老いの風景〈10〉大晦日の夜 民江さんの着替えと自尊心

平均寿命が延び、高齢の親御さんやご親戚家族の健康について、悩みを抱える方が多いのではないでしょうか。私自身、予期もせず元気で健康、快活だった母の言動に異変を感じたのは数年前のことでした。そして以降だんだんと認知症の症状が見受けられるようになりました。今も独り暮らしを続ける89歳の母、民江さん。母にまつわる様々な出来事と娘の思いを一人語りでお伝えしてゆきます。同じような困難を抱えている方々に伝わりますように。

民江さんは88才の誕生日の頃に認知症の診断を受け、衣食住の中に「できないこと」があるかもしれないと、思いを巡らせるようになりました。その一つが、着替えと洗濯です。洗濯が済んだかどうかと聞くと、「だって、洗濯するものがないんだもん」と言いました。はじめは、「そうかそうか」で済ませましたが、次に聞いた時も同じこたえでした。それから幾度か同じ質問をして、「おかしい」と思いました。「ないわけないでしょ」と言うと、「だって汚れてないんだもん」と。もうこれは完全に「おかしい」です。

一緒に住んでいれば、夜にはパジャマを、朝には見計らった服を差し出すことができますが、民江さんは独り暮らしです。私が気が付いたこの時には、家に帰るとブラウスやズボンを脱いで、肌着のまま布団に入り、翌朝またその肌着の上にブラウスを着てズボンを履くだけ。つまり同じ肌着をずっと着ている状態になっていたようです。タオルも真っ黒になっていました。きれい好きな民江さんが、ここまで進んでいるとは思っていませんでした。

なんとか着替えと洗濯をして欲しい。説得中に私がうっかり「汚いでしょ」と言おうものなら、「汚くない」、「自分の着た物のどこが汚い」と怒らせてしまい、会話になりません。

ならば洗濯は私が全部するから、着替えだけはして欲しい。整理ダンスに貼り紙をして、どこに何が入っているか一目でわかるようにしましたが、着替える意志がないからか、効果はありませんでした。電話で一つ一つ順番に動作を伝えて、やっと着替えることができましたが、長いと30分かかることもあり、民江さんも私もヘトヘトになりました。

昨年の暮れ、民江さんの家に行き、部屋の片付けをしながら着替えをしてもらっていた時のことです。途中裸でウロウロ歩き回ったり、パンツを2枚履いてしまう姿を見てしまいました。自力でできなくなったことを無理に私がやらせようとしていたことに気が付いた瞬間でした。民江さんの自尊心を傷つけていたかもしれません。

それから間もない大晦日の晩、例年通り、我が家でお鍋を囲んでいました。お肉に箸が止まらず、「生まれて初めてビールを飲むわ」(本当はいつも飲んでいます)と真顔で言って周囲を爆笑させ、テレビに合わせて歌を唄い、この頃には珍しく口数も多く、ご機嫌な時間を過ごしていました。ところが、「そろそろお母さん、お風呂に入ってくれる?」と言うと、いつものような「ではお先にちょうだいします」という返事がありません。ん? デイサービスでお風呂に入り、シャンプーもしてもらっているから、今夜は入らなくていいと言います。

 

デイサービスのお風呂が気持ちいいことは、毎日聞いていますが、我が家のお風呂もお気に入りだったはずです。再度私が勧めても、返事は同じどころか、怒って泣き出す始末です。「じゃあ、今日は私がシャンプーしてあげるから、入ろうよ」民江さんはやっと立ち上がり、私は一緒に準備してきたパジャマと下着を鞄から出す手伝いをしました。

ところがしばらくすると、今度は裸で廊下をウロウロしているではありませんか。私は理由がわからないまま、お風呂に連れて行きました。「デイサービスの人のように上手にできないかもしれないよ。どうやったらいいか教えてね」と言うと、背中を丸めて両手で顔を隠して言いました。「頭からお湯を掛けますよーって言って、お湯をかけて。お湯を掛けますよーって」と。まるで幼い子供がお母さんにお湯を掛けてもらうのを待っている時のようです。母のその後ろ姿に一瞬言葉を失いました。

そして、脱衣かごに入っていた汚れた下着を見て、現実を思い知りました。
私は、もっと早く民江さんの変化に気が付いて対応してあげていればよかったと、少なからず後悔をしています。私は、あの母が認知症になるという意識が全くなかったのです。そのせいで、多少のおかしな言動も、加齢によって性格が強く出てきているだけだと解釈していました。認知症に対する知識を集めることもしていませんでしたので、不用意な言葉をかけたり、不適切な態度を取ったかもしれないと思うと、「私が認知症の進行を早めたのかな」と、そんなふうに考えてしまいます。

認知症についての資料には、「感情的になってはいけません」、「怒ってはいけません」と必ず書いてあります。しかし一方で「怒った自分を責める必要はありません」、「たまには怒ってもいいのです」とも書いてあります。「じゃあ、どっちなのよ!」ですが、症状も元々の性格も家族の歴史も周囲の状況も様々なのですから、自分に合った良い方法を探し、解決していくことによって、納得し、心を整えていくしかないということでしょう。

着替えの話は、次回につづきます。

▼赤木 夏(あかぎ・なつ)[文とイラスト]
89歳の母を持つ地方在住の50代主婦。数年前から母親の異変に気付く

月刊『紙の爆弾』2019年1月号!玉城デニー沖縄県知事訪米取材ほか
大学関係者必読の書!田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

NKBの存在感見せる、高橋一眞の戦い!

高橋一眞の右ストレートがヒット

新日本キックボクシング協会との交流戦開始に続き、NJKFとの14年ぶりという交流戦も実現。実力測れる対戦が増え、新たな世代の選手が育って来たNKBの現在、更に活動の枠が広がれば面白くなるNKBであり、国内活性化でもあります。

◎闘魂シリーズFINAL(vol.6)
12月8日(土)後楽園ホール17:15~20:30
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

続けて高橋の右ストレートがカウンターでヒット
右ストレートを浴びた棚橋は2度目のダウンとなった

◆メインイベント NKBライト級タイトルマッチ5回戦

チャンピオン.高橋一眞(真門/61.1kg)vs 同級1位.棚橋賢二郎(拳心館/59.95kg)
勝者:高橋一眞 / KO 3R 1:50 / 3ノックダウン / 主審:前田仁

上手さ目立った高橋一眞の戦い。ディフェンス技術が向上し、棚橋賢二郎に何もさせなかった印象が残る。

1ラウンドから一眞の先手ローキック、ミドルキックをヒットさせていく。棚橋の強打がいつ炸裂するのか、そんな怖さがありつつ、勢いが増すままパンチを当てていった一眞。3ラウンドにヒジ打ちをアゴにヒットさせて効かせたところへヒザ蹴り追撃でスタンディングダウンを奪う。

これも高橋一眞のヒジ打ちカウンターで最後のダウンに繋げた
ヒジ打ち喰らって縺れた後、そのまま倒れ行く棚橋をレフェリーが止める

更に右ストレートでノックダウンを奪い、最後は右ヒジ打ちカウンターさせ、棚橋は効きながらも縺れ合い倒れ行く中、レフェリーが止め、3ノックダウンとなるKO勝利となった。高橋一眞が2度目の防衛成る。

◆セミファイナル 57.0kg契約 5回戦

NKBフェザー級1位.ひろあき(=安田浩昭/SQUARE UP/57.0kg)
   VS
NJKFスーパーバンタム級1位.久保田雄太(新興ムエタイ/57.0kg)
勝者:久保田雄太 / TKO 2R 1:09 / カウント中のレフェリーストップ
主審:鈴木義和

序盤はひろあきがローキックで様子見から徐々にパンチで出ると、久保田は得意の強い蹴りで応戦しつつも下がり気味。接近戦でひろあきはヒザ蹴りも見せて圧力を掛ける。2ラウンドに入っても流れは変わらず、パンチで出て来るひろあきに久保田の右ストレートのカウンター一発でダウンを奪うと、ひろあきはフラつきながら立ち上がるもレフェリーに止められ、久保田の逆転TKO勝利となった。

ひろあきの突進を止める久保田雄太の右ミドルキック
久保田の右ストレートカウンターでひろあきを倒した

◆59.0kg契約 3回戦

野村怜央(Team KOK/58.8kg)vs KEIGO(FLAT UP/58.7kg)
勝者:KEIGO / 判定0-2 / 主審:川上伸
副審:前田30-30. 佐藤友章29-30. 佐藤彰彦28-30

◆56.0kg契約3回戦

WBCムエタイ日本フェザー級5位.大脇武(GET OVER/55.0kg)
   VS
NKBバンタム級5位.海老原竜二(神武館/55.7kg)
勝者:大脇武 / TKO 2R 2:08 / カウント中のレフェリーストップ
主審:亀川明史

第2代NJKFフェザー級チャンピオンの中島稔倫の愛弟子である大脇武がダウンを奪われながら左ストレートで逆転して倒し、レフェリーが止めるTKO勝利を収めた。

ひろあきを倒し、喜びが現れる久保田雄太

◆63.0kg契約3回戦

NKBライト級5位.パントリー杉並(杉並/62.7kg)
   VS
ちさとkiss Me(安曇野キックの会/62.9kg)
引分け1-0 / 主審:佐藤友章
副審:鈴木30-30. 亀川30-30. 川上30-29

