最近よく耳にするようになった限定正社員。安倍政権が普及させようと整備を進めている。限定正社員とは、総合職の様な転勤や残業は基本的には無く、一つの職場一つの業務のみに専念する社員として雇用する形態だという。無期契約なため非正規雇用より安定した雇用であり、社員と同じように福利厚生も受けられる。反面給料は正社員より低く抑えられ、異動がないため仕事先の事業所が事業縮小、閉鎖となればすぐ職を失う。

現在、限定正社員よりも待遇悪く、不安定な非正規労働者は全体の4割に達している。特に非正規スパイラルに陥っている若者が、限定社員とはいえ非正規から抜け出すきっかけになれば喜ばしい制度だ。しかしそんな簡単に解決するなら、今のように根深い問題にはなっていないだろう。

以前「不況の根底に労働派遣法がある」で触れたように、行政は非正規労働者を労働者として考えていない節がある。そのため形式はともかく「正社員」の雇用を増やそうとあの手この手を打っている。それが労働派遣法改正の「3年ルール」だったり、労働契約法改正の「5年ルール」となって顔を出してきている。整備不足な斜め上な政策は、その年数で雇い止めされて、非正規が切られてしまうという現実に晒されている。

そこでこの「限定正社員」を広めようとしているわけだ。非正規を切って新たな非正規を取るより、人件費を安く抑えられる限定社員にしてください、という意図なのだろう。正社員より給料が低くとも、非正規と違い社会保険料を納めてくれる形態なら、厚労省も歓迎と言ったところか。

不安視されている正社員からの格下げ、また限定正社員増加による正社員への負担増、この辺りは間違いなく起こるだろう。限定正社員は残業無しと謳っているが、元々正社員だって残業はしてはいけない、と労働基準法にはあるのだ。36協定があまりにザルなため、残業はあって当たり前になっている。限定正社員とは名ばかりで、他の社員より給料が低いだけで残業負担もさせられている、正社員となんら違いが無く、解雇されやすい限定正社員が増加するのは想像に難くない。

連合をはじめとする労働界が、この動きに懸念していることも興味深い。「企業が社員を解雇しやすくなる恐れ」に反発するのは当然だが、非正規雇用を正規雇用にするという部分にはあまり関心がないようだ。非正規労働者の殆どが未加入の企業組合においては、彼らを歓迎しない雰囲気がうかがえる。話し合いが進められる政府、経済界、労働界の中には、焦点となっている非正規雇用の理解者はいない。人件費を抑えたい企業も、企業御用達の組合も非正規雇用者が多い方ほど都合がいいのだ。企業と組合を敵に回してまで、政府は労働者有利な整備は進められないだろう。労働者を保護する法整備を確立させなければ、限定正社員は政府に保険料を納め、企業に安く使われ、組合は関与しないという非正規雇用者と何ら変わりのない存在になるだろう。

(戸次義継)