広島県福山市の景勝地・鞆の浦の美術館「鞆の津ミュージアム」が開催している絵画展「極限芸術~死刑囚の表現~」が話題を呼んでいる。死刑囚約30人が獄中で描いた300点以上の絵画を展示し、4月20日にスタートして以来、約2カ月で来館者が4000人を突破。異色の絵画展ながら家族連れやカップル、女性同士の来館も多く、芸人のカンニング竹山さんや俳優の井浦新さん、同・大西信満さん、アレフ広報部長の荒木浩さんら各界の著名人も次々に訪ねてきて、連日活況を呈している。

そんな評判の絵画展の中でも、ひときわ注目を集めているのが、ここに掲載した「国家と殺人」という作品だ。作者は、一貫して無実を訴えながら2009年に死刑確定し、現在は再審請求している和歌山カレー事件の林眞須美さん(51歳、大阪拘置所で拘禁中)。ほとんど赤と黒だけで描かれた独特の抽象画だが、マスコミが同展の話題を報じる時はいつもこの作品がトップで紹介されてきた。見る者に何かを強く訴えかける力があり、一度見たら忘れがたい印象を残す作品だ。

このほど、林眞須美さん本人がこの話題作に込めた思いや制作過程などを語った「肉声」が、以前当欄でも紹介(http://www.rokusaisha.com/blog.php?p=2625)した林さんの支援誌「あおぞら通信」の最新号(6月22日発行、第24号)に掲載された。少し長くなるが、全文を引用して紹介しよう。

〈4/20土 本日より6/23まで、広島・鞆の津ミュージアムにて「死刑囚の表現」が開催される(筆者注:同展の会期は7月21日まで延長されている)。私も、今までに、拙いが、何点かを応募してきている(筆者注:正確には、「死刑廃止のための大道寺幸子基金」が2005年より毎年開催している死刑囚の表現展への応募作品が、同展で展示されている)。
私は、このチラシ(筆者注:同展の宣伝用チラシのこと)にも使って下さっている「国家と殺人」を、これを描いた、その時の私の思いを全身より、私なりに記したのです。
赤い血の涙 上の四つは、4人の子供ひとりひとりの四つ、下の三つは、夫と兄二人の三つとして思いを込めて描きました。

黒のマジックペンはなく筆ペンなんて、お金もなくそうそう購入できません。赤の色鉛筆を何本か未決時に子供達や×××ちゃん(筆者注:原文では、×××は人の名前)に頼んで差し入れてもらった、色々なキャラクターの、キティやスヌーピー、ディズニーのミッキーやリトルマーメイド等のたくさんの赤色鉛筆があったのと、和歌山(筆者注:裁判の第一審が終わるまで拘禁されていた和歌山の丸の内拘置支所のことだと思われる)時には万年筆をよく使っていて黒インクを箱入りで和歌山(筆者注:前同)より持ってきていた。100円で色紙を購入。黒の部分を筆ペンで塗るが色紙が吸い込み、とても真っ黒になりそうもない。万年筆のインクを色紙に流し込んでの黒色です。マジックは大拘では使えません。以前いた拘置所で使っていて持ってきた人は、そのまま使用できますが。

フォーラム90誌の岡下香さんの執行の所を読んで思ったことを描きました。
中央の赤黒い線は、もちろん、死刑執行後に残る太縄による絞縄のあとですし、首をイメージしています。真ん中の黒いところは少しあえて首として食い込ました。今の私は、この絵のように首に少し食い込んでいる状態であると・・・私ももちろん46時中そうですが・・・死刑という刑に対して4人の子供ひとりひとりや夫や兄2人は、10年10月4日逮捕より、私以上に、私が殺される、殺されてしまうことが、今日か明日かと、常時つきまとっているのです。今、今、今、毎日の日々の中で、四人の子供ひとりひとりの四つの赤い血の涙。夫や兄二人の三つの赤い血の涙。そして、私の首の下には、いつも、この太い縄が少し食い込んでいる状態である、という意味もこもっています。〉(以上、あおぞら通信第24号より。筆者注以外は原文ママ)

この林さんの声に触れ、どう感じるかは、人によって様々だろう。林さんについては最近、冤罪を疑う声が急激に増えているが、おそらくは林さんのことを和歌山カレー事件の犯人だと思っているか、そう思っていないかで感じ方に大きな違いが出るように思われる。筆者自身は、林さんは冤罪だと確信しているので、一日も早く解放されなければならないと改めて思わざるをえなかった。

同展では、他にも林さんの作品が色々展示されている。ここに掲載した「国家と殺人」も生で間近に見ると、表面のでこぼこした感じや質感がよくわかり、より生々しい迫力がある。関心のある方は一度、同展を訪ねてみてはいかがだろうか。

(片岡健)

★「極限芸術~死刑囚の表現~」の詳細は、「鞆の津ミュージアム」のHPhttp://abtm.jp/blog/197.html