古代の6人の女帝たちは、慌ただしい政治情勢に翻弄されながらも、大王(おほきみ)としての強権政治をもって政局を乗りこえた。その態様はおよそ「中継ぎ」という飾りではなかった。

蘇我・物部両氏の権力闘争を、そのいっぽうで体現した推古女帝。政争と戦争に身を投じた皇極(斉明)女帝。壮大な藤原京造営を実現し、古代律令制国家の天皇権力の頂点をきわめた持統女帝。女系天皇として君臨した元明女帝・元正女帝。そして藤原氏との仏教政策をめぐる暗闘ののちに、古代巫女権力の最後を飾った孝謙(称徳)女帝。

三十三代推古から四十八代称徳までの十五代(207年間)のうち、女帝の在位はじつに六人八代(80年間)におよんでいる。その天皇権力の全盛時代、女帝は男性天皇と天を二分していたのである。

武家の時代には将軍家の北条政子や日野富子、今川氏の寿桂尼など、政治に辣腕をふるう女性たちが歴史をかざった。戦国期の井伊直虎、立花誾千代、北条氏姫など、武家の当主として名を残した女性たちもいる。そのいっぽうで、逼塞する禁裏には女性が活躍する場はなかった。それは朝廷が政治的な求心力をうしなっていたからだ、と見るべきであろう。

皇統の中にふたたび女帝が現れるのは、儒教的な男尊女卑の気風がつよくなった江戸期においてだった。徳川幕府の禁中並公家諸法度によって、朝廷が政治的な権能をうしなっていたからこそ、新たなパワーが公武の緊張感をつくりだしたのではないか。それは公武の軋轢でもあり、新しい時代への萌芽でもあった。具体的にみてゆこう。

称徳(孝謙)天皇いらい、じつに八五九年ぶりに女性として帝位についたのは、明正(めいしょう)天皇である。「和子入内」でもふれたとおり、幕府の公武合体政策によって生まれた皇女である。

明正天皇

◆孤独の女帝

践祚したとき、女帝はわずか七歳だった。彼女の即位は、実父・後水尾天皇の突然の譲位によるものだ。この天皇交代劇には、三つの事件が背景にある。

そのひとつは、後水尾天皇に将軍秀忠の娘・和子を嫁さしめようとしていたところ、女官の四辻与津子とのあいだに子があることが発覚したのである。幕府は天皇の側近をふくむ六名の公卿を「風紀紊乱」の名目で処罰し、四辻与津子の追放をもとめてきた。後水尾天皇に抵抗のすべはなかった。禁中並公家諸法度がただの空条文ではなく、幕府の強権であることに禁裏は震えあがった。

幕府の政治介入はつづく。後水尾天皇はこれまでの慣習どおり、沢庵ら高僧十人に紫衣着用の勅許をあたえた。だが、これが幕府への諮問なしに行なわれたため、法度をやぶるものとして勅許は無効とされる。これにたいして沢庵宗彭(そうほう)、玉室宗珀(そうはく)らが意見書をもって抗議するや、幕府は高僧たちを流罪としたのである。怒ったのは後水尾天皇である。

さらに幕府は和子の入内にあたって、春日局(斎藤ふく)を参内させる。前例のない暴挙と受けとめられた。無位無官の女房が昇殿したことに、宮中は大混乱となる。怒り心頭にたっした天皇は突如として譲位し、七歳の少女を帝位に就けたのがその顛末である。

この譲位はまた、幕府からの血である皇后和子の娘・明正を帝位に就けることで、皇統から排除しようというものでもあった。朝廷は徳川家が外戚になることを嫌ったのである。女帝が生涯婚姻できず、したがってその血脈は独身のまま絶えてしまうのだから──。

在位中の明正天皇はまったくのお飾りであって、後水尾上皇の院政はその後に生まれてくる皇子を後継とするものだった(中和門院の覚書)。じっさいに女帝は二十一歳で退位し、異母弟である後光明天皇が即位する。

この譲位の直前に、将軍徳川家光は四か条からなる黒印状を、新しい院となる明正天皇に送付した。すなわち、官位など朝廷に関する一切の関与の禁止。および新院御所での見物催物の独自開催の禁止(第一条)。

血族は年始の挨拶のみ対面を許し、他の者は摂関・皇族といえども対面は不可とする(第二条)。

行事のために公家が新院御所に参上する必要がある場合は、新院の伝奏に届け出て、表口より退出すること(第三条)。

両親のもとへの行幸は可。新帝(後光明天皇)と実妹の女二宮の在所への行幸は、両親いずれかの同行ならば可。新院のみの行幸は不可とし、行幸の際にはかならず院付の公家が二名同行するべきこと(第四条)であった。これら上皇の院政を寸分もゆるさない、徳川幕府の異様に強権的な命令で、女帝は駕籠の鳥となったのである。院政をみとめない幕府の方針は、時代は前後するが霊元天皇の項でみたとおりである。

のちに明正は得度して太上法皇となり、仙洞御所で72歳の孤独な生涯をすごす。手芸や押し花が趣味だったという。まことに、政治の犠牲となった生涯であった。

◎[カテゴリー・リンク]天皇制はどこからやって来たのか

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

「あいりん総合センター」(以下センター)周辺の野宿者らに、強制立ち退きの危機が迫っている。大阪府が7月22日提訴したセンター明け渡し断行仮処分の2回目の審尋(非公開)が10月12日行われる。

債権者(大阪府は)は、4月22日に土地明け渡し訴訟を提訴した時点では、その裁判の判決を待って対応できると判断していたにもかかわらず、数か月後の7月22日明け渡し断行の仮処分を提訴してきた。その間、新型コロナウイルスの影響で裁判が中断されたとはいえ、明け渡しが緊急に必要となる新たな事情が生じたのだろうか? 大阪府の主張書面では、この点に全く触れられていない。

◆センターは「公の施設」ではないのか?

大阪府は、センター解体のための条例を作ったり、正式な議会にかけずに強制立ち退きを強行しようとしているが、その理由をセンターは「公の施設」ではないと主張する。そんなことはない。「公の施設」について、地方自治法244条1項は、「住民の福祉を増進する目的をもって、その利用に供するために施設」であると規定する。

それに沿って説明すれば、センターは、「青空労働市場の解消と地区労働者の福祉の向上」を目的として建設されてきたし、そのため建物内には労働者のためのシャワールーム、ランドリー、食堂、売店、理髪店、喫茶室、ロッカー室などが設置されていた。

大阪府も「愛隣地区の実態と労働対策」というパンフレットで、建設を大々的に公表していたし、賃借契約書にも「日雇い労働者の福利厚生」の用途に供しなければならないと規定していた。

センター1階の食堂横。「施設内は駐輪禁止です」の看板に「大阪府」の名前が明記されている

また、写真のように、大阪府が土地や建物を管理していた事実を示す看板もある。このように、大阪府は、センターの土地、建物を釜ヶ崎の日雇い労働者の福利厚生のために建設し、その用途にそって利用・管理してきたのであり、センターが公の財産にあたることは明白だ。大阪府は「大阪府が普通財産として管理し、公益財団法人西成労働福祉センターに貸し付けていたから、公の財産に該当しない」というが、これは大阪府が本来行うべき条例の制定を怠っているというだけのことだ。

また、大阪府は、仮にセンターが公の施設であっても、2019年3月に閉鎖されたので(実際には4月24日)、使用は廃止されたと主張する。しかし地方自治法244条2第1項では、「公の施設の設置及びその管理に関する事項」は条例で定めなければならないと規定している。つまりセンター閉鎖に関する事項もまた条例で規定し、それにそった措置が取られていなければ、使用廃止とはいえない。物理的に閉鎖されたからといって、センターの使用が廃止されたとはならないのだ。

また、強制立ち退きのうち、仮処分手続きによる明け渡し断行は、社会権規約委員会が一般的意見4及び7において示したガイドラインに反することが明言されているが、これについても大阪府は、なんの反論も行っていない。

◆「代替措置が取られている」というが……

大阪府は、様々な代替措置が取られているから、仮処分断行しても、野宿者らの行き場がなくなるわけではないと主張し、市役所職員とセンター周辺の野宿者に「生活保護を受けるよう」と説得しまわっている。

もちろん生活保護を受けたい人はうければいい。問題なのは、普段は生活保護の申請を水際作戦で拒んだり、生活保護者に「働けるだろう」「若いだろう」と保護の辞退を迫っているくせに、強制立ち退きまでに野宿者を減らしたいがために、甘い声で「今なら大丈夫」と生活保護を進めていることだ。

また、生活保護を申請しても、三徳寮や無料・低額宿泊施設など、個人のプライバシーの守れない集団施設に押し込まれたりするため、生活保護の利用自体を諦める人も少なくない。現在、野宿する人の中にも、以前生活保護を受けていたが、そのような理由や「囲い屋」など貧困ビジネスに餌食になり辞めた人も多い。

そうした諸問題を放置しなから、今だけ「生活保護を」とは余りに虫が良すぎるはなしだ。なおシェルターも、決められた時間に遅れたら入れない、ゆっくり眠るために飲む酒が禁止されている、大きな荷物が持ち込めないなどの理由で利用しない人も多い。

近くの公園に野宿しながら、センター近くにアルミ缶、銅線などを集めにくる労働者。雨降りの日でも「やらんと食っていけんやろう」と

◆趣味や好きで野宿しているわけではない!

