わかりやすい!科学の最前線〈04〉DNAがもたらす光と影[2]安江 博

サイト(2-6)は日本医療研究開発機構の報告です。いつものようにかなり専門的ではありますが、要するに、日本人21万人のゲノム解析により決定された、疾患発症に関わる遺伝的変異についての報告です。簡単にいえばゲノムと病気発症の相関関係を調べたということです。その結果、虚血性心疾患に関連する ATG16L2、肺がんに関連する POT1、ケロイドに関連する PHLDA3などの多くの疾患に関わる遺伝子が同定されました。その結果、多くの病気のなりたちが明らかになり、治療薬の開発、発症の予防、場合よっては遺伝子治療へと繋がっていくことが期待されています。

具体例を紹介します。BRCA1、BRCA2遺伝子は、それらが産生するタンパク質に、傷ついたDNAを修復する働きがあり、細胞の遺伝物質の安定性を確保する役割があります。すなわち、細胞のがん化抑制遺伝子です。この遺伝子が欠損していると、DNAの二本鎖切断の修復を十分に行えません。その結果、異常な配列が生じる可能性があり、がんになりやすいことが判りました。

遺伝子検査で、がん抑制遺伝子のBRCA1とBRCA2のどちらか、もしくは両方に変異が見つかった方で、血縁者に乳がんや婦人科がんになった方がいる場合、且つ乳がん検診で、いつも再検査を勧められる方ないしは、すでに一方の乳房が乳がんになった方に対しては、乳がんが発生していなくても、予防的乳房切除術が健康保険の適応の対象となりました。遺伝子科学の進歩により、上記の条件に該当する場合は、乳房にがんが認められなくとも発病可能性が極めて高いことから、このような予防的施術が保険適用されるに至ったわけです。

がん細胞には増殖の過程で、正常細胞と比較しても、より多くのDNAの損傷が生まれます。そして、多くは増殖を続けることが出来なくなり死滅します。しかし、がん細胞の一部は、さらに、間違った修復を受け悪性化していきます。がんが発症した方の中で、BRCA1/2遺伝子に欠損のある方は、BRCA1/2遺伝子による修復は出来ませんが、残されている別のシステムであるPARP(poly ADP-ribose polymerase)が働いて修復が行われてしまい、がん細胞が増殖してしまいます。 そこで、このPARPの阻害剤の一つであるオラパリブ(商品名:リムパーザ)を用いて、がん細胞のDNA修復を完全に阻止し、がん細胞を死滅させる方法が保険適用になり、がんの治療に使われています。オラバリブのように、病気の原因となっているタンパク質など、特定の分子にだけ作用するように設計された治療薬のことを「分子標的薬」と呼び、今日様々な新薬が続々と開発されています。分子標的薬がたんぱく質異常など病気の原因に合致すると、目覚ましい効果を上げることはよく知られています。このように、ゲノム解析は徐々にですが、人々の生活や医学に貢献してきています。

今ここまでに、述べました例は、沢山の方のゲノム解析をして、疾患に関わる遺伝子を特定して、その成果を利用しているものです。

つぎに最近のゲノム解析技術で、こんなことが出来るという例を紹介しましょう。前回、光と影(1)で、一卵性双生児でも、ゲノム配列が違うということを述べましたが、その違いは、任意の二人(他人)を比べた場合と異なり、極めて少ないものです。少ない違いでも正確に、デジタル技術を使って見つけることが重要です。そこで、我々は、そうした違いを見つけるためのプログラム(PED)を開発し論文として発表しました(文献2-7)。私が所長をつとめるつくば遺伝子研究所では、ある方から、「がん組織でゲノムDNA配列がどのように変異しているかを調べてほしい」と依頼を受けました。そこで、送付されたがん組織と対応する正常組織からDNAを抽出し、試料あたり、ヒトゲノム配列の50倍に相当する1500億塩基配列の分析結果を得ました。そして、正常組織の1500億塩基配列とがん組織の1500億塩基配列の相動性をPEDで解析しました。解析量が膨大であるため、オンボードメモリを768ギガ(市販のパソコンでは多くて16ギガ)搭載し、大容量記憶媒体のSSDを搭載したパソコンをつくば遺伝子研究所で自作しこれを用いました(つくば遺伝子研究所ではこのようにパソコンや検査機器も可能な限り自作し、それでありながら世界最先端の研究を実践しています)。この解析の結果、DNAポリメラーゼの遺伝子配列に変異が起こっていることが判りました。私は医者ではありませんので原因を特定しても、即座にその治療法を見つけることができるわけではありません。しかしこのように遺伝子配列に異変が起こっていることが判明すれば、医療界ではそれに対する治療法を検討することが可能でしょう。

今までは、ゲノム配列解析の進展とそれがヒトにどのように関わってきているかを概観してきましたが、これからのコラムでは、ヒト以外の生物種に対してどのように使われているかを紹介したいと思います。地球上でヒトの生存圏が構築されていますが、他の生物種でも同様に、それぞれの種でその生存圏が構築されています。その生存圏が交わるところで、共生があったり、問題(戦い)があったりします。それらについて、DNAの視点から興味深い観察と解析を行った例をご紹介します。具体的には、我々の住んでいるところに、クマ、イノシシなどが出没するといった事例です。

【文献】

2-5 Sequencing and analysis of Neanderthal genomic DNA James P Noonan 1, Graham Coop, Sridhar Kudaravalli, Doug Smith, Johannes Krause, Joe Alessi, Feng Chen, Darren Platt, Svante Paabo, Jonathan K Pritchard, Edward M Rubin Science. 2006 Nov 17;314(5802):1113-8.

2-6 https://www.amed.go.jp/news/release_20200609.html

2-7 Polymorphic edge detection (PED): two efficient methods of polymorphism detection from next-generation sequencing data. Akio Miyao 1, Jianyu Song Kiyomiya 2, Keiko Iida 2, Koji Doi 3, Hiroshi Yasue BMC Bioinformatics. 2019 Jun 28;20(1):362.

◎安江 博 わかりやすい!科学の最前線
〈01〉生き物の根幹にある核酸
〈02〉ヒトのゲノム解析分析の進歩
〈03〉DNAがもたらす光と影[1]
〈04〉DNAがもたらす光と影[2]
◎[過去稿リンク]わかりやすい!科学の最前線 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=112

▼安江 博(やすえ・ひろし)
1949年、大阪生まれ。大阪大学理学研究科博士課程修了(理学博士)。農林水産省・厚生労働省に技官として勤務、愛知県がんセンター主任研究員、農業生物資源研究所、成育医療センターへ出向。フランス(パリINRA)米国(ミネソタ州立大)駐在。筑波大学(農林学系)助教授、同大学(医療系一消化器外科)非常勤講師等を経て、現在(株)つくば遺伝子研究所所長。著書に『一流の前立腺がん患者になれ! 最適な治療を受けるために』(鹿砦社)等

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最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年3月号

今年こそ、分断修復へガツンと賃上げ! 野党・労組は総理に後れを取るな!  さとうしゅういち

筆者の自宅のある広島1区選出の岸田総理は年頭記者会見で「異次元の少子化対策」と並び「賃上げ」に意欲を示しました。一方で、厚生労働省によると2022年11月の実質賃金は前年同月比で3.8%減少でした。物価の大幅上昇に賃金が追い付いていません。これまで、特に2010年代くらいまでは賃金が上がらなくても、物価が上がらないデフレだったためになんとかなった人も、これではたまりません。例えば、20万円給料があった人が実質的に7600円も減ったら、大変です。賃金の大幅引き上げは必須です。

◆「実質賃金大幅減が成果」の総理の「賃上げ」、信用できぬ

総理の言葉に対して突っ込みたいこともたくさんあります。総理は確かに昨年、例えば介護労働者の給料アップを実行はしました。だが、その中身たるやたったの3%です。このところの物価上昇でそれは打ち消されています。他業種がインフレ手当を出すなどの中で、「人員確保効果」は全くと言っていいほど期待できません。
それどころか、筆者の勤務先でも、外国人労働者が広島から東京の介護施設へ流出しています。

また、カナダや豪州へ日本人が流出していることも2022年末は報道されました。

そもそも、総理の就任時の公約は賃金アップによる経済底上げです。そして「所得倍増」のはずでした。それがいつの間にか「資産所得倍増」になり、さらには「アメリカの武器会社の所得(?)倍増」に変質しています。

「去年、公約を実現できなかった男」が、今年またやります、と張り切っても素直に「はい、そうですか」とは言えません。

 
グラフ、筆者が所属する労働組合・広島県労連の2023新春街宣で配布したティッシュより

◆総理に先行されてしまう労働組合も情けない

しかしながら、総理にいわばメインの公約として「賃上げ」を言わせてしまう労働組合側も情けないものがあります。労働組合の役員の一人として、忸怩たる思いです。

人々の暮らしを守るための財政出動(福祉や教育の充実、公共投資、税や社会保険料負担軽減など)は政府=総理のメインの仕事です。しかし、賃上げそのものは基本的には労使交渉で決めるのが筋というものです。労働者はストを背景に闘うわけです。例えば、イギリスでは看護師でさえも史上初のストライキを行っています。翻って日本。地元の広島でも最大手のマツダの労働組合は、ベースアップは断念したという。最初から要求もしないでどうするのでしょうか?

