本稿は2022年12月18日大阪市で行われた「チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西発足31周年の集い」の記念講演「福島第一原発事故から11年 今 伝えたいこと」の講演データです。一部再構成した上で、前編、後編の2回に分けて掲載します。

◆提訴の思い ── 国と東電に被曝と生活権破壊に対する責任を認める姿勢を質したい

 

以上(講演前編)のような状況から、私は国と東電が避難者に今後の被曝に対する不安を残し、安住生活を破壊してしまった責任をきちんと認める姿勢を質したい。

飯舘村民が、長期間の高放射線被爆により健康不安を引き起こした初期被曝に対する代償、そして飯舘村民を引裂き、暮らしに欠かすことのできない美しかった自然環境の破壊と安定した社会生活を形成してきたコミュニティの崩壊を引き起こし、飯舘村で安心・安全な、そして充実して暮らしてきた生活権の破壊に対する代償を求めて、2021年3月5日に訴訟を提起しました。

避難から11年を費やしてしまい、事故前のような飯舘村での暮らしはままならない状況を作り出した福島第一原発事故は、如何に住民にとって過酷な事故であったかを理解して欲しいと願うばかりです。

◆変わり果てた美しかった故郷 ── いかに日本国民は将来への負担を抱えたか

 

何十年、何百年という何代にもわたって培ってきた自分の生まれ育った飯舘村は変り果て、美しかった自然環境は崩れ、黄金色に輝いていた田面は、いたる所で真っ黒いソ-ラ-パネルに埋め尽くされています。

それでも、一方では村民の努力で水稲栽培が復活したところも有り、野菜や花卉の栽培も進められ、徐々にではあるが農業の再生が進められています。

事故を起こした福島第一原発は、事故収束と廃炉に向けた事故処理が行われていますが、そのためにはどれだけの無駄な歳費が支払われているかを考えるに、このことによっていかに日本国民は将来への負担を抱えたかである。

◆原発再稼働・新設を語る政治・経済界は、福島県の被災者の心を全然理解していない

このような危険極まりない原発を再稼働とか新設とかを語る政治・経済界は、福島県の被災者の心を全然理解していないことにつながり、底知れぬ恐ろしささえ覚える。

日本国憲法の下で、国民が安全安心して暮らせる国づくりを基本とすべきものを国民不在の知らされないところでの政治がなされてきていると感じている。

ましても、最近の政治家の不祥事にもあきれ果てる場面が多々見受けられるが、「ウソ・偽り」のないクリーンな社会を創造する義務を忘れ、自己本位で独裁的な方向に導こうとしているように思えてならない。

その現状を垣間見るようなメディアの報道は、いかがなものか。姿勢を正して真実をきちんと導き出し、国民に明らかにしていく真の精神が欠けていると感じている。

◆国は国民の利益増進し安定して暮らせる社会を築くべき ── 国民一人ひとりの行動が大切

国家は、国民の利益を増進させ、安定して暮らせる社会を築くべきで、その転機にある時期ととれる。

コロナ禍ではあるが、国民はもっともっと政治に関心を持ち、国民一人一人の意思が格差なく反映され、平和で民主的な日本国とするために行動することが何よりも大切なことと最近では特に思えてならない。

◆飯舘村の新たな施策に期待したい

飯舘村の再生は、一言では言い表すことができないほどに、場所も人の心も崩壊してしまっているのが現状です。

インフラの整備と外からの移住政策の推進に邁進する国家政策では村の再生はかなわないと思っているが、村長の交代による新たなる施策に期待したいと考えている。避難している以前の飯舘村民の生活再建施策が乏しい中でも、新村長の公約は「ふるさと再生」ととれる考えに期待をかけたいと思う。

生業の再生なくして帰村しての生活は成り立たないのですから、経済基盤の立てなおしに行政の力を発揮してほしいと祈願している。

 

◆私たちは、飯舘村の大地に根を張った飯舘村民

私たちは、飯舘村の大地に根を張った飯舘村民なのです。長年暮らしてきた飯舘村の光景は、毎日のように脳裏に映ります。そんなに簡単に消えることはないのです。それを長期的に放射能汚染されてしまった悔しさと怒りは計り知れません。

自然の魅力と恵みがあり、安心して暮らせる環境が整った飯舘村での生活再開を心待ちしているのが、避難している多くの飯舘村民の願いですから、国・県はその願望に寄り添った的確な対応をすべきと思う毎日です。

本日ご参加戴きました皆さん。

この地球に暮らすほとんどの人々は、とくどなく平和を望んでいます。

敗戦国である日本の平和のために、そして世界の平和を造るために、国民の責任だと偽ってまで、増税による軍備は本当に必要なのでしょうか?

世界でただ一つの被爆国である日本は、世界大戦の悲劇を全世界に発信する外交がなされ、世界に働きかけるべきなのに不思議でなりません。

どうか、このことを国政に反映する日を待ち望みたいと思います。本日は、ご静聴頂きまして誠にありがとうございました。(完)

◎菅野 哲《講演》福島第一原発事故 ── 今 伝えたいこと
〈前編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=47836
〈後編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=47855

▼菅野 哲(かんの ひろし)
1948年、戦後開拓入植者の長男として飯舘村で生まれる。福島県立相馬高校卒。家業の農業に従事後、飯舘村森林組合に就職。1969年、飯舘村役場に奉職。2009年、定年退職後、農業に復帰。2011年3月、原発事故により福島市に85歳の母と妻の家族3人で避難生活。2014年7月、長谷川健一団長と共に「原発被害糾弾 飯舘村民救済申立団」を立ち上げ、副団長として「申立の趣旨」文案にかかわり、組織化につとめる。2019年7月、「飯舘村民救済申立団」解散。現在は公益社団法人相馬広域シルバー人材センター理事長。報徳会相馬理事。主著に『〈全村避難〉を生きる:生存・生活権を破壊した福島第一原発「過酷」事故』(言叢社2020年)。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年秋号

◎鹿砦社HP http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000729

龍一郎揮毫

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