◆ウェルター級3回戦

蛇鬼将矢(テツ/66.4kg)vs 雅喜(ReBORN経堂/66.6kg)
勝者:蛇鬼将矢 / TKO 3R 1:52 / 主審:佐藤彰彦

◆フェザー級3回戦

鎌田政興(ケーアクティブ/56.95kg)vs KAZUYA(JKKG/56.95kg)
勝者:鎌田政興 / 判定2-0 / 主審:鈴木義和
副審:佐藤友章28-27. 亀川28-27. 川上28-28

◆ミドル級3回戦

剱田昌弘(テツ/72.05kg)vs 田中STRIKE雄基(BFA-SEED/72.4kg)
勝者:田中STRIKE雄基 / 判定0-3 / 主審:佐藤彰彦
副審:亀川27-30. 鈴木27-30. 前田27-30

◆フェザー級3回戦

山本太一(ケーアクティブ/57.0 kg)vs 森田勇志(真門/56.45kg)
勝者:森田勇志 / 判定0-2 / 主審:川上伸
副審:亀川29-30. 前田29-30. 佐藤彰彦29-29

◆バンタム級3回戦

古瀬翔(ケーアクティブ/53.45kg)vs 志門(テツ/53.4kg)
勝者:志門 / TKO 2R 1:54 / カウント中のレフェリーストップ
主審:佐藤友章

◆ウェルター級3回戦

元長(アルン/66.68kg)vs DAIKI(渡邉/65.5kg)
勝者:DAIKI / TKO 1R 1:58 / 主審:亀川明史

◆ライト級3回戦

神田拳児(Team S.A.C/60.5kg)vs ISSAY(テツ/60.5kg)
勝者:神田拳児 / KO 2R 2:19 / 3ノックダウン
主審:前田仁

2度目の防衛で、渡辺信久代表より認定証を受ける高橋一眞

《取材戦記》

棚橋賢二郎や安田浩昭はダウンした後、本能的に立ち上がってしまうであろう闘争本能が感じられました。他のノックアウトに於いても同様ですが、軽い脳震盪の状態で、意識朦朧の中では、「倒されると分かっていても本能的に立ち上がってしまうんだよ」と昔の選手から聞いたことがあります。完全に打ち抜かれた脳震盪の場合は眠らされ、戦いたくても意識が無い。

ボディーブローで倒された時は、腹全体が鈍痛で、息苦しくて立てたものではない。ローキックで倒された時は、脚が麻痺してしまって立ち上がろうにも立ち上がれない。意識も闘争心もあるのに立ち上がれない。悔しい負け方のようです。

今年の高橋三兄弟は6月に三男・聖人がフェザー級王座戴冠し、長男・一眞が2度目の防衛成功。しかし鎖国された団体内でチャンピオンになっても日本国内全体ではどうなのか、そんな疑問符が付いて回った昨年までのNKB。それが「KNOCK OUT」というリングで、または交流戦でその結果を残していることに喜ぶファンも多いでしょう。名選手に勝利し、名勝負を生み、負けることはあっても惨敗ではない。来年のNKBと高橋三兄弟に更に期待が持てる今年の活躍でした。

2019年第一弾興行は2月9日(土)後楽園ホールに於いて、出陣シリーズvol.1が開催されます。

この後のNKB年間興行は、4月13日(土) 後楽園ホール、4月28日(日)城東区民センター(NKジム主催)、6月15日(土) 後楽園ホール、10月12日(土) 後楽園ホール、12月14日(土)後楽園ホールの6回が開催予定となっています。

「KNOCK OUT」イベント出場を含め、活躍が目立った今年の高橋三兄弟

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

上條英男『BOSS 一匹狼マネージャー50年の闘い』。「伝説のマネージャー」だけが知る日本の「音楽」と「芸能界」!
一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

【12・12対李信恵訴訟(第1訴訟)本人尋問報告】被告李信恵氏、この訴訟をナメているのか、出廷せず陳述書も出さず逃亡! 来年2月13日判決!

12月12日14時から大阪地裁で鹿砦社が李信恵氏を訴えた訴訟(第1訴訟)の本人尋問があった。本来であれば原告、被告双方の尋問が行われるはずなのだが、被告側代理人は、前回期日で尋問に同意していたにもかかわらず、李信恵氏側が裁判所に証人申請をしなかったために、この日は、鹿砦社代表・松岡利康だけの尋問となった。いささか肩透かしの感がした。原告側は松岡利康鹿砦社代表と大川伸郎弁護士が出廷し、被告側は上瀧弘子弁護士が出廷した。傍聴席には約10名が姿を見せたが、李信恵氏界隈の人間は誰もいなかった。

14時定刻に開廷後、原告側が新たな証拠を提出しようとしたところ、裁判官からその理由が尋ねられ、被告側弁護人・上瀧弘子弁護士は採用に「不同意」の意思を示したため、いったん裁判官(合議体なので3名)が合議に入った。約4分後に法廷に戻った裁判官は「合議したが、関連性が全くないとは思われないので採用する」と裁判長は述べた。

次いで、松岡が宣誓をしたうえで、松岡の尋問に移った。大川弁護士の質問が始まった。

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大川 甲11号証を示します。この陳述書はご自身が作成されたものに間違いはありませんか。

松岡 はい。

大川 この陳述書に沿ってお聞きします。この訴訟で問題にされている、被告の一連の発言について、どのように感じていますか。

松岡 「酷い」の一言です。私は長く会社を経営してきて、社員や取引先の皆さんに助けられここまでやってきました。それをこういう形で、侮辱、毀損されると本当にやりきれない気持ちです。

大川 原告がどのような会社であるのか、ここに書いてある通りですね。付け加えることはありますか。

松岡 特にないですが、来年で創業から50周年になります。私は3代目の社長ですが長くやってきたのに、「クソ鹿砦社」と激しい言葉で名誉を毀損をされました。

証拠資料として提出しようとして裁判の冒頭で裁判所と応酬した資料(『真実と暴力の隠蔽』より)

大川 問題になっている被告の一連の発言によって、原告の会社、従業員の皆さんにどのような影響がありましたか。

松岡 従業員は7名ですが、みな動揺しています。取引先は大きいところからライターさんまで月に100社ほどの支払いがあります。

大川 あなたご自身について。被告から中核派や革マル派と関係があるような発言がありますが、この点何かありますか。

松岡 私は学費値上げに反対して学生運動に参加しました。しかし私はノンセクト・無党派でやっていました。当時どこにでもいたような一活動家にすぎません。ましてや中核派や革マル派、ちょうど私が学生のころから殺し合いが始まりましたが、このように「中核派か革マル派か」という言い方をされると、本当にやりきれない気持ちです。

大川 今回訴訟を提起されましたが、その理由を簡単に教えてもらえますか。

松岡 当社のみならず、いろいろな方々に李信恵さんは酷い言葉を投げかけていました。私はとにかく(酷い発信を)やめさせないといけないと考え、あえて提訴しました。

大川 被告に対して何か求めたいこと、はありますか。

松岡 被告は「差別に反対する」、あるいは「人権を守る」とし、マスコミでも報道される中で、やはり(私たちの主張に)きちっと反論してほしいですね。きょう来られています上瀧先生と一緒に『黙らない女たち』とのタイトルの本が出ていますが、「黙らない」じゃなくちゃんと出廷して、反論なり意見を言ってほしかったし、ご本人の陳述書も出ていません。きちっと本人の意見を言ってほしかったです。

大川 もしこの訴訟を提起しなかったら御社としてはどうなっていたのか?

松岡 さすがに提訴したことにより激しい意見はやみましたが、提訴しなかったらおそらくそのままだったと思います。それから多くの取引先、デザイナーさんたちも心配しておられました。

大川 御社の取材方法に問題があることはありませんか。

松岡 それはないと思います。今マスコミの取材はもっと熾烈ですから。

大川 ご自身は被告の各種発言について、信用性がないとおっしゃっておられますが、その根拠はありますか。

松岡 ダイレクトに「クソ」と言われているわけですから、何をかいわんやです。

(裁判官と若干のやり取り)

大川 甲15号証の2ページ目、「とある裁判の日に早く裁判所に到着した被告が、男性に付きまとわれた」と。それがあなたご自身であるとツイッターで述べていますが。

松岡 そういう事実はありません。喫茶店で会っていないですから。

(裁判官から意見)

大川 あなたはそれ以外被告に嫌がらせをした、付きまといをしたそんなことを匂わせることを何かしていませんか。

松岡 していません。

大川 今回被告がかかわっている暴行事件にかかわっておられますね。これは何か理由がおありですか。

上瀧 異議です。被告が暴行事件にかかわっている事実はありません。

大川 被告は刑事処分では不起訴となっていますが、この事件に会社としてかかわっておられますね。

松岡 大学院生が酷い暴行を受けたにもかかわらず、相手にされなかったので相談に来ました。僕も血の通った人間ですから、最初は半信半疑だったんですが、話を聞いて取材班を結成して事実を取材して、真相究明に尽くしました。

