女子がメインイベント、激戦必至のNJKF 2020.4th年内最終本興行!

キックボクシングの通常興行で女子がメインイベントを務める興行は過去にもあるが、ニュージャパンキックボクシング連盟に於いては初の女子メインイベント興行。S-1トーナメント日本版、女子バンタム級はSAHOがアグレッシブに決勝戦を制す。

「今後は世界しか狙っていない」と語ったSAHO。その大きな舞台の一つは直結するタイのソンチャイプロモーター主宰のS-1世界トーナメントとなる。

今年3月、高校を卒業したばかりの社会人19歳対決は、昨年2月24日に誓が1ラウンドKO勝利しているが、今回は判定ながら誓が計3度のノックダウンを奪って王座獲得。

前回興行に続き全試合判定となったがアグレッシブな展開が続き、メインイベントも勝つ以上にメインイベントを務める責任を負っているオーラが感じられた。

◎NJKF 2020.4th / 11月15日(日)後楽園ホール18:00~20:58
主催:NJKF / 認定:NJKF、S-1ジャパン

◆第8試合 S-1レディース・バンタム級ジャパントーナメント決勝 5回戦(2分制)

SAHOの左フックでYAYAは押され気味

女子(ミネルヴァ)スーパーバンタム級チャンピオン.SAHO(闘神塾/21歳/53.2kg)
    VS
J-GIRLSスーパーフライ級チャンピオン.YAYAウィラサクレック(WSR幕張/33歳/53.3kg)

勝者:SAHO / 判定3-0 / 主審:宮本和俊
副審:中山50-47. 少白竜49-47. 和田50-47

両者はパンチから接近すると組み合ってヒザ蹴りの攻防に移る。ブレイクが掛かり離れてもパンチを打っては組み合いに移るが動きは止まることなくヒザで蹴り合う。一見地味な展開もSAHOが圧力掛ける攻勢を保ち、YAYAも首相撲へ組まれると次第にキツイ展開となっていく。劣勢のYAYAは闘志衰えないが、終了間際はSAHOのラッシュでヒザ蹴りが強くヒット、更にパンチのラッシュを掛けるも終了のゴングが鳴り、SAHOが決勝戦を制した。

体重を掛けられバランスを崩しに耐えるYAYA、スタミナを奪われる苦しさ
組み合えばヒザ蹴り、離れてパンチのSAHOがアグレッシブに出る

◆第7試合 第12代NJKFフライ級王座決定戦 5回戦

誓が攻勢を保ち、パンチ連打で出る

1位.誓(ZERO/19歳/50.8kg)vs4位.EIJI(えいじ/E.S.G/19歳/50.75kg) 
勝者:誓 / 判定3-0 / 主審:多賀谷敏朗
副審:中山49-45. 少白竜49-43. 宮本49-44

開始からローキックからパンチへ繋いでいく探り合い。サウスポーのEIJIのいきなりの左ストレートは誓にとってやり難いパンチだが、誓は蹴りの攻防からパンチを繋いでリズムを掴み、第2ラウンドにパンチ連打から左フックでノックダウンを奪う。ダメージは小さいが誓は更に前に出て圧力を掛けていく。第4ラウンドにも連打から右ストレートで2度ノックダウンを奪う。EIJIの左ストレートには最後まで油断ならないが後退気味になり、誓が攻勢を維持したまま大差判定勝利を掴み、新チャンピオンとなった。

誓が右ミドルキックでEIJIの前進を止める

◆第6試合 70.0kg契約3回戦

平塚洋二郎が蹴って出るが、しぶといマリモーは耐える

マリモー(キング/35歳/68.6kg)
    VS
J-NETWORKスーパーウェルター級チャンピオン.平塚洋二郎(タイガーホーク/38歳/69.55kg)
勝者:平塚洋二郎 / 判定1-2 / 主審:和田良覚
副審:中山29-30. 多賀谷30-29. 宮本29-30

YETI達朗(キング)が負傷欠場の為、同じジムでスーパーライト級のマリモーが代打となった。体格差で優る長身の平塚が長いリーチで圧力掛け、平塚のパンチ、ヒジ、ヒザが当て易い距離が続く。しぶとさが定評のマリモーもバックハンドブローを出したり、ガードを固めながら打ち返すヒットが評価されたか、判定は2-1に分かれるも平塚洋二郎の判定勝利。

パンチの距離では平塚洋二郎は手数圧倒にパンチで攻めるがマリモーは下がらない

◆第5試合 フェザー級3回戦

前田浩喜(CORE/39歳/57.15kg)
    VS
NJKFスーパーバンタム級チャンピオン.久保田雄太(新興ムエタイ/27歳/57.1kg) 
勝者:前田浩喜 / 判定2-0 / 主審:少白竜
副審:和田29-29. 多賀谷29-28. 宮本30-29

NJKFスーパーバンタム級前チャンピオンの前田は2018年6月24日、久保田に引分け防衛。怪我で返上後、久保田が第7代チャンピオンとなっている。新旧対決となったこの日、前田が左ミドルキックで圧力を掛け、ベテランの上手さで主導権奪う展開が続く。終盤に久保田はラッシュを掛けたが前田は凌ぎきって、結果的に僅差ながら判定勝利を掴む。

前田浩喜vs久保田雄太。前田が蹴って出て終始主導権を握る

◆第4試合 61.0㎏契約3回戦

琢磨(東京町田金子/28歳/61.0kg)vs羅向(ZERO/20歳/61.0kg) 
勝者:羅向 / 判定0-3 / 主審:中山宏美
副審:少白竜28-30. 多賀谷27-29. 宮本27-30

◆第3試合 70.0kg契約3回戦

vic.YOSHI(OGUNI/29歳/69.8kg)vsマキ・ドゥアンソンポン(タイ)
勝者:マキ・ドゥアンソンポン / 判定0-3 / 主審:和田良覚
副審:少白竜28-30. 多賀谷28-30. 宮本27-30
雄也(新興ムエタイ)負傷欠場によりマキ・ドゥアンソンポンが代打出場。

◆第2試合 66.0kg契約3回戦

宗方888(キング/27歳/65.8kg)vsちさとkissMe(安曇野/37歳/65.75kg)
勝者:宗方888 / 判定3-0 / 主審:少白竜
副審:和田30-27. 中山30-27. 宮本30-27

◆第1試合 ライト級3回戦

水本伸(矢場町BACE /26歳/60.9kg)vs木村郁翔(BIGMOOSE/19歳/60.0kg)
勝者:水本伸 / 判定3-0 / 主審:中山宏美
副審:和田30-27. 多賀谷30-27. 宮本30-27

《取材戦記》

SAHOはS-1ジャパン4人トーナメントを制したが、コロナの影響もあって、すぐにはS-1世界トーナメントなどの開催は無いでしょう。今後まだ続くであろうミネルヴァ王座防衛戦などの国内戦では負けられない戦いが続く。

闘神塾陣営に祝福されるSAHO

5連敗vs3連敗による王座決定戦は誓(ZERO)が王座獲得。勝ち上がった者同士対決ではないのは団体タイトル範疇では仕方無いところか。ダブルメインイベントと銘打っても実質セミファイナルだった誓は今後、上位王座となるWBCムエタイ日本王座挑戦まで、チャンピオンとして負けてはならない立場である。

新チャンピオンとして認定証を受けた誓

コロナ禍での興行も会場の静けさに慣れが出て来た感がある会場内。収容人数は50%のままは仕方無いところ、拍手での応援と、メインイベントではYAYAの入場時、ペンライトでの応援が目立った。紙テープ、花束贈呈禁止は華やかさが無いが、進行はスムーズにいくので今後も続くといい。

YouTubeによる生配信も実施(前回9月興行から2回目らしい)。凝った演出は無く、選手入場の際のカメラは固定カメラから。後に録画映像を見ると、遠くからズームアップでの録り方は、昔のテレビ放送時代のような映りの記憶が蘇ります。

NJKF関西エリア年内興行は11月22日(日)に大阪市住吉区民センター大ホールで「NJKF 2020 west 4th」が行われます。

年明け本興行(東京)は2021年2月12日(金)珍しい平日開催です。

来年は、コロナの影響で期限が延びている波賀宙也のIBFムエタイ世界ジュニアフェザー級王座初防衛戦が行なわれると思われるが、今ある各タイトルが放りっぱなしにならない様、話題多き興行であることを願いたい。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

【カウンター大学院生リンチ事件(別称「しばき隊リンチ事件」)続報!】《NEWS》対李信恵第2訴訟、11・24大阪地裁決戦へ圧倒的な注目を! 鹿砦社特別取材班

反差別・反原発・反天皇制などを闘う、すべての労働者、学生、市民、そして世界中の同志の皆さん(実は本通信は結構な数韓国で読まれている)! われわれは、いよいよ11・24大阪地裁における、「カウンター大学院生リンチ事件」に関連する、司法の場での最終決戦を迎える。

そもそも鹿砦社(鹿砦社だけではなく支援者の皆さん)としばき隊勢力は、何故法廷闘争に至らなければならなかったのか? 答えは簡単である。李信恵氏が同席した場で繰り広げられた、「カウンター大学院生リンチ事件」に対する賠償や治療費さえもが、事件後何年経っても被害者に1円たりとも支払われていなかったことに出発点はある。

刑事事件として2名が罰金刑を受け、2名だけではなく李信恵氏もリンチ事件被害者M君に「謝罪文」を書き、活動の自粛を申し入れながら、勝手にそれを反故にした。被害者は顔面骨折などの重傷を負わせられているのに、1円たりとも賠償や治療費の支払いさえもがなされていなかった。こんな理不尽が許されるか!

