横浜副流煙事件「反訴」、平田晃史裁判官に対する忌避申立で中断 黒薮哲哉

横浜副流煙事件が、原告による忌避(きひ)申立で中断している。忌避申立とは、裁判官が公平中立に裁判を進行させない場合、裁判官の交代を求める法手続きである。

既報してきたように横浜副流煙事件は、煙草の副流煙による健康被害をめぐり、同じマンションに住む住民同士が、横浜地裁を舞台に繰り広げている事件である。発端は2017年11月。Aさん一家(夫、妻、娘)は、下階に住む藤井将登さんに対して、副流煙で健康被害を受けたとして4518万円の支払いを求める裁判を起こした。警察もこの住民トラブルに介入した。

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

しかし、横浜地裁はAさん一家の訴えを棄却した。Aさん一家の体調不良の原因が、将登さんの煙草の煙に因果するという証拠がないのが棄却理由である。Aさんは東京高裁に控訴したが、高裁も訴えを棄却した。

将登さんと妻の藤井敦子さんは、勝訴が確定した後、Aさん一家と裁判に積極的に関与した日本禁煙学会の作田学理事長に対して、不当な裁判提起により経済的・精神的な苦痛を受けたとして、約1000万円の支払を求める裁判を起こした。俗に言う反スラップ訴訟で、現在、横浜地裁で審理が続いている。

ちなみに将登さんが煙草を吸っていた場所は、自宅の音楽室である。ベランダで煙草を吸っていたわけではない。音楽室は防音のために二重窓になっており、煙は外部へはもれない。しかも、1日の喫煙量は、2、3本程度である。

◆尋問に耐えうる客観的な証拠

この裁判を担当しているのは、平田晃史裁判官である。裁判は順調に進み、2023年2月には、作田医師と藤井敦子さんに対する尋問が行われた。当初、平田裁判官は、A夫も尋問の対象にする予定だった。ところがA夫の代理人である山田義雄弁護士が、A夫の体調不良を理由に尋問の免除を申し出た。

これに対して平田裁判官は、A夫の出廷が困難であることを立証する診断書を提出するように命じた。しかし、山田弁護士は診断書を提出しなかった。その理由を、「車椅子で生活している」とか、「家の中で這うように生活している」などと説明した。医療機関を受診できる状態ではないという。山田弁護士が提出したのは障害者手帳だった。平田裁判官は、事情を理解してA夫を尋問の対象から外した。

そこで藤井敦子さんは、山田弁護士の説明の信ぴょう性を確かめるために、「張込み」を行った。自家用車の中に身を潜めて、A夫を待った。そしてビデオカメラにA夫が歩いている場面を撮影したのである。

古川弁護しは、敦子さんが撮影した動画を平田裁判官に提出して、A夫の尋問を行うように求めた。しかし、平田裁判長は、尋問を実施しなかった。

忌避申立の理由は、平田裁判長がA夫の尋問を行わないという判断をするにあたり、A夫に対して客観的な証拠の提出をあくまでも求め続けなかったことである。尋問を実施しなかったことではない。

忌避申立の理由は次の通りである。

忌避申立書(本画像をクリックすると全文のPDFにリンクします)

しかし、横浜地裁は5月22日に、忌避申立を棄却した。これを受けて、藤井さんは、異議を申し立てる。裁判は中断して、現時点では再開の目途は立っていない。

◆裁判の公平性の欠落

ちなみに前訴の中で、A夫に約25年の喫煙歴があったことが判明している。それを知っていながら、隣人の副流煙で健康被害を受けたとして、藤井将登さんに対して4518万円を請求したのである。つまりA夫は、能動喫煙で体調を崩した可能性が高いことを知りながら、その責任を将登さんに押し付けたのである。

A夫に対する尋問を免除するのは、著しく公平性に欠ける。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)
黒薮哲哉『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』

7年ぶりの市原興行、メインイベントは睦雅! 堀田春樹

睦雅と大地・フォージャーはいずれも王座獲得後初戦となる。

睦雅はヒジ打ちで初戦を飾り、大地・フォージャーはムエタイ戦法に攻め倦み、持ち味を殺された決定打の無い引分けに終わる。

◎Road to KING / 5月21日(日)市原臨海体育館 / 開場15:00、開始16:00~18:47
主催:市原ジム / 認定:ジャパンキックボクシング協会(JKA)

※試合順は西原茉生vs花澤一成を省いています(プログラムと異なります)