大川 乙9号証の部落解放同盟山口県連合会、書記長の方の陳述書があります。これについて原告として何かご意見はありますか。

松岡 どういう理由でこういう「証拠」みたいなものを出してきたのか、わかりませんけど、私及び私の周辺のものが、集会を妨害した事実はまったくありません。いわゆる印象操作というのか。裁判所に「原告は悪い」とイメージ付けをしようとしているのではないかと思います。事実でないことを「証拠資料」で出すのは、本当におかしな話ですね。さっきの「喫茶店で付きまとわれた」もそうですけど。理解できません。

(裁判官から意見、「損害だけについて聞くように」)

大川 最後付け加えたいことはありますか。

松岡 李信恵さんは出廷しない、陳述書さえ出さないのではなく、きちっとした主張をしていただきたい。それからこんな汚い言葉を使うのはやめていただきたいし、代理人の上瀧先生も指導をしてほしいです。私の裁判がそのパイオニアというか先陣になればと思います。

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以上で大川弁護士の質問が終了し、上瀧弁護士の質問に移った。

上瀧 乙2号証の6ページ目です。「リンチ事件をめぐる関連人物の反応」ていう。

裁判官 下のページ数で言うと何ページですか。

上瀧 下のページ数で言うと167ページ。これは原告の文章ですか。「リンチ事件をめぐる関連人物の反応」というのは原告の文章でしょうか。

松岡 全部が私の文章ではないです。

上瀧 読み上げます。167頁の下の段最初から「確かに私は学生時代の1970年代前半新左翼系の学生運動にかかわっていましたが、卒業後は『極左』の活動はやめている」と書いておられますがこれは原告の文章ですか。

松岡 そうですね。

裁判官 原告は会社なんですけど、原告代表者のという意味ですか。

上瀧 そうですね。原告代表者のということです。

裁判官 では私のほうから聞きますけど、あなたの文章ですけども、そうですということでいいですか。

松岡 それは取材班全員で書きましたが、その部分は私が書きました。

上瀧 ここで「極左」と書いてありますがそれは間違いありませんか。

松岡 それは神原弁護士が殊更「極左」「極左」と言うから、そう書いたわけです。

上瀧 以上です。

法廷画家・桜真澄さんが描いた尋問の様子

上瀧弁護士の質問は1つだけであった。再度大川弁護士が質問した。

大川 上瀧先生が示された「新左翼系のノンセクトの学生運動にかかわった」とありますが「新左翼系ノンセクトの学生運動」とはなんなんですか。

松岡 当時学費値上げが問題になっており、その時にセクトには入っていないと。

大川 学費値上げ反対運動にかかわっていたということですね。

松岡 そうですね。主には。沖縄が返還前でしたのでそれにも関わっていましたけど。なぜ私がしつこくかかわったといえば、私は母子家庭です。学費が上がることは許せないと思い、それが動機です。

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その後裁判官からいくつか質問がなされたが、質問の趣旨が松岡に伝わっていなかった(松岡が理解していなかった)かのようなやり取りで、本質的な質疑ではないので以下は割愛する。

この日で長きにわたった「鹿砦社対李信恵裁判」その①(第1訴訟。その②は李信恵が原告になり鹿砦社を提訴している訴訟。第2訴訟)は結審し、判決は来年2月13日、13:10から同法廷で言い渡されることになった。

この裁判は本来本年中頃に判決が出ていてもおかしくはない進行をしていたが、被告側が終盤になり突如「反訴」の意思を表明し、その後それを取り下げ別訴(第2訴訟)を起こしたことから、係争が長引いた経緯がある。その割には松岡が繰り返し述べていたように、肝心の李信恵氏本人は証人として出廷しないし、陳述書も提出しない。「逃げた!」と言われても仕方ないだろう。まったくこの事件と関係のない部落解放同盟山口支部の書記長が陳述書を出す、という不可思議な展開を経てきた。

そしてこの日上瀧弁護士の松岡への質問はわずか1問だけであった(前回期日で上瀧弁護士は李信恵を証人請求するかのごとき発言をし、神原弁護士に「いらんことは言うな。黙っておけ」と叱責でもされたのであろうか)。被告側の非常に消極的な姿勢が印象的であった。

裁判所の常識は、必ずしも一般社会の常識と同じではない。よって予断は許されないものの、この日の尋問までに原告である鹿砦社は、書面による主張は尽くしたので、あとは判決を待つばかりだ。2019・2・13にご注目を!

(鹿砦社特別取材班)

M君リンチ事件の真相究明と被害者救済にご支援を!!

滋賀医大病院の岡本医師“追放”をめぐる『紙の爆弾』山口正紀レポートの衝撃

現在発売中の『紙の爆弾』1月号の中に、ジャーナリスト山口正紀氏による、〈がん患者の“命綱”を断ち切る暴挙 滋賀医大病院 前立腺がん「小線源講座」廃止工作〉が掲載されている。滋賀医大では前立腺がんの患者に、小線源治療を用いて治療する岡本圭成医師が、ハイリスクの前立腺患者にも、もともとがんの転移がなければ、施術後ほとん再発をしない、極めて卓越した実績を上げる治療を行っている。

ところが、滋賀医大は岡本医師の治療を来年(2019年)6月で打ち切り、12月には岡本医師を滋賀医大から“追放”することを宣言している。どうして、極めて卓越した治療実績を持つ岡本医師を“追放”しようとしているのか? その理由と背景は『紙の爆弾』1月号の山口氏のレポートを是非お読みいただきい。

チラシ配り、著名活動に立ち上がった患者会のメンバー

他方、既に岡本医師の治療を受けた患者さんたちで構成される「滋賀医科大学 小線源治療患者会」のメンバーは滋賀医大の地元や東京、名古屋、京都、大阪、奈良など全国各地で「岡本医師による治療の継続」を求めるチラシ配りや署名活動に、自主的に立ち上がった。

というのは、岡本医師に治療を受けた患者さんたちは全国から滋賀医大にやってきており、北海道から沖縄にまで患者さんが散らばっているからだ。現在岡本医師の診断を受けている患者さんの7割以上は県外からの患者さんだという。

患者のAさんは兵庫県在住だが、これまで何度も滋賀医大最寄り駅であるJR瀬田駅にチラシ配りに出向いている。わざわざ瀬田駅でのチラシ配り、署名活動に参加するために長野県から駆け付ける患者さんもいる。名古屋でチラシ配り、署名活動を行っているBさんは「治療実績が優秀な岡本先生の治療を、多くの方に受けて頂きたいと思います。名古屋にも患者さんはたくさんおり、来年の6月以降治療が受けられるかどうかわからない方もいます。『人の命』がかかっているのに、それを切り捨てようとする滋賀医大の姿勢は許せません」と語る。

草津駅前での署名活動

ちなみにBさんはこれまでチラシ配りや署名活動の経験は一切ないそうだ。「患者会」のメンバーは滋賀医大で起こっていることの本質を少しでも伝えたいと、全力で奮闘しているが朝日新聞など一部を除いてマスメディアの扱いは決して大きくない。

そして、ついに滋賀医大で、「さらに深刻な事態が発生した」、と患者会のメンバーから連絡が入った。法廷で係争中の案件につき、ここではこれ以上詳しく触れないが、「人の命」にかかわる深刻な問題が滋賀医大では、さらに進行している。

あまり知られていないが前立腺がんは、男性であれば肺がんや胃がんと同様の確率で発症する病だ。誰にとっても他人事ではない。しかし治療の方法がある。治療できる医師がいる。そうであればどうして患者を救うために、その術式の普及を促進しないのだろうか。逆に難治性の患者でもほとんど再発させない、実績を持つ岡本医師をどうして排除しようとするのか?滋賀医大は「命」にかかわるこの問題に、正面から回答する義務があろう。

◎患者会のURL https://siga-kanjakai.syousengen.net/
◎ネット署名へもご協力を! http://ur0.link/OngR

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▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

月刊『紙の爆弾』2019年1月号!がん患者の“命綱”を断ち切る暴挙 滋賀医大病院 前立腺がん「小線源講座」廃止工作

孫崎享さん、小出裕章さん、樋口健二さん、中川五郎さん、おしどりマコ・ケンさんたちが訴える〈原発なき社会〉への道筋 『NO NUKES voice』18号

「まったく……ろくな世の中じゃない」、「野党は情けないし、マスコミは頼りないし」。日本全国で、心あるひとびとが肩を落とす姿と、吐き出す嘆きが聞こえる。無理もないだろう。「合法的外国人奴隷労働法」(改正入管法)が、拙速に強行採決され、準備不足を政府も認める中、来年4月から施行するという。

見ているがいい。非人道的な労働環境で働かされる外国人労働者の激増は、政府や経団連どもがもが、腹黒く得ようとした「安価な労働力」ではなく「非人道的な外国人労働者の扱い」として必ずや社会問題化するだろう。

思いだそうとしたところで、あまりに悪法や、悪政が山積しているので、正直なところ、今年の初め頃、何が起きていたのかを正確に記憶だけでは再生ができない。それほどに散々な日常にあって、「本当のこと」、「真実に依拠した言論」、「権力者や社会的に認められている権威への抗議」をまとまって目にすることができる雑誌が極めて少なくなった。

