仕組まれていた大阪関西万博未払い問題

西谷文和(紙の爆弾2026年11・12月号掲載)

昨年10月13日に大阪関西万博が閉幕して、まもなく1年が経過する。開催中「万博の華」といわれていたのが外国のパビリオンだ。しかしいまだにアンゴラ・アメリカ・中国・マルタ・ルーマニア・セルビア・ドイツ・ネパール・インド・ポーランド・ウズベキスタンの11カ国の工事を請け負った下請け業者が、総額10億円を超える工事費の未払いに苦しんでいる。

ちなみに「愛・地球博2005」は、未払いゼロ(当たり前だが)。電通と業者の間でワイロの授受があり、関係者が塀の内側に落ちてしまった「東京オリンピック2020」でも未払いはゼロ。なぜ「大阪・関西万博2025」だけに多くの未払い問題が生じたのか?

その答えは、無謀なタイムスケジュールと、夢洲という最悪の会場設定だった。

まずは日程問題から振り返ろう。前回の「ドバイ万博2020」がコロナ禍で1年延期され、そもそも準備期間が4年に短縮されていたことが、第1の原因だ。この4年のうちにウクライナ戦争が勃発し、資材が高騰。さらに人材不足と建設業界の働き方改革による残業規制など、そもそも遅れる原因が複雑に絡み合っていた。2022年秋には宮本洋一・日本建設業界会長(清水建設会長)が「このままでは間に合わない」と警鐘を鳴らしていた。

さらに1年が経過した2023年夏、大手ゼネコンがいっせいに工事から撤退を始めた。外国政府が独自に建てる〈パビリオンAタイプ〉はデザインが複雑で、その国の意向を取り入れながら建設していくため、追加工事や設計変更などで遅れが生じやすい。そうなれば追加資金が必要になるが、外国政府は支払わないだろうと予測したのだ。

大手ゼネコンは「資金が回収できない」とAタイプから逃げた。ゼネコン関係者は匿名で「このまま請け負えばやけどする」と語っている。当然、万博協会も国も大阪府もこの事実を知っている。

その結果、2023年8月の時点で、Aタイプで工事を開始した国はゼロ。このままでは間に合わないと焦った万博協会と吉村洋文大阪府知事は説明会を開催。関西の中小建設業者・設備業者を集めて、異例の協力要請を行なった。この時、吉村知事は「大手だけでできるものではない、中小業者のみなさんのご協力をお願いしたい」と頭を下げた。

今年6月、国会で日本共産党の大門みきし参院議員がこの説明会について質問した。なんと万博協会と大阪府知事は「大手ゼネコンは資本回収リスクがあるから撤退した」事実を隠した上で、協力だけを要請していたのだ。

そうこうするうちに2024年1月、能登半島地震が起きて多大な犠牲が出た。この時せめて「震災のため1年延期」と工事期間を延ばしておけば、未払い問題は回避できただろう。建設業者を急がせて2025年4月開催に突き進んだ吉村知事と万博協会の罪は大きい。

その結果、宮本会長が危惧した通り多額の未払いが発生、少なくとも38社の下請け企業が10億円を超える被害を受けた。38社の下には孫請け、ひ孫請け、1人親方たちがいて、おそらく1000人を超える人々が今も泣き寝入り状態で放置されている。

◆手のひらを返した吉村知事と万博協会

次に夢洲という会場の問題について振り返ろう。夢洲はゴミの処分場として大阪湾に埋め立てられた無人島で、工事期間中はまだアクセス用の地下鉄が開通しておらず、路線バスもなし。職人さんたちは重い工具を持って自家用車に相乗りし、駐車場からかなりの距離を歩いて現場に入っていた。

Aタイプは全て円形大屋根リングの内側に建つ。大屋根リングは日本の税金で作っていたので「資本回収リスク」はない。だから大手ゼネコンが予定通り作ってしまった。リングが先にできたので、工事用のトラックが入りにくくなった。笑い話のようなアホ状況の中、急ピッチで外国パビリオン工事を進めざるを得なかった。

さらに夢洲の地盤はN値5。これは「保育園の砂場レベル」のゆるさで、通常の2階建て家屋はN値20以上ないと建たない。マンションはN値50が必要だ。つまり、デザインに趣向を凝らした上で、高い建物を建てようとすれば、杭を打たねばならない。おそらく外国の担当者は夢洲がそんな地盤であることを知らずに、工事計画を練っていたのだろう。だから余計に設計変更・追加工事が多発し工事予算は膨らんでいく。

未払い被害者たちは「何度も設計変更があって、ほぼ眠らずに凍えながら現場に泊まり込んで作業した」と証言している。工事最終盤は2025年1月から3月、「労働者が逃げ出すのではないか」と考えたのか、現場に監視カメラが設置された中での突貫工事だった。

彼らは「万博を支えた影の英雄」である。吉村知事と万博協会は、工事前は頭を下げたものの、工事後は手のひら返し。「民・民の問題だ」と彼らを切り捨て、救済に動かない。

先の大門議員は「資金回収リスクがあることを事前に知らせなかったのは、国や協会の重要事項説明義務違反である」と追及している。万博協会・国・大阪府は道義的責任どころか、法的責任を問われる立場でもあるのだ。

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