日本の場合は自民党政治が、非正規労働を増やす政策を取り続けたこと、そして労働組合が自民党側の工作で力をそがれたこともあって、ここ20-30年、いわゆる失敗国家以外では唯一と言っていいほど、賃金が上がらない国に日本はなってしまいました。

こうしたことを背景に、安倍政権時代も含めてここ数年、自民党の総理が賃上げを「主唱」する構造になっています。

現在の日本は(労使交渉以外の)政治的な力が加わって労働者の給料が抑え込まれてきた時代が長かった以上、逆に政治的な力も借りて是正するのは「あり」だと考えます。

◆野党側も「労働者」の視点が不足した21世紀

これまで労働者の賃金が上がって来なかった背景として指摘したいのが、ここ20-30年の野党が、「市民」という視点は強くても「労働者」という視点が弱くなっていたことです。こうしたことを背景に「市民」のためのサービスは、子育てを中心に大昔に比べればそうはいっても充実してきました。しかし、その内実は、賃金の低い労働者に支えられております。非正規公務員。そして、介護などケア労働者。制度の運営の原理も介護保険にせよ、保育にせよ、昔に比べて市場原理主義です。そうなると当然、労働者の賃金も低く抑え込まれます。公務分野の賃金が低いことは、民間にも波及していきます。

大資本の政治部隊である自民党がこうした労働者の使い捨て、市場原理主義を進めてきたのは当然です。だが、野党も日本共産党など一部をのぞいてあまりにもこれらの問題に無頓着すぎました。各自治体での保育園はじめとするサービスの民営化条例などは、共産党などを除く多数で可決されてきたし、野党系と言われる首長のもとでさえも進められてきたのも歴史的事実です。

◆子ども支援など一定の前進も緊縮が敗着〈旧民主党政権〉

なお、リーマンショック以降くらいの野党(民主、社民は一時期与党だった時期もありますが)は、セーフティーネット充実に重点を置いていました。これ自体は間違いではありません。

昭和後期の日本ではセーフティ-ネットが家族主義であり、企業主義であったのは事実です。具体的には正社員であるお父さんがいる夫婦二人子ども二人の家庭が社会保障や教育などの仕組みを設計する上でのモデルとなっていました。そのモデルから外れた場合に非常に悲惨なことになりかねない欠点がありました。

それは、我々就職氷河期を中心に非正規労働者が増えてきた中でリーマンショックが襲ってきた2008-2009年ごろになってようやく大きく注目されるようになりました。

あの局面では、ひとまず、セーフティーネットを個人に適用していく方向に変えていく。そのことは絶対に必要だったし、筆者自身もそういう思いで、反貧困などの活動に参加していたのを記憶しています。一定程度の成果があったのも事実です。安倍総理、岸田総理がポーズではありますが、昔の自民党なら全く相手にしなかっただろう学費負担軽減に乗り出したのも、厚労省がコロナを受けて生活保護を受けやすくしたのも、民主党政権時の取り組みの延長線上にあったとは言えます。

他方で、民主党政権は痛恨の敗着をやってしまいました。2011年の東日本大震災の復興財源を増税とともに公務員給料カットでねん出したことです。公務員給料カットは与党だった民主党への反感を強め、民主党政権の崩壊を早めました。また、震災復興を理由に、民主党は介護労働者待遇改善を自民党以上にはしませんでした。そもそも、震災復興は設備投資と一緒だから、全額国債ないしお金を刷る、でよかったのです。これらの民主党の政策の結果、労働者全体の賃金も抑え込まれ、安倍晋三さん再登場の遠因になってしまいました。

◆政治的に困難な「賃上げなきセーフティーネット充実」

労働者の給料が異常に低すぎる状態のままでは、これ以上のセーフティーネット充実が難しいと感じています。 

第一に、現物給付のセーフティーネットを担う公務労働者の給料が低すぎれば担い手が確保できなくなるからです。 例えば、筆者が知るいわゆる左派系の活動家でもある公務労働者でさえも、生活保護者をうらやんでしまう方もおられます。その方も伺えば、非正規で低賃金です。「これはダメだ、と絶望して辞めていく人も多い」(広島県北部の市議)状態です。

第二に、人々の賃金が低すぎると、分断が広がるということが挙げられます。例えば低賃金で結婚も難しかった筆者の同世代の就職氷河期世代の中には、「最近は子どもへの支援ばかり優先されている」という不満の声も多くあります。また、いわゆる少子化対策(子どもへの支援は必要だが、少子化解消そのものを政策目標にすべきかどうかという議論は別途あります。) とやらが、万が一成功しても、成人後の賃金がこんなにひどいと、生まれた子どもも将来に希望が持てないでしょう。

◆賃上げなくして年金アップなし

なお、世論調査などで、年配者が一部野党の支持層には多いという指摘もあります。また実際に、野党支持者で、賃上げがインフレ加速、年金生活者の生活圧迫になることを危惧される方も筆者は存じています。

しかし、実際問題、仕組み上、賃金が上がらないと年金も上がりません。生活保護基準についても同様です。各野党もそこはきちんと支持者を説得していただきたいのです。

そうしないと、高齢者や生活保護受給者を攻撃して、現役世代に溜飲を下げてもらう傾向の強い「維新」に足をすくわれかねません。年金や生活保護を引き下げて低すぎる賃金に合わせるようなイメージを醸し出し、現役世代に溜飲を下げてもらう「維新」に対して野党(れいわ、共産、社民など。立憲は最近怪しいが)は「低すぎる賃金を上げる」方向で徹底的に闘うべきです。

◆総理との差別化は「賃上げへの熱心さ」で

また、岸田総理が賃上げを打ち出す中で、立憲や共産など既存野党は選択的夫婦別姓や同性婚などいわゆるジェンダー問題に訴えの力点が行き過ぎているように思えます。もちろん、筆者もそれらを軽視するわけではありません。筆者自身も戸籍上は妻の姓にしており、結婚時には様々な不便も感じました。

ただし、少なくとも筆者の同僚の女性労働者にとっても賃上げの方が切実な関心事項のようです。選択的夫婦別姓推進を訴えたからといって、彼女らの野党への支持が高まるとは思えません。

野党は与党・総理との差別化を打ち出そうというのはわかります。それならば、賃上げを「口先だけ」でも出してきた岸田総理に対して、昨年2022年も彼がやるといっておきながら十分にやらなかったことをきちんと指摘。「野党側こそ賃上げに熱心である」ということで差別化すべきです。

◆「労働貴族」は大問題だが「労働運動」は今こそ必要

かつて、野党が労働組合に選挙運動を依存しすぎてきたことは各野党の独自の足腰を弱めました。特に広島の場合は、武器や原発製造の大手企業の労働組合に旧民主党系が依存してきたために、自民党との政策の違いが中央におけるそれよりも分かりにくくなっています。また、労働組合の推薦を得ながら公務労働者の賃下げに賛成するなど、労働者の票を食い逃げしてきたいわゆる「労働貴族」系政治家の問題もあります。

こうしたことを背景に、「労働貴族」(系政治家)を嫌う勢い余って、「労働運動」ひいては「労働者の権利」そのものも軽視する方も少なくない。お気持ちはわからなくはないが、そこは踏みとどまりたいところです。

◆「現役労働者」政治家として他野党にも奮起を促す

 
筆者の政治活動ポスター

筆者は、今後とも、特に地方、それも広島の賃金引き上げを軸に労働運動、政治活動両面で注力します。現役労働者でもある筆者が労働者の賃金大幅アップに注力することで、他の野党政治家も危機感を持って取り組んでいただければ、広島での野党の伸びにつながるでしょう。ひいては武器倍増やそのための増税などで暴走する地元選出の総理の暴走にブレーキをかける一助になると期待しています。

◎筆者の政治活動へのカンパ先
郵便振替口座 01330-0-49219 さとうしゅういちネット
広島銀行本店(店番001) 普通 口座番号3783741 さとうしゅういちネット

