ゴールデンウィークというものとは、ほとんど無関係に過ごしたが、あまりに心がすさんできたので、しばしの時でも憩いたいと思った。
副都心線と繋がった東横線、みなとみらい線で一直線。横浜美術館をめざした。
横浜のみなとみらいは、赤レンガ倉庫などの古い景観も活かし、湾と溶け合うような街作りが成功している。たくさんの人々が行き交っている。

横浜美術館でやっているのは、「Welcome to the Jungle 熱々!東南アジアの現代美術」。シンガポール、マレーシア、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジアの25組の作家の作品が紹介されている。

いちばん目当ての作家は、イー・イランだった。彼女の出身地は、マレーシアのサバ州。スールー諸島の一部だ。かつては、スールー王国が統治をし、スペインさらには日本の植民地になるなど、所属する国家が変わっている。

惹きつけられたのは、海に突き立った岩の上に、馬に乗り威儀を正している騎士の絵だ。
あくまでも静かな波の音が聞こえてくる。騎士はどこに向かおうとしているのか。
見ているこちらの心にまでさざ波が忍び寄ってくる。

別の作家の写真作品では、オラン・ラウトと呼ばれる、海のノマドを撮ったものもある。
ひたすら屋台を撮った作品もある。様々な街をバックに、顔に反射鏡を当てた人物を、撮った作品もある。「世界基準」について延々と喋り続ける銀行員、というコンセプトのビデオ作品もある。

一つ一つの作品と対話しながら、実に贅沢な時間を過ごす。心が蘇生する。
そして気づく。入場者のあまりの少なさに。一つの展示室に一人、という時もあった。最高でも5人だ。
もちろんこれは、ありがたいことだ。あまりにも多い人で沸き立っている美術展は最悪だ。
コンサートや芝居なら、多くの人々と熱気をともにするのもいいが、美術作品は一つ一つとの対話が必要だ。

ゴールデンウィークというのは、まさかこんなところには来ないだろう、というところにまで混雑が発生していて油断がならないが、意図せず穴場を見つけて、至福の時間を過ごした。

けれど、やはり少し哀しい。これだけ素晴らしい作品があるとも知らず、人々は素通りしているのか。
「汽車道」と呼ばれる橋を歩いていって、赤レンガ倉庫に行くと、ビールフェスティバルをやっていて、そこは人でごった返していた。

※「Welcome to the Jungle 熱々!東南アジアの現代美術」は、6月16日まで開催。

(FY)