◆第8試合 62.0kg契約 5回戦

JKAライト級チャンピオン.睦雅(ビクトリー/ 61.85kg)18戦12勝(6KO)4敗2分
      VS
チュ・ギフン(元・韓国格闘技ライト級Champ/韓国/ 61.5kg)39戦22勝12敗5分
勝者:睦雅 / TKO 1R終了 / ヒジ打ちによるカットによる顔面負傷で棄権。
主審:少白竜

睦雅の様子見の右ミドルキック、次第に圧力を増していった
睦雅が左ヒジ打ち、これがヒットかは微妙ながら、この後すぐ、チュ・ギフンが流血

今回の試合で引退と発表しているチュ・ギフンと、3月19日の王座獲得後、最初の試合になる睦雅。前日計量では髪の毛を金髪にしてイメージチェンジをした睦雅。タイトル奪取と試合に向けてのコメントは「有難うございます。明日は必ず勝ちます。」と語った。チュ・ギフンは同国の選手と軽い談笑はしていたが緊張気味であった。

第1ラウンド、睦雅が蹴り主体に攻め、チュ・ギフンが対抗し一進一退の攻防で進むが、残り30秒辺りに睦雅の左ヒジがチュ・ギフンの左瞼をカット。ドクターチェック後、睦雅はパンチ、ヒジ打ちでチュ・ギフンの負傷箇所を襲うが、チュ・ギフンも反撃しながら凌いでラウンド終了もインターバル中、チュ・ギフンサイドからタオル投入。負傷箇所が悪化で続行出来ないと判断した様子。

睦雅はメインイベントをKO勝利で締めたこともあり、「王者として興行を締める責任を果たせたと思います。有難うございます。」とコメント。チャンピオンとしての責任感を何度も意識していた睦雅は、「先輩の永澤サムエル聖光選手の姿を見たり、直接指導を受けて学びました。」と語った。

◆第7試合 67.0kg契約3回戦

JKAウェルター級チャンピオン.大地・フォージャー(誠真/ 66.95kg)
17戦7勝(5KO)9敗1分
VS
コンデート・ギャットプラパット(元・タイ7ch・フェザー級Champ/タイ/ 66.5kg)
107戦82勝(11KO)21敗4分
引分け 三者三様
主審:松田利彦
副審:少白竜29-30. 仲29-29. 桜井29-28

両者探り合いの展開から大地は体格差を活かしパンチを主体に攻めていく中、コンデートは手数は少ないものの、大地に攻め込ませないように上手くリング(広さ、奥行き)を使った距離を取る戦法。大地はラッシュをかけるも決定打を打たせて貰えず終了。

時折コンデートが技を見せ、左ハイキックが大地を襲う
追う大地とロープに詰まりながらも余裕のコンデート

◆フライ級3回戦 -中止-

JKAフライ級2位.西原茉生(治政館/ 50.4kg)vs花澤一成(市原/ 50.7kg)

前回3月19日の、偶然のバッティングによる負傷引分けとなった再戦も、花澤一成が前日計量はパスしているが、急な発熱による体調不良の為、ドクターストップ(検診時)。西原茉生はリング上で「フライ級の王者を目指す」と宣言。再戦は7月16日のKICK Insist.16へ延期。

◆第6試合 フェザー級3回戦

JKAフェザー級2位.皆川裕哉(KICK BOX/ 57.1kg)21戦10勝9敗2分
        VS
ユン・ソン(韓国/ 56.7kg)14戦9勝(2KO)5敗
勝者:皆川裕哉 / 判定2-0
主審:桜井一秀
副審:椎名29-29. 松田30-29. 仲30-29

試合前、皆川裕哉はリラックスした表情で、「勝ちます。もちろんKOで、楽しんで来ます。」とコメント。

初回、皆川裕哉は得意の多彩な蹴りで自分の距離に持ち込もうとするが、ユン・ソンは受け身となりながらも回転回し蹴りで会場を沸かせ、皆川はしっかりブロックをしてダメージを受けず。その後、皆川のパンチとキックのコンビネーションにユン・ソンは打たれ強さで耐え、重いパンチで反撃をして来ると皆川が攻め倦むシーンもあった。最終ラウンドも皆川のローキック中心で優勢な展開の中、再びユン・ソンの回転回し蹴りが仕掛けられるが皆川は冷静に対処して判定勝利。
試合後、ユン・ソンは終始無言。皆川裕哉は「試合は楽しめました。相手の選手の回転蹴りは驚きました。いい経験でした。」と語っていた。

