パンデミックが始まっていらい、彼女の刻苦奮闘は国民の中にある種の感動を呼んでいた。毎日欠かさず、新たなキャッチ(標語)を考案しつつ、ていねいに都民へのお願いをする。

暗い表情の宰相がつっけんどんに、いかにも素っ気ない「安全、安心」をくり返すのとは好対照であった。

だがそのいっぽうでは、その政治的な野心が、やや強権的な処断によって警戒され、批判も浴びてきた。


◎[参考動画]東京 過去最多5773人感染発表、小池知事「私たちの意思で・・・」(TBS 2021年8月13日放送)

◆都の女帝が仕掛けたこと

思い起こしてみれば、彼女が都知事に転じようとしたとき、自民党のボスたちはまことに古い手法でそれを妨害したのだった。そのいかにも陰険な方法(応援した者を処分する)が、思想信条をこえて女性政治家の健気さにシンパシーを集めた。2016年の小池百合子都知事誕生とは、まさに政治が劇場と化すのをまざまざと見せつけたのである。


◎[参考動画]小池百合子氏が当選 初の女性都知事に」(ANN 2016年7月31日放送)

2017年の「希望の党」の頓挫もまた、劇場的な転落として印象に深い。彼女自身の「排除の論理」で、政権交代の千載一遇の機会は失われたのだった。浮動票のいかに敏感なことか。同情すべき女から、イッキに嫌な女に転落したのだ。彼女に同伴した「民進党のプリンス」は、いまや自民党の同伴者となり果てた。

だがしかし、2020年の都知事選挙に、史上2番目の得票数となる366万1371票で再選。希望の党の崩壊にもかかわらず、自身は国政政権と対等な政治的ポジションを維持したのだった。


◎[参考動画]東京都知事選 小池百合子氏再選 投票率は前回下回る(FNN 2020年7月6日)

はたして、第3の劇場が幕をあけるとは、誰も予想しえなかっただろう。わずかに、都議会選挙直前の「入院」がどう作用するのか。おそらく選挙の帰趨は、その一点だった。くり返すが、どのメディアも都民ファーストの大敗を予想していた。

※[関連記事]「小池都知事「入院」の真相と7月4日都議会選挙・混沌の行方」(2021年6月28日) 

◆悲運のヒロインにはならなかった

しかし、結果は戦前の予想をくつがえす、都民ファーストの善戦だった。自民党は2016年の大敗を回復できずに、小池都政は安泰となったのである。それもほんの「一日」のことだった。彼女は最後の一日に出てきたのだ。病院から――。

わずか一日、10カ所あまりの選挙現場を支援しただけで、大敗をまぬがれたばかりか、神がかり的な選挙での強さを再現してみせたのだ。おそるべし、小池百合子、である。

おそらく彼女の「健在」を確かめたのは、12カ所の応援で数百人にも満たなかったであろう。しかしメディアでそれを知ったのは、数百万におよぶであろう。メディア選挙を十分に意識した「入院」→「退院」「選挙応援」→「浮動票の獲得」だったのだ。

2017年の快挙いらい、あまりにも良すぎる政治的なタイミングの見計らい。自民党およびメディアは驚嘆した。都民と国民は、留飲を下げたのではないか。


◎[参考動画]東京都議選 僅差で自民党が第1党に(ANN 2021年7月5日放送)

※[関連記事]「《速報》2021年都議会選挙 都民ファーストの善戦、自民党の復活は不十分に」(2021年7月5日)

※[関連記事]「この秋、政権交代は起きるのか? ── 『紙の爆弾』最新号を参考に、都議選後の政局を俯瞰する」(2021年7月8日) 

かくして、菅政権は風前のともし火となった。

コロナ禍のもとのオリンピック開催という、およそ常軌を逸した既定方針の踏襲。ただひとつオリンピックだけが、他のイベントに優先されるという政治的な決断は、国民に「オリンピック不信」を植え付けた。

IOC会長トーマス・バッハ(Baron Von Ripper-off=ぼったくり男爵)への嫌悪感とともに、国民は菅政権への忌避を隠さなかった。そこで浮上してきたのが、福田康夫政権時いらいの、ひそかな「大連立構想」だった。政権を失いたくない自民党にとって、それは緊急避難にちかい選択肢であっただろう。

※[関連記事]「五輪強行開催後に始まる「ポスト菅」政局 ── 二階俊博が仕掛ける大連立政権」(2021年7月21日) 

さらに菅義偉の自身の地元である、横浜での市長選挙の敗北。これで命脈は尽きていた。もうボロボロである。二階が仕掛けようとした保守大連立は、小池の国政復帰を見越してのことだった。

※[関連記事]「【速報】横浜市長選挙 野党候補が勝つ! 菅総理の命脈が尽きた日」(2021年8月23日)

※[関連記事]「岸田内閣の二階派排除と衆院選の波乱 小池新党は第三極になれるか」(2021年10月6日)

だが政局がいったん無風となった夏季に、小池百合子および都民ファーストは何も準備できなかった。地域政党「都民ファーストの会」の荒木千陽代表が10月3日に都内で会見し、国政新党「ファーストの会」を設立すると発表したものの、ついに彼女らの出馬はなかった。

◆とん挫した政治構想

総選挙後のこと、「やっぱり、我々も候補者を立てていれば……」都民ファーストの会の関係者は悔しげな表情でそう漏らしたという。いうまでもなく、衆院選で日本維新の会が議席を4倍近くに増やした勢いを、肌で感じたからにほかならない。それどころか、都民ファーストは身動きをとれないほどの問題を抱え込んでいた。木下富美子都議(当時)の問題である。

木下元都議は7月の都議選中に無免許運転で当て逃げ事故を起こし、書類送検されていた。2度にわたる都議会の辞職勧告からも、逃げ続けるという醜態を晒している。9日に都議会に現れ説明を求められたが、事実上のゼロ回答だった。この問題児の「生みの親」こそ、ほかならぬ小池知事だったのだ。

「小池さんの環境相時代、木下さんは広告代理店社員として小池さん肝いりの『クールビズ』のキャンペーンを手掛けました。いらい関係性を深め、2017年の都議選で都ファ候補に抜擢。小池知事の『お気に入り』だからこそ都議になれたのです」(広告業界関係者)。
好事魔多しという言葉を、これほど体現する政治家も少ないであろう。政治的な絶頂期に、わずかな言葉づかいで党は失墜し、身内の不祥事で政治構想がとん挫したのである。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

12月11日発売開始!『NO NUKES voice』vol.30(紙の爆弾 2022年1月号増刊)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年1月号!

12月5日(日)、大阪西九条の靭公園で、「12.5老朽原発このまま廃炉!大集会inおおさか」が開催され、1500名もの参加者が集まった。

13時から始まった集会の冒頭、中嶌哲演さん(原発に反対する福井県民会議)が主催者挨拶を行った。

◆4か月間で広島原爆の「死の灰」300発分を生み出した美浜3号再稼働(中嶌哲演さん)

全国各地で連帯して、本集会に結集されています全ての皆さんに心から感謝致します。また各地から素晴らしいメッセージを頂いた皆様にも御礼申し上げます。

昨年10月から関電と国が猛烈な攻勢を美浜、高浜両町と福井県にかけ、再稼働の同意をとりつけました。しかし、実際に動いたのは美浜3号のみで、わずか4ケ月だけでした。しかし、その稼働で23キロワット、電気料金にして約400億円近く関電は稼いだのです。一方、そのたった4ケ月の稼働により、原子炉の中の使用済み燃料には、広島原爆300発分の「死の灰」、長崎原爆にして10発分のプルトニウムが新たに生成・蓄積されていることを忘れてはならないと思っています。

ところで今、美浜3号、高浜1、2号は非公開でテロ対策工事を行っています。美浜3号は来年9月に、高浜1、2号は再来年4、5月に工事を終えるといっています。若狭の住民や関西等の市民に対して、関電と国の方こそ、あたかもテロリストのような行為を企てているのではないでしょうか? これを許してはならないと思っています。

福島以来、現在も尚、原発再稼働、ましてや老朽原発を動かすなという人の数は絶対的な数を占めています。それをいかに顕在化させるかが求められていると思います。1人デモから大集会に至るまで様々な試みが行われていますが、個々の地道な実践と大きな共同目標、原発ゼロ法案は廃案になりましたが、これを再び市民と議員とで共同作成、共同提出して、審議を見守り、その提携を図っていく、大きな運動をも必要としているかと思います。宜しくお願いいたします。

主催者挨拶を行う「原発に反対する福井県民会議」の中嶌哲演さん(写真提供=Eiji Etohさん)

※     ※     ※

次に、井戸謙一弁護士より、美浜3号機運転差止仮処分裁判の報告が行われた。

◆来夏頃に関電が追い詰められているのは間違いない(井戸謙一弁護士)

今年の6月21日、大阪地裁に美浜3号機の運転禁止を求める仮処分を申し立てました。40年を超えた原発は沢山ありますが、ほとんどの電力会社は40年超の原発を諦めました。諦めなかったのが、日本原電の東海第二原発と関西電力の3基の4基です。

東海第二は既に水戸地裁から運転禁止の判決が出て、脛に傷を持つようになっています。関電の3基はまだ傷をつけることができていない。この4基がこのまま順調に40年超の再稼働が出来るかどうかは極めて重要です。

何故かというと、日本の大部分の原発は既に30年前後の運転期間が経過しています。これらの原発が40年超の運転を目指すかどうか? 各電力会社は、先行するこの4基がスムーズに運転できるのかどうかを注視しています。これが成功したとなると、我も我もと40年超の運転許可申請をすると思います。しかしうまくいかなかったら、規制委員会が許可を出しても、市民や司法の力で運転できないということになれば、ほかの電力会社は40年超の運転を断念することになるでしょう。するとあと10年も経てば、日本には動かせる原発がごくわずかになります。早期に原発をゼロにすることができるかどうかは、この4基がスムーズに運転できるかどうかは分水嶺なんですね。

