最近、しばらくぶりに飛行機に乗る機会があった。ここ何年も空港に行くことすらなかった。蛍光灯の光に戸惑いながら、よろよろと搭乗口へ急ぐ。今回利用したのは、食事や飲み物、娯楽に別途に料金のかかる格安航空会社だ。預け入れの荷物もしっかり計量され、超過分には相応の料金が徴収される。機内食にはほとんど手をつけることもなくなっていたから、それには困らなかったけど、機内がちょっと肌寒く感じたんで、毛布を借りようとしたら,それまでカネをとられるのには少し驚いた。しかもクレジットカードでないと払えないから、信用が欠如した自分のような人には毛布も借りられない。

こうした格安航空会社の参入で老舗の航空会社も、経営合理化というコストの切り詰めを余儀なくされる。クルーを、労働力が安く条件もいい加減な国から調達し、機体の整備も労賃の安い場所に移す。正規雇用はどんどん減らし、劣化した労働条件と雇用の不安定なパートタイムと派遣に頼る。格安航空券は、こうして生まれてくる。格安航空会社の中には、搭乗客に別なものやサービスを売りつけ、そのあがりでコストを補うというビジネスモデルで営業するところもある。こうなると、旅客輸送会社なのかなんなのか分からなくなる。安全な運行なんか、二の次だ。老舗も格安に衣替えしたり、それができないもののなかには倒産するものも出てくる。

しかし、どんなビジネスモデルをとっても、どれだけサービスを削っても、航空会社のコストで最も大きなものは燃費だ。人件費や整備費をどれだけ圧縮しても、飛行機を飛ばさないことには航空会社ではあり得ない。
飛行機を飛ばすために、どのくらいの燃料が必要になるかについては、いろいろな要素が絡むが決定的なのは重量だ。単純に、重量が重くなればなればなるほど燃料はかさむ。だから,機内持ち込の手荷物だけのチケットが安かったりする。また20キロ以上の預け入れ荷物に超過料金が課されることになる。

いくつかの航空会社ではすでに導入しているところもあるそうだが、これから航空業界の競争がもっと進めば、搭乗客の体重にも同じルールを適用するところが出てくるかも知れない。シートベルトを締めながら、周りを見回してそう思う。体重が増えれば当然飛行機への負荷が増し、それを運ぶために燃料もよけいに必要になるからだ。

世界人口の14%以上が肥満だといわれている。米国が肥満世界一であることは知られているが、人口の3割が肥満だといわれている。ニュージーランド、英国、オーストラリアといった英語圏の諸国も、人口の2割を超す人が肥満だ。肥満は普通、所得との関連で説明されるが、メキシコが米国に次いで肥満率が高かったり、アジアで所得の高い日本や韓国では肥満比率が低いことなどを見ると、必ずしも相関関係があるとは言えない。食事を含めた生活様式が肥満に影響しているようだ。

日本の肥満率は人口の3.2%でたいしたことはないようだが、これまでは肥満とは無縁とみられていただけに増加傾向は気になるところ。日本ではある調査によると、1950年から2007年までの間に30代の女性の体重が49.2キロから53キロに増え,同年代の男性は55.3キロから70キロに増えた。17年間に3.8キロ。男性は14.7キロ増加した。オーストラリア人の平均女性の体重は1926年には59キロからだったのが2008年には71キロと12キロ増え、男性は同じ時期に72キロから85キロと13キロ増えた。

乗客の平均体重が2キロ増えると、A380を利用したシドニーからシンガポール経由のロンドン路線の場合、3.72バレルの燃料がよけいに必要になる。現在の価格で472ドルに相当する。たいした額には感じられないが、これが一日に3便ならば1500ドル、往復3000ドル、一年では100万ドル以上とたいした額になってしまう。これまでのように、どんぶり勘定でやっていけた時代なら別だが、過当競争の激化する時代、とても見逃せすことはできない。

元カンタス航空の重役の試算によれば75キロが分岐点になるそうだ。これを超える人は、1キロあたり増えるごとに超過料金をはらい、徴収する。体重が100キロなら14.5ドル。逆に50キロなら14.5ドル割引になる。一定の体重を超える人には超過料金を課し,体重の軽い人には割引をするというシステムの導入が検討されているそうだ。

現実的な導入方法をどうするか、まだ紆余曲折はあるだろうけれど、原油価格の高騰や業界の競争激化をみると、案外、早く導入されるんじゃないか。クリスマスや正月でごちそうを食べ過ぎ,少し太めな人が多い機内を見渡して、そんな気がした。

(RT)