《追悼》福島県飯舘村の長谷川健一さん 長谷川さんと共に歩んだ「西成青い空カンパ」の10年 尾崎美代子

3・11以降、西成の仲間とつくった「西成青い空カンパ」で支援し続けてきた、福島県飯舘村の長谷川健一さんが亡くなった(享年68歳)。ここ数年、私は行き来していなかったが、お別れを前に、長谷川さんとの「思い出」を記しておきたい

長谷川健一さん

◆「西成青い空カンパ」と飯舘村

2011年3月11日の東日本大震災と原発事故後、西成の仲間と「西成青い空カンパ」を立ち上げた。ライブなどでカンパを集め、最初は日本赤十字社に送っていた。その後、直接カンパを渡たす場所を探していたところ、飯舘村に出会った。原発から40~50キロ離れた飯舘村は、事故までは原発とは無関係だった。しかし、爆発した福島第一原発から放出された放射能は、風向き、気候などに左右され、3月15日飯舘村に大量の放射能を降らせた。村に入ったジャーナリストらから、村の線量が非常に高いことを聞いた長谷川さんは、菅野村長(当時)に子供たちだけでも避難させろと迫ったが、村長は聞く耳を持たなかった。そのため子どもたちばかりか、村民も大量に初期被ばくした。それを知った私たちは、この村にカンパを送ろうと決めたのだった。   

その年の8月、京都で長谷川健一さんの講演会があった。前田地区の区長を務める長谷川さんは、なるべく皆で同じ仮設住宅に入居しコミュニティを守りたいと奔走した。伊達東仮設住宅に同地区の村民を避難させ、最後に自身も避難したあと、講演活動を始めていた。独特のしわがら声で「大勢の人にこの現状を知ってほしい」と訴える長谷川さん。私はすぐに楽屋を訪れ、長谷川さんと大阪講演の約束をした。双方の都合があわず、講演が実現したのは暮れの12月17、18日だった。

それ以降、ほぼ毎年大阪で講演会を行ってきた。来られない年は、仲間と長谷川さんの撮った映画「飯舘村 わたしの記録」や私たちが制作した「飯舘村ADR集団申立 謝れ!償(まや)え!かえせ ふるさと飯舘村」の上映会や支援ライブを行ってきた。

2013年4月の講演会後の親睦会で、長谷川さんは「関西の人はもう関心なくなったんかな」とポツリと漏らした。私たちの力不足もあり、参加者は年々減っており、私は申し訳ない思いでいっぱいになった。

西成での講演会のあと、ライブなどで集めたカンパを長谷川さんに直接手渡してきた。後ろ姿はヤンシ
私たちのカンパを一部にして購入されたコピー機。長谷川さんが住んでいた伊達東仮設住宅の自治会室に置かれていた

◆「原発ADRを闘おう」

長谷川さんが、頻繁にメールしてきたのは2014年春先あたりからだ。長谷川さんが「原発ADRを闘おう」と呼びかけ、参加者が増えている。休日、会場を取り、弁護士が手弁当で一人一人の聞き取り調査を行ってくれている。参加者が増えて、弁護士が足りないなどとのメールに、私たちが送ったカンパを一部にして購入したコピー機の写真が添付されていた。「裁判資料を作るのにとても重宝しています」とコメントも添えてあった。元気になってきた長谷川さんの顔を見るために、東京でのADへの申し立てには、ぜひ同行しようと決めていた。

申し立ての前日の11月13日、私は福島に行き、長谷川さんに飯舘村を案内してもらった。その後、長谷川さんは、弁護団との最終打ち合わせのため慌ただしく東京へ向かった。伊達東仮設住宅で、私と奥さんの花子さん、「飯舘村の母ちゃんたち 土とともに」を撮った古居みずえ監督の3人で、花子さんの作った「芋煮汁」を何杯もお代わりし、遅くまで話し込んだ。

翌朝、大型バスに村の皆さんと乗り込み東京へ向かった。皆さん、冗談を言い合い、上機嫌だった。いよいよ闘いが始まるからだ。しかし、その後、ADRはなかなか上手く進まないようだと聞いた。

「西成青い空カンパ」制作のDVD。長谷川さんが飯舘村を案内する様子、翌日ADRへの申し立て、記者会見の様子が入っています

◆「みんな疲れた。俺も疲れた」

「みんな疲れた。俺も疲れた」。2016年4月、再び福島を訪れた私に、長谷川さんはそう告げながら、「復興」が進む村を案内してくれた。

事故後始まった村の復興計画を長谷川さんは「雲の上から降りてきた」と表現した。村には20の行政区があり、避難指示解除後は、高線量の長泥地区を除く19の地区で、それぞれ復興していく計画だった。しかし、その後「深谷地区」を先行的・集中的に復興させていくと変更された。2013年9月、安倍晋三が「汚染水は制御されている」と嘘のプレゼンを行い、2020東京五輪の招致に成功したからだと私は考えた。その深谷地区を通る幹線道路沿いには、道の駅「までい館」、メガソーラー、「ふれあい館」など立派なハコモノが立ち並んでいた。ここを聖火リレーが走れば、世界中の人たちは「飯舘村は復興した」と思うだろう。そのために飯舘村の復興計画は変更された、と私は確信した。

緑豊かな山々に囲まれた沼平で、土壌、植物などの線量を測り、SNSで発信し続ける伊藤延由さんにお話を伺ったあと、福島駅に送ってもらう途中、耕作できない田畑を眺め、長谷川さんが私にこう聞いた。「尾崎さん、この畑やたんぼ、将来どうなると思う?」。草ぼうぼうの田畑をみながら私は「冬に草が枯れて、また春に草が生えて……その繰り返しですか?」と答えた。すると長谷川さんはこう言った。「違う、森になるんだ。俺はチェルノブイリで見てきた」。

◆「夏、ここいらがそばの花で真っ白になる。それを見にきたらいい」

実は数か月前、何かの記事で、長谷川さんの祖父が新潟県出身で、しかも私の故郷の近くであったことを知った。そうして村に入植した人たちが、鍬や鋤1本で山林の木を伐り、土地を耕し、田畑を作ってきたことは、滞在中、菅野哲さん、安斎徹さんからも聞いていた。しかし何故だろうか、長谷川さんにそのことを確認した記憶はない。

そう肥沃でなかった土地に、村の8割を占める山林が作る豊かな腐葉土と、畜産・酪農で作られた堆肥を、までいに(村の方言で丁寧になどという意味)鋤き込み作り上げてきた土と、昼夜の寒暖差が大きいことが作用して、野菜、コメを美味しく、花を色鮮やかにし、りっぱな「商品」に仕立ててきた。もちろん事故後は、除染できない山林の腐葉土に放射性物質が大量に残存したままで、もとに戻るには300年かかるという。

避難指示解除後、長谷川さんはお父さんと花子さんの3人で飯舘村の自宅に戻ると聞いていた。前田の家で、家の前の広大な土地にそばの種をまくと話され、「夏、ここいらがそばの花で真っ白になる。それを見にきたらいい」と言われていたが、私は見に行く機会を失っていた。

2019年、再び飯舘村を訪れたが、私は長谷川さんに連絡をしていなかった。福島駅に迎えにきてくれた安斎さんからは、事前に「当日、ふれあい館で前田地区の人が集まる」と聞いていたので、そこに行き、偶然長谷川さんや花子さんに会えたらいいなと期待したが、会は既に終わってしまっていた。道の駅から長谷川さんに電話すると、「なんで、連絡してくれなかったんだ」と言われ、私が答えられずにいると「俺は出かけるが、そこでちょっと待ってろ」と言われ、しばらくすると花子さんが炊き込みご飯を届けてくれた。

◆「飯舘は営農でどんどん復興してますなんて書かれたんじゃ、たまったもんじゃねえ」

講演会の帰りに皆で長谷川さんをホテルに送る途中、仲間が撮った写真。講演後も話は尽きなかった

今年に入り、数ヶ月前、Facebookで長谷川さんから友達申請がきた。「あれ? 友達なのに」と見たら、携帯を変えたらアカウントが消えたとあった。その後に「軽い気持ちで診察したら即入院となった。今まで手術、放射療法だったが、いよいよ抗がん剤治療が始まる」と書かれ、しかし「そばが気になったので、無理を言って明日退院です。抗がん剤治療は通いでやります」と書かれていた。9月9日の投稿だった。

しかし、私は電話もメールもできないまま、訃報を知る日を迎えた。そんな時、長谷川さんを取材し続けた豊田直己さんの記事を読んだ。そばの栽培は希望に満ちた営農再開ではなかったと書かれていた。

「マスコミがかぎつけて、そうやってそば作って(農地を)荒らさないようにやってるって、すぐ(取材が)始まんだよ。俺、全部(取材を)断ってる。いかにも復興してやってますよ、みたいな広告塔にはなんねえ」

「(そば作りは)生業にはなんねえ」「だから、飯舘は営農でどんどん復興してますなんて書かれたんじゃ、たまったもんじゃねえ。本当の現実をとらえて欲しいんだ」。

ああ、長谷川さんは、10年前、初めて会った時と全然変わってはいなかった。祖父が鋤1本で開拓してきた土地を、チェルノブイリで見たような森に戻したくなかったんだ。それを知り、私は初めて涙した。

長谷川さん、お疲れ様でした。ゆっくりお休み下さい。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)「西成青い空カンパ」
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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総選挙展望 ── 政権交代は起きるか〈後編〉静岡補選の衝撃と安倍晋三長期政権による政治的凋落への審判 横山茂彦