関電の3基については、本訴訟を継続していたが、仮処分の申し立ては過去になかった。それが仮処分申し立てをして緊急に止めようということで、6月21日申し立てを行いました。既に3回の期日が開かれました。我々は6つの争点を提示しています。そのうちの1つをご報告します。

美浜3号機は活断層の巣の中にあります。東側1キロに白木―丹生断層が、西側2、3キロにC断層が走っています。しかもC断層は東側に傾斜しているので、美浜原発の直下を走っています。

ところで新規制基準は、震源が敷地に近い場合に基準地震動を策定する場合には、特別の考慮をしなければならないと定めています。我々は「関電は美浜3号機について、特別の考慮をしていない」と主張しました。これに対して関電がどう反論してくるか注目していました。

「特別の考慮はしている」と言ってくるかと思ったら、そうではなく「特別の考慮をする必要がない」と言ってきた。どういうことか。関電は、特別の考慮をする必要があるのは、原子炉建屋と活断層の間の距離が250メートルの場合だと。美浜3号機は東の活断層が1キロ、西が2、3キロだから、特別考慮する必要がないと主張してきた。

これには驚きました。これは簡単に反論できます。争点は、新規制基準が特別の考慮をどの範囲の原発に求めているか。250メートルなのか、2、3キロはそれに含むのかどうか、極めて単純な争点です。これについての議論では当然勝てると考えています。

決定は、来年10月が再稼働予定ですので、それまでに出すよう求めているので、おそらく裁判官に決断をさせるのは、やはり運動の力、市民の力です。裁判官が一人の市民になったとき「やっぱり老朽原発は動かせてはいけないな」と思わせないといけない。止めるという判断をしたとき、それが裁判官の突飛な判断ではない、市民のほとんどが嫌だといっているではないかと、裁判官が言えるような運動を盛り上げていく、それが裁判官の背中を押すことになると思います。

来年10月まで約1年弱あります。その間に更に更に運動を盛り上げ、ぜひ美浜3号機をストップさせていきたい、いけると思います。がんばりましょう。

美浜3号機運転差止仮処分裁判の報告が行う井戸謙一弁護士(写真提供=Eiji Etohさん)

※     ※     ※

名古屋地裁で争われている老朽原発廃炉訴訟の原告草地さんの報告のあと、老朽原発の地元の皆さんがアピール。福井県若狭町で美浜原発から15キロ圏内にお住いの石地勝さん。

◆大飯と高浜の使用済み燃料の総量はすでに六ケ所の再処理工場の容量(3000トン)を超えている(石地勝さん)

美浜原発から15キロ圏内(福井県若狭町)で暮らす石地勝さん(写真提供=Eiji Etohさん)

私は美浜原発から15キロ位の若狭町に住んでいます。老朽原発の美浜3号と高浜1、2号の再稼働を巡って、今年の2月の県議会で、一番の論点になったのは、使用済み燃料の中間貯蔵地を県外のどこにするかでした。知事と議会が対立して結論はでずに、先送りになりました。

5月に臨時議会が開かれ、そこで国から50億円の交付金の話と、立地地域の将来像をどうするかということで、共創会議を国が作って審議していこうという土産話をもって来たら、あっという間に議会がなびいて、美浜3号、高浜1、2号の再稼働が認められ、美浜3号は6月に入って再稼働しました。

あれだけ一生懸命論議した使用済み燃料の話は、それから10ケ月位経ってますが、一つも話になりません。それで関電の広報に使用済み燃料の確認をしました。美浜、大飯、高浜の3原発合わせて3555トンありました。六ケ所の再処理工場で3000トンの容量になっているところへ、大飯と高浜の使用済み燃料を入れるだけで3000トンを超える、それだけ若狭の原発に使用済み燃料が貯まっているということを、改めて判って頂いたと思います。

それだけではなく、高浜ではMOX燃料を使ったプルサーマルが運転されています。MOX燃料は行き場もなく、危険性はずっと高い。それらが全て若狭の原発にあるということを再度知って頂きたく発言させて頂きました。

最後になりますが、今言いました3000トンを超える使用済み燃料を抱えているうえに、新たな使用済み燃料を動かして増やしています。立地地域の将来像の死活問題になる話をしない共想会議の欺瞞性ついて、この無責任体制の若狭の現況を報告して、皆さんとともに老朽原発を止め、安全・安心な故郷にしたいと思いますので、皆さんのお力添えを宜しくお願いしたいと思います。

※     ※     ※

原発事故避難者森松明希子さん、首都圏他全国からのアピール、関西の市民団体のアピールなどの最後に「老朽原発動かすな!実行委員会」木原壯林さんの集会アピールの提案と採択を終え、市内へのデモを行った。

「原発いらない福島の女たち」のバナーを持つ黒田節子さんと菅野みずえさん(写真提供=Eiji Etohさん)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

12月11日発売!〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』vol.30(紙の爆弾 2022年1月号増刊)

〈原発なき社会〉を求めて
『NO NUKES voice』Vol.30
2021年12月11日発売
A5判/132ページ(巻頭カラー4ページ+本文128ページ)
定価680円(本体618円+税)

総力特集 反原発・闘う女たち

[グラビア]
高浜原発に運び込まれたシェルブールからの核燃料(写真=須藤光郎さん)
経産省前の斎藤美智子さん(写真・文=乾 喜美子さん)
新月灯花の「福島JUGGL」(写真=新月灯花)

[インタビュー]山本太郎さん(衆議院議員)×渡辺てる子さん(れいわ新選組)
れいわ新選組の脱原発戦略

[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」原告共同代表)
「子ども脱被ばく裁判」 長い闘いを共に歩む

[報告]乾 喜美子さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
経産省前のわたしたち

[報告]乾 康代さん(都市計画研究者)
東海村60年の歴史 原産の植民地支配と開発信奉

[報告]和田央子さん(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
福島県内で進む放射能ゴミ焼却問題
秘密裏に進められた国家プロジェクトの内実

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
「もんじゅ」の犠牲となった夫の「死」の真相を追及するトシ子さんの闘い

[インタビュー]女性ロックバンド「新月灯花
福島に通い始めて十年 地元の人たちとつながる曲が生み出す「凄み」

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
検討しなきゃいけない検討委員会ってなに?

[報告]森松明希子さん
(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream(サンドリ)代表/原発賠償関西訴訟原告団代表)
だれの子どもも“被ばく”させない 本当に「子どもを守る」とは

[書評]黒川眞一さん(高エネルギー加速器研究機構名誉教授)
森松明希子『災害からの命の守り方 ─ 私が避難できたわけ』

※     ※     ※

[報告]樋口英明さん(元裁判官)
広島地裁での伊方原発差止め仮処分却下に関して

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈14〉避難者の多様性を確認する(その4)

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈23〉最終回 コロナ禍に強行された東京五輪

[報告]平宮康広さん(元技術者)
放射性廃棄物問題の考察〈後編〉放射能汚染水の海洋投棄について〈2〉

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
「エネルギー基本計画」での「原子力の位置付け」とは

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
問題を見つけることが一番大事なことだ

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
《追悼》長谷川健一さん 共に歩んだ十年を想う

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
チャーリー・ワッツの死に思う 不可解な命の重みの意味

[報告]佐藤雅彦さん(ジャーナリスト/翻訳家)
21世紀の国家安全保障のために原発は邪魔である!

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈14〉現状は、踊り場か後退か、それとも口笛が吹けるのか

[報告]大今 歩さん(高校講師・農業)
「脱炭素」その狙いは原発再稼働 ──「第六次エネルギー基本計画」を問う

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
コロナはおーきく低下した。今後も警戒を続ける
対面会議・集会を開こう。岸田政権・電力会社の原発推進NO!
《北海道》藤井俊宏さん(「後志・原発とエネルギーを考える会」共同代表)
特定放射性廃棄物最終処分場受入れ文献調査の是非を問う
《北海道》瀬尾英幸さん(北海道脱原発行動隊/泊村住人)
文献調査開始の寿都町町長選挙の深層=地球の壊死が始まっている
《福島》黒田節子さん(原発いらない福島の女たち)
内部被ばくが切実になっているのではないか
《反原発自治体》けしば誠一さん(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟)
脱炭素化口実にした老朽原発再稼働を止め、原発ゼロへ
《全国》柳田 真さん(たんぽぽ舎共同代表)
衆議院選挙中も、原発止めよう活動中―三つの例
《関西電力》木原壯林さん(老朽原発うごかすな!実行委員会)
老朽原発廃炉を勝ち取り、核依存政権・岸田内閣に鉄槌を!
《中国電力》芦原康江さん(島根原発1、2号機差し止め訴訟原告団長)
島根原発2号機の再稼働是非は住民が決める!
《玄海原発》豊島耕一さん(「さよなら原発!佐賀連絡会」代表)
裁判、県との「対話」、乾式貯蔵施設問題
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク、経産省前テントひろば)
島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理の責任を糾弾する!
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『科学・技術倫理とその方法』(唐木田健一著、緑風出版刊)

反原発川柳(乱鬼龍さん選)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

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筆者が社主の広島瀬戸内新聞では、12月22日(水)20時~、オンラインで以下の要領でおしゃべり会「どうなる 介護現場 働く人の処遇改善、そして利用者・ご家族の安心はどこへ」を開催します。お待ちしております。

オンラインおしゃべり会
「どうなる 介護現場 働く人の処遇改善、そして利用者・ご家族の安心はどこへ」

主催 広島瀬戸内新聞
とき:2021年12月22日(水)20時~
ミーティングID: 411 718 3285
パスコード:5N6b38

本社社主のさとうしゅういち(介護福祉士・元介護保険担当県庁マン・岸田総理の選挙区の有権者)から、介護保険制度のこれまでの経過と岸田政権がおこなおうとしている処遇改善など介護保険制度について問題提起。

そのあと、参加者との質疑応答、そしてみなさまでの意見交換をしていきます。ご発言はよりおおくの方にしていただくために原則2分以内。また、チャット機能もご活用ください。

どなたでもご参加いただけます。入退室ご自由です。顔出ししたくないかたはされなくても結構です。

趣旨 介護の「社会化」があやしくなる中でご利用者・ご家族の安心をどうつくるか?

