上原真奈が圧倒的に攻める

NOWAYは昨年7月22日に獲得した王座の初防衛成る。馬木愛里と、女子の上原真奈が新たに王座獲得。でもまだまだ中間点の国内下位王座である。

8月18日開催の「KNOCK OUT」興行へ、出場予定選手5名(ぱんちゃん璃奈、今村卓也、安本晴翔、与座優貴、壱センチャイジム)の紹介がありました。このイベントは国内トップ選手が集結する中、皆、「いちばん目立つ良い試合したい」と、ほぼ共通したトップ争いとともに、そこには選ばれてビッグイベントのリングに立つことへの責任感を持つ意識がありました。

各プロモーターが独自路線を行く、世間からは知られ難い小さな興行から、それぞれの兵が選抜されて、大企業がスポンサーとなり、テレビ局が取り上げるほどのビッグイベントのリングに上がり、名を売るパターンが定着した現在。その大舞台を目指す前段階のひとつ、MuayThaiOpenでも、壱(いっせい)は完勝して、このビッグイベント「KNOCK OUT」へ出場し、火出丸(クロスポイント吉祥寺)と対戦予定。

この日、本場タイの二大殿堂のひとつのルンピニースタジアム管轄下となる、ルンピニージャパンの、更に下部となるMuayThaiOpenタイトルを獲得した馬木愛里と上原真奈も、当然更なる上位とビッグイベント出場を目指すことでしょう。

◎MuayThaiOpen45 / 2019年7月28日(日)新宿フェース16:00~20:05
主催:センチャイジム / 認定:ルンピニージャパン(LBSJ)

圧倒する壱だが、ミンクワンも逃げ技のひとつ

◆第12試合 54.0kg契約3回戦

LBSJバンタム級チャンピオン.壱センチャイジム(センチャイ/53.85kg)
   VS
ミンクワン・チュンクエージム(タイ/53.9kg)
勝者:壱(=いっせい)センチャイジム / 判定3-0 / 主審:河原聡一
副審:北尻30-29. 少白竜30-28. 神谷30-28

ミンクワンは下がり気味に、壱(=いっせい)の出方を窺がいながら、接近戦ではヒジをタイミングよく振って来たり組んで転ばそうとして、さすがにムエタイテクニックに長けているが、壱は積極的にパンチと蹴りで前進してミンクワンをロープに追い詰める展開が続き、攻撃力で圧倒し判定勝利を掴む。

先手を打ったり打ち終わりを狙ったり、壱の攻めは強かった

ロープ際でパンチを打ち込む壱

◆第11試合 MuayThaiOpenフェザー級タイトルマッチ 5回戦

左ストレートを打つNOWAY

チャンピオン.NOWAY(NEXTLEVEL渋谷/57.05kg)
   VS
千羽裕樹(スクランブル渋谷/57.1kg)
勝者:NOWAY / 判定3-0 / 主審:田中浩明
副審:河原49-47. 少白竜49-47. 神谷49-48

千羽がローキックを蹴ってきても、奥足へ強く蹴り返すNOWAY。更に手数多く攻める勢いが上回ると、ヒジ打ちで千羽の額を切ることにも成功。

千羽も突破口を開こうとアグレッシブに打ち合いに出るが、NOWAYは冷静にかわし、攻勢を維持したまま判定勝利し、初防衛成功。

常に前進し続けたNOWAYの左ミドルキック

◆第10試合 MuayThaiOpenウェルター級王座決定戦 5回戦

最後の前蹴りでセーンケンのボディーを突き刺す

馬木愛里(岡山/66.2kg)vsセーンケン・ポンムエタイジム(タイ/66.0kg)
勝者:馬木愛里 / TKO 2R 0:56 / 前蹴り、カウント中のレフェリーストップ
主審:北尻俊介

1ラウンドから馬木愛里がハイキック、ローキックのけん制から突き刺すような前蹴り主体で様子を探り、パンチと蹴りの交錯の中、セーンケンは馬木の威力に圧されたまま。前蹴りはかなりプレッシャーを与え、セーンケンは表情に表れずもボディーがやや効いた様子。

第2ラウンドには馬木愛里は狙いを定めたか、再び強い前蹴りをボディーに突き刺すと、セーンケンは耐え切れず倒れ込み、レフェリーがカウント中にストップした。

前蹴りでセーンケンを突き放す馬木愛里

堪らず倒れ込んで追い討ちかける馬木、割って入る北尻レフェリー

まだ通過点の馬木愛里、まだ上位を目指すのは当たり前

◆第9試合 ライト級3回戦

下東悠馬(TSKJapan/60.9kg)vs亜努(新宿スポーツ/63.4kg)
勝者:下東悠馬 / 判定3-0 / 主審:神谷友和
副審:河原29-28. 北尻30-28. 田中30-28

亜努が2.17kgオーバーにより試合中止が検討されるも、特別ルールで行なわれることになった模様。試合は手数足数多いが、強烈なヒットは無い緩やかな攻防の末、順当に下東悠馬が判定勝利。

◆第8試合 スーパーフライ級3回戦

バンサパン・センチャイジム(タイ/51.55kg)vsMASAKING(岡山/51.65kg)
引分け0-1 / 主審:少白竜
副審:神谷29-30. 北尻29-29. 田中29-29

◆第7試合 スーパーフライ級3回戦

白幡裕星(橋本/51.8kg)vsペットウボン・チュンクゥエージム(タイ/51.85kg)
勝者:白幡裕星 / 判定3-0 / 主審:河原聡一
副審:神谷30-29. 北尻29-28. 少白竜30-29

◆第6試合 ウエルター級3回戦 

高木覚清(岡山/66.55kg)vs斎藤敬真(インスパイヤード・モーション/65.85kg)
勝者:高木覚清 / KO 1R 2:26 / 3ノックダウン / 主審:田中浩明

◆第5試合 スーパーバンタム級3回戦 

稔之晟(TSK・Japan/54.55kg)vs森岡悠樹(北流会君津/55.1kg)
勝者:稔之晟 / 判定2-1 / 主審:北尻俊介
副審:田中30-29. 河原29-28. 少白竜29-30

◆第4試合 MuayThaiOpen女子ピン級(100LBS)王座決定戦 5回戦(2分制)

上原真奈(NEXTLEVEL渋谷/45.3kg)vsミレー(ペルー/HIDE/45.35kg)
勝者:上原真奈 / 判定3-0 / 主審:神谷友和
副審:田中49-48. 河原49-48. 北尻49-48

上原が積極的に出て、徐々にパンチと蹴りが増していき、ミレーも諦めない打ち合いに出るが、僅差ながらも展開は上原真奈が攻勢に攻め続け王座獲得。

諦めないミレーとの攻防が続く

◆第3試合 女子フライ級3回戦(2分制)

ルイ(クラミツ/50.5kg)vsRAN(MONKEY☆MAGIC/50.55kg)
勝者:ルイ / 判定3-0 / 主審:少白竜
副審:田中30-28. 神谷30-28. 北尻30-28

◆第2試合 62.0kg契約3回戦 

加藤雅也(TSK・Japan/61.5kg)vs飯島直己(キック・フィットネスOZ/61.7kg)
勝者:飯島直己 / 判定0-2 / 主審:河原聡一
副審:少白竜29-29. 神谷29-30. 北尻28-29

◆第1試合 フェザー級3回戦

山下勝義(クラミツ/56.9kg)vs青木大(キック・フィットネスOZ/56.85kg)
勝者:青木大 / TKO 1R 2:24 / ハイキックでダウン後、右ストレートから連打、ノーカウントのレフェリーストップ / 主審:田中浩明

初防衛し、協力者や応援団に感謝を述べるNOWAY

《取材戦記》

NOWAYは本名の井上の頭の“イ”を後ろにもっていくと“ノウエイ”となることから、バンドマン時代のこのアーティストネームを使っているという。

昨年7月にヒジ打ちTKO勝利でチャンピオンとなり、ベルトを巻いてもらう時、センチャイプロモーターに、「ベルトに相応しいムエタイ戦士になる」と約束したという決意が今回もアグレッシブな前進とヒジ打ちを見せた38歳NOWAYの成長。

日本の統一した王座が存在しない中、この日本国の下部タイトルとしか言えない国内王座は10以上(認定組織)。ひとつの団体で2段階に分かれた上位と下位の王座や、ルール分けした王座があるのはもう異常な状態。

その中で強者を集結させた「KNOCK OUT」のようなビッグイベント興行が幾つか存在するが、段階的に目標となるものが存在して盛り上がることは、昭和の低迷期には想像できない世界が広がっている訳で、時代を経たキックボクシング界の成長なのでしょう。しかし、決して順風満帆とはいかない業界であることは確かなキックボクシング界である。

MuayThaiOpen.46は9月29日(日)新宿フェースにて開催されます。

センチャイジムの若きエース、壱はKNOCK OUT出場

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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◆センター仮庁舎の雨漏りが、どうにも止まらない!