◆野党共闘が奏功した静岡補選

132におよぶ与野党一騎打ちの小選挙区で60前後が激戦になり、その大半が野党共闘の有利に進んでいる。その実態を裏付けたのが、10月24日の参院補選静岡選挙区である。

無所属新人の山崎真之輔を立憲民主と国民民主が推薦し、自民党の新人を1万6000票あまりで破った(56万票)。共産党候補も10万票を獲得し、もともと革新系が強い静岡とはいえ、野党共闘の効力が証明された格好だ。

いっぽう、自民党王国の参院山口選挙区では、共産党候補が7万3000票、N党候補5000票と、自民候補の21万票に大差をつけられ、野党一党単独候補では太刀打ちできないことが、あらためて立証された。

一騎打ちの選挙区で相手に10ポイント以上の差をつけ、当選が有力な候補は43人(自公37、立憲16)である。「自公」「立憲」候補が10ポイント差の範囲で競り合っているのは57選挙区にのぼる。そのうち、前回野党候補が敗れた選挙区は39もあり、与野党逆転のオセロゲームの可能性も十分あり得るのだ。

◆一騎打ちでの激戦区

上記の静岡で、ことに話題となっているのは民主党(民進党)から希望の党(集団移行)の旗振り役だった細野豪志であろう。

ここは立憲民主の小野のりかず、無所属で出馬の細野豪志、自民党の吉川たけるの三つ巴となった。

周知のとおり、細野は希望の党崩壊後は自民党(二階派)入党に転じ、支持母体だった連合を裏切るという破天荒な動きに出ていた。だが、反共産党的な言辞いがいに大義名分のない移行は、地元の怒りを誘いこそしても、自民党の一部からしか歓迎されていない。まだ50歳と政治家としては若手の細野が、単なる風見鶏に終わるのか、自民党政治家として大成するのか、注目に値すると提言しておこう。

さらに他の選挙区の情勢を見てゆこう。

小選挙区制導入以降、8回の選挙で自民が議席を独占してきた東京25区は、前回は自民の井上信治がダブルスコアで圧勝したが、野党一本化で状況は一変している。井上と立憲の島田幸成氏横一線で並ぶ展開になっているのだ。

福島4区は前回選挙では、希望・共産・社民と野党候補が乱立していた。希望の小熊慎司はわずか1200票差で自民菅家一郎に敗れたが、今回は立憲から出馬の小熊氏に一本化され、菅家氏とは10ポイント以上の差をつけて優位に立っている。

自民の桜田義孝が3連勝中の千葉8区も、野党統一候補の本庄知史(立憲新人)が桜田に大差をつけている。桜田義孝は五輪担当大臣でありながら「パラピック」発言、サイバーセキュリティ戦略副本部長でありながら「パソコンは打ったことがない」「(USBを)使う場合は穴を入れるらしいが、細かいことは、私はよくわからないので、もしあれ(必要)だったら私より詳しい専門家に答えさせるが、いかがでしょう」などと言う無能政治家だが、無能であることと選挙で強いのは別問題で、2009年の与野党逆転選挙以外は、すべて選挙に勝ってきた7期目のベテラン議員である。

与野党一騎打ちが激戦となっている証左として、野党有力候補の圧勝という情勢がそれを裏付けてもいる。

与野党一騎打ちとなった香川2区の玉木雄一郎(国民民主)は圧勝の情勢、沖縄1区も赤嶺政賢(共産)が当選圏である。立憲が57選挙区を次々と制すれば、まさかの政権交代も夢ではなくなる。

◆維新の三倍増は、自民党への忌避か

野党共闘を「選挙談合」と批判している維新の会が、専門家の分析では三倍増(公示前の11から30前後へ)となりそうだ。小選挙区では大阪いがいは苦戦しているものの、比例で得票を伸ばすと見られている。明らかに保守層の自民忌避であろう。

久々に候補者4名という総裁選挙で求心力を回復したかにみえたが、自民党らしい収束の仕方、すなわち派閥とキングメーカーの争闘と妥協で、岸田新政権は難破寸前といえよう。従来の枠組みを取り払い、清新な印象の公約もことごとく覆し、政権自体の人気は急落している。何を喋っているのか、よくわからない。野党党首との討論のさいにも基本的な事実を間違える(立憲と共産党の公約をちゃんと読んでいない)のポンコツぶり、いっぽうでは意味不明の饒舌さに、岸田の政治能力が疑われはじめているのだ。

◆一掃される安倍チルドレン

日に日に、自民凋落の気配が濃厚となるなかで、危機感を強めているのが安倍元総理である。当落線上にある細田派の18人のうち、安倍チルドレンが6人もいるのだ。

子飼いの政治家が一掃されかねない情勢なのだ。まさに驕れる者も久しからず、である。岸田自民党の敗北というよりも、安倍晋三長期政権の政治的凋落こそが、国民の審判になるのかもしれない。(了)

当落線上にある細田派18人のうち、安倍チルドレンが6人(名前色付き)を占める

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ〈3〉森 奈津子

しばき隊が提案し、東京レインボープライドが乗ったデモ「杉田水脈の議員辞職を求める自民党本部前抗議」。

多くのLGBT当事者は、ツイッター上で流れてきた現場の写真を見て初めて、そのデモの異様さを把握した。

杉田氏の顔写真を引きのばし、醜悪に加工したり、侮蔑的な言葉を書き加えたプラカード――まさに悪魔化である。と同時に、呆れるほど幼稚なセンスだ。小学生が音楽の教科書のベートーベンの肖像に落書きするのと大差ないお子様マインドだろう。

あるいは、銃のスコープで杉田氏の顔を狙うデザインのプラカード。これは、しばき隊界隈の活動家・谷口岳氏がコンビニのネットプリントを利用して配布したものだが、かっこいいとでも思ったのだろうか?

中二病患者は自分が中二病であることに気づかないという証明をしていただき、その羞恥プレイめいた自己犠牲の精神には敬服するばかりである。

しばき隊界隈でご活躍のカメラマン秋山理央氏も実況ツイート

抗議デモには、「FUCK」と書かれたレインボーフラッグも登場した。

過去に東京レインボープライドで、立憲民主党が性的多様性のシンボルであるレインボーフラッグに党名を入れた小旗を用意し、LGBT当事者から「我々の誇りであるレインボーフラッグに軽々しく党名を入れるとは、非常識で身勝手だ」と批判された事件を把握していれば、とてもできないことだろう。

それと、中指を突き立ててポーズをとるデモ参加者の写真は……会場の片隅で「下品」と「中二病」の博覧会でも開催していたのだろうか?

[左]デモで中指を立てる女性。海外のスラムでやったら殺される可能性が高いポーズ。[右]しばき隊界隈のゲイ活動家、ハスラーアキラこと張由紀夫氏もデモの準備に余念がない

滑稽だったのは、薄汚い格好にだらしない髪型の中高年男性のデモ参加者たちの姿に、LGBT当事者から困惑の声があがったことだ。

「あの人たちがゲイ?」

「違うでしょ……?」

「どうせ、動員されたパヨク活動家だろ!」

――そう。それはまさに「これぞ、人生を運動に捧げ、気づかぬうちに浮世離れしてしまい、外見に気を使わなくなったサヨク活動家のおじさん」というサンプルのごとき方々だったのである。

これはべつに、LGBT当事者を称賛してサヨク活動家をコケにしているわけではない。

同じ男性でも、ゲイは異性愛者と違って出会いの機会が少ない分、なにかと小綺麗にしている。今は出会い系アプリがあるとはいえ、大勢のゲイに自分の姿を見てもらえる機会ともなれば、そのファッションには気合が入るというものだ。

体だって、トレーニングで造りあげている者は珍しくない。そんな男たちは、Tシャツ一枚であっても、おのれの美しい筋肉をアピールできるデザインを選ぶ。

デブ専ゲイ受けを狙った体型のゲイでも、髪を短く刈り、男らしさを演出するものだ。

あえて無精髭で野郎っぽく見せても、髪は清潔に保つのがスタンダードであり、薄汚いファッションにボサボサの髪型なんて、絶対にありえない。

つまり、ゲイばかりが集まる場所には、緊張感に欠けただらしない格好をした男など、まず、一人もいないのだ。

女性政治家の顔を怪獣ダダと同一視してdisる見目麗しき殿方

あるとき、私は、ゲイの友人に訊いた。

「なんで、マッチョ系ゲイって、しゃべるとオネエなの?」

彼はこたえた。

「あれはね、マッチョの中身がオネエなんじゃなくて、その反対なの。オネエが男にモテたくてトレーニングをした結果、見かけだけはマッチョになったってだけなの」

……オネエであっても、男にモテたくて、マッチョになる。中身はオネエのままで。

それほどまでに、ゲイは「モテ」に重点を置き、老いも若きもイケてる男であろうとしている。

ゆえに、ゲイやゲイの生態を知るレズビアンやバイセクシュアルは、あのこ汚い格好の中高年を見て、ピンときたのだ。彼らは異性愛者だ、と。

ダサいならダサいで、それをファッションにまで高めるのが、長年アンダーグラウンドの存在とされてきた同性愛者の余裕であり、誇りなのだ。

ダサいけどキッチュでおしゃれで華やか。それは、ドラァグクィーンに象徴されるキャンピィ文化であり、しばき隊界隈は、残念ながらそれを理解していないし、身につけてもいない。

オネエはヒステリックな口調さえ、第三者から見て笑える「芸風」に変える。そうやって、自分を客体化して見る訓練ができているのだ。

反面、しばき隊界隈のヒステリックは、本気のヒステリックだ。ゲイのように、悪口を皮肉と笑いでくるんで提示してみせる知恵も能力もない。

ツイッター上で気に食わない者を集団ネットリンチし、根性がある批判者はみんなそろって予防ブロック。仲間内でエコーチェンバー現象を起こし――となると、次は当然、カルト化が待ち受けている。

野間易通尊師による「俺は神」とのありがたいお言葉

C.R.A.C.代表の野間易通氏に「尊師」というあだ名がついたのは、もちろん、地下鉄サリン事件他の凶悪犯罪を起こしたオウム真理教の教祖・麻原彰晃になぞらえてのことであり、つまり、しばき隊界隈の狂信性、カルト性は、とっくにウォッチャー各位に読み取られていたということだ。

世界中のゲイとレズビアンは、なぜ、デモではなくパレードという形で人権を訴えているのか?