大阪府が主張する以下の点は、とりわけ野宿者を愚弄する許しがたい内容だ。

「債務者A(野宿者の実名)はシャッターが閉まる前から生活保護やシェルターなどを利用してないが、望めば利用できたことはいまでもない」。(またA自身が生活保護を受けたら緊張感がなくなると考えていることを受け)「債務者Aが、緊張感のない生活をしないという意思に基づいてホームレス状態を継続することは、他者の権利や公益を侵害しない限りは明け渡し断行によって実現しようとまでされるべきことではないが、これにより債権者には重大な損害が生じるから、これらの対比でいえば、かかる利益が保護されるべきであるとはいえない」。

これに対しては、原告団はこう反論している。

「債務者Aは、センターが閉まる前から、昼間は3階に、夜は現在の場所に継続して住み続けてきた。他に行くところがあるのに、気にいらないから、そこに住んでいたわけではない。他に行き場がないから、このように暮らしてきたのである。例えば、トイレが確保できる場所は容易には探せない。ホームレス状態にある人々の権利の問題が考えられるとき、このことが出発点にならなければ、およそ話にならない。行くところがあっただろう。趣味で済んでいるんだろう。これらは法的主張ではなく、日々ホームレス状態にある人々になげつけられた社会偏見以外のなにものでもない。そこに住まざるをえない事情を、野宿せざるをえない人々に立証する証明責任が課せられてはならないのである。その証明責任は、彼らを野宿状態に放置している私たちにある。理由は簡単である。私たちは一晩でもセンターのシャッター前で寝てみる勇気があるだろうか」(債務者主張書面1)。

雨風をしのぐことが出来るシャッターの真下が寝場所だ

◆13年間も放置されてきた耐震工事

大阪府は訴状で、耐震問題を理由に「センターを一刻も早く建て替える必要がある」と主張する。それならば、3月24日本訴を提訴した段階で、仮処分を申請すべきではなかったのか。それをせず、何をいまさら「一刻も早く建て替えを」だ。「耐震性がー」と叫ぶ大阪府は、これまで何をやってきたか? 

センターの耐震性問題は、2008年の耐震診断に始まり、いったんは減築工法なども検討されながら、2016年7月26日の「まちづくり会議」で建て替えが正式に決められ、センター解体工事の仮契約は2020年12月上旬、本契約は2021年2月下旬との予定が組まれている。耐震診断の2008年から本契約まで13年間かかるが、これまで大阪府が「一刻も早く建て替える必要がある」と考えていた形跡は全くない。

つまり、センターの耐震工事(建替え工事)は、2008年耐震診断でその必要性が判明したが、2012年2月に大阪維新の橋下元市長が打ち出した「西成特区構想」をうけ、それに歩調をあわせ進められ、現在、そのスケジュールを守りたいとの理由だけで、強行されようとしている。そのための野宿者の強制立ち退きだ。

なぜ大阪維新の金儲けのために、労働者の拠り所のセンターが潰されなくてはならないのだ! 11月1日に再度強行される住民投票に反対を突きつけ、弱いもの苛めの維新政治を、ここ釜ヶ崎から終わりにさせていこう!

壊されたため、安い中古バスに買い換えられた釜ケ崎地域合同労組のバス。寝場所のない人に解放されている

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

NO NUKES voice Vol.25

◆大学院生リンチ事件加害者と繋がる反原連

さらに、偶然(必然か?)とはいえ、鹿砦社には「しばき隊/カウンター」内で発生した、極めて深刻な大学院生リンチ事件が持ち込まれました。反原連とリンチ事件は当初、別個の事案のように思われましたが、取材を進める中で反原連の人間と「しばき隊」の幹部連中が、相当数重なっていることが判明しました(今では常識ですが)。

結語から述べれば、その人々は“「リベラル」を纏った権力別動隊”でした。思慮に乏しく、排他的で、政治・行政権力との緊張関係に欠ける。この集団はリンチ事件発生時、「ヘイトスピーチ規制法」の立法化に力を入れており、それ故にリンチ事件が社会に知れ渡ることを、過剰に警戒しました。その数々の証拠はこれまで5冊の出版物(雑誌増刊号4冊+リンチ最中の音声CDを付けた書籍1冊)として上梓してきた中で詳述してありますが、とりわけ悪質であったのは、集団暴行被害者をあたかも「加害者」のように扱うメールを金展克氏に送付した師岡康子弁護士でしょう。すでに本通信6月25日号でも述べていますので、ここでは詳しくは述べませんが、師岡弁護士こそ、危険なイデオローグだと断じます。

もう一つ注目していただきたいのは、このリンチ事件が2014年12月に起き、加害者側の隠蔽活動で1年余りも隠蔽されてきたことです。この間、安保法制問題が大きく盛り上がり、リンチ問題など世間に公になりませんでした。この実態が公になっていたなら、反原連もSEALDsも、また安保法制反対の運動も、かなりの影響を受けたものと思われます。隠蔽は成功しました。しかし、こういうことはいつか露見します。実際に2016年3月以降露見しました。

◆必要以上に横文字を使い、なにかしら目新しさで人をごまかす反原連(~界隈)の人々

 

ミサオ(2015年6月7日福岡にて)

私たちは、このように人間の尊厳や多様性を無視し、集団暴行を容認・隠蔽する人々を人間として全く信用できません。反原連は横文字が好きで、今回も「ステートメント【活動休止のご報告】」と銘打った文章が公開されていますが、こういった言葉の使い方は使用者の自由であるものの、思考傾向を表わす特徴として捉えることも可能です。カンパと言えばいいものの「ドネーション」と馴染みのない言葉を意気揚々と使ったり……よほど頭のいいことをひけらかせたいのか!?

ラップを採り入れなにかしら目新しさを出し、マスコミの恣意的な報道により世間では評価が高かったSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)について、憲法9条改憲派としての本性を出し、私たちは次第に首を傾げざるをえなくなりましたが、このSEALDsがいまだに反原連にとっては「成果」であったように記されています。SEALDsは、「民主主義って何だ!」と叫んだだけで、その、憲法9条改憲を志向していた団体でした。SEALDsは9条改憲派だったのだ!! 世間の人たちも私たちも、このことに気づくのが遅過ぎました。

これまでの学生運動のイメージを覆したことで錯覚してしまいますが畢竟エセ学生運動としか言いようがありません。詰まる所、この学生たちは何がしたくて、何が言いたかったのか全く理解できません。理解しようとして松岡はSEALDsを代表する人物、奥田愛基君にインタビューしましたが(『NO NUKES voice』6号掲載)、松岡も年甲斐もなく、結局は目くらましにあったようです。唯一はっきりしていることは、SEALDsがしばき隊や、時には親御さんに見守られながら展開された事実でしょう。こんなもの評価するのも馬鹿らしい。

SEALDs奥田とミサオ(2015年9月22日帝国ホテル地下の和食屋にて)

◆活動をやめるためにカンパを集めるだって!?

そうして今回の反原連の「活動休止」声明(ステートメント)には以下のくだりがあります。いみじくも彼らの本音が表われています。

〈それは脱原発運動が市民運動の中心から外れてくるに従い寄付金が減少し、これまでの多岐にわたる活動内容に対し、運営資金の捻出が難しくなってきたことがあげられます。〉

福島原発事故の被災者は、金銭を理由に「被害者」であることをやめられるでしょうか。広島・長崎の被爆者や被曝2世、3世は経済理由から「被爆者」であることから自由になれるでしょうか。

私たち(鹿砦社)とて、会社がいつまで存亡できうるか、あるいは出版業界の今後は、コロナ禍の今日見通せません。ですから「未来永劫『NO NUKES voice』の発刊を死守する」などと宣言はできません。しかし、現編集委員会が生存している限り、何らかの方法で反・脱原発運動を微力ながら支えるべく『NO NUKES voice』を発行し続ける所存です。

反原連は活動の休止を告知しながら同時にこれまで通りカンパ(彼らの言葉でいえば「ドネーション」)を求めています。活動をやめるためにカンパを集めるなど聞いたことがありません。幹部の“退職金”にでもしたいのでしょうか!? 活動休止するのであれば、カンパ募集はやめるべきではないでしょうか。「脱原発運動が市民運動の中心から外れてくる」から活動をやめる? こういったジコチューな物言いはみっともないとしか表現できませんね。

反原連「活動休止のご報告」ステートメント(2020年10月2日)

「脱原発運動が市民運動の中心から外れてくる」にしてもしなくても、福島現地で頑張って日々生きている人々や、故郷から遠く離れて避難している人々は生きていかねばなりませんし、多くの方々が裁判闘争を頑張っておられます。私たちは、こういう人たちを見捨てて「活動休止」するわけにはいきません。反原連のみなさん、あなた方も、曲がりなりにも「反原発」の声を挙げたわけでしょう。ならば、「ステートメント」でも記しているように、口先だけではなく真に「初心に戻り」初志を貫徹していただきたいものです。