攻勢の中でも危険な打ち合いに出ること多い皆川裕哉
大技を繰り出すこと多い皆川裕哉、勢い付いて左ミドルキックヒット

◆第5試合 55.0kg契約3回戦

JKAバンタム級4位.樹(いつき/治政館/ 54.9kg)9戦5勝(2KKO)3敗1分
      VS
キム・テゴン(韓国/ 55.0kg)12戦7勝(4KO)4敗1分
勝者:樹 / 判定3-0
主審:松田利彦
副審:桜井30-27. 少白竜30-27. 仲30-27

樹は同日の岡山ジム興行に出場している麗也(治政館)を意識し、「負けられない、勝利を約束します!」と力強くコメント。

初回、樹のローキックが効果的に決まり、キム・テゴンはパンチで応戦するも、ラウンドが進むにつれ、樹の圧力で前に出難い状況になる。樹はキム・テゴンへのローキックの効果を確信し、パンチの連打でコーナーに追い込むが、キム・テゴンはタフネスぶりを発揮し、ノックダウンを許さない。

最終ラウンドには樹はセコンドの指示(キム・テゴンのタフネスさから深追いさせない)によりKOを狙わず、ポイントを守るスタイルに切り替え、キム・テゴンの最後の追い込みを躱して終了。

主導権奪って右ハイキックで出る樹、フルマークで圧勝

◆第4試合 バンタム級3回戦

紫希士(=きしと/Formed/ 53.3kg)2戦2勝
     VS
河村秀和(ラジャサクレック/ 53.3kg)7戦3勝4敗
勝者:紫希士(赤コーナー) / 判定3-0 (29-28. 29-28. 29-28)

開始早々に紫希士のパンチの連打が河村秀和の顔面を捉え会場がどよめく。特に紫希士のやや離れた距離からのストレートは効果的だった。河村秀和も久しぶりの試合ながら、紫希士の攻撃に応じて打ち合いになり、会場が盛り上がる。第3ラウンドに紫希士のヒジ打ちが河村選手の右頬をカットするが、最後まで打ち合う展開で終了。

紫希士はまだ2戦目ながら積極的に攻めて僅差ながら判定勝利

◆第3試合 ミドル級3回戦

西田絋佑(ビクトリー/ 72.3kg)2戦1敗1分
     VS
白井大也(市原/ 72.0kg)1戦1分
負傷引分け / TD 2R 1:22

白井大也がパンチを主体に攻め、西田絋佑はクリンチをしながら主導権を握らせない展開であったが、第2ラウンドの半ばあたりの偶然のバッティングにより、白井大也が流血し試合続行不可能となる。

◆第2試合 女子スーパーバンタム級3回戦

大内咲(市原/ 55.0kg)1戦1敗
     VS
珠璃(闘神塾/ 54.3kg)2戦1勝(1KO)1分
勝者:珠璃(青コーナー) / TKO 2R 終了

初回から珠璃のパンチが大内咲を的確にとらえ、珠璃のストレートが顔面に当たる度に大内咲の顔が後方に反る。大内咲も蹴りやパンチで返すも珠璃の圧倒的な手数に圧され、劣勢のまま第2ラウンド終了後、大内咲サイドからタオル投入による棄権で終了。

この日の女子キック、終始、珠璃が圧倒

◆第1試合 ライト級3回戦

菊地拓人(市原/ 60.6kg)1戦1敗
     VS
龍将(TRY HARD/ 61.0kg)1戦1勝
勝者:龍将(青コーナー) / 判定0-3 (28-29. 27-29. 28-29)

初回から龍将の蹴りヒットで菊地拓人のペースを奪っていく。龍将のミドルキックに意識がいったか、菊地は一瞬ガードが下がったところへ龍将の左ストレートがヒットし、ノックダウンを喫する。菊地は立ち上がり、龍将の左ミドルキックを貰い動きが止まるが、更なるノックダウンは免れる。

第2ラウンド、菊地が反撃をし、龍将は右ストレートを貰いながらもミドルキックで反撃。最終ラウンドでは、菊地の右ストレートが龍将のコメカミにヒットするも単発で終わり、龍将は一発狙い、菊地はスタミナが切れている状況でノックダウンを奪う打ち合いにまで至らず終了。

チュ・ギフンの棄権ではあるが、完全勝利でメインイベントを締め括った睦雅

《観戦記》岩上哲明

7年ぶりの市原興行は成功したと思われます。市原ジムのOBであった須田康徳さんや真鍋英治さん、蘇我英樹さんなどの姿には懐かしさを感じました。

睦雅選手が最後を締めてくれて、王者としての責任を果たしたと思いました。去年の11月の試合で左ヒジ打ちでのKO勝ちをして上昇気流に乗り、今年の3月19日に王者になり、今回の興行でメインイベントを締めてくれたのを嬉しく思いました。
大地・フォージャー選手はコンデート選手の戦い方に合わせ過ぎてしまった感があり、実力を発揮出来なかったでしょう。