李信恵「謝罪文」(P01-P02/全7枚)
李信恵「謝罪文」(P03-P04/全7枚)
リンチ直後に出された金良平(エル金)[画像左]と李普鉉(凡)氏[画像右]による「謝罪文」(いずれも1ページ目のみ。全文は『カウンターと暴力の病理』に掲載)

くどくならないように経過説明は最小限にとどめる。すべては「リンチ被害者が何の賠償も治療費も受けていない」異常事態を回復するための訴訟を援助すること(そのためには事実関係をより詳細に取材する必要があり、取材内容は真実性・公益性・公共性に満ちていたので5冊の書籍出版となったが、鹿砦社は「リンチ事件」が持ち込まれた当時、書籍の出版など考えもしなかった)に端を発している。

「よくわからない」、「誰が何をしてたのかこんがらがる」と読者や事件にあまり詳しくない方々からは感想を聞く。そうなのだ。事柄は非常に入り組んでおり、関連人物も多数だ。国会議員から、大学教員、弁護士から、そのへんにいそうな兄ちゃん、姉ちゃんまで。よって、事件の詳細を御存知ではない方、興味のある方には是非既刊5冊(総ページ700ページ余りにもなるが)をお読みいただきたい。

ところで、皆さん! 来る11月24日は鹿砦社と李信恵氏が「本人(証人)尋問」という形で、直接対峙する局面を迎える。この裁判は原告が李信恵氏であるので原告側は李信恵氏が、鹿砦社は「棺桶に片足を突っ込んだ」(元鹿砦社社員にしてしばき隊幹部、藤井正美が勤務時間中に自分のツイッターアカウントで松岡を描写した表現)松岡ではなく、泣く子も黙る田所敏夫を証人に立てた。田所は知る人ぞ知る武闘派で、かつては国際的にもその名を知られた人物である。武闘派といっても武器を持っていたわけではない。日本人が誰も行かない紛争地帯を取材したり、海外の要人に数々のインタビューをこなし、国際配信された記事も少なくない。ただし田所敏夫はペンネームであり、本名は異なる。田所は広島原爆被爆二世であり、核発電(原子力発電と一般的に呼ばれる)や核兵器には絶対反対の立場の人間だ。自身も数々の疾病に悩まさており、今年は例年の10分の1も仕事ができなかったという。

 
リンチ直後の被害者大学院生M君

体調が悪い中ではあるが、松岡はあえて田所に証言を依頼し、田所は快諾したという。

冒頭陳述や最終陳述ではないので、田所が長時間の演説を繰り広げることはない。しかし、被爆二世としての苦しみを実感し、田所自身がこれまで仕事を通じ、または私生活で「反差別」と関わる生き方をしてきた。そのエッセンスは必ず法廷で、発揮されるものとわれわれは確信する。田所には似非反差別、偽善は通用しない。

取材班には様々な考え方の人間がいる。鹿砦社は「排除の原理」を唾棄するからだ。しかしその中にあって田所の反核・反差別・反天皇制への考えは際立っている。この3つを田所は絶対に譲らない。「天皇制を認める反差別などすべてまやかしだ」と田所は常に口にしている。

コロナ禍の中、限られたられた傍聴席でもあるので、支援傍聴を要請するも、くれぐれもご自身の健康や安全を第一にお考え頂きたい。11・24決戦の様子は数日後にはご報告できるであろう。体調不良の中、鬼気迫る決意で尋問に立つ田所敏夫を応援し、「反差別」に名を借りた偽善者どもを圧倒しようではないか!

1 尋問期日(11月24日火曜午前11時)
2 法廷番号は1007号です。
3 裁判所書記官(24民事部合議2ニ係)によれば、「整理券を配ったりする予定はない。」とのことでした。
4 当日の予定は下記のとおりです。
  午前11時~   田所敏夫(取材班キャップ。鹿砦社側証人)尋問
  午後1時20分~ 李信恵本人尋問

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

《インタビュー》冤罪被害の当事者、青木恵子さんが行う冤罪被害者支援活動

1995年に起きた「東住吉事件」の冤罪被害者青木恵子さんは、2018年再審で無罪を勝ち取って以降、全国の刑務所で服役中の犠牲者に手紙をかいたり、面会に行ったりしている。そうした活動が認められ、今回多田謡子反権力人権賞を受賞した。一方、娘を焼死させた火災は、車のガソリン漏れが原因だとしてメーカーのホンダに約5200万円の損害賠償を求めていた裁判は、控訴が棄却された。(聞き手=尾崎美代子)

── 今回の多田謡子反人権大賞受賞は、青木さんの様々な冤罪被害者への支援活動が評価されたと聞きしましたが、そうした活動を行うきっかけは?

青木恵子さんの自宅マンションで

青木 私自身、大阪拘置所、和歌山刑務所に服役中、知らない人からも支援され、そのおかげもあって無罪になれたけど、その人たちに何かを返すことはできない。また私自身が中にいて一番嬉しかったことは手紙を貰えたことなので、特別何かできるわけではないが、それくらい出来るだろうと始めました。常にレターセット持って、時間があればどこでも立ったままでも書いています。書いたら、すぐポストにいれます。

── どのくらいの方に書いています。

青木 国民救援会が支援している人が中心ですね。全員には無理ですが。例えばその人が裁判で負けたときは、「外の集会でみんながマイクもってこう話した、私はこう話した」と報告します。本人は聞けないからね。そして「負けずに闘いましょう。真実は一つだから」と書きます。私もそうでしたが、負けたとき支援者が泣いたり、怒ったりしてくれることを知ると、自分の悲しみとか消えていく気がします。また面会に行くときは1ケ月前から、刑務所に「面会させろ」とアピールするためもあり、行く前日まで毎日出します。

── 毎日? 何を書くのです?

青木 皆さんに聞かれます、「なに書くの?」と。事件のこととか聞かない。私の行動を書くの。「おはよう」や「こんにちは」から始まり、「今日は〇へ行きます」「どこの集会で話します」「今日は家でゆっくりしています」とかね。あと「あと〇日であえますね」と必ず書きますね。

例えば「今、寒いでしょう」と書く時でも、(刑務所を知っている)わたしらはその寒さというのは、いろんな言葉を言わなくてもわかるの。支援者だったら「炬燵あるの?」「暖房は?」と考えるでしょうが、私たちは何もないのをしっているから、「今年は寒いね。辛いよね。風ひかないようにね」でわかるんです。あと絵葉書だと外の景色もわかるし、切手は絶対可愛いのを貼る。切手だけでも「うわ!今こんな切手なんだ」とわかるでしょう。私がその喜びを知っているからね。

── 以前、中でケーキのパンフレットを貰ってうれしかったと話していましたね。

再審無罪を勝ち取った湖東記念病院事件の西山美香さんから送られた時計と大好きなぬいぐるみ

青木 そう。支援の方に「ケーキ食べたいわ」と書いたら、クリスマス用のケーキの申込用紙のパンフレットを送って貰いました。「食べられないのに可哀そう」と皆さん、思うでしょう?そうではない。食べられなくても目で食べるの。「今年はこんなケーキなんだ。来年は絶対外で食べるぞ」という思いになる。来年こそ、来年こそとね。

そういう活動が、じつは私も楽しいんです。人に何かをやってあげているのではなくて、手紙を書くことで私も吐き出している。私は一人だから、下手したら1日誰とも話さないから、手紙書いていたら、しゃべっている感じになるからね。面会も、私が励ましに行くというより、こっちもすごく元気になっている感じです。平野さんの弁護士が決まったときは、私まで嬉しかった。

── 平野義幸さんは徳島刑務所に入っている方ですよね。桜井さんにお聞きしました。放火殺人で無期懲役、再審を闘いたいが、弁護士も支援者もいないと。(注*2003年1月16日京都市内で起きた火災で女性が焼死した件で、同年7月31日殺人・現住建造物等放火罪で逮捕、起訴され、無期懲役が確定、現在徳島刑務所に服役中)

青木 そう。それで今回桜井さんの協力もあり、桜井さんの知り合いの弁護士さんがやってくれることが決まりました。徳島までの送り迎えは私が車でするという条件です。あとは弁護士費用の問題。ならば私が立て替えますとなりました。皆さん「すごい」というけど、私がちょっとのお金をだすことで、やってくれる弁護士がいた。私がそのお金をだせない環境だったら、「出せなくてごめんね」で終わってしまうが、出せないお金ではなかった。ならば金をだすことで1人の人が救われるのだったらと思ったんです。私は生活困ったら働けばいいが、中に入っている人は働いて稼ぐことも出来ない。自分にそのお金あるのに「人のためには出せない」というのは、私にはできない。でもそれで彼の再審無罪がかちとれ、冤罪被害者を救えたとなったら、お金じゃないでしょう?それで私が立て替えました。本人は中から必死で弁護士探しの手紙を書いていたから、これからはそれをやらなくて済む。一歩前進ですよね。これから再審に向けて弁護士がいろいろやってくれる。待たなければならない期間はあるが、これまでと比べどれだけ気が楽か。桜井さんと話していますが、これで平野さんの再審がうまく進み無罪になったら、一人の冤罪被害者を助けられたことになる。自分たちでそんなことしたことないから、してもらってばかりだったから。すでに支援者や弁護士がついて闘っている人もしんどいが、支援も弁護士もいない冤罪被害者がいるということは分かっていたが、実際目の前にいて関わったのは、平野さんが初めてだから。平野さんに初めて面会した時、「大切な人を亡くした気持ちは、青木さんならわかるでしょう」と言われ、娘のことと重なって思わず涙がでました。誰も信じなくとも、私だけは平野さんのことを信じると決めました。

── 確かにそうですね。青木さんは、そういう活動費用をつくるためにチラシのポスティングと集金のバイトをしているんですね?