『NO NUKES voice』 18号は、上記のような憤懣やるかたない言論状況に、どうにもこうにも腹の虫がおさまらない、真っ当な感覚を持つ読者諸氏に向けて、鹿砦社から最大級の「お歳暮」と評しても過言ではないだろう(購入していただく「お歳暮」というのはおかしな話ではあるが)。

 
孫崎 享さん(撮影=編集部)

◆孫崎享さんが語る日本「脱原発」化の条件

『戦後史の正体』で日米関係を中心に戦後の日本史を読み解いた、元外務官僚の孫崎享(うける)さんが外務諜報に長年かかわった経験から〈どうすれば日本は原発を止められるのか〉を語る。ベストセラーとなった『戦後史の正体』が世に出てから、孫崎さんはテレビ、新聞などに頻繁に登場していたが、最近ではその頻度が極端に少なくなっているように思える。孫崎さんの主張が時代遅れになったり、風化したから孫崎さんの登場が減っているのではない。時代やメディアが孫崎さんを「危険視」しているからではないだろうか。そうであれば『NO NUKES voice』 にこそご登場いただこうではないか。

◆小出裕章さんと樋口健二さんは東京五輪とリニア建設に反対する

小出裕章さんと樋口健二さんが同じイベントで、講演、対談なさった記録も「すっきり」読ませてもらえる。怒らない小出さんと、いつも怒っている(失礼!)樋口さん。しかしご両人ともが抱く、危機意識と怒りは年々増すばかりであることが、回りくどくない言葉から伝わるだろう。

樋口健二さんと小出裕章さん(撮影=編集部)
 
中川五郎さん(撮影=編集部)

◆鶴見俊輔の精神を受け継ぐフォークシンガー、中川五郎さん

中川五郎さんは、音楽を武器に「反・脱原発」戦線の先頭でひとびとを鼓舞する、貴重な存在だ。中川さんの楽曲もさることながら、インタビューで直接的な問題意識は原発問題社会問題に立ち向かうときの、普遍的な視点を示唆するものだ(とはいえ、中川さんの演じるライブを聞かれるに勝る迫力はなかろうが)。

◆鎌田慧さん、吉原毅さん、村上達也さん、おしどりマコ・ケンさんらが訴える東海第二原発運転STOP! 首都圏大集会の熱気

東海第二原発運転STOP! 首都圏大集会に集った、鎌田慧さん(ルポライター)、吉原毅さん(反自連会長・城南信用金庫顧問)、村上達也さん(東海村前村長)、おしどりマコ・ケンさん(漫才コンビ・ジャーナリスト)の発言は、「本当に東京が住めなくなる可能性が極めて高い」東海第二原発の危険性をそれぞれの立場から、強く訴える。

 
おしどりマコ・ケンさん(撮影=大宮浩平)

◆タブーなき連載陣ますます充実──冤罪被害者・山田悦子さん、行動する思想家・三上治さん、闘う舞踊家・板坂剛さん等々

連載「山田悦子が語る世界」、本号のテーマは「死刑と原発」だ。この夏オウム真理教関連の死刑確定囚13名に死刑が執行された。いまだに「被害者感情」や実体のない「犯罪の抑制効果」にのみ依拠して、「死刑」を存置する日本。この問題についての山田さんの論文には熱が入り、本号と次号で2回に分けての掲載となった。「死刑」を根源から考える貴重なテキストであり、国家や原発との関連が浮かびされてくる。

板坂剛さんの〈悪書追放キャンペーン 第一弾 百田尚樹とケント・ギルバードの「いい加減に目を覚まさんかい、日本人」〉は、板坂流似非文化人斬りが、ますます冴えわたっている。どうしてこんなしょうもない本が売れるのか?不思議な二人。その答えは二人ともが「嘘つき」の腰砕けだからだ。そのことをこれでもか、これでもか、と看破する。面白いぞ! 板坂さん! もっとやれ!

その他、鈴木博喜さんの〈福島県知事選挙”91%信任”の衝撃〉、伊達信夫さんの〈「避難指示」による避難の始まり〉など福島の事故当時、現在の報告が続く。

全国からの運動報告も盛りだくさんだ。

右を向いても、左を向いても「読むに値する雑誌がない」とお嘆きの皆さん!ここに心底「スッキリ」できる清涼剤がありますよ!『紙の爆弾』同様に、この時代他社では、絶対(といっていいだろう)出せない本音満載の『NO NUKES voice』 18号。お買い求めいただいて損はないことを保証いたします。

12月11日発売開始!『NO NUKES voice』Vol.18 特集 2019年 日本〈脱原発〉の条件

『NO NUKES voice』Vol.18
紙の爆弾2019年1月号増刊

新年総力特集 2019年 日本〈脱原発〉の条件

[インタビュー]孫崎 享さん(元外務省国際情報局局長/東アジア共同体研究所理事・所長)
どうすれば日本は原発を止められるのか

[講演]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
核=原子力の歴史 差別の世界を超える道

[講演]樋口健二さん(報道写真家)
安倍政権を見てると、もう本当に許せない
そんな感情がどんどんこみあげてくるんです

[議論]樋口健二さん×小出裕章さん
東京五輪とリニア建設に反対する

[インタビュー]中川五郎さん(フォークシンガー/翻訳家)
原発事故隠しのオリンピックへの加担はアベ支持でしかない

[報告]東海第二原発運転延長STOP! 首都圏大集会
(主催:とめよう! 東海第二原発首都圏連絡会)
鎌田慧さん(ルポライター)
プルトニウム社会と六ヶ所村・東海村の再処理工場
吉原毅さん(原自連会長・城南信用金庫顧問)
原発ゼロ社会をめざして
村上達也さん(東海村前村長)
あってはならない原発──東海村前村長が訴える
[特別出演]おしどりマコ・ケンさん(漫才コンビ/ジャーナリスト)
福島第一原発事故の取材から見えること

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
福島県知事選挙〝91%信任〟の衝撃

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈2〉
「避難指示」による避難の始まり

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
震災で被災し老朽化でぼろぼろの東海第二原発再稼働を認めるな

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
脱原発の展望はいずこに──

[インタビュー]志の人・納谷正基さんの生きざま〈1〉

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈2〉死刑と原発(その1)

[報告]板坂剛さん(作家・舞踊家)
悪書追放キャンペーン 第1弾
百田尚樹とケント・ギルバートの『いい加減に目を覚まさんかい、日本人! 』

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク 全国各地からの活動レポート

鹿砦社 (2018/12/11)
定価680円(本体630円)

『NO NUKES voice』Vol.18 特集 2019年 日本〈脱原発〉の条件

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

本日発売『NO NUKES voice』18号! 2019年・日本〈脱原発〉の条件

 
本日12月11日発売開始!『NO NUKES voice』Vol.18 特集 2019年 日本〈脱原発〉の条件

2018年最後の『NO NUKES voice』が本日11日に発売される。発刊以来第18号。特集は「二〇一九年・日本〈脱原発〉の条件」だ。

うすらとぼけた、頓珍漢なひとびとは、利権の集積「2020東京五輪」に血眼をあげる、だけでは満足できず、「2025大阪万博」などと、半世紀前の焼きなおしまでに手を染めだした。大阪はその先に「IR」(つまり「カジノ」)誘致を狙っていることを明言し、理性も、将来への配慮も、財政計画といった何もかもが政策判断の「考慮事項」から排除されてしまった。

「将来? そんなことは知らん。儲けるのはいまでしょ! いま!」。どこかの予備校教師がタレントへの転身を果たすきっかけとなった、フレーズを真似るかのように、恥ずかしげもない本音が、誰はばかることなく横行する。「水道民営化」法案まで国会を通過し、いよいよこの島国の住民は、「最後の最後まで搾取される」段階に入ったといえよう。

◆中村敦夫さんから檄文をいただいた!

われわれは、あるいは、われわれの子孫は、「搾りかす」にされるしかないのか……。

そんなことはない! そしてそんなことを認めても、許してもならない!

そういう熱い思いを持った方々に、本号も登場していただいた。紹介の順番が不同だが、本誌への激励のメッセージを俳優であり、作家、かつては国会議員でもあった中村敦夫さんから頂いた。木枯し紋次郎では、「あっしにゃぁ関わりのねぇこってござんす」のきめセリフで、無頼漢を演じた中村さんからの檄文だ。

原爆と原発は、悪意に満ちた死神兄弟のようなもの。
世界の安全を喰い散らし、出張った腹をさらに突き出す。
『NO NUKES voice』よ。死神たちを放置してはならない。
平和を愛する人々の先頭に立ち、
言論による反撃の矢を容赦なく浴びせ続けよ。

 
中村敦夫さんから頂いた『NO NUKES voice』への檄文

過分にして、この上なく有難い激励である。われわれは今号も含め全力で「反・脱原発」の声・言論を集め、編み上げた。しかし時代は、あたかも惰眠を貪っているいるように仮装され、真実のもとに泣くひとびとの声を伝えようとする意志は、ますます希薄になりつつあるようである。

つまり逆風が暴風雨と化し、一見将来に向かっての「展望」など、むなしい響きにしか過ぎない無力感を感じてしまいがちであるが、そうではないのだ。「死神たちを放置してはならない」この原点に返ればまた力が再生してくる。「言論による反撃の矢を容赦なく浴びせ続けよ」この言葉を待っていた!