それは、同性愛者が「けがらわしい異常者」「気持ち悪い変態」とあからさまに罵られ、蔑視されてきた歴史的事実と、無関係ではない。

自分たちに向けられてきたヒステリックな罵倒――それを相手に返したくはない。それを発する者がどんなに醜悪に見えるか、身にしみてわかっているからだ。

ゆえに、パレードという形で自分たちの存在を社会にアピールし、ハッピーで楽しい祭典に異性愛者たちを巻き込む形で、理解と共生を求めてきたのだ。

しかし、しばき隊/ANTIFA/カウンターは、LGBTを差別してきた異性愛者と同じ、ヒステリックな罵倒に依存している「正義中毒患者」だ。

ゆえに、いくら蔑視されても誇り高く生きてきたLGBT当事者が、彼らの姿に嫌悪感をあらわにするのも、当然のこと。

[左]コンビニプリントを利用して配布されたプラカード画像(作・谷口岳)[右]安易に鉤十字を使いたがる幼児性はいかがなものか

デモの性質に気づいたLGBTは、疑問を感じ、そして、LGBT活動家が暴力的な運動体と共闘している事実を把握する者も次第に増えていったのである。

「LGBT活動家がしばき隊と共闘しているだなんて、我々の印象が悪くなる」

「これまでしばき隊が起こした暴力事件や性犯罪の被害者を踏みつけにするのか?」

「そんなLGBT活動家が偉そうに我々の代表ヅラするな」

それらの批判は、後に何度も何度も繰り返され、「杉田水脈の議員辞職を求める自民党本部前抗議」は代表的な「LGBT運動の悪しき例」として蒸し返されることになったのである。(つづく)

堅実な生活を営むゲイ当事者、つよし・おすとらこん氏のデモ批判ツイート。活動家ではない一般のLGBT当事者の真っ当な感覚がここにある

◎[過去記事リンク]LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ
〈1〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40264
〈2〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40475
〈3〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40621
〈4〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40755
〈5〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40896
〈6〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44619
〈7〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=45895
〈8〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=45957
〈9〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46210
〈10〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46259
〈11=最終回〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46274

 

▼森奈津子(もり・なつこ)

作家。立教大学法学部卒。90年代半ばよりバイセクシュアルであることを公言し、同性愛をテーマにSFや官能小説、ファンタジー、ホラーを執筆。『西城秀樹のおかげです』『からくりアンモラル』で日本SF大賞にノミネート。他に『姫百合たちの放課後』『耽美なわしら』『先輩と私』『スーパー乙女大戦』『夢見るレンタル・ドール』等の著書がある。
◎ツイッターID: @MORI_Natsuko https://twitter.com/MORI_Natsuko

◎LGBTの運動にも深く関わり、今では「日本のANTIFA」とも呼ばれるしばき隊/カウンター界隈について、LGBT当事者の私が語った記事(全6回)です。
今まさに!「しばき隊」から集中攻撃を受けている作家、森奈津子さんインタビュー

《関連過去記事カテゴリー》
森奈津子「LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』11月号!
『暴力・暴言型社会運動の終焉』

代打カードで他団体から出場、存在感示した内田雅之! 堀田春樹

NKBライト級タイトルマッチはチャンピオン、高橋一眞が新型コロナウィルスの影響で延期となり、代打カードとなったメインイベントの交流戦62.0kg契約5回戦はジャパンキックボクシング協会(JKA)から出場の内田雅之が、ベテランのテクニックで野村怜央を上回り判定勝利を飾った。

長らく空位だったNKBバンタム級王座は、2015年12月12日に高橋亮(真門)が王座決定戦で松永亮(拳心館)を下して以来の争奪戦となり、この日、準決勝を勝ち上がった海老原竜二(神武館)vs 龍太郎(真門)戦で12月11日興行にて行われます。

NKBバンタム級チャンピオンベルトを掲げる渡邉信久代表と王座争う4名の選手

◎NKB 2021 必勝シリーズ vol.6th / 10月16日(土)後楽園ホール 17:30~20:00
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

◆第10試合 62.0kg契約 5回戦

JKAライト級2位.内田雅之(KickBox/1977.12.26神奈川県出身/61.85kg)
     vs
NKBライト級3位.野村怜央(TEAM KOK/1990.3.27東京都出身/62.0kg)
勝者:内田雅之 / 判定3-0
主審:前田仁
副審:川上50-47. 仲50-45. 加賀美50-46

不意を突く内田雅之の前蹴りが野村怜央の顎にヒット

序盤の野村怜央の蹴りとパンチの前進に、内田雅之はやや下がり気味でも野村の出方を読んで慌てる様子は無い。様子見の後は、内田のローキック、右ロングフック、右バックヒジ打ち、顔面前蹴りなどインパクトあるヒットを繰り出し、主導権を奪った展開が続いていく。

内田が奥脚狙ったローキックで倒しに掛かれそうだが、野村はダメージを感じさせない蹴り返しを見せる。内田にややスタミナ切れも野村の巻き返しを許さず、第5ラウンドには

内田がヒザ蹴り連打で野村をロープ際に圧したところでレフェリーがスタンディングダウンを宣した。内田の余裕の展開ながら倒し切れないもどかしさが残る。

上下蹴り分けるフェイントから内田雅之のハイキックがヒット
二人のお子さんも大きくなった、勝利のスリーショットの内田雅之

◆第9試合 ウェルター級3回戦

NKBウェルター級3位.笹谷淳(team COMRADE/1975.3.17東京都出身/66.68kg)
     vs
ACCELライト級チャンピオン.どん冷え貴哉(Maynish/1988.10.15滋賀県出身/66.4kg)
勝者:どん冷え貴哉 / 判定0-3
主審:仲俊光
副審:川上29-30. 鈴木29-30. 前田29-30

序盤から笹谷が積極的に先手を打って出るが、どん冷え貴哉の柔軟なパンチから蹴り返しで互角の展開。第2ラウンド後半には、どん冷えがややラッシュ気味にパンチ連打して、笹谷はロープ際からコーナーに詰められ、打たれるもサッと抜け出しピンチを切り抜けダメージは無さそうだが連打を受けた印象は悪い。

第3ラウンドも貴哉のペースは変わらずも笹谷も打って出る。ジャッジ三者の採点は第2ラウンドだけ、どん冷え貴哉に流れる僅差だが、内容的にはどん冷え貴哉が主導権奪った流れを印象付けて終了。笹谷淳はJ-NETWORKで二階級制覇した実績有り。

どん冷え貴哉が保持するACCELタイトルは、2004年に神戸で発祥の打撃系中心の格闘技イベントより制定された王座の様子。

笹谷淳にどん冷え貴哉のミドルキックがヒット、両者アグレッシブな攻防
柔軟さが優ったどん冷え貴哉のミドルキック炸裂

◆第8試合 NKBバンタム級王座決定4人トーナメント(準決勝)3回戦

1位.高嶺幸良(真門1973.12.4兵庫県出身/53.2kg)
     vs
2位.海老原竜二(神武館/1991.3.6埼玉県出身/53.2kg)
勝者:海老原竜二 / 判定0-3
主審:加賀美淳
副審:川上29-30. 前田28-30. 仲29-30

蹴りの攻防は海老原がやや上回り、リズム掴んだ海老原。高嶺は次第に手数が減る流れ。

海老原はパンチ、ローキックで連打を強め、高嶺はパンチしか逆転のチャンスが無い流れも逆転に導けず、海老原が僅差ながら順当な判定勝利。

海老原竜二のローキックが高嶺幸良にヒット
互いに「チャンピオンベルトを巻く!」と宣言した海老原竜二と龍太郎

◆第7試合 NKBバンタム級王座決定4人トーナメント(準決勝)3回戦

3位.則武知宏(テツ/1995.12.5岡山県出身/53.52kg)
     vs
5位.龍太郎(真門/2000.12.25大阪府出身/53.3kg)
勝者:龍太郎 / 判定0-3
主審:鈴木義和
副審:前田28-30. 加賀美28-30. 仲28-30

様子見の攻防から主導権争いへ強いパンチで打って出て、倒せなくてもノックダウンを奪って決定的な差を付けたい両者。龍太郎の前進増し、則武知宏は打ち遅れてリズムが狂っていく。龍太郎がボディーブローで好印象を残し、則武の疲れた様子も見受けられる中、龍太郎が大差を付けた流れで終わる。

龍太郎の右ボディーブローが則武知宏にヒット

◆第6試合 フライ級3回戦

NJKFフライ級3位.谷津晴之(新興ムエタイ/50.5kg)vs 杉山空(HEAT/50.5kg)
引分け 0-1
主審:川上伸
副審:前田29-29. 加賀美29-30. 鈴木30-30

