、患者を無視した嫌がらせのような行動をとってきました。これらは、すべて泌尿器科が行った不当医療行為を、組織ぐるみで隠ぺいするための行動です。

また滋賀医大病院は1年半前、岡本医師による小線源治療は、今年の6月末までとし、その後今年の12月末で岡本医師の治療を終了する、と一方的に宣言しました。しかし、先月20日大津地裁の仮処分決定により、今年の11月まで今まで通り岡本医師の治療を継続することが認められました。

ところが病院側はこの決定を守らず、『泌尿器科も小線源治療を行う』として岡本医師の小線源治療枠を一部横取りして、治療妨害を続けています。そして仮処分決定の取り消しを求める異議申し立てを行いました。新聞報道によると申し立ての理由は、『岡本医師の小線源治療が行われると、治療体制の見直しが必要になること、多くの患者が岡本医師の治療を希望して殺到する可能性が高いこと』を挙げているそうです。

全く信じられないような理由です。多くの患者が希望して、裁判所も継続を認めた治療を行うためですから、治療体制の見直しくらい、なぜできないのか。全く理解できません。やる気がないとしか思えません。2つ目の理由『多くの患者が殺到するから治療継続をやめろ』などということは、まともな病院が言うことでしょうか? 患者の命など全く眼中にないということを示しています。患者の命よりも、内部告発をした岡本医師を追い出して自分たちの地位を守ることが大事なんです。そんな泌尿器科の医師、病院長、学長には即刻退場してもらわねばなりません! 

本日泌尿器科の不当医療により被害を受けた患者さんが泌尿器科の医師を相手に起こした裁判の5回目の口頭弁論が行われます。今後、学長、病院長、泌尿器科の医師を法廷に呼び出して証人尋問が行われます。裁判で不当医療の事実を明らかにして、滋賀医大病院が真に患者ファーストの病院に生まれ変わるよう、闘っていきます。

私たちは抜群の成績を誇る、岡本医師の治療を将来の前立腺がん患者にも受けてほしい、と願っています。そのために来年以降も、岡本医師の治療が滋賀医大病院で継続されることを求めています。市民の皆さん、どうかこの事件に注目してください。多くのがん患者の命綱が繋がるよう、ご支援をお願いいたします」

小山さんが事件の発端から今日の状態までをわかりやすく、訴えた。

大津地裁(西岡繁泰靖裁判長)は5月20日、岡本医師の申立てを全面的に認める決定を下した。笑顔で完全勝利のメッセージを掲げる鳥居さん(左)と宮内さん(右)

次いで5月20日の仮処分で治療の機会を獲得した、鳥居さんが「仮処分」勝利のうれしさと、今後の闘いへの決意を語った。集会前に鳥居さんにお話を伺ったら「手術日が決まりました!」と本当に明るい表情で笑顔を見せてくださった。やはり20日に勝利を勝ち取った宮内さんも、鳥居さんと同じ日に手術が決まったそうだ。宮内さんも喜びと、病院側が仮処分に異議申し立てを行ったことへの憤りを表明した。

次いで患者会代表幹事の宮野さんが、力強い檄を飛ばし集会の「我々は最後まで頑張るぞ!」と気勢を上げた。

我々は最後まで頑張るぞ!

この日も法廷内撮影があった。満席になった傍聴席と原告被告、裁判官の様子が2分間毎日放送により撮影されたのち、開廷が宣言された。裁判では被告が準備書面5を、補助参考人(岡本医師)が準備書面2を、原告が被告準備書面5への反論を弁論(書類を確認)した。その後被告代理人が成田医師が2例目に診察した患者のカルテの送付嘱託(裁判所からの依頼のよるカルテ開示)を裁判官に申し出た。原告弁護団長の井戸謙一弁護士は「必要性を認めない」と却下を求めたが、合議体(裁判官)は送付嘱託を認めた。

被告弁護人は「まだ出ていない証拠のメールがあれば出してほしい」と原告並びに補助参考人代理人に要請し、西岡裁判官も「弾劾証拠以外の証拠は出しておくように」と原告・補助参考人代理人に要請した。わたしは西岡裁判官のこの物言いは、やや必要性の域を超えるものではないかと素人ながらに感じた。これで実質的な弁論終結となったが、次回期日も書証のやりとりとなり、被告側が遅延戦術に出ているのではないかとの印象を受けた。裁判所にも夏休みがあるため、休み前の期日で調節が試みられたが都合がつかず、次回は8月22日、15:00からと決定した。

ここで閉廷となったが、裁判官が法廷を後にしたとき、傍聴席前列から声が上がった。「被告代理人は送付嘱託なんかしなくても『不正閲覧』をしているのであるから、必要ないんじゃないですか! 職員も泌尿器科の医者も不正閲覧しているんですから、裁判所に依頼する必要ないんじゃないですか! どこに必要があるんでしょうね。素人でも不思議ですね」。被告代理人はこの発言をした男性を睨みつけながら法廷を後にしていった。

井戸弁護士

14時からは社会教育会館に場所を移し、記者会見が始まった。井戸謙一弁護団長がこの日法廷で行われた内容の解説を行った。

「今日は被告側から準備書面5、岡本医師から準備書面2それから原告から準備書面5が陳述されました。その内容をご説明いたします。被告の準備書面5には大きく言うと3つの点が書かれています。準備書面4で被告は23名の方々に対する治療は、岡本医師を指導医とする『医療ユニット』によって行われようとしていた。だから成田医師が未経験であることを説明する義務はなかった、と主張していました。法廷で我々は『医療ユニット』とはなんなのかと。そんな言葉は今までに聞いたことがないし、『医療ユニット』について説明してくれと求めました。それに対する回答がまず書いてあります「医療ユニットというのは被告らの代理人である弁護士が作った言葉だ」というのが結論です。大学内部でそのような言葉が使われていたわけではありません、ということです。

では『医療ユニット』の内実は何なのかですか、となるわけです。1つは理屈の問題です。小線源治療学講座は泌尿器科から独立した存在ではなく、あくまで泌尿器科の一部なんだと。寄付講座の治療は泌尿器科の治療として行われたし、カルテも泌尿器科のカルテとして管理されていたと。寄付講座で行われていたことはすべて泌尿器科の一部なんだ、ということが書かれています。ここでなぜこのようなことをいう必要があるのかといえば、結局泌尿器科の科長は河内医師ですから、河内医師の指示・命令に従って小線源治療も行われる必要がある。そういうことを言いたいのだと思います。