JR新今宮駅前に建つ「西成あいりん総合センター」(以下、センター)は、建て替え工事に伴い、隣接する南海電鉄の高架下に仮庁舎が作られた。その仮庁舎で思わぬ事態が起きている。3月11日の開業からわずか2ケ月で、天井などから雨漏りが始まったのだ。

センター仮庁舎、開業2ケ月で雨漏りが

雨漏りで天井板がはがれた?

5月21日、前日に降った大雨のせいで出来た天井板の大シミを労働者が見つけた。朝には、床に水溜まりもできていたという。シミの付いた天井板は、その日に取り替えられた。

そして同じ場所の天井板が、7月16日、ついにはがれた。夕方には早々と補修作業が行われたが、急いでいたのか、4メートル以上の高所作業なのに、安全帯も付けていなかった。雨漏りはその後も、どうにも止まらない状態だ。

この件については、8月2日第4回口頭弁論が行われた「センター仮移転にかかわる公金支出損害賠償裁判」でも、弁護団が証拠写真を提出し、今後審議する予定だ。

本来この裁判は、仮庁舎の建設費用に費やされた税金の使われ方に不正がないかどうかを争うものだ。南海電鉄の高架下には、センターにあった「あいりん職安」と「西成労働福祉センター」が別々に仮庁舎を建てたが、本来同規模に作られるはずの両施設について、あいりん職安が解体しやすいプレハブ構造であるのに対し、センターは地下6mに鉄骨を打ち込んだ強固な土台に重量鉄骨を使った構造物であり、その違いは一目瞭然だ。

1平米の単価も、センター仮庁舎の方が約1万円も高い。裁判で「それが何故か?」を審理している最中に起きた今回の雨漏り問題。新たに判ったのは、税金7億5000万円を注ぎ込んだ割には、非常にずさんな手抜き工事が行われていた実態だ。

◆「大地震で倒壊」より先に「雨漏りで天井が崩落」?

裁判所に提出された、南海電鉄高架下のボロボロの柱

センターに「耐震性の問題」があるとされ、建て替えを決めたのは、2014年秋から始まった「まちづくり検討会議」後、非公開の密室で行われている「労働施設検討会議」の中でのことだ。

2006年耐震改修法の改正以降、国と府、市は減築法による耐震改修でセンターを使い続けようと議論を続けていた。

にも関わらず「ええい、建て替えてしまえ」と乱暴に建て替えを決めたのは、当時の市長、橋下徹氏だ。センターは縮小するが、機能は残すと、言っていたのに。仮移転先の候補には、三角公園横のシェルター跡地や、あいりん職安分庁舎跡地があったのに、よりによって創業から80年以上経ち、老朽化が懸念される南海電鉄高架下が選ばれたのである。

高架下の工事は、2017年4月10日から始まったが、5月10日から、連日工事現場わきで抗議と監視活動を続けてきた稲垣浩さん(釜ヶ崎地域合同労組)にお話を伺った。

── 仮庁舎が南海電鉄高架下に決まったとき、「あそこで大丈夫か」という話はありましたか?

稲垣 いいえ。決まった時、ガード下に労働者を押し込めようとする目論みに反対したのは、委員の中で私だけでした。

── 工事が始まって以降、ずっと座り込んで工事を見てきましたが、耐震工事や屋根の防水工事はやっていましたか?

稲垣 老朽化した柱や梁(はり)にはコンクリートが脱落し欠けた部分や、大きな穴があいてる箇所がいくつか見えました。梁のひび割れが、南海本線と高野線を横断している箇所もありました。穴のあいている箇所はモルタルで穴埋めしていました。雨による水漏れの疑いのあるひび割れのあるとこれは、ブリキの水受けを作っていました。耐震工事をしていたようには見えませんでした。

── この間の雨漏りは何が原因と考えられますか?

稲垣 雨漏りの原因は、南海電鉄高架下の梁や床の耐震工事や補強工事をしっかりやっていないことと、私たちの税金7億5000万円を使って建てられた仮庁舎の建物の屋根の防水工事も手抜きしているのではないか、この2点が原因と考えています。

◆なぜ仮移転先に、老朽化した南海電鉄高架下が選ばれたのか?

南海電鉄・難波駅の高架下に出来た「なんばEKIKAN」

それにしてもここまで老朽化した南海電鉄高架下を仮庁舎先にわざわざ選んだ理由は何であろうか?

森友学園のように、利権が絡んでいるからではないのか。

例えばセンター仮庁舎を、使用後解体せずに、同じく南海電鉄難波駅の高架下の「なんばEKIKAN」のような商業施設として再利用するとなれば、儲かるのは南海電鉄だ。

現在大阪市長である松井一郎氏は、かつて住之江競艇場の電気保守管理や物品販売などを独占してきた電気工事会社「株式会社大通」の元代表取締役だったが(現在は実弟が代表)、松井氏がしこたま儲けてきた住之江競艇場を経営する「住之江興行株式会社」も、南海電鉄グループの傘下にある。

これ1つ見ても市長の松井氏らが、いかに南海電鉄とwin-winの関係であることかは明らかだ。

◆困った人、弱った人が最後にたどり着く町が釜ケ崎じゃないのか?

暑いお昼に、冷やした飲み物、冷えピタ、塩アメを持って、野宿する人たちをまわる

真夏を思わず暑さとなった5月25日、センター北側で野宿していた労働者が、熱中症と思われる症状で見つかり、その後搬送先の病院で死亡が確認された。

目の前のセンターさえ開いていたら、冷たい水を飲んだり、ひんやりするコンクリの床に横たわったり、シャワー室で身体を冷やしたりして、助かっていたかもしれない。そう思うと、無念でならない。

このセンター建て替え=センターつぶしに反対する闘いは、4月1日から自主管理が続いていたが、4月24、25日、センターから暴力的に排除され、荷物を勝手に出されて以降も、北側の団結テントを拠点にねばり強く続いている。国や府に対して何度も何度も「センターを開けろ!」「荷物を返せ!」と抗議し、話し合いを要求し続けている。

毎日、冷たいお茶、冷えピタ、塩アメをセンター周囲で野宿する40~50人に配りながら、体調や安否を聞いて回る活動、月曜日の「寄り合い」、トイレ掃除などをみんなで行っている。

◆大阪維新の「都構想」にリンクする「西成特区構想」に反対していこう!