反原連に私たち鹿砦社は、多額の資金支援をしましたが(少しは感謝しろ!)、にもかかわらず、みずからの意に沿わないならば「絶縁」するぐらいなら、他力本願な「ドネーション」に頼らず、みずから汗を流して働いて資金を集めるという運動の原点に立ち帰ったらどうですか?(ちなみに、ミサオが言うところでは、当時活動をやるために共産党に頼んで生活保護を受けた人物がいました。共産党も、こんなことをやっていいのか!?)反原連の連中の、人の厚意を蔑ろにするような態度から、今日の姿はイメージできましたがね。

私たちは反原連的な社会運動に(それが社会運動であれば)、強烈な違和感しか感じませんし、こんな運動体が大手を振って歩くようになれば、日本のファシズム完成を早めるだけでしょう。

私たちは時に激しい言葉を使うことはありますが汚い言葉を使うことは滅多にありません。しかし今回はあえて使わせていただきます。やはりゴミはゴミでしかありませんでした。秋風に吹かれたゴミは歴史の屑箱に放り込まねばなりません。「お前はただの現在にすぎない」(トロツキー。テレビマンユニオン創設の頃の書籍のタイトルにもなっています。初版田畑書店刊、のちに朝日文庫)── むべなるかなです。

◎ふたたび、さらば反原連! 秋風に吹かれたゴミは歴史の屑箱へ!── 反原連の「活動休止」について(松岡利康&『NO NUKES voice』編集委員会有志)
【前編】http://www.rokusaisha.com/wp/?p=36691
【後編】http://www.rokusaisha.com/wp/?p=36698

月刊『紙の爆弾』2020年11月号!【特集】安倍政治という「負の遺産」他

『NO NUKES voice』Vol.25

『NO NUKES voice』Vol.25
紙の爆弾2020年10月号増刊
2020年9月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 ニューノーマル 脱原発はどうなるか
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[グラビア]〈コロナと原発〉大阪、福島、鹿児島

[報告]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
 二つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織

[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
    コロナ収束まで原発を動かすな!

[座談会]天野恵一さん×鎌田 慧さん×横田朔子さん×吉野信次さん×柳田 真さん
    コロナ時代の大衆運動、反原発運動

[講演]井戸謙一さん(弁護士/「関電の原発マネー不正還流を告発する会」代理人)
    原発を巡るせめぎ合いの現段階

[講演]木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
    危険すぎる老朽原発

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
    反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック第四回総会報告

[報告]片岡 健さん(ジャーナリスト)
    金品受領問題が浮き彫りにした関西電力と検察のただならぬ関係

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
「当たり前」が手に入らない福島県農民連

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
    当事者から見る「宮崎・早野論文」撤回の実相

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
   消える校舎と消せない記憶 浪江町立五校、解体前最後の見学会

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
    《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈9〉
    「原発事故被害者」とは誰のことか

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
    多量の放射性物質を拡散する再処理工場の許可
    それより核のゴミをどうするかの議論を開始せよ

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
    具体的なことと全体的なことの二つを

[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
    恐怖と不安は蜜の味

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
    山田悦子の語る世界〈9〉普遍性の刹那──原発問題とコロナ禍の関わり

[読者投稿]大今 歩さん(農業/高校講師) 
    マンハッタン計画と人為的二酸化炭素地球温暖化説

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
    コロナ下でも萎縮しない、コロナ対策もして活動する
《北海道》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《石川・北陸電力》多名賀哲也さん(命のネットワーク代表)
《福島・東電》郷田みほさん(市民立法「チェルノブイリ法日本版」をつくる郡山の会=しゃがの会)
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京》柳田 真さん(たんぽぽ舎、とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《浜岡・中部電力》沖 基幸さん(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

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◆反原連から「絶縁」された鹿砦社

10月2日、「反原連」(首都圏反原発連合。以下反原連と記します)は同団体のHPで、実質上の「活動休止」(口では「解散せず」と言っていますが、事実上の「解散」と見られます)を告知しました。

反原連「活動休止のご報告」ステートメント(2020年10月2日)

鹿砦社と反原連は、日本での初めての反・脱原発雑誌である『NO NUKES voice』発刊以来6号までは良好な関係を保っていましたが、2015年12月3日、一方的に反原連からの「絶縁宣言」により、関係を途絶していました。これには、反原連、いわば弟分的存在のSEALDs、「しばき隊」「カウンター」の全盛期、これに対し理路整然と批判した、韓国から母子で来日した研究者・鄭玹汀(チョン・ヒョンジョン。当時京大研修員。日本キリスト教史、木下尚江研究)さんへの非人間的暴言攻撃、ネットリンチを複数の人たちから聞いた松岡が、2015年9月以降(これ以前は、いわば「金は出しても口は出さない」のスタンスでした)、この他の疑問などと併せ反原連のリーダー、ミサオ・レッドウルフに問い質してきたことが伏線としてありました。

蜜月状態の頃の懇親会写真。松岡の左右に野間(左端)とミサオ(右)が写っている貴重なショット

そうして「絶縁」の直接の導火線となったのが『NO NUKES voice』6号での松岡稿「解題 現代の学生運動」でした。これが「内容に関して許容範囲を超える」(絶縁宣言)とのことでした。ここでは詳細は省きます(関心のある方は同誌7号「さらば反原連! 私たちはなぜ反原連から絶縁されたのか」をお読みください)。

今となっては、反・脱原発雑誌を発刊するにあたり、反原連関連の人物を多数掲載したことは、致し方のない誤りであったとはいえ、松岡はじめ私たちとしては深く反省するところです。反原連からの一方的「絶縁宣言」とはいえ、6号で関係を途絶したのは、ある意味で正解でした。皮肉なことです。

反原連は、前記しているように「首都圏反原発連合」の略称ですが、その名称から想起すると、いくつもの運動体の“連合”のように聞こえますが、実態は違います。当初は「たんぽぽ舎」など複数の運動体が名前を連ねていました。このことに、東京から遠く離れた関西にいて彼らの活動や実態を直接につぶさに見れない松岡は誤認し、「たんぽぽ舎が入っているから大丈夫だろう」と考え、特段の厚意を持って接触しましたが、数年前から反原連は単独のセクトとなったようです。「たんぽぽ舎」とも事実上断絶しています。たんぽぽ舎にいた今井丈夫(ミサオ同棲者)と原田裕史が反原連に移行しています。

鹿砦社は、反原連に一時は年間300万円余りの資金援助もしてきました。その間会計報告もありませんでした(絶縁後強く催促して、ようやく間に合わせとしか思えない会計報告を行っています)。にもかかわらず、2015年12月3日の鹿砦社への言い掛かりとしかいえない失礼千万な「絶縁宣言」をするように、極めて「排他的」「独善主義」的な集団であることが明らかになっています。松岡も人を見る目がないとボヤいていました。高い“授業料”を払いました。

鹿砦社は今は「たんぽぽ舎」に毎月一定額の支援金をカンパし、チラシ配布や『NO NUKES voice』の販売などに協力していただいていますが(鹿砦社は、ホームグラウンドが関西で東京事務所も2人しかおらず人手不足なので)、最初からこうすればよかったわけです。たんぽぽ舎は、同舎のチラシと一緒に『NO NUKES voice』のチラシを撒いてくれていましたが、官邸近くでは反原連の連中から妨害されて撒けないということでした。これからは大丈夫です(笑)。

反原連が、唯我独尊で極めて排他的であることは、多くの人たちが異口同音に語るところですが、このことを象徴する出来事でした。反原連は共産党と親密な関係にあり、ミサオらが共産党の大会でスピーチしたり機関紙『しんぶん赤旗』にたびたび登場しています。共産党のスターリン主義的体質と同じ体質です。「類は類を呼ぶ」ということでしょうか。

◆警察との親和性が強く、闘う学生を背後から襲う反原連とこの界隈の人たち

 

ミサオ(2015年8月10日鹿児島にて)

実は、『NO NUKES voice』編集委員の中に、早期から反原連の危険性を説いていた人物がいました。当該人物は国会前集会で参加者が路上に溢れた時に、反原連のミサオ・レッド・ウルフが、なんと機動隊の指揮車の上によじ登り(そのような行為は、警察の同意なしに可能なことではありません)集会に参加した人々へ「継続的な首相官邸前抗議行動」ができなくなるから「解散」を要請した現場に居合わせたのです。

これにはジャーナリストの寺澤有氏も現場に居合わせ証言されています。この事実の他にも反原連と警察の癒着を明示する記事は、他ならぬミサオ・レッド・ウルフが、『NO NUKES voice』の中で述べている通りですから、間違いのない事実です。

私たちは、いたずらに警察権力との対立を望むものでは全くありませんが、あの時、国会前に集まった、数千、数万の群衆は「継続的な首相官邸前抗議行動」ではなく、大飯原発再稼働に心底怒っていたのではないかと推測します。