ただし、ご寄付頂けるのは日本国籍の方、そして一人年間150万円以下に制限されます。また、
・年間5万円を超えてご寄付頂いた方
・筆者への寄附による所得税の控除を受けられたい方については、法の定めるところにより、政治資金収支報告書等で筆者からご住所・ご氏名・ご職業を広島県選挙管理委員会に報告させていただきます。何卒ご了承ください。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年3月号

毎日新聞網干大津勝浦店の事件、担当員の個人口座に新たに485万円の「裏金」振込が判明、総額で900万円に、背景に深刻な「押し紙」問題 黒薮哲哉

この記事は、毎日新聞・網干大津勝浦店の元販売店主が販売局員の個人口座に金を入金した事件の続報である。1月25日付けのデジタル鹿砦社通信で筆者は、『毎日新聞販売店、元店主が内部告発、「担当員の個人口座へ入金を命じられた」、総額420万円、エスカレートする優越的地位の濫用』と題する記事(以下「第1稿」と記す)を掲載した。

タイトルが示すように元販売店主が、「押し紙」を含む新聞の卸代金を販売局員の個人口座に入金するように命じられたとする内容である。元販売店主による内部告発だ。

「押し紙」の回収風景。本稿とは関係ありません。

これに対して毎日新聞東京本社の社長室は、筆者がコメントを求めたのに対して、「調査中であり、社内で適切に対応していきます」と回答した。

その後、筆者は不透明な入金を裏付ける別のデータを入手した。と、いうよりも筆者が、第1稿を公表した際に見落としていたデータがあったのだ。本稿では、新たに分かった店主による入金の年月日と入金額を補足しておこう。

金銭の振り込みを命じた毎日新聞社の人物は、第1稿で言及したのと同じ山田幸雄(仮名)担当員である。既に述べたように筆者は、1月5日に現在は毎日新聞・東京本社に在籍している山田担当に対して電話で、次の3点を確認した。

①電話の相手が、毎日新聞社販売局に所属している山田幸雄氏であること。

②山田氏が大阪本社に在籍した時代に、網干大津勝原店を担当した時期があること。

③網干大津勝浦店の元店主(内部告発者)に面識があること。

◆支払いの年月日と金額

新たに分かった金の振り込み年月日と金額は次の通りである。

※資料との整合性を優先して、日付けは例外的に元号で表記する。読者の混乱を避けるために西洋歴も()に記した。

・平成30年12月03日:900,000円(2018年)
・平成31年01月04日:800.000円(2019年)
・平成31年02月04日:800,000円(2019年)
・平成31年03月05日:1,453,090円(2019年)
(以上の裏付けは、西兵庫信用金庫の預金通帳等による)

・令和02年02月05日:895,382円(2020年)
(以上の裏付けは、西兵庫信用金庫の取扱票等による)

今回、明らかになった山田担当への入金額は、約485万円である。前回の記事で紹介した額の総計は、約420万円だった。現時点で判明しているだけでも、約900万円のグレーな資金が発生したことになる。

本稿で紹介した5件のケースでは、金が振り込まれた時期がいずれも月の初旬になっていることに着目してほしい。販売店が前月の新聞代金の集金を完了する時期と重なる。読者から店主が集金した購読料を、山田担当の個人口座に振り込んだ構図になる。

当時、元店主は深刻な「押し紙」で苦しんでおり、担当員から「自分の口座に金を振り込めば、便宜を図る」という意味のことを言われたと話している。つまり新聞代金の一部を個人口座に振り込めば、「押し紙」を含む新聞代金の支払いを免除すると言うニュアンスである。店主が不透明な金を振り込んだ動機と、店主が直面していた「押し紙」問題が整合している。

◆Twitter上で「担当員が納金立て替えて」

ネット上では、この問題に関するTwitterによる投稿も現れた。たとえば、「元店主」というアカウント名の次の投稿である。

面白いなぁ。
担当員が納金立て替えてて、その返済の可能性は? 最後の方、金額が2万とか5万とかしょぼくなってるのは返済に窮していく感じするけど。続報楽しみ。

この問題に関する「元店主」というアカウント名によるTwitter投稿

「裏金」の目的は、店主の説明によると、「押し紙」を軽減してもらうためであり、Twitterの「元店主」の推論は、「押し紙」代金を払うための担当員への借金の返済である。

一方、山田担当は、この件について「記憶にない」と話している。(1月5日の電話)。

しかし、元店主が西兵庫信用金庫の口座から、「やまだゆきお」名義の口座に多額の資金を振り込み続けた記録があり、金銭が移動したこと自体は公式の書面上では紛れない事実である。筆者は、さらに取材を進める。(つづく)

「押し紙」の回収風景。本稿とは関係ありません。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)
月刊『紙の爆弾』2023年3月号

「言論」論〈05〉「無罪推定の原則」を無視した報道でこそ守られる被疑者・被告人の人権 片岡 健

被疑者や被告人は裁判で有罪が確定するまで無罪として扱わないといけないという「無罪推定の原則」については、人権問題の「有識者」たちは絶対的に遵守すべきものであるように言いがちだ。しかし実際には、むしろ被疑者・被告人の人権を守るために「無罪推定の原則」を無視すべきケースが少なくない。それは私がこれまで事件関係の取材や執筆を行ってきた経験上、断言できることである。

たとえば、冤罪事件に関する報道では、捜査官による証拠捏造や取り調べ中の暴力を告発しなければならない場合がある。これは、捜査の過程で犯罪を行った捜査官が裁判を受けてすらいないのに、有罪扱いすることに他ならない。

さらに冤罪報道では、検察側の証人や被害者とされている人物について、偽証や虚偽告訴の疑いを指摘せざるえない場合も少なくない。これも私人を有罪扱いした報道だと言える。

また、冤罪の疑いはまったくなくとも、罪を犯した経緯に同情すべき余地がある被疑者・被告人は少なくない。歴史的に有名な事件から1つ例を挙げると、刑法から「尊属殺人罪」がなくすきっかけになった1968年の「栃木実父殺害事件」がそうだ。

この事件の犯人の女性が実父を殺害した背景には、少女時代から実父の近親相姦により5人の子供を出産し、大人になっても実父から暴力により夫婦同然の強いられていたという事情があったとされる。そのような同情すべき特段の事情を社会に伝えるためには、前提としてこの女性が実父を殺した容疑について有罪扱いすることが不可欠だ。

実際、女性は最高裁で執行猶予付きの有罪判決(懲役2年6月)を受けて確定したが、裁判中から女性を有罪扱いしたうえで、実父を殺害した同情すべき事情が報じられていた。このような報道について、「無罪推定の原則」に反していることを理由に批判する人はあまりいないだろう。

さらに最近の事例でいえば、安部晋三元首相を銃殺した山上徹也被告も裁判前から有罪扱いされたことにより人権が守られているケースだと言える。山上被告は重大事件の犯人としては、かつてないほど多くの人に同情され、一部で減刑を求める運動まで行われているが、これもひとえに山上被告を有罪扱いし、統一教会により人生をボロボロにされたことが犯行動機であることを伝えた報道の影響だからだ。

このケースでメディアが「無罪推定の原則」を遵守していたら、山上被告が犯行に至った経緯に統一教会の問題があることには当然触れられないから、今のように山上被告への同情が巻き起こることはなかったろう。
         
※著者のメールアドレスはkataken@able.ocn.ne.jpです。本記事に異論・反論がある方は著者まで直接ご連絡ください。

◎片岡健の「言論」論 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=111

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。YouTubeで『片岡健のチャンネル』を配信中。

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年3月号

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

ピョンヤンから感じる時代の風〈15〉「日本に中距離弾、米見送り」=日本を代理“核”戦争国に 若林盛亮

◆森本敏・元防衛大臣の「予言」的中

昨年、12月16日、「安保3文書」閣議決定の夜の番組「プライムニュース」(フジ系)に出演した森本敏・元防衛大臣はこう断言した。

「米国が中距離ミサイルを日本に配備することはほぼありえない」

その約1ヶ月後の今年、1月23日の新聞は大見出しにこう伝えた。

「日本に中距離弾、米見送り」(読売朝刊)と。

その記事はこう続く。

「米政府が日本列島からフィリッピンにつながる“第一列島線”上への配備を計画している地上発射型中距離ミサイルについて、在日米軍への配備を見送る方針を固めたことが分かった」

森本氏の「予言」はまさに的中したが、これが意味することは、日本にとってまことに危険なものだ。この番組で森本氏は出演前日に「米国大使館でインド太平洋軍の陸軍司令官に会った」ことを明らかにしているが、彼の「予言」は米大使館でのインド太平洋軍司令官の意向を反映したものであろうことは容易に想像できる。

