足立昌勝(紙の爆弾2026年3月号掲載)

◆国旗損壊罪新設への動き
2025年10月20日、自民党と日本維新の会が署名した「連立政権合意書」の内容は多岐にわたるが、第3項「皇室・憲法改正・家族制度等」の一項に「令和8年通常国会において『日本国国章損壊罪』を制定し『外国国章損壊罪』のみ存在する矛盾を是正する」と書き込まれている。
11月4日の衆議院の代表質問で、維新・藤田文武共同代表の質問に対し、高市早苗首相は次のように答弁した。
「日本国旗損壊罪の制定についてお尋ねがありました。これは、過去、私自身が刑法92条改正案を起草し、自民党の党議決定や御党関係議員の御協力の下、法案を国会に提出したこともあります。御党との合意書の内容を踏まえ、今後、その実現に向けて、両党間で具体的な検討を進めていくとともに、政府としても与党と連携を図りつつ必要な取組を進めてまいります」。
日本の刑法では、外国の国旗を損壊する行為は罰せられるが、日本の国旗は対象とされていない。そこに矛盾があるとの主張は、これまで、どこからも聞こえてこなかった。
2025年11月3日に地元の大分放送で放送されたニュース番組で、岩屋毅前外相は、かつて高市氏が提案した「国旗損壊罪」に反対した理由について、次のように答えている。
「当時、反対しました。なぜなら、「『立法事実』がないからです。立法事実とは、実際にそうした事例が社会問題になっているかということです。日本で誰かが日章旗を焼いた?そんなニュースを見たことがない。立法事実がないのに法律を作ることは、国民を過度に規制することにつながるので、それは必要ないのではないかと言いました」。
「国旗・国歌法(1999年制定)には賛成しましたよ。でも日の丸が燃やされて大変なことになって、規制しなきゃいけないという事実がないでしょ。事実がないのにそうした法律を作ることは、国民の精神をどこかで圧迫するおそれがあります」。
2012年5月、自由民主党は、総務会で日の丸(日章旗)を傷つけることに対する罰則を定めた「国旗損壊罪」を新設する刑法改正案を了承したことを受け、高市早苗・長勢甚遠・平沢勝栄・柴山昌彦の各議員が議案提出者となり、議員立法で第180回国会に法案を提出したが、審査未了で廃案となった経緯がある。
高市氏は公式サイトの2011年3月8日付「コラム」で、国旗損壊罪新設の理由を、「私の意図は、この法改正によって、『日本国国旗を破いたり燃やしたりした日本人や在日外国人をどんどん逮捕する』などというものではありません。あくまでも日本人として、『日本の威信・尊厳を象徴する国旗』に対する愛情や誇りを、せめて外国国旗が刑法で保護されているのと同程度には、守りたい…という思いです」と述べていた。
今年の年頭所感や1月6日の新年記者会見で、国旗損壊罪の新設については何も触れられなかったのは、すでに決めたことであり、今さら言及する必要がないという、彼女の新設への意欲を示しているのだろう。
◆今なぜ国旗損壊罪なのか?
自維に先駆けて、参政党は、2025年10月27日、国旗損壊罪を新設する刑法改正案を参議院に提出した。その背景は、同年7月の参院選で次のような事実があったことに起因しているらしい。以下、12月9日付の毎日新聞「『日の丸にバツ印』掲げた大学生あいまいな国旗損壊罪に『怖い』」から引用する。
〈今年7月の参院選投開票前日。参政の神谷宗幣代表が街頭演説した東京都港区の芝公園は異様な熱気に包まれていた。陣営によると1万人を超える聴衆が集まり、「日本人ファーストは差別」などと書かれたプラカードを掲げて抗議する人たちもいた。
ひときわ目を引いたのが、大きなバツ印を付けた日の丸だった。
神谷氏は10月、「こんなことが許されるのかと思った」と記者団に述べ、バツ印を付けた日の丸を見た数日後に法案作成を指示したことを明らかにした。「国をおとしめることをされることで、多くの人の人権が傷つけられる。公共の福祉に照らせば『表現の自由』で認められるものではない」と主張し、他党に協力を求める考えも示した。〉
ここで挙げられた事例をもって国旗損壊罪を新設しようとするのは、まったく理由にならない。選挙活動への抗議行動を法で取り締まろうとしているのだ。まさに、これは表現の自由の問題である。
神谷氏が見た「バツ印を付けた日の丸」とは、どのようなものだったのか。個人的に作成したものなのか。国旗・国歌法で定められている国旗だったのか。国旗・国歌法によれば、「旗の形は縦が横の三分の二の長方形。日章の直径は縦の五分の三で中心は旗の中心。地色は白色、日章は紅色」とされている。上下・左右対称である。この規定に合致していなければ、正式には国旗ではない。参政党の主張では、何がなんでも日の丸を侮辱する行為を取り締まり、処罰することになってしまう。果たして、そのような取り締まりをしなければならない現実が、日本の社会にあるのか。立法事実もないのに新たな法を作成しようとすることは、個人的な恨み・つらみの範疇であり、法律で規制することではない。公私混同が激しい参政党の性質を示したにすぎない。
自民党の国旗損壊罪新設の背景も、自民党の体質ではなく、高市氏の個人的思想・国家観があるのだろう。それは前述のブログに表れている。公党の総裁となり、首相となった人物が個人的思想に依拠したことがらを、党の内部的手続きを経ずに法案化しようとするのは党の私物化であり、さらには、国家の私物化である。
このような彼女の発想・やり方は、彼女が師と仰ぐ安倍晋三元首相を踏襲しているのであろう。
2025年12月18日、政権で安全保障政策を担当する「官邸筋」が、「私は核を持つべきだと思っている」と発言したと報じられた。オフレコ前提の非公式取材で飛び出したとされるが、発言の主は首相の防衛政策を指南する「ブレーン」ともいえる首相補佐官だった。しかし高市氏は、今に至るも何のコメントを加えていない。
2026年1月3日にアメリカが行なったベネズエラの首都カラカス攻撃および、それに伴うマドゥーロ大統領の拉致は、他国への侵略的攻撃であり、国際法に違反するもので、どこにも正当性は存在しない。
この事実に対する所見を求められた高市氏は翌4日、従来の立場すなわち「自由、民主主義、法の支配といった基本的価値や原則を尊重する」としたうえ、「ベネズエラにおける民主主義の回復および情勢の安定化に向けた外交努力」を進めるとだけ表明した。自己の思想や国家観に基づく政策を、党内手続きを無視してでも強行しようとする首相が、国際政治の場で「法の支配」を主張する資格があるのだろうか。「法の支配」を主張するのであれば、国内の、いかなる事態でもそれを貫徹すべきである。
一般論からいえば、この国旗損壊罪新設の問題は、現行刑法に外国国旗損壊罪を罰する規定が存在する一方で、自国国旗を対象とする規定がないことに起因しているとされる。この「不均衡」を是正し、国家の象徴としての尊厳を守るべきだというのが、新設を求める賛成論の主たる主張であろう。
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