他団体も含めて、「打倒ムエタイ」の傾向が続いていますが、タイだけではなく、今回出場した韓国の選手のように世界には多数の外国人選手がいます。団体のカラーもあると思いますが、そのカラーに合った外国人選手を興行に合わせることで、団体としての力もアップするのではないかと感じました。

《取材戦記》堀田春樹

睦雅と対戦したチュ・ギフンは2016年4月10日に当時、日本フェザー級4位.拳士浪(治政館)に判定負け。日本では市原ジムを拠点とし、在日韓国人として幾らか試合出場している様子。

市原ジム前会長の玉村哲勇氏が2019年5月に肺癌で亡くなり、追悼興行はまず2020年に予定されながら、コロナ禍の影響で暫く開催出来なかったようです。他、市原ジム顧問の鈴木熊男氏、中岡優治氏が逝去された模様で、3名にテンカウントゴングで送られました。

昭和の市原ジムから伝説のチャンピオン須田康徳氏をはじめ、四元伸一郎氏、松田勇氏や当時トレーナーだった太田浅男氏の御来場、玉村会長の奥様、長男・長女さんの顔触れがありました。私がキックボクシング関係者と家庭的なお付き合いがあったのは40年前に、この市原ジムと玉村会長家が初めてでした。その懐かしさと温かい心配りに感慨無量でした。

また、市原臨海体育館も2016年4月の蘇我英樹引退興行以来となりましたが、ツイキャス中継用のセッティングで、ビッグマッチイベントの大会場のような雰囲気があり(照明は明るくはなかったけど)、以前の外光が入る体育館とは違った印象がありました。昔はここで沢村忠さんの試合も行なわれた会場です。市原ジムの今野顕彰選手は引退の意向のようで、メインイベンターとしての出場は無くなってしまいましたが、ビクトリージムの睦雅はチャンピオンとしてメインイベンターを務め、しっかり責任を果たしたと言える勝利でした。

今後の市原ジム興行は誰がメインイベンターとなるか、今回欠場となってしまいましたが、花澤一成には期待が掛かるでしょう。

次回のジャパンキックボクシング協会興行はビクトリージム主催「KICK Insist.16」が新宿フェースにて開催されます(昼夜二部制の可能性あり)。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

勇者たちは地獄に堕ちるのか? ロシアの民間軍事企業「ワグネル」創設者プリゴジンはプーチンに粛清されるかもしれない 横山茂彦

反プーチン勢力(ロシア義勇軍・自由ロシア軍など)がウクライナから越境攻撃するなど、ウクライナ戦争は緊迫の度を高めている。

ロシアの内戦のきざしとともに、注目を集めているのがワグネルのプリゴジンの発言(映像パフォーマンス)である。

「弾薬が70%足りない。ショイグ(国防相)、ゲラシモフ(参謀総長)! 弾薬はどこにあるんだ」「あれほど要求したのに、送られてきたのは、たった10%だ!」
と、軍首脳を罵倒してきた民間軍事会社ワグネルのプリゴジンは、バフムトを完全制圧したとして(ウクライナ軍部はこれを否定し逆包囲を示唆)、前線からの撤退を表明した。

投降したワグネルの兵士(懲役囚)の話では、ウクライナ兵の位置を知るために丸腰で最前線の標的にされたという。ワグネルに「退却はない」のだそうだ。その戦い方はしかし、弾薬不足を証明しているのかもしれない。


◎[参考動画]ワグネル「バフムト撤退」表明 ロシア軍に陣地を引き継ぎ(2023年5月25日)

◆クーデターを怖れている?

ロシア軍がワグネルに弾薬を送らない理由が、プリゴジンのクーデターを怖れているのではないかという説がある(中村逸郎「現代ビジネス」ほか)。

独裁者がみずからと対抗するナンバー2を許さないのは、ナチスドイツのヒトラーとエルンスト・レームの関係に明らかだ。

二人の関係を描いた戯曲『わが友ヒットラー』で、三島由紀夫はレームに「軍隊は男の楽園」と語らせ、その軍隊を統制する政治が左右の過激分子を排除する権謀術策であることを証していく。

その三島が激賞した映画「地獄に堕ちた勇者ども」は鉄鋼王の一族が、ナチスに乗っ取られていくドラマの中に、レーム粛清の「長いナイフの夜」を挿入している。休暇先でのドイツ人らしからぬ陽気な乱痴気騒ぎと、眠りこけている朝、SSを中心とした正規軍に虐殺されるシーンの対比が凄まじい。