反原連やSEALDsらの警察との親和性(癒着)は、2015年夏の反安保法制運動の中でも見られます。今や有名となった「警察のみなさん、ありがとう」の言葉に象徴され、一部戦闘的な学生らが警察の壁を突破しようとして国会に向かって行動するや、逆に警察と一緒になって弾圧の尖兵にさえなっています。実際に逮捕された学生もいます。これに「警察のみなさん、ありがとう」などどういう神経でしょうか。これに対しては作家・辺見庸も批判し、逆に激しいバッシングに遭い、一時ブログを閉鎖するほどでした。

相手は巨大な国家権力です。必ずしも「一点突破、全面展開」が可能な情勢ではなかったかもしれません。しかしながら、機動隊の指揮車によじ登り、集会参加者に「解散」を求める行為、あるいは「警察のみなさん、ありがとう」と言って直接的抗議行動にはやる学生らへの弾圧に加担する行為を、私たちは断じて容認できないし、今後も容認しないでしょう。そんな行為を一度でも行えば、命懸けで反・脱原発運動に携わっている皆さんや、わが身をもって反安保法制の闘いを体現しようとした先進的学生らの背後から鉄砲を撃つようなものです。彼らは闘う学生を背後から襲うことはあっても、権力と闘うことはありません。(明日掲載の後編につづく)

月刊『紙の爆弾』2020年11月号!【特集】安倍政治という「負の遺産」他

『NO NUKES voice』Vol.25

『NO NUKES voice』Vol.25
紙の爆弾2020年10月号増刊
2020年9月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 ニューノーマル 脱原発はどうなるか
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[グラビア]〈コロナと原発〉大阪、福島、鹿児島

[報告]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
 二つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織

[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
    コロナ収束まで原発を動かすな!

[座談会]天野恵一さん×鎌田 慧さん×横田朔子さん×吉野信次さん×柳田 真さん
    コロナ時代の大衆運動、反原発運動

[講演]井戸謙一さん(弁護士/「関電の原発マネー不正還流を告発する会」代理人)
    原発を巡るせめぎ合いの現段階

[講演]木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
    危険すぎる老朽原発

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
    反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック第四回総会報告

[報告]片岡 健さん(ジャーナリスト)
    金品受領問題が浮き彫りにした関西電力と検察のただならぬ関係

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
「当たり前」が手に入らない福島県農民連

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
    当事者から見る「宮崎・早野論文」撤回の実相

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
   消える校舎と消せない記憶 浪江町立五校、解体前最後の見学会

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
    《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈9〉
    「原発事故被害者」とは誰のことか

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
    多量の放射性物質を拡散する再処理工場の許可
    それより核のゴミをどうするかの議論を開始せよ

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
    具体的なことと全体的なことの二つを

[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
    恐怖と不安は蜜の味

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
    山田悦子の語る世界〈9〉普遍性の刹那──原発問題とコロナ禍の関わり

[読者投稿]大今 歩さん(農業/高校講師) 
    マンハッタン計画と人為的二酸化炭素地球温暖化説

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
    コロナ下でも萎縮しない、コロナ対策もして活動する
《北海道》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《石川・北陸電力》多名賀哲也さん(命のネットワーク代表)
《福島・東電》郷田みほさん(市民立法「チェルノブイリ法日本版」をつくる郡山の会=しゃがの会)
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京》柳田 真さん(たんぽぽ舎、とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《浜岡・中部電力》沖 基幸さん(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B08H6NL5FX/

月刊『紙の爆弾』11月号が本日7日発売となりました。

本誌9月号での昼間たかし氏の記事中に記された「士農工商ルポライター稼業」という言葉が「差別を助長する」との部落解放同盟からの指摘について、今月号から検証記事の連載を開始しました。

今回は簡単な経過説明、解放同盟からの通知文、これに対する私たち(松岡、本誌編集長・中川、昼間)の現時点の見解(9月15日の面談に持参)を掲載しました。

解放同盟とは、公開の議論として検証することで一致、しばらくの間、第三者、本誌や解放同盟周辺の人たちによる検証記事を掲載していくことになりました。

この問題について、皆様方のご意見をお寄せください。

月刊『紙の爆弾』2020年11月号より

月刊『紙の爆弾』2020年11月号より

タブーなき月刊『紙の爆弾』2020年11月号 本日発売!【特集】安倍政治という「負の遺産」他

◆アリバイ的な記者会向けの会見

学術会議の任命拒否をめぐり、多くの団体からの抗議文や官邸デモなど国民的批判を浴びている菅総理が急遽、記者会見(10月5日午後5時半)をひらいた。ただし一般公開の会見ではなく、いわば内輪の内閣記者会向けである。

あまりの反発に驚いたのだろう。ワイド番組などで、当事者たちから拒否の理由を問われつづけていることへの反応ともいえる。

だが、その内容は「それぞれの時代の制度の中で、法律に基づいて任命を行なっているという考え方は変わっていない」「総合的・俯瞰的活動を確保する観点から、学術会議の必要性やあり方が議論されてきた」などと、一般論に終始した。

つまり、任命拒否の理由をあきらかに出来なかったのだ。ケーキパン朝食会(10月3日)などで篭絡されている記者会が、拒否の理由を追及することはなかった。


◎[参考動画]日本学術会議“任命問題”に菅総理が言及(ANN 2020年10月5日)

◆任命権と選任権の混同からはじまった

ここまでの問題点、および議論を整理しておこう。学術会議法(7条2項)によれば、会員の任命は「学術会議の推薦に基づき、総理大臣が任命する」であるから、総理大臣は「任命しなければならない」とするものだ。つまり「任命」はできても「選任」はできないのだ。これを混同したところに、菅総理の瑕疵がある。

この任命とは「内閣総理大臣は国会の指名に基づき、天皇が任命する」「最高裁長官は内閣の指名に基づき、天皇が任命する」(憲法6条)と同様で、「任命者は拒否できない」ということなのだ。

行政官たる閣僚が内閣総理大臣に任命されたり、省庁の行政官僚が大臣に任命されるのとは、したがって明確な違いがあるのだ。この独立性の必要は後述するが、学問の自由および学術会議が成立した理由にかかわる問題なのだ。

今回の政府側の任命拒否の理由は、一般社会および官僚組織から理解しがちな誤りだともいえる。

いわく「内閣府の所轄であり、総理大臣に任命権が存在する」というものだ。さらには、学術会議の会員は「特別公務員であるから、任免は総理大臣が行なう」と、その行政的な性格を述べている(いずれも加藤官房長官)。いずれも誤りである。

◆学問の自由こそが政策に寄与しうる

さて、前回の記事(10月3日)でも明らかにしたとおり、学術会議法第3条には「学術会議は独立して……職務の実現を図る」とある。この独立性は言うまでもなく、学問の独立(憲法23条)に根ざしている。と同時に、科学および学問の戦争協力を反省することこそ、学術会議が発足する契機であったからだ。学術会議の存在意義とは、戦争の反省の上に立った「政治と学問の分離」なのである。

したがって、学術会議が政権からの独立性を強調しても、し過ぎるものではない。なぜならば、この独立性こそが、政府への諮問・提言が効果的・有効たりうる担保だからだ。政権の云うままの学識者ばかりであれば、その提言は何ら有意義な内容を持たないことになる。国政の方向性もまた、長期的な展望を欠いたものになるであろう。菅のような権力万能論者には思いもよらないことかもしれないが、政策にとって批判こそが有益なのだ。

ここに一般社会での任免権とは明確にちがう、学術会議の独立的な性格があるのだ。なかなか理解しづらいことかもしれない。

たとえば、任命(管理)責任が総理にあるのだから、任命の拒否も当然なのではないか。あるいは、税金を使っているのだから総理大臣が任免に責任を持つべきだ。という感想を抱く人もいないではないだろう。だが、そうではないのだ。

国政のうち、とりわけ科学技術や国防安保政策など、国家の方向性をめぐるきわめてセンシティブなテーマ、慎重を要する法案などについては、ひろく識者の意見を取り入れることが肝要である。国庫から10億円の予算を割いて、学術会議としての諮問機関を設置するには、その独立性こそが要件である。なぜならば、総理大臣には学術会議会員の任免の専門的な能力がない。そして多様かつ批判的な意見こそが求められるからだ。

◆菅総理の見当はずれな見解

そうであるがゆえに「学問の自由を侵すことにはならない」(加藤)。あるいは「学問の自由と学術会議の人事問題はまったく関係ない」「そうじゃないでしょうか?」(菅)という主張が、事の本質を見誤っているのは明白だ。

学問の自由とは個人のそれ(研究活動の自由)ではなく、政治権力からの自由なのである。自由勝手に学問ができれば良い、のではない。政治を批判する自由を、それが税金を使った機関であればこそ、ほかならぬ政治のために侵してはならないのだ。今回の場合はとくに、単純な個人の学問の自由ではなく、政策への批判の自由が問題にされているのだ。

特別公務員(行政官)だから、任免権が所轄の内閣総理大臣にある。という短絡こそが、今回の誤りの原因である。独立した行政機関に対する内閣総理大臣は、単なる機関(組織の歯車)にすぎない。行政官の任免に関する天皇の立場がそうであるように、総理大臣も「単なるハンコ」なのだ。選任するのでなければ「責任が取れない」と、菅は言う。そうではない。批判を受けることこそ、内閣総理大臣たる者の責任なのだ。