もう一つは、河内教授が本件寄付講座の『責任教授』であるという概念を持ち出しています。辞令上河内教授は併任教授です。『責任教授』などという言葉は書いてないし、私どもが調べた範囲では滋賀医大において『責任教授』という概念は職制上用いられていないと思いますが、『責任教授』であると。河内教授が『責任教授』であると、岡本医師は特任教授ですから、趣旨としては寄付講座内部においても岡本医師よりも上だということを言いたいのだと思います。

この二つを言ったうえで寄付講座が始まる直前に、岡本医師を希望してきた患者には岡本医師が施術するわけですけれども、そうではない患者、病院内で診断しか結果、小線源治療が適当だとなった患者については、成田医師が担当することにして、それを岡本医師が指導するということにしたと。そのことを岡本医師に指示したら、岡本医師は異を唱えることはなかったということだけです。『医療ユニット』の実態はこれだけです。

これについて岡本医師は「確かにそのような話はあったけれども、それなら自分自身に直接診察させてくれ。自分が診察しないのであれば責任は持てないからそういうことはできない」と言ったと述べておられます。そのことには一切ふれていなくて、河内医師が指示をして、岡本医師は異を唱えることはなかったのだから、そういう体制でやることになったのだと。いうだけのことであって、そのあと現実に多くの患者の治療について成田医師と岡本医師の間にどういうやり取りがったのか。『医療ユニット』の実態があったのか、なかったのかについては一切触れていません。これが一つです。

二つ目は成田医師は二人の患者さんのプレプランをしています。一人目の患者さんの時に自分は『未経験だとは説明しなかった』が、二人目の時に『説明をした』と主張しています。カルテには説明したと書かれている。それは後から後から書き加えられたもので、虚偽記載であると岡本医師は主張しておられます。その点についてプレプラン時に伝えたから、そのあとの原告の方々の治療が予定されていたわけですが、『こういうことにならなければちゃんと伝えていたはずである』ということが2点目。

3点目は法律上の問題ですが、万が一被告らに責任があるとしても、被告らは責任を負わない。免責されると、そういう主張をしています。これは国家賠償法という法律があります。普通の人が不法行為をして、人に損害を与えたときは、その損害を賠償する責任があります。会社などであればその使用者にも責任があります(民法715条)。行為者は709条によって責任があり、会社も個人も責任を負担するわけです。ところが公務員が公務を執行するにつき、不法行為を犯したときには国、公共団体が責任を負うんですね。そのときに公務員個人も責任を負うのかということについては、学者の間で議論があります。日本の裁判所は公務員は責任を負わないという考え方に立っています。

問題は国立大学法人で医療事故があった場合に、民法が適用されるのか、国賠法が適用されるのかということです。もし国賠法が適用されるのであれば、国ないし公共団体が責任を負うけれども、医療過誤を犯した医師個人は責任を負わないわけです。

民法が適用されるのであれば、両方(病院・医師)とも責任を負うわけです。今回国賠法が適用される事案であるから、原告の主張通りの事実があったとしても、被告である河内氏、成田氏個人は責任を負わないという主張をしていました。国立大学附属病院における医療過誤事故はたくさんあり裁判例もいくつもあります。両方適用している裁判例もありますが、だいたい民法を適用するのが普通だといわれています。だから民法が適用されれば当然個人も責任を負うとなります。被告は例外的な裁判例を引いてきて、「個人は責任を負わない」そういう主張をしてきました。

それに対して補助参加人と原告からそれぞれ準備書面を出したわけです。原告の準備書面は『医療ユニット』が形成されたと言いながら、具体的な中身は何もないのではないか、ということと『責任教授』とはどのような概念なのか明らかにしろ。それから二人目のプレプランをした患者のカルテは虚偽記載であるということ。本件のようなケースは国賠法ではなく民法が適用されるべきであること。そういう内容の準備書面を提出して陳述したところです。補助参加人の主張については竹下先生どうぞ(略)

著者注:竹下弁護士からは小線源講座は泌尿器科から独立していたこと。小線源講座設置の設置目的を根拠とした被告への反論、『責任教授』についての見解。発足当時は学長も小線源講座の独立を認めていたことなどが解説された)

準備書面の内容は以上の通りですね。そ例外にきょう行われたこととして、被告から送付嘱託の申し出がありました。1例目、2例目のプレプランをした患者ですね。2例目の方には説明をしたということが書かれている。それが虚偽であるということを参加人から証拠として提出してあるのですが、そのカルテの全体について送付嘱託をしてきました。

1例目、2例目の方は本件の原告ではないのでこれらの方々の症状は本件とは関係がないと思うし、いったい何を立証したいのかよくわからないので「必要性がない」と意見をだしましたけど、裁判所は採用された。次回期日までに出てくるだろうと思います。今後の予定については被告側は次回までにに人証の申請をするということでした。被告両名だけではなくて、学長、院長のほかそれ以外の大学の関係者。それから医学的評価についての証人も検討しているということですので、多数の尋問申請があるのかもしれません。裁判所はベストエビデンスに反するのではないかということで、ちょっと牽制をしていましたけど次回までに明らかになると思います。次回には主張のやり取りが終わって人証が決まって次々回以降本人尋問、証人尋問に入るという運びになるものと思います。以上です」

続いてこの問題を積極的に取材している毎日放送の橋本記者から、弾劾証拠や、この日の法廷の感想、仮処分決定が本訴訟に与える影響についての質問があった。ABCの浜田記者は原告大河内さんに感想を求めた。

滋賀医大への危機感を語る原告の大河内さん

大河内さんは、「長年、滋賀医大にお世話になった立場からすると、非常に信頼しておりました。今回のこの件で『こんなことがあるんだ』と。滋賀医大は医師を育てる大学でしょ。それが(患者を)医師が実験台というかモルモットという扱いをしていることに、非常に憤りを覚えました。私も危うく命を落とすところだったかなと思っておりました。こういうことがあっては今後よくないということで、訴訟に踏み切ったわけですけれども、そのあとの対応がもっと酷くなっていますね。患者の皆さんの命をを見捨てるような行動に出ている。姿勢を正してくれればいいかなと、いうつもりで始めたのですが、医大の3人組というか4人組というか、そういう人たちが変な方向に舵を切っていって、命を粗末にするようなふるまいをしている。こちらのほうが非常に危険を感じ、危機感を持っています。是非とも滋賀医大が医の倫理を取り戻せるように、我々も頑張りたいし、皆さんも一緒に頑張って頂きたいと思っております」