西成の「センター建て替え」=センターつぶしは、大阪維新の都構想にリンクする「西成特区構想」を実現させるためのものだ。JR新今宮駅前の一等地を、なるべく広い更地にし(耐震性に問題のない第2住宅を解体、移転するのもそのためだ)、新たな施設の建設を企むが、「青写真」には、センターとあいりん職安の事務所機能のスペースしかなく、労働者がゆっくり休んだり、仲間と談笑したり、困ったとき頼りになるシャワー室、足洗い場、洗濯場などの機能はない。

「まちづくり検討会議」には「労働センターが駅前にドンとあるときれいにならない」と発言した委員もいる。「野宿者汚い! あっちいけ!」とでもいうのか! これこそが、弱い者虐めの大好きな大阪維新と手を組んで進められる「まちづくり検討会議」の実態だ! 釜ヶ崎のセンター潰しに反対し、大阪維新の「西成特区構想」に反対し、弱い者虐めの「維新政治」を終わらせよう!

野宿者が亡くなった場所には花や煙草が置かれた

▼尾崎美代子(おざき・みよこ)https://twitter.com/hanamama58
「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主。

月刊『紙の爆弾』9月号「れいわ躍進」で始まった“次の展開”

〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』20号 尾崎美代子さん渾身の現地報告「原子力ムラに牛耳られた村・飯舘村の「復興」がめざすもの」掲載

昨年の末からつい最近にいたるまで、知人や知人の家族に自然死ではない不幸が重なった。大きく全国に報道された放火事件。あの不幸な事件の犠牲者にも古い知人がいた。

人はいずれ死ぬ。貧富国籍男女を問わず、この結末だけは人類に平等な運命だ。ただ、標準的な人生をおくっていれば70-90年生きられるのが普通なこの国にあって、病気で人生を終えるのと、ある日、自分の意志によらず人生を突如止められる(殺される)のでは、周囲の人々は受け止め方が違う。はじめて事件被害者の関係者になって(事件被害者の家族ではない)その違いをまざまざと感じさせられている。

◆あきれ返るほどの無力感と感情停止

若いころから人並外れて近しい人の逝去や、看取りに直面する機会を得ていたので、少々の事故で亡くなった方の亡骸と事故直後に直面しても、動揺することはなかった。風呂で極寒季に溺死した親戚の亡骸に挨拶をしようと思ったときは検分中の警察が「仏さんお気の毒な姿なので今は控えられた方が……」と気を使ってくれたことがあった。ありがたいけれども不要な気遣いだった。

ある紛争地帯に出かけたときは、目の前で何人もが銃弾で命を落としたし、長い刃物で押さえつけられ首を切り落とされる場面にも、偶然で合した。「ひどいな」と感じたけどもわたしの感性は、常識的な方々と違っているようで、あの場面を見たがために、嘔吐感したり、悪夢にうなされるということもなかった。

自死した若者のサインを受け止められなかったときは、強い自責と悔恨で苦しかった。このたびは、あの気持ちとも違う。上手に自分の内面を表現できないが、言葉すら発せない脱力感で、被害者のご家族にお悔みや、慰め、共感の気持ちを口にすることすらできない。

誤解を恐れずに言えば、犯人への怒りなどこの脱力感に圧倒されて頭をもたげる余地がない。怒りなどのエネルギーは失われ、ひたすら自らの無力と、現実へ投げかける言葉が見つからない思考停止(感情停止かもしれない)した体たらくにあきれ返るのだ。

◆人はなんとなく、「明日」や「未来」を想定している

人は(勿論わたしも)なんとなく、「明日」や「未来」を想定している。いずれ年を取り燃え尽きる日が来ることがわかっていても、病で床に伏している人でも尺度の長短はあれ、突如命が止められることに警戒しながら生きている人は多くはないだろう。

緩慢な殺人はこれだけ悪質で人体に有害であることが明白な食品添加物や農薬、極めつけは放射性物質がばらまかれたこの時代にあって、感度の鈍くない人は当然予期している。予防策だって本気になれば限度はあろうが打つことができる。

逆に、予防も予想もできない「突如の生命停止」、しかも事故ではないある種の人的行為(殺意と言い換えてもいいだろう)がもたらした結果に対して、わたしの場合、怒哀の感情すら湧き上がることがない。

これはひょっとすると圧倒的な瞬時の大量殺戮のあと、生き残った人々にも共通する感情なのではないだろうか、とこの日を迎え想像している。戦地に送り出した家族の訃報を聞けば身内の方々は泣き崩れるだろう。絨毯爆撃ではない小規模の空襲で焼夷弾による火災により家が焼かれれば、被害者は涙を流すだろうし、近所のひとたちは、慰みや勇気を与える言葉が自然に出るだろう。

◆阿鼻叫喚ではなく、静寂が支配していたのではないか

対して、一面を瞬時に焼き尽くし、数万人を押しつぶすかのように圧殺する大量破壊兵器の惨禍のあと、人々のこころの中にはには「悲しみ」や「怒り」を保持できる精神エネルギーが残っているだろうか。虚無に近い状態に追いやられるのではないか。ここのところ直面した卑近な経験から、初めてこのような想像が可能となった。

小さな鳴き声は聞こえる。その声は子供だ。大人は最低必要な会話しか交わさない。「どこへ行ったら水があるかね」、「市内の病院はみな焼けてしまったと?」、「薬はなかかね?」、「包帯だけでも巻いてやってくれんか」……。犯罪のあとには、それが大規模であればあるほど、喧噪ではなく、暗い静けさが支配しているのではないか。犯罪の責任者(ここが重要である)が誰であるかは関係なく。

この犯罪の犯人は、大量殺戮を行ったもの(米国)はもちろん、その状況を招致せしめた愚かな戦争遂行者(大日本帝国)も含まれる(長崎原爆の悲劇だけを注視すれば圧倒的に日本は被害者であるが、その前史、すなわち朝鮮・中国への侵略から真珠湾への道程を度外視しては、この『犯罪』の本質を理解することはできない)。

ひょっとしたら、70数年前のあの日、原爆が投下されて数時間後、人々のあいだでは阿鼻叫喚ではなく、静寂が支配していたのではないか、と勝手な想像がわいてきた。声が出ないほどの「感情停止」を想像していただければ幸いである。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

月刊『紙の爆弾』9月号「れいわ躍進」で始まった“次の展開”

創刊5周年〈原発なき社会〉を目指して 『NO NUKES voice』20号【総力特集】福島原発訴訟 新たな闘いへ

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」が、急遽中断されたニュースを読者諸氏は御存知だろう。しかしわたしが見まわしたところ、この問題の核心を突く分析や論評が見当たらない。そこでこの「予定調和劇」についての私なりの分析を述べたい。

◆首都圏、大阪に続いて形成されてきた「名古屋ファシズム」

まず、現在の愛知県政、名古屋市政がどのように動いているかを知っておく必要があろう。乱暴にまとめれば、石原慎太郎による「首都圏ファシズム」、橋下徹による「大阪ファシズム」に次ぐ形で「名古屋ファシズム」が形成されている。

核となる人物は全身からガマガエルのような雰囲気を醸し出し、公然の場では、わざとらしい名古屋弁を使う河村たかしである。河村は「減税日本」なる地域政党(大阪維新、都民ファーストにその位置づけは似ているが、議員数は少ない)を発足させ「住民税の10%減税」を公約に掲げ、名古屋市長に当選した。

名古屋市長当選以前は衆議院議員だった河村が道連れにして、県知事の椅子に収まったのが大村秀章だ。大村も衆議院議員であったが、所属は自民党。民主党から市長に出馬した河村が自民党の大村と組むのは、いったいどういうことか、との疑念もあったが、これはまったく簡単な構図で、河村はかつて、民社党から自民党を渡り歩いた経験があり、所属党派などよりも自分の実利に目ざといだけの男であっただけのことだ。しかもキャラクターの面で、大村は河村の足元にも及ばない。だから河村は名古屋市長に、大村は愛知県知事におさまったのである。

河村は衆議院議員時代から「本気で総理を目指す男」などと選挙の広告にはアピールしていたが、総理大臣への道は無理であることが分かったのか、「三英傑」出身地、尾張名古屋と実質上は三河地方の執権で我慢することに方針を変える。

「減税日本」を名乗るのであれば、日本中の住民の減税(すなわち国税)の減税に切り込まなければ受益者は当然限られている。が、「減税日本」は国税には言及せず、「住民税の10%減税」という低い到達目標しか掲げなかった。加えて2010年に実施された名古屋市の減税では全体の0.2%にあたる高額納税の企業が44%の減税額を受け取っており、ほとんど庶民に恩恵がなかった。

また、名古屋市民225万人の52%は扶養家族や非課税のため減税の対象外となっている。減税を実施した2010年度の名古屋市の一般会計の予算総額は既存の事業については予算カットや人件費削減には取り組んだものの、生活保護受給者の増加などもあり、1兆345億円で前年度に比べて437億円増える結果となっている。

要するに河村は、石原慎太郎や橋下徹同様、口から出まかせの、いい加減な人間なのである。


◎[参考動画]「河村市長の発言は憲法違反の疑いが濃厚」「不自由展」中止で大村知事(CBC 2019/8/5公開)

◆なぜ「芸術監督」が津田大介だったのか?