税金を使う以上は国民を代表すると、菅総理は云う。そう、総理はそこでは形式的な存在(個人ではなく機関)となるのだ。かつて、美濃部達吉が天皇機関説で天皇制権力の政治システムを解明し、軍部の猛反発を受けた。しかしこの行政理論はいまや、立憲君主制および民主政治の基本になじむ学説となっている。国会議員は国民が選び、政権は国会およびその決議する法律にしたがう。すべて政治家・官僚の行動は法律の縛りを受けている。今回、菅はそれを踏まえなかっただけの話なのだ。

この行政の基本原理が理解できないかぎり、菅義偉という男は恣意的に政治をもてあそび、行政を私物化する怖れがあると指摘しておこう。戦前の軍部同様、政治権力が個人に属する。国民からの負託を個人の思想や行動が体現する、と思い込んでいるからだ。

◆右派系の学術研究者の不在

学術会議会員の任命を拒否した自民党の本音は、論じる前から明らかである。右派系の研究者があまりにも少なく、その不満をほかならぬ右派系の学者たちから、政治家たちが愚痴られているからにほかならない。

TBS「ひるおび」に初登場した新藤義孝(元総務大臣)が、いみじくもその本音を吐露している(10月5日)。「いまの学術会議は、ひとにぎりの人々で占められています。会員選考の手続きも明らかではない。そういう不満を持っている学者先生がわんさかいるんです」と。

「わんさか」が誰を指すのかは不明だが、右派系の研究者が学術会議の会員になれないのは事実なのだろう。というのも、右派・保守系の研究者というのが、ほとんど学界からは無視されるか、誰もがみとめる業績のない研究者ばかりだからだ。

その例を、安保法制の議論からふり返ってみよう。いまだ記憶に新しい、2015年の6月国会の法制審議会の参考人質問である。

参考人質疑に出席したのは、自民推薦の長谷部恭男・早大教授、民主党推薦の小林節・慶大名誉教授、維新の党推薦の笹田栄司・早大教授の3人だった。当代一流の憲法学者であり、まさに学界を代表する人たちだった。

思い出してほしい。自民党などの推薦で参考人招致された憲法学者3人は、集団的自衛権を行使可能にする新たな安全保障関連法案について、いずれも「憲法違反」との見解を示したのだ。

自民党推薦の憲法学者が法案を批判するという驚くべき事態に、国民的な議論が沸き起こり、自民党は強行採決で法案を通すしかなかった。万余のデモ隊が国会を取り囲み、安倍政権は悪夢のような夜を過ごしたのである。

参考人が安保法案を憲法違反と批判したとき、菅義偉官房長官は会見で「法的安定性や論理的整合性は確保されている。まったく違憲との指摘はあたらない」と、例によって内容なし。木で鼻をくくる対応だった。

「全く違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいる」とも述べたが、具体的に名前を示すことはできなかった。もともと自民党の「本命」であった佐藤幸治京大名誉教授は、安保法制を合憲とは思っていないことが明白で、それゆえに参考人招致を断ったと考えられている。

当時、憲法学者と肩書のある研究者で、安保法制に賛成の論陣を張ったのは、百地章(國士舘大学客員教授=当時)など、学生時代から右翼活動(生長の家学生連合)に関わっていた研究者。あるいは「新しい歴史教科書をつくる会」の会長でもある八木秀次、あるいは国防問題を専攻する小林宏晨(ドイツ基本法、防衛法学会顧問)、西修(比較憲法、防衛法学会名誉理事長)ぐらいしかいなかったのが現実だ。起草委員の田久保忠衛は外交評論家、佐瀬昌盛も国際政治学者、大原康男は宗教学者であり、そもそも憲法学の専門家ではなかった。

つまり自民党の学術会議への介入は、ないものねだりとしか言いようのない右派系研究者の不在なのである。ないしはその研究レベルが、あまりにも低いがゆえに学術会議に推薦されないからなのだ。

新型コロナ防疫で明らかになったのは、専門家会議の研究者に責任を丸投げしながら、安倍政権は政策判断が何度も遅れることで国民を災禍にさらした。危機管理の脆弱さである。そのことを総括した寡黙な独裁者菅義偉は、学者に責任を転嫁する術を体得したのだ。学術会議そのものに介入することで、研究者たちの忖度が得られると、今回のような暴挙に打って出たというべきであろう。

だが、その狙いはあまりにも低レベルな行政論理解によって、世論の集中砲火を受けることになるのだ。政権発足からわずか半月あまり、菅義偉号は浅薄な言動ゆえに座礁しかけている。


◎[参考動画]「学術会議推薦者外し問題 野党合同ヒアリング」内閣府よりヒアリング(原口一博 2020年10月2日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

7日発売!月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』Vol.25

2004年10月、広島県廿日市市の高校2年生・北口聡美さんが自宅で何者かに刺殺された事件は、今年3月、広島地裁であった犯人の鹿嶋学に対する裁判員裁判でようやく真相がつまびらかになった。

鹿嶋は1983年、山口県生まれ。その生い立ちは複雑で、母親が父親と結婚前、父親以外の男性との間に授かった子供が鹿嶋だった。そのために幼少期から父親との関係が悪く、鬱屈した思いを抱えて育った鹿嶋は、広汎性発達障害的な偏りがあり、普段はおとなしいが、カッとなると、暴力的になることがあったという。

高校卒業後はブラック企業的な会社で3年半、辛抱強く働いていたが、たった一度、朝寝坊して仕事に遅刻しそうになっただけで会社を辞めてしまう。そして自暴自棄になり、あてもなく原付で東京に向かう途中、ふと「性行為をしてみたい」と思い立つ。そんな時、たまたま路上で見かけたのが北口聡美さんだった。

聡美さんの家に侵入した鹿嶋は、逃げようとした聡美さんを持参したナイフで刺殺した。さらに現場に駆けつけた聡美さんの祖母ミチヨさんも刺して重傷を負わせたうえ、聡美さんの妹も追いかけ回し、一生消えない心の傷を負わせた──。

3月10日にあった第4回公判。審理で明らかになった上記のような事実関係に基づき、検察側は「有期懲役が相当な事案とは到底言えない」として無期懲役を求刑した。対する弁護側は、「動機は言い訳できないが、鹿嶋さんは発達の遅れがあり、自分の意思だけでどうにかなるものではなかった」として有期懲役が相当だと主張した。そして最後に鹿嶋本人が意見陳述を行った。

◆公判終了後、足早に法廷を出ていった犯人の父親

「私は、事件のことを思い出せる限り、正直に話しました。しかし、ミチヨさんのことは思い出せなくて、申し訳ありませんでした。あと、この裁判を通じ、ご遺族の方の顔を見ることができませんでしたが、この場でご遺族の顔を見て、謝罪したいと思います」

鹿嶋は証言台の前に立ち、嗚咽交じりにそう語ると、檀上の杉本正則裁判長に「マスクをとってよろしいでしょうか」と問いかけた。そして許可されると、マスクをとり、検察官席にいた聡美さんの両親に顔を向け、叫ぶようにこう言った。

「自分の身勝手な都合で、大切なご家族の命を奪い、ご家族の方々を傷つけ、申し訳ございませんでした!」

この時印象的だったのは、聡美さんの父・忠さんが潤んだ目で鹿嶋のことをじっと見すえていたことだ。娘の生命を奪った犯人と目を合わせ続けるのは精神的に相当きつかったろうと思うが、「目をそらしたら負けだ」と思っていたという。

こうして公判審理はすべて終わった。傍聴席では、鹿嶋の両親も審理の行方を見守っていたが、鹿嶋の母親は閉廷後も両手で顔を覆い、うなだれたままだった。一方、その隣に座っていた鹿嶋の父親は、杉本裁判長が公判の終了を告げると、すぐに立ち上がり、足早に法廷を出ていった。筆者はそんな様子を見て、鹿嶋と父親の複雑な関係はやはり事件と無関係ではないだろうと改めて思ったのだった。

◆無期懲役という結果に、被害者の父親は無念そうだったが……

この8日後の3月18日、杉本裁判長は鹿嶋に無期懲役の判決を宣告した。その判決公判後、忠さんは無念そうにこう言った。

「娘には、『負けたよ』と伝えます」

殺害された人数が1人の殺人事件で死刑判決が出ることはめったにない。この事件の場合、検察官も無期懲役を求刑していたので、死刑判決が出る可能性は皆無に等しかった。しかし、やはり遺族は裁判長が判決を宣告するその時まで死刑判決を願い続けていたのだろう。