「日本に中距離弾、米見送り」に隠された米国の真意図は何なのか? このことについて真剣に考えてみる必要があると思う。

[左]1月23日付け読売新聞の記事見出し「日本に中距離弾、米見送り」/[右]「安保3文書」閣議決定夜のプライムニュースに出演中の森本敏・元防衛大臣

◆米軍の肩代わり部隊、「陸自にスタンドオフミサイル部隊の新設」

「日本に中距離弾、米見送り」、その理由はこうなっている。

「日本が“反撃能力”導入で長射程ミサイルを保有すれば、中国の中距離ミサイルに対する抑止力は強化されるため不要と判断した」と。

「安保3文書」で「反撃能力の保有」を決めた日本が米軍の肩代わりをしてくれるなら「在日米軍への中距離ミサイル配備は不要」ということを米国は言っているのだ。

「安保3文書」では「反撃能力保有」の具体化として「陸自にスタンドオフ(長射程)ミサイル部隊の新設」を決めた。「日本に中距離弾、米見送り」決定後は、この陸上自衛隊の新設部隊が「中国の中距離ミサイルに対する抑止力」として米軍の肩代わりをする役目を帯びることになるということだ。

 なんのことはない、「日本に中距離弾、米見送り」の真意は米軍に代わって自衛隊が対中ミサイル攻撃をやれ! ということだ。

◆さらに「厳しい宿題が待っている」日本

森本氏は同番組の最後にこう述べた。

「来年以降、(日本には)厳しい宿題が待っている」

その「厳しい宿題」とは何か?

これと関連して、河野克俊・自衛隊前統合幕僚長の発言がある。

昨年、バイデン訪日時の日米首脳会談で米国が日本への核による「拡大抑止」提供を保証したが、この時、河野克俊・前統合幕僚長は「米国から核抑止100%の保証を得るべき」だが、「それはただですみませんよ」と日本の見返り措置、その内容を示した。

「いずれ核弾頭搭載可能な中距離ミサイル配備を米国は求めてくる、これを受け入れることです」と。

この河野発言からすれば、対中・中距離ミサイル攻撃を自衛隊が米軍の肩代わりすることになった以上、次なる「米国の求め」が陸自のスタンドオフミサイル部隊のミサイルを「核搭載可能」なものにすべきという結論になるのは明確だ。

「安保3文書」実行の日本に待ち受ける「厳しい宿題」、それは自衛隊のスタンドオフミサイル部隊が対中「“核”ミサイル部隊」になることに他ならない。

“核”について言えば、安倍元首相の提唱したNATO並みに「米国の核共有」が実現すれば、自衛隊ミサイルへの「核搭載」は可能になる。それが米国の要求である以上、この実現にはなんの問題もないだろう。この実現で問題は日本側にある。

「核搭載」については「安保3文書」には書かれなかった、いや書けなかったものだ。日本の国是は非核であり、その具現である「非核三原則」に照らせば「核搭載」ミサイル保有は国是に反するからだ。これを可能にするためには非核の国是の変更、少なくとも「核持ち込みを容認する」ことが必須条件だ。

だがこれは非核を国是とする日本国民感情への挑戦となる、だから「厳しい宿題」と米国も見ている。

だがこの「厳しい宿題」解決のためにすでにこんな議論が今後の課題として打ち出されている。

兼原信克・同志社大学特別客員教授(元内閣官房副長官補、元国家安全保障局次長)は「被爆国として非核の国是を守ることが大事なのか、それとも国民の生命を守ることが大事なのか、国民が真剣に議論すべき時に来た」との二者択一論で国民に覚悟を迫った。

今後、日本政府に待ち受ける「厳しい宿題」はこの兼原氏の迫る二者択一を国民に迫ること、非核の国是の放棄、非核三原則の見直し、少なくとも「核持ち込みの容認」の選択を国民に迫ることになることはほぼ間違いない。

◆「米国の代理“核”戦争国化」という「新しい戦前」

米軍を肩代わりする自衛隊の中距離ミサイル部隊が「核搭載」実現で米軍の代理“核”戦争部隊になる。それは日本が米国の代理“核”戦争国になるということだ。これこそが米中対決の最前線を担うことを「同盟義務」としてわが国に強要する米国の核心的要求だと見て間違いはないだろう。

「日本に中距離弾、米見送り」、これを肩代わりする陸自スタンドオフミサイル部隊新設も決まった、残る「宿題」は自衛隊ミサイルへの「核搭載」を可能にすること、日本が非核の国是を放棄することだけとなった。

いま「新しい戦前」が言われるようになっている。今日の「新しい戦前」の特徴は、上記のように「代理“核”戦争国となる戦前」という点にある。かつての「戦前」とはまったく様相を異にする「新しい戦前」であること、ここに注目すべきだと思う。

それは米国も岸田政権も「厳しい宿題」と認識している「戦前」であり、逆に言えば日本国民が簡単には受け入れないであろう「戦前」だということでもある。いまは一方的に既定事実を押しつけられているのが不甲斐ない現実ではあるが、けっして悲観する必要はないと思う。

非戦非核を永らく国是としてきた日本国民を相手に「代理“核”戦争国」化を強要することを米国も「厳しい宿題」と見ている。だから国民に正しい議論が提供されればこの「新しい戦前」を「新しい平和日本」への勝機に転換することも可能だという積極的で主導的な対応も可能になると思う。

「日本の代理“核”戦争国化」という「新しい戦前」を「新しい平和日本」への転機に換える力は、ひとへに戦後日本が堅持してきた「非戦非核の国是」を日本人の魂として固守し、米国による理不尽な「代理“核”戦争国化」という新しい情況に対処し「非戦非核」を闘いの武器として発展させていく努力にかかっている。

このことを今後、国内の皆様と共に遠くピョンヤンの地にいる私たちも考えていきたいと思う。

若林盛亮さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年3月号

『一九七〇年 端境期の時代』
『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『紙の爆弾』2023年3月号に寄せて 『紙の爆弾』編集長 中川志大

今月号では、私たちの個人情報に関する問題をテーマのひとつに置きました。マイナンバーカードは「令和4年度末までに、ほぼ全国民に行き渡ることを目指す」と閣議決定(2021年6月)されています。国民の利便性を高めるためならば、取得したい人が取得すればいいのであり、この目標自体に、政府の側にメリットがあることが見えてきます。国家が国民の個人情報を一元化し、独占すること。その先にあるのが「超監視社会」ですが、それがどのようなものなのかに、私たちの想像力が試されているようです。

 
本日発売! 月刊『紙の爆弾』2023年3月号

これまで連続して本誌で採り上げてきたコロナワクチン薬害の問題は、昨年暮れごろから週刊誌でも次々と報じられるようになっています。接種開始から日を追うごとに被害者が増加するなか当然ともいえますが、時期を同じくして、テレビではファイザー社のCMがバンバンと流されています。本誌今月号では初代ワクチン担当大臣として日本国内の接種拡大を牽引、その手腕をマイナンバーカード普及に活かすことを期待されて、現在はデジタル大臣を務める河野太郎氏の手法に注目しました。

「安保3文書」改訂をめぐる問題も、このところ本誌で重点的に論じてきたひとつです。東京新聞が情報開示した防衛省内の検討過程の議事録は黒塗り。それでも、その内容は、「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換えた程度の生易しいものではなく、自衛隊が他国の領土内を攻撃できるということ。そのための体制づくりが今、猛スピードで進められています。これについて、岸田政権は安倍政権よりひどい、という言い方が聞かれますが、安倍政権の解釈改憲が、いまの流れの前提にあります。まさに「戦争法」だったわけで、私たちはその先を考える必要があります。

その自衛隊では人材確保がかねてからの課題とされており、アニメ作品とコラボしたポスターを制作するなどして、隊員募集に勤しんできました。その際には災害支援が前面に押し出されてきましたが、米軍の下請けとして海外の戦地へ派遣される機会が増加するのは確実です。そんな自衛隊の隊員募集においてもっとも重要なのが、募集対象者の個人情報を集めること。今月号では福岡市民の若者の個人情報が、実質的に無断で自衛隊に提供されている事実をレポートしました。マイナンバー制度においても、銀行口座等の紐づけは、個別に意志を確認することなく行なわれる方針とされています。マイナンバーカードの普及では、税金を原資としたポイント還元で国民を釣る手法が成功を収めているようですが、私たちは警戒し、拒否の意思を示していかなければなりません。