さて、そんな河村が実権を握る愛知で8月1日から「あいちトリエンナーレ」がはじまった。2010年から始まった「あいちトリエンナーレ」は自称「国内最大規模の美術展」らしいが、なぜか事前広報には芸術監督として「津田大介」の名前があった。この時点でわたしは、「津田がまた売名を画策しているな。何か起こるな」との予感があった。津田は芸術部門で際立った実績はない。否、芸術だけでなく論評や学術論文でも顕著な業績がないのに、朝日新聞論壇委員や早稲田大学教授の肩書を得ている。まことに不思議な登用である。

津田の論には、目新しいものはないが、目新しい技術や現象を紹介する情報収集技術には長けているようだ(それは津田個人の才能ではなく、津田が会社を所有しているからだ)。しかしそれは学者や新聞の論説を担う人間のする仕事ではない。ワイドショーの放送作家あたりが熱心に取り組むべきテーマだろう。ワイドショーを見下しているのではない(ワイドショーなど、金輪際見ないけれど)。ワイドショーの基準で朝日は定期的に1ページ近くを割く人間を選定してもいいのか、早稲田大学はワイドショーの基準で教授を選任してもいいのか、と疑問がわくのだ。

そしてわたしには津田との間で、決定的な経験がある。「M君リンチ事件」について津田に電話でインタビューをしたことがあるのだが、津田が話した内容を文字お越しして津田に送ると、話していたのとまったく似ても似つかぬ原稿が戻ってきた。「インチキだな」とわたしは確信した(関係ないがあの金髪も気に入らない)。


◎[参考動画]津田大介さんが芸術監督「あいちトリエンナーレ」開幕(CBC 2019/8/1公開)

◆「中止劇」のシナリオは決まっていた?

さて、今回の外見的には騒動の分析である。まず日本が過剰に韓国を敵視して、一層の歴史捏造に熱心なこの時期に「少女像」などを展示することは、「妨害」が簡単に予想ができたことである。

では、津田は脅しや批判があっても展示を続ける覚悟があったのだろうか。鹿砦社の取材にもインチキな原稿を返してくる津田に、そんな覚悟があるはずがない。それどころか、この「中止劇」は確実にシナリオが決まっていたとしか思えない証拠がある。

8月2日、河村が「あいちトリエンナーレ」を視察に行くと発表があった。排外主義者の河村のことだからどうせ否定的なコメントを出すだろうと予想したわたしは、別の用があったので、知り合いのライターに取材を依頼した。

まずは名古屋市役所に電話をして、河村のコメントをとるように頼んだ。ところが名古屋市役所の人間は、市長の秘書や広報ではなく「あいちトリエンナーレ」の実行委員会の電話番号しか案内しなかったそうだ。聞きたい理由と内容を告げているのに、どうして主体が違う「あいちトリエンナーレ」の実行委員会が案内されるのだろう。

新聞によれば1400件を超える脅迫や嫌がらせのメールなどがあったそうだ。放火や爆破を予告するものもあったらしい。こういった場合、主催者は警察に「威力業務妨害」で被害届を出すのが通例だ。しかし開催前に警察と「打ち合せ」をしていたと津田は弁解するが、警察が解析すれば発信者の特定がかなりの確率で可能な「爆破」、「放火」予告メールについて津田は放置したままで、被害届けすら出していない。

そして予想通り河村が「展示は日本人の心を傷つけるものだ」と発表したら、ろくに関係者と打ち合わせもせずに翌3日、大村からの要請もあり津田は「中止」を決めてしまった(そんな権限が芸術監督にあるのかとの疑問もわく)。


◎[参考動画]中止について会見する津田大介氏(朝日新聞社 2019/8/3公開)

注目すべきはこの「破廉恥な判断」を売名に変える津田の感性だ。結果から振り返れば「破廉恥な判断」をしても「恥」とは感じない人間、むしろ前田朗東京造形大学教授の表現を借りれば「炎上商法」で、内容はなくともさらにテレビに映ったり、名前が売れることを優先する人間が「芸術監督」に求められていたのではないか。

こう考えると、作品を創作した方々には気の毒であるが「あいちトリエンナーレ」はそれ自体が「虚構」を基盤に「炎上商法」で日韓関係悪化も利用しようとしていたと感じる。

河村・大村・津田。この3人の猿芝居のシナリオを描いたのは誰だろうか。


◎[参考動画]「あいちトリエンナーレ2019」解説 津田大介 Oil in Lifeより

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

最新刊!月刊『紙の爆弾』9月号「れいわ躍進」で始まった“次の展開”

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

殺人事件としては戦後最大の死者を出した京都アニメーション(京アニ)の放火事件では、青葉真司容疑者(41)自身も重篤な火傷を負って治療中のため、取り調べすらできない状況が続いている。そんな中、「青葉が精神鑑定で無罪になる可能性もあるのでは?」と心配する声がネット上で散見される。

しかし、私は、その心配は無用だと考える。過去、犯人の責任能力の有無や程度が争点にあった重大事件を色々取材してきた経験上、青葉容疑者に刑法39条が適用される可能性は極めて低いと思うからだ。

「青葉容疑者は精神鑑定で無罪?」と問いかけるまとめサイト

◆妄想性障害の殺人犯も犯行を「元来の性格」のせいにされて死刑

刑法39条では、責任能力(物事の善悪を判断し、それに従って行動する力)がない「心神喪失者」の行為は処罰せず(第1項)、責任能力が著しく減退した「心神耗弱者」の行為は刑を減軽することが定められている(第2項)。だが実際には、日本の刑事裁判で重大事件の犯人が刑法39条により無罪になったり、刑を軽くされたりするハードルは非常に高い印象だ。

たとえば、2013年に山口県周南市の山間部で起きた5人殺害事件。犯人の保見光成は近隣住民5人を木の棒で撲殺し、うち2家族の家に火を放つなどしたとして殺人や放火の罪に問われた。しかし裁判では、無実を訴え、それと共に被害者たちから「嫌がらせ」を受けていたと主張した。

ただ、保見が主張した「嫌がらせ」の被害は、「寝たきりの母のいる部屋に、隣のYさんが勝手に入ってきて、『うんこくさい』と言われました」などという現実味のないものばかり。私は一、二審の審理を傍聴したが、保見は「被害妄想」にとらわれているとしか思えなかった。

事実、精神鑑定を行った医師2人のうち1人は、保見が「妄想性障害」だと結論。もう1人の医師も、保見は思い込みやすい性格を持つ「被害念慮」だと判定していた。これらの鑑定結果を額面通りに受け止めれば、保見は少なくとも「心神耗弱」と認定されてもおかしくないはずだが・・・結果、保見は一審・山口地裁で死刑を宣告され、控訴、上告も棄却され、死刑が確定した。