2000年に介護の「社会化」(とくに女性を中心にご家族ばかりで介護労働を背負うのをやめる)をかかげて介護保険制度ができて21年が経過しました。

しかし、現場で働く労働者の労働条件は劣悪で慢性的な人手不足となっています。給料が低いので人手が不足する。不足するから現場の人間関係も悪化する。ますます人が定着しない、の悪循環が依然、続いています。

全産業平均(役職者抜き)の平均月収が36.6万円に対して介護職員平均は27.4万円。(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/zensedaigata_shakaihoshou/dai6/siryou1.pdf の7ページ)
そこへ、コロナ禍がおそいかかり現場の疲弊は頂点に達しています。

この間、「消費税増税」を社会保障の充実ために使うという安倍晋三さんらの触れ込みとは正反対に、利用者負担は増える一方です。たとえば、お金持ちとはいえない水準の利用者に2割負担、3割負担が導入されています。そして、利用控え、家族の介護負担が増え、当初から危惧された「保険あってサービスなし」になりつつあります。

さらに、家族の介護で人生を消耗してしまうという状況がいまや、いわゆる老老介護だけでなく、若者や子どもにもいわゆる「ヤングケアラー」として広がっています。

介護の社会化という当初の目標がますますあやしくなっています。こうした状況をどう改善し、働く人もなによりご利用者・ご家族も安心でできる介護をどうつくるか? 現状を勉強した上でざっくばらんに意見を交換したいと思います。

◆衆院選2021の前にも開催

広島瀬戸内新聞では、2022年10月7日に、オンラインおしゃべり会「介護と衆院選」を開催しています。介護現場のあり方はすべて法律で決まっています。介護現場の改善のためには衆院選への取り組みが大事という趣旨で開催させていただきました。わたくし・さとうしゅういちと、介護福祉士で衆院選2021山口4区において安倍晋三さんに挑んだ竹村かつしさん、そして関東地方の現役介護職員2名をパネラーに意見交換しています。給料の抜本的な改善は本当に共通の切実な思いであることを確認。

また、特養における夜勤の人員基準の改善をもとめる声が強く出ました。とくにユニット型ではプライバシーが守れると言われて進められてきたのですが、人員が少ない日本では目が行きにくくなって危険、などの現場を踏まえた意見が出ています。

また、「普通の会社員」という方からも、そもそも、こういう市場原理で介護をやるのは難しいのではないか?というご意見もいただきました。

今回は、衆院選2021終了後、最初の取り組みとなります。地元・広島選出の岸田総理が、自民党総裁選2021、そして衆院選2021で介護職員の給与アップを公約にして勝利したことを受けての開催となります。

◆岸田総理による介護労働者の給料アップ・改革案をどうみるか

ただし、総理が現時点で打ち出しているのは、2022年2月からの3%アップです。普通の状況であるなら3%アップはありがたい。しかし、介護職員の場合はベースとなる現在の給料が低いのです。

そして、そもそも、総理は経団連に対して労働者全体の3%賃上げを求めています。これでは、他の産業平均との格差は実額ではむしろ拡大してしまいます。たとえば広島で言えばマツダの社員のほうが一般的には介護職員より給料は高いから、一律に3%アップなら格差は拡大してしまいます。

もちろん、総理もおっしゃるとおり(本当は連合など労組がもっとガツンと取り組まないといけないのですが)、労働者全体の給料アップもマクロでみて必要ですが、人手不足解消の決定打にはならないのです。

一方で、介護労働者の給料アップを介護報酬の中だけで行うのは困難です。今までは「処遇改善加算」という形で介護報酬に上乗せして、給料アップを事業者に促してきました。

こうした中で、わたしがれいわ新選組の政策の「介護職員給料10万円アップ」をご紹介させていただくと、「たしかに介護の給料が低いのは問題だが、俺の介護保険料負担が上がるのは勘弁してくれ」といったご反応も少なくありません。今回の給料アップは補正予算で当面は行うものです。今後、恒久的な給料アップを実施する際は介護保険の枠ではなく、一般財源(税金でもいいが、れいわ新選組などが主張するお金を刷って調達するのでもよい)投入で行うべきと考えます。最終的にはやはり、公務員化(そもそも大昔は広島市でも訪問介護を公社でやっていた)をめざすべきではないでしょうか?

また、総理はITなどを導入しての効率化も打ち出しています。もちろん、ITの導入で現場が効率化するのはよいことです。しかし、それとセットで人員基準の緩和が目指されているのが大問題です。

実際に、介護施設で夜勤をしてみればわかります。わたしは、一人でグループホームのワンフロア9人を見ています。夜、あちこち徘徊されるお年寄り、心配事を何度も相談に来られるお年寄りもおられる中で、IT化したとしても、人員を削減する余地はどこにもない、と実感します。

これまで、根本的には女性の仕事だからと、与野党から結局は後回しにされてきた介護労働。総理が重視をせざるを得ない状況になったのは事実です。

いまこそ、現場の声を、利用者・ご家族の声をガツンと総理に伝えていかないといけない。総理のお膝元・広島から全国とつながりながらがんばっていきましょう。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年1月号!

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2021年の年初は、1日あたり数千人の新型コロナ感染者を出した。後手に回った政府の緊急事態宣言をうながすために、小池東京都知事の動きから始まったのは記憶に新しい。そして感染症下の政治は、従来からの政治のあり方を変えた。

すなわち、生活の外にあると思われていた政治が直接、国民諸個人に向かい合うことになったのである。それはコロナ禍を媒介に、「生政治(せいせいじ Bio-politics)=M・フーコー」として立ち顕われてきたのだといえよう。

政治が国民の生命を左右し、それゆえにかぎりなく身近なものになったのである。


◎[参考動画]小池知事 政府に“緊急事態宣言”要請へ(日テレNEWS 2021年1月2日)

◆自公時代の終わりを思わせた上半期の政治情勢

その結果、上半期の菅自民党政権にたいする批判は厳しいものになった。

北九州市議選挙、山形県知事選挙、千葉県知事選挙で自民党が敗北し、4月25日に行なわれた衆議院北海道第2区、参議院長野県選挙区、同広島県選挙区(広島は再選挙)は、いずれも野党共闘の勝利に終わった。

そして都議選挙はおおかたの予測をくつがえし、都民ファーストの善戦、自民党の復活ならずという結果に終わった。

その流れはオリンピック後の8月に行なわれた横浜市長選挙(立民の推薦候補が圧勝)までつづき、菅義偉総理の「選挙の顔」としてのショボさが、決定的に数字で顕われたのだった。


◎[参考動画]自民党「菅首相では戦えない」 横浜市長選 惨敗で(FNN 2021年8月23日)

※[関連記事]「選挙0勝4敗の菅自民党 政権交代の危機に、菅おろしが始まるぞ」(2021年4月26日)
※[関連記事]「先走って頓死か、引き延ばしてジリ貧解散か? 解散に踏み切れない自民党」(2021年4月5日) 

思い起こしてみれば、日本学術会議の任用問題で、政治と学問の独自性を理解できず、世論の猛批判をあびた菅政権は、その出発点から菅義偉個人の政治家としての資質に疑いが生じるものだった。

菅政権の成果といえるものがあるとすれば、携帯電話の料金低減ぐらいではないか。デジタル化も国民マイナンバーも、いまだ掛け声にすぎない。いやむしろ、日本がアナログ的な非効率で健全な社会であることを立証している。

無理撃ちで、内容がよくわからない「安全・安心なオリンピック」強行も、国民の分断を顕わにするものだった。

さて、人間は歳を重ねるごとに、自分の振る舞いばかりか顔にも責任を持たなければならないという。古い言葉では「男子たるもの、30になったら顔に責任を持て」などという。

けっして、生まれついての容貌を言っているのではない。いやしくも政治家たるもの、一国を導くにふさわしいパフォーマンスが必要なのだ。そこであえて、ルッキズムに踏み込まざるをえなかったものだ。


◎[参考動画]菅首相「安全安心な大会」呼びかけ 五輪開幕まであと3日(TBS 2021年7月20日)

◆政治家の風貌ではなかった菅義偉

背が低い、髪が薄い、印象が地味。などというネガティブな要素も、たとえば麻生太郎はそれを感じさせない堂々たるふてぶてしさを持っているではないか。安倍晋三は植毛とヘアマニュキアで、豊かな黒髪を見せつけているではないか。

少なくとも、菅義偉のあの死んだような目、見る人を暗くするような表情のなさ、そして自信のない者にかぎってする、内容のない激昂。たんなる美醜ではない、いずれも一国の宰相にふさわしいものではなかった。政治家らしいパフォーマンスがないのである。

それもあってか、強権的なふるまいが目立った。自分の力量に自信のない者、その責任ある立場に慣れていない者にありがちな、無法と強権である。

※[関連記事]「無法と強権の末期政権 ── 菅義偉という政治家は、もはや憐れむべき惨状なのではないか」(2021年7月16日)

このあまりにもトホホな総理の存在ゆえに、春の段階では、もはや政権交代の可能性が云々されるまでになっていた。

小沢一郎と山本太郎の動きに、その現実性が高まっていた。その意味では、安倍が菅に政権を譲った(総裁選はあったが、派閥論理で終始した)段階で、自民党も政権を奪われる可能性を感じていたにちがいない。

もはや、コロナ禍にあえて宰相となった立場に、同情すら感じられたものだ。政権批判者に「憐憫」を語らせるほど、菅政権は地に堕ちていたといえよう。

※[関連記事]「三度目の政権交代はあるのか? 小沢一郎と山本太郎の動向にみる菅政権の危機」(2021年3月9日)

わが『紙の爆弾』も政権交代の可能性を展望していた。しかるに、メディア露出戦略で、いわば政策と国民向け発信の主導権をにぎっていた小池百合子都知事への、雪崩をうった批判が生じてきた。