2018年は、総体として決して好ましい年ではなかった。語るに値する、勝利や前進があったのかと自問すれば、そうではなかった、と結論付けざるを得ないだろう。畢竟そんなものだ。半世紀以上も地道に「反核」、「反・脱原発」を訴えてきた、先人たちは、みなこのように敗北街道を歩んできた(でも、決して諦めずに)のだ。

大きな地図の上では劣勢でも、局地戦では勝利を続けているひとびとがいる。今号はそういった方々にもご登場いただいた。表紙を飾るミュージシャン、中川五郎さんの躍動する姿は、本誌の表紙としては異例といえるが、期せずして中村敦夫さんの檄文に答えるバランスとなった。

「言論による反撃の矢を容赦なく浴びせ続けよ」中村さんの要請をこう言い換えよう。

「言論による反撃の矢を尽きることなく死神どもに、われわれは浴びせ続ける!」と。

『NO NUKES voice』第18号は本日発売だ。締まりのない時代に、全編超硬派記事のみで構成する「反・脱原発」雑誌は、携帯カイロよりもあなたの体を熱くするだろう。


『NO NUKES voice』Vol.18
紙の爆弾2019年1月号増刊

新年総力特集 2019年 日本〈脱原発〉の条件

[インタビュー]孫崎 享さん(元外務省国際情報局局長/東アジア共同体研究所理事・所長)
どうすれば日本は原発を止められるのか

[講演]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
核=原子力の歴史 差別の世界を超える道

[講演]樋口健二さん(報道写真家)
安倍政権を見てると、もう本当に許せない
そんな感情がどんどんこみあげてくるんです

[議論]樋口健二さん×小出裕章さん
東京五輪とリニア建設に反対する

[インタビュー]中川五郎さん(フォークシンガー/翻訳家)
原発事故隠しのオリンピックへの加担はアベ支持でしかない

[報告]東海第二原発運転延長STOP! 首都圏大集会
(主催:とめよう! 東海第二原発首都圏連絡会)
鎌田慧さん(ルポライター)
プルトニウム社会と六ヶ所村・東海村の再処理工場
吉原毅さん(原自連会長・城南信用金庫顧問)
原発ゼロ社会をめざして
村上達也さん(東海村前村長)
あってはならない原発──東海村前村長が訴える
[特別出演]おしどりマコ・ケンさん(漫才コンビ/ジャーナリスト)
福島第一原発事故の取材から見えること

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
福島県知事選挙〝91%信任〟の衝撃

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈2〉
「避難指示」による避難の始まり

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
震災で被災し老朽化でぼろぼろの東海第二原発再稼働を認めるな

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
脱原発の展望はいずこに──

[インタビュー]志の人・納谷正基さんの生きざま〈1〉

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈2〉死刑と原発(その1)

[報告]板坂剛さん(作家・舞踊家)
悪書追放キャンペーン 第1弾
百田尚樹とケント・ギルバートの『いい加減に目を覚まさんかい、日本人! 』

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク 全国各地からの活動レポート

鹿砦社 (2018/12/11)
定価680円(本体630円)

『NO NUKES voice』Vol.18 特集 2019年 日本〈脱原発〉の条件

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

12・12対李信恵訴訟(第1訴訟)本人尋問、被告李信恵氏逃亡! 大阪弁護士会、李信恵氏を差別問題のパネルディスカッションのパネラーに招く! 会長宛に質問状送付! M君に対するリンチの音声、You Tubeで視聴者7万人を越える! 多くの人たちが関心を持っていることを証明!

12月12日(水)14:00から大阪地裁第13民事部で、鹿砦社が李信恵氏を訴えた訴訟(第1訴訟)の尋問が行われる。前回期日(10月31日)に裁判所と原告(鹿砦社)‐被告(李信恵氏)双方が納得し、いよいよ原告‐被告本人の尋問が行われるはずであったが、その後被告の李信恵氏は、「出廷をしない」と、本人ではなく、神原元弁護士がツイッターで発信。どうやら12日の法廷にも李信恵氏は姿を見せないようである。

それならそれで、前回期日に出廷した上瀧浩子弁護士は「被告の証人尋問は申請しない」と明言しておくべきだったろう。いったんは裁判官の判断のもと原告‐被告双方が本人尋問に応じると回答し期日も決めたのであるから、李信恵氏の不出廷は〈敵前逃亡〉のそしりを逃れることはできまい。そして、どうやら12日神原元弁護士に他の裁判の予定がある、といった噂もあり、被告側弁護士として神原弁護士が登場するか否かも見どころである。

したがって、12日の裁判では原告鹿砦社代表・松岡利康だけの証人調べとなるが、いよいよこの裁判も佳境に差し掛かかった。お時間の許す方は是非、傍聴にお越しいただけるよう取材班からも呼び掛ける。

「鹿砦社はクソ」「クソ鹿砦社」との誹謗中傷について、被告側準備書面では「論評」と主張したが、李信恵氏本人の口から説明してほしかったところだ。

ところで先日別掲(下記)の文書が大阪弁護士会所属の弁護士に送付されてきた。

12月22日大阪弁護士会主催で開催されるパネルディスカッションの案内文書。李信恵氏がパネリストとして参加する

12月22日大阪弁護士会主催で開催されるパネルディスカッションに、李信恵氏がパネラーとして参加するというのである。おいおい、ちょっと待ってくれ! 取材班は先日、本通信で香山リカ氏の講演が、わずか6通の通報(脅し)で中止にとなった件について、「開催すべきであった」とする意見を申し述べた。しかし、香山氏のケースと今回のケースは事情が大きく異なる。

まず、前述のとおり李信恵氏は、「名誉毀損による損害賠償請求」の被告として、地元大阪地裁で、被告として鹿砦社と係争関係にある人物であることである。争いの内容が「表現」と無関係な、交通事故や、過払い金の払い戻しなどであれば、関係なかろうが、李信恵氏のプロフィールには「元在特会会長及び保守速報に対する民事訴訟を提起して第一審・第二審で勝訴」との紹介文がある。その通りである。李信恵氏はここで紹介されている通りに勝訴していることは間違いない。

だが、「クソ鹿砦社」、「鹿砦社クソ」と散々ツイッターに書き込んだ件で、李信恵氏は「被告」として係争中の身なのである。争いの内容は「表現」についてであり、李信恵氏が過去、鹿砦社、取材班、M君らに対して発信した膨大な誹謗中傷や虚偽は、言論人として許されるものではないと取材班は確信している。そんな李信恵氏を、こともあろうに大阪弁護士会の会長名でパネルディスカッションに招く。これはどう考えてもアンフェアだ。係争中の民事事件に地元の弁護士会が、ある種「こちらの味方に付く」と正当性を与えたかの印象を付与していると感じられても仕方がないだろう。

そこで、6日鹿砦社は以下の内容の質問を大阪弁護士会竹岡登美男会長に送付した。

─────────────────────────────────────────────

2018年12月6日 
大阪弁護士会
会長 竹岡登美男 様

貴会主催《『反』差別 連続企画 第1回 今、問われる人種差別禁止法
―沖縄・部落・在日コリアンへの差別の実態を踏まえて―》
についてのお尋ね

兵庫県西宮市甲子園八番町2-1-301 
株式会社鹿砦社(ろくさいしゃ) 
代表取締役 松岡利康 
電話0798(49)5302 

               
謹啓 師走に入り何かと慌ただしくなってまいりましたが、貴会ますますご隆盛のことと心よりお慶び申し上げます。

 さて、貴会所属弁護士より標記のような勉強会(資料添付)が予定されていると聞きました。

 パネリストとして参加予定の方の中に、李信恵氏のお名前があります。小社は、李信恵氏にSNS上で執拗に誹謗中傷を受け発信が止まらなかったため、やむなく李信恵氏を被告として名誉毀損等による損害賠償請求訴訟を大阪地方裁判所(以下大阪地裁と略記します)に提訴し、争っている最中です(大阪地裁第13民事部 平成29年ワ第9470)。今月12日には原告代表者である私の尋問が行われ(李信恵氏は尋問を拒否しました)、この係争自体は、これで結審を迎え年度内の判決になるものと想像いたします。

 他方李信恵氏側は、本年3月頃、上記訴訟がほぼ結審直前になり「反訴したい」旨の意向を突如表明しましたが、裁判所は同一訴訟内での反訴は認めず、別訴を小社を被告として起こしてきており、こちらも大阪地裁で係争中です(大阪地裁第24民事部 平成30年ワ第4499号)。

 つまり、李信恵氏は、被告、原告(提訴の順番からこのように記します)として、現在大阪地裁において、2件の訴訟を係争中の身であり、その争いの内容は「名誉毀損」です。特に後者訴訟にあっては、損害賠償と共に出版物の販売差し止めを求めており、憲法21条に謳われる「表現の自由」「言論・出版の自由」の見地から極めて重大です。