◆第5試合  63.0kg契約3回戦

NJKFライト級6位.梅津直輝(エス/62.8kg)vs YASU(NK/62.7kg)
勝者:梅津直輝 / TKO 1R 1:16 /
主審:仲俊光

梅津直輝のヒジ゙打ちによるYASUの額の裂傷、ドクターの勧告を受入れレフェリーストップ

◆第4試合  フェザー級3回戦

半澤信也(トイカツ/57.15kg)vs 山本太一(ケーアクティブ/57.1kg)
勝者:半澤信也 / 判定3-0
主審:鈴木義和
副審:加賀美30-29. 前田30-29. 仲30-28

採点は僅差だが、第1ラウンドは両者とも一度ずつのノックダウン有り。パンチを受けてバランスを崩したようなダメージは少なそうなその後の攻防は決め手無い展開が続く。

◆第3試合  フェザー級3回戦

矢吹翔太(team BRAVE FIST/57.0kg)vs 杉山茅尋(HEAT/57.0kg)
勝者:矢吹翔太 / 判定2-0
主審:川上伸
副審:仲30-28. 前田30-28. 鈴木29-29

◆第2試合 58.0kg契約3回戦 デビュー戦

田中佑樹(TEAM TMT/57.5kg)vs 合田努(TOKYO KICK WORKS/57.8kg)
勝者:田中佑樹 / 判定2-1 (30-29. 29-30. 30-29)

◆第1試合  バンタム級3回戦 デビュー戦

明夢(新興ムエタイ/52.7kg)vs 蒔田亮(TOKYO KICK WORKS/53.2kg)
勝者:蒔田亮 / 判定0-3 (29-30. 28-30. 28-30)

《取材戦記》

内田雅之が日本キックボクシング連盟興行に出場とは、本来予定されたメインカードに劣らぬ存在感を示した。そのネームバリューは元・日本フェザー級チャンピオンという肩書だけではない多くの名のある対戦者との戦歴が物語っていた。

交流戦は珍しくはなくなった時代だが、今後の時代に於いては、徐々に各団体の垣根も無くなっていくのかもしれない。そんな分裂などの昭和から引きずった柵(しがらみ)など知らない世代に移りつつある現在である。

内田雅之は野村怜央のカーフキックを受け、効くほどではないが「ちょっと貰うのイヤだなあ」といった心理的にイヤな感じだったと言う。内田のローキックで野村の左太腿も腫れていたが、強い蹴りに耐えた両者である。

本来のメインイベンターだった高橋一眞とのツーショットには対戦の期待高まる両雄となった(たまたま控室での対面。今のところ対戦予定はありません!)。

緊急事態宣言は解除されたものの、全てが元に戻ったと勘違いする人も居て、酒類持ち込み客が注意を受け、ビールの空き缶が幾つか集められていました。イベントの規制はまだ完全には緩まず、酒類の販売は無く酒類持ち込みも禁止。客席使用は50パーセントのままでした。

キックボクシング関係者の過去の新型コロナ感染者も、ある程度は名の知れた人らがそこそこ居て、軽症でも罹ってみて初めて解る苦しさを味わった人も居たようです。また無症状の人でも自宅待機の必要が生じて不便な思いもあったようで、予防接種は受けておいた方が良いという意見は多いのは当然でしょう。「俺は接種しない」と拒否派も存在しますが、格闘家でも一般人でも罹る時は罹るので予防接種は受けた方がいいでしょう。

日本キックボクシング連盟興行「必勝シリーズvol.7」は12月11日(土)に後楽園ホールに於いて17:30より開催予定です。

本来のメインイベンター高橋一眞と内田雅之のツーショット、二人が戦う日は来るか!?

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』11月号!

総選挙展望 ── 政権交代は起きるか〈前編〉自民単独過半数は無理 横山茂彦

菅義偉の総理降板で、与野党の政権交代はほぼない。という結論で、それではどのくらいの自民敗北になるのかが、今回の総選挙の見どころとなっていた。自民党幹部は単独過半数は大丈夫、という見方であると報じられている。

ところが、である。各報道機関の世論調査、および調査機関の選挙分析によれば、自民単独過半数どころか、与党(自公)の過半数すら危ういのではないかという数字が出ているのだ。

小選挙区289のうち、自公候補と野党共闘の「一騎打ち」となったのが132。自民党は公示前勢力(276議席)から30~40議席を減らすとみられている(自民党関係者)。じつに63選挙区で接戦となっているのだ。

公明党も9選挙区のうち2選挙区が接戦で、比例区をふくめて公示前勢力の29議席確保が微妙であるという。

つまり与党の過半数(233)確保がギリギリではないかと、大半のメディア・調査機関が選挙予測をはじき出しているのだ。派手に政策論争をかわし、メディアを独占したかの様相だった総裁選挙の勢いはどこへ行ったのだろうか。

たしかに自民党は、比例代表投票先の調査(共同通信、10月16・17日)で29.6%を占めている。2位以下、立憲民主党は9.7%、共産党が4.8%、維新の会3.9%、国民民主0.7%、れいわ新選組0.5%、社民党0.5%で、野党共闘(4党)の15.5ポイントを大きく引き離している。公明党の4.7%と合わせれば、安定多数は確実視されても不思議ではない。

しかるに、同調査ではじつに39.4%の回答が「まだ決めてない」のである。

◆自民党の「選挙の神様」が予測する30~40減

元自民党事務局長で「選挙の神様」と呼ばれる久米晃氏によると、自民党30~40減の根拠はこうだ。

「4年前の総選挙を基準に考えています。野党は、立憲民主党と希望の党に割れて、共産党からも維新からも候補者が出た。あの時、マスコミの何社かが、仮に野党が統一候補を組んでいたら、あるいは立憲、希望が割れなかったらどうなるかシミュレーションして、自民党はマイナス64になったんです。そこから私は、『野党が統一候補を組んだら1+1=2にならないが、1+1=1.5くらいにはなる。そうすると野党協力が進むという前提で自民党はマイナス30くらいになる』と。それを目算にして判断するという考え方です。マイナス30のベースからどれだけプラスにできるのか、あるいはさらにマイナスが増えるのか。うまくいけばマイナス20や10で済む。ただ、国民の期待と不満がどの程度なのか、まだ分からない。最悪マイナス40もある。これからの戦い方次第です」(日刊ゲンダイ)。

久米氏が言う「野党統一候補」は、10月13日に共産党が126人の候補者のうち、一本化のために22人を取り下げることで決着した。社民党関係者によると、「ほぼ90%は一本化が果たせたので、自公をギリギリまで追い詰めることができる」という。

とくに自民党では金田勝年、桜田義孝、石原伸晃、下村博文、松島みどり、後藤田正純、原田義昭、江藤征十郎といった閣僚経験者が当落線上にあるという。公明党も北側一雄 斎藤鉄夫らが危ないという。

与野党逆転の政権交代までは行かないものの、自民党の単独過半数割れが現実のものとなれば、これまでの独善的・強権的な国会運営は続かないであろう。

その現実性を、個別の選挙区でみていこう。

◆石原伸晃と下村博文がピンチ?

もしこの人が落ちたら自民支持者だけではなく、ちょっと国民的なショックではないかと考えられるのが、東京8区(杉並区)の石原伸晃である。

この選挙区は、れいわ新選組の山本太郎代表が出馬表明した直後に撤回したことで、全国的な注目を集めてもいる。最終的に立憲民主党の新人吉田晴美氏が野党統一候補に落ち着いたが、ドタバタ劇で注目度がアップしたかたちだ。日本維新の会の新人笠谷圭司も出馬しており、まさに激戦区として注目をあびる。

前回(2017年)の総選挙では、立憲民主の吉田晴美が石原に約2万3000票差と迫る健闘だった。この時に出馬した共産党候補と得票を合計すれば、石原に約1108票差まで肉薄する計算となる。

その石原伸晃は出陣式の演説でマイクを握った瞬間、最前列の歩道から「何もやってないじゃないか!」と、絶叫して批判を繰り返した女性がいたため、演説を中断する事態となった。

杉並はもともと、新左翼の中核派系の区議・都議が長年議席を得る(現在は区議に二会派5名)ほど、いわゆる革新系の土地柄である。区議レベルでは、自民15人、公明7人、共産6人、立憲4人、新左翼系5人、自民反主流派(維新含む)4人、その他革新系無所属6人。ようするに、自公22人に対して、反自民が25人という構造なのだ。

東京11区(板橋区)の下村博文はどうだろう。前回、下村は104612票だったが、立憲民主の候補が60291票、希望の党が42668票、共産党候補が25426票だった。今回、立民と共産は統一候補とならなかったが、それでも前回票を参考にすれば、下村は1653票差という薄氷の勝利なのだ。

自民党総裁選挙出たことのある石原はもとより、危ない筋からの献金を居直った元文科相の下村博文を、知らない有権者は少ないことだろう。この二人が落選でもしたら、岸田政権の求心力は確実に落ちると断言しておこう。

ふり返ってみれば、8月ごろには自民党の独自調査で、64議席減という数字があったのだ。菅ポンコツ政権がこのまま続けば、確実に政権交代が起きると、この通信でも報じてきたとおりだ。

さらに個別の選挙区情勢に肉薄して、自民単独過半数割れの「危機」を予測していこう。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』11月号!