小池百合子を批判したのが悪いのではない。並みいる評者たちが批判の矛先を誤るほど、選挙情勢と政局は混とんとしていたのである。

※[関連記事]「《書評》『紙の爆弾』4月号 政権交代へ 山は動くのか?」(2021年3月14日)

そして政治が筋書きの見えない劇場であることを国民が知るのは、都議会選挙を待たなければならなかった。けっして筋書きがないのではない。見えないだけなのである。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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総務省は11月26日、2020年度分の政治資金収支報告書を公表した。それによると新聞業界が、自民党の清和政策研究会(安倍晋三代表)の議員を中心に146万円の政治献金を行っていることが分かった。

これらの政治献金の支出元は、日本新聞販売協会(日販協)の政治団体である日販協政治連盟である。日販協は新聞協会と連携して、再販制度を維持するロビー活動や新聞に対する軽減税率を適用させる活動の先頭に立ってきた団体である。両者は車の両輪関係にある。政治献金の詳細は次の通りである。(オレンジの背景で表示した議員は、清和政策研究会のメンバーである。)

日販協政治連盟からの献金一覧

献金額が最も多かったのは、山谷えりこ議員に対する40万円と、中川雅治議員に対する40万円である。山谷えりこ議員は、元産経新聞記者である。中川雅治議員は、国税庁調査査察部長などを経て政界に入った。国税局に強い人脈がある可能性が高い。

菅義偉首相(当時)に対しても10万円を献金している。支払いの名目はセミナー参加料である。そのセミナーはコロナウィルスの感染が拡大する昨年の12月11日に開かれた。

◆新聞1部に付き1円の募金

新聞業界による政界工作が始まったのは、1987年とする見方が有力だ。この年、中川秀直(自民、元日経新聞記者)議員らが、自民党新聞販売懇話会を結成した。この組織が、新聞業界によるロビー活動の窓口になったのである。当初のメンバーには、後に首相になる小渕恵三、森喜朗、羽田孜、小泉純一郎、と言った議員が含まれていた。石原慎太郎や小沢一郎、元NHK記者の水野清の名前もある。

日販協は、当時から新聞販売懇話会に対して政治献金を行ってきた。同会の会報『日販協月報』(1993年3月31日)によると、当時の理事が次のように政治献金の協力(募金)を販売店へ呼びかけている。

「自民党新聞販売懇話会の先生方には大変お世話になっているので、選挙の折には恩返しをするのが礼儀。そのためには交通費、文書通信費に相当な額が必要になるので、部当たり1円程度のご負担をお願いしたい」

「部当たり1円程度」とは、新聞1部に付き1円の募金という意味である。それゆえに、たとえば2000部を配達している販売店は、2000円の負担になる。3000部を配達している販売店は3000円の負担。

献金の目的は、当時導入されていた事業税の軽減措置を政治力で延長させることである。

◆メディアコントロールの温床とは

その後、自民党新聞販売懇話会の中心メンバーは、中川秀直から小渕恵三、山本一太、高市早苗といった議員になっていった。このうち山本議員と高市議員については、過去の政治資金収支報告書で、日販協政治連盟からの政治献金の受領を確認することができる。また小渕議員は、首相に就任していた時期に、新聞販売懇話会の会長を務めていた。

これらの議員は、再販制度の維持という新聞業界のアキレス腱の防衛に奔走してきた。新聞業界は経営上の弱点を政治家との関係を親密にすることによって、乗り切ってきたのである。

筆者は、このような客観的な構図が、日本の新聞ジャーナリズムを堕落させた客観的な原因だと考えている。記者個人の職能の評価や精神論は、枝葉末節であって本質的な問題ではない。癒着の構図こそが問題なのだ。

新聞研究者の故・新井直之氏は、『新聞戦後史』(栗田出版)の中で、戦前から戦中にかけて行われた言論統制のアキレス腱となっていたのが、公権力による新聞社の経営部門への介入であったことを指摘している。

販売店に山積みになった「押し紙」(広義の残紙)

新井氏は、日中戦争が原因で新聞用紙の生産高が減り続け、1938年に新聞用紙使用制限令ができたことを説明した後、「1940年5月、内閣に新聞雑誌統制委員会が設けられ、用紙の統制、配給が一段と強化されることになったとき、用紙統制は単なる経済的意味だけではなく、用紙配給の実権を政府が完全に掌握することによって言論界の死命を制しようとするものとなった」と指摘している。

新井氏は戦中の情況を現代に照らし合わせて、次のようにメディアコントロールの原理を指摘している。

「新聞の言論・報道に影響を与えようとするならば、新聞企業の存立を脅かすことが最も効果的であるということを、政府権力は知っていた。そこが言論・報道機関のアキレスのかかとであるということは、今日でも変わっていない」

◆「押し紙」が粉飾決算に該当する可能性

現在は、国策として新聞に対する軽減税率の適用、再販制度の維持、教育現場での新聞の使用を学習指導要領へ盛り込む政策、それに「押し紙」制度の黙認方針などが、メディアコントロールの温床になっている。

特に公権力が「押し紙」問題を逆手に取れば、強力なメディアコントロールの道具になる。と、いうのも新聞社の「押し紙」政策に本気でメスを入れれば、新聞社は販売収入の激減だけではなく、ABC部数の減少を招き、それに伴って広告収入の減少に直面するからだ。

さらに、「押し紙」の経理処理にも重大なグレーゾーンがある。「押し紙」が実際には販売していない新聞であるにもかかわらず、販売した新聞として経理処理しているわけだから、粉飾決算の疑惑がある。国税局から監視対象にされても不思議はない。国税局出身の中川雅治議員に献金をしてきた理由ではないか。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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◆「なんじゃこりゃ?! あの湯崎さんがトップの組織でなんでこんなことに?!」

広島県が公式Twitterで広報した「働く女性応援よくばりハンドブック」を拝見した感想です。

広島県が公式Twitterで広報した「働く女性応援よくばりハンドブック」

【働く女性応援よくばりハンドブック無料配布中!】
働く女性、働くことを考えている女性、育児中の女性、仕事と家庭の両立を希望する女性…すべての女性を応援する小冊子です♪

WEBでも読めます ⇒ https://pref.hiroshima.lg.jp/site/womanjob/ouen-handbook.html(広島県公式Twitterより)

女性が子どもを持ちながら、働くことを『よくばり』という印象を与えてしまうのではないでしょうか?

そもそも、登場人物のパパが「『私ばっかり家事と育児をしている』というけどこっちだって仕事で疲れているんだよね。夜泣きがうるさくても我慢しているし、多少は手伝っているんだから勘弁してほしいな」というのは、いつの時代の話でしょうか? そもそも子どもは二人が主体で育てるものでしょう?!「手伝う」ってなんですか?! 男性の意識も後退させてしまうものではないでしょうか?

◆「イクメン知事」から10年、広島県庁の惨状

わたくし・さとうしゅういちは、広島県庁マン時代、男女共同参画行政も担当させていただいたことがあります。

そして、わたしの県庁マン時代の末期の2009年には湯崎英彦現知事が初当選。湯崎さんは、2010年の妻の出産に際して、休暇をとり、お嬢さんの幼稚園からの迎えをするなどされて話題となりました。

当時は大阪府知事だった橋下徹さんは、当時隆盛を極めていた公務員バッシングの文脈で湯崎さんを攻撃。

広島県内でも「民間は厳しいのに知事はなにをさぼっている?!」というバッシングが年長者を中心に湯崎さんへ寄せられました。

これに対して、湯崎さんは「価値観を変えることが大事」と反論。筆者は湯崎さんの新自由主義については批判的でしたが、この点については評価していました。その後、筆者は河井案里さんと対決するために県庁を退職。それから10年。その筆者の湯崎さんへの評価の肯定的な部分をひっくり返すような事件がおきたのです。

◆バッシングに屈した湯崎さん がっかりです

広島県庁は、結果論ですが、10年前の橋下さんや年長者を中心とする皆様からの「男性が育児労働に従事することへのバッシング」に屈したといえるでしょう。男女共同参画行政担当だった県庁OBとして情けない思いで一杯です。

わたしは、「育児休暇」は「育児労働」に名前を変えるべきだ、というのが持論です。言い方を変えると、カネを稼いでくる「稼ぎ」と、育児や介護、近所付き合いなど「務め」は両方大事な労働であり、性別にとらわれずに、バランスをとりながら従事できるようにしていくのが望ましいと考えます。

湯崎さんが「価値観を変えることが大事」と10年余り前におっしゃったものですから、そういう方向へ改革するのかとおもいきや、橋下さんらに屈してしまった。こんなことなら、わたしは、2021年は4月の参院選広島再選挙よりは、11月の知事選挙でかつての上司である湯崎さんに挑むべきだったかという思いが脳裏をかすめなかったかといえば、うそになります。

◆妻側企業の女性支援にただのりする夫の勤務先企業という構図

そうはいっても、昔にくらべたら、随分と働く女性への支援策は充実したものです。しかし、問題は、それに、夫が勤務する企業がただのりしているというのが問題です。

どういうことか? 筆者は県庁を退職した今は、介護現場に勤務しています。筆者以外のほとんどが女性、という場合も多い。そのなかで、やはり、お子さんがいらっしゃる女性職員がたとえば、子どもが熱をだしたとか、制服の採寸につきあわないといけないとか、部活の応援でやすまないといけない、というのは日常茶飯事です。

そのために、子どもがいない女性、男性職員がカバーするというのはやむをえないことです。当該の女性職員を責める気はさらさらありません。
 
問題は、その女性職員の夫、そしてその勤務先企業です。たしかに、男性は家事が苦手な人はいまでも多いかもしれない。しかし、子どもを病院につれていく、制服の採寸につきあう、部活の応援にいく、なんて、別に料理や掃除ができない男性だってできることではありませんか?