広島拘置所から本誌で連載してきた上田美由紀さんが、1月14日に亡くなりました。死因について「誤嚥による窒息」と発表されているものの、拘置所内の体制に不備がなかったか、厳密な調査が行なわれるべきでしょう。今月号では刑務所・留置場等で相次ぐ死亡事件について、検証を行なっています。いわゆる「ルフィ」事件でフィリピンの刑務所が「悪人の楽園」などと流布されていますが、一方で日本の刑事施設が収容者の人権をどのように扱っているかも、この機会にこそ問われるべきだと考えています。「紙の爆弾」は全国書店で発売中です。ご一読をよろしくお願いいたします。

「紙の爆弾」編集長 中川志大

本日発売! 月刊『紙の爆弾』2023年3月号

楽天モバイルの基地局設置をめぐるトラブル、東京都江東区、生活圏への事業拡大に反発の声 黒薮哲哉

東京都江東区にある高層マンションに楽天モバイルが通信基地局を設置する計画が浮上して、住民の一部から健康被害に対する不安の声があがっている。問題になっているマンションが立地しているコミュニティーは東京湾に近く、海の輝きが空に反射して白光を放っているかのような、明るく近代的なイメージがある。何棟もの高層ビルがそびえている。都心にも近く、住環境としては申し分がない。その生活圏へ楽天モバイルが事業を拡大してきたのである。

同じような問題が全国各地で起きている。電磁波問題は化学物質による汚染とならぶ新世代公害の代表格にほかならない。正体が透明で認識が難しい。

さまざまな形状の携帯電話基地局

筆者は2005年から通信基地局からの電磁波問題を取材しているが、今回、楽天が設置を計画している基地局は、マンションのエントランスの「天井内」に設置するタイプのものである。従って外部からは目視できない。

同じようなタイプの基地局設置は、大阪市浪速区など他の地域にある高層マンションでも問題になったことがある。浪速区のケースでは理事会の総会で却下された。電磁波による人体影響を懸念する住民の声が強かったからである。理事会が住民の安全を賃料収入に優先した結果にほかならない。

ちなみに浪速区の件では、楽天モバイルは建物の屋上にも基地局を設置する計画を打診していた。

楽天モバイルは2023年度のうちに基地局の数を全国で6万基超にする計画を立てている。それにともない筆者のところに、「トラブル相談」が殺到している。大半のケースは解決しているが、和歌山県や千葉県の市川市では、一部住民の反対を押し切って基地局設置を強行した経緯がある。

他の電話会社も各地でトラブルを起こしており、KDDIのケースでは、住民が裁判所へ調停を申し立てる事態にもなっている。

◆電磁波による人体影響の何が問題なのか

携帯電話やスマホには、おもにマイクロ波(ミリ波を含む)と呼ばれる帯域の電磁波が使われる。マイクロ波による人体影響をどう評価するのかという問題の答えは、専門家により、あるいは筆者のような取材者によりかなり異なる。

かつて電磁波・放射線はエネルギーが高いガンマ線やエックス線などには遺伝子毒性があるが、エネルギーが低い電線などから漏れるものは安全だと考えられていた。しかし、現在では、電磁波・放射線のエネルギーの大小にはかかわりなく人体影響があるとする説が欧米で有力になっている。

筆者が最も懸念しているのは、マイクロ波の持つ遺伝子毒性である。遺伝子を傷つけて癌を発症させる要因のひとつになる可能性である。「電磁波過敏症」の人が一定の割合で存在することは紛れない事実だが、その中に心因性のものがかなり含まれている可能性も否定できない。基地局の直近に住んでも、頭痛や吐き気など知覚できる症状が現れていない人も多いからだ。

従ってマイクロ波の危険性を評価するためには、心因的な要素を排除した客観的な動物実験や疫学調査の結果を検討する必要がある。とりわけ疫学調査は、人間を対象としたデータの科学的な分析であるから信頼度が高い。医学的な根拠よりも優先するのが世界の常識となっている。

◆ブラジルの疫学調査、基地局に近いほど癌による死亡率が高い

2011年、ブラジルのミナス・メソディスト大学のドーテ教授らは、携帯基地局から住居までの距離と発癌リスクの関係を検証する大規模な疫学調査の結果を公表した。調査対象は、ベロオリゾンテ市。この地域で1996年から2006年の間に癌で死亡した7191人を対象として、それぞれの自宅と直近の基地局の距離を測定し統計としてまとめたのである。(一部、癌死亡者の統計が若干欠落している年がある)その結果、基地局に近い住居に住んでいた人ほど癌による死亡率が高いことが分かった。

次の図は、癌による死亡者の住居から基地局までの距離を示したものである。

ブラジルの疫学調査をまとめた図表

7191人の癌死亡者のうち、3569人が基地局から100メートル以内に集中している。基地局から離れれば、離れるほど癌による死亡率は下がる。

ドイツには、医師たちが1993年から2004年までナイラ市で行った疫学調査のデータがある。調査を公平に実施するために特定の団体から資金提供は受けなかった。調査対象は、調査期間中に住所を変更しなかった約1000人の医療機関への通院患者である。基地局は93年に最初のものが設置され、その後、97年に他社の局が加わった。合計で2局である。

実験の対象患者を基地局から400メートル以内に住むグループ(仮にA地区)と、400メートルより外に住むグループ(仮にB地区)に分けた。そして2つの地区における発癌の情況を比較した。

最初の5年については、癌の発症率に大きな差がなかった。しかし、99年から04年の5年間でA地区の住民の発癌率が、B地区に比べて3.38倍になった。しかも、発癌の年齢もA地区の方が低年齢になった。たとえば乳癌の平均発症率は、A地区が50.8歳で、B地区は69.9歳だった。

さらにイスラエルでも、類似した疫学調査が行われ、同じような傾向が示された。これらの疫学調査が行われたのは、5Gよりもはるかにエネルギーの低い電磁波が使われていた時代である。電磁波のエネルギーが高くなれば、それに連動して人体影響も顕著になるという確証はないが、紫外線よりもエックス線が、エックス線よりもガンマ線の方がより危険度を増す事実から察すると、5Gの電磁波は旧世代の携帯電話に使われた電磁波よりもはるかに高いリスクをはらんでいる。

ちなみに現在では、基地局の数が増えすぎて、この種の疫学調査は実施そのものが困難になっている。

◆心臓に悪性腫瘍が増えたことを示す「明確な証拠」

ラットを使った動物実験でも、マイクロ波による発がん性は裏付けられている。たとえば2018年、アメリカの国立環境衛生科学研究所は、NTP(米国国家毒性プログラム)の最終報告を行い、動物実験でマイクロ波と癌の関係が明白になったと発表した。

最終報告によると、動物実験の期間である2年間に、オスのラットの心臓に悪性腫瘍が増えたことを示す「明確な証拠」が得られたという。一方、マイクロ波を放射しなかった実験群のラットに心臓の腫瘍は発生しなかった。

NTPは10年に渡る長期プロジェクトで、予算も3000万ドル。最大級の国家プロジェクトである。

同じ年に、イタリアでも同じような動物実験の結果が発表されている。米国の実験は、おもに携帯電話末端からのマイクロ波を想定したもので、イタリアの実験は、基地局からのマイクロ波を想定した実験である。いずれも人体への影響(発癌性)があると結論付けた。

◆規制値の国際比較

こうした欧米の動きを反映しているかのように、たとえば欧州評議会はマイクロ波の安全基準を厳しく設定している。日本の総務省が定めている規制値よりも、1万倍も厳しい数値になっている。次に示すのが数値の国際比較である。

・日本: 1000 μW/c㎡
・スイス: 9.5μW/c㎡
・欧州評議会: 0.1μW/c㎡、(勧告値)

総務省の規制値は1990年に制定されたもので、その後の疫学調査や動物実験を正しく反映していない。検証は行ったが、「安全」として改訂していない。現時点で医学的な根拠が解明されていないから、欧米なみに厳しく規制する必要はないという考えに立っている。その背景にどのような力が働いているのかは分からない。

◆「予防原則」が最優先

東京都江東区で浮上している楽天モバイルの基地局問題を放置することは、住民を人間モルモットにすることに等しい。5Gのマイクロ波による人体影響があるかどうかを判断するためには、少なくとも10年の観察を要する。長期にわたり5Gマイクロ波を浴び続けたとき、人体がどうなるかを示すデータはまだ十分に存在していない。

と、なれば過去の疫学調査や動物実験の結果を尊重して、リスクを回避するのが正しい選択肢なのである。個々の住民がその権利を持っている。「予防原則」を優先すべきなのである。楽天モバイルは、それを尊重しなければならない。

◆楽天モバイルへ質問状

筆者は、楽天モバイルの広報部へ次の質問状を送付した。また、電話で真摯に回答するように求めた。

質問項目は次の5点。

1,基地局の設置に反対者がいるのに工事を進めるのか?