「結婚します」と聞けば、素直に「おめでとう」という姿勢に変化はないが…… 田所敏夫

世間ではその存在がよく知られた若者が結婚をするらしい。強制された結婚でなければ、基本的に結婚は慶事であるから、喜ばしいことだろう。同時に、有名であろうがなかろうが、結婚をする庶民は年中いるのであるから、この際分け隔てなく、「みなさん結婚おめでとう」と申し上げよう。

ただし、結婚はめでたいが、その後の生活の幸せを結婚が保証するかといえば、必ずしもそうではない。人の結婚にいちゃもんをつけるのは、へそ曲りの根性である。けれども、結婚後に多くの人が「結婚」ゆえに「困難」に向かいあわなければならないこともまた事実だ。

◆結婚が長期にわたる双方の幸せと直結することは、いわば「例外」といってもいいのかもしれない

配偶者との間で、双方に信頼・尊敬が成立する関係性に、ときどき出会うことがある。稀に出会うそんな関係をわたしは心底「素敵だな」と感じ入る。でも、多くの場合は双方が互いに幾分遠慮や我慢をしていたり、他人から見れば片方が、過剰に我慢したり、耐え忍んでいたり。あるいは平静を装う生活の中に、無言の毒針のようなものが飛び交っていたり、まことに結婚後一定期間を経た関係性は様々だ。そんなわたしの限られた見聞からすれば、結婚が長期にわたる双方の幸せと直結することは、いわば「例外」といってもいいのかもしれない。

仕事が適性や性分に合わなければ、転職することを今日、誰も咎めはしない。転職に後ろ指をさしたり、偏見を持つ人などもう皆無に近いだろう。一方、結婚生活が維持しがたくなったときに、迎えるかもしれない「離婚」は、簡単なこともあるかもしれないが、一般に転職ほど容易ではない。

かつて裁判官であった知人が現役時代に、離婚の裁判の「当事者」として「法廷闘争」に臨んだことがあった。普段は裁判官として事件を「裁く」立場の人間が、こんがらがった関係の清算に「当事者」として裁判所に解決を持ち込むしかない事態に陥ったのだ。

裁判官だから法律の知識は豊富だし、彼が負けるようでは日本の法曹制度に疑問符がつこうというものだが、あにはからんや、彼は敗訴ではなかったものの、実質的には負けてしまった。しかも負けの条件が信じられないくらいに「不利」であったのに、彼はその条件を呑んだ。

わたしは少々混乱した。彼が法衣を纏い裁判官として仕事をする姿を、わたしは何度か傍聴席から眺めたことがある。傍聴席よりもいくらか高い位置から原告・被告や傍聴席を見下ろす彼は、取り立てて、特徴のない普通の裁判官であって、業界内(?)での評価・評判も悪くなかったと聞いた。そんな人物でも、私生活の「結婚」に関係する問題では、法廷で惨敗してしまったのだ。

このように、結婚の対極にある「修羅場」を目撃したり、話を聞いたり、ましてや経験すると「結婚観」が変化する。わたしも青年期に比べて「結婚観」は変化した。しかし、結婚それ自体を否定したり、斜めにみるようになったわけではない。「結婚します」と聞けば素直に「おめでとう」という姿勢に変化はない。

◆後味の悪い予感を払拭できずにいる

ただし、世間には「利用目的」の結婚が実存することは断言できる。当事者が意識せずとも利用される結婚、当事者双方が意識的に副次的産物獲得を目的とした結婚。あるいは政治的とはいわぬまでも、社会的な影響を企図しての結婚。

そういった側面も結婚にはついてまわる。そのことだけは知っておいてもいいだろうと思う。騒がれている誰かさんの結婚は誰かがなにかを「利用」しようとしている側面を、わたしは感じる。だから一般に「結婚おめでとう」と祝う気持ちだけではなく、もう少し後味の悪い予感を払拭できずにいる。

またしても、わたしの偏見かもしれないが。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』11月号!

広島は今こそ賞味期限切れの「1975年の成功体験」から卒業を! 衆院選・知事選・県議補選・呉市長選を前に1975年生まれの筆者からの提言 さとうしゅういち

◆なぜ、広島の政治は全国でも群をぬいて保守的なのか? 長年の疑問

わたくし、さとうしゅういちは1975年に広島県福山市に生まれましたが、その後は東京で育ちました。2000年に広島県庁に入庁。11年近く、主に県内の山間部の介護や・医療などの行政を担当してきました。2011年にあの河井案里さんと県議選で対決するため退職。その後は広島市内を中心に民間での介護の仕事についています。一方で、わたしは、ジェンダー解消を求める「全国フェミニスト議員連盟」に所属し、全国で女性議員の応援に入らせていただいた経験もあります。この21年間、疑問に思っていたことがあります。

端的にいえば、「なぜ、広島の政治・行政は全国でも群をぬいて保守的なのか?」ということです。

全国でも群を抜いて政策不在の選挙や政治のあり方。政策もろくにかたらない与党勢力の候補が県議選では8割以上も得票する。

全国でも群をぬいて中央官僚のいいなりでの市町村合併・権限丸投げを進めるなど、中央に従属的な行政。

河井案里さんの有罪が確定したいま、案里さんからお金をもらった議員はいわば犯罪事実が確定したのにもかかわらず、だれひとり腹を切らない。

野党第一党も、全国と比べても非正規労働者やケア労働者が直面する問題に対して消極的。中央の市民連合や野党が合意している「原発なき脱炭素」にも後ろ向き。

これらは、いったいどうしてなのか? このままでは、広島は時代の流れから取り残されてしまうのではないか?

長年の疑問であり、わたしの危機感、苛立ちの原因でもありました。

重厚長大産業が立ち並ぶ呉市沿岸部

◆強烈すぎた? 1975年ころの「広島の成功体験」

しかし、とくに2011年以降、政治活動を本格化する中で、有権者のみなさまのお話しや過去の統計などを総合的に分析すると以下の仮説にたどり着きました。

「政治家や企業経営者もふくむ多くの広島県民が1975年ころ、広島がなしとげた成功体験にいまでもとらわれているのではないか? そしてその成功体験とはあまりにも強烈すぎたのではないか?」ということです。

具体的にお話しすると、1975年度、広島県のひとりあたり県民所得は東京、大阪についで第3位でした。わたしも、神奈川県や愛知県などの方が広島より上だったと思っていましたが、そうではなかったのです。

東京が156.7万円、大阪が135.6万円、そして広島は120.4万円でした。ちなみに神奈川県は114.3万円、愛知県が119.6万円。全国平均は111.8万円でした。 

また、この年、山本浩二・衣笠祥雄らを主力に古葉監督率いる広島東洋カープが初優勝。さらにこの年には新幹線が広島駅を通るようになりました。このころ、広島市の郊外には次々と新しく団地が開発され、まさに、広島は栄華を誇っていたのです。

その原動力のひとつは、「原発製造をふくむ重厚長大の大手企業」であることは間違いありません。一方で、戦前の「軍都広島」「軍港呉」の延長で広島が「中枢都市」だったことのメリットがあったのも見逃せません。こうしたことを背景に

・「中央の方針」に従っていれば間違いない。

・「原発製造ふくむ重厚長大産業中心に」突き進めば間違いない。

・山を削って土地をどんどんつくって開発すれば、どんどん工場や人が広島にやってくる。

・大手企業さえよければ、正社員たる男性世帯主を通じて子どもの教育や住宅も大丈夫だ。

という「成功モデル」が無意識のレベルまで染み付いているのではないか?

従って、自民党ですら河野太郎さんあたりは積極的な「原発なき脱炭素」に、広島では野党第一党の一部国会議員も後ろ向きの発信をSNSでする状況があるのも、支持はできませんが、事実認識としてはうなずけます。

◆1980年代には賞味期限切れ、1990年代末には破綻していた「成功モデル」

高校廃校で揺れる呉市焼山地区。デパートもあるのに閑散としていた

しかし、広島の政治も行政も経済界もとらわれていた「成功モデル」はとうの昔に賞味期限切れです。ひとりあたり県民所得の全国比較で見てみましょう。

1976年度には、ひとりあたり県民所得は、東京都171.5、大阪府159.1、愛知県136.5、神奈川県134.8、広島県133.1、全国124.6(単位、万円)と神奈川県、愛知県に抜かれてしまいます。

そして、1982年度からは、東京都272.7、大阪府224.2、愛知県217.3、神奈川県209.8、広島県189.0、全国189.8(単位、万円)と広島県は全国平均を下回っています。

円高不況がはじまった1985年度には、東京都320.3、大阪府242.3、愛知県258.8、神奈川県238.4、広島県212.1、全国220.5(単位、万円)と全国平均に引き離されていきます。鉄鋼や造船などが打撃を受けたことが背景にあったとみられます。

広島アジア大会が開催された1994年度には、東京都421.1、大阪府341.6、愛知県356.3、神奈川県336.0、広島県301.9、全国308.6(単位、万円)。

金融恐慌があった翌年の1998年度には、東京都417.5、大阪府337.1、愛知県359.4、神奈川県332.5、広島県301.3、全国309.3(単位、万円)でした。

このように、1990年代には、全国に遅れをとりつつあった広島ですが、工業団地をはじめとする土地開発が、河井案里さんの師匠で「天皇」と恐れられた県議会議長の檜山俊宏さんらが主導して進められます。開発をしても経済が伸びていないので、必然的に余ります。広島県の財政も悪化します。

◆中央の方針いいなりで新自由主義強行も事態好転せず

このため、1999年度以降は県職員の給料カットや総務省の指導にストレートに従った形での「市町村合併・権限移譲」という名前の「丸投げ・サービスカット」が強行されます。

基準が代わりますので一概に以下は比較できませんが参考までにひとりあたり県民所得の数字を挙げます。

わたしが県庁マンになった2000年には、東京都461.9、大阪府318.0、神奈川県343.1、愛知県343.3、広島県313.0、全国312.2(単位、万円)とやや盛り返すものの、小泉純一郎さんによる新自由主義が頂点に達した2005年度には、東京都454.6、大阪府300.1、神奈川県324.6、愛知県349.8、広島県301.3、全国309.3(単位、万円)と引き離されてしまいます。このころ、大阪が全国平均を下回り、閉塞感が橋下徹さん登場を準備したことも推測されます。

東日本大震災があった2011年度には、東京都526.6、神奈川県301.2、愛知県324.2、大阪府295.3、広島県279.9、全国298.5(単位、万円)と広島は取り残されてしまいます。

そして、西日本大水害があった2018年度には、東京都541.5、神奈川県326.8、愛知県372.8、大阪府319.0、広島県310.9、全国331.7(単位、万円)で、東京の「一人勝ち」構造が鮮明になります。他方で新自由主義が広島や大阪を余計に沈没させていることも見てとれます。

西日本大水害2018では、高度成長期に開発された住宅地が多数被害を受け、多くの方が犠牲になられました。さらに、2021年9月末で呉の日本製鉄が60年の歴史に幕を閉じました。

広島市東区や呉市の高台の住宅地では高度成長期に新設された高校の廃校なども問題になっています。いわゆる過疎地ではなく、都市部で広島が一番栄えた時代に郊外の高台の団地にできた高校の廃校が地域をゆさぶっています。呉駅前ではそごうの跡地が長年、利用方法が決まっていません。コロナ災害に輪をかけて暗いニュースが相次いでいます。

◆衆院選・広島県知事選・県議補選・呉市長選挙を前に 広島はどうすべきか?