大河内さんのコメントの後、会場から拍手が沸き上がった。

滋賀医大に関する、訴訟や仮処分で大津地裁に足を向けるのは何回目になるだろうか。大河内さんが指摘されたように、一部の人間により大学病院全体がますますダッチロールの度合いを増しているように感じられて仕方がない。何度も強調するが、自分の生活を犠牲にしても患者に寄り添う医師や医療関係者が大多数の滋賀医大附属病院にとって、3人組もしくは4人組は、文字通り悪の権化である。

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《関連過去記事カテゴリー》
滋賀医科大学附属病院問題 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=68

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

創業50周年!タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』7月号

〈原発なき社会〉を目指して 創刊5周年『NO NUKES voice』20号 【総力特集】福島原発訴訟 新たな闘いへ

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

6月4日付け「デジタル鹿砦社通信」(と私のFB)に対して、前田朗教授から「返信(3)」 が届きました。リアクションだけは速いですが、その内容は? というと……。

◆前田教授からの「返信(3)」はゼロ回答! 1項目にも答えず!

6月4日の通信では、前田教授が答えやすいように14項目に整理し具体的に質問項目を提示いたしました。さらに、6月8日に東本高志氏がバクロしたメーリングリストでの私に対する前田教授の陰口についても確認を求めご本人にメールしましたが、これにも触れていません。

これらについては抽象論にならないように、また前田教授が答えやすいように、私なりに考慮し項目を設け質問しましたが、1項目にも解答がないのは誠実さに欠けるとしか言いようがありません。回答しない理由として、「その余の記載は、ほとんどが同じことの繰り返しのため、申し訳ありませんが、私も同じ趣旨のお返事を差し上げることしかできません」と仰っています。果たして「ほとんどが同じことの繰り返し」でしょうか? 例えば「師岡メール」についての質問は今回初めてで、師岡弁護士、および前田教授の「人権」についてのスタンスを問うた質問です。極めて重要です。今からでも、ぜひともお答えいただきたい質問です。

もう一方で、答えない別の理由として、「松岡さんはいつまでも、あれはどうだ、これはどうだ、と蒸し返し、掘り返し、執拗に自説を唱えています」から「他人がこれにお付き合いする理由がありません」と述べられています。学者は逃げる言い訳もうまいものですが、ずいぶんと無責任なものです。この通信の読者のみなさん、そう思いませんか?

また、研究者なのですから見解の発信には「事実」かどうかが不可欠でしょう(研究者でなくとも同様ですが…)。6・4通信の冒頭第1項目に訊ねた前田教授の「リンチ」についての規定と解釈の誤りや事実誤認(直接手を下した者が1人だったとするもの)についても重要なことなので答えていただかないと困ります。ご自身で単独犯なので「リンチではない」と仰っておられ、「リンチ」(私刑)の規定と事実認識を間違われたわけですから、少なくともここだけはご説明いただかないといけないのではないでしょうか?

さらに、東本氏がバクロしたメーリングリストでの陰口など初めて確認を求めるものです。これは図らずも漏れたものですが、前田教授を信頼していた人々を落胆させるに十分な内容でしょう。私もこれを見てわが目を疑い、非常に落胆しました。前田教授の良心を信じていましたので、これが一気に崩れました。

◆新左翼の内ゲバの二の舞にならないように、「今からでも遅くない、背筋を正して事実と責任に向きあうべき」だ!

生来浅学な私には前田教授と論争や論破しようなどという大それた考えはありません。せいぜい前向きな対話をしたかったにすぎませんが、せっかくそのきっかけが見えてきたところでのスルー……これでは問題の前向きな解決に向かうことはできませんよね? 前田教授も、この問題の本質的な解決を望んではいないのでしょうか? この問題に真正面から向き合い反省し教訓化し止揚しない限り近未来的に反差別運動、社会運動、市民運動の中で暴力事件は繰り返されるのではないでしょうか? 

1969年から70年にかけて新左翼の内ゲバで3人の学生が亡くなりました。大変な話で、これを深刻に捉えた、当時京都大学助教授で作家の高橋和巳は雑誌『エコノミスト』に2度にわたり「内ゲバの論理は越えられるか」(『わが解体』所収)を書き、今深刻に考えないと将来に禍根を残すことを訴えました。『エコノミスト』のような経済誌でも、そんな高橋和巳の必死の訴えを掲載するような度量がありました。この後も、知識人らが声明を出したりもしましたが、これらを無視するかのように内ゲバは激しくなり、現在までの死者は100人を越えています。あの時、高橋和巳の提言に真正面から向き合っていたら……との想いが消えません。そうした新左翼の内ゲバの二の舞にならないためにも、前田教授の言葉を借りれば「今からでも遅くない、背筋を正して事実と責任に向きあうべき」なのではないでしょうか?

◆裁判についての私たちの考え方と進行中の3件

前田教授は、「裁判所の判決が確定した以上、通常の法的手続きは終了です」とし、「法的救済を求めたのですから、結論としての判決に従いましょう」と本件からの私たちの退却を求めておられます。以前にも申し上げ恐縮ですが、冤罪被害者や薬害被害者、住民運動などが、訴訟上では負けても負けても「法的救済」を求めて訴訟を繰り返すことに「通常の法的手続きは終了です」「判決に従いましょう」とでも言うのでしょうか?

「李信恵という人格の不可思議」(第5弾本グラビアより)

リンチ被害者M君が加害者(私は直接手を下した者2人のみならずリンチ現場に同座した者全員の連帯責任として加害者という語を使います)5人を訴えた訴訟は、最高裁に上告中でしたが、偶然にも本日(6月12日)、上告棄却の報せがありました。法的には確定しました。

 

李信恵氏の暴言1

しかし、鹿砦社が李信恵氏らを訴えた訴訟など3件はまだ当分続きます。これら4件は、この原稿を書いている段階では確定したわけではありませんでしたから、「判決未確定」を前提で執筆してきました。1件は本日確定しましたが、3件はまだ「確定」していないので、そうそう退却するわけにはいきません。特に李信恵氏が原告となっている訴訟は、鹿砦社に賠償と出版差し止めを求めていますから中途半端にはできません。裁判というものは、油断したら負けますので、私たちもまだまだ本件から退却するわけにはいかないのですよ。

 

李信恵氏の暴言2

現在の私たちにとっては、これら一連の訴訟こそ、前田教授の言葉を借りれば「目の前の最重要事実」です。そうして、これら一連の訴訟を裏打ちする真相究明も必要ですし、本件事件の総括のためにも、私たちはまだまだ老骨に鞭打って頑張っていかざるをえないのです。「正義だ、正義だ、正義だと言わんばかりのその作法」だって!? 仰る相手を間違っていませんか? 「正義は暴走してもいい」などと嘯き、執拗にネットでの被害者バッシングで訴えられ敗訴した徒輩にこそ仰られることではないですか?