2,健康被害が出た場合、貴社は補償するのか?

3,今後、新しい入居者に対して電磁波のリスクを説明するのか?

4,電磁波の「非熱作用」についての楽天の見解

5,楽天から政界関係者に対して、過去に政治献金の類いを贈ったことはあるか。

◆楽天からの回答

楽天モバイルからの回答は次の通りである。

お世話になっております。楽天モバイル広報部でございます。
ご質問の件、以下の通り回答申し上げます。

1,基地局の設置に反対者がいるのに工事を進めるのか?
2,健康被害が出た場合は貴社は補償するのか?
3,今後、新しい入居者に対して電磁波のリスクを説明するのか?
4,電磁波の「非熱作用」についての楽天の見解

1~4への回答:
個別の基地局に関する回答は差し控えます。

5,楽天から政界関係者に対して、過去に政治献金の類いを贈ったことはあるか。

5への回答:
回答は差し控えます。

以上、ご確認の程、よろしくお願いいたします。

楽天モバイル広報部

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』
タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年2月号

5年目のジャパンキックボクシング協会、新春のCHALLENGE! 堀田春樹

モトヤスックはノックアウトを逃すも長丁場5回戦の上手い戦いを見せた。
ダイチが同門対決を1ラウンドKOで制する劇的な王座獲得。
藤原乃愛は高校卒業前の試合を判定勝利。春からは大学生。

◎CHALLENGER.7 / 1月29日(日)後楽園ホール17:30~21:30
主催:Yashio ジム / 認定:ジャパンキックボクシング協会(JKA)

◆第10試合 70.0kg契約 5回戦

モトヤスック(岡本基康/治政館/ 70.0kg)
       VS
ネートパヤック・ピークマイレストラン(タイ/ 68.9kg)
勝者:モトヤスック / 判定3-0
主審:和田良覚      
副審:椎名49-44. 中山50-44. 松田50-44

モトヤスックは現・WMOインターナショナル・スーパーウェルター級チャンピオン。ネートパヤックは元・タイ国ムエスポーツ協会スーパーライト級チャンピオン。

初回、探りのミドルキック中心で牽制をしていくネートパヤックに対し、モトスヤックも応戦し、優る体格とパンチ蹴りの圧力で、徐々に表情に余裕が無くなっていくネートパヤック。

第4ラウンドにはモトスヤックは左右のパンチを中心に攻め、ネートパヤックはガードはしているが徐々にダメージが蓄積。更にモトスヤックのジワジワ攻めたローキックの効果が表れ、右ローキックでノックダウンを奪う。立ち上がったネートパヤックはサウスポーにスイッチしたり、距離を取って凌ぐ。

最終第5ラウンド、モトスヤックの右ローキックがネートパヤックの左足に決まる度に、ネートパヤックはスイッチし、モトスヤックはやや攻め倦むが、右ローキックを避ける為に身体を回転させたネートパヤックはダメージの蓄積があり、この試合2度目のノックダウンを喫してしまう。

モトヤスックのローキックに呻きながらこの後崩れ落ちるネートパヤック
攻勢を維持して追い詰める中のモトヤスックの右ミドルキックがヒット

モトスヤックは攻め続けるも、ネートパヤックのブロックなどのテクニックでノックアウトを拒まれてしまった展開で終了。

判定勝利したものの納得がいっていない表情をしていたモトスヤック。リングを下りた後、車椅子で来場していた長江国政会長のアドバイスを正座して真摯に聞いていた。

モトヤスックと対戦するネートパヤックにも叱咤激励する武田幸三プロモーター

◆第9試合 ジャパンキック協会ウェルター級王座決定戦 5回戦

2位.ダイチ(誠真/ 66.45kg)vs3位.正哉(誠真/ 66.5kg)
勝者:ダイチ / KO 1R 2:53
主審:少白竜

初回、両者ともにパンチを主体に主導権争いを仕掛ける。ラウンド中盤に正哉の左ストレートがダイチの顔を捉えてグラつかせたが、残り20秒を切った頃にダイチの左右のストレートがクリーンヒット。

右ストレートを顎に貰った正哉は立ち上がろうと意識は働くが身体は思うように動かずカウントアウト。ダイチが同・協会王座戴冠。

試合後、ダイチは「誠真ジムにとって2つ目のベルトですが、もっと強くなっていきたい!」と意気込みを語り、同門の正哉選手を称えていた。

ダイチのクロス気味右ストレートヒットでこの後、正哉が崩れ落ちる
ダイチとの打ち合いでは正哉にも左ストレートでチャンスがあった

◆第8試合 女子45.5kg契約3回戦

女子(ミネルヴァ)ピン級チャンピオン.藤原乃愛(ROCK ON/ 45.15kg)
      VS
タイ・イサーン地区女子ピン級チャンピオン.ペットルークオン・サーリージム(タイ/ 45.1kg)
勝者:藤原乃愛 / 判定3-0
主審:椎名利一
副審:少白竜 30-29. 中山30-28. 和田29-28

この試合がJK(女子高生)ファイターとして最後の試合となる藤原乃愛。試合前に「前回と比べられてしまいますが、KOは狙っていきます!」と意気込みを語っていた。

藤原乃愛は得意の蹴り、ペットルークオンはパンチを主体に主導権を争う展開。
第2ラウンド、藤原乃愛のハイキックからミドルキックのコンビネーションは会場を沸かせ、ペットルークオンの重いパンチも同様に沸かせた。中盤あたりに藤原乃愛の前蹴りがペットルークオンの顔面を捉えると優位に立つが、ペットルークオンも左ストレートを返すも藤原乃愛のガードで届かず。

第3ラウンド、藤原乃愛の左のパンチ、左前蹴り、左ミドルキックが要所要所で決まるが、ノックダウンまで至らず。ペットルークオンも藤原乃愛の攻撃に対して返していくも、自分のペースに持ち込めず試合終了。

両者ともに2005年生まれで今年18歳になる。ペットルークオンは、ムエタイで四つの王座獲得の肩書きを持ち、RISE興行で2戦こなしている選手。この日が日本での試合が3戦目で日本での試合に慣れてきた様子が窺えた。

試合後 藤原乃愛は、「相手は強かったです。元・ムエタイの四冠王者ですね。逃げるテクニックは上手かったですし、戦いに慣れている選手でした。ノックアウトが出来なかったのは悔しかったです。次に活かしてがんばります!」と応えた。

藤原乃愛がしなやかなハイキックと顔面前蹴りが幾度かヒット

◆第7試合 61.5kg契約3回戦

ジャパンキック協会ライト級2位.内田雅之(KICKBOX/ 61.15kg)
      VS
岩橋伸太郎(前・NJKFライト級C/エス/ 61.15kg)
勝者:内田雅之 / 判定2-0
主審:松田利彦
副審:椎名 29-29. 少白竜30-29. 和田30-28

前日の計量で岩橋伸太郎は「前回の試合でボコボコにされてしまったので、今回は自分のペースを掴み勝ちに行きます!」と語っていた。

初回、岩橋伸太郎は開始から仕掛けていくが、内田雅之はパンチ主体で岩橋の攻撃をかわしていく展開。

第2ラウンド、内田の重いストレートパンチが決まり始める。岩橋もミドルキックとストレートパンチのコンビネーションで攻めていくが、内田のテクニックで攻め倦む。

最終ラウンド、内田の右のバックハンドブローが決まり動きが止まる岩橋。2分過ぎに内田は岩橋のボディーに右ストレートを決めるがノックダウンは奪えず。岩橋も攻撃をしていくが、内田の的確なパンチで阻まれてしまった。僅差ながら内田の判定勝利。

試合後、内田雅之は「岩橋選手は、頑丈で倒すことは出来ませんでしたが良い選手でした。次回も頑張ります!」と笑顔でコメント。岩橋伸太郎は、「前回の反省を活かしオーソドックススタイルでいきましたが、勝てませんでした。内田選手は上手かったです!」と両選手共にお互いを称えていたコメントだった。

内田雅之の後ろ蹴り。格好良かったがヒットは浅かった

◆第6試合 フェザー級3回戦

ジャパンキック協会バンタム級2位.義由亜JSK(治政館/ 56.3kg)
      VS
HAYATO(CRAZY WOLF/ 56.85kg)
勝者:義由亜JSK / 判定3-0
主審:中山宏美
副審:椎名30-28. 少白竜30-27. 松田30-28