 参考までに李信恵氏が関わったとされる大学院生リンチ事件(常識的に見て、リンチの現場に居て関わっていないとは言えないでしょう)についての出版物2点を同封させていただきますので、ぜひご一覧(特にリンチ直後の大学院生の顔写真を)、またリンチの最中の音声データ(CD)をご視聴になり、ご検討ください。くだんの勉強会のご案内に「人権」という言葉がありましたが、リンチ被害者の「人権」はどうなるのでしょうか? 会長のご意見をぜひお聞かせください。いや、一人の人間として――。

「人権」を大事にされる貴会、特に呼びかけ人に名がある会長におかれましては、李信恵氏がこのような状態であることをご存知でパネリストと決定なさったのでしょうか(あるいはご存知なかったのでしょうか)。ぜひお聞かせください。貴会の最高責任者である「会長」として――。

 足元大阪地裁で大阪弁護士会所属の弁護士も代理人に就任し(李信恵氏側の代理人は京都弁護士会、神奈川弁護士会所属)、係争中の民事訴訟が進行している中、大阪弁護士会が、係争中の片一方の当事者を、係争の内容と関係のある「表現」や「差別」や「人権」についての勉強会のパネリストに選ばれることは、李信恵氏から「クソ鹿砦社」「鹿砦社はクソ」などと再三再四誹謗中傷を受けた小社としては、公平な人選であるとは考えられません。

 もちろん、係争中であろうと、発言や発信は認められるべき基本的な権利であると小社も認識いたしますが、今回はまさに「表現」についての訴訟が、他ならぬ大阪地裁で係争中に、大阪弁護士会が主催して、係争の片一方の当事者を招くという、例外的なケースであると考えます。小社の代理人弁護士はじめ複数の弁護士や元裁判官の方々にお聞きしても首を傾げられましたので、私が申し上げていることは、決して特異な意見ではないと思いますがいかがでしょうか?

 大阪弁護士会が、李信恵氏の過去の訴訟について、評価の認識をされていることは分からないではありませんが、リンチや暴力事件に関与したという疑いや問題を現在李信恵氏は問われています。その訴訟が進行中に(それも2件も)大阪弁護士が(それも会長名で)李信恵氏を「差別や「人権」や「表現」が話題となる勉強会のバネラーにお招きになる行為は、原告である(別訴では被告)小社のみならず第三者が常識的、客観的に見ても「大阪弁護士会は李信恵氏を支持している」と映ります。

 上記申し上げた件をご賢察頂き12月14日(金)までに書面にてご回答いただきますようお願い申し上げます。
 
 まずは要件にて失礼いたします。 

敬白 

               

─────────────────────────────────────────────

 

送付文書の中でも言及しているが、「係争中であるから発言を控えろ・発信をするな」とわれわれは主張しているのではない。「言論の自由」の観点から係争についての発言・発信は認められるべきである、と取材班は認識している。それでも「例外」はあるだろう。

ズバリ「例外」に該当するのが今回のケースである。大阪弁護士会は、果たして本係争の事実認識していたのか、あるいは知らなかった(その可能性は十分にあろう)のか。もし、係争があることを知っていたのであれば「どうして、あえて李信恵氏を登用したのか」、この点に疑問を感じるのは、まったく不自然ではないはずだ。12日の法廷並びに大阪弁護士会からの回答にご注目頂きたい。

いささか引用が長くなり長文になってしまったので、以下手短に報告するが、M君に対するリンチの際の音声がYou Tubeにアップされているが、これがなんと視聴者7万人を越えたのである。声なき多くの方々が関心を持っておられる証左である。これだけの動かぬ証拠がありながら「リンチはなかった」などとは小学生でも言わないだろう。裁判所がどのような判決を出そうが、〈真実は一つ〉だ。あらためて視聴いただきたい。

(鹿砦社特別取材班)

『真実と暴力の隠蔽』 定価800円(税込)

私の内なるタイとムエタイ〈49〉タイで三日坊主!Part.41 還俗を願い出る!

なるべく寺の作業を撮り収めようと、掃き掃除をサンくんに撮って貰う

◆寄進を深く受け止める

日々の出来事はやや前後するが、年明けた1月3日、軽四トラック荷台に6僧が乗せられ、昼のニーモンに呼ばれて行った。田舎道の広々したところに牛や鶏が放し飼いされている農家の敷地内に、信者さんが大勢と、他の寺の比丘も数名来ていた。
新年のお清めらしき儀式で、地べたに茣蓙が敷かれた所に座って読経が始まる。昼食もそこで寄進された。幾つも美味しそうな料理が出され、生菓子にフルーツ、アイスクリームまで出された贅沢なほどの量だった。私より年輩のオジサンがせっせと食材を運んで我々比丘に差し出してくれる。水が無いと気が付くと、それも駆け足で持って来てくれる気の利きよう。これら全て徳を積む行為なのだ。

しかし、その働く姿を見てフッと考えてしまった。ノンカイから帰る途中に藤川さんが、「ああいう人らが、ワシらに飯くれて何とも思わんか?、ワシは申し訳ない気持ちになる、飯食わせてくれて、ワシは詐欺みたいなもんやと思う」と言った言葉が改めて蘇えってくる。

黄衣纏っているだけで、こんな豪華なタダ飯食って、お布施貰って帰るんだ。料理運ぶオジサンに申し訳なくなった。俺って本当に詐欺だな。情けなくなって泣きそうになってしまった。本当に涙出そうになった。堪えた。こんなところで何でこんな感情になったのだろう。藤川さんの言葉が分かっていたつもりが心からは分かっていなかったのだろう。比丘でなかったら、これらの行為は受ける立場にはない。
安易に出家したことを恥じてしまう。こんな反省の念を抱えてカメラなど捨て、真面目に修行を積もうと思ったら3年ぐらい修行すべきだろう。そんな想いから短期出家のつもりが何十年と続いた比丘も居るのかもしれない。

バイク整備が得意なケーオさんの仕事

◆わがままな心の内

そんなカメラを捨てられない私は、コップくんに還俗の相談をすると、還俗すると決めたら、和尚さんにその気持ちを伝えればいいらしい。但し、自分から還俗する日を決められない。散々客寄せパンダとなっていた我々日本人。還俗なんて認めてくれないのではと不安が過ぎる。

それと同時に再出家も頭を過ぎっていた。こんな寺より品のいいノンカイの寺で再出家するとしたら、それは可能か。そんな我がままな望みは誰かに言い出せることではなかった。

還俗する相談は、やや年輩のイアットさんにも聞いてみた。コップくんと同様の意見ではあったが、その2~3日後、朝食の場で「もう和尚さんに還俗願いはしたのか?」と口に出してしまうイアットさん。これで周囲に知れ渡ってしまった。

メーオくんは「還俗しなくていいよ、ずっと居ろよ!」と言ってくれるし、サンくんも「まだ早いよ!」と言う引止めが多かった。メーオくんはやたらと和尚さんの部屋を出入りしているから、薄々和尚さんにも伝わったようだ。

以前も藤川さんが、日本での不動産業で億(円)単位のお金を日々動かしていたことや、タイでの事業で稼いだ財産を、ほとんどタイでの妻などに渡して離婚後、出家した話を信じない奴らばかりで、資産の一部を残しておいた200万バーツ(1千万円弱)ある預金通帳を、「メーオに見せてやったら、一、十、百、千、万と目を疑うように桁を数え直して、目が点になっとったわ!」と笑う。

その後、「和尚が遠回しに、“ウチの寺もでっかい仏像置いて、立派な寺に増築したいなあ”と普段と言うことが変わってきたから、予想どおりメーオが喋りおったとはすぐ分かった」と言うほどメーオくんは和尚さんにとって周囲を探るバロメーターであったことは確かなようだ。

そして1月8日、和尚さんに正式に還俗を願い出た。「相談があります。今月末に還俗したいのですが……」と言ったところで、「ウン、いいよ!」という素っ気ない返答。すぐ運気の本を開いて、「生年月日は? いつ還俗したいんだ?」と聞かれ、「27日がいいです」と応えると「27日は良くない、28日にしろ!」と言う和尚さん。

それはちょっと苦しい、29日は伊達秀騎のムエタイ試合があるのだ。

「29日にチェンマイに行く用があるので」と言うと、「じゃあ25日にしろ!」とあっさり決まってしまった。運気と言うより六曜(大安、仏滅など)に近い気がするが、意外な決め方だった。

更に、「ネイトは1月22日に来る」と藤川さんから新たに聞いたばかりで、比丘としての再会は果たせそうだった。

夕方頃、藤川さんが掃除が終わるのを見つけたところで、還俗願い出たことを伝えた。藤川さんに相談せず決めたことが、ちょっと後ろめたかったが、普段からあまり話さないのだから、もう気を遣わなかった。それと「還俗後、いずれノンカイの寺でもう一回出家できたらなと思います!」とだけ打ち明けた。すると、「もう一回やったら、足洗えんようなるぞ。ここの和尚に対しても失礼に当たることや」と言う。

ある意味、戒律違反で、藤川さんがこの寺で再出家する前、前年一時出家した籍のあるスパンブリーの寺に出向いて再出家することを報告すると、そこは理解を示す和尚さんで問題なかったが、通い慣れた、かつて渋井修さんが在籍したバンコクのパクナム寺の和尚さんに話したら、「それはスパンブリーの和尚に対し、失礼に当たることだ」と言われたらしい。

この時、私はまだ再出家に掛かる意味、責任を理解していなかった。場を変えて足りない修行を積み重ねて比丘生活の締め括りをやりたい愚かな気持ちしかなかったのだった。

◆依頼が絶えない

残り少なくなっていく比丘生活にも葬儀が頻繁にあり、また葬儀の撮影を頼まれる日もあった。寺に居てカメラを持って歩くことは頻繁にあった訳ではないが、皆からカメラマンとしての印象は強かったようだ。

ノンカイでも藤川さんに言われていたことだが、「お前、タイで葬式カメラマンやれ、人は毎日死んでいくからどっかで必ず葬式はあるぞ、お寺幾つも回って契約取ってやってみい。今だけでもこれだけ頼まれるんやから売り込めば仕事増えるぞ。出張撮影、車の手配も助手も要るなあ!」と、勝手に話を膨らませる。ビジネス戦略は常に鋭い勘が働く人だったが、鈍感な私はそんな気にはなれなかった。

こんな野良犬も寺に住み着く大人しい犬だった。コップくんが可愛がる

◆阪神淡路大震災発生!