おことわり:リンチ被害者M君が加害者5人を訴えた訴訟、最高裁に上告していましたが、本日(6月12日)棄却の報せがありました】

◆私の質問と直接関係のない記述でごまかしたらいけません!

前田教授は、私の質問にはなんら答えず、それでいて後半では私の質問には直接関係のないことを連々述べられています。私には到底理解できません。失礼な例えかもしれませんが、長年、任侠やアウトローを取材してきた、鹿砦社に出入りするライターが、「ヤクザは、本題で旗色が悪いと感じるや、本題とは直接関係のないことや瑣末なことなどを挙げつらって煙に巻く」と言っていました。私には今回の前田教授の「返信」が、同様の性格を帯びていると思われてなりません。

この通信は、莫大ではないものの、少なからずの方々が注目しています。これも試しに何人かに尋ねてみましたが、既にこの間の前田教授の態度は、『救援』の読者からも評価は落ちていますよ。

前田教授の『救援』の論評には大いに勇気づけられました。裁判にも証拠資料として提出もしました。いわく、

「本書のモチーフは単純明快である。反差別運動内部において暴力事件が発生した。反省と謝罪が必要であるにもかかわらず実行犯は反省していない。周辺の人物が事件の容認・隠蔽に加担している。被害者Mは孤独な闘いを強いられてきた。このような不正義を許してはならない」

「本書の問題提起は正当である。ヘイトスピーチは差別、暴力、差別の煽動である。反差別と反ヘイトの思想と運動は差別にも暴力にも反対しなければならない」

「しかし、仲間だからと言って暴力を容認することは、反差別・反ヘイト運動の自壊につながりかねない。本書が指摘するように、今からでも遅くない。背筋を正して事実と責任に向きあうべきである」

まったく異議はありません。名言ですらあります。前田教授は、これらの論評は「訂正の必要を認めません」と仰られていることは救いですが、「仲間だからと言って暴力を容認することは、反差別・反ヘイト運動の自壊につながりかねない」と述べつつ、現実には「暴力を容認」している師岡康子弁護士、辛淑玉氏、李信恵氏らに忖度していませんか? 果たして加害者やその周辺の人たちは「背筋を正して事実と責任に向きあうべき」という前田教授のアドバイスに従っているでしょうか?

私たちは決して無茶なことを要求していません。被害者M君に真摯な謝罪と正当な補償をすべきで、そのためにいったん提出しつつも反故にした「謝罪文」に立ち返るべきだと求めているにすぎません。それはダメなんですか? 私は何度も申し述べていますが、一貫して和解論者です。加害者らが心からそうするのであれば、社会運動の未来のために、暴言が飛び交い暴力がはびこる、現在の「反差別」運動に直接的に参加するつもりはありませんが、本件については条件が整えば和解に向けて汗をかく所存です。

◆メーリングリストの陰口には落胆しました!

一方、東本高志氏がバクロしたメーリングリストでの前田教授は、

〈○○さん
ごぶさた。コメント有り難うございます。
○○さんがアンチ前田とは初めて知りました(笑)。
鹿砦社は危機と乱戦を乗り越え、世界を遊泳してきた強者ですし、
今回は被害者救済という大義名分を手にしていますから、誰も止められません。
対立構図を固定させ、ひたすら「敵」を論難し、
突撃取材でネタをどんどん作り、一種の炎上商法。
権力相手にやってくれるのなら良いのですが、
ターゲットはマイノリティ女性。
日本的ヘイト状況の悲しいネガフィルムを見るようです〉

と述べられています。

これが本音なのでしょうか? 「炎上商法」だって!? 「ターゲットはマイノリティ女性」だって!? 必ずお答えください、前田先生! 私たちは単純素朴に被害者支援と真相究明に関わってきたにすぎません。「炎上商法」―-この表現には私のみならず取材班、私たちの周辺の者一同満腔の怒りを禁じ得ませんでした。「炎上商法」という物言いは、私たちに〈悪意〉を持った、ネット社会でしか生きられない連中の表現と同じですよ! 私たちは特段「マイノリティ女性」を「ターゲット」にしてもいません。

 

加害者エル金のツイート。反省などどこ吹く風

本件は、何度も表明していますが、第一線を退く目前だった私が、事件の凄惨さや被害者の苦境を知り、いわば“最後の仕事”としてもっぱら善意で、採算など度外視してリンチ被害者支援と真相究明に関わったにすぎません。社内外から集まった取材班や支援者らの大半もそうです。「社会運動の将来のためですから」と原稿料や謝礼を辞退してきたライターもいるほどです。そのような私たちの行為を「炎上商法」と前田教授は言い切られました。失礼ですが、前田教授の無礼には呆れます。

目の前に凄絶なリンチを受けながらも、正当な謝罪や補償も受けず、さらには村八分状態にされ苦しみ助けを求めている青年がいるのに、「いや、私たちには君を助けることはできないんだよ」などと言えるでしょうか? 私たちの世代は、日本国憲法や戦後民主主義に立脚した人権意識を植え付けられ、私でさえ人権意識の欠片ぐらいは持っているつもりです。「炎上商法」など頭の隅にもなく、私の人権感覚上も黙過するわけにはいきませんでした。

今でもリンチのPTSDに苦しんでいる被害者を前にして、少なくとも加害者らの心からの謝罪や正当な補償を受けることに力を貸し続けたいと考えていますが、このどこがいけないのでしょうか? 加害者らは「謝罪文」さえ反故にしているんですよ。少なくともこの地点には立ち返ってもらわないといけません。

 