判決後、無念の思いを語る北口聡美さんの父・忠さん

ただ、杉本裁判長が読み上げた判決理由では、遺族の思いに配慮したかのように鹿嶋のことを厳しく指弾する言葉が並んでいた。

「被害者家族が味わった悲しみは筆舌に尽くし難く、被告人の極刑を望むのも本件の重大性を表すものとして理解できる」

「本件が地域社会に与えた影響も大きかったものと推察される」

「被害者らに対する犯行を選択した経緯は、身勝手極まりないと評価すべきである」

この判決が実は「遺族以外の人たち」の思いもくんだものだったとわかったのは、裁判員たちの会見に出た時のことだった。

◆2歳の娘のことを思いながら裁判に臨んでいた裁判員

会見に参加した2人の男性裁判員に対し、筆者は「もしも自分が被害者のご両親と同じ立場だったらと考えることはなかったですか?」と質問してみた。この質問は思っていた以上に2人の感情を大きく揺さぶったようだった。

まず、1人目の男性裁判員(36)は目から涙をあふれさせ、嗚咽を漏らしながらこう言った。

「私も2歳の娘がいて……かわいい、かわいい……と言いながら育てているので、もしも娘が同じことをされたらと思うと……」

この男性は感極まり、これ以上、言葉をつなげなかった。一方、もう1人の男性裁判員(年齢は未公表。推定で40代後半から50代前半)も神妙な面持ちでこう言った。

「私も被害者と同じくらいの子供がいるので、自分の子供に同じことが起きたらと思わずにはいられませんでした」

2人の話を聞く限り、裁判員たちは聡美さんの遺族に深く感情移入していた。彼らも遺族同様、本当は鹿嶋を死刑にしたいという思いだったことがよく伝わってきた。鹿嶋を厳しく指弾した判決理由の言葉の1つ1つはそんな裁判員たちの思いをくんだものだったのだ。

私は、鹿嶋本人にも会って話を聞いてみたいと思い、取材依頼の手紙を出したうえで、判決公判の翌朝、彼が収容されている広島拘置所を訪ねた。しかし、職員を通じて面会を断られてしまった。そしてその後、鹿嶋も検察も控訴せず、鹿嶋に対する無期懲役刑が確定した。

生い立ちが複雑な鹿嶋は、仕事はまじめだったが、友だちが少なく、ゲームをしたり、アダルトビデオを観たりすることしか趣味がなかった。人生で一度も女性と性行為をしたことがなく、風俗店にも行ったことがなかったと言っていた。そしてこれから長い服役生活を送り、いつか出所できたとしても、その時は老人になっているはずだ。彼の人生は一体何だったのだろうか。(終わり)

鹿嶋が収容されていた広島拘置所。鹿嶋は、筆者との面会に応じなかった

《関連過去記事カテゴリー》
 廿日市女子高生殺害事件裁判傍聴記 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=89

【廿日市女子高生殺害事件】
2004年10月5日、広島県廿日市市で両親らと暮らしいていた県立廿日市高校の2年生・北口聡美さん(当時17)が自宅で刺殺され、祖母のミチヨさん(同72)も刺されて重傷を負った事件。事件は長く未解決だったが、2018年4月、同僚に対する傷害事件の容疑で山口県警の捜査対象となっていた山口県宇部市の土木会社社員・鹿嶋学(当時35)のDNA型と指紋が現場で採取されていたものと一致すると判明。同13日、鹿嶋は殺人容疑で逮捕され、今年3月18日、広島地裁の裁判員裁判で無期懲役判決を受けた。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第11話・筒井郷太編(画・塚原洋一/笠倉出版社)がネットショップで配信中。

最新! 月刊『紙の爆弾』2020年10月号【特集】さらば、安倍晋三

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

昨年春の分裂、藤本ジム閉鎖、今年のコロナ禍で続く苦境の中、新日本キックボクシング協会も興行の在り方が大きく変化。

江幡ツインズがRIZINに出陣した現在、メインイベントを務めるのは勝次(=高橋勝治)。藤本ジムの看板を背負い、責任ある立場となってメインイベントを務めるも、潘隆成に敗れる波乱の幕開けとなった。

8月12日のTITANS NEOS.27に向けた記者会見で、藤本ジムへの想いを語った勝次。

今年1月末に、闘病中の藤本勲会長が病状悪化により藤本ジムが閉鎖に至り、所属選手はそれぞれの道に進んだ。

勝次は今後について、「新日本キックボクシング協会で多くのチャンスを頂き、日本とWKBA世界王座獲得するなどお世話になって来て、この団体を離れる選択肢はありませんでした。」と言う。

更に藤本ジムが引き継いだ目黒ジムの伝統が途切れるという危機感があり、自分が藤本ジムを引き継ごうと、藤本勲会長がジムを閉鎖する前、藤本ジムの名前を使うことを嘆願し、「勝次だったら大丈夫だ、名前だったら幾らでも使ってくれ、何かあったら力になるし、応援しているから!」と承認されていました。

伊原信一代表からは「勝次はそれでやるんだったら、それで頑張るしかないぞ。藤本ジムの名前でやっていけ。この伊原道場を自分のジムだと思って好きなだけ使ってくれ。」と協力的。そして勝次は伊原ジムとのプロモーション、マネージメント契約を締結し活動していくことになっていました。

5月5日に藤本会長が永眠され、コロナ禍で長引いた再開興行の9月27日、ここからの初戦を飾れなかった勝次。今後更なる厳しい境地に立たされる。

潘隆成の右ヒジ打ちが勝次の左瞼にヒットする直前

◎TITANS NEOS 27
9月27日(日)後楽園ホール / 18:00~20:10
主催:TITANS事務局 / 認定:新日本キックボクシング協会  

◆第8試合 63.6kg契約3回戦

WKBA世界スーパーライト級チャンピオン.勝次(藤本/63.5kg)
    vs
潘隆成(元・WPMF日本スーパーライト級C/クロスポイント吉祥寺/63.45kg)

勝者:潘隆成 / 判定0-3 / 主審:少白竜
副審:仲29-30. 宮沢28-30. 桜井28-30

必死にパンチで巻き返しにかかる勝次、潘隆成はまともには食わなかった

やっぱり出た飛びヒザ蹴りの勝次、強引にいくとヒットは難しい

潘隆成の左ミドルキックにリズムを狂わされた勝次

勝次のオープニングヒットとなった右ストレートからの主導権を奪いにいくも、その勝次の突進を阻止する潘隆成。

特に左ミドルキックでリズムを狂わされた感の勝次。

組み合ってからの崩しも潘隆成が優り、第3ラウンドにはヒジ打ちで左瞼をカットされてしまった。

パンチで幾らか軽いヒットさせた勝次だが、潘隆成のディフェンスに阻まれ強いヒットは与えられず押し切られてしまった。

勝利の潘隆成のチーム、T-98(今村卓也)がチーフセコンドを務めた

◆第7試合 70.0kg契約3回戦

日本ウェルター級チャンピオン.リカルド・ブラボ(伊原/69.8kg)
    vs
津崎善郎(LAILAPS東京北星/69.9kg)
引分け1-0 / 主審:椎名利一
副審:仲29-29. 宮沢30-29. 少白竜29-29 

第1ラウンド早々に股間ローブローを受けてから攻め倦み、津崎の前進から組み合う展開は津崎の圧力が優るが、ブラボはパンチとヒザ蹴りを的確に当てる印象も活き、両者の主導権争いは差が出ず。

苦戦の中にもハイキックを見せたリカルド・ブラボ

前進する津崎善郎にパンチのヒットも多かったリカルド・ブラボ

◆第6試合 63.0kg契約3回戦

日本ライト級チャンピオン.高橋亨汰(伊原/62.75kg)vs 野津良太(E.S.G/61.55kg)
勝者:高橋亨汰 / TKO 1R 2:19 / 主審:桜井一秀

両者の蹴りとパンチの様子見から、サウスポーの高橋が蹴りから左ストレートを打ったところで、グローブの内側が擦れるように野津の顔面をヒットすると、これで右瞼をカット。ドクターの勧告を受入れレフェリーストップとなった。

高橋亨汰の左ストレートはグローブの内側をかすって野津良太の右瞼にヒット(画像は別シーン)

あっけない幕切れながら、TKO勝利の高橋亨汰

◆第5試合 53.0kg契約3回戦

泰史(伊原/52.95kg)vs 心直(REON Fighting Sports/52.8kg)
勝者:心直 / 判定1-2 / 主審:仲俊光
副審:椎名29-30. 桜井30-29. 少白竜28-30

初回から心直がやや勢いがある蹴り。やや遅れ気味の泰史の攻めをいなすも、泰史は態勢を立て直し互角の展開。採点は振り分け難い判定となった。

心直が先手を打って出た。右ハイキックが泰史のアゴに軽くヒット

◆第4試合 57.0kg契約2回戦

中村哲生(伊原/56.95kg)vs 平田尚人(Tri.Studio/56.8kg)
勝者:平田尚人 / TKO 1R 0:55 / 主審:宮沢誠

平田のパンチ連打で中村はスタンディングダウンを奪われ、更に連打を受けてノックダウンし、レフェリーストップ。

◆第3試合 57.5kg契約3回戦

瀬川琉(伊原稲城/57.3kg)vs 新田宗一朗(クロスポイント吉祥寺/57.3kg)
勝者:新田宗一朗 / 判定0-2 / 主審:少白竜
副審:仲29-29. 桜井29-30. 宮沢28-30

◆第2試合 女子51.0kg契約3回戦(2分制)