山口地裁の大寄淳裁判長が保見の完全責任能力を認めたロジックは次のようなものだった。

「被告人の妄想は、犯行動機を形成する過程に影響したとは言えるが、報復をするか、報復をするとしてどのような方法でするかは、被告人が“元来の性格”に基づいて選択したことだ」(一審判決より)

妄想から犯行に及んだとしても、それは被告人の「元来の性格」に基づく選択だというこのロジックを使えば、犯人がどんなに重篤な精神障害者でも完全責任能力を認めることができそうだ。

◆責任能力を判断するのは精神科医ではなく、裁判官や裁判員

私はこの保見以外でも、加古川7人殺害事件(2004年)の藤城康孝、大阪此花区パチンコ店放火殺人事件(2009年)の高見素直、淡路島5人殺害事件(2015年)の平野達彦など、責任能力の有無や程度が争点になった死刑求刑事件の犯人と面会したり、その裁判を傍聴したりしてきた。私には、この誰もが責任能力など到底認められない重篤な精神障害者に思えたし、実際、精神鑑定でもそのような結果が出ていた。しかし結局、誰もが裁判では、保見と同じようなロジックで完全責任能力を認められ、死刑とされたのだ。

では、精神鑑定で責任能力を否定しているように受け取れる結果が出ているのに、なぜ、完全責任能力が認められるのか。それは、精神鑑定を行うのは精神科医だが、裁判で責任能力の有無や程度を判断するのは裁判官と裁判員であるためだ。裁判官や裁判員が「この被告人に相応しい刑罰は死刑しかありえない」と思えば、強引なロジックで責任能力を認めることができるわけである。

◆統計的にも「殺人犯が心神喪失で無罪」は極めてマレ

実際、法務省の犯罪白書を見ても、直近5年に裁判の一審で心神喪失による無罪判決を受けた被告人は、2013年が3人、2014年が6人、2015年が5人、2016年が4人、2017年が6人と毎年ひと桁にとどまっている。新聞報道などで調べたところ、この中に殺人犯は3人いたようだが、うち2人は刑罰が軽くなる傾向がある「家族間殺人」のケースだった。

つまり、家族以外の者を殺害し、心神喪失による無罪判決を受けた殺人犯は直近5年に1人しかいないのだ(ただし、現時点で犯罪白書に掲載されていない事件まで含めると、今年4月、殺人罪に問われた被告人が東京高裁で心神喪失を認められ、無罪判決を受けている)。

報道によると、青葉容疑者は犯行直後、警察官に「小説をパクられた」と語っていたそうで、京アニが自分の小説をパクって作品を制作したという「被害妄想」を抱いている可能性もあるようだ。だが、その程度のことで無罪判決が出るほど、日本の刑事裁判は被告人に甘くない。他方、検察が殺人犯を心神喪失と判断し、不起訴にするケースは少なくないが、検察という組織の性質からして、京アニ事件のような特大級の重大事件でそのような選択をするとは考え難い。

青葉容疑者は火傷が重篤なようだが、無事回復すれば、検察と裁判所、裁判員が死刑にする公算が大きい。

青葉容疑者は、「京都アニメーション大賞」という京アニの小説公募に作品を寄せていたという情報もある

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。「平成監獄面会記」が漫画化された『マンガ「獄中面会物語」』(著・塚原洋一/笠倉出版社)が8月8日発売。

7日発売 月刊『紙の爆弾』9月号「れいわ躍進」で始まった“次の展開”

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

たとえば動画サイトで政治色の薄い、ジブリの作品のサウンドトラックの感想に「〇〇初めての夏」、「××はあっという間に終わって」など元号が何の躊躇なく書き込まれている。わたしは元号は言うに及ばず天皇制を絶対に容認できないし、嫌悪するから上記○○、××に該当する元号を書くことを遠慮する(この思いは山本太郎氏が新しい政党を作り上げ、そこに現在の元号名を取り入れて以来さらに増している)。

きょうがどんな日かは、あらためてわたしが述べるまでもない。人類史上初めて、米国により非戦闘地域に大量殺戮を企図し原子爆弾が投下された日だ。

その日、夏休みとはいえ、高校生は軍需工場で働かされていた。だからわたしの母親や祖母は広島中心部から幾分離れた場所に疎開をしていたけれども、母の兄、すなわちわたしの伯父たちは広島市内に残っていた。ある伯父は原爆投下時に爆心地から数キロの下宿におり、焼かれても不思議ではなかったが、下宿が崩壊し下敷きになり死ぬことはなかった。

伯父は級友全員が死亡し、彼だけが生き残ったことを数日後に知る。

後に上場企業の副社長の地位にまで昇進しても、伯父は気取ったり威張ったりすることはなかった。元はアルコールに強い体質ではなかったが、商社に勤務し仕事上の付き合いなど、仕方なく我慢したのだろう。

叔父は酔うと無茶苦茶に陽気になる性格に変わっていた。でもそんな伯父が酒の入らないときに「敏夫ちゃん。テンコロ(天皇を揶揄する彼独自の表現)なんかに騙されたら、あかんよ。」

「伯父さんたちは勉強もできずに工場で働かされて、その挙句に原爆落とされて、同じクラスの友達全員死んじゃった。なのにテンコロはクソ偉そうに、いまでも崇め奉られている。国民は馬鹿かと思うね。象徴天皇制なんて、天皇のおかげで殺されかけた、おじさんには到底受け入れられませんよ。あたりまえだろ?」

「この間も丸の内のあたりに警察官がたくさんいて、交差点が渡れない。『どうしたの』って警察に聞いたら『天皇陛下のお出ましです』っていうから、伯父さん、警察無視して、堂々と交差点渡ってやったわ。なにが『天皇陛下』だ! どの面下げて未だに生きてるんだ! あいつは!」

繰り返すが、伯父は政治的には決していわゆる「革新」志向の人間ではなかった。全く左翼でもなかった。「労組が無茶な要求を出すから腹立つんよ!」と愚痴を聞いた記憶もある。

でも「なにが『天皇陛下』だ! どの面下げて未だに生きてるんだ! あいつは!」を昭和天皇が死ぬ前に何回聞かされただろう。商社マンとして、武器輸出三原則に違反して台湾や韓国に武器部品の一部を売ったことがある、とこっそり教えてくれた叔父。

「それ日本の国策違反じゃないですか?」と若かったわたしが真顔で抗議すると「敏夫ちゃん。世の中には『表と裏』があるんだよ。武器部品は儲かるの!」とニッタり笑いながら小さい声で、わかったような、わからないような理屈を並べてもくれた。

「伯父さんは原爆にあって、天皇許せないけど、戦争は平気なの?」と聞くと「戦争は絶対反対だよ。でも戦争をしないための武器(たぶん冷戦時代だったのでそのことを意味していたのだろう)もあるからね。テンコロは許さないよ! 絶対!」

その伯父が逝って何年になるだろう。このようにわたしの個人的な体験や、見聞きしたことを綴ったところで「原爆」の恐ろしさと、犯罪性の伝承にはほとんど力などないだろうと本心では感じている。

毎回安倍の出席により汚される「広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式」(広島平和記念式典)。選別され「危なくない」発言をする人だけが許される、遺族のスピーチ。そして70何回を超えて、はっきり言えば「恒例行事化」してしまっている締まりのない8月6日。福島第一原発では相変わらず「原子力緊急事態宣言」が出されている中、あなたはきょうなにを考え、なにをなさるのだろう。

※注釈:本文中の「テンコロ」との表記につき、読者の方から「差別的表現ではないか」とのご指摘を頂きました。本文中でも述べておりますが、「テンコロ」が差別に当たるかどうかはよくわかりません。少なくともわたしの伯父は、韓国、台湾での駐在も長く(中国語、韓国語が流暢でした)、アジアに対する差別感覚はまったく持ち合わせていませんでした。機械専門商社の副社長に就任し、次期社長が確実視されていた中、50過ぎで膵臓癌を発症し2か月で亡くなってしまいました。
 戦中・戦後中国の方を見下す「チャンコロ」との侮蔑表現がありました。「チャンコロ」の語感が伯父の頭の中にあったのか、なかったのかはわかりませんが、伯父の性格からすれば、おそらく「チャンコロ」とは無関係に自分で「テンコロ」と命名したのではないかと思います(とはいえそのような事情であっても差別表現は批判の対象になることは承知しております)。
 以上ご指摘を頂きましたのでわたしの見解を付言させていただきます。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