初回、蹴りの応酬の中、義由亜はHAYATOのミドルキックでグラつくも、すぐに立て直し首相撲を仕掛けて自分のペースを作っていく。第2ラウンド、義由亜はパンチの数を増やし始め、HAYATOは左目尻付近をカットするが大きな影響は無く、義由亜は首相撲からのヒザ蹴りの連打でHAYATOはやや劣勢に陥る。

第3ラウンド、義由亜の首相撲からのヒザ蹴りでHAYATOは動きが止まってしまい、余裕が無くなっていく。ラスト30秒頃、セコンドの指示が聞こえたHAYATOはローキックで攻めていくが試合終了。義由亜が判定勝利となった。

試合前は明るく関係者と会話をしていた義由亜は、試合後には「変な試合をしてすみませんでした!」と反省していた。

いきなり飛ばれるとカメラのフレーミングが間に合わない義由亜の飛びヒザ蹴り

◆第5試合 ライト級3回戦

ジャパンキック協会ライト級3位.興之介(治政館/ 61.1kg)vs村田将一(誠真/ 61.0kg)
勝者:村田将一 / TKO 3R 1:38
主審:和田良覚

開始早々から村田将一が飛び前蹴りで牽制。興之介のリズムを狂わす変則気味の展開を見せ、第2ラウンドには右ハイキックと左右のパンチ連打で2度のノックダウンを奪い、第3ラウンドには隙を突いた右ストレートで興之介を倒し、カウント中のレフェリーストップとなった。

タイミングを計った村田将一が右ストレートで興之介を倒す

◆第4試合 55.0kg契約3回戦

ジャパンキック協会バンタム級4位.樹(治政館/ 55.0kg)vs前田大尊(マイウェイ/ 54.85kg)
勝者:前田大尊 / 判定0-3 (28-30. 28-30. 28-29)

◆第3試合 フライ級3回戦

ジャパンキック協会フライ級2位.西原茉生(治政館/ 50.6kg)
      VS
滑飛レオン(テツジム滑飛一家/ 50.65kg)
勝者:西原茉生 / 判定3-0 (29-28. 30-29. 29-28)

◆第2試合 フェザー級3回戦

隼也JSK(治政館/ 56.95kg)vs勇成(Formed/ 56.8kg)
勝者:勇成 / TKO 3R 1:01 / ヒジ打ちによる右目尻カット、ドクターの勧告を受入れレフェリーストップ

◆第1試合 バンタム級3回戦

小野拳大(KICK BOX/ 53.15kg)vs紫希士(Formed/ 53.3kg)
勝者:紫希士 / 判定0-3 (27-30. 27-30. 27-30)

10年掛けて王座に到達したダイチ。まだ日本の頂点ではない真の挑戦はこれから

《取材戦記》

今回の興行はKO決着は少なかったものの、クリンチなどで試合が膠着することがなかったこと、適度なパフォーマンスで勝利を得た義由亜JSKや村田将一、キックのテクニックを披露し、会場を魅了した藤原乃愛と、“重量級ではパンチが決まるとすぐにKOに繋がる”という凄みをみせてくれたダイチによって、新年のスタートとしては成功した興行でした。

第1試合と第2試合には今年から加入したFormed ジムから出場した高校生の二人が勝利をしたことで幸先のスタートを飾り、前評判が高かったテツジムの滑飛レオンに判定勝利をした西原茉生や、前・NJKFライト級チャンピオン、岩橋伸太郎に勝利した内田雅之によって、他団体へのアピールにもなったでしょう。(第6~10試合のレポートと取材戦記は岩上哲明記者の記述を引用)

※       ※       ※    

WBCムエタイ日本ライト級チャンピオン、永澤サムエル聖光が2月2日(木)にタイ国ラジャダムナンスタジアムで試合出場しましたが、好戦的展開も判定負けを喫しました(堀田春樹)。

138LBS 5回戦 
永澤サムエル聖光(ビクトリー)vsクンスック・シップーヤイテープ

次回のジャパンキックボクシング協会興行は「KICK Insist.15」を3月19日(日)に新宿フェースで開催予定です。

◎堀田春樹の格闘群雄伝 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=88

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫〈01〉「スラップ訴訟」としての横浜副流煙事件裁判

2023年を展望という大上段な気分ではなく、現状確認とこれからの方向性を探るために、一度黒薮哲哉さんとじっくり時間をかけて直接お話がしたい、と昨年後半から感じていた。1月20日私の希望は実現した。3時間半にわたって休憩をはさむことなく、「横浜副流煙事件裁判」、「押し紙」、「中南米情勢」など各論から「ジャーナリズム」の課題や新自由主義の諸問題まで話題は広がった。3時間半あれば深くはないにせよ一応語り尽くすことはできるだろう、との計算はわたしのミスだった。時間が圧倒的に足りなかったのだ。だぶん黒薮さんも同様にお感じではないだろうか。

いずれにせよ、以下は黒薮さんにわたしが伺う形を基本とした、2023年1月における「現状確認」と「方向性」の模索である。お忙しい中時間を割いていただき、原稿の校正にも快く応じてくださった黒薮さんに感謝するとともに、この対談(インタビュー?)が、読者のみなさんにとって何らかの示唆となれば、幸いである。(田所敏夫)

◆横浜副流煙事件裁判 ── なぜ原告の訴えは棄却されたのか?

田所 藤井さんの事件についてあらためてお伺いいたします。横浜副流煙事件裁判は、藤井さんが提訴されて一年目くらいから黒薮さんは取材を始められ、藤井さんが元の代理人を解任された後、黒薮さんも加わっての本人訴訟に切り替わったのですね。

黒薮 厳密にいえば藤井さんがご自分の判断で元の弁護士を解任し、ご自分で書証の準備をされていました。それをチェックしてほしいと要請があったので読んでいる中で、これは支援しようと私も思い立ち支援に加わりました。最初に取材した時は、支援に加わるつもりはなかったのですが。

田所 そうですか。そして結論は地裁判決で完全勝利のうえ、診断書を書いたとされる作田学医師の行為が医師法20条違反との判断を得られました。高裁でも原告の訴えが完全に棄却され、藤井さんが勝訴が確定したわけですね。

 
黒薮哲哉さん

黒薮 そうです。

田所 事件についての裁判所の判断は、極めて妥当だと思いますが、この事件は多様な問題を含んでいるように思います。「禁煙ファシズム」や「スラップ訴訟」の側面もありますし、映画化で焦点化された「化学物質過敏症」の問題にも関わります。

黒薮 この事件について知った時、最初に感じたのは訴訟自体がおかしいということです。約4500万円を藤井さんは請求されていたわけで、これは一般に言われている「スラップ訴訟」だと感じました。厳密にいえば「スラップ訴訟」は住民運動などに対する大企業による訴訟を指しますが、日本では広く「不当な訴訟」と理解されています。それが問題だと思ったのが藤井さんを支援した理由の一つです。また禁煙ファシズムの問題も感じました。

田所 その時点でこの事件が映画化されることは予想されましたか。

黒薮 映画になることは予想はしなかったです。ただ、最初藤井さんにお会いした時に書籍にまとめるべき重いテーマだと思いました。藤井さんにも、書籍にすれば広く訴えることができますよ、と伝えました。


◎[参考動画]映画 [窓] MADO 予告篇

 
田所敏夫さん

◆スラップ訴訟の後ろに宗教団体?

田所 この事件で原告を支えたのは日本禁煙学会とその理事長である作田学氏ですか。

黒薮 日本禁煙学会は、原告を組織的に支援したということは否定していますが、作田氏は5本も意見書を裁判に書面を出しています。意見書などですね。一般的に専門家に意見書を書いてもらうには1通につき30万円位かかると言われています。そうすると常識的には個人が負担するには過重ですよね。ですから何らかの組織が原告支援に関わった可能性は高いと思います。

田所 聞き及ぶところによると何某教の方々と仲のいいかたがただと伺いました。

黒薮 そうですね。

田所 藤井さんも、田所の認識と同じだ、とおっしゃっています。

黒薮 私もそうだと思います。本当のところはね。

田所 「宗教と政治」が昨年大きな問題になりました。もしも宗教がスラップ訴訟の後ろにいることが事実であれば、大変なことですね。

黒薮 宗教団体、とくに新興宗教の人たちは自制心なしに感情に任せて行動してしまう人が多いです。そのような流れが背景のひとつにはあったと思います。(つづく)

◎遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫
〈01〉「スラップ訴訟」としての横浜副流煙事件裁判
〈02〉横浜副流煙事件裁判のその後 
〈03〉禁煙ファシズムの危険性 ── 喫煙者が減少したことで肺がん罹患者は減ったのか? 
〈04〉問題すり替えに過ぎない“SDGs”の欺瞞
〈05〉「押し紙」は新聞にとって致命的