アリス(伊原/50.25kg)vs ERIKO(ファイティングラボ高田/49.5kg)
勝者:ERIKO / 判定0-3 / 主審:椎名利一
副審:仲27-30. 少白竜27-30. 宮沢27-30

◆第1試合 女子スーパーフライ級3回戦(NJKFミネルヴァ/2分制)

芳美(OGUNI/52.05kg)vs NA☆NA(エス/51.9kg)
勝者:NANA / 判定0-3 / 主審:宮本和俊(NJKF)
副審:椎名28-29. 少白竜28-30. 桜井28-29

《取材戦記》

キックボクシングは何度負けても必要とされている限りは再起の道が用意されている場合が多い。プロボクシングだったら戦力外通告で、ジムのロッカーから名前が消されるのも実際にある話。しかしファンから見れば、負けても応援したくなる再起の道。キックではどれだけ負けが込んでも試合に出続ける選手もいる。燃え尽きるまで戦うことが出来るのもキックボクシングなのかもしれない。

ソーシャルディスタンスを保たれた興行が徐々に再開し、収容最大人数(席)の50パーセント以内という条件で各団体、各プロモーション興行も厳しい条件ながら安定してきた感があります。

この日時点では、プロボクシングはまだリングサイド撮影が認められていない模様。スポーツ新聞各社(記者クラブ所属)が揃ったらソーシャルディスタンスを保てない事情もあるかもしれません。キックボクシングは通常、一般マスコミだけなので少人数に限定することは可能でも、元から少ないので混乱にはなっていません。

新日本キックボクシング協会、今回の興行はクラウドファンディングを利用し、246人のサポーターから194万1,000円が集まった模様です。私も応援購入でSAVE THE KICKマスクを購入し付けて行ったら、このマスクを他に付けている人はスタッフの林武利さんだけ。見た限り他は誰も付けて居ない様子。

次回、10月25日(日)興行MAGNUM.53に於いて、勝次はNJKFスーパーライト級チャンピオンの畠山隼人(ESG)と対戦予定。またも他団体チャンピオンとの対戦となり、今度こそ負けられない一戦となる。

ここで負けたら伊原ジムのロッカールームで「藤本ジム・勝次」の名が無くなる!?……かもしれない。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩 編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

上條英男『BOSS 一匹狼マネージャー50年の闘い』。「伝説のマネージャー」だけが知る日本の「音楽」と「芸能界」!

◆政治の私物化を厭わない独裁者・菅義偉の正体が明らかに

おそらく政治の権限というものを、あまりにも単純に考えているのだ。国民の負託を受けた政治権力(総理大臣)は、その任免権において何をやっても許されるのだと。ヒトラーの全権委任法を、21世紀において実行しようとしているかのようだ。

日本学術会議の新会員任命(任期3年)について、菅総理は105名のうち6人を任命しないという処置をとった。史上初めてのことである。


◎[参考動画]日本学術会議 人事「NO」に野党追及(FNN 2020年10月2日)

そもそも学術会議は政府から独立した組織であり、その予算が内閣府傘下の予算建て(国庫から)になっていることから、形式上、総理大臣が任免することになっているに過ぎない。日本学術会議法はその第3条において、政治からの独立を宣言しているのだ。

「日本学術会議は独立して左の職務(一、科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。二、科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。)を行う」と。

ところが、その独立性を知らない菅総理は、政治主導(つまり官邸独裁)をここでも発揮してみせたのである。このことが、学問の自由をめぐる政治問題に発展するのは必至だ。はやくも国会論議の焦点が、いや国民的な大運動に発展させるべき案件が浮上したといえよう。学問の自由・独立が侵されたのだ。

というのも、任命されなかった学者のうち、国会で政府の法案に批判的だった人物が含まれているからだ。好ましからぬ人物(芸術家や研究者)を排除する。それはナチスドイツの文化政策と酷似している。

今回、推薦されながら任命されなかったのは、芦名定道京都大教授(哲学)、小沢隆一東京慈恵会医科大教授(憲法学)、宇野重規東京大教授(政治学)、岡田正則早稲田大教授(行政法学)、加藤陽子東京大教授(日本近代史)、松宮孝明立命館大教授(刑事法学)の人文社会科学系の6人である。

その大半に安保法制に反対してきた経緯があり、松宮教授は共謀法やテロ等準備罪法に反対し、国会で意見を述べているのだ。したがって、今回の任命拒否は、政府の政策・法案に反対する研究者は学術会議から排除する、という政治宣言にほかならない。


◎[参考動画]岡田正則早稲田大教授(行政法学)の会見(東京新聞 2020年10月2日)


◎[参考動画]小沢隆一東京慈恵会医科大教授(憲法学)の会見(東京新聞 2020年10月2日)

◆排除の理由を明らかにできない政府

政府は今回の任命拒否の理由を、絶対に明らかにできないであろう。

なぜならば、選考理由を明らかにすれば、任命拒否それ自体の違法性が露呈するからだ。まずは正面から、憲法23条に違反する違憲行為であることを指摘しておこう。

事実、加藤勝信官房長官は1日の記者会見で「内閣総理大臣の所轄であり、会員の人事等を通じて一定の監督権を行使するっていうことは法律上可能となっておりますから、まあ、それの範囲の中で行われているということでありますから、まあ、これが直ちに学問の自由の侵害ということにはつながらない。個々の選考理由は人事に関することでコメントを差し控える」と述べている。

今回の選考理由は、けっして任免を左右するような人事問題ではない。今回の政府による会員資格の当否が研究の中身にかかわる、と同時に政府批判にかかわることになるからだ。つまり研究の内容ではなく、研究者の政府批判が基準になっているのだから、もはや学問に政治介入するもの以外の何物でもない。いや、そもそも政府には研究活動の内容を選考理由にする基準は存在しないのだ(憲法23条「学問の自由は、これを保障する」)。


◎[参考動画]芦名定道京都大教授(哲学)=京都大学春秋講義「『戦争と平和』の時代とキリスト教」2016年4月13日 Part 1(Kyoto-U OCW 2019年2月20日)


◎[参考動画]宇野重規東京大教授(政治学)インタビュー(NIRA総合研究開発機構 2018年12月19日)

◆明らかな憲法違反である

過去の政府答弁を確認しておこう。

選挙で日本学術会議の会員を選ぶ制度に代わり、現在の推薦制度が導入された1983年の国会審議では、下記の政府答弁がなされている(参議院文教委員会8号、昭和58年5月12日)。長いが引用しておこう。

粕谷照美(社会党)「推薦制のことは別にしましてその次に移りますが、学術会議の会員について、いままでは総理大臣の任命行為がなかったわけですけれども、今度法律が通ると、あるわけですね。政府からの独立性、自主性を担保とするという意味もいままではあったと思いますが、この法律を通すことによってどういう状況の違いが出てくるかということを考えますと、私たちは非常に心配せざるを得ないわけです」

手塚康夫(政府委員)「前回の高木先生の御質問に対するお答えでも申し上げましたように、私どもは、実質的に総理大臣の任命で会員の任命を左右するということは考えておりません。確かに誤解を受けるのは、推薦制という言葉とそれから総理大臣の任命という言葉は結びついているものですから、中身をなかなか御理解できない方は、何か多数推薦されたうちから総理大臣がいい人を選ぶのじゃないか、そういう印象を与えているのじゃないかという感じが最近私もしてまいったのですが、仕組みをよく見ていただけばわかりますように、研連から出していただくのはちょうど二百十名ぴったりを出していただくということにしているわけでございます。それでそれを私の方に上げてまいりましたら、それを形式的に任命行為を行う。この点は、従来の場合には選挙によっていたために任命というのが必要がなかったのですが、こういう形の場合には形式的にはやむを得ません。そういうことで任命制を置いておりますが、これが実質的なものだというふうには私ども理解しておりません」

形式的な任命権である、と明言しているのだ。したがって「学術会議に監督権を行使することが法律上可能」という加藤官房長官の発言は、日本学術会議法7条2項(会員は、第17条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。)について「総理大臣の任命権は形式的なものに過ぎない」とする政府の国会答弁(従って公権解釈)と明確に矛盾するのだ。

菅総理は自民党総裁選の段階から、官僚の人事について「私ども、選挙で選ばれてますから、何をやるかという方向が決定したのに反対するのであれば異動してもらいます」と明言してきた。

これを学術団体にまで適用したのが、今回の任命拒否なのである。いうまでもないことだが、日本学術会議の構成員は行政官僚ではなく、それぞれが独立した研究者である。このような政治介入がまかり通るのであれば、コロナ対策における専門家会議が政府の都合(失敗を隠ぺい)で廃止されたり、御用学者の意見のみを根拠として政策が実行されていくことになる。

いや、そもそも安保法制のように、9割をこえる憲法学者が反対をする政策が、無批判に行なわれることを意味するのだ。メディア関係者との会食をくり返して、報道内容に手心を加えさせる。あるいはニュース番組の人事に介入し、放映権をかたに政府寄りに報道を捻じ曲げようとしてきた自民党政権において、寡黙な実務派である菅総理が、本領を発揮し始めたとみるべきであろう。いまこそ寡黙な独裁者の言動を国民的にあばき出し、その政治的な死を強いなければならない。