◎[参考動画]「地獄に堕ちた勇者ども」La Caduta degli dei〈The Damned〉(1969伊・西独)

ちなみにイタリアの原題は「La caduta degli dei(神々の堕落)」で、西ドイツでは「Die Verdammten(くそ野郎)」。共同制作国でも、ナチスを扱う分だけ表現が違うわけだが、アメリカはドイツの原題をそのまま「The Damned(くそったれ)」である。品がなさすぎる。邦題がいちばん相応しいと思う。

◆緩慢なる粛清

ところで一説には、プリゴジンに届けられたのは弾薬だけではなく、「バフムトの陣地を離れたら、祖国に対する国家反逆罪になるという脅し付きだったのだ」(前出、中村)という。

ロイターは「 ロシア民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトから部隊を撤退させれば祖国に対する反逆と見なすと示唆されたと明らかにした」と報じている。だとしたら、これは緩慢な粛清ではないのか。

「この戦争のみならず、シリア内戦の時も、プリゴジン率いるワグネルはロシアの正規軍よりも最前線に立って戦ってきました。それもすべては、『盟友』プーチンのために他なりません。しかし、ここ最近のやり取りから、プーチン側はプリゴジンを切り捨てたように見えます」(中村)

プーチンとプリゴジンの関係は、プーチンがサンクトペテルブルク市第一副市長だった頃からだという。プリゴジンは継父とともに始めたホットドッグ店のネットワークからレストラン経営に転じたころ、プーチンが店に通うようになったという。

公式の記録では、2001年にプーチンとシラク仏大統領が、プリゴジンが経営する「ニューアイランド(船上レストラン)」で食事をしている。このときプリゴジンは、個人的に料理を提供したという。2002年にはジョージ・W・ブッシュ大統領を迎え、2003年にはプーチンが同レストランで誕生日を祝っている。

◆戦争を商売にする者たち

ワグネルは約5万人とされているが、ロシア軍の先鋒隊として世界各地で戦闘を行なっている。

提携する軍隊は、ウクライナドンバスの親ロシア派だけではなく、シリア正規軍・イランのイスラム革命防衛隊・中央アフリカ軍・モザンビーク国防軍・マリ軍・リビア革命軍など。そして派遣先でワグネルグループの子会社を通じて権益を得ているのだ。かつての関東軍がアヘン利権で戦費をおぎなったように、独立した政商軍隊なのである。それゆえに派遣先では戦争犯罪行為を訴追され、国際犯罪組織に指定されてもいる(アメリカなど)。

このことはまた、現代世界が21世紀の今日もなお、戦争(侵略と内戦)という経済実体を持っていること、グローバル資本主義のもとでもなお、ナショナリズムと国家主義の堅牢さがあることを雄弁に物語っている。

独裁政権をめぐる権力闘争もまた権謀術策にまみれ、戦争の中で人命を食い物にしながら残虐に行なわれるのだ。プリゴジンとプーチンの関係から目を離せない。


◎[参考動画]【ドキュメンタリー】“プーチンの料理人”がウクライナに「囚人兵」を派遣 ロシア軍事企業「ワグネル」の暗躍【TV TOKYO International】(2023年1月27日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

月刊『紙の爆弾』2023年6月号

中核派現役区議会議員、洞口朋子氏に聞く「LGBT法案」の問題点〈2〉絶えざる差別・抑圧を産み出す今の社会を表層的に変えれば良くなるとのものの見方は、甘いのではないか 田所敏夫

本通信ですでにお伝えした通り「LGBT平等法」が国会で審議されている。国政政党の中に明確な「反対」は見当たらず、自民党から共産党までがこの法案に関しては「推進勢力」である。時あたかも「広島G7」。「G7の中でLGBT法がないのは日本だけ」との言説も聞かれるが、果たして「グローバルスタンダード」(?)はこの国のひとびとを幸せにするのだろうか。

ある筋から「中核派がLGBT法に反対しているよ」と教えてもらった。マスコミでは「過激派」と称される中核派であるが、中核派が「LGBT平等法」に反対する理由はどのようなものだろうか。中核派であることを隠すことなく杉並区会議員として2期目の再選を果たしたばかりの洞口朋子さんに電話でお話を伺った。後編の〈2〉を公開する。