青木 そうです。先日集金のバイトのミーティングで、チラシ配り1枚3.5円という、これまでよりちょっと高い仕事があったので、「私やります」と言いました。5千枚くらいまき、集金の分を足すと5万円くらいになったので、それを徳島に行く高速費用にあてます。

── 再審が始まるとよいですね。一方で、ホンダ裁判の控訴審は棄却されてしまい残念な結果となりましたが。

恵さんの遺影の隣に、青木さんのお母様、お父様の遺影

青木 一審の時は判決がわかりにくかったが、今回は負けたとはっきり分かった。その瞬間「なんだコイツ」と裁判官を見ました。私の最終陳述のとき、その裁判官は身を乗り出して聞いていたのに。向こうは20年の間に提訴できたでしょうというわけです。でも有罪で入っているとき提訴しても、裁判所は「有罪だから権利はない」と棄却するでしょう。それは裁判所が私を有罪にし続けたから、裁判所の責任でしょうと、裁判官を睨んで言いました。ホンダにも睨んで「ホンダさんに尋ねたいです。ガソリンが漏れないといわれるなら、どうか教えてください。火災の原因はなんですか? 自宅のガレージに車を止めていただけです、車は動いてないのですよ。車に原因がないなら、どこからガソリンが漏れたのでしょうか? 車しかありえませんよね? 違いますか? 再審の裁判所の判断も間違っているということですか?私が犯人だといわれるのですか? 裁判所にもお聞きしたいです。娘の無念を晴らすことも諦めて、泣き寝入りしたらよいのですか? 裁判は真実を追及して明らかにする場ではなく、大手メーカーの言い分に従って、真実を歪めてまでも逃げる道を選ぶのでしょうか?このようなおかしな判決が通るなら、正義も真実もなく、この裁判自体にも意味がなく、憤りしか感じません」と言いました。判決が出たあとも裁判官に向かって「私の意見陳述いっこも(ひとつも)聞いてなかったんですね。裁判官やめてちょうだい」と法廷出ていくまで言い続けました。桜井さんも裁判中に傍聴席から「おかしいだろ? 20年入っていたのに。裁判官やめたほうがいいよ」と怒鳴ってくれました。

── ホンダ裁判は上告して闘うということですね。それにしても桜井さんと青木さんは最強のコンビ、これからも大勢の冤罪被害者を救う活動を続けてください。私も微力ながら手伝わせていただきます。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

最新刊!『紙の爆弾』12月号!
原発なき社会を求めて NO NUKES voice Vol.25

注目のセカンドレイプ裁判始まる リツイートが差別に当たるか? 横山茂彦

11月17日、ツイッターで中傷的なイラストなどを投稿され、名誉を傷つけられたとする裁判がいよいよ開廷した。

ジャーナリストの伊藤詩織さんが漫画家のはすみとしこ氏ら(ほかリツイートした男性2名)に、計770万円の損害賠償を求めた訴訟である(東京地裁民事部、小田正二裁判長)。事件の詳細は、本通信8月24日「伊藤詩織氏がセカンドレイパーを提訴『ツイート』の『いいね』も民訴(損害賠償)の要件になるか?」を参照されたい。


◎[参考動画]伊藤詩織さん「魂を傷つけた」 中傷イラストめぐる裁判(FNN 2020年11月17日)

伊藤氏は冒頭陳述で「性被害の被害者をセカンドレイプといえる言動で攻撃する人が大勢いる。私の被害を正面から受け止めてほしい」「私が意図的に相手を陥れるためにしたと言わんばかりのイラスト」だと述べ、「なんとか被害から立ち直りたい、日常を取り戻したいという私の思いは踏みにじられた」と訴えた。被告のはすみ氏は出廷せず、答弁書で請求棄却を求めた。

はすみ氏の名誉棄損が直接的で、構成要件を満たすのは明らかだと考えられるが、リツイートが名誉棄損になるかどうか。これが最大の争点であろう。

この点について、伊藤さんは「イラストが拡散されていく様子を思い浮かべると、街を歩くことに大変な苦痛を覚え、帽子やサングラスをかけ、常に周囲を警戒するようになった」と語り、投稿拡散による被害の深刻さを訴えている。

さらに伊藤さんは「性被害の傷とトラウマを抱え回復途中の私にとって、あのイラストを見るのも、イラストについて話すことも、話しているところを他人に見られることも苦痛だった。ただ、インターネットでセカンドレイプに加担する人は大勢いる。私自身が前に進むために、そして、私と同じ被害に苦しんでいる人たちのために、裁判を始めた」と語った。

はすみ氏は今年8月、訴状について毎日新聞の取材に文書で回答している。「(イラストは)フィクションであるため、事実真実と異なって当然」というものだ。

◆根っこにあるのは、自民党の差別体質

伊藤さんは、はすみ氏ら3人のほか、自民党の杉田水脈衆院議員、元東京大学大学院特任准教授の大澤昇平氏を相手取り訴訟を起こしている。

もとは安倍総理お抱えの元TBS記者、山口敬之のレイプ事件(昨年12月18日、東京地裁民事部〈鈴木昭洋裁判長〉は山口に330万円の支払いを命じた)が発端である。その意味では、総理お抱えの物書きを刑事事件から庇護した、国策的な刑事指揮によってこじれた問題が、ここまで派生したものだ。

したがってこの裁判は、旧安倍政権および自民党、そしてその支持基盤の女性差別的な体質を、いやがうえにも暴くものとなるのだ。先進国はおろか、世界でも最低クラスの男尊女卑社会をくつがえすためにも、この問題は継続的に焦点を当てていくべきであろう。読者諸賢には、続報を約束しておきたい。

◆逃亡する杉田議員をゆるすな

そうであるがゆえに、ここで改めて問題にしなければならないのは、杉田水脈議員の「女はいくらでもウソをつける」発言である。杉田議員は当初発言そのものを否定(虚言)し、のちに議事録や証言をもとに、みずからウソを撤回せざるをえなかったものだ。

この問題は単に「女はウソをつける」発言が、女性一般の「名誉」にかかわるのではない。性暴力の被害において、女性が「ウソをつける」から捜査に対策が必要(女性捜査員の必要)であると、杉田議員は責任と権力のある政治的な場から発言したのである。その意味では、単なる差別や名誉棄損ではなく、政治的抑圧なのである。

しかもその発言を、部会のテーマが「女性への暴力の問題」であったにもかかわらず、韓国の慰安婦支援団体の代表の資金運用の疑惑(これ自体、不正使用として訴追されているわけではない)にすり替え、発言を正当化したのである。

これで杉田議員は、二度目のウソをついたことになる。百歩譲っても、女性警察官による性暴力の調査・捜査を論じている場で、他国の社会運動をあげつらうのは的外れ以外のものではない。

それよりも問題なのは、彼女が伊藤詩織さんへのセカンドレイパーとして訴訟を受けている身であることだ。性暴力の被害者から民訴を受けることそれ自体としても、議員にはふさわしからぬ言動の結果である。本通信10月2日の記事「自民党・杉田水脈議員の『女はウソをつく』発言で誰がウソをついていたのか?」参照。

そしてだからこそ、ほかならぬ女性への暴力問題を議題にした会議で「女はウソをつける」などと発言したのである。したがって、杉田発言は自己正当化の卑劣な政治的抑圧、政治倫理にもとる犯罪的な虚偽なのである。彼女が小選挙区で選ばれたのではなく(二度落選)、比例区当選の議員であることを考えるとき、この問題は自民党の自浄能力が問われている。

◆自浄能力なき自民党

ところが、自民党は言を左右して杉田問題からの逃亡をはかっているのだ。

10月13日、杉田議員の議員辞職を求めるオンライン署名を始めた「フラワーデモ」主催団体が約13万6000筆の署名を提出するため自民党本部を訪問したが、同党は署名の受け取りを拒否した。

同団体の要望に当初、自民党は野田聖子議員が対応していた。メールのやり取りで「面談をします。性暴力支援や性暴力被害にあった人たちの声は無視できない」(野田議員)というものだった。だが、この意向はくつがえされた。

野田氏は10月9日に行われたハフポスト日本版のインタビューで、署名を受け取らない理由を「署名を受けて『辞職しなさい』というのは、法律上できないこと。『辞職』と書かれている以上、私にはそういう権限もない。預かっても法律上できないことはちょっと無理です、とお伝えした」などと語っていた。ここへきて稚拙な法律論である。かたちだけでも受け取って、内部討議にかけてみればどうか? やはり自民党は女性差別政党なのだろうか。

[参考記事]
◎杉田氏「女性は嘘をつく」発言で「中傷始まった」。抗議無視する自民党へフラワーデモ参加者の怒りと涙(竹下郁子)
◎伊藤詩織さんついに提訴…杉田水脈議員が暴言連発するワケ(日刊ゲンダイ)
◎問題発言を風化させた「『逆』牛歩戦術」 杉田水脈議員は逃げ切ったのか(下)(全国新聞ネット)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

最新刊!『紙の爆弾』12月号!