いや、ふだん家事ができていないならなおのこと、「よし、こういうときこそ俺が」と自分から申し出るべきでしょう。勤務先もそうしやすい環境を整えるべき、というかむしろ上司が「お前、行ってこい」くらいいうべきところでしょう。わたしもときどき、ついつい「あそこの夫さんの勤務先企業、ええかげんにしろよ。」と心の中で吐き捨てたことがないといえば嘘になります。

こうした構図を解消するには、これ以上の「女性支援」ではなく「男性支援」が必要ではないか?そうでなければ、湯崎さんが率先して育児に従事した意味がありません。

「女性の権利向上の政策ではなく、経済界からの労働者不足の要望から出来た政策なのではないか?経営者や男性の意識改革がないのでは、女性の負担は減らないのでは?経営陣のトップや労働局のトップが実際に主夫業を実践してはどうか?」(広島市内の50代男性)との指摘はそのとおりです。

◆保育や介護の労働への評価を引き上げよう

今後とも、性別にとらわれずに、「稼ぎ」だけでなく育児労働など「務め」を果たせる社会にしようではありませんか?同時に、保育や介護などのサービスの充実は欠かせません。

東大・京大出たような高級官僚・政治家ら、男性のエライ人もまだまだ、結局は「育児、介護の価値などたいしたことはない」という価値観なのかもしれません。なら、自分でやってみるべきです。いや、「やっぱりきつそうだからやりたくない」というなら、それは大変だということです。きちんとした育児や介護への評価をすべきです。それと連動して保育士や介護職員の抜本的待遇改善をもとめます。岸田さんの3%アップではまだまだです。

筆者は、参院選2022へ向け、れいわ新選組のみなさまとともに、引き続き、育児や介護への評価の向上と従事する労働者の公務員化含む抜本的待遇改善をガツンと広島県民の皆様に訴えるものです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

7日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年1月号!

『紙の爆弾』『NO NUKES voice』今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

全日本学生キックボクシング連盟は1972年(昭和47年)10月設立。来年には満50周年を迎えるアマチュアキックボクシング界の元祖として、現存する中では世界最古のキックボクシング組織となります。

昨年はコロナ禍の影響で、春からの大学交流戦が全て中止され、今年も夏まで大会数の減少や無観客大会など制限の中で開催。現在も部活動が制限され、練習再開の目途が立たない大学もあると言い、今年は5つの大学による大会となりました。

國學院大學が18年ぶりの団体優勝。個人戦も三階級とも國學院が制覇。

優勝=國學院大學
準優勝=中央大学
第3位=創価大学
技能賞=境田建志郎(國學院3年)
喜多川賞=青木幹太(國學院2年)
ベストバウト賞=菅原佑斗(國學院4年)、高岡大(國學院2年)
最優秀選手賞=安河内大樹(中央3年)

2021年度、団体優勝は18年ぶりの國學院大學

2021年度University Kickboxing Federationトーナメント決勝戦

ライト級チャンピオン 菅原佑斗(國學院4年)
フェザー級チャンピオン 青木幹太(國學院2年)
バンタム級チャンピオン 松長雄飛(國學院3年)

2021年度、三階級のチャンピオン

2021年度、個人戦の受賞者

◎第90回全日本学生キックボクシング選手権大会 / 11月27日(土)後楽園ホール10:00~13:47
主催:全日本学生キックボクシング連盟

U-1=3R、防具無し、一定の階級毎グローブ分け有(8・10・12オンス)
U-2=2R、ヘッドギアー、レガース、膝パット着用。全階級14オンスグローブ。

2021年度UKFチャンピオントーナメント決勝戦

◆第8試合 UKFライト級トーナメント決勝 3回戦 U-1

菅原佑斗(國學院4年)vs 高岡大(國學院2年)
引分け 0-0 / 主審:長谷川隆二
副審:古居30-30. 河野30-30. 千代田30-30(三者とも菅原佑斗を優勢支持)

蹴りからパンチの攻防。差が出ない展開も、菅原のハイキックが優勢を導く流れ。菅原佑斗が勝者扱いで優勝。公式記録は引分け。

◆第7試合 UKFフェザー級トーナメント決勝 3回戦 U-1

青木幹太(國學院2年)vs 堀雄太(中央2年)
勝者:青木幹太 / KO(RSC)3R 2:51 / 主審:小林利典

堀のパンチを受けて鼻血を流す青木は打ち返していくと、堀は次第にスタミナ切れか、組み合うと体勢悪く、ヒザ蹴りを受けてノックダウンを喫する。パンチと蹴りの攻防は続くが、青木が勢いに乗り、更に組み合った際、青木のヒザ蹴りを受け続けた堀はレフェリーに止められた。

[左]ライト級決勝 菅原佑斗vs 高岡大は互角の攻防 [右]フェザー級決勝 青木幹太がヒザ蹴りで圧勝

◆第6試合 UKFバンタム級トーナメント決勝

松長雄飛(國學院3年)が計量・検診をパスし、不戦勝優勝。
10月24日準決勝、寺西勇弥(東海1年)vs 大塚豊(創価2年)は寺西が棄権、大塚が計量失格で両者脱落

◆エキシビションマッチ2回戦

松長雄飛ex大塚豊
RSC 1R 2:35 /

決勝戦で対戦していたかもしれない両者は倒しに行く本気モードで、松長雄飛のパンチで大塚豊が2度のノックダウンで終了。

バンタム級制した松長雄飛がエキシビションマッチで大塚豊を倒す

◆OBエキシビションマッチ 2回戦(2分制)

RISEライト級1位.秀樹(創価大学出身)
2012年UKFフェザー級王者、2013年UKFライト級王者、
K-1 REVOLUTION FINAL -65㎏級世界王者
EX
RISEスーパーフェザー級6位.常陸飛雄馬(東海大学出身)
2016年UKFフェザー級王者、2017年UKFフェザー級王者、
2018年 第1回世界大学ムエタイ選手権大会日本代表

プロらしさが見られたテクニックと重みある蹴りとパンチの交錯。

恒例のOBによるエキシビションマッチはRISEで活躍する佐々木秀樹と常陸飛雄馬

最優秀選手賞の安河内大樹は右ストレートで圧勝

以下、大学交流戦

◆第5試合 ウェルター級 2回戦 U-2

安河内大樹(中央3年)vs 田中良弥(拓殖2年)
勝者:安河内大樹 / TKO(RSC) 1R 0:17 /

開始早々、蹴りから接近し打ち合う中、連打から左フックヒット

◆第4試合 ライト級 2回戦 U-2

田中冴樹(創価3年)vs 川島京太郎(拓殖3年)
引分け 0-1 (18-20. 20-20. 20-20)

◆第3試合 ライト級 2回戦 U-2

三須脩平(國學院2年)vs 相原寛人(拓殖2年)
勝者:三須脩平 / 判定2-1 (20-19. 20-19. 19-20)

◆第2試合 ミドル級 2回戦 U-2 

境田建志郎(國學院3年)vs 清太陽(東海1年)
勝者:境田健志郎 / 判定3-0 (20-17. 20-17. 20-17)

◆第1試合 バンタム級 2回戦 U-2

大畑寛太(創価1年)vs 福島智洋(拓殖1年)
勝者:大畑寛太 / 判定2-0 (20-19. 19-19. 20-19)

「K-1 FIT FIGHT」拓殖大学フィットネスチームによるデモンストレーション

《取材戦記》

OBによるエキシビションマッチ出場した佐々木秀樹のセコンドは、赤ちゃんを背負った奥様が付き、ドラマになりそうな珍しい光景だった模様。それに気付かなかった私は撮っていなかった。観察力不足であった。

学生キックでは大方は4年間で終わってしまう大学生活で、4年生は卒業と就職に向けた活動に入る為、3年生でキックボクシングを辞める選手が多いようですが、早々に就職などの進路が決まると、4年生になっても続ける選手も居るようです。

試合出場した選手の一人に、卒業したらプロに行く気はあるか聞いたところ、「勿論就職です。プロには行きません。」という回答。当たり前ながら就職後は「キックは大学生活の想い出」で終わるのが普通なのでしょう。

たまに卒業後、数年経ってからプロデビューする者もいるらしく、やっぱり忘れられないキックボクシングの魅力に導かれる選手もいるようです。

昭和50年代はプロ興行のリングサイドに黒制服を着たパンチパーマの学生キックボクサーが集団で座っていたのを見たことありますが、見た目は怖かった思い出。今やこちらが歳取った上、皆優しい大学生なので、親しみ易さがあります。

大会役員にはオヤジファイトのキック版「ナイスミドル」代表の大森敏範氏や、62歳でナイスミドルに出場している元・日本ライト級チャンピオン飛鳥信也が運営を担っています。皆、キックボクシングに関りが深い人生。その飛鳥氏のお誘いを受け、些細ながら取材している次第でした。

来年は従来通り、大学交流戦を経て第91回選手権大会が開かれるようコロナの収束を願いたいものです。

ラウンドガールを務めた学生2名もリングを飾った

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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「この人、自他の区別がついてないんじゃないかな?」
最近、そんなふうに感じることが多くあった。

そこで、Facebookに以下のような投稿をしてみた。

「遠くから帰って来たのだけど、最近気になり出したことがある。それは、この社会の代行主義と忖度と人権意識について。共産主義や社会主義について語りたいわけではない。

なんか、● よかれ+● 便乗みたいな出来事が多い。たとえば、『私たちは詳しいのだから、あなたのためにこのような準備をしておきました』『あなた方があのようなことを言うので、それならばとこのような準備をしました』みたいなやつ。こちらとしては、たとえば『お金もかかるのだから相談してほしかった』とか、『感謝させたいようだが、それはあなたの希望であって、私たちの立場を口実として便乗しただけではないか』という気持ちになる。

なぜ、私を含めた相手の意向などを聞かないのだろう。本当にそれでよいと思ったのだろうか。相手の感情や思考を奪う、相手を馬鹿にした態度であり、人権侵害ではないのか。そんなことを考えてしまう。みな悪い人たちではない。だが、自他の区別がついていないのではないだろうか。もっとほかにすることややり方があるのではないか。

これが社会的な問題と言えるかどうかを知りたいので後日、余力があったら調べるやも。似たようなご経験があったり、考えたりする方が万が一いらっしゃれば、エピソードなどをお聞きしたい。自戒もこめ、近いうちにまとめてみたい。他方、今後の対策として、たとえば早めに強めに伝えるとか、新たな選択肢もあるのだろう。」

すると、女性ユニオン東京ACW2(はたらく女性の全国センター)メンバーの伊藤みどりさんが、「代行主義ですよね! これは人の力を奪う。相談員トレーニングや、かもす講座の内容も代行主義がいかに人の力を奪うかをしつこくやってます。同情するなら金くれ!」というコメントをくれた。そこで早速、伊藤さんにインタビューをさせてもらった。

2021年11月25日、ZOOMを用い、伊藤みどりさんにオンライン・インタビュー。背景は南国!?