10月31日、衆院選が執行されます。11月14日には、広島県知事選・県議補選・呉市長選挙が行われます。コロナと気候変動で多発する水害。二つの大きな災害にどう対応するか? これは大きな論点です。だが、 それは、広島がずっと依拠してきた成功モデルからの卒業を行政にも企業にも県民にも迫るものです。

一方で、広島は日本の都市では東京につぐ知名度があります。製造業の技術も健在です。新幹線駅のほぼ前に野球場がある、東京ほど密ではないが、北海道や東北などのように分散しすぎて不便というほどでもない、ほどほどの生活の便利さがあります。

上記のことを踏まえ、以下のことを県選出の国会議員や県知事、市長(の候補者)、経済界や市民運動・労働運動幹部に提言します。

中国電力本店。ここで原発ゼロを訴えて街宣をした候補者はさとうしゅういちだけだった参院選広島再選挙

「原発なき脱炭素」への転換と暮らしの保障を

たしかに、CO2をたくさん出す鉄鋼業や原発製造をふくむいわゆる重厚長大産業中心に、1970年代くらいまでの広島は栄えました。

しかし、気候変動によるとみられる水害に広島は2014年、2018年、2021年と何度もおそわれています。また、広島から90kmの伊方原発は、一般住宅より耐震性がおとり、地震の巣の上にあります。

鉄鋼についていえば、欧州の大手メーカーが炭素を使わない製鉄法に5兆円を投資しています。エネルギーは効率を考えても「大型の電源でつくって配る」従来の方法を改めてクリーンな方法での「分散型電源」にしていくことに広島のものづくりの技術をいかすべきです。

そして、構造転換に際しては新しいエネルギーや技術開発への投資ともに、従来の方法での現場、例えば原発関連で働いている人たちに思い切った補償・生活の保障をセットでするのです。大幅な財政出動が必要ですが、安倍晋三さんが総理時代に「お友達」やアメリカにばらまいたのとくらべたら、よほど前向きです。

大手企業出先より中小企業の本社誘致

今の時代、大手企業の出先を誘致することの費用対効果は、意外と悪いのではないでしょうか? それよりは、面白い中小企業の本社に移転してもらったほうが、税収の面でもプラスです。東京への密集を防ぐ上でも効果があります。呉駅前のそごう跡地のようなケースでは若い人に無料に近い低額で貸し出し、企業や様々な社会活動をしてもらう、などの手があるのではないでしょうか?

思い切った住まいや教育の保障でチャレンジャー誘致を

住宅や教育を「大手企業正社員たるお父さん」を通じて保障してきたのがこれまでのモデルでした。しかし、そこから外れる人には厳しいモデルでもあります。これからは、思い切った住まいの保障や、また教育の無償化などこそ、チャレンジャーを支援することになるのではないでしょうか? 広島県内では尾道市や佐伯区湯来町あたりなどに新しいことをはじめるために東京などから移住する人も少なくありません。そうした流れを後押しする施策や立法を、県知事にも県選出の国会議員にも望みます。

災害多発と人口減少時代に対応し、新自由主義と新規開発にストップ

人口減少時代にこれ以上の新規開発は無駄です。さらに空き家や空きビルを増やすだけです。また開発された場所によっては水害や地震によるリスクが高まるだけです。2021年7月、熱海では「やりくさし(広島弁でやりかけのまま放棄の意)」の開発が災害の原因となりました。広島でも西日本大水害2018では、南区でやりくさしの開発箇所が崩れ、犠牲者が出ました。国の責任で開発規制を全国で行うべきです。

広島をはじめ瀬戸内は昔から「台風はそれてくれる」というのが常識で災害が少ないと県民の多くも思い込んでいました。しかし、いまや、梅雨や夏期は熱くて湿った空気が瀬戸内地方を直撃し、記録的な豪雨が日常茶飯事になっています。「災害が少ない」という従来の常識をベースに進めてきた広島県の新自由主義はゆきづまっています。

これまで広島県が中央いいなりで強行してきた現場公務員の削減はストップし、ふやすべきです。災害救助隊(日本版サンダーバード)の創設とそれによる国際貢献。また、地方の医療や福祉、教育や防災などをになう公務員の補充および、非正規公務員の正規化をすべきです。前知事は大阪に先んじて新自由主義を進めましたが、新自由主義は東京以外にとっては自分の首を締める行為なのです。広島県民は新自由主義を脱却する議員を国会に送るべきです。

政策議論中心の選挙や政治を

広島の選挙や政治は全国と比べても群をぬいて政策不在です。そのことが、河井事件の背景にもありました。

河井夫妻だけでなく、アンチ河井の政治家も責任は重大です。金権の河井か?組織依存のアンチ河井か?それくらいの違いで、政策不在という点では違いはありません。

対抗するべき野党も現時点では、河井批判で手一杯になりがちでジレンマを抱えています。

ガチンコの政策議論を広島でも活性化する努力を政党や政治家はもちろん、マスコミもすべきです。

社会運動・労働運動もバージョンアップを

広島は世界最初の戦争被爆地であり、反核平和運動は強い。しかし、一方で、労働運動はどうでしょうか?

たとえば、他の地域と比べても非正規の問題、ケア労働者の問題などについての取り組みは遅れているのではないか?わたくし、さとうしゅういちは、この点は責任をもって、活動を担っていきたいとおもいます。

中央・東京への過剰な信仰をやめよ

戦前の広島は軍都であり、その延長で戦後は中枢都市としてのアドバンテージをもってきました。他方で、東京から降りてきたものを真面目にやっていれば大丈夫、という思い込みにもつながっているように思えます。必死で独自のものを考えずに済んだのは恵まれていた証拠です。しかし、変化が大きな時代にはそれが災いします。中央・東京への過剰な信仰はやめましょう。

いままでの「常識」を疑おう

いままでの常識は、たとえば、「山を削って海を埋め立てたり田んぼをつぶしたりして工場や宅地にする」のが進歩です。しかし、災害多発で人口減少時代、食料の入手が困難な時代には、逆に工場が潰れて食料生産工場や農地になるということもあり得ます。いままでと正反対が常識になることも考えて政策立案を!

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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写真1枚目は「重厚長大産業が立ち並ぶ呉市沿岸部」

写真2枚目は「高校廃校で揺れる呉市焼山地区。デパートもあるのに閑散としていた。」

写真3枚目は「中国電力本店。ここで原発ゼロを訴えて街宣をした候補者はさとうしゅういちだけだった参院選広島再選挙」

前立腺癌の革命的な療法「岡本メソッド」が京都の宇治病院で再開、1年半の中断の背景に潜む大学病院の社会病理 黒薮哲哉

大学病院から追放された非凡な医師が医療現場に復活を果たした。前立腺癌治療のエキスパートとして知られる岡本圭生医師が、治療の舞台を滋賀医科大付属病院(大津市)から、宇治病院(京都市宇治市)に移して治療を再開したのだ。

この治療法は、岡本メソッドと呼ばれる小線源治療で、前立腺癌の治療で卓越した成果をあげてきた。しかし、後述する滋賀医科大病院の泌尿器科が起こしたある事件が原因で、1年7カ月にわたって治療の中断を余儀なくされていた。岡本医師が言う。

「8月から月に10件のペースで治療を再開しました。年間で120件の計画です。関東や九州、東北からもコロナ禍にもかかわらず受診される患者さんが大勢います」

名医が治療の舞台を移さなければならなかった背景になにがあったのか。

 
治療中の岡本圭生医師

◆中間リスクの前立腺癌、根治率は99%

小線源治療は、放射性物質を包み込んだカプセル状のシード線源を前立腺に埋め込んで、そこから放出される放射線でがん細胞を死滅させる治療法だ。1970年代に米国で誕生した。

その後、改良を重ねて日本でも今世紀に入るころから実施されるようになった。岡本医師は、従来の小線源治療に改良を加えて、独自の高精度治療を確立し、癌の根治を可能にした。放射線治療の国際的ガイドラインを掲載している『ジャーナル・オプ・アプライド・クリニカル・メディカル・フィイジックス』誌(Journal of Applied Clinical Medical Physics)[2021年5月](URLリンク)は、その岡本メソッドの詳細を紹介している。