 
洞口朋子=杉並区議会議員

洞口 たしかに性的マイノリティーをどう考えるかについては、私たち中核派の中でも、かなり討論し学習を重ねているのが正直なところです。その中で杉並区議会に「性の多様性条例」が出されましたので、私たち中核派の見解を2、3月の議会で出しました。

田所 わたしは共産党にもこの件で質問をしました。「バイセクシュアル」の人はいまのでデメリットを被っているでしょうか」と質問したところ、共産党のお答えは「バイセクシュアルについては考えたことがない」でした。LGBTとの言葉で括られていますが「多様性」とは文字どおり「多様」なのだからLGBTに収まらない人もいます。今の社会通念からすれば逸脱する人もいるが、仮に法律を作ればそのような指向の人をどう考えるのか、との議論が欠如していませんか。

洞口 表面的な「改善」や啓発活動をすれば差別がなくなるかのような、幻想を描いている。国政政党で言えば与党から野党まで皆さんが推進している。分裂がありながらも国として進めていく。広島でのG7を控えて「LGBTの制度がないのは日本だけだ」と言っていますが、私たちがまったく評価しないG7に向けて進んでゆこうとしている。しかも野党の人たちが進んで行っている疑問はもちろんあります。

女性や性的マイノリティーに対する絶えざる差別・抑圧を産み出す今の社会を表層的に変えれば良くなるとのものの見方は、甘いのではないかと思います。根本的な部分を変えないと。根本的な部分により絶えざる差別・抑圧が生み出される、と私は考えていますので政治的であれ経済的であれ社会的であれ、根本を問題にしないと、社会の構造として性的な差別・抑圧を産み出している根拠を経つことは出来ないのではないかと思います。

その立場から国が進めている、また杉並区や自治体が進めている「性の多様性」には反対です。

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洞口氏からは「LGBT法案」の問題点だけでなく、杉並区政の現状についての見解や、社会全般についてのも意見を伺ったが、今回の議論からやや論旨が離れるのでその部分は割愛させていただだいていることをお伝えする。一見左派、リベラル層が賛成で保守層が反対しているかの様相を呈している「LGBT平等法」についての議論は、洞口氏(中核派)が見解を明示したように必ずしもそのような構図ではない。そもそも性自認と身体的性差、あるいは性指向と性趣向の区別すら冷静に考えず、若しくは知らずなんとなく「LGBT平等法」は論じられているのではないか。日本共産党と洞口氏へのインタビューを通じてそのことを感じた。

かたわらで原発推進法であるGX法が成立し、近く「少子化対策のために」社会保険料が増額されるらしい。国民総背番号制であるマイナンバーカードに健康保険と免許証の記録まで統合するという無茶を通すために、国民を2万円(マイナポイント)で釣って国民情報・資産の完全管理を進めているが、早くも住民票や健康保険で過誤が発生している。「武器ではないから」といいながら自衛隊の車両をウクライナに提供し、NATOの事務所を日本に設置する計画もあるという。これらどれをとってもわたしには「LGBT法案」より重大な課題に感じられる。けれどもことの軽重が完全に逆転しこの国の「総論」は迷走している。(了)

【付記】本通信5月20日掲載の《中核派現役区議会議員、洞口朋子氏に聞く「LGBT法案」の問題点〈1〉「性の多様性」の名の下に、これまで女性が勝ち取ってきたものが解体されようとしているのではないか(聞き手=田所敏夫)》の洞口氏の発言で、

「『性自認』よりも身体的な性差を上位に置いてしまうと」、との記載は、

「身体的な性差よりも性自認を上位に置いてしまうと」が正しい見解であると洞口氏から掲載後に訂正要請を受けました。本原稿で洞口氏の真意を伝えるとともに、20日掲載原稿の当該部分を訂正いたします。

◎中核派現役区議会議員、洞口朋子氏に聞く「LGBT法案」の問題点
〈1〉「性の多様性」の名の下に、これまで女性が勝ち取ってきたものが解体されようとしているのではないか
〈2〉絶えざる差別・抑圧を産み出す今の社会を表層的に変えれば良くなるとのものの見方は、甘いのではないか

◎洞口朋子(ほらぐち ともこ) 1988年宮城県生まれ。法政大学経済学部除籍。革命的共産主義者同盟全国委員会(中核派)幹部。都政を革新する会(旧:杉並革新連盟)メンバー。2019年より杉並区議会議員(2期目)。公式HP https://horaguchitomoko.jp/

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』

「冤罪被害者」袴田巌さんの無実の訴えを退けた存命の裁判官たちに公開質問〈01〉2018年に再審を取り消した東京高裁の裁判長・大島隆明氏(現在は弁護士、日本大学大学院教授) 片岡 健