香山リカ氏の小口ビジネスモデルのツイート1

筆者注:本稿が完成し、さあ送稿する段になって、前田教授は「炎上商法」との表現を撤回なさいましたので、今後「炎上商法」の件で前田教授を追及することは差し控えます。しかし本稿執筆から完成の時点で撤回はありませんでしたので、完成した当初の文章をそのまま掲載します。撤回は「友人の忠告」ということですが、この友人の方は、人間としての見識と常識のある方だと思います。こうしたことをもってしても、「炎上商法」という表現が、これと関係のない者にとって、いかに人を傷つけ、問題のある表現だということを前田教授も認識されたものと思います。「人権」を標榜する者なら、これぐらいは常識として認識していただきたかったものです】

 

香山リカ氏の小口ビジネスモデルのツイート2

◆またしても香山リカ氏……

先に前田教授から「炎上商法」という言葉が出てき、また香山リカ氏への言及がありましたので付言しておきますが、香山氏は私たち鹿砦社や、このリンチ事件と訴訟について、非常識極まる珍説をツイートしています。

例えば、私たちが、香山氏宛に質問状と本を送付したことを知った香山氏は「どこに送付したか、ちょっと書いてみては?」とツイッターで私たちに「要請」してきましたので、彼女の「要請」に従い送付先(=自宅住所)を書き込んだところ、すぐに神原元弁護士から削除の要求(電話、ファックス、内容証明郵便のトリプル要求。いかに慌てていたかがわかります)が来たことがありました。香山先生が「どこに送付したか、ちょっと書いてみては?」と言うから、これに応えただけのことです。

 

話題になった「どこに送付したか、書いてみれば?」

このような幼児性が象徴的ですが、私たちにとって、香山リカ氏はその知識・見識・人格において全く信用のおけない人物です。香山氏は、私たちが裁判を起こしてカンパを集め、それを元に出版をし支援者に買わせる「小口ビジネスモデル」をやっているなどと私たちを誹謗しました。この人の鹿砦社に対する物言いは、いつもこういった内容ですので放置しておきましたが、今回前田教授の「炎上商法」と香山氏の「小口ビジネスモデル」は同じ意味ではありませんか? 「のりこえねっと」の皆さんの中では「鹿砦社は『炎上商法』」が共通認識になっているのでしょうか? であれば全く残念至極な事態です。

さらに申し上げれば、『オジサンはなぜ勘違いするのか』など参考にする気にもなりません。天皇制と皇室をこよなく愛する香山リカ氏に、説教されなければならない理由はないからです。「昭和の常識は令和の非常識なのです」などとお気楽な自説を披歴していますが、時間の区切りを「昭和」「令和」と規定する時点で私の関心対象外です。元号がなければ薄っぺらいゴシップも書けないのか、と聞きたいところです。前田教授は、〈さすが香山さんと思わされるのは「もちろん、私も自分が“おとなでステキなオバサン”になれているとは思っていません」と冷静な認識を披露しているからです〉と誉め称えられていますが、散々迷惑を被っている私たちにすれば「それがわかっているのであれば、最低限おとなの振る舞いをしなさい」と言い返したいところです。

この前後の、鹿砦社に対する彼女のツイートと併せ私たちに対する名誉毀損は甚だしいものです。

前田教授の「返信(3)」の最後はその香山氏の著書からの引用で「勘違いオジサンは顰蹙を買うだけです」と結ばれています。私たちは前田教授が引用された香山リカ氏を全く評価していませんので、アドバイスには従いかねます。「勘違いオジサン」でも、たとえ「顰蹙」を買っても、本件の解決に向け更に一肌も二肌も脱ぐ覚悟です。中途半端で退却することは、私の生き方に反しますから―――。

 

リンチ直後の被害者大学院生M君

◆ひとまずの結びとして――

最後に、韓国からの研修員(現在大学講師)で、2015年、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったSEALDs(シールズ)を批判し、本件リンチ事件加害者らに連なる者らから激しいネット・リンチを受け、最近でも私信を悪意を持って公開された鄭玹汀さんの言葉を挙げて擱筆いたします。――

〈大衆の前で「人権」について声高く唱えても、長年「人権」についての本をたくさん出版しても、身近なところで他人を尊重しないのは、砂の上に家を建てるような生き方だ。
私は彼らを憎まないが、彼らの偽善を憎む。
周りの人を心から尊重する名もない人こそ本当に偉い人だとつくづく思う。〉(6月8日付けFBより)

至言です。前田教授はこの言葉をどう思われるでしょうか? 「人権だ人権だ」と言っても、身近の一人の青年の人権さえ蔑ろにする人に人権を語る資格はないでしょう。前田教授は、人権やヘイトスピーチについての著作が多いですが、リンチ加害者らの側の有力な人たちとの繋がりを持ち解決の橋渡しができる立場にいながら、リンチの被害者を見て見ぬ振りをするのならば、人権を語る資格はないということだと私なりに解釈しました。

私はそろそろ第一線を退くことを考えていた、ちょうどその頃、このリンチ事件に出会い、以来3年余りのかなりの時間、資金、労力を、この問題に費やしてきましたが、悔いはありません。「炎上商法」や「小口ビジネスモデル」で儲かったりなどしていませんし、そうするつもりもありませんでした。

ただ、目の前で苦しむ一人の青年を、彼が満足するように救えたかどうかは分かりませんが、私なりに彼の人権を尊重し法的、人道的に救済せんとしてベストを尽くしてきたことだけは確かなことです。「裁判所の判決が確定した以上、通常の法的手続きは終了です」「法的救済を求めたのですから、結論としての判決に従いましょう」――このようは言葉は当事者にとって、戯言にしか聞こえません。

リンチ被害者のM君はリンチの悪夢にうなされPTSDに苦しんでいます。加害者らは、このことがわかっているのでしょうか? 前田教授も、真に人権を考えておられるのなら、彼の人権に目を向け、彼の救済に一肌脱ぐことを考えませんか? これもまた「反ヘイト裁判」同様「目の前の最重要事実」ではないでしょうか? 前田教授は、リンチ直後の被害者の顔写真を見て何も感じないのでしょうか? You Tubeで視聴者が9万人ほどにもなるリンチの最中の音声もお聴きになれば、血の通った人間ならば、特に日頃「人権」を語る者ならば、身の毛がよだつのではないでしょうか?