7日発売 月刊『紙の爆弾』9月号「れいわ躍進」で始まった“次の展開”

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

創刊5周年〈原発なき社会〉を目指して 『NO NUKES voice』20号【総力特集】福島原発訴訟 新たな闘いへ

ついに安倍政権が、韓国に経済戦争を宣言した。韓国の「ホワイト国待遇」が解除され、輸出規制(手続きの厳格化)が本格化したのだ。

文在寅(ムンジェイン)大統領は2日午後、臨時の閣僚会議を開き、安倍政権の措置にたいして「とても無謀な決定であり、深い遺憾を表明する」「今後起こる事態の責任は全面的に日本政府にあることをはっきり警告する」と語った。今後の対応についても言及し「相応する措置を断固としてとる。日本は経済強国だが、対抗できる手段は持っている」と訴えた。

また「加害者である日本が、盗っ人たけだけしく、むしろ大きな声で騒ぐ状況は絶対に座視しない」と強い言葉で非難したという(朝日新聞社)。WTOへの新たな提訴も表明し、日韓の軍事情報を凍結するとの報道もある。韓国からの軍事情報がなくなれば、北朝鮮のミサイル情報も入らなくなる。国民は無防備のまま、北のミサイルの脅威に晒されることになる。安倍総理はそこまで覚悟しているのだろうか?


◎[参考動画]韓国「経済戦争への宣戦布告だ」ホワイト国除外に(ANNnewsCH 2019/8/2公開)

◆見え見えの報復措置

日本政府は相変わらず「韓国の貿易手続きに問題があるのであって、徴用工問題への報復ではない」(菅官房長官)としているが、そうであるならば徴用工問題に関する韓国司法の決定を「尊重する」との表明がなければおかしい。事実はそうではなく、河野外相が「(徴用工問題に対する)韓国の対応がすべてだ」(2日ASEAN外相会議後の談話)と語っているのだ。

街頭でも反日の抗議運動が大きくなっている。ソウルの日本大使館前では2日、除外決定に抗議するデモが行われ、参加者からは「経済的侵略だ」と日本を非難する声が上がった。非政府組織(NGO)「韓国進歩連帯(KAPM)」のパク・ソクウン会長はホワイト国除外への抗議について、日本に対する「韓国の第二次独立運動」へと発展していると述べた。日本製品の不買運動、日系店舗のボイコットは言うまでもない。抗議運動が単なる「反日」ではなく、反安倍運動になっているところに、このかんの特徴がある。

この第二次独立運動が韓国経済の強化につながり、日本経済も新たな省力化や製品の向上につながればよいが、かならずしもそうではない。民間交流と観光産業に軋みが生じている。


◎[参考動画]【報ステ】“ホワイト国”除外 韓国が対抗措置明言(ANNnewsCH 2019/8/3公開)

◆観光業への打撃

日本国内では、すでに航空便の無期限運航中止が相次ぎ、中高生などの民間外交も道をふさがれてしまっているのだ。学校・教育現場では「大人の政治の都合で、韓国の人々との交流が中止になるのは残念だ」という声がひろがっているという。対馬での祭りに毎年参加していた朝鮮通信使の船は、今回の経済摩擦のあおりをうけて渡航中止となった。人口3万人の島に、数十万人の韓国人観光客が訪れていたものが、今年は数千人レベルしか見込めないという。よってもって、対馬の宿泊施設や土産物屋は、数百億円の損害が見込まれているというのだ。

政治家の好戦的な「経済戦争」の結果、泣きをみるのは庶民である。政治家(安倍晋三)のいら立ちが経済戦争を勃発させ、日本国民の経済生活に打撃をあたえている格好だ。そもそも安倍政権の経済再生策は、年間3千万人来日観光客という観光立国がその柱ではなかったのか?

◆戦争をやりたいのか? 政権を倒すのが目的なのか?

そして問題なのは、外交交渉の見通しのなさである。今回の輸出手続きの厳格化(経済制裁)は、安全保障上の安全の確保を口実にしているので、外交交渉の余地や落としどころがない。行くところまで行く、つまり韓国文政権が音を上げるまで「粛々とすすめ」られて、終わらないのだ。

「文政権が音を上げる」とは、文政権が倒れるという意味である。なぜならば、韓国の大統領制度は「内乱・外患」によらないかぎり、逮捕されることも訴追されることもない、絶対的な大統領特権を持っているからだ。そして任期3年を残している文政権が倒れるということは、何らかの要因で「内乱・外患」が生じることになる。すなわちクーデターか革命、外国の侵略が起きるということにほかならない。いまの安倍政権に、そんな準備があるのだろうか?

父親が日本の陸士卒で満州国陸軍将校(朴正煕)だった、親日派の朴槿恵政権が相手ですら、安倍総理は満足に外交関係を築けなかったのである(首脳会談は開かれず)。いまのところ、日本政府が韓国に友好的な政治勢力を持っているとは思えない。戦争をする度胸(やったら大変なことだが)があるとも思えない。

臨時国会も開幕したことである。安倍政権は戦争(文政権打倒)をしたいのか、それとも何の目論見もなく無謀な経済戦争に踏み切ったのか、いまこそ国民の前に明らかにすべきである。


◎[参考動画]韓国の「ホワイト国」除外 麻生大臣の反応(ノーカット)(テレ東NEWS 2019/8/2公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

安倍晋三までの62人を全網羅!! 総理大臣を知れば日本がわかる!!『歴代内閣総理大臣のお仕事 政権掌握と失墜の97代150年のダイナミズム』

創業50周年!タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』8月号

新人の域を越え、日本ランカーを倒すまでの出世は早くても、ムエタイの壁には撥ね返される選手は多い。今年、飯村誓はタイ選手に2連敗して更に今回、タイでの戦歴が多い儀部快斗と対戦。

◎DUEL.19 7月21日(日)大森ゴールドジム17:15~19:35
主催:NJKF若武者会 / 認定:NJKF

◆第9試合 メインイベント スーパーフライ級3回戦

誓の前蹴りをキャッチする儀部快斗

NJKFフライ級2位.誓(=飯村誓/ZERO/51.8kg)
   VS
儀部快斗(エクシンディコンJapan/51.75kg)
勝者:儀部快斗 / 判定0-3 / 主審:竹村光一
副審:少白竜28-30. 宮本28-30. 君塚29-30

初回のパンチとローキックの様子見から、誓の打つタイミングを見計らって儀部快斗が蹴るタイミングなどリズムを作っていく。

第2ラウンドには儀部快斗がヒジ打ちで誓の右目尻を小さくカットさせ、誓にやや心理的に影響あるかに見えたが、誓はアグレッシブに攻めるも、儀部快斗が主導権を握った展開は変わらず、的確さで優った判定勝利。

儀部快斗の右ハイキックと誓のローキックが交錯

しぶとさではマリモーが上、パントリーが攻め倦む

◆第8試合 セミファイナル スーパーライト級3回戦

NJKFスーパーライト級5位.マリモー(キング/63.4kg)
   VS
NKBライト級5位.パントリー杉並(杉並/62.75kg) 
勝者:パントリー杉並 / 判定0-3 / 主審:中山宏美
副審:少白竜28-29. 宮本29-30. 竹村29-30