◆個々が独自性を保ちながら力を出し合って1つの器の中にあるという連帯が「サラダ・ボウル」

── 「代行主義」とは一般的にはソ連や中国などで共産党やエリートが人民にかわって政治を動かす体制を指すようですが、日本でこの用語はどのように使われてきたかご存じでしょうか。

伊藤 日本では使う人も少ないですね。ソ連などの共産党政権の国は、レーニン主義、前衛党論。党員は人民の前衛だという(笑)。すると、党員は人民より優れていなければいけないし、何万もの人々の声を代弁しなければなりませんが、難しい。つまり、これはイデオロギーであり、党員は自分たちが最もよく共産主義を理解しているという考えであるわけです。ただし、マルクスは初期の頃、産業革命以降の労働者の置かれている、貧民街が生まれてきた状況からすれば魅力的な思想であり、皆が『共産党宣言』に引かれました。ところがレーニンが最初におこなったのは労働者優遇政策。農民は小ブルジョアジーとして置いてきぼりにされたので、反乱を起こしたんです。この農民を弾圧したり大量虐殺をおこなった後、スターリンが生まれてきました。結局、理想や夢はよかったけれど、現実は理屈通りには行かなかったんです。これがスターリン主義であり、トロツキーも邪魔だから殺してしまえ、という。自分たちの理論に反対する人にレッテルを貼ることは現代でもありますよね。

── 女性ユニオンは設立時、代行主義的でない方法をとっていたのですよね。

伊藤 国内で代行主義という意識が出始めたのは最近。女性ユニオンも最初は専従も置きませんでしたが、設立当時から多くの問い合わせがあったために人手が必要で、代行主義的なやり方は不可能でした。上部組織の全国一般の手法を含め、すべてを一緒に学ぶ。私は事務職だったので、来る人ごとに書類の作成法などを伝え、手がけてもらっていました。当事者が自分の力でやらざるをえない、ほかの人が企業に押しかけてくれるわけではない、自分が前に出ないと、一線を越えないと、ものが動かない。それがかえって、当事者が晴れ晴れとした表情で元気になることにつながっていきました。「ちょっとの勇気で笑顔」というスローガンも生まれたんです。自己肯定感ですよね。それが数をこなすうちに組合の業務に専門性が出てきてプロ化し、専従を置くことになったのですが、振り返れば郵政ユニオンなどのように専従を置かなければよかったと考えています。専従を置くと仕事が集中し、経験の差も生まれて、後から入ってきた人たちは「やってくれないんですか」と、むしろ代行を求めるようになりました。

── そこをどのように突破したのでしょうか。

伊藤 その頃、アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)傘下のサービス従業員国際組合(SEIU)との接点ができました。すると、「日本に労働組合はプロ化したものしかないと思っていたが、女性ユニオンがあると知った」と言われ、連帯を求められたんです。1960年代、アメリカの公民権運動から「サラダ・ボウル」という言葉が生まれ、個々が独自性を保ちながら力を出し合って1つの器の中にあるという連帯が、サービス提供型で金を入れれば出てくるような自動販売機型の従来の労組を批判する表現として用いられるようになりました。煮込んで溶け合わせて1つの味の鍋にする「メルティング・ポット」は同化政策だとして、「サラダ・ボウル」が求められるようになったというわけです。日本もかつて朝鮮民族にしたように、アメリカが英語を強要したことが背景にあります。そこで私も、代行主義の概念を意識しました。

── 2007年にみどりさんは「団交等でも代行主義に陥りがち」というテーマを取り上げ、福島で講演・対話をおこなっています。11年にも一橋大学フェアレイバー研究教育センターの媒体で「韓国女性労働組合では、『当事者のできることを代行しない』、ということを『組織化の絶対的な原則にしています』」などと記していらっしゃいますが、こちらについて改めて、ご説明いただけますでしょうか。

伊藤 韓国でも女性ユニオン東京を参考にユニオンができました。そこでは、個人加入の労働組合がなかったんです。その際、「組織化の絶対的原則」として、「絶対に彼女らが自らの力でできることを代わりにしないこと」と掲げられていました。これも、アメリカやオーストラリアを参考にしたもので、代行主義の否定は組合の鉄板だと実感しましたね。ブラジルの教育・哲学者のパウロ・フレイレの言葉でもありますが、人は理論・知識を植えつけられて成長するわけでなく、経験と先人の叡知を理論化したものが結びついた時に、最もよく学ぶ、というようなこと。代行したほうが早くても、全体の底上げには時間がかかっても、大切なのです。イギリスのケアワーカー、ヘルパー、介護業界の支援者も同じ。たとえその人の選んだ道が遠回りと思っても、選択を尊重すること、選択する体験を否定しないことの重要性について教材になっています。

── ACW2の相談員トレーニングでは、アドバイスの危険性やエンパワメントに関する事柄などを中心に、やはり代行しないことを重視されているかと存じます。こちらもご説明ください。

伊藤 もともと高山直子さんが成蹊大学卒業後、Eastern Michigan Universityで女性学、Wayne State Universityでカウンセリングの修士を取得して帰国後、カウンセリングをおこなっていました。Wayne State Universityはレイバーセンターのある大学で、そこで私は留学中の高山さんに会ったんです。帰国後、レイバーセンターの教育ワークショップをともにやっていて、高山さんからトレーニングに関する提案を受けました。実習も経験した高山さんだからこそという、練り込まれたトレーニング内容が評判を呼ぶことに。人の話を聞くとは何か、アドバイスはうまくいくことは限らない。選択肢のメリットとデメリットの提示、「まずい飴、辛い飴、苦い飴どれを選ぶか」、それを選んでもらうことなどですね。

── かもす講座でも、代行主義が人の力を奪うことについて、どのように伝えていらっしゃいますか。

伊藤 間違いのないことをアドバイスすることまでは批判しませんが、たとえば絶対に裁判に勝てるということは少なく、デメリットやリスクを説明しておかなければ後で恨みに変わったりもします。情報提供のしかたですね。また、何を相談しようとしているかを聴くことが8割。不明点については質問し、当事者の希望や意思を確認する。闘いたいわけでなく、有給を消化して辞めたい人もいます。疲弊してしまう人もいますよね。一生の補償をしてあげて闘わせることなどできません。金や時間が奪われて、勝つかわからなくても裁判をしたいという人もいます。さまざまな相談機関で断られ、悩みが深かったり、怒りの強い人もいますね。そのような人の話もよく聴き、共感して、相手に安心感をもたらす方法を相談員トレーニングやかもす講座で身につけることができるわけです。

◆「輝いているということは現場の人が頑張っている代えがたい姿であり、それが思い出になります」

── すると代行主義は、この社会に限らず、世界中で陥りやすい罠だと考え得るでしょうか。

伊藤 ある種、代行したほうが楽。私は女性ユニオンの専従を5年間した後、ヘトヘトになって辞めました。団体交渉申し入れ書の作成など、1人でやれば1時間で終わる作業も、当事者がおこなえば4~5時間かかります。でも、苦労した人が組合を辞めずに残る。いっぽうで、面倒くさいと言われてやむを得ず代行した相手は「ありがとうございます!」と言って辞めてしまう。代行は、してもらうほうも楽なんですね。私がカリスマ化したいわけでなく、粘り強く人間関係をつくっていかねばならず、時間がかかる。そのような立場ですることを、私がやり続けちゃいけないな、と。韓国などでも5年くらいで交代しています。先頭に立てば波風が立ち、怒りをぶつけられ、相談を受けるほうもプロのカウンセラーでもないし傷つけられてしまう。そうなったらお休みしなければ身が持ちません。

── ほかにも活動していて難しかったポイントはありますか。

伊藤 全員、特に女性は難しい。性暴力など、何かしら傷ついている人が女性には多く、癒やされていないため、甘えられる人に怒りなどをぶつけたりします。本当の敵はそこではないのに対立が起きたり。性差別を克服している国と異なり、この性差別大国では、女性中心に動くことに対する反発もすごい。ACW2を設立したのも、もっと緩やかなグループにしなければ続かないし、非正規雇用も増えていったから。1995年、日本経営者団体連盟(日経連)が『新時代の「日本的経営」── 挑戦すべき方向とその具体策』(「新時代の日本的経営」)を公表しました。女性ユニオンがスタートしたのは同年でしたが、当初は組合員の8割が正社員だったんです。経済的ゆとりがないことは、メンタル面でも深い傷を負い、闘う前提が崩れちゃう。Black Lives Matter(BLM)も30年間、底辺に置かれたもの同士が殺し合いも含めて争ってきたことが背景にありました。大衆運動は100年がかりなんです。

── そのようなことから得たことは、どのようなことでしょうか。

伊藤 私が確信を持っているのは、とにかく代行主義はダメ。代行した人の魅力だけで動いたとしても、それは本当の魅力ではない。過去を振り返ると、輝いているということはカリスマ性でなく、特定の誰かのことでもなくて、現場の人が頑張っている代えがたい姿であり、それが思い出になります。それを現在、どのようによみがえらせるのかが目下の課題です。また、過渡期として女性の問題に取り組んできましたが、特に若い男性の貧困問題をかんがみれば、セクシュアリティを超える可能性があります。

── すると運動は、どこへ向かえばいいのでしょう。

伊藤 そもそもたとえ正論でも、人は命令で動きたくないものですよね。テーマがなければ動けない、顔ぶれが変わらない、そんな運動への関心がなくなってきました。同じ思想の相手だけでなく、幅広い人と交流するのがいいですよね。