6月にバズった日産自動車「社内レイプ冤罪」報道、判例でわかった複雑な事情

〈「性行為強要」は虚偽と認定 社内不倫の女性に賠償命令〉(産経ニュース)

去る6月23日、ネットでこの記事が配信されると、いわゆる「バズる」事態となった。現在までにツイッターだけでも「いいね」が1.8万件、公式リツイートが9600件超に及ぶ。ここまで大きな反響を呼んだのは、日産自動車(以下、日産)という大企業を舞台に、不倫の延長線上で虚偽のレイプ告発がなされ、訴訟に発展したという記事内容が多くの人の好奇心を刺激したからだろう。

バズった産経ニュースの記事

記事によると、日産に勤務していた男性が2016年、不倫関係にあった元部下の女性から「性行為を強要された」と会社に申告され、懲戒解雇になったという。しかし、男性の妻が「女性の申告は虚偽」と主張して女性に計1千万円の損害賠償を求めて提訴した結果、東京地裁が女性の申告を「虚偽」と認定し、不倫の慰謝料と合わせて120万円の支払いを命じたのだという。

一方、男性も日産を相手取り、雇用継続を求めて横浜地裁に提訴。2018年の時点で解雇無効の判決を受け、東京高裁も日産の控訴を退けたため、すでに復職しているという。

とまあ、この記事を見る限り、男性には「部下の女性と不倫した」という落ち度があるにせよ、不倫相手の女性の嘘のせいで一時はレイプの濡れ衣を着せられ、大企業を解雇されるなど、とんでもない冤罪被害にあったような印象だ。そのため、ネット上では、虚偽のレイプ被害を訴えたとされる女性を非難する声が飛び交った。

しかし、判例データベースで横浜地裁の解雇無効判決(2018年3月29日、岩松浩之裁判長が宣告)を入手し、内容を検証したところ、この事件には複雑な事情があることがわかった。

◆避妊具無しの性行為に苦しんだ女性

判決で認定された事実関係を順にみていこう。

レイプの濡れ衣を着せられた男性はタイ人(1970年生まれ)で、2004年8月に日産と労働契約を結び、購買企画部で働いていた。そして2013年4月、のちにレイプ被害を訴える女性(1989年生まれ)が日産に入社し、購買部に配属されたことから2人は知り合った。この時点で40代前半だった男性は、主管(いわゆる部長クラス)の地位にあり、タイに妻子があった。一方、女性は20代前半で独身だった。

では、20歳近く年齢が離れた2人はなぜ、不倫関係に陥ったのか。

きっかけは2013年7月17日、男性が使っているSNSに、女性が友達申請したことだ。これ以降、2人は連絡を取り合う仲になった。

そして2人は同月中に早くも一緒にタイに渡航している。ただ、この時点ではまだ2人は不倫関係に陥っていたわけではない。男性はタイにいる妻子に会うために、女性は当時交際していたタイ人の男性に会うために同国に赴いたのだ。2人はタイに滞在中、現地でランチを共にし、楽しげな様子で一緒に写真を撮っている。

そして帰国後も2人は一緒に食事をするなどしていたが、2013年11月1日、ついに一線を越える。出会って約7カ月になる金曜日の夜だった。

夜8時30分頃に入ったパブ。女性は男性に対し、男性遍歴を打ち明けると共にタイ人の恋人への不満を漏らした。女性はビールをグラスで2、3杯飲んでいたが、これは彼女にとって普通の飲酒量だったという。

そしてこの後、2人はパブから歩いて7、8分の距離にある、男性が暮らすマンションに向かった。その道中では、2人は身体同士を接触させた状態だった。そして部屋に入ると、2人はベッドルームで性行為に及んだ。さらに翌朝、2回目の性行為したという。

これだけ見ると、男性が女性に性行為を強要したとは認めがたいと多くの人が思うだろう。ただ、判決には、次のように記されている。

〈原告(引用者注・男性のこと)は、その際に、避妊具を使用しなかった〉

妊娠を心配した女性は3日後、病院に行き、緊急避妊剤の処方を受け、服用している。結果、妊娠はしていなかったが、翌12月頃から胸が苦しくなるなどの症状に陥った。そしてこの頃、女性は交際していたタイ人の男性と別れている。

今振り返ると、このことがのちに女性がレイプ被害を訴えるきっかけの1つになったかもしれない。

判例データベースで入手した判決には、複雑な事情が記されていた

◆上司との性行為により彼氏と別れ、身体的不調が発現

その後も男性と女性は性行為を繰り返した。女性は男性が出張中の香港を訪ね、一緒に観光名所を巡り、性行為をしたこともあったという。

しかし、2人の交際は長くは続かなかった。香港での逢瀬からまもない2014年3月21日、女性が離婚するつもりはあるのか否か尋ねたのに対し、男性は「わからない」と答え、逆に「君はどうして欲しいのか」と尋ね返した。女性はこの時、何も答えず、2人は性行為をした。しかし翌日、女性から男性に「あなたは離婚する必要はない」と言い、別れを告げたという。

こうして2人の交際は終了したが、男性は交際中、女性の裸の写真を撮影しており、この写真も入れたフォトアルバムを作成し、女性に渡している。

その後、女性は新しいボーイフレンドができたことを男性に告げた。しかし、翌年になると医療機関を受診し、「過呼吸っぽくなるので、治したい」「2年前の12月頃、上司に性的虐待、暴力を受けて、当時の彼氏との関係が悪化して別れてしまい、それ以来、過呼吸が出るようになった」と申告している。

さらに女性は男性に対し、「あなたなんて大嫌い」とのメッセージを送信したり、女性の父(女性が幼少期に女性の母親と離婚し、女性とは別に生活していた人物)が男性に対し、「女性と不適切な関係にあったことについて警察に告訴する」と告げたり、金銭を要求したりすることもあったという。2人の関係は不穏な状態になっていたようだ。

そして2105年12月、女性が日産に、「男性から意思に反する性行為を強要された」と申告する。男性は日産側に対し、これを否定したが、信じてもらえず、2016年2月4日付けで懲戒解雇されたのだ。

このような認定事実に基づき、判決は男性の行為について、次のように批判的な見解を示している。

〈部下である女子職員を自己の性欲のはけ口として扱うに等しい不適切なものであって、企業内においてこのような行為が大手を振ってまかり通ることになれば、当該企業の職場の風紀や秩序が乱され、業務に支障を来すおそれがないとは言い切れない〉

また、判決は次のように女性に被害者的側面があるように判示している。

〈A(引用者注・女性の名前)は、原告と性行為をした結果、交際相手と別れることになり、胸が苦しくなる、過呼吸といった身体的不調が発現するようになっており、その職務の遂行状況にも悪影響が生じていることが窺われる〉

実を言うと、男性は女性と性行為をした経緯について、「初めて性行為をしたのは、2013年11月1日に女性が自宅に来た時ではない。2014年1月、女性が突然に自宅を訪ねてきて、自分のことを好きだと告白し、性行為をしたのはその後のことだ」と主張しており、事実関係に争いがないわけではない。

しかし判決を見る限り、20代の独身女性がせっかく入社した大企業で上司に「性欲のはけ口」にされて人生を狂わせたことまでは事実と認め差し支えないようだ。女性が120万円の損害賠償まで命じられたうえ、報道の断片的な情報しか知らない大勢の第三者にネット上で一方的に非難されているのは気の毒だと思う。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史)。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一)13話がネットで配信中。

最新刊『紙の爆弾』12月号!
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

部落差別とは何なのか 部落の起源および近代における差別構造〈後編〉

◆三位一体論と部落解放運動

前回(11月12日)は被差別部落の起源をめぐる、井上清の功績とその後あきらかになった部落前史(古代・中世)を探究してみた。さまざまな職種の流民のほか、朝廷に結び付いていた職人集団の姿も明らかになった。それはしかし、近代の部落差別といかに結びついているのだろうか。

井上清の近代史における功績は、部落差別の根拠を明らかにした「三位一体論」であろう。部落差別は「身分」「職業」「地域」という、三つの要件で構成されているというものだ。

まずは身分である。明治4年(1871)の太政官布告(解放令=「穢多非人ノ称ヲ廃シ身分職業共平民同様トス」)で穢多解放が行なわれた。しかし百姓層の反発が大きく、明治政府は「新市民」という属性を戸籍(明治5年の壬申戸籍=現在は閲覧不可)に記すことで、身分制を温存したのである。

これらの史実から、差別意識は権力の恣意性だけではなく、民衆の意識にこそ根ざすものだといえよう。人間は差別をしたがる動物なのだ。明治中期の戸籍から「新市民」という属性は取り払われたが、在地の固定性において差別はながらく温存される。

つぎに職業である。部落民の職業は屠殺業や精肉販売業、皮革産業などに集中的で、とくに屠殺業が職業差別を受けてきた。屠殺はもともと、自家消費として各家庭でも行なわれていた(公道で死んだ牛馬を解体する権利が、穢多の特権だった)が、近代において産業化されたことで、部落差別とは相対的に独自の職業差別となっていく。すなわち屠場労働者への差別である。しかるに職業差別は清掃労働者に対するものなどもあり、これらと部落差別を同一線上で理解するのは誤りである。あくまでも部落差別は、身分差別であるとここでは指摘しておこう。

最後は地域である。部落民はその血統においてではなく、地域そのものが差別の対象になっている。70年代後半に「特殊部落地名総鑑」という書物が出版され、部落解放同盟はきびしくこれを糾弾した。部落民が自身を被差別部落出身であると宣言する「部落民宣言」は、差別に対する血の叫びとして尊重されなければならない。

そのいっぽうで、部落出身者の出自をあばくことは明確な差別行為である。同和地区が近代化され、公共住宅の家賃が極端に抑えられることなどから混住化が進んでいる。そこから部落の「解消」がもたらされるわけだが、だからこそ出自を掘り繰り返す差別も後を絶たないのである。

いずれにしても、職業や地域差による「貧困」が同和行政で「解消」されても、国民の意識の中に身分差別が温存されているかぎり、部落差別はなくならない。そうであればこそ、あらゆる機会をとらえて差別行為や差別を助長する言辞を告発し、部落差別の本質(人為性)を認識すること。そして糾弾する※ことで、社会に人権意識を広めてゆく。部落解放運動の基本はこれである。まずはここを押さえた上で、部落問題を考えていかなければならない。※糾弾権は部落民に固有の権利である。

◆表現の自由と差別

差別が表象するのは、出版・報道などの言語空間においてである。編集者や著者がナーバスになる分野といえるかもしれない。

必要なのは上述したとおり、部落差別が歴史的に形成された謂れのない差別であり、重大な人権侵害であることの認識である。そしてそれは、けっして隠蔽するようなものではなく、イデオロギー闘争として差別意識を克服する必要があることが強調されなければならない。日本のような差別的な社会の反映として、部落差別・差別意識は再生産されるからだ。