1月17日の夕方、庭掃き掃除をしていると、藤川さんが「兵庫で地震あったらしいぞ!」と言いながらラジオを持って現れた。毎日聴いて居られたNHKニュースである。後に詳しく知る阪神淡路大震災だった。

「1132人が死亡」という声に、これは相当な震災だったことに驚く。最大震度6。死傷者はその後も増えた。

「ワシ、京都に帰ってみようかな、娘らが心配やし」と言う藤川さん。

そうそう実家に帰ることはないタイで出家した身だが、我が娘夫婦や孫のことは心配だろう。

「我が身の命はいつ終わるか分からん。皆、当たり前のように明日がやって来ると思うて、どこ遊びに行こうか、何食おうかと、呑気に過ごす奴が多いやろが、明日が必ずやって来ると言えるか?、震災で死んだ人も、今日死ぬとは思って居らんかったやろう。日々が諸行無常や!」

こんな話は何度となく藤川さんに言われて来たこと。こんな災害が他人事ではないと思うと、やっぱり悔いの無い日々を送らねばならないと改めて思う。しかしこれも心からは分かっていないんだろうな、我が身にも災難に見舞われるまで。

まあ考え過ぎず、ここでの残り少ない比丘生活を頑張ろうと思うところだった。

残り少ない日々、洗濯姿をケーオさんに撮って貰う

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

月刊『紙の爆弾』2019年1月号!玉城デニー沖縄県知事訪米取材ほか
上條英男『BOSS 一匹狼マネージャー50年の闘い』。「伝説のマネージャー」だけが知る日本の「音楽」と「芸能界」!

熱狂MAXのヤバい野獣たち! NJKF

YETI達朗の自信を持った右ストレートがクリーンヒット
YETI達朗の右ストレートでダウンした匡志YAMATO

YETI達朗の豪快KOが印象的な今年の活躍。白神武央(拳之会)から王座奪取した2月は僅差だったが、6月のクンタップ戦から続いて、いずれも左フックが決め手の2連続1ラウンドKOとなった。そこにはプロボクシングH’s STYLE ジムに出向いて吉野弘幸会長から指導を受けたパンチの強化があり、日本重量級での存在感が増してきた今、他団体交流戦があれば更なる飛躍が期待できそうなYETI達朗である。マイクアピールでは「NJKFはヤバい選手がいっぱい居るヤバい団体」と褒め言葉で持ち上げた。

フライ級ではデビュー8ヶ月の16歳でチャンピオンとなった松谷桐がアグレッシブな打ち合いに出る存在も目立つ。こちらも今後、他団体チャンピオンやムエタイ第一線級選手と戦ってどう試練を乗り越えていくか、来年の興行主役の期待が掛かります。

“頑張ったよ、ママ!”と勝利者インタビューで、応援してくれる高校生の息子に応えた伊織。家庭の空気が読めるような微笑ましいムードが流れる場内。キック界の流行語になりそうな一言だった。昔の殺伐としたリング上から比べて、時代が大きく変化したものである。

◎NJKF 2018.4th / 12月2日(日)後楽園ホール 17:00~20:50
主催:NJKF / 認定:WBCムエタイ日本実行委員会、NJKF

◆第11試合 WBCムエタイ日本スーパーウェルター級タイトルマッチ 5回戦

第4代チャンピオン.YETI達朗(キング/69.55kg)
    VS
挑戦者NJKF同級チャンピオン.匡志YAMATO(大和/69.8kg)
勝者:YETI達朗が初防衛 / TKO 1R 2:13 / ノーカウントのレフェリーストップ
主審:竹村光一

開始から両者の蹴りでのやや様子見の後、パンチの交錯に移り、YETI達朗の重そうなパンチが当たり出す。タイミングを計ったところで、強いロングフック気味の右ストレートをヒットさせると匡志YAMATOがダウン。更に勢い付けてロープに詰めての接近戦で左右フックを連打し、右フックで2度目のダウンを奪ったところでレフェリーがストップするYETI達朗の豪快なTKO勝利となった。

更なる右ストレートで倒し切ったYETI達朗
「NJKFはヤバい団体」とアピールするYETI達朗

◆第10試合 58.0kg契約3回戦

WBCムエタイ日本フェザー級チャンピオン.新人(ESG/57.9kg)
   VS
NOWAY(NEXTLEVEL渋谷/57.95kg)
引分け 三者三様 / 主審:宮本和俊
副審:神谷29-30. 和田29-29. 竹村30-29

三者三様となる見極めの難しい展開となった。両者の手数足数多く、互いのパンチのヒットも多かったが強烈にヒットは少なく、一進一退の攻防に見解が分かれた結果。パンチで出る勢いはNOWAYにあったが、新人は下がり気味でもヒットが目立ち持ち堪えた。

互角の展開ながらパンチの攻勢が目立ったNOWAY
僅差ながら積極性で優った波賀宙也

◆第9試合 56,5kg契約3回戦

WBCムエタイ日本スーパーバンタム級チャンピオン.波賀宙也(立川KBA/56.5kg)
   VS
ペットワット・ヤバ・チョーベース(タイ/56.05kg)
勝者:波賀宙也 / 判定2-0 / 主審:多賀谷敏朗
副審:宮本29-28. 和田29-29. 竹村29-28

離れた距離での蹴り合いから、首相撲からヒザ蹴りが主体の攻防が長く続く。ヒジ打ちも加え、次第に先手を打って圧力掛けて出た波賀が判定勝利を掴む。

◆第8試合 NJKFフライ級タイトルマッチ 5回戦

第11代チャンピオン.松谷桐(VALLELY/51.0→50.8kg)
   VS
挑戦者同級4位.池上侑季(岩崎/50.7kg)
勝者:松谷桐が初防衛 / 判定3-0 / 主審:神谷友和
副審:宮本49-47. 多賀谷49-47. 竹村49-48

ローキックの様子見からパンチ、ハイキック、前蹴りを織り交ぜていく両者。両者パンチの被弾も恐れずスタミナ切れない攻防が続いていく。ハイキックや前蹴りのヒットが多く、更にパンチや蹴りで圧した後、手を止めずに打っていく勢いがあったのは松谷で、踏ん張る池上を突き放した。

松谷桐が優った突進ハイキック

◆第7試合 64.5kg契約3回戦

ISKA・M・IC・ライトウェルター級チャンピオン.宮島教晋(誠至会/64.2kg)
   VS
NJKFスーパーライト級チャンピオン.畠山隼人(E.S.G/63.9kg)
勝者:畠山隼人 / 判定0-2 / 主審:和田良覚
副審:宮本29-29. 多賀谷28-30. 神谷28-30

宮島は左ミドルキックを多発し、畠山は左右パンチの連打で出る。宮島の蹴りを上回る畠山のパンチが徐々にクリーンヒットが増やし、判定勝利を掴む。

大田原友亮の格差を見せ付ける重いハイキック

◆第6試合 57.0kg契約3回戦

HIRO YAMATO(大和/56.6kg)vs大田原友亮(B-FAMILY NEO/56.5kg)
勝者:大田原友亮 / TKO 2R 2:31 / ヒジによるカットで悪化によるレフェリーストップ
主審:竹村光一

ムエタイスタイルの両者だが、本場タイでの経験値が大きい大田原が経験値でタイミングを見極め、左ハイキックや前蹴りで突き飛ばす。HIROのパンチと蹴りにやや下がる大田原だが、しっかりHIROの動きを見ており、カウンターのヒジ打ちが見事にヒットするとHIROの額のカットに成功。ドクターチェック後、パンチで出て来るHIROを組んで転ばせ、応戦している間に流血が酷くなり、2度目のドクターチェックを受け、続行可能かと見えたがレフェリーが止めて試合は終了。大田原のTKO勝利となった。

◆第5試合 NJKF女子(ミネルヴァ)スーパーフライ級タイトルマッチ 3回戦(2分制)

