リングでは、ワセリンと汗の強烈な匂いは男臭さの象徴だ。
キックボクシングの会場ではなおさら飛び散る血しぶきが、「泥臭く、男臭い」環境を演出する、しかし、この日のキックボクシング興行では、アルゼンチンの華やかな美女や紳士がリングサイドを彩り、いつもとはちがったグローバルな雰囲気を漂わせていた。社交パーティのような雰囲気もかもしだしていた。それもそのはず、アルゼンチンのラウル・ギジェルモ・デジャン・ロドリゲス全権特命大使とその仲間たちが「賓客」として招待されていたのだ。

9月20日、後楽園ホールで行われた「TITANS NEOS 18」(主催/TITANS事務局、認定/新日本キックボクシング協会)では、日本ミドル級王者を決める「斗吾(伊原)VS今野明(市原)」とWKBA世界バンタム級王座決定戦の「江幡睦(伊原)VSモンコンチャイ・ソー・ミージャン(元タイ北部フライ級王者)」のダブルメインイベントのアンダーカードながら、第7試合の日本ヘビー級3回戦「マウロ・エレーラ(アルゼンチン/世界極真空手連盟ワールドカップ2013 世界3位)vs山崎泰意(宮川/ザ・マーシャルアーツドリーム2012国際大会スペシャルグローブマッチ優勝)」が、大勢詰めかめたラテンのノリのアルゼンチンの大声援を受けて、マウロは1R1分11秒、左フックでノックアウト勝ちした。

新日本キックボクシング協会代表の伊原信一氏がマイクをとって何度もアルゼンチン大使に拍手を促す。「忙しい中、アルゼンチン大使に来ていただきました。これからもアルゼンチンとは友好を深めたいと思います」とアナウンスするとラウル大使は、リングにあがり「ここに呼ばれて素晴らしい試合と選手のファイトが見られて光栄だ」と興奮気味に話した。

◆伊原会長がアルゼンチンに肩入れするのはワケ

伊原会長が鼻息荒くアルゼンチンに肩入れするのはワケがある。
「一昨年の夏、伊原道場はアルゼンチン支部を立ち上げました。アルゼンチンに太い人脈のパイプがあり、サッカーのアルゼンチン1部リーグClub Estudiantes de La Plataでプレー経験を持つ川久保悠氏が、大使関係を結んだのでしょう。実際、これからアルゼンチンの有力選手をたくさん呼べるはずで、日本のキックボクシングをアルゼンチンに逆輸出することも視野に入ります」(ベテランのキックボクシングライター)

しかしこれはウラを返せば、もはや国内ではキックボクシングの集客は期待できない証明でもある。

「確かに客の年齢層は毎年、あがっていく。30近くキックの団体が乱立しているが、お客は基本的にはリピーターで、タイのムエタイ選手や団体と日本のキックボクシング団体が交流しているように、今後は南米やアジア地域にも広げていかないといずれキックの団体は滅びる運命となる」(同)

ただし、アルゼンチンではキックボクシングはまだまだ盛んではない。だがこの日、多くの南米人を会場で見た。「オーレ~・オレオレオレ~♪」と勝った日本人にエールを送る独特のノリ。これは今までのキックボクシング会場とは異質な、そして新しい空間だ。この日のマウロ・エレーラのように、呼べる選手は空手の実績がある重量級選手となるであろう。今後、南米やアジアの国と交流していくにしても、ムエタイとは違う「日本式キックボクシングルール」で世界に拡大していくのは、茨の道のりとなるだろう。老舗WKBAの活発化も大きな武器となるかもしれない。

この日の江幡睦は、3月15日にムエタイ殿堂王座にトライして惜敗した無念を晴らした。東京・後楽園ホールで開催された前回のメインイベントではラジャダムナン・バンタム級&WKBA世界バンタム級ダブルタイトルマッチが行われ、WKBA世界王者・江幡睦が、悲願のラジャダムナン王座を狙い、過去に勝利しているフォンペート・チューワッタナと対戦したが、強打を打ちこむもムエタイのリズムに決定打を殺され判定負け。また無冠からの出直しなったが今回は危なげなく、1R1分53秒、右フックでKO勝利、また斗吾(伊原)は、細かいパンチを出して、徐々に今野明(伊原)のリズムを狂わせスタミナを奪い、捨て身でくる打ち合いを捻じ伏せ、3R2分59秒でノックアウト勝ち。リング上にて「お母ちゃん、ありがとう」と呼びかけて、母親がリングにあがり、一同にお礼をする温かいシーンがくり広げられた。

[文]ハイセーヤスダ [写真・監修]堀田春樹

▼ハイセーヤスダ(編集者&ライター)
テレビ製作会社、編集プロダクション、出版社勤務を経て、現在に至る。週刊誌のデータマン、コンテンツ制作、著述業、落語の原作、官能小説、AV寸評、広告製作とマルチに活躍。座右の銘は「思いたったが吉日」。格闘技通信ブログ「拳論!」の管理人。

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