したがって、単に差別語を「使わなければよい」ということでは、けっしてないのだ。むしろ差別を助長させる言葉が文脈に顕われるのを契機に、差別と向かい合うことが肝要なのである。だから記事の文章表現においても、部落差別を想起させる言葉の使用があっても、それが部落解放の視点に立っているかどうか、ということになる。たいせつなのは「視点」であり、被差別大衆に寄り添う態度・思想である。

差別にかかわる文言を「使用禁止用語」などとして、内容を抜きに回避することこそ、差別問題を聖域化することで温存するものと言わねばならない。

◆近代における差別の構造

わたしは「日本のような差別的な社会の反映として、部落差別・差別意識は再生産される」と明確に書いた。現在ではレイシズムとして在日外国人へのヘイトクライムが横行し、コロナ禍においては感染者や医療関係者への差別、不寛容な排除の言説が行なわれている。

一部の保守派は「日本の民度は高い」などと自賛するが、これら差別の蔓延は日本社会があいかわらず、差別社会であることを冷厳に物語っているのだ。近代合理主義の定着が遅れた日本においてこそ、差別の因習は甚だしく残存しているという見方もできる。

たとえば、文化人類学的な視野から日本人は農耕社会であるがゆえに、共同体の横並び意識がある。したがって、異物や異化されたものを賤視する。あるいは劣った者を異化することで、横並びの選別意識を持っているなどと、その差別意識が解説されることがある。かならずしも間違いではないが、近代の資本制は地域共同体をほぼ解体し、その代わりに経済における差別の構造をもたらしたのだ。アトム化された諸個人においてなお、差別意識は払しょくできていない事実があるのだ。

その意味では、部落差別を封建遺制にすぎないとする安直さは批判されてしかるべきである。とりわけ、近代化と経済的な均等化において解消される、とする日本共産党の立場は決定的に誤っているといえよう。

なぜならば、部落差別ほかのあらゆる差別が景気の安全弁として機能するからだ。季節工や派遣労働者の使い捨てが、安倍政権のもとで激的に増した格差の増大を思い起こしてほしい。現代に残された部落差別は結婚差別だとされるが、経済における差別の再生産も甚だしいものがある。

部落差別および部落民の存在を経済学用語では、景気循環における相対的過剰人口の停滞的形態という。以下に、わかりやすく解説しよう。

◆競争と排除が生み出す差別

同和対策審議会答申にもとづく同和対策事業特別措置法、およびそれを継承した地域改善対策特別措置法が2002年に終了し、被差別部落をとりまく経済的環境は改善したとされる。冒頭の節で述べたとおり、同和地区における公共住宅の賃貸料の逓減による混住が進んだ。公共工事における同和対策事業枠によって、部落出身の事業者の優遇や、事業そのものによる地域環境の改善が行なわれてきた。

しかしその一方で、隠然たる差別が土木建設関連業や回収業などで行なわれているのも事実だ。そのひとつが警察による「暴力団排除条例」である。土木建設業界が暴力団組織と密接な関係にあるのは、公共事業における地元対策費(予算外の予算)によるものだが、暴力団のフロント企業と分かちがたい業者の中には部落出身者のものも少なくない。これらを一括りに排除することで、部落民の中小企業が排除される。じつは暴排条例そのものが暴力団の排除を謳いながら、同和対策事業つぶしを狙ったものでもあるのだ。

そして景気の低迷は業者間の競争を生み、競争者たちが「あのオヤジのとこは同和でっせ」と情報を流すことで、部落出身者たちを排除する。これも隠然たる差別であろう。景気循環が排除しやすい人々を競争において差別し、資本の超過利潤を生みだす労働力として、好況期には労働市場に取り込む。資本の運動は差別を必要としているのだ。

◆結婚差別および「部落の解消」

最後は問題提起である。

21世紀まで残された差別の典型として、結婚差別があるとされている。被差別地域を出てもなお、部落出身者であることを暴露される。意識的に差別を助長している人々が存在する※のも事実である。※鳥取ループなど。

それにしても、個人の血統血脈において部落出身者であることは、子々孫々まで束縛されるのだろうか。同和対策特措法が終了し、人権擁護法がそれに代わってからも、部落問題が終了したわけではない。部落出身者は部落を出てからも、出身者として差別されなければならないのだろうか。

そんな疑問を提起したのは、橋下徹元大阪(元市長)府知事の存在である。橋下氏(東京生まれ)の実家は自身が広言しているとおり東大阪八尾市の出身であり、大阪市淀川区に転じてからも同和地区で育った人だ。その橋下氏の職業は弁護士であり、出身地域から転出している。これをもって、彼の中から部落は「解消した」とは言えないだろうか。井上清の三位一体説でいえば、もはや部落差別の根拠は成立しない。

八尾市に近い同和地区で、その部落出身の娘さんが結婚差別によって自殺に追い込まれたという。その部落は同和事業対象地域(諸税の減免・公共施設の優遇・住宅料金の減免など)であることを行政に返上し、それをもって被差別部落であることを「解消」したのである。※これは筆者が現地取材で知ったことだ。

同和事業によって職業差別がなくなり、経済環境がととのった地域からも転出したのであれば、残された差別は「血統」「血脈」ということになる。この血のつながりを差別の根拠にするのは、もはや執拗な差別主義というほかにないだろう。そうであるならば部落の「解消権」というものが、果たして積極的に存在するべきなのだろうか。これが現在の疑問である。(終わり)

◎部落差別とは何なのか 部落の起源および近代における差別構造
〈前編〉  〈後編〉

◎参考URL 部落問題資料室(部落解放同盟中央本部HP)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

最新刊!『紙の爆弾』12月号!

【カウンター大学院生リンチ事件(別称「しばき隊リンチ事件」)検証のための覚書[番外篇]】《取材班座談会》対李信恵訴訟に完勝し次のステージへ進もう!「反差別」の美名の下にやりたい放題やってきた徒輩に断罪を!鹿砦社特別取材班

 
リンチ直後の被害者大学院生M君

松岡 お久しぶりです。取材班の皆さんとは一応お願いした仕事が終わりましたので、コロナもありお声がけしていませんでした。近く鹿砦社が勝訴した名誉毀損裁判で、反訴が認められなかった李信恵が別訴となった裁判の証人尋問があります(11月24日)。今回は発行人である私ではなく、取材班キャップの田所敏夫さんに証言していただくことになりました。田所さんは、あとで触れますが、このかん体調不良で、きょうは欠席です。皆さん思うところもおありだと思いますので、この問題の総括に向けてのお話ができれば、と思います。

A  まず確認しとかなきゃいけませんね。この裁判は李信恵が鹿砦社や松岡社長を誹謗中傷する書き込みをツイッターに多数書き込み、それを「やめてくれ」という弁護士さんを通じての要請も無視され、やむにやまれず訴訟に至った。もちろん原告が鹿砦社で被告が李信恵です。大阪地裁で李信恵の不法行為が認められ全面勝利し、双方控訴した大阪高裁でも鹿砦社が勝った。李信恵は上告しましたが、どういうわけか、それを取り下げ判決は確定した。このいきさつ、結構知らない人多いと思いますよ。

B  そうですね。でも大阪司法記者クラブ(大阪地裁、高裁の記者クラブ)は鹿砦社が「記者会見を開きたい」と申し入れてもすべて門前払いでしたね。だから鹿砦社が勝っても大手メディでは報道されないから、知らない人が多いのは仕方ない面はありますね。

李信恵の暴言の一部。ほんの一部でも、よくこんなにも暴言を吐けるものです(『真実と暴力の隠蔽』巻頭グラビアより)
松岡と裁判前に喫茶店で「偶然の遭遇」をしたという李信恵の虚偽のツイート

C  まったく不公平やな。「記者クラブ」が日本の報道を骨抜きにしてきたことはもはや議論の余地もない。記者クラブに入り浸っている連中は「御用メディア」「情報カルテル」の推進者ですわ。もうここまで来たから言うけど、じつは知り合いの現役朝日新聞記者(司法とは無縁)に事情を話したら、「そんなひどいことをやってるんですか! 載せたくなければ書かなきゃいいだけですよ。求めがあったら少なくとも会見の場所は確保しないと。記者クラブが恣意的に運用されればますますメディアは信頼失いますよ」って怒ってたし、同様に共同通信の記者も「最悪の対応ですわ。言葉ありません」って内緒でメッセージくれたもんな。せやから鹿砦社が自力で「事実」を伝えなあかんかった。ゆうたら失礼やけど、これでは限界がありますわ。

D  ぜんぜん反論はないな。最初の頃、取材班のメンバーの「軽さ」に、俺はしょっちゅうキレてたけど、最近はそんなこともなくなった。突然違う話のようだけど、日本学術会議への菅の介入も広義には同根なんだろうと思う。もうあちらこちらで問題が煮詰まりすぎて、鍋の底に「コゲ」が出来てる状態じゃないかと思う。もうすぐ底に穴が開くだろうよ。コロナが冬になったらまた活性化するのは、インフルエンザの流行をを見ればわかると思うけど。この国は何をやった? 「GO TOトラベル」でしょ。あとは個人の「お行儀任せ」。冬に向かって手を打たないと大拡散するのは素人でもわかる。この「素人でもわかる」常識(?)が通じないのが2020年の現実だな。だから鹿砦社の仕事を追うメディアは、今まで出てきていない。

松岡 そうでしょうか。われわれの問いかけに対しては、少数ながらも手ごたえのある反応はあったと思いますよ。元読売新聞の山口正紀さん、『週刊金曜日』元編集長・元社長の北村肇さん(故人)、大手新聞の「押し紙」告発で有名な黒藪哲哉さん、人民新聞の山田洋一さん…。企業ルポで有名な立石泰則さんも応援してくれていますね。北村さんや立石さんは少しご存知だったようですが、他の方々は私が知らせて初めて知るに至った次第です。

D  社長!