パンチとローキックのアグレッシブなパントリー杉並の攻勢も、しぶといマリモーの打たれ強さと返し技のローキックがしつこい。

第2ラウンドにはマリモーがヒジ打ちをヒットさせ、パントリー杉並の右目尻を小さくカットしたが、影響はほぼ無さそうで攻防は激しくなり、パントリー杉並の連打で出る勢いは衰えず、僅差ながら判定勝利。

パントリー杉並の連打でマリモーを圧倒

パントリー杉並がアウェイで勝利

◆第7試合 68.0kg契約3回戦

NJKFウェルター級3位.JUN DA雷音(E.S.G/67.35kg)vs渡邊知久(Bombo freely/67.6kg)
勝者:JUN DA雷音 / 判定3-0 / 主審:君塚明
副審:少白竜30-29. 中山30-29. 竹村30-29

◆第6試合 フェザー級3回戦

NJKFフェザー級7位.小田武司(拳之会/56.75kg)vs?太朗(DTS/57.1kg)
勝者:小田武司 / 判定3-0 / 主審:宮本和俊
副審:君塚30-29. 中山30-28. 竹村29-28

◆第5試合 フライ級3回戦(2分制)

EIJI(E.S.G/50.8kg)vsRISING力(己道会/50.6kg)
勝者:RISING力 / 判定0-3 / 主審:少白竜
副審:君塚28-30. 中山29-30. 宮本28-30

◆第4試合 58.5kg契約3回戦(2分制)

上田祐也(E.S.G/58.45kg)vs田中崚(VALLELY/58.05kg)
勝者:上田祐也 / TKO 3R 0:45 / 主審:竹村光一

互いの左ストレートの相打ち気味に、上田がクリーンヒットさせ、田中を一発で沈めレフェリーがストップした。田中崚は暫く立ち上がれないダメージで、一瞬で終わる怖さの試合だった。

上田祐也と田中崚のパンチが交錯した瞬間

倒された田中崚は暫く動けなかった

◆第3試合 女子キック(ミネルヴァ)スーパーバンタム級3回戦(2分制)

菅原麻子(トイカツ/55.1kg)vsKAEDE(LEGEND/55.05kg)
勝者:KAEDE / 判定0-3 / 主審:中山宏美
副審:竹村28-30. 少白竜27-30. 宮本27-30

◆第2試合 女子キック(ミネルヴァ)45.0kg契約3回戦(2分制) 

ピーポー梨乃(STRIFE/44.1kg)vs七瀬千鶴(138KICKBOXING/44.95kg)
勝者:七瀬千鶴 / TKO 1R 0:28 / 主審:君塚明

七瀬の左ミドルキックで苦痛の表情を浮かべた梨乃はしゃがみ込むとそのままレフェリーストップされた。

七瀬千鶴の左ミドルキックがピーポー梨乃のボディーにヒット

◆第1試合 女子キック(ミネルヴァ)アトム級3回戦(2分制)

亜美(OGUNI/46.0kg)vs愛裟(PON/45.5kg)
勝者:亜美 / 判定3-0 / 主審:宮本和俊
副審:竹村30-28. 君塚30-28. 中山30-27

儀部快斗もアウェイで判定勝利

《取材戦記》

この日、都内でビッグイベント興行が重なる中、単にいちばんお付き合いの縁が深いだけのNJKF若武者会主催のDUELプロ興行に訪れました。

しかし、16時30分開始予定のプロ興行が45分遅れの17時15分開始。アマチュア試合が朝10時開始で108試合あったようで、タイムスケジュールの組み方に最初から無理があるように感じられました。

先月の松谷桐vs仲山大雅戦同様に、年齢的に高校生vs大学生の構図となる誓vs儀部快斗戦。歳の差は3歳差でも18歳と21歳では大きな人生経験の差があるように感じられました。

その儀部快斗は、5月12日の石川直樹にヒザ蹴りの猛攻で敗れた試合から復活。飯村誓にとってはすぐ先の目標となるNJKF王座は、今年18歳となる者同士の松谷桐がNJKFフライ級チャンピオンである以上、挑戦する日までこれ以上の連敗は避けたいところ。“誓”が正式リングネームですが、文中、意味を間違いやすいので本名で載せています。

パントリー杉並は、ホームリングとなる日本キック連盟興行でもパンチ主体のアグレッシブな試合で、徐々にランクを上げていた。マリモーは華やかさは無いがシブとく打たれ強い。こんなタイプは昔にも居たなあと思う二人の戦いだった。

リングネームの由来をいつか聞こうと思っていたが、この日の試合を前にNJKFの公開インタビューで、「“パントリー”はお笑いの養成所に通っていた頃のコンビ名」と発表されていた。昨年はKOによる連敗があり、トップクラスに躍り出ることはなかなか難しいが、打たれないこと重視して今後の上位挑戦に期待したい。

マリモーのリングネームは“何となく”付けたそうだが、これはキングジムの向山鉄也会長の仕業っぽい気がする。変なリングネームいっぱい付けてきた人だから。今度改めて聞いておきましょう。

NJKF次回興行は9月23日(月・祝)に後楽園ホールで「NJKF 2019.3rd」が開催されます。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

創業50周年!タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』8月号

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

上條英男『BOSS 一匹狼マネージャー50年の闘い』。「伝説のマネージャー」だけが知る日本の「音楽」と「芸能界」!

NHKから国民を守る党HP

立花孝志(NHKから国民を守る党)は、具体的なことを言う。たとえば消費税廃止を訴えても、できる可能性が低いならスローガンには掲げない。そこで、NHKの受信料徴収に反発する層に、まず具体的に訴える。

地方選挙で「NHKから国民を守る党」のチラシを見た方はわかると思うが、NHK撃退シールやNHK受信料徴収員の撃退法、NHKからの被害相談に乗るという、具体的なものなのだ。ここに参院選挙で議席を得た選挙手法がある。誰がやっても変わらない政治のなかで、変えてくれる可能性がある。

NHK受信料を強制されたくない、NHKの放送内容に不満がある。これを具体的にやってくれるのがN国党であり、立花孝志代表というわけだ。26人の地方議員(2019年統一地方選挙)を擁し、いままた立花代表が参議院議員となり、得票率2%をこえる政党となった。

◆数は力である

ところで、そのNHKをぶっ壊せというシングルイッシューを掲げたN国党が、北方諸島視察時の問題発言で国会の球団決議を受けたで丸山穂高議員を入党させ、さらには渡辺喜美議員と会派(みんなの党)を結成した。これで政党交付金および会派の議員にたいする手当の合計3000万円(年)が手に入ることになったのだ。同時に会派としての発言権を確保したのである。


◎[参考動画]【報ステ】N国党・立花代表『みんなの党』結成へ(ANNnewsCH 2019/07/30公開)

なんという鮮やかな政治手法であろうか。政治的な見解を異にする政治家との会派結成、国会から「もう二度と来るな」と糾弾決議された議員の勧誘(入党)と、世間から批判を浴びるのは承知の上で、見事な手腕で公党としての地歩を確保したのだ。

丸山議員と渡辺議員だけではない。秘書への暴言・暴行(数百発殴打?)と外国人女性に買春もちかけた石崎徹衆院議員(新潟県連が除名・離党勧告など、きびしい処分を自民党本部に申し入れている)にも入党を呼びかけているのだ。石崎議員の反応が注目されるところだが、消息筋ではN国党に入党する可能性が高いという。そのほかにも、10人前後の無所属議員、自民党議員が入党勧誘の対象だという。たとえば、民主党系から飛び出して希望の党に合流しようとして党の立ち上げに失敗し、自民党二階派に所属する細野豪志議員なども、対象にふくまれているという。

一見して、処分されたり行き場がなかったり、あるいはみずから立ち上げた党が崩壊して、尾っぽ打ち枯らした感のある政治家ばかりだ。そして会派の代表となる渡辺氏が「NHK改革は考えていない」(会派結成の記者会見での発言)とか、丸山議員が「NHK受信料未払は法律違反」(過去のSNS発信)と、N国党のいわば立党の精神に反する立場にもかかわらず、政党会派が結成されるという本末転倒の内容なのである。