── 私もオルタナティブの実践を試みていますが、有機などの農業、農的暮らし界隈で興味深い人が多くいます。また、20代は国境の概念も薄く、とらわれていないように感じますね。

伊藤 私も20代が話を聴きに来てくれるとうれしい。彼女たちは上のすべての世代を否定していて、生まれた平成時代からひどい社会のなかで育っています。女性ユニオンの話でさえ、彼女たちにとっては生まれる前の話。10?20年前に若かった仲間たちも、すでに中年ですね(笑)。でも、性差別や雇用崩壊の状況は改善されていない。だから私は、懐かしい話をするだけでなく、なぜこのような世の中になったのかを私なりに反省しようと考えています。それを言語化することが最後の仕事だと思っているんです。

── それを書き上げたら、また伝えたいことが出てくるのでは。

伊藤 それは現時点ではわかりませんが、とにかく知らない人も物語として読めるように、雑誌『賃金と社会保障』(旬報社)に連載を寄稿しています。でも執筆しながら、資料を読みふけってしまうことも。女性ユニオンのニュースを読んでいても、復刻したいほど、組合員の貴重な体験談がキラキラしています。

── それでは最後に読者に伝えたいことなど、お聞かせいただけますでしょうか。

伊藤 『職場を変える秘密のレシピ47』(日本労働弁護団)は、アメリカの労働運動の改革を目指す草の根ネットワーク「レイバー・ノーツ」が発行した書籍の翻訳版です。 ここにも書かれているようなことを、代行主義の文化を変えるための方法として、ACW2などで実践しているので、参考にしてみてください。

── 私は最近、『無銭経済宣言── お金を使わずに生きる方法』(マーク・ボイル著・紀伊國屋書店)を実用書として大変おもしろく読みました。農水省も「半農半X」「有機」をアピールし始め、そこにしか未来への希望はないという自覚を感じます。関係性も生き方も、変えていく時なのかもしれません。

伊藤 ACW2でも地方に空き家を入手し、農業を始めるメンバーが現れました。

── 空間的には距離があっても、1人ひとりの実践が未来につながっているように感じますね。今日は、ご多用の折、本当に、ありがとうございました!

▼小林 蓮実(こばやし・はすみ)
1972年生まれ。フリーライター、編集者。労働・女性・オルタナティブ・環境 アクティビスト。月刊誌『紙の爆弾』2022年1月号に、「請求棄却で固有種絶滅の危機森林伐採問う沖縄『やんばる訴訟』寄稿。

12月7日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年1月号!

「嘘だろう!」

2021年11月4日。広島地裁前で我々「伊方原発運転差止広島裁判」原告が申請した四国電力伊方原発3号機運転差し止めの仮処分を却下するという「非常識決定」を伝える「びろーん」(俗称)にわたしは言葉を失いました。

「今回も勝てる(仮処分申請は認められる)だろう」と思い込んでいたので、ショックは倍増です。


◎[参考動画]#伊方原発3号機止まらず #広島地裁 #非常識決定(佐藤周一 2021年11月4日)

報告会場で「非常識決定」「差止ならず」を伝える「びろーん」

◆4年前とは正反対の経験

わたくし、さとうしゅういちをふくむ「伊方原発広島裁判」の原告は、4年近く前の2017年12月13日に同一の建物の前で今回とは正反対の経験をしました。このときは、地裁の建物と同じ高裁の判断を待っていました。地裁では「不当決定」が出ていたので、わたしは、諦観していました。

この日、わたしは、広島駅南口地下広場で行われていた反貧困ネットワーク広島の相談会のお手伝いに来ていましたが、

「地裁で不当決定だったものが高裁で通るわけがないだろう。まあ、俺も一応、原告で当事者だから結果は見届けにいってくるわ。」
「そうか、行ってこい。幸運を祈る。」

という会話を仲間とかわしたあと、自転車にまたがって、裁判所までかけつけたのを覚えています。奮闘してくださっている弁護団には大変失礼なことですが、そんな諦めつつ軽い気持ちで裁判所にチンタラ自転車を漕いで到着しました。

ところが、びっくり仰天。広島高裁は我々の「阿蘇山噴火が伊方原発にもダメージを与える可能性がある。」という主張を受け入れ、伊方原発の運転を差し止める決定をしたのです。

「嘘だろう! 俺は夢を見ているのに違いない。」

わたしは、頬をなんどもつねったが間違いありませんでした。

2017年12月13日の広島地裁前。うれしい誤算だった


◎[参考動画伊方原発3号機差し止めを命令!広島高裁(佐藤周一 2017年12月13日)

◆仮処分期限切れ後、新たな仮処分を申請

その後、2018年9月25日、広島高裁は裁判長がかわった結果、四国電力による異議申し立てをみとめ、伊方原発3号機運転を認めました。いっぽう、我々原告側は地裁に仮処分の期限延長を申し立てていましたが、同年26日、地裁に却下されてしまいました。そしてその直後に伊方原発は動きだしました。

しかし、2020年1月17日、今度は山口地裁で運転差し止めをもとめている原告申し立ての仮処分申請を広島高裁は認めました。裁判長により判断が分かれた形です。

その後、提訴からちょうど4年の2020年3月11日、我々広島裁判の原告も新たな仮処分を申し立てました。我々は「中学生でもわかる理屈」(河合弘之弁護士)で攻めていきました。伊方原発の耐震基準がわずか650ガルであり、一般家屋の1500ガルの半分以下の耐震性しかないこと。原子力規制委員会が基準地震動を定める考え方が「どういう地震がおきるか予知・予測できる」と考えられていた時代のもので、現在では阪神淡路大震災や熊本大震災など想定を超える地震が多数起きていることなどをデータをあげて指摘したものです。

◆非常識決定 判断から逃げた広島地裁

しかし、広島地裁は、以下の理由で我々の申し立てを却下しました。

まず、第一に原子力規制委員会が専門的知見を持って許可をしたのだから、審査基準の合理性及びその適用に過誤欠落がないかを裁判所が事後的に判断することは無理であると述べました。これは、原発について司法がその安全性を判断することを放棄したものです。

第二に、伊方原発訴訟最高裁判決は、民事差止訴訟には適用ができず、行政訴訟のみに適用があるとした。しかし、裁判所の判断不能ということであれば、行政訴訟についてもおよそ判断が不能となるはずなのに、それに限っては判断ができるというのも矛盾しています。

第三に、我々の「日本国内の地震の精密かつ網羅的な観測記録(K-NET)と比較すると、伊方原発の基準地震動650ガルというのはあまりに低すぎる」と主張したのに対して裁判所は、それぞれの地震についての震源特性、伝播特性、増幅特性を詳細に調べて補正し、比較しなければならないとしました。しかし、そのようなことはおよそ住民側にとって不可能なことであり、不可能事を住民側に押し付けるものである。しかも、プロであるはずの四国電力側でさえそのような精査は一切放棄しているのです。

また、ハウスメーカーのハウスのほうがずっと耐震性が強いこと(例えば三井ホームは5000ガル以上)及び建築基準法においても1500ガル程度までが基準地震動になっていることについても、震源特性、伝播特性、増幅特性の精密な分析、補正がないことを理由に、我々の主張をしりぞけてしまいました。

我々は、この裁判において、常識に基づいた分かりやすい問題提起をし、判断を求めたにもかかわらず、裁判所は、徒に複雑な科学技術論争を持ち込み、一知半解な理由で我々の主張を退けました。

誠に不当な決定であるとして、我々は直ちに広島高裁に即時抗告をしました。

◆地震の巣の上にある広島から最も近い原発 

伊方原発は広島から最も近い原発です。90kmくらいしかありません。瀬戸内海、そして太田川を通じて伊方原発と原爆ドームや広島駅などはつながっているのです。

そして、伊方原発の直近には中央構造線断層帯があり、豊臣秀吉の時代には大地震を起こしています。

また、これとはべつに、この地域の真下にはフィリピン海プレートが潜り込んでいるために伊方原発は地震の巣の真上にあります。広島でも時々地震がありますが、多くの場合、伊方原発周辺が震源地です。江戸時代には何度も死者を出すような大地震があったほか、最近でも2014年3月14日にM6.2の地震で伊方町において震度5弱を観測しています。江戸時代には何度もあったようなM7クラスの地震がおきれば、650ガル(震度6弱程度)の耐震基準をオーバーすることも十分ありえます。そうなれば、原発からもれた放射能が瀬戸内海、太田川経由で原爆ドームや広島駅、さらには広島市の安佐南区南部あたりまでを直撃することは十分ありえます。

以下の論文によると、潮汐にともなって塩分が太田川をかなりさかのぼっています。塩分が遡るなら放射能も遡るのです。
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00549/2013/65-02-0031.pdf

伊方原発直下を震源とするM7クラス、広島では震度5弱~5強程度で家屋には被害がないような地震でも、伊方原発では650ガルをオーバーして原発の事故で広島の市街地の大半が壊滅する、というばかげたことが起きる危険性は十分です。

そのことを訴えることも、わたくし、さとうしゅういちが2021年4月25日執行の参院選広島再選挙に立候補した理由でした。当時の立憲民主党系候補の陣営に接触して、伊方原発廃止をふくむ原発ゼロを条件にわたしが立候補をとりやめることを持ちかけようとしたのですが、陣営の方の「候補者本人が具体的な政策がわかる人ではない」とのお話をうかがい、諦め、わたしが独自に立候補したという経過があります。

◆高裁がある! 四国電力が「オウンゴール」を連発の中、諦めない

今回の広島地裁の決定は詳しくは省きますが、2000年の伊方原発運転差し止めを求めた裁判の最高裁判決よりも、法理論的には後退するものです。三権分立の意義をさらに低下させるものです。

ただし、四国電力も報道されているように、宿直職員が無断外出するという不祥事が発覚して、再稼働への準備に手間取っています。愛媛県知事は条件付き再稼働を認めるスタンスですが、四国電力が「オウンゴール」を連発しているような状況があります。今後は広島高裁の判断に望みをつなぎたいものです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