チャンピオン.伊織(T-KIX/51.3kg)vs同級1位.三宅芳美(OGUNI/52.0kg)
勝者:伊織 / KO 1R 1:44 / 2ノックダウン制によるKO / 主審:宮本和俊

長い手足で芳美の顔面に前蹴りを入れた序盤からヒザ蹴りに持ち込むと、ボディーをカバーし、効いた様子の芳美に更にヒザで攻めると、コーナーに詰まった芳美はスタンディングダウンを取られる。続けてボディーに狙いを定めた伊織がヒザ蹴りで攻めるとレフェリーがストップした。伊織は息子さんが高校3年生で、「頑張ったよ、ママ!」とメッセージを送った。

伊織が開始早々からボディーに狙いを定めた
「頑張ったよ、ママ!」とアピールする伊織

◆第4試合 バンタム級3回戦

NJKFバンタム級5位.鰤鰤左衛門(CORE/53.2kg)
    VS
NJKFバンタム級7位.清志(新興ムエタイ/53.35kg)
勝者:清志> / TKO 3R 1:02 / ハイキックによるダウンでレフェリーストップ
主審:多賀谷敏朗

◆第3試合 61.0kg契約3回戦

NJKFライト級6位.野津良太(ESG/60.8kg)
    VS
NJKFスーパーフェザー級4位.梅沢武彦(東京町田金子/60.9kg)
勝者:梅沢武彦 / 判定0-3 / 主審:神谷友和
副審:多賀谷28-30. 竹村27-30. 宮本27-29

◆第2試合 スーパーライト級3回戦

NJKFスーパーライト級6位.木村弘志(OGUNI/63.3kg)
    VS
MA日本スーパーライト級4位.増井侑輝(真樹AICHI/63.5kg)
勝者:増井侑輝 / 判定0-3 / 主審:和田良覚
副審:多賀谷28-30. 神谷29-30. 宮本28-29

◆第1試合 バンタム級3回戦

雨宮洸太(キング/53.25kg)vs翔YAMATO(大和/53.0kg)
勝者:翔YAMATO / TKO 2R 2:21 /
有効打によるカットの悪化でレフェリーストップ

王座初防衛を振り返る松谷桐

《取材戦記》

宮島教晋の持つ王座は“ISKAのムエタイルールのインターコンチネンタル王座”。文字数が長くなるので、別枠記載としました。

伊織がヒザ蹴りで三宅芳美をグロッギーに追い込む中、レフェリーが「1回目のスタンディングダウンで止めようかと思った」と言うほど強烈にヒットし、腹を押さえる行為に出た芳美。どこまでやらせるかはレフェリーの判断ですが、追撃を受けたところで止めに入ったタイミングは順当なところでした。

先日の立嶋篤史の試合など、ダメージはあるが、なるべく長く戦わせてやろうというレフェリーの判断、配慮を感じる時があります。一方で「早いよ、何で止めるんだ!」と言うセコンドの抗議があるのも事実。

先日10月7日の舟木昭太郎さんトークショー内の「増沢潔、サミー中村両氏を称える会」での参加したレフェリーの意見では、こういう抗議には、「危ないから止めるんです」と率直に応えると言う主張もありました。最近はレフェリー判断を尊重される傾向にありますが、ルールでの明記の難しい境界線での判断は、延々と語られる終わりなきテーマなのかもしれません。

12月9日はNJKF若武者会主催のDUEL16が大森ゴールドジムで16時30分より開催。来年も連盟主催興行は4回と少ないが、若武者会などやジム主催興行が増え、年間でプロ興行は12回。現在に於いては少なくはない。2019年最初のNJKF連盟主催興行は2月24日(日)後楽園ホールで開催されます。

加藤愛香さん。2年務めたマスコットガールを卒業、最後の登壇

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

月刊『紙の爆弾』2019年1月号!玉城デニー沖縄県知事訪米取材ほか
上條英男『BOSS 一匹狼マネージャー50年の闘い』。「伝説のマネージャー」だけが知る日本の「音楽」と「芸能界」!

老いの風景〈09〉わかっていても辛いこと

平均寿命が延び、高齢の親御さんやご親戚家族の健康について、悩みを抱える方が多いのではないでしょうか。私自身、予期もせず元気で健康、快活だった母の言動に異変を感じたのは数年前のことでした。そして以降だんだんと認知症の症状が見受けられるようになりました。今も独り暮らしを続ける89歳の母、民江さん。母にまつわる様々な出来事と娘の思いを一人語りでお伝えしてゆきます。同じような困難を抱えている方々に伝わりますように。

◆同級生(89歳)のいとことランチの約束をして

前回は、民江さんが慣れた場所で初めて道に迷った時のことをお伝えしました。あれは、本人にとってもショックだったと思いますし、家族にとっても認知症の進行と怖さを実感た出来事でした。今回は、それから3か月後に起きた騒動です。

これまで二度の迷子騒動を経験した私は、民江さんが電車で外出することに対して、それなりに注意を払っていました。それは、「約束したら私にも必ず教えてね」とお願いし、約束の日時と場所に無理がないかをチェックし、当日朝にもう一度確認するというものです。とは言っても、そもそも申告自体があてになるものではありません。案の定「今日は○○ちゃんと12時に会うのよ」とか「今日約束してたけど、体調が悪いらしくて延期したわ」など、約束していたことを当日の朝に初めて知ることがよくありました。

それは昨年4月のことです。同級生(つまり89歳)のいとことランチの約束をしていると言うので、数少ない友人と楽しい時間が過ごせるといいなという思いで、快く送り出すことにしました。約束の場所と時間から、何時に家を出て、どういう経路で行くのかを確認し、「気を付けてね。何かあったら電話してね」と言いました。

数時間後、行き慣れた場所でしたし、約束の時間もとっくに過ぎたので、ホッとしてお茶でも飲もうと思ったところに電話がかかってきました。民江さんの携帯電話からの着信です。でも、声は男性です。「お母さんが倒れていらっしゃったので救急車を呼ぼうかと声を掛けたんですが、娘に電話をしてくださいとおっしゃるので」と。

聞いていた場所とは全く違いますが、とにかく迎えに行かなくてはなりません。どんなに急いでも40分はかかりますが、その方は付き添って待っていてくださるそうです。お言葉に甘えて、私はまず待ち合わせ相手の娘さんに電話で状況を説明し、そちらの対応をお任せした後、急いで車を走らせました。到着すると、歩道の木陰に喫茶店で借りた椅子に座った民江さんと、寄り添ってお話をしてくださっているご夫婦の姿がありました。

よかった。そして、本当にありがとうございました。お二人は散歩の途中だったそうで、「もう少しお散歩の続きをしますから、どうぞ気にしないで」と笑顔で手を振って去っていかれました。過去二回もそうでしたが、またしても親切な方に助けていただいたわけです。

さて民江さんの様子はというと「私はいとこのせいで行き倒れた!」と怒っています。いとこの希望で約束の場所を変更したことが原因だと言います。その場所が久し振りだったこともあると思いますが、見当違いの方向へ1キロぐらい、民江さんの足なら電車を降りて1時間ぐらい歩いたようです。助けてくださった方への感謝の気持ちよりも、いとこへの恨みと空腹感で荒れています。

私は、なぜ変更したことを教えてくれなかったのかと苛立ちながら、とにかく民江さんの気持ちを鎮めようと、適当なお店を探してお腹を満たし、プラス思考の話題へ誘導しますが、なかなか機嫌は直りません。今回は特にダメージが大きかったようです。早く休ませて、明日になることを願うしかありませんでした。

◆穏やかに接してあげたいが

このようなことが起こると、民江さん自身とても混乱し、恐怖を感じたでしょう。それを思えば、私もなるべく穏やかに接してあげなくてはいけません。なるべく穏やかに接してあげなくてはいけないことはわかっています。が、現実は辛い。この時の民江さんの言動をもう少し詳しくお話しします。

急いで駆けつけた私に何も言わないどころか、助けていただき一時間も付き合ってくださった方に対しても、私が促してやっと軽くお礼を言いうことができました。
車に乗せると後部座席から「信号青よ!」と大きな声。しかもそれは横の信号を見て言っているのですから、本当はまだ赤なのに、私に指図をしてきます。途中、路上に車を止めて駅のトイレを借りて走って戻った私に「ソフトクリーム買って来てくれたんじゃなかったの?」と言い、「食べたいの?」と聞くと、「買って来て」と横柄な態度です。

その後も、駐車場のある店に入ろうと探しながら走っているのに「お腹がすいた」「どこでもいいから早くお店に入ってよ」と繰り返します。「場所を変えてくれと言ったいとこが悪い」「いとこのせいで私は行き倒れた」「もういとことは会わない」と、いつまでも怖い顔をして怒っています。

こんなに悪態をつかれても、娘の私は黙って聞いていなくてはいけません。認知症の人に怒っても本人を混乱させて状態を悪化させるだけ。母は認知症。だから怒ってはいけない。怒ったら、あとでもっと自分を責めることになる。わかっていても辛いものです。

▼赤木 夏(あかぎ・なつ)[文とイラスト]
89歳の母を持つ地方在住の50代主婦。数年前から母親の異変に気付く

月刊『紙の爆弾』2019年1月号!玉城デニー沖縄県知事訪米取材ほか