松岡 なんでしょうか?

D  そこが社長の甘さ、と言っては失礼だけど、優しさなんですよ。現状認識の上ではね。

A  ボク、ちょっと、バイトあるからこのへんで失礼します。

D  ド阿呆! こっからが本論やんか、逃げんと最後まで座っとけ!

A  は、はい(内心:やっぱりきょう来るんじゃなかったなぁ。松岡社長とDさんが議論し出すと、入っていかれへんもん)。

松岡 Dさん。続けてください。

D  少々失礼に当たるかもしれませんが、言いますよ。われわれはこの「リンチ事件」を通して「リンチはいけない」、「暴力はいけない」以上の思想的基盤を創造しえたか、否か。私の関心はそこにしかないんです。社長の純粋な思いというか、義侠心からリンチ事件・被害者M君支援は始まりましたよね。私は全く同感だしこの仕事には価値があったと今でも思っています。だけれども、5冊も本を出したわけでしょ。大手メディアには全く無視されながら。そのことに現代というか、今日この社会が包含する問題の本質が、奇しくも出たと思う。こういう仕事をやっていてこんなことを言うと、罰当たりだけど、私は大方の組織ジャーナリズムをほぼ信用していません。それがしっかり証明されたのが、李信恵の裁判では盛大に記者会見を開くけれども、リンチ被害者M君や鹿砦社が提訴しても、勝訴してもどこも取材に来ないし、記者会見すら開かせないマスメディアの姿勢。これはどう考えても〈差別〉だし〈村八分〉です。2005年に社長が「名誉毀損」容疑で逮捕された状況よりも、個別の事情はともかく、全体では明らかに悪化している。ちなみに、その「名誉毀損」事件を神戸地検からリークされて“スクープ”した、朝日の平賀拓哉という記者は、社長からの面談要請からも逃げ回ってます。自分の記事に責任を持てないのか、と言いたいですね。

B  Dさんちょっと待ってください。お説ごもっともとワシも思うし。けど今の話には重たい課題がごちゃ混ぜになってるように思うんですわ。かといって「ほなお前、わかりやすうに説明せい!」言われてもでけへん。それも事実です。

自分ら取材通じて、だいぶ勉強させてもらいました。本100冊読むよりいろんなことが頭に入ったし。あっ、本も読みましたよ。で、ワシはあれこれ言われへんから、やはりこの問題について再度問い直したいんです。そこはDさんと同じなんですわ。

D  B、おまえどっかの寺か大学院でも入って、修行したのか? どうしたんだよ、その鋭さ! 嬉しいな。若いスタッフの成長は何よりもエネルギーになりますよね社長。

松岡 そうですね。今、BさんとDさんから重い問いが投げかけられました。私もまだ不消化な部分があるので、できるだけ早い時期に“総括本”を出そうと考えていたところです。すでに賛同してくれた5人の方が寄稿してくれています。田所さんは広島被爆二世としての症状が出たのか、療養中で、先の5冊の本で、田所さんが草稿を書いてくれたのですが、今回はそれができなくて私が草稿から書かなくてはなりません。なので、すでに寄稿してくれた5人の方には申し訳ありませんが……。必ず“総括本”は出しますよ。

一同 異議なし!(拍手)

「反差別」運動の女帝の素晴らしいツイート
同上
同上

D  おいB。久しぶりに気持ちいいから、これ終わったら、お前の好きなキャバクラ連れって行ってやるよ。

B  なにゆうてるんですか! 東通り商店街も、曽根崎も、北新地も、ワシの好きやった店どこもやってませんがな!

D  そうなんかあ……

A  本当に飲食店や接客業の方々の苦労は言葉にできませんね。ところで24日、田所さんが証言するんですよね。体調大丈夫でしょうか?

松岡 田所さんには「無理をしないでください」と伝えてありますが、田所さんが「最後の仕事をしたい」と言ってくれましたので、あとは彼に任せます。責任感の強い人だし、これまでの彼の取材や記事の実績を見れば、いくら体調が悪くても、それなりの仕事をやってくれるものと信じています。それに彼は、広島原爆投下75周年の8月6日、みずからが被爆二世であることをカミングアウトされ、これまで受けてきた差別は想像を絶するものと察します。が、確かに体調は悪くても、最近の彼には鬼気迫るものがあります。「反差別」の美名の下に散々やりたい放題の李信恵やその守護神・神原弁護士らに堂々と対峙し断罪するものと信じてやみません。少なくとも私が尋問されるよりもいいと思いますよ。私なんか、ある銀行を訴えた裁判の本人尋問で、頭に血が上って書類を投げて「なんばしよっとか!」と郷里の言葉で怒鳴るほどですので(苦笑)。彼は、そんな私と違い、意外と冷静に対処する人だよ。

C  対李信恵裁判を完勝して、来年からは新しいテーマに取り組みたいですね。

松岡 そうですね。私も来年70歳になりますのでそろそろ引退を考えています。どなたか私の後継者に名乗り出てくれる人はいないでしょうか?

(一同無言のまま帰り支度を始める)

大学院生リンチ加害者と隠蔽に加担する懲りない面々(『カウンターと暴力の病理』グラビアより)

【お知らせ!】11月24日、 対李信恵第2訴訟(大阪地裁)、いよいよ最大のヤマ場、李信恵さんと田所敏夫(取材班キャップ。鹿砦社側証人)の尋問!

対李信恵第2訴訟(大阪地裁)、つまり李信恵さんが鹿砦社に「クソ鹿砦社」「鹿砦社はクソ」等々と散々誹謗中傷した訴訟(鹿砦社の勝訴)に対し、訴訟の最終局面になって反訴してきた訴訟(裁判所は別個の訴訟として処置)について次のように本人(証人)尋問が行われます。これまで、論点整理として非公開で審理が進められてきましたが、次回期日は公開の本人(証人)尋問です。多くの皆様の傍聴を要請します。

〈1〉尋問期日(11月24日火曜午前11時)
〈2〉法廷番号は1007号です。10階の法廷はちょっと大きめだったような気がします。
〈3〉裁判所書記官(24民事部合議2ニ係)yによれば、「整理券を配ったりする予定はない。」とのことでした。
〈4〉当日の予定は下記のとおりです。
  午前11時~   田所敏夫(取材班キャップ。鹿砦社側証人)尋問
  午後1時20分~ 李信恵本人尋問

李信恵さんが法廷に出て来るのは、おそらくこれが最後かな、と思います。
ぜひ傍聴お願いいたします。

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

ウェイト競技の宿命、試合に向けた最後の仕上げ、計量後のリカバリー!

◆リミット超えの試合

ボクサーやキックボクサーが最高のコンディションでリングに上がるには、計量後のリカバリーが非常に重要な役割を占める。

選手は戦うに適した階級での減量が伴なう。そして迎える試合当日朝10時、検診と計量が行われてきた。こんな時代を経てプロボクシングでは、過酷な減量によりリング禍に繋がる危険性を鑑み、1994年4月から前日計量が実施されてきた。

公開計量で秤に乗る勝次(2020年2月1日)

キックボクシングは古い時代にも前日計量が行われていた興行は存在したが、通常興行のほとんどは当日計量が長く続いてきた。前日計量ではその運営や地方の選手の宿泊費など経費増の問題があったが、最近は公開計量と記者会見を行ない、興行と選手のアピールの場として前日計量が増えてきている。

しかし、ボクシングなど観ない世間一般の人にあまり浸透していないのが、計量を経たリング上ではすでにリミットを大幅にオーバーしたウェイトで戦っていること。そこには減量からのリカバリーが影響していることを知らないことである。

そもそも試合直前に計量を行なえば最も適正な階級リミットということになるが、そこからコンディションを考慮した当日夜の試合に向けての朝計量から前日計量へ移って来たものと考えられる。

女子も堂々と秤に乗る(2020年10月24日)
計量後、早速飲料水を注ぎ込む足立秀夫(1983年1月7日)

◆計量後は何してる?

昔はファイティング原田氏やガッツ石松氏の12kg以上の過酷な減量逸話が有名だった。朝10時にトレーナーの肩を借りるようなフラフラな状態で計量器に乗り、絶食で委縮した胃のまま食べては吐き、夜7時30分以降のリング入場までによくリカバリーできたものだ。

1982年(昭和57年)頃、私(堀田)はキックボクサーのライト級ランカー、足立秀夫(西川)さんの試合当日を3回ほど同行する機会があった。毎度、減量の影響が顔に表れていた足立さん。目がくぼみ、頬がこけた状態が他の選手より明らかだった。
後楽園ホールでの計量後、足立さんは水道橋駅前の立ち食いソバ屋で天ぷらソバを食べた。一杯のソバやうどんは委縮した胃に丁度いい具合だと言う。電車で小岩のアパートに向かう間に胃が活性化し、少し落ち着きが出て来ると口数が増え、笑顔が見られるようになっていた。

当日の出場選手で同行したジムメイトのタイガー大久保さんは、栄養バランスや消化のいいものを考え、果物や栄養ドリンクやヨーグルトを持ち込んで、計量直後から帰りの電車の中まで大胆にも周りの目を気にせず食べていた。2人は更に小岩駅前のイトーヨーカ堂のレストラン街で本格的栄養補給。足立さんは出されたコップの水をまず一杯ガブ飲み。

「お姉さん、お代わり頂戴、何回も悪いからポットごと置いてって!」と大胆に頼み、不思議なぐらい何杯もゆっくり飲み続けた。

アパートに帰ると3時間ほど睡眠。これで夕方、軽く小さなオニギリ程度の食事を摂って後楽園ホールへ向かう。出発前、足立さんはヘルスメーターに乗るとライト級リミットから4kgほど増えていた。試合は20時台だった。朝の計量から試合まで密着すると長い時間だったが、選手のリカバリーの時間としては短く厳しいものと感じた。