▼黒薮哲哉(くろやぶ てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

田所敏夫『大暗黒時代の大学 消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY007)

大阪西成で無念の死を遂げた医師・矢島祥子さんの想いを “平和の歌姫”高橋樺子さんが歌う「さっちゃんの聴診器」(作詞:もず唱平/作曲:矢島敏) 尾崎美代子

1月26日、大阪・十三のライブハウス「GABU」で、高橋樺子(はなこ)さん(UTADAMA MUSIC)の新曲「さっちゃんの聴診器」の発売を記念したライブが行われた。満員の会場に現れた高橋樺子さんは、大好きだという真っ赤なドレスで「さっちゃんの聴診器」を歌い上げた。

高橋樺子さん
 
高橋樺子シングルCD「さっちゃんの聴診器」2023年01月26日発売 ¥1,000(税込)レーベル:UTADAMA MUSIC

高橋さんは、2007年、関西歌謡大賞でグランプリを受賞したことから、その後、審査委員長を務めた作詞家・もず唱平さんに弟子入り、2011年3月11日の東北大震災と原発事故の翌年、被災地復興支援ソング「がんばれ援歌」(作詞:もず唱平 作曲:岡千秋、三山敏)でデビュー。

もず唱平さんには、実は、一昨年、鹿砦社発行の反原発雑誌『NO NUKES voice』(現『季節』/28号=2021年6月発行)でインタビューさせて頂いた。

もずさんの父親・潔さんは、広島の「旧陸軍被服支廠(ししょう)」の現場監督で働いていたが、8月6日の原爆投下で二次被害にあい、その後原爆症を患われた。

しかし、父親が一生原爆手帳を受けなかったため、治療費などが嵩み、生活が苦しい時期もあったという。そうしたことから、次第に父親とは疎遠になっていく一方で、もずさんは反戦・平和への思いを強くしていった。そんな思いが高橋さんの熱心な復興支援活動などにつながっているのだろう。

もずさんにインタビューした際には、高橋さん、マネージャーの保田ゆうこさんから、震災後、何度も支援物資を被災地に運んだり、被災地で歌った思い出、広島に原爆を投下したB29の出撃地であるテニアン島、サイパン、グアムなど戦跡巡りなどに行かせて貰ったという貴重なお話もお聞きした。

そんな高橋さんは2015年、戦後70年の年に、もずさんが父親から聞いた原爆の体験をもとにした「母さん生きて」(作詞・もず唱平 作曲・鈴木潔)を、平和を訴える祈念歌としてリリースした。

それから7年ぶりの新曲となる「さっちゃんの聴診器」、高橋さんは、新曲にかける思いをこう語った。

さっちゃんとは、大阪の西成区でお医者さんをやっておりまして、いろいろ調べていきますと、研修時代は沖縄にいて、その後、大阪の西成にきて、路上生活者も多い釜ヶ崎という地域で、医師として、労働者の身体だけではなく、心にも寄り添う、献身的に社会貢献活動をされておりました。その矢島祥子さんのことを、私の師匠である、作詞家のもず唱平先生がドキュメンタリーとして、この作品に書きあげ、曲は、矢島祥子さんのお兄さんである敏さんに付けて頂きました。高橋樺子は、これまで『平和』をテーマに歌ってきましたが、今回、新たなスタイルの平和を、この『さっちゃんの聴診器』で沢山の方に聞いて頂き応援して頂きたいと思う曲です。

高橋樺子さん

◆「釜ヶ崎人情」が繋げた縁

もず唱平さんが「さっちゃんの聴診器」を書くきっかけとなったのが、もずさんが作った「釜ヶ崎人情」だった。もずさんの「釜ヶ崎人情」は、釜ヶ崎のカラオケのある居酒屋では「カマニン入れてや」といわれるほど、労働者に親しまれ良く歌われる曲だ。もずさんは、作詞家としてこの曲を初めて作るとき、何度も何度も釜ヶ崎に通い、飲み屋で労働者に話を聞いたという。その「釜ヶ崎人情」が、矢島敏さんともずさんを繋げていった。

「さっちゃんの聴診器」のモデルとなったのは、矢島敏さんの妹・祥子さんで、2007年4月から、西成区の鶴見橋商店街にある診療所で内科医として勤務しはじめた。その傍ら、ボランティアで野宿者支援活動に非常に熱心に取り組んでいた。給料、ボーナスを惜しみなく、野宿者らへの寝袋の購入費などに費やしたという。

しかし、2009年11月16日、西成区内の木津川の千本松渡船場で遺体で発見された。まだ34歳の若さだった。西成警察署は、当初「過労による自死」と断定した。

しかし、共に医師である群馬県の両親が、祥子さんの遺体の状態、痕跡などから、何者かに殺害されたのではないかと疑い、「事件として捜査してほしい」と訴え続け、その後ようやく自殺、事件の両面で捜査すると約束してくれた。ただ残念なことにその後捜査は進んでいない。

両親、敏ちゃんら兄弟は、毎月祥子さんが行方不明になった14日、祥子さんが勤務していた診療所のある鶴見橋商店街で、情報提供を求めるチラシ配りを支援者らと続けている。その前後、釜ヶ崎の居酒屋・難波屋や社会福祉法人「ピースクラブ」でライブを行ってきた。ライブの冒頭、支援者らと必ず歌う曲が「釜ヶ崎人情」だった。

2018年8月7日、NHKが、そうした情宣活動やライブ活動など、遺族や支援者らの活動を取材し、ドキュメンタリー「さっちゃんは生きたかった~大阪釜ヶ崎 女性医師変死事件~」が制作され、放映された、その番組を偶然自宅で見ておられたもずさん、「自分の作った曲が歌われている……」と驚かれると同時に、何かできないかと、遺族に連絡を取り、敏ちゃんらのライブにやってこられた。

初めてもずさんがライブに訪れた日のことを、敏ちゃんはこう話している。

「今日会場にもずさんという方が来られていると聞き、すぐにネットでググり、びっくりしました」。

その後もずさんは、祥子さんの故郷・群馬県で行われた偲ぶ会などにも参加し、遺族のために、何かできることはないかと考え、祥子さんのための歌を作ろうと考えた。

「曲を作るのはあなたしかいないんだ」と作曲を頼まれた兄・敏さん。こうして、もず唱平作詞、矢島敏作曲の「さっちゃんの聴診器」が生まれた。

矢島祥子さんの兄、敏さん(左から二番目)率いる「夜明けのさっちゃんズ」と高橋樺子さん

もずさんは、昨年11月に行われた偲ぶ会でこう話されていた。

昔、新谷のり子さんが歌った『フランシーヌの場合』(1969年)という曲が流行りました。『フランシーヌの場合は、あまりもお馬鹿さん……」と始まる歌を聞いて、多くの人が「フランシーヌって誰?」と思ったと思います。『さっちゃんの聴診器』も同じように『さっちゃんて誰?』と関心を持ってもらえるきっかけになればとの思いで作りました」。『もっと生きたかった この町に もっと生きたかった 誰かのために」。曲のはじめに繰り返されるこのフレーズ、ぜひ多くの皆さんに聞いていただきたい。一緒に口ずさんで頂きたい。そして若くして亡くなった矢島祥子さんに思いをはせて頂きたい。

「さっちゃんの聴診器」を作詞されたもず唱平さん(右)が、歌に込めた思いを語る

◆沖縄に移住し、新たな音楽活動、そしてラブ&ピースの活動を!

今回の新曲発表ライブのサブタイトルに「私、沖縄に移住しました」とある。そうです。もずさんが温かい場所で作詞活動を行いたいと、昨年事務所を沖縄に移したことをきっかけに、高橋さん、マネージャーの保田さんらも沖縄に移住し、新たなレーベル「UTADAMAMUSIC」を立ちあげた。

「言霊」にかけた「UTADAMA」(歌霊)では、沖縄の島唄と本土のやまとうたの「混血」ソングを目指したいという。その第一弾の「さっちゃんの聴診器」。

「もっと生きたかった この町に もっと生きたかった 誰かの為に……。」

曲のはじめに繰り返されるこのフレーズ、ぜひ多くの皆さんに聞いていただきたい。一緒に口ずさんで頂きたい。

そして34歳の若さで無念の死を遂げた矢島祥子さんのことを少しでも知って欲しい!

「さっちゃんの聴診器」(作詞=もも唱平/作曲=矢島敏/編曲=竜宮嵐)


◎[参考動画]高橋樺子 ”さっちゃんの聴診器” ~short ver~

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年冬号(NO NUKES voice改題 通巻34号)