◎[参考動画]加藤陽子東京大教授(日本近代史)『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(FM放送ラジオ番組ベストセラーズチャンネル 2015年12月25日)


◎[参考動画]松宮孝明立命館大教授(刑事法学)【テロ等準備罪】【共謀罪】参考人意見陳述【参議院法務】(※動画33分50秒~)2017年6月1日(shakai nomado 2017年6月9日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年10月号【特集】さらば、安倍晋三

〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』Vol.25

「(性暴力の被害をうけた)女性は、いくらでも嘘をつける」

杉田水脈(みお)衆議院議員の自民党内閣第一部会・内閣第二部会合同会議で発言したとされる。この会議に出席した複数の自民党関係者の証言から、共同通信が配信したものだ。

部会の会議では、男女共同参画の来年度要求予算額についての説明が行なわれ、その中で「女性に対する暴力対策」に予算が建てられたことを巡っての発言だったという(本人のブログから)。つまり、女性への暴力について「女性はいくらでも嘘をつける」と、あたかも被害者女性がウソをつくから問題だ、とでも云う被害者バッシングを行なっていたのだ。

杉田水脈議員と言えば、『新潮45』(2018年8月号)で「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」と書き、当事者のみならず世論の猛批判を受けた。


◎[参考動画]「生産性ない」発言の杉田水脈議員が釈明(ANN 2018年10月24日)

『民主主義の敵』(2018年青林堂)

さらに『新潮45』が2018年10月号において「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」と題する特別企画を立てた。この特別企画には小川榮太郎や松浦大悟ら7人が杉田の主張を擁護する趣旨の文章を寄稿。これまた新潮社から著書を出している作家らの批判を浴びた。

けっきょく、この件で新潮社は『新潮45』の廃刊を余儀なくされた。中瀬ゆかり編集長時代には中年男性の本音を衝く総合雑誌として一世を風靡した同誌は、極右路線への漂流のすえに廃刊に追い込まれたのである。杉田はいわば、極右的な言動でネトウヨや封建保守派の代弁者として、言論界に生息してきたといえよう。

当初、杉田本人はみずからのブログで、以下のように今回の発言を否定していた。
「一部報道における私の発言について」

「昨日、一部で私の発言についての報道がございましたので、ご説明いたします。まず、報道にありましたような女性を蔑視する趣旨の発言はしていないということを強く申し上げておきたいと存じます。」

発言を否定していたのだ。杉田の発言を、誰かがウソをついて捏造していたのだろうか。

杉田に直接聞き取りをした下村博文政調会長は、「今回わが党の杉田水脈議員の部会における発言について報道があった。この報道について、杉田議員から直接お聞きした。杉田議員からは『女性に対する暴力対策に対する、しっかりとした取り組みをする必要があると考え持論を述べた。女性蔑視を意図した発言はしていない』と説明があった。」としている。

そして、「わが党は部会での審議内容は公開していないので、誰がどのような発言をしたかは公表していない。わが党の部会は国民の代表による国会議員が自由に政策論議を行う場だ。第三者が傍聴していたのでは言いにくい話もあり、政策立案のためには本音の議論もある。そこで政策立案の部会は会議を基本的に非公開にして各人の発言を公にしないでやっている。」などと、「非公開の原則」という防衛線を張って幕引きをはかっていた。


◎[参考動画]杉田水脈議員“発言” 自民幹部から注意【Nスタ】(TBS 2020年9月30日)

ところが、10月1日午後になって一転、杉田は自分の発言をみとめたのだ。

「9月26日に投稿いたしましたブログ記事『一部報道における私の発言について』につきまして、一部訂正を致します。
 件の内閣第一部会・内閣第二部会合同会議において私は大変長い発言をしており、ご指摘のような発言は行っていないという認識でおり、『報道にありましたような女性を蔑視する趣旨の発言(「女性はいくらでも嘘をつく」)はしていない』旨を投稿いたしました。
 しかし、今回改めて関係者から当時の私の発言を精査致しましたところ、最近報じられている慰安婦関係の民間団体の女性代表者の資金流用問題の例をあげて、なにごとも聖域視することなく議論すべきだと述べる中で、ご指摘の発言があったことを確認しましたので、先のブログの記載を訂正します。事実と違っていたことをお詫びいたします。」

自分の発言も、関係者に精査しなければわからない。この人は認知症なのかもしれない。いや、確信的な「忘却」なのである。


◎[参考動画]「女性はうそつける」杉田議員、一転発言認め謝罪(ANN 2020年10月1日)

◆杉田によるセカンドレイプ事件

慧眼な本欄の読者諸賢ならば、すぐに思い起こされる事件があるだろう。安倍政権の御用ライター・山口敬之のレイプ事件を擁護した、杉田の一連の発言。とりわけ、彼女のセカンドレイプに係る訴訟事件である。

詳しくは、本欄の記事、『伊藤詩織氏がセカンドレイパーを提訴 「ツイート」の「いいね」も民訴(損害賠償)の要件になるか?』(2020年8月24日)を参照して欲しい。

この事件で、杉田は伊藤詩織さんから220万円の損害賠償訴訟をされているのだ。

「女性は、いくらでも嘘をつける」とは、この事件が念頭にあったからではないのか。レイプ犯の擁護者として、みずからがまさにセカンドレイパーとしての被告であるからこそ、同性を貶める発言を流布しているのにほかならない。最悪の女性差別者は、杉田のような女性だという皮肉な現実が日本社会なのだ。。

いや、そもそも杉田水脈は女性差別という、現代日本社会の病理を認めようともしないのだ、

「とにかく女性が『セクハラだ!』と声を上げると男性が否定しようが、嘘であろうが職を追われる。疑惑の段階で。これって『現代の魔女狩り』じゃないかと思ってしまう。本当に恐ろしい(本人Twitter、2018年4月) 」

「私は、女性差別というのは存在していないと思うんです。女子差別撤廃条約には、日本の文化とか伝統を壊してでも男女平等にしましょうというようなことが書いてあって、これは本当に受け入れるべき条約なのか」とも主張している(2014年10月15日、内閣委員会)。

「日本は、男女の役割分担をきちんとした上で女性が大切にされ、世界で一番女性が輝いていた国です。女性が輝けなくなったのは、冷戦後、男女共同参画の名のもと、伝統や慣習を破壊するナンセンスな男女平等を目指してきたことに起因します。男女平等は、絶対に実現し得ない、反道徳の妄想です。 男女共同参画基本法という悪法を廃止し、それに係る役職、部署を全廃することが、女性が輝く日本を取り戻す第一歩だと考えます」 (2014年10月31日、衆議院本会議)。

史実はそうではない。生産性が低いがゆえに、男女が力を合わせて農業に従事した古代・中世においてはともかく、江戸期の儒教的な男尊女卑の価値観および戦乱によらない嫡子相続社会が、圧倒的に女性の社会的地位を貶めてきたのである。無能な男性でも家を継承できる、ある意味では能力を否定してきたのが日本の近世社会なのだ。それは封建制という身分社会・差別社会の産物にほかならない、その残滓こそ、杉田が誇りとする男社会なのだ。

2020年1月には、選択的夫婦別姓に関して、国民民主党の玉木雄一郎代表が「速やかに選択的夫婦別姓を実現させるべきだ」と述べた際「それなら結婚しなくていい!」とヤジを飛ばしている。

もはや時代錯誤としか言いようがない。封建的な家制度が個人の上に立ち、女性は男性の従者でしかないと主張するのだ。

◆小選挙区と比例代表制のあだ花

どうしてこんな低レベルの政治家が生まれたのだろうか。杉田はもともと、日本維新の会から衆議院選挙(2012年)に出馬し、選挙区(兵庫6区)で敗れたものの、比例区(近畿ブロック)で復活当選した議員である。

2014年の維新の会の分裂にさいしては次世代の党に参加し、2014年の衆議院選挙で落選している。つまり、いずれも選挙区では落選しているのだ。

その後、ネット番組で知己を得た櫻井よしこの薦めで、安倍総理(当時)の目にとまり、自民党から比例区候補(選挙区は不出馬)として議員復帰を果たしたのである。つまり比例区候補であって、個人として選挙民の支持を得たわけではないのだ。

国民にウソをついたのだから、さっさと辞職するべきであろう。そもそも杉田水脈には、国民に選ばれた国会議員の地位にしがみつく正当な理由はないのだから。

カネがかからないはずの小選挙区で、しかし政党助成金という名の血税がばら撒かれ、党の公認を受けるための忠誠、すなわち官邸の言いなり政治家が輩出されてきた。政治家の劣化とは、この党中央・官邸独裁の産物なのである。

そしてそれは、政治家の人物を評価しない国民の投票行動として、悪夢のような安倍政権の長期化を許してきた。このさい、選挙制度の抜本的な改革こそ求められている。


◎[参考動画]祝!当選&新番組予告「衆議院議員杉田水脈の国政報告」司会:倉山満(チャンネルくらら 2017年10月28日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年10月号【特集】さらば、安倍晋三

〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』Vol.25

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