最後に、この際ですから、前田先生に提案します。この間のやり取りで気づきましたが、前田先生は、私たちが想像していた以上に「カウンター」/「しばき隊」関係者と懇意のようです。また、本件リンチ事件の本質的解決、止揚の作業を放っておけば、この国の反差別運動や社会運動、市民運動に悪影響を及ぼすと思います。そう思いませんか? であるならば、せっかく、誰もが評価・称賛する『救援』紙上での2つの論評を公にし問題提起をされたのですから、ここは和解のために「カウンター」/「しばき隊」関係者と懇意の前田先生、一肌脱がれませんか? いくら机上で立派なことを言っても、それは〈空論〉でしかありません。

私は私で、もう少し老骨に鞭打ちたいと考えています。

【追記】先にも触れましたが、本日(6月12日)、リンチ被害者M君が加害者5人を訴えた訴訟の上告が棄却されたとの報せが代理人弁護士よりありました。これについては、後日あらためて私(たち)の見解を申し述べたいと思いますが、M君は一審、控訴審を通じて一貫して〈勝訴〉していたことを確認します。懲りもしない加害者やこの周辺の人たち、代理人の一人、神原元弁護士らは、さっそく「風説の流布」に余念がないようですが、現実に集団暴行で一人の青年に瀕死の重傷を負わせたという事実、これに対する反省などあるのでしょうか。不満ながらも加害者らに100万円超の賠償金の支払いが確定したことも変わりはありません。これに加え、私たちは闇に葬られようとしていた、このリンチ事件の存在を明らかにしたことを想起すれば、決して負けてはいません。

そして前田教授ならこう言うかもしれない、「最高裁で判決が決定したのですから」と。そうだ! その通りだ! 最高裁でリンチ(私刑)に対する賠償が確定したのだ。

まずは、これまでご支援を賜りました皆様方に心よりお礼を申し上げます。

[参照記事]
◎松岡利康【カウンター大学院生リンチ事件】前田朗教授の豹変(=コペルニクス的転換)に苦言を呈する!(2019年5月23日デジタル鹿砦社通信)

◎松岡利康【カウンター大学院生リンチ事件】前田朗教授の誤解に応え、再度私見を申し述べます(2019年5月28日デジタル鹿砦社通信)

◎松岡利康【カウンター大学院生リンチ事件】「唾棄すべき低劣」な人間がリーダーの運動はやがて社会的に「唾棄」される!~前田朗教授からの再「返信」について再反論とご質問~(2019年6月4日デジタル鹿砦社通信)

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

M君リンチ事件の真相究明と被害者救済にご支援を!!

去る5月30日、中日新聞のホームページで次のような記事が配信された。

滋賀・呼吸器事件、調書作文か
https://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2019053002000078.html

この記事は、冤罪被害者・西山美香さん(39)の再審が近く始まる「湖東記念病院事件」について、報じたものだ。中日新聞本紙では、同日の朝刊一面に掲載されたという。この報道をうけ、私が調べを進めたところ、この「調書作文」の疑惑についても、あの滋賀県警の「問題刑事」が元凶だった疑いが浮かび上がってきた。

◆中日新聞では、疑惑の検察官が実名で登場していたが・・・

確定判決によると、西山さんは2003年、看護助手として勤務していた滋賀県の湖東記念病院で、寝たきりの男性入院患者の人工呼吸器のチューブを外し、殺害したとされ、懲役12年が確定し、服役した。しかし、弁護団の調査により、男性入院患者は「致死性不整脈」で亡くなった可能性が高いと判明し、今年3月に最高裁で再審開始が決定していた。

記事などによると、男性入院患者の人工呼吸器は、チューブが外れて1分が経つとアラームが鳴るが、西山さんの供述調書では、チューブを外してから1分を「数え」、1分が経過する前にアラームの消音ボタンを押し、誰にも気づかれずに犯行を完遂したように記載されていた。しかし、軽度の知的障害と発達障害のある西山さんは、「私は六十まで数えられない」と同紙と弁護団に告白したという。

西山さんは「私は頭の中では、二十までしか数えられません。絶対自分からは、言っていません。裁判でも、きちんと言います」とも語っているそうで、この主張が事実なら、たしかに調書は刑事や検察官による「作文」だとみるほかない。検察官調書を作成した早川幸延検事(現福島地検検事正)は同紙の取材に対し、地検広報を通じ、「コメントはできません」と回答したという。

では、この調書に刑事の関与はなかったのか。同紙の報道をうけ、私が調べてみたところ、またしても名前が浮かび上がってきたのが、あの滋賀県警の山本誠刑事だ。

当欄で過去にもお伝えした通り、山本刑事といえば、脅迫や偽計を駆使した取り調べにより、西山さんを虚偽の自白に追い込んだ疑いがあるが、それだけではない。窃盗の容疑で誤認逮捕した無実の男性に対して取り調べ中に暴行し、特別公務員暴行陵虐容疑で書類送検された余罪もある問題刑事だ。

◆「余罪」もある山本刑事

ここに掲載した調書は、その山本刑事が平成16年(2004年)7月22日に作成したした西山さんの警察官調書だ。このうち、次の部分を見て頂きたい(引用者注 ■は、原本では、男性入院患者の名前が書かれていた部分)。

山本刑事が作成した問題の調書。黒塗りは、男性入院患者の名前が書かれていた部分

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■さんが死んでいく様子を見届けながら
頭の中で次にアラームが鳴り出す
1分まで時間

1、2、3、4
と数え続け、1分前になる前に消音ボタンを
押して、これを2回繰り返し、■さんが
大きく目を
ギョロッ
と見開いた状態で、白目をむき(後略)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

西山さんが頭の中で「六十」まで数えられないというのが本当なら、この調書は、山本刑事が作文したことを疑わざるを得ない内容だ。裁判記録によると、中日新聞の記事に出てきた早川検事の検察官調書は、作成日付が平成16年(2004年)7月25日で、山本刑事の作成した警察官調書より3日遅い。西山さんの供述内容が「作文」だった場合、原作者は山本刑事である疑いが濃厚だ。

山本刑事の悪事については、当欄ではすでに繰り返し伝えているので、知らない人は後掲の関連記事をご覧頂きたい。私は、西山さんの再審では、無罪という公正な結果が出るだけでなく、山本刑事の疑惑もきちんと解明されて欲しいと改めて思わされた。

西山さんに対する山本刑事の取り調べが行われた大津警察署

なお、6月16日(日)には、午後2時より大阪・大国町の「社会福祉法人ピースクラブ」の4階で、西山美香さんを囲む会が開かれ、主任弁護人の井戸謙一弁護士も講演を行うという。詳細は、以下のURLで。
https://twitter.com/hanamama58/status/1137904900724051968