ふつうなら「何じゃ、この会派は?」である。数は力、数合わせのためなら、政治理念や内容は問わないとする、有権者(N国党への投票者)置き去りの暴走なのである。しかし、である。このとんでもない会派づくりは、おそらく立花代表の計算通りなのであろう。


◎[参考動画]「N国」なぜ“ワケあり”議員を? 政治部記者が解説(ANNnewsCH 2019/7/29公開)

◆計算済みのメディア露出

このなりふり構わない多数派形成に、驚嘆してみせるメディアの取り上げ方。政治理念と有権者置き去りの批判もまた、織り込み済みであるかのように立花代表はテレビ画面に、笑み満面でその巨体を登場させ、あるいはYoutubeでアピールする。選挙中のYoutube閲覧回数は、自民党の広告閲覧回数を大きく上まわったという。

ようするに、目立つことを目的にしてきたやり方を、いままさに本格化しているのだ。もはや、観ているほうがあきれ果てて「喝采」を送るしかない。何よりも、傍若無人な人が多い政治家のなかで、立花氏は人当たりが良いという(元NHKアナで、TBS系キャスターの堀尾正明氏による評価)。たしかに、その言動や立ち居振る舞いは、観ていて好印象すら感じてしまう。とんでもないこと、つまり政治理念なき議会党(会派)づくりにもかかわらず、なんとなく興味をもってしまうのだ。


◎[参考動画]N国・立花代表ノリノリ「契約するけど払わない!」(ANNnewsCH 2019/7/31公開)

◆その戦略と理念

大都市圏のベッドタウンを中心に地方議員を立候補させた戦略は、奇しくも過去の「みんなの党」の戦略をなぞったものだと、立花代表みずから認めている。大都市圏の浮動票層、すなわち近所づきあいの少ないマンションや大規模団地の住民である。

たとえば自民党の基礎組織は、町会や自治会に地元議員が参加することで成立している。町会とかさなる神輿会、盆踊り、子供会、神社の崇敬会などである。民主党系が労働組合や市民運動、あるいは生協に依拠しているのに対して、過去のみんなの党や現在の維新の会などは、これら自民党や民主党系の組織に属さない、大都市の無党派層をつかむことで伸長してきた。この大都市型の選挙構造を、立花代表は過去の選挙事例から学んでいたことになる。都市個人主義者をつかんだ、といえるのかもしれない。

そのいっぽうで、N国党は今年の4月から5月にかけて、まさに統一地方選挙のさなかに5人の議員を除名処分にしている。参院選挙の運動資金として課せられた130万円を払わなかったのも理由だが、除名した議員たちが「NHKは朝鮮人や帰化人に支配されているので、偏向報道がなされている」などと主張していたからだという。

これをみるかぎり、ネトウヨ系議員の排除という、有権者の動向を考慮した党運営であることがわかる。じつはN国党からの出馬者には、あきらかに左派・リベラル派と思われる人たちもふくまれていた。寄せ集めとはいえ、数は力という政治の論理を知っている立花孝志代表のN国党から目が離せない。


◎[参考動画]正しいNHK受信料の不払い方法を国会議員が解説します。(立花孝志2019/7/30公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

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19人の入所者が殺害された相模原市の知的障害者施設殺傷事件が先月26日、発生から3年を迎え、報道各社が横浜拘置支所に勾留中の犯人・植松聖被告(29)に面会したことを相次いで報じた。各社の記事を読み比べると、大変興味深いことがあった。

◆大学教授が面会した植松被告は、筆者が知る植松被告とは別人

私は2017年から2018年にかけて、植松聖被告と面会や手紙のやりとりを重ね、今年初めに上梓した「平成監獄面会記」(笠倉出版社)という本でも、実際に会ったからわかった植松被告の実像を紹介している。そんな私にとって、とくに興味深かったのは、弁護士ドットコムニュースの以下の記事だ。

「植松君には人間の心が数パーセントある」相模原殺傷から3年、佐々木教授が面会を振り返る(弁護士ドットコムニュース)

犯行後、ツイッターに投稿していた植松被告

この記事に登場する静岡県立大学短期大学部の佐々木隆志教授(社会福祉学)は、自分自身が障害者の父親だそうだが、植松被告とは5回面会しているという。佐々木教授によると、面会した際、植松被告は19人を殺害した理由について、「とにかく目立ちたかったんですよ、先生」と答えたという。また、「もし、糞尿を散らすお父さんがいて、徘徊するお母さんがいたとしたら、植松くんはデリートするのか」と聞くと、植松被告からの答えはなかったそうだ。

この記事が興味深かったのは、佐々木教授が語る植松被告の人物像は、私が知る植松被告とはまったく別人のようであることだ。私が面会した際、植松被告は自分の犯行を正義だと信じて疑わず、「心失者(植松被告は、意思の疎通がとれない重篤な障害者のことをこう呼ぶ)は安楽死させるべきです」と自信満々に言っていたからだ。

また、私が手紙で、「両親や親戚、恋人、友人などが心失者になった場合も安楽死を望むのか」と質問した際も、植松被告から届いた返事の手紙には、きっぱりこう綴られていた。

〈両親、恋人、友人が「心失者」になれば、もちろん悲しいですが、仕方がないこと、受け入れなくてはならない現実と考えます〉

おそらく植松被告は、障害者の息子がいる佐々木教授に対しては、私と面会した時ほどには「心失者は安楽死させるべき」という意見を強く言えなかったのだろう。

◆死刑判決に対し、弱気な一面をのぞかせたそうだが・・・

一方、死刑に関する植松被告の発言として、興味深い情報を伝えていたのが時事通信の以下の記事だ。

自分は責任能力ある=「死刑」直視できず-植松被告・障害者施設襲撃3年(時事ドットコムニュース)

この記事によると、植松被告は死刑判決を言い渡される可能性については「それは仕方がない」とうなずいたという。ただ、記者が「事件前に考えが及んだのか」とただすと、「後回しにしてしまった。今も後回しにしている」と弱気な一面をのぞかせたそうだ。

この記事が興味深く思えた理由も、記事に出てくる植松被告が、私が知る植松被告とまったく別人のようであることだ。私が面会した際には、植松被告は自分の犯行について、「自分の生命を犠牲にしてでも、やらないといけないことだと思ったんです」と力強く言っており、死刑は犯行前から覚悟していたとしか思えなかった。植松被告は時事通信の記者と面会した際、そのように強く言い切れない何らかの事情があったのだろう。

◆筆者のイメージそのままの植松被告が出てきた記事も

私が面会した時とまったく同じイメージの植松被告が登場する記事もあった。神奈川新聞の以下の記事だ。

揺らがぬ独善今なお 植松被告「責任能力ある」(カナロコ)

この記事では、植松被告は事件からの3年間を振り返り、「あっという間。非常に有意義だった」と説明。「意思疎通がとれない“心失者”は安楽死するべきという考えや知識を深められた」と満足げにうなずいたという。また、死刑判決が出たらどうするかとの問いには「受け入れるしかない。死にたくないが、僕が死ななければ社会が丸く収まらないのでは」と自嘲気味に語ったそうだ。

この記事での植松被告は、自分の犯行を正義と信じて疑っておらず、死刑についてもあらかじめ覚悟のうえで犯行に及んだように語っている。私が知る植松被告そのままなので、私はこの記事を読みながら、植松被告の口調や目つきなどもリアルにイメージできた。

こうしてみると、同じ1人の殺人犯と面会しても、その殺人犯から聞ける話や受ける印象は取材者によって様々だ。これが、事実を見極める難しさであり、面白さなのだろう。

植松が収容されている横浜拘置支所

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。「平成監獄面会記」が漫画化された『マンガ「獄中面会物語」』(著・塚原洋一/笠倉出版社)が8月8日発売。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

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