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東住吉事件の冤罪被害者・青木恵子さんが、2016年8月再審無罪判決を勝ち取ったのち提訴し闘っていた国賠訴訟は、9月16日弁護団による総括の最終プレゼンと青木さんの最終意見書の陳述を終え結審、来年3月15日の判決を待つばかりとなっていた。そんな中、裁判所が原告、被告(国と大阪府)に「和解勧告」を出すという画期的なニュースが飛び込んできた。

◆「今でも青木さんを犯人と思う」という坂本元刑事

その前に、コロナ禍で傍聴席が制限される中、筆者も傍聴できた最後の2回の法廷の様子を紹介する。

2月12日、青木さんに嘘の自白を強いた大阪府警元刑事・坂本氏の証人尋問が行われた。坂本氏は出廷にあたり、事件当時の取り調べ日誌等を読み記憶を思い直したと話していた。しかし、弁護人の質問に「いやあ、25年も前のことやからね。記憶も薄れてね」などと言い訳し、弁護人が当時の日誌を示すと「書いてあるならそうやろね」などと居直った。

次第にボソボソ小声になり、本田裁判長から「傍聴席の皆さんに聞こえるように、ちゃんと話して下さい」と注意された。また裁判長から「その取り調べ日誌はどうやって書くの?」と聞かれ、坂本氏が「その日の取り調べが終わったあと、もう一人の刑事が書く」と答え、更に「あなたも確認するんでしょう?」と聞かれ「確認する」と答えた。

日誌には、任意同行された9月10日昼過ぎ、青木さんが体を震わせ、寒いんですと訴えたり、げーげーとえづいたと書いてあった。当時青木さんは、突然の火災で愛娘を失い、食事も採れず体重が30キロ台に落ちるまで憔悴。当日も、てっきり火災の原因が判明したと思い任意同行に応じたのに、いきなり「お前が犯人だ」と坂本氏に怒鳴りつけられた。

昼食も食べられず始まった午後からの取り調べで突然、同居男性(事件で一緒に逮捕された)が娘に性的虐待を行っていたとぶつけられた。「お前だけがしらなかった」「息子も知ってたぞ」などと嘘をつき、青木さんを「もうどうでもいい。早く部屋に戻って死にたい」と、うその自供書を書かせるまで追い詰めた。

弁護団の尋問後、青木さん自身も坂本氏に質問した。「あなたは今でも私を犯人と思っていますか?」と聞いた青木さんに、坂本氏は「はい、思っています」とはっきり答えた。

その理由を坂本氏は「あんた、自供書を自分で書いたでしょ」「ほら、きれいな字で」などと、まるで近所のおっさんのような口調で話すので、再び裁判長に「証人はちゃんと証言して」と注意された。

「あなたが書かせたんでしょう」と迫る青木さんに坂本氏は「初日に気持ちよく書いたでしょう」とまで言ってのけた。

ドン! 青木さんが机を叩き、その音に坂本氏が驚く。

「あなた、(取り調べ室で)こうやったでしょう」。もう一度、ドン!

「灰皿が転んで灰が飛んだでしょう」。

自供書を書かされた9月10日と9月14日のことを、青木さんは今でも忘れられないという。

東住吉事件の冤罪被害者・青木恵子さん。2月12日大阪地裁前で

◆「この裁判を最後にして欲しい」と訴える青木さん

9月16日、弁護団がパワーポイントを使い裁判の総括を行ったあと、青木さんが証言席で最終意見書を陳述した。

大阪府警の勝手なストーリーに基づき、娘の保険金目当てに娘を殺した母親、犯人にされたこと。

再審無罪となったが、国・大阪府は反省もせず、検証もせずに今も犯人だ、違法はなかったと認めないこと、

警察、検察の違法性を明らかにして、布川事件以上に踏み込んだ判決を言い渡してください。

何故いい加減な捜査・違法な取り調べをしたのか?

なぜ再現実験をしながらも、起訴できたのか?

もう二度と冤罪に巻き込まれる人を生み出さない、仲間たちのためにも国や大阪府の違法性を明らかにさせたいとの気持ちから提訴したこと、最後に「証拠はあなたたちのものではありませんよ」と国・大阪府の代理人らを睨みつけながら訴え、陳述を終えた。

意見書で青木さんは「一番許せなかったことは、私が取り調べ室で(娘の)写真を見るのは辛いからと答えたあとに、大阪府警の代理人に『お嬢さんの写真なんてお葬式とかでもありましたよね』と言われたことです。お葬式でも見ているのだから取り調べ室でも見ることができるだろうとでも言いたかったのでしょうか。私はなんてことを言い出すのだろうかと信じられなかったです。本気で言っているのかと唖然となり、心底怒りでいっぱいです。坂本さんに『お前がやっていないというのなら、なぜ助けへんやったやん。助けれんかったことは殺したことと同じことやぞ』と言われ続けたうえで写真を見ろと言われる気持ちがかわらないのでしょうか」と訴えた。

現在、青木さんは1枚数円のチラシのポステングと集金の仕事を続けている。集会に呼ばれたり、服役中の冤罪被害者に面会に行くため、自由な時間をつくる必要があるからだ。また昨年、遠方にあった娘の墓を近所に移し、毎週1回お参りに通っている。「娘のお墓に通うことで、私の心は落ち着きます」と意見書で述べた。

今年のめぐちゃんの誕生日(10月11日)は、前日今市事件の総会に出席、翌日千葉刑務所の勝又拓哉さんの面会に訪れたあと帰阪。ケーキを買いお墓に急ぎ、真っ暗な中、ロウソクを灯しお祝いした

長期の服役で壊れた関係もある。実の息子との関係だ。息子は、青木さんの逮捕後、青木さんの両親と暮らし、何度か和歌山刑務所にも訪れていた。逮捕後、めげそうになった時、同じ部屋の女性から「残った子どもはどうするの」と言われ、我に返ったこともあり、「子ども」という言葉が青木さんを奮い立たせるキーワードになっていた。出所後行き来していた息子だが今はつきあいをやめている。

「獄中では、息子のことを考え心配して、早く会いたいとの気持ちをずっと持ち続けていました。だけど刑務所から出られて再会した息子は、すでに29才の大人となり、この26年の空白の時間が、私と息子との親子関係まで奪い去りました。(中略)お互いに分かり合うことが難しく、別々の人生を歩んでいく道を選ぶしかなく、現在はつきあいもなくなりました」と、意見書に辛い思いを語っている。

◆裁判長がはっと青木さんを見た瞬間

青木さんが意見書を陳述する間、裁判長と2人の裁判官はじっと書面を見ていた。しかし、裁判長が「はっ」と顔をあげ青木さんを見た瞬間があった。それは青木さんが以下の部分を読みあげたときだ。「私は、社会に戻れた反面、浦島(太郎)状態となり、何もわからない自分が情けなくなり、携帯電話を覚えるのにも苦労して、高速料金所でETCカードを使うことを知り、買い物に行ってもポイントカードのことを聞かれて、物価もわからずに、何もかもが理解出来なくて、一人では行動できないことに情けなくなり、プライドが傷つき、何度も刑務所に帰りたいとさえ思ってしまったのです」。

無実の罪を着せられ不当に獄中に囚われ、息子、両親にも会えない苦しい刑務所に,再び帰りたいと思ってしまうとは…。あの時、青木さんをじっとみつめた本田裁判長は、何を思ったのだろうか。

結審後の記者会見で青木さんは「裁判所の判決がおかしければ、私は法壇に上がっていく。それで刑務所に入っても後悔しない。そのときはまた取材してくださいね」と話し記者らを笑わせた。「そんなことは絶対にないだろう。この裁判長がそんな判決を出すはずはない」。わたしは、その時そう確信していた。

しかし、そんな裁判長から「和解勧告」が出されたとは?青木さんにお話を伺った。

青木 結審後に弁護士から連絡があり「和解」の話が出ていると聞きました。1回目の法廷で裁判長は「私が判決を言い渡しても、絶対に控訴、上告されてしまいます。この事件は、平成7年に始まり、来年は令和4年となり、長く続いています。これ以上長引かせないためには、和解が良いと考えました」と話されました。他にインターネットなどで、青木さんへの誹謗中傷が酷い。世間に対して「青木さんは完全無罪だ」と訴えたい。そして青木さんが訴え続けているほかの冤罪犠牲者のことにも触れたい」と。私は感動して胸がいっぱいになり、涙が溢れてきて言葉にならなかった。しばらくして「私は裁判官にじかに話されたこともないので、涙がでます。国と大阪府にはちゃんと謝って欲しい。灰色をとって無罪になりたい」と話しました。

また、裁判長の話をメモしていた私に、裁判長は「青木さんの目を見て言いたいんですが」と切り出し、裁判長と目を合わせると「私は、青木さんを『再審で無罪になった人』として裁判にかかわってきました」と話されて、また泣いてしまいました。また、裁判長が「私はいつも柄のカッターシャツですが、今日は白のシャツを着てきました」と話したことがありました。和解に向けた2回目の協議のとき、右陪審の女性はあざやかな黄色のタートルのセーター、裁判長と左陪審の男性は白のカッターシャツと黄色地のネクタイを締めてきました。

私は、青木さんが陳述を終えたあと、裁判長が青木さんの著書「ママは犯人じゃない」を掲げ、「皆で読みました」と話し、2人の裁判官も頷いた場面を思い出した。

裁判長は、白い服を着ていた青木さんに「和歌山刑務所を出た日も白い洋服だったんですね」と聞いた。

青木さんは「いいえ、その日は黄色です。めぐちゃんの好きなひまわりの色です」と答えた。

本の写真がモノクロだったため、裁判長は黄色を白と見間違えたのだ。それに対して裁判長は「すみません」と詫びたが、その後、法廷で青木さんと同じように白や黄色を身に着けるようになったのだ。そう考え、今度は私が泣かずにいられなくなった。

和解協議は、12月23日行われる予定だ。

自宅でくつろぐ青木さん。獄友・西山美香さんや支援者らにプレゼントされたぬいぐるみに囲まれて

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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