6月16日(日)午後2時より大阪・大国町の「社会福祉法人ピースクラブ」にて冤罪被害者西山美香さん囲む会を開催。詳細はこの画像をクリック。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』(笠倉出版社)。

【関連記事】
滋賀患者死亡事件 西山美香さんを冤罪に貶めた滋賀県警・山本誠刑事の余罪(2018年2月16日)

刑事への好意につけこまれた女性冤罪被害者が2度目の再審請求(2012年10月8日)

創業50周年!タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』7月号

〈原発なき社会〉を目指して 創刊5周年『NO NUKES voice』20号!【総力特集】福島原発訴訟 新たな闘いへ

◆《総力特集》福島原発訴訟 新たな闘いへ

 

本号グラビアより(写真=大宮浩平)

記念すべき『NO NUKES voice』創刊5周年第20号である。

《総力特集》の冒頭は福島原発かながわ訴訟の判決(2月20日)について開かれたシンポジウムの報告、弁護団事務局長の黒澤知弘さんの講演録である。原告175人のうち、当時福島にいなかった原告、まだ生まれていなかった原告、あわせて23人が棄却されたが、152人の原告については基本的な勝訴を勝ち取ったことを、以下の3点で評価した。国の賠償責任が認められたこと、損害賠償金は地域によって差が出た。しかし、避難指定区域外の「ふるさと喪失慰謝料」には差が出た。そして避難指示の有無が判決を左右したことには、指示の合理性がもっと問題にされるべきだという。

つづいて講演した小出裕章さん(元京大原子炉実験所助教)は、裁かれるべきは原発を認めた国の責任であるとして、「技術的には想定不適当」が前提でありながら、立地の基準が大都市ではなく地方であること。「原子炉立地審査指針」に原発の不平等があると指摘。いままた破局事故を前提とした「規制基準」で原発を再開し、海外に売り出そうとしている。いまや原子力ムラは無法で責任を取らない「原子力マフィア」であると喝破した。

崎山比早子さん(3・11甲状腺がん子ども基金代表理事)は、しきい値なし直線(LNT)モデルを社会通念に! と題して講演した。LNT(直線性)とは、放射線が一本通ってもDNAの複雑損傷があり、変異細胞の複製が行なわれる可能性があること。したがって放射能に安全な量はないと解題した。kの点に関しては、崎山意見書に対する研究者17人の反論が、学界主流派の意見に過ぎず、新たな研究成果が出てきていることに注目すべきだという。

さらに村田弘さん(福島原発かながわ訴訟原告団団長)から、裁判で被害者は本当に救済されるか? と題した講演が行われた。記事中に判決の概要(賠償金)の表を収録。判決を左右する「社会通念」は、裁判官の頭の中の通年であって、科学的なデータを退けるものになっている。いや、原発事故後に変わったはずである。

◆「子ども脱被ばく裁判」で被ばく問題の根源を問う井戸謙一弁護士

 

井戸謙一弁護士

「子ども被ばく裁判」に関しては、井戸謙一さんのインタビュー記事である。インタビューでは、福島の被ばく問題のほかに、大間原発に対する函館市の原告訴訟(東京地裁/被告は国)、住民原告の訴訟(函館地裁/被告J・POWER)にも触れられ、函館市長はいわゆる革新ではないが、原発に左右はないと語っている。さらに井戸さんは、湖東記念病院事件(2003年に植物状態の患者の人工呼吸器チューブを引き抜いて、殺人罪で懲役12年の判決)の再審が勝ち取られたこのにも触れている。

◆現地福島の現在と過去を徹底検証する「民の声新聞」鈴木博喜さんと伊達信夫さん

鈴木博喜さん(「民の声新聞」発行人)の報告記事は、「原子力緊急事態宣言」発令から3000日、福島県中通りの人々の葛藤と苦悩である。「もしも、あなたが福島県内に住んでいて、こういう状況(原発事故による 放射能汚染)に直面した場合、自分の奥さんが妊娠したらどうしますか? 産むなと言いますか? そもそも、奥さんが子どもを欲しがったとしても被曝リスクを理由に子作りをあきらめますか?」という問いかけに、イエスかノーか明快に答えられる人がどれだけいるだろうか。この問いを鈴木さんにぶつけたのは、東電を相手取って損害賠償請求訴訟を起こしている「中通りに生きる会」の原告だったという。裁判に密着したレポートは、住民たちの声を生々しく伝える。

伊達信夫さんの連載レポートは、『徹底検証「東電原発事故避難」これまでと現在〈4〉なぜ避難指示範囲は広がらなかったのか』である。テーマを事故当日(3・11)に立ち返って、避難指示および避難行動、政府の動きを詳細に検証している。さらに将来の原発事故にそなえて、100km以上避難することを前提に、準備できることを挙げている。

鈴木博喜さん「『原子力緊急事態宣言』発令から3000日 福島県中通りの人々の葛藤と苦悩」より

◆尾崎美代子さんの飯舘村報告『原子力ムラに牛耳られた村・飯舘村の「復興」がめざすもの』

 

尾崎美代子さん(「集い処はな」店主)「原子力ムラに牛耳られた村・飯舘村の『復興』がめざすもの」より

尾崎美代子さん(「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主)の報告記事は、『原子力ムラに牛耳られた村・飯舘村の「復興」がめざすもの』である。福島県飯館村では、3月の議会において「ふるさと納税」で総額3000万円のブロンズ製ベンチを購入することで紛糾した。菅野典雄村長の肝いりで、これまでに同じ制作者による作品に6000万円がつぎ込まれてきたという。

その一方で、復興の目玉とされてきた道の駅「までい館」は、これまで3900万円の赤字で、村から新たに3500万円追加融資が決まっている。もともと「までい館」はこれといって陳列できる特産品もないのに、赤字覚悟で建設されたものだという。この村長の独善性は、原発ムラの研究者たちの「復興計画」とリンクしているのだ。除染、復興をキーワードに、原子力ムラの研究者たちが自治体を取り込んでいく策謀には驚かされる。

◆本間龍さんが『元号号外を仕切った電通の力と「#自民党2019」』のプロパガンダを読み解く

本間龍さん(著述家)の「原発プロパガンダとは何か? 第15回」は、『元号号外を仕切った電通の力と「#自民党2019」』である。号外にヤフー広告が大きく掲載されていたのは、電通の仕掛けだった。メディア支配をさぐり、アーチストを取り込んだ「♯自民党2019」のHPは、新たな支持層の視野に入れてのものだと、本間さんは指摘する。