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

1人目は、大島隆明氏。2018年6月11日、その4年前に静岡地裁(村山浩昭裁判長、大村陽一裁判官、満田智彦裁判官)が認めた袴田さんの再審を取り消す決定を出した東京高裁の裁判長だ。

現在は弁護士と大学院の教授をしている大島隆明氏。大学院では「人気教員」らしい(『スタディサプリ社会人大学・大学院』より)

◆「大島氏の略歴」と「大島氏への質問」

大島氏は1954年7月28日生まれ、東京都出身。袴田さんの再審を取り消す決定を出した約2か月後の2018年8月3日付けで依願退官。現在は、東京都港区南青山にある『西綜合法律事務所』に弁護士として所属しつつ、日本大学大学院法務研究科の教授を務め、学生たちに刑事訴訟などを教えている。

なお、リクルートが運営する『スタディサプリ社会人大学・大学院』というサイトでは、大島氏が日本大学大学院法務研究科の教授という立場で受けたインタビューをまとめた記事(URLはhttps://shingakunet.com/syakaijin/0001763189/0001867405.html)が、〈【インタビュー】人気教員は社会人をどのように指導しているのか?〉という見出しを付されたうえで配信されている。

そんな大島氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『西綜合法律事務所』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。回答が届けば、紹介したい。

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【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。大島様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

リクルートが運営する『スタディサプリ社会人大学・大学院』というサイトにおいて、大島様が日本大学大学院法務研究科の教授という立場で受けられたインタビューをまとめた記事(URLはhttps://shingakunet.com/syakaijin/0001763189/0001867405.html)が、〈【インタビュー】人気教員は社会人をどのように指導しているのか?〉という見出しを付されたうえで配信されていることに関して、質問させて頂きます。

日本大学大学院法務研究科では、大島様が袴田さんの再審を取り消す決定を出した裁判長であるという事実は、学生の方々に周知されていないのでしょうか? それとも、学生の方々にその事実が周知されていてもなお、大島様は学生の方々から人気があるのでしょうか?

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※大島氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成二十八年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

《8月22日追記》

8月22日午前9時過ぎ、大島氏に対し、回答をもらえるのか否かについて回答を求める文書をファックスで送信したところ、同11時52分、大島氏から以下のような回答がメールで届いた。

片岡様

取材のご回答をしたつもりでしたが、下書きに保存されていて送信されていませんでした。申し訳ありません。

①(【質問1】)については、自己の関与した具体的な事件についての最終的な結論、理由に関しましては、たとえ感想程度のものであったとしても、裁判官の在り方(判決以外には弁明しない)、合議の秘密等に関わりますので、このインタビューに応じることは裁判官倫理に反することと考えています。

②(【質問2】)につきましてもロースクールの教育と具体的な裁判のことは別の事項でありますし、日大ロースクールの紹介に関しては、多くの裁判官OB、現役法曹の教員が分かりやすく法律学を教えているということから日大ロースクールが学生に人気がでてきているという趣旨を述べたものです。ロースクールは、法律の実務的な基礎理論を修得する場であり、①と同様の見地から、具体的な関与事件についてのことに言及するような教育はしておりません(既に確定した事件については、事実を抽象化あるいは改作した上で、考える題材として使用することはあります。)。なお、基礎理論を前提とした純粋の事実認定の訓練は、主に司法試験に合格して司法研修所に入所した以降に学ぶのが通例です。

大島氏については、追加取材をすることを検討している。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

「核兵器先制不使用」にすら触れなかったG7広島サミット「核廃絶」の茶番! 過剰警備・過剰交通規制で市民・県民生活は大打撃! さとうしゅういち

G7広島サミットが5月19日から21日、開催されました。結論から申し上げれば、「核兵器廃絶」を目的とするならば、「G7サミットを広島に誘致する」という手段が全くの誤りだったことが明白になりました。

 
栃木県警の警察労働者の皆様。建物に入出入りする人は全員検問されていた。広島駅北口で筆者撮影

そして、2万4千人もの警察労働者を全国各地から広島に動員した過剰警備・過剰交通規制で、市民・県民の生活が大打撃を受けただけでした。

もちろん、全国の機動隊の方が押し寄せて儲かったお好み焼き屋さんもあったのですが、全体としては「売り上げが半減した」(ラーメン店主)、「物流が止まって必要な薬が手に入らないということでひやひやした」(持病のある女性)「保育園の給食が止まって、弁当を持たせないといけなくなった」(女性労働者)など影の部分が目立ちました。サミット期間中は、ヘリコプターの轟音が東区の筆者の自宅でも午前2時を過ぎても鳴り響きました。

