本年3月7日に英BBCが故ジャニー喜多川の未成年性虐待問題をドキュメントとして報じて以来、『週刊文春」が20数年前にシリーズでこの問題を採り上げてからようやく日本のマスコミも重い腰を上げ取材に動き出して来た。

BBCにしろNHKにしろ朝日新聞にしろ、また弁護士ドットコムにしろ、私たちは最大限協力してきた。おそらくこれが最後のチャンスだとの想いからである。

若き日の藤島ジュリー景子(右)と、古参の幹部ながら藤島メリー泰子から放逐された飯島三智(みち)

もう18年も前になるが月刊『紙の爆弾』創刊直後の2005年7月、大手パチンコメーカー・アルゼ(現ユニバーサルエンターテインメント)等からの刑事告訴により「名誉毀損」に名を借りた出版弾圧で私が逮捕され会社は壊滅打撃を受けた。にもかかわらず、読者やライター、取引先のみなさんのご支援で復活し現在に至っている。

その話はここではこれ以上触れないが、アルゼに関する取材で4冊の書籍を出し、この過程で集積した資料を、フィリピンにおけるカジノホテル開発で政府高官への贈収賄容疑を追っていたロイター通信の要請に応じ惜しみなく提供し、業界の様子やアルゼの実態等についてレクチャーしたりした。この甲斐もあってか、ロイターはアルゼ追及の記事をたびたび発信し、創業者オーナー岡田和生は海外で逮捕され、ついにはみずからが作り育てた会社からも放逐された

鹿砦社のアルゼ告発書籍

BBC、NHKなどから協力要請があった時、このことを想起し、最大限協力を惜しまなかった。

勿論、記者の方々の奮闘はあろうが、少しは役に立ったのであれば嬉しい。ジャニー喜多川がすでに亡くなった中で、今後、どう転回するかわからないが、将来的に有益な結果をもたらすことを望んでやまない。

周知のように去る5月14日夜、ジャニー喜多川の未成年性虐待について、ジャニーズ事務所現社長・藤島ジュリー景子(ジャニーの姪、、元副社長・藤島メリー泰子の長女)が動画と書面で見解を明らかにした。

これに対し、メディアは即反応した。NHKは翌朝のニュースのトップで報じた。それまでは数分報じたと聞いたが、これだけでも大変なことなのに、ニュースのトップで報じるとは想定外だった。民放もこぞって報じた。

大手新聞は、翌日朝刊は休刊日だったため、テレビよりも遅れ夕刊での報道になった。私が購読している朝日は夕刊一面トップ、翌々日の16日朝刊は、一面、二面全頁、社説(2度目)、中面2分の1頁と、これまでになく大々的に報じた。

朝日新聞5月15日夕刊

同 5月16日掲載「社説」

そうしてNHKは、17日夜の「クローズアップ現代」で報じた。わざわざやって来た記者ら複数から連絡もあり視聴した。このかん100人ほどに取材し、6人が性被害に遭ったそうで、番組で実名、顔出しで証言した者もいた。さらに性被害を訴えた書籍4冊の画像が写っているが、うち3冊は鹿砦社刊行のものである。

5月17日夜のNHK「クローズアップ現代」。性被害を訴えた書籍4冊の画像が写っているが、うち3冊は鹿砦社刊行のものだった

しかし、ここで私は違和感を覚えざるをえなかった。最も大きいことは当のジャニー喜多川が亡くなっており、まさに「死人に口なし」で反論も弁明もできない。マスメディアは生前に追及はできなかったのか? なぜしなかったのか?

噂のみならず、20年余り前に『文春』が連続してキャンペーンを行い訴訟も事実上勝訴している(一部敗訴)。さらには国会でも質疑がなされている。にもかかわらず、当の『文春』以外に今回のように大々的に報じたマスメディアは皆無と言ってよかった。わずかにミニコミに近い鹿砦社の書籍と雑誌のみが細々と報じ続けてきたにすぎない。

[左]『ジャニーズに捧げるレクイエム』表紙[中央]唯一ジャニーズの歴史を詳述した書籍『ジャニーズ50年史』(増補新版。鹿砦社刊)[右]たびたび出版されたジャニーズのスキャンダルをまとめた書籍『本当は怖いジャニーズ・スキャンダル』(増補新版。鹿砦社刊)

当事者のジャニー喜多川本人が亡くなってから、いくらやんややんやと騒ぎ立てても詮無いことである。

せめて『文春』が告発キャンペーンを始めた時期、また訴訟が、東京高裁で事実上の逆転勝訴(一部敗訴)が確定した時でもきちんとその意義など報じるべきだったのではないか。

1995年からジャニーズ事務所(原告は所属タレント名だが)を相手に、まさに巨象に立ち向かう蟻のように3件の訴訟を闘い、うち2件は最高裁まで闘ったが、以来ずっと告発系、スキャンダル系の書籍を出し、ジャニーズ事務所の問題点を明らかにしてきた。関連書籍は数十点、1冊も残っていない本もあり正確な出版点数は数え切れない。いちど数えてみたい。

賠償金も含め1億円を越す訴訟費用(対ジャニーズだけではないが)を使った身として、こういう転回になるとは感慨深いものがあるが、マスメディアに対しては大いに違和感がある。20年前に、今回のように頑張ってくれたら、少なくともその後の被害者はなかったはずだ。今、メディア総出でジャニーズ叩きに狂奔している。こういうのを「メディアスクラム」と言うのかどうかは知らないが、最近では、なにか苦々しいもの、違和感を覚えるようになった。

いまや孤立無援の感があるジャニーズはどこへ行くのか? これをこぞって追及するマスメディアは20年も放っていたことをどう考えるのか? この問題はどういう形で収束するのか? 私も、かつてと異なり老境に入り、ここに至って新たにヒトとカネを投じて取材に動けないので、せめてしかと見極めたいと思っている。(松岡利康)

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月刊『紙の爆弾』2023年6月号