電車の中でヨーグルトを食すタイガー大久保(1983年1月7日)
ここに来るまでにかなり水分は摂っているが更に水をガブガブ飲む(1983年1月7日)
秤に手を掛けてゆっくり乗るのが計量風景(1983年2月5日)

◆リカバリーの失敗

数名に経験談を聴かせて頂いたところ、1980年代に活躍したプロボクサーで日本スーパーフェザー級4位、ブルース京田さんは、「新人時代に当日計量をパスして、まず控室通路にある自販機の紙コップのコーラを3杯飲み、後輩と水道橋駅前の立ち食いソバ屋で天玉うどん食べて、近くのマクドナルドでコーラと一緒にレギュラーハンバーガーを4つ食べ、かなり満腹になりながら、六本木のアントニオ猪木の店でアントンリブ3本食べた。公園で休んだ後、後楽園ホール入りしたが、胃はパンパンで試合開始直前でもあまり変わらず。“ボディー打たれたらヤバい!”と思いながら試合は第1ラウンド、右ストレートでノックダウンを奪い、次に右クロスカウンターで倒しノックアウト勝利。食べ過ぎ注意の教訓を得たが、闘魂注入に猪木のリブを食べたことは精神的高揚になった」と語る。

その教訓からその後、「計量後はバナナ食べて、ステーキとパスタにして後は食べなかった!」と言い、リカバリー成功を保っていた。

更には「試合当日にステーキを食べることは、すぐにはパワーに繋がらないという意見はあるが、肉食った満足感がパワーアップした気になる!」と心理的効果を訴える。

キックボクサーの元・NKBウェルター級チャンピオン、竹村哲さんはデビュー戦での当日計量後、同日出場のジムメイトに誘われるまま、焼き肉屋に行ってしまった。
「肉ばかり思いっきり食べてしまい、夜、後楽園ホールのリングに上がるも、炭水化物をほとんど摂っておらず、1ラウンドが終わった時点で失速。めっちゃキツい展開になるも何とか判定勝ちしました!」と反省を語る。

2012年6月、NKBウェルター級王座決定戦で、乃村悟志(真門)との対戦では、2度目の王座挑戦なのに計量後のリカバリーの大失敗。

「栄養面や消化時間などの複数観点を持って、食べる物飲む物を決めていたのに計量が終わって後楽園ホールを出て、車でちょっと走ったらウェンディーズが目に入り、広告看板の“今ならビーフパティがなんと5枚!スペシャルバーガー!”があり、ついフラフラと店内に入って注文。絵柄どおり肉が5枚も入っていて、そのバーガーだけでお腹いっぱい。炭水化物は肉を挟んでる上下の薄いバンズのみ。そしたら案の定、自分でもびっくりするぐらい4ラウンドでスタミナがピタッと切れて、全く動けない最終ラウンドでボッコボコにされてしまった。アゴも折られて判定負け。試合が終わった瞬間、相手側の真門ジム山岡会長が飛んできて、『竹村君、どうした?急に動きが悪うなって。調整上手くいかんかったんか?』と心配されるも、計量後にスペシャルバーガー食べたことなど言えないし、ただ黙ってました!」と語り、ウェンディーズの迎え撃ちに遭い、乃村悟志に判定負け、「何でそんなもん食うのか!」と突っ込みたくなる失敗談であった。

計量後、リカバリーに協力するジムも多い。この後、豪華にタイ料理が並んだ西川ジム宿舎(1983年2月5日)
地方興行での計量風景(1983年9月18日)

◆前日計量が今の主流!

元・タイ国ラジャダムナン系スーパーライト級チャンピオン、石井宏樹さんが語ってくれた逸話は、「前日と当日では、当然前日計量の方が楽でした。当日計量の場合、前日にリミットまで落として当日朝に備えました。それは計量まで何も飲み食い出来ず迎えなければいけない為、夜も眠ることが出来ませんでした。前日計量では計量直前まで落とすことに集中して、計量パスした後に好きな食べ物を摂取できました。そのメリットは試合前日によく眠れるところでしょう。当日計量が当たり前で生きてきた者にとっては、前日計量の有難みったらないです。しかし、前日に計量してしまうと試合までに欲を満たしてしまう為、緊張感が薄れてしまうのは否めないです。今となってもどちらが良いのかはわかりませんが、引退した今思うことは前日計量の方が良いパフォーマンスが出来たと思います。」と語る。

確かに食事を摂って夜を過ごすなら深い睡眠がとれるというものだろう。更に翌朝がゆっくり過ごせて食事も増やせるが、これで階級リミットの意味が無くなるという意見もあるのも事実。

その計量後のリカバリーは水分摂取が大半を占めると言われる。過酷な減量をした場合、削ぎ落された体力が試合までに摂取される食事だけでは回復しないとも言われる。身体に水分が戻っても脳や神経細胞にまで行き渡るのはもう数日掛かるとも言われ、その結果、打たれ脆くなる危険もあるようだ。

タイでは朝の計量時に立会い、夜の試合で対峙すると別人かと思うほど相手の身体が大きくなっていたという話もある。

「計量パスすれば後はこっちのもの!」と言わんばかりのタイ選手の大幅リカバリーは珍しくはない。

キックボクシングに於いては未だ結論が出ないテーマであるが、大方は前日計量が選手にとって最もベストコンディションで試合に挑める環境と言えそうである。
選手経験者の数だけありそうな計量後の行方。オモロイ話は幾つもあるだろう。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩 編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』
上條英男『BOSS 一匹狼マネージャー50年の闘い』。「伝説のマネージャー」だけが知る日本の「音楽」と「芸能界」!

眞子内親王の婚儀に光明 愛は「天皇制の呪縛」に勝ったのか?

◆内親王が文書を発表

宮内庁は11月13日に、秋篠宮家の長女眞子内親王(29)と小室圭氏(29)の結婚について、内親王の気持ちをまとめた文書を公表した。

このなかで、眞子内親王は「結婚は、私たちにとって自分たちの心を大切に守りながら生きていくために必要な選択です」と強い意志を記している。しかしながら、結婚の儀の予定は「現在、具体的なものをお知らせすることは難しい状況」としている。


◎[参考動画]眞子さま お気持ちを発表 結婚は「必要な選択」(ANNnewsCH 2020年11月13日)

これを受けて、秋篠宮家および天皇陛下、上皇陛下ともに、内親王の意志を認めている(尊重して静かに見守る)という。これで今年に予定されていた婚儀は、来年以降となることが確実となった。文面は以下のとおりだ。

「一昨年の2月7日に、私と小室圭さんの結婚とそれに関わる諸行事を、皇室にとって重要な一連のお儀式が滞りなく終了したあとの本年に延期することをお知らせいたしました。新型コロナウイルスの影響が続く中ではありますが、11月8日に立皇嗣の礼が終わった今、両親の理解を得たうえで、あらためて私たちの気持ちをお伝えいたしたく思います。前回は、行事や結婚後の生活について十分な準備を行う時間的余裕がないことが延期の理由である旨をお伝えいたしました。それから今日までの間、私たちは、自分たちの結婚およびその後の生活がどうあるべきかを今一度考えるとともに、さまざまなことを話し合いながら過ごしてまいりました。私たちの気持ちを思いやり、温かく見守ってくださっている方々がいらっしゃいますことを、心よりありがたく思っております。一方で、私たち2人がこの結婚に関してどのように考えているのかが伝わらない状況が長く続き、心配されている方々もいらっしゃると思います。また、さまざまな理由からこの結婚について否定的に考えている方がいらっしゃることも承知しております。しかし、私たちにとっては、お互いこそが幸せなときも不幸せなときも寄り添い合えるかけがえのない存在であり、結婚は、私たちにとって自分たちの心を大切に守りながら生きていくために必要な選択です。今後の予定などについては、今の時点で具体的なものをお知らせすることは難しい状況ですが、結婚に向けて私たちそれぞれが自身の家族とも相談をしながら進んでまいりたいと思っております。このたび私がこの文書を公表するにあたり、天皇皇后両陛下と上皇上皇后両陛下にご報告を申し上げました。天皇皇后両陛下と上皇上皇后両陛下が私の気持ちを尊重して静かにお見守りくださっていることに深く感謝申し上げております」

いっぽう、ニューヨークのフォーダム大学に留学中の小室圭氏は、10月5日に29歳の誕生日を迎えた。2018年8月に渡米し、ニューヨーク州の弁護士資格の取得を目指す小室氏は、来年の夏には卒業の見込みである。現在は3年にわたる留学の最終年ということになる。

小室氏は成績も上位に入り、論文が法律専門誌に掲載されるという快挙も達成している。すなわち、ニューヨーク州弁護士会のビジネス法部門が刊行する『NY Business Law Journal』(19年夏号)に、学生ながら論文が掲載されたのである。査読のある論文が専門誌に掲載されるということは、たとえば小室氏が大学院の博士課程の単位を取得した場合、博士論文を執筆する資格が得られるのだ。弁護士資格はもちろんのこと、アメリカの法学界に位置を占めることも可能なのである。