◆従来の日本政府のスタンスの焼き直し「広島ビジョン」

今回のサミットでは、地元選出の岸田総理が目指しておられた「核なき世界」への前進は全く見られませんでした。

総理が議長として19日に発表した「広島ビジョン」は従来の日本政府のスタンスを一歩も出るものではありません。

第一に、核兵器禁止条約に全く言及していません。これは、従来の日本政府の姿勢を考えれば、当然と言えば当然です。「核保有国と非核国の橋渡しをする」と言いながら、日本政府=ほぼ自民党のことですが=は何もしてこなかった。

第二に、それどころか、核兵器先制不使用にすら触れませんでした。今すぐ、核兵器をなくすのは難しくても、核兵器をこちらからは先に使わない、という約束をすれば、ぐっと緊張緩和の機運も高まります。「先制攻撃されるかもしれない」という恐怖で満ちているからこそ、「抑止力」という名の軍拡で対抗しようと各国は走り出す面が大きいからです。核兵器先制不使用にすら触れないのは残念です。もちろん、これとて、オバマ大統領が2009年頃に核兵器先制不使用を打ち出そうとしたときに日本政府こそがこれを阻止しようとした歴史的経緯もあります。その日本が今回議長国なのだから、そんなことは最初から期待すべくもなかったかもしれません。

第三に、2000年のNPT再検討会議で合意された核兵器廃絶への明確な約束にすら触れていません。この約束は、当時、世界のNGOが核兵器保有国に対してNPT六条を根拠に迫り、実現した歴史的なものでした。まさに、2000年の水準からさえも後退した文書が「広島ビジョン」です。被爆者のサーロー節子さんらが「サミットは失敗だった」と怒るのも当然です。

◆中国包囲網にゼレンスキー参加 緊張激化に広島が利用された

その上、今回は事前の日米首脳会談で「抑止力の強化」と称した軍拡を合意しています。また、いわゆる台湾有事を煽り立てつつ、いわゆる中国包囲網をインドなどグローバルサウスもこの会議に招待することで構築しようというのが今回のサミットの狙いです。

そもそも、国共内戦の延長である台湾問題に日本が軍事介入すれば、日本はロシアを非難する資格を失います。ロシアも、ウクライナ国内問題であるドンパス紛争に介入してロシア系住民を守ると称してウクライナに侵攻したわけです。ドンパス地方におけるウクライナ政府側の非人道的な行為も批判されるべきだし、中華人民共和国も、武力で台湾を制圧するということは絶対に避けるべきです。だが、だからといってロシアがウクライナに侵攻してしまったらそれは侵略です。そして、台湾に日本が軍事介入したら、これも中国に侵略への反撃と称した日本攻撃の口実を与えてしまいます。

さらにサミット終盤にはウクライナのゼレンスキー大統領が参加し、各国に武器支援を要求したとみられます。外交交渉ですから詳しいことはベールに包まれていますが、このタイミングで武器を要求しないわけがありません。広島は、戦争当事者の片方に加担する会議の場となってしまいました。

もちろん、ロシアの核による威嚇は許しがたい。しかし、それに対して、軍拡で答えるアメリカなどにも待ったをかける。そして、ヒロシマ・ナガサキに続く核戦争による悲劇が起こらないよう体験をもとに呼び掛けていく。これが1945年の被爆からいままでの平和都市広島=ヒロシマのスタンスだったはずです。

ゼレンスキー大統領単独で見学に来てもらい、復興支援を求めるメッセージに絞って発言していただくか、あるいは、適当なタイミングでロシアのプーチン大統領と両方呼んで、和平交渉への顔合わせを広島でする、というのであればまだわかるのですが、G7という場に来てもらったのはまずかった。

◆G7首脳の原爆資料館見学のプラス面は少ない

なお、G7首脳が原爆資料館で40分程度勉強したことを成果とする向きもあります。しかし、そのことを差し引いても、トータルではマイナスの結果だったのは明白です。そもそも、核大国の首脳になるほどの政治家はしがらみも多いのです。

政治家に核兵器の悲惨さについて勉強してもらうなら、例えば、核大国以外の国の首脳とか、核大国でもしがらみの少ない一年生議員に広島に来て勉強してもらう方が中長期にも国際世論の喚起や、核兵器保有国内での政策転換に役立つのではないでしょうか?

◆自民から共産まで、全員サミットを評価・期待!? 問われる広島県議の政治センス

筆者は統一地方選挙2003の広島県議選に立候補しました。マスコミや市民団体の政策