前立腺癌の5年後生存率は100%と言われているが、最も標準的な治療である全摘手術の場合、再発率は予想外に高い。また合併症も克服されていない。最新のロボット機器の補助による全摘出手術を受けた場合でも、術後、高度の尿失禁で社会復帰できないことも珍しくない。生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)が大きく低下するといった課題が残されている。

岡本メソッドはこれらの問題を解決したのである。進行した癌でも、大きな副作用なく、前立腺癌を根治することに成功した。科学に裏打ちされた療法で、特に海外で評価が高い。

岡本医師が前出の医学誌『ジャーナル・オブ・コンテンポラリー・ブラキセラピー』(Journal of Contemporary Brachytherapy)[2020年1月]に発表した論文(URLリンク)によると、岡本メソッドの治療を受けた中間リスクの前立腺癌患者の手術後7年の非再発率は99.1%だった。

この論文は、2005年から2016年の期間に、岡本医師が中間リスクの前立腺がん患者397人に対して実施した小線源治療の成績を報告したものである。岡本メソッドでは、中間リスクの患者に対しては、ホルモン療法も外部照射療法も併用する必要がない。これも従来の小線源治療とは異なる治療法の革命だ。

今年の2月にも、岡本医師は同医学誌に新しい論文(URLリンク)を発表した。それは膀胱に浸潤した前立腺癌を完治させた医療記録で、世界に前例のない報告である。

最新の『メディカルレポート・アンド・ケーススタディーズ』(Medical Report and Case studies)[2021年9月]に掲載した総説論文(URLリンク)では、現在の前立腺癌治療の問題点を論理的かつ明確に指摘しつつ、中間リスク・高リスクの患者に対する岡本メソッドの利点を紹介している。そこにはリンパへ移転した「超高リスク前立腺癌」治療の論文もとりあげている。

この原著論文は2017年に『ジャーナル・オブ・コンテンポラリー・ブラキセラピー』誌に公表されたものだ。それによると被膜外浸潤や精嚢浸潤、リンパ節転移など症例を含む難治性前立腺癌の成績で、5年の非再発率は95.2%だった。

 
モルモット未遂事件を報じる朝日新聞の記事(2018年7月29日付け)

◆「術中患者が苦しみだしたら助けてくれ」

岡本医師は、宇治病院へ移籍する前は、滋賀医科大附属病院に勤務していた。2005年から2019年までの15年の間に、約1200件の小線源治療を実施している。2014年には、医薬品販売会社が岡本メソッドの実績に着目して、寄付講座の開設を求めてきた。滋賀医科大の塩田平学長もそれを歓迎して、滋賀医科大を日本における小線源治療の拠点にする方向で動きはじめた。

ところが予想もしない横やりが入った。日本で旧来からある「村社会」が大学病院にも蔓延していたのだ。岡本医師の元上司にあたる泌尿器科・河内明宏科長が、小線源治療の専門家である岡本医師を差し置き、自らしゃしゃり出て寄付講座の主導権を握ろうとしたのである。

しかし、塩田学長らの支援が得られなかった。そこで河内科長は、独自に寄付講座とは別に小線源治療の窓口を設けて、泌尿器科独自の小線源治療を計画したのだ。とはいえ小線源治療の経験はなかった。それを知らないままこの別窓口に誘導された患者は20名を超えた。

患者の中には、岡本医師を頼って滋賀医科大までやってきたのに、何を知らずに河内科長が設けた別の窓口に引きずり込まれた人もいた。

河内科長が最初の小線源治療を行うように命じたのは、部下の成田充弘准教授だった。この医師も小線源治療は未経験だった。成田准教授は、岡本医師に、

「術中患者が苦しみだしたら助けてくれ」 

と、岡本医師に要求した。

岡本医師は、塩田学長に対して患者をモルモットにした治療計画そのものを中止するように告げた。松末吉隆病院長に対しても患者に対する重大な人権侵害であるとして計画中止を進言した。

ところが、岡本医師は思わぬ報復を受ける。病院が寄付講座を2019年末で閉鎖する方向で動きはじめたのだ。泌尿器科による不正行為が公になることを恐れ、病院の幹部は、岡本医師さえ追放してしまえばそれを隠蔽できると考えたらしい。そして寄付講座を閉鎖すると宣言したのだ。治療は閉鎖の半年前に打ち切ると告知した。岡本医師は寄付講座の特任教授だったので、講座の閉鎖と共に除籍になる。大学病院を去らなければならない。

この緊急事態に対して 待機患者らが患者会の支援を受け、治療の実施期間を延長するように求めて裁判所に仮処分の申し立てた。大津市内や草津市内で200名にも及ぶ人員を動員して街宣活動も展開した。

幸いに大津地裁は、大学病院による治療妨害を禁止する命令を下した。治療の実施期間を5カ月間、延長するように命じた。しかし、それでも治療が受けられない待機患者が発生してしまった。

仮処分命令が認められた直後の待機患者、大津地裁前

◆内弁慶がはびこる日本社会の縮図

滋賀医科大の寄付講座が閉鎖された後、岡本医師の進退が注目されていたが、宇治病院へ移籍した。それから小線源治療のインフラを整え、スタッフを招聘して訓練し、岡本医師はこの8月に治療の再開にこぎつけたのである。

わたしがこの事件を取材したのは、寄付講座の最後の年、2019年に入ってからである。取材を通じて、過去に滋賀医科大病院が優秀な心臓外科医を追放したことがあるのを知った。この病院は、優秀な人材を活用できない。

その背景に前近代的な「村社会」の存在が垣間見える。内弁慶がはびこる日本社会の縮図が現れている。患者の生命がかかっていても、この体質は変わらない。

事件には始まりがあり終わりがある。そして終わりは、新たな始まりでもある。今後、岡本医師と患者会が、滋賀医科大事件の「戦後処理」をどう進めるかに注目したい。

※この事件の詳細は、『名医の追放』(緑風出版)に詳しい。http://www.ryokufu.com/isbn978-4-8461-1918-8n.html

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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10月21日(木)フジテレビ『奇跡体験! アンビリバボー』で冤罪「築地市場国賠事件」を取り上げる! 林 克明

ふだんテレビをほとんど観ない私だが、たまには強くお薦めしたい番組がある。たとえば10月21日(木)20:00~21:54に放映予定のフジテレビ『奇跡体験!アンビリバボー』だ。

スペシャル版でいくつかのテーマが取り上げられるが、そのひとつが「築地市場国賠事件」である。

2007年10月、新宿区内ですし店を経営する二本松進氏(当時59歳)が築地市場で仕入れを終えて帰ろうとしたときに築地警察書の警察官に絡まれた挙句、公務執行妨害罪で現行犯逮捕されてしまった事件を同番組で取り上げる。

 
林克明『不当逮捕 築地警察交通取締りの罠』(同時代社刊)

二本松氏が築地市場内で買い物中、妻が乗用車に乗ったまま路上で待っていた。当時の築地市場周辺の道路は、仕入れの車が並列駐車するのは当たり前で、そうしなければ仕入れ作業が成り立たないために暗黙の了解で駐停車が認められていた。

仕入れを終えて車に戻った二本松氏が乗車しやすいように、妻がエンジンをかけてハンドルを右に切って動き出そうとした瞬間、警察官が車の前に仁王立ちになり、「法定(駐車)禁止エリアだ」とひとこと言った。

これをきっかけに、警察官と言い争いになり、警察官は「暴行、暴行、暴行を受けています」と緊急通報。まもなく警察車両が複数現場に到着し、二本松氏を後ろ手にして手錠をはめ、公務執行妨害の現行犯として逮捕してしまったのである。

交通違反(偽装だが)を巡る言い争いなのだから、連れていかれるとしても本来は交通課のはずだが、連行された先は組織犯罪を扱う部署だった。ここで19日間勾留され、不起訴になった。不起訴といっても「起訴猶予処分」であり、前歴がつく。

納得しなかった二本松夫妻は国賠訴訟を起こし、東京高裁の勝利判決(確定判決)まで、事件発生から9年1か月を要したた。その一部始終を描いたのが拙著『不当逮捕 築地警察交通取締りの罠』(同時代社刊)である。

警察相手の国賠訴訟で勝利した稀な事例といえよう。

◆NHK『逆転人生』やテレビ東京『0.1%の奇跡!逆転無罪ミステリー』でも放映

実は、過去にもこの事件はテレビ番組でいくつか取り上げられた。通常、政治問題や社会問題がテレビで放映されるときに私が危惧することがある。ひとつは、オリジナルの記事や書籍が権力を批判する内容だった場合、かなり薄められる恐れがあること。二つ目には、膨大な視聴者のために「面白おかし過ぎる」構成になること。三つ目には、分かりやすさを追求するあまり、話を単純化して詳細な事実関係がうやむやになること。

もちろん、面白くて興味深く分かりやすい番組にするのは大切だとはいえ、以上の三つを心配していた。結果、この「NHK逆転人生」は、きわめて正確だったので驚いた。しかも、かなり細かく複雑な話を分かりやすい流れにし、見ていて面白かった。

翌2020年3月に放映されたテレビ東京『0.1%の奇跡!逆転無罪ミステリー』は、前者よりエンターテイメント性は高かったが、これまた実態からずれるような内容ではなく、もちろん正確であった。このような経過があるため、10月21日(木)20時から放送予定のフジテレビ『奇跡体験! アンビリバボー』にも、かすかな期待を寄せているのだ。