◆反対派が画策する「なりふり構わない“強行策”」

いずれににても、メディアによる小室氏の母親の「400万円の借金問題」が障壁になっていた婚儀は、皇室全体の理解を得られたことになる。

既報のとおり、秋篠宮家においては、11月8日に「立皇嗣(りっこうし)の礼」が無事に終わり、眞子内親王の動静が注目されるところとなっていた。

というのも、今年9月に紀子妃は誕生日の文書に「長女の気持ちをできる限り尊重したいと思っております」と記し、眞子内親王の気持ちに大きく歩み寄っていたからだ。

しかしながら、小室氏との結婚にたいしての秋篠宮夫妻の考えは、あまり変わっていないという観測もある。つまり否定的なものがあるというのだ。

「たしかに紀子さまは、コロナ禍のステイホーム期間を利用し、眞子さまとの親子関係改善に努められてきました。紀子さまが呼びかけられた防護服づくりのボランティアや専門家とのオンライン懇談に、眞子さまも参加されたのです。その結果、一時は“対話拒否”状態だった眞子さまもだんだんと耳をかたむけるようになられたのですが、これも紀子さまの作戦といえます。儀式の延期により “結婚宣言”を先延ばしにしつつ、眞子さまが小室さんとの結婚を諦めるよう、紀子さまは地道な説得を続けてこられたのです」(宮内庁関係者、11月13日「女性自身」オンライン)。

こうしたコメントを、秋篠宮夫妻の真意と取るのか、宮内庁の「空気」と読むのかは難しいところだ。宮内庁関係者はこう続けている。

「眞子さまの小室さんを思うお気持ちは、紀子さまが想像されていた以上に揺るぎないものだったのです。紀子さまは9月の文書で、眞子さまとの対話は『共感したり意見が違ったりすることもあります』と語られていますが、その後、どんなに対話を重ねても“意見の違い”は埋まらなかったのです。むしろ、紀子さまの露骨ともいえる引き延ばし策に気づかれた眞子さまは、不信感を強めていらっしゃいます。眞子さまは小室さんとの結婚という悲願をかなえるため、なりふり構わない“強行策”を準備されているようです」(前出)。

思わせぶりなコメントだが、根拠はないでもない。

女性皇族の結婚はそもそも私的な事柄であって、「納采の儀」や「告期の儀」も宮家の私的な行事である。男性皇族の結婚とは違って、皇室会議にはかる必要もないのだ。

つまり「なりふり構わない“強行策”」とは、本通信で何度か指摘してきたとおり、皇族離脱をもって自由結婚をすることにほかならない。

だが、今回の秋篠宮夫妻が眞子内親王の意志を尊重することをもって、二人の自由恋愛結婚は何はばかることなく実現されるのだ。上記の宮内庁関係者の「なりふり構わない“強行策”」なる「杞憂」こそが、婚儀反対派の代弁にほかならないことを、ここから先の婚儀手続きの進行は明らかにすることだろう。

そして「ふたりの愛」は宮内庁内部の守旧派、皇室ジャーナリズム内部の墨守派に「勝った」のだと指摘しておこう。

この「愛の勝利」は皇室および皇族をいっそう民主化し、天皇制そのものが激変する可能性を胎動させる。敬宮愛子内親王が天皇に即位する可能性、悠仁親王にたいする秋篠宮家の自由主義教育に批判的な勢力の、おびえる姿が見えるようだ。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

最新刊!『紙の爆弾』12月号!

《NO NUKES voice》 116カ月目の飯舘村はいま …… 飯舘村の〝測定の鬼〟伊藤延由さんが「杉岡村長」に期待すること 民の声新聞・鈴木博喜

6期24年にわたって〝君臨〟した菅野典雄(かんの のりお)氏が勇退。元役場職員の杉岡誠(すぎおか まこと)氏が新たな村長に就任した飯舘村。原発事故発災から9年半が経ち、放射能汚染や被曝リスクに関する報道は激減。それを表だって口にする人も減った。その流れに抗うように空間線量率や土壌の放射能濃度を測り続けているのが伊藤延由(いとう のぶよし)さんだ。周囲から〝測定の鬼〟と一目置かれる伊藤さんは40代の杉岡村長に何を期待するのか。

「汚染や被曝リスクについて、役場はきちんと情報公開するべきです。われわれ、じじばばと比べると子どもは放射線に対する感受性が20倍も30倍も高いんですよ。そういう話を村民にきちんとして、その上で一人一人が判断するべきなんです。リスクについてきちんと説明して、そこから先は自己判断で良いと思います。だって、あそこで採ったイノハナは1万Bq/kg、サクラシメジは2万3000Bq/kgですよ。もちろん、キノコの種類によっても地形によっても土の種類によっても放射能濃度は異なりますが、それが原発事故から9年7カ月経った飯舘村の実情です」

杉岡村長が初登庁した10月27日朝、伊藤さんは村役場の駐車場で周囲を見渡しながらそう話した。

「新しい村長は放射能汚染と被曝リスクについてきちんと情報発信して欲しい」と期待する伊藤延由さん

震災・原発事故の発生以来、一貫して村政を担って来た菅野典雄氏はこれまで、「放射線に対する考え方は百人百様」と口では言いながら、被曝リスクに正面から向き合って来なかった。

一方で、「全村避難をさせられた我々は被害者。しかし、(加害者側にも)出来ない事はいっぱいある。加害者と被害者という立場だけでは物事は進まない」と公言。原発事故の加害当事者である国や東電についても「道路整備にお金を充てようとするなど、一生懸命に国は考えてくれた」、「東京電力さんは今日も駐車場の整理をしてくれている」(2017年1月の「いいたて村民ふれあい集会」での発言)と口にして来た。

月刊誌『自然と人間』(自然と人間社)2017年5月号に掲載されたインタビューでも、村の復興について「まず住民の被害者意識をどれだけ取り払うことができるか」、「『箱物行政』と批判したければいくらでも言ってください」、「国からも東電からもかなりのことをやってもらっています」と語っている。その時点での村の汚染や被曝リスクについては盛り込まれていなかった。

だからこそ、伊藤さんは「まずは情報公開だ」と語る。

「『放射能に対する考え方は100人いれば100通りある』は前村長の菅野典雄さんの言いぐさ。『伊藤さん、あんたが言っている事が全部正しいってわけじゃ無いんだからね』とも言われたよ。でも、だったら菅野さんが言うのも正しくないよね。要は、この放射能環境をどう見るかという事です。私自身が村で暮らしていて言うのも何だけど、本来、飯舘村には人が住んじゃいけないでしょ。『帰還困難区域の長泥を除染しないで避難指示解除する』という事だけがクローズアップされているけれど、じゃあ、他の19行政区は良いのかとなってしまう」

汚染や被曝リスクに向き合ってこなかった前村長の菅野典雄氏

飯舘村は2017年3月31日、全20行政区のうち長泥行政区を除く19行政区の避難指示が解除された。では「避難指示解除」イコール「被曝リスクゼロ」なのか。伊藤さんは疑問視している。

「長泥を除染しないで解除する、というのは逆の意味で全然問題無いんです。実は他の19行政区の土壌を測ると、汚染レベルは長泥と同じなんですよ。特に山の環境はね。だから飯舘村そのものが汚染されているんです。山を歩いてみてください。学校裏で採れたサクラシメジやイノハナの土を測ると9万Bq/kgですよ。19行政区の平均は4万2000Bq/kg。長泥はさすがに若干高くて4万7000Bq/kg。それくらいの差しか無いんですよ。だから飯舘村の放射能環境って本来、ものすごく悪いんです。今度の村長は『放射線防護の三原則についてはしっかり学んできました』と言っているので、きちんとやってくれると思って期待しています」

もちろん、前村長の言う通り、放射線による被曝リスクについての考え方は人それぞれ。そして、情報の出し方についても様々な考え方がある。ある村民は「俺はあんまりきっちりやってもらいたくねえ。あんまり情報公開されちゃうと、復興が止まっちまうもん。全然進まなくなるもん。悪い情報って本当に伝わりやすいからなあ」と苦笑した。それでも、伊藤さんは「村民の自己判断のためにも現状をきちんと発信するべきだ」と語る。

「『変な情報発信する事によって風評被害を招く』は内堀雅雄知事の決め台詞。『風評被害、風評被害』ってね。でも、やっぱり事実は事実としてきちんと情報公開をするというのが大前提ですよ。その上で『自生の山菜やキノコは食べないでください』、『食べてはいけない理由はこうですよ』と。杉岡村長には、そういう事を役場職員とか村議会議員に教育して欲しいんだ。これまでの村長は『私は放射能については勉強してませんから』と言っちゃう人だったから。だったら勉強しろよって思う。村民は放射能の被害を感じていないんですよ。色も形も匂いも無いから。法に基づいた情報公開をきちんとやって、どう判断するかという知識も住民に与えるというのが原発事故被災自治体の果たすべき責任だと思います。そこから先は自己判断。人それぞれで良いと思う。それすらやらないで、悪い事ばかり言われるから情報を出さないのは違うと思う」

村政を担う以上、被曝リスクばかり重視するわけにはいかない事も理解している。「もし杉岡村長が僕のような考えで進めたら村そのものが成り立たない」と伊藤さん。「ただ、看板などで被曝リスクについて注意喚起をする事は出来るでしょう。杉岡村長の言う『情報公開』の中にはそういうものも含まれると思いますよ」

杉岡村長は役場に初登庁した10月27日、筆者に次のように答えた。

「私は(日本大学理工学部物理学科で)物理学をやってきた人間なので、そこにもの(放射性物質)があるという事をきちんと認識をして、放射線防護の三原則(被曝時間の短縮、遮へい、線源との距離)がありますが、それを皆がきちんと知識として持ちながら、作物への吸収抑制なども知らないでやるのではなくて知った上で自分たちの努力を積み重ねていく事が必要だと考えています。もちろん情報はきちんと出します。もちろん情報公開します。情報を一方的に出すだけだと『どうすれば良いんだ』という話になりますので、情報はしっかり出すが、その情報の捉え方や対策方法なども一緒に発信していきたい」

今日も村の現実を測り続ける伊藤さん。新しい村長は放射能汚染の現実ときちんと向き合うのか。厳しい眼差しでみつめている。

新たに村長に就任した杉岡誠氏は、汚染や被曝リスクに関する情報発信を約束した

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

最新刊!『紙の爆弾』12月号!
NO NUKES voice Vol.25
私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!