◆山崎久隆さん、三上治さん、板坂剛さん、山田悦子さん、佐藤雅彦さんの強力連載陣

山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)のレポートは『重大事故対処施設がないのに運転する原発 福島第一原発事故の教訓はいずこに?』である。新規制基準の問題点が明らかにされている。

三上治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)の『淵上太郎よ! 正清太一よ! ありがとう。僕はもう少しここで闘うよ』は、平成から令和への改元・代替わりを枕詞に、表題の二人、淵上さんと正清さん(テントひろばの代表)への追悼文である。周知のとおり、三上さんをふくめた三人は60年安保の闘士であり、2006年に9条改憲阻止の会で再結集し、3・11以降は福島現地への物資の輸送、経産省前のテントと運動を拡げてきた仲である。

板坂剛さん(作家・舞踏家)の悪書追放キャンペーンは、ケント・ギルバート著「やっと自虐史観のアホらしさに気づいた日本人」(PHP研究所)だ。自虐と被虐をSM文化としてとらえ、日本文化の被虐性が美しい理由を、ケント・ギルバートは理解できないという論点はおもしろい。

山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)の連載は4回目。『わかりやすい天皇制のはなし』だ。天皇の称号が古代中国にさかのぼり、日本がそれを拝借したのはあまり知られていない史実だろう。

佐藤雅彦さん(翻訳家)は『原発と防災は両立しない! 原子力帝国下では「消防防災」組織そのものが“災害源”になるのだ』で原発防災の矛盾を撃つ。

◆本誌5周年20号の歩みとたんぽぽ舎30年の軌跡

 

今年設立30周年を迎えたたんぽぽ舎の共同代表のお二人、鈴木千津子さんと柳田真さん(写真=大宮浩平)

松岡利康さん(創刊時編集長/鹿砦社代表)は『本誌二〇号にあたって』で、本誌創刊当時をふり返る。チェルノブイリの時は対岸の火事のように感じていたが、そのことで3・11では「罪悪感」すら覚えたという。創刊当初の販売の苦労、反原連との絶縁、小島新編集長での再出発、精神的な支柱だった納谷正基さんの逝去など、本誌の歴史が語られている。5年間で20号は、まさに継続は力なりを感じさせる。これを新たな出発点に、わが国で唯一の反原発雑誌の発展を祈念したい。

今号は記念的な記事が重なった。
『たんぽぽ舎〈ヨコの思想〉三〇年〈1〉はじまりの協同主義』は、たんぽぽ舎の共同代表、鈴木千津子さんと柳田真さんの対談で、1979年からの歴史をふり返る。お二人の経歴が興味ぶかい。聞き手は本誌小島編集長。この対談は連載になるようだ。9月22日に「たんぽぽ舎30周年の集い」が開かれるという。

全国各地から現地の声を伝える「再稼働阻止全国ネットワーク」の記事も本号は11本+1本で頁増・盛り沢山だ。というわけで、記念すべき『NO NUKES voice』20号はこれまで以上に充実の内容である。売り切れないうちに、ぜひご購読を。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

本日発売!〈原発なき社会〉を求めて 創刊5周年『NO NUKES voice』20号

NO NUKES voice Vol.20
紙の爆弾2019年7月号増刊 6月11日発売!
A5判 総132ページ(本文128P+巻頭カラーグラビア4P)
定価680円(本体630円+税)

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総力特集 福島原発訴訟 新たな闘いへ
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[グラビア]
なぜ立憲民主だったのか? おしどりマコさん直撃インタビュー/
「日本版チェルノブイリ法」の制定を! 12回目の「脱被ばく実現ネット」新宿デモ/
福島原発集団訴訟──民衆の視座から

[シンポジウム]福島原発集団訴訟の判決を巡って
[講演]黒澤知弘さん(かながわ訴訟弁護団事務局長)
福島原発かながわ訴訟・判決の法的問題点

[講演]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
巨大な危険を内包した原発 それを安全だと言った嘘

[講演]崎山比早子さん(3・11甲状腺がん子ども基金代表理事)
しきい値なし直線(LNT)モデルを社会通念に!

[講演]村田 弘さん(福島原発かながわ訴訟原告団団長)
原発訴訟を闘って──裁判で被害者は本当に救済されるか?

[インタビュー]井戸謙一さん(弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」は被ばく問題の根源を問う

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
「原子力緊急事態宣言」発令から三〇〇〇日 
福島県中通りの人々の葛藤と苦悩

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈4〉
なぜ避難指示範囲は広がらなかったのか

[報告]尾崎美代子さん(「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主)
原子力ムラに牛耳られた村・飯舘村の「復興」がめざすもの

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとはなにか〈15〉
元号号外を仕切った電通の力と「#自民党2019」

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
重大事故対処施設がないのに運転する原発
福島第一原発事故の教訓は何処に

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
淵上太郎よ! 正清太一よ! ありがとう。僕はもう少しここで闘うよ

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
悪書追放キャンペーン 第3弾!
ケント・ギルバート著『やっと自虐史観のアホらしさに気づいた日本人』(PHP研究所刊)

[報告]松岡利康(創刊時編集長/鹿砦社代表)
本誌二十号にあたって

[対談]鈴木千津子さん(たんぽぽ舎共同代表)×柳田 真さん(たんぽぽ舎共同代表)
たんぽぽ舎〈ヨコの思想〉三〇年〈1〉はじまりの協同主義

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈4〉わかりやすい天皇制のはなし

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
原子力帝国下で「消防防災」組織そのものが“災害源”になる

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
九州電、関西電、四国電が特定重大事故等対処施設(特重)の完成が間に合わないと表明! 
日本の原発を止められるチャンスがやってきた!
《首都圏》柳田 真さん/《東海第二》大石光伸さん/《青森》中道雅史さん
《宮城》舘脇章宏さん/《福島》黒田節子さん/《東京》小熊ひと美さん
《関西電力》木原壯林さん/《山口》安藤公門さん/《鹿児島》杉原 洋さん
《規制委》木村雅英さん/《読書案内》天野惠一さん

[報告]水野伸三さん(トトロの隣在住)
 済州島四・三抗争と東学農民革命と長州人―朝鮮近現代史への旅―

[読者投稿]大今歩さん(高校講師)
《書評》『しあわせになるための「福島差別」論』
福島の被曝は「風評被害」ではない 避難の権利の確立を

私たちは『NO NUKES voice』を応援しています!

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