諸情報を総合すると残念ながら湯川遥菜さんがイスラム国によって処刑された確度が高そうだ。湯川さんはPMC(Private Military Company)JAPANという会社の社長で、この会社は「民間軍事会社」と名乗っている。あくまで国外での軍事的人命救助や防御を「業務目的」にしているが、「業務実績」はない(国内で「民間軍事会社」は当たり前だが憲法、法律違反だ。目的の如何を問わず「軍事行動」を行えば「内乱罪」や「凶器準備集合罪」で重刑に処される)。

◆二人の人質を繋ぐライン

この会社のサイトには現在も人質として囚われている後藤健二さんの写真や湯川さんと後藤さんが一緒に移った写真が掲載されている。それだけでなく、湯川さと後藤さんが昨年5月イラクで共に現地メディアの取材を受けている動画も掲載されている(応対をしているのは英語が話せる後藤さんで、おそらく湯川さんが映像を撮影したと思われる)。

さらに、英語を中心として構成されている同社のHPには「INDEPENDENT PRESS」というタグがあり、これをクリックすると昨年5月シリア、トルコ国境で後藤さんが撮影した写真を掲載した後藤さんの所属する(実質的には後藤さんの個人の)事務所住所などが掲載されたページへ飛ぶ。

湯川さんは同社HPの中に「CEOブログ」を持っていて活動内容などを記載している。田母神俊雄との交流や彼自身の国際観が綴られており、湯川氏の歴史観や世界観は田母神氏に近いようだ。

◆後藤健二さんとJICAの関係

先の本コラム記事で短く「なぜ今回の人質事件では『自己責任』論が政府から語られないのか」と書いたが、その後の取材でいくつかの事が明らかになった。湯川さんと後藤さんは昨年少なくとも複数回以上イラクやシリアを二人で訪問している。湯川さんは軍事業務目的というよりは取材(もっと言えば単なる訪問)で、後藤さんの取材アシスタント的色合いが濃かったこと(湯川さんは英語もアラブ語も話せないが、ビデオカメラの撮影は手慣れている)。

後藤さんは「子供」の救済などをこれまで中心に手掛けてきたと報道されてるが、紛争地帯の取材経験も少なくない。また紛争地帯を取材するフリージャーナリストが子供に想いを馳せて写真集を出したり、活動することも珍しいことではない。昨年の度重なるイラク、シリア訪問は紛争地取材が目的だったことなどだ。その一部は「報道ステーション」などテレビでも放送されている。また後藤さんは過去、次のような仕事もなさっている。

・JICA研修/広報DVD・ビデオ 『現場に見る人間の安全保障 Ⅱ』和英版
(英版『PROMOTING HUMAN SECURITY IN PRACTICE Ⅱ』)
2007年05月 JICA(国際協力機構)
・JICA研修/広報DVD・ビデオ 『現場に見る人間の安全保障 Ⅰ』和英版
(英版『PROMOTING HUMAN SECURITY IN PRACTICE Ⅰ』)
2006年05月 JICA(国際協力機構)
・外務省 安全対策管理ビデオ 『脅威から我が身を守れ!』
2005年04月 NHKプロモーション

◆「最初から湯川は捨て石だった」

そして、政府と近い消息筋からは意外な言葉が漏れてきた。

「最初から湯川は捨て石だったんだ。その為に国が相当額を出資している」

この発言がどこまで信憑性を持つか私には判断できない。だが、日本政府は昨年8月頃には既に湯川氏が人質となった事を知っていたはずだ。そして湯川氏が社長のPMC JAPANは1月31日現在もHPを開設したままだが、この内容を犯行グループが見れば、解放など望めないことは素人でもわかる。何故不利な証拠以外の何物でもないHPを放置した(させた)のだろうか。

湯川氏がAK47の試射をしている映像までもがいまだに掲載されたままだ。余談だがそこからは彼が武器の扱いに慣れてないことが伺われる。セミオートとフルオートでの試射だが最新型AK47は少年でもそれほど反動を受けないのに、湯川氏はセミオートの単射でも衝撃を体に強く受けて肩を後ろに反らしている。

このシーンを撮影したのはおそらく後藤さんだろう。

英語も話せない湯川さんが、紛争地帯取材に赴くことは、極めて不自然だ。だから後藤さんの同行という形にしたのだろうけれども疑問は残る。湯川さんは中東でも「民間軍事会社社長」を名乗っている。

消息筋に質問してみた。

「捨て石ってまさか、最初から殺されたり人質になることを想定していたのか?」
「そんなことは答えられるはずがないだろう。でも現実が一番雄弁に事実を語ってるだろう」

私個人で真相を探るのには限界がある。金も人手もあるマスコミこそ金太郎飴のように毎日代わり映えのしない報道をしていないで、真相に迫る事実を暴き出そうとは思わないか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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