◆なぜ3回もテレビに取り上げられるのか

交通取締りをめぐって車の所有者が逮捕された、言ってみれば歴史上の冤罪事件にくらべれば「地味」な事件が、なぜ3度もテレビ番組の題材になるのだろうか。

まず、二本松夫妻が国賠訴訟で完全勝利していることがあげられる。判決内容では、警察官の証言はまったく認められなかった。言い換えれば、警察官の証言もその供述調書も嘘だといわんばかりの明解な認定だったのである。また、殺人事件や強盗事件など重罪だと制作側も被害者も視聴者にも「重く」のしかかる。それにくらべ交通違反(駐車禁止)にまつわる事件だから、第三者にとっては気が楽(被害者にはとっては重大)だということもある。また、ドライバーや車の所有者にとって「明日は我が身」という身近な点も重要だろう。

さらに重要なのは、この事件は「起訴猶予」という実質有罪処分を受けた冤罪被害者が国賠訴訟で勝利した戦後初の事件の可能性があることだ。ふつうは起訴か不起訴に二分される。しかし不起訴といっても、「嫌疑なし」,「嫌疑不十分」,「起訴猶予」の3種類に分類されている。二本松氏は「起訴猶予」処分だった。

「起訴猶予」とは、有罪の証明が可能でも,被疑者の境遇や犯罪の軽重などを鑑みて検察官の裁量によって不起訴とするもの。ひらたく言えば「有罪だけど、立件して裁判所にもっていうほどでもない」ということである。起訴はされなかったものの、検察段階の有罪処分にされた者が国賠訴訟に勝ったのだ。

では、明白に無罪判決が出た冤罪被害者が国賠訴訟を起こした場合はどうか。最近では今年8月27、「布川事件」の冤罪被害者・桜井昌司氏(74歳)が提起した国賠訴訟で東京高裁は原告勝利判決を下し、9月10日には確定した。

茨城県利根町布川(ふかわ)で1967年に起きた強盗殺人事件で桜井氏は無期懲役が確定し29年間収監され、再審の結果、2011年に無罪となった。2012年、その被害者たる桜井氏が冤罪の責任追及のため国と茨城県を訴えた。そのときから9年もたってようやっと国による賠償が認められたのである。

若い時に逮捕されて29年間も収監され、釈放から15年(逮捕から34年)も経った2011年に再審で無罪確定。その翌年に国賠訴訟を起こして9年。事件発生から実に54年間を擁して国家賠償が確定した。

無罪判決が確定した冤罪被害者の国賠訴訟がこのありさまだった。それに比べ二本松氏の場合、起訴猶予という実質有罪処分で国家賠償請求訴訟(訴訟提起から7年)に勝利したのはめずらしい。

そんなことを思い浮かべながら、10月21日(木)フジテレビ『奇跡体験! アンビリバボー』を観ていただければと思う。

▼林 克明(はやし まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

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LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ〈2〉 森 奈津子

2018年7月27日19時、怒りに燃えた5千人の群衆が、永田町の自民党本部前に集結した。

ただし、5千人というのはあくまでも主催者発表であり、実際に現場に見物に行ったあるゲイは、証言した。

「あんな狭いスペースに5千人も集まれるわけないじゃない! 千人もいなかったわよ。せいぜい数百人がいいところね」

――主催者発表、ずいぶんと人数を盛ったものである。

事の発端は、自民党の杉田水脈衆議院議員が雑誌「新潮45」8月号(7月18日発売)に寄稿した論考「『LGBT』支援の度が過ぎる」で、同性愛者を「生産性がない」と表現したことだった。それに憤った人々が、抗議のために自民党本部前に集まったのだ。

しかし、それだけでは、あんな騒ぎにはならなかったはずだ。

当時、「新潮45」の実売数は1万部前後であったと聞く。なのに、抗議デモに5千人(主催者発表)も集まるか?

デモに参加した方たちに問いたい! あなたたちの中に、過去に「新潮45」を一度でも購入したことがある人は、一体、何人いる? 自慢ではないが、私は一度もない!……すみません。

これは、ほとんど世間では知られてはいないことだが、実は立憲民主党のレズビアン衆議院議員・尾辻かな子氏がツイッターで煽ったのが、あの騒ぎの直接の原因だったのである。

ツイートの文面は次の通り。

杉田水脈自民党衆議院議員の雑誌「新潮45」への記事。LGBTのカップルは生産性がないので税金を投入することの是非があると。LGBTも納税者であることは指摘しておきたい。当たり前のことだが、すべての人は生きていること、その事自体に価値がある。

実はかなり意図的な要約である尾辻かな子氏のツイート

まーた、立憲民主党かーいっ!

しばき隊/ANTIFA/カウンター界隈主催のデモやイベントに参加した過去がある有田芳生参議院議員、石川大我参議院議員、ひわき岳杉並区議らが所属する、立憲民主党である。

有田先生、レイシストをしぱきたい方々とパチリ
デモに参加する石川大我氏の背後にはANTIFAの旗
誇らしげにANTIFAデモ参加動画をツイートするひわき岳氏
親しい運動仲間であることがうかがえる平野氏と野間氏のやりとり

そして、尾辻議員のツイートに続き、しばき隊の母体である反原発団体・首都圏反原発連合(反原連)のゲイ活動家・平野太一氏と、C.R.A.C.(旧レイシストをしばき隊)代表の野間易通氏が、ツイッターで次のようなやりとりをしていたこともまた、世間ではほとんど知られていない。

野間氏「TRP方面の人さそってデモもやらない? 杉田名指しの」

平野氏「どんどんやりましょう!」

TRPとは、連載第1回でも言及した日本最大のLGBTイベント・東京レインボープライド(TOKYO RAINBOW PRIDE)の略称だ。

ここ2年は新型コロナ流行の影響で、オンラインでの開催だったが、2019年には、パレード参加者が初めて1万人を超え、2日間のイベントの総動員数は約20万人にもなった。

平野氏は「しばきマインド」がギュッと濃縮された次のような暴言ツイートでデモを呼びかけた。

「主催はないデモ」を呼びかける平野太一氏

「差別しか能のないゴミ議員を俺らの税金で食わすな。議員辞職しろと自民党本部に抗議しましょう。」

「27日(金)19時~自民党本部前。」

「各々でお好きに広めちゃってください。」

「主催はないので #0727杉田水脈の議員辞職を求める自民党本部前抗議 とかまあなんとかそんな感じで適当に広めてください。」

え? 「主催はない」?

後に「主催者発表で5千人」と報道されたデモなのに、主催はない?

小学生でも理解できる矛盾ではありませんか?

中学生ぐらいになれば「あんたがデモを呼びかけてるのに、なんで当のあんたが『主催はない』なんて言ってるの?」ぐらいのツッコミは入れられるだろう。

うーん……。デモを呼びかける一方で「主催はない」と自ら断言――これって、「抗議のために市民が自発的に集まった」という体裁にしたいからですよね? ぶっちゃけ、無責任すぎやしませんか?

だいたい、このデモ、許可申請書を警察に提出しているのですか? 提出しているのなら、平野さん、あなたが主催ですよね?

反対に、届け出をしてないのに警察にお目こぼしされているのなら、それ、以前から一部の良心的左翼が指摘してきたように、しばき隊界隈が実は体制側とつながっている証左ではないのですか? どうなのですか?

それに「差別しか能のないゴミ議員を俺らの税金で食わすな」ですって?

お下品ですこと!

こんなツイートを見たら、普通の感覚なら「このデモ、やべぇやつだ!」と気づくというものです。

しかし、東京レインボープライド公式アカウントは次のようなツイートでデモを呼びかけたのである。

しばき隊との共闘を呼びかける東京レインボープライド(TRP)

杉田水脈衆議院議員(自民党)が『新潮45』に寄稿した論考「『LGBT』支援の度が過ぎる」に対し、7月27日に自民党本部前で実施される抗議活動に連帯し、東京レインボープライドも参加します。共に抗議の声をあげましょう。#0727杉田水脈の議員辞職を求める自民党本部前抗議

……アホなの? 

ねえ、LGBT活動家って、アホなの?

そして、そんなにしばき隊が好きなの? 

もう、なにがあっても離れられないの?

そのデモ、明らかに地雷だよね? わからないの?

まあ、地雷というものは、わからないから踏んでしまうものではあるが。

ちなみに、その地雷、デモの真っ最中には爆発しなかった。

しかし、後に、しばき隊界隈活動家とLGBT活動家の足元でバンバン爆発することになる。

そのデモは、いわゆる「黒歴史」と化したのであった。(つづく)

◎[過去記事リンク]LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ
〈1〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40264
〈2〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40475
〈3〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40621
〈4〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40755
〈5〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40896
〈6〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44619
〈7〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=45895
〈8〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=45957
〈9〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46210
〈10〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46259
〈11=最終回〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46274

 

▼森奈津子(もり・なつこ)

作家。立教大学法学部卒。90年代半ばよりバイセクシュアルであることを公言し、同性愛をテーマにSFや官能小説、ファンタジー、ホラーを執筆。『西城秀樹のおかげです』『からくりアンモラル』で日本SF大賞にノミネート。他に『姫百合たちの放課後』『耽美なわしら』『先輩と私』『スーパー乙女大戦』『夢見るレンタル・ドール』等の著書がある。
◎ツイッターID: @MORI_Natsuko https://twitter.com/MORI_Natsuko

◎LGBTの運動にも深く関わり、今では「日本のANTIFA」とも呼ばれるしばき隊/カウンター界隈について、LGBT当事者の私が語った記事(全6回)です。
今まさに!「しばき隊」から集中攻撃を受けている作家、森奈津子さんインタビュー

《関連過去記事カテゴリー》
森奈津子「LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ」

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『暴力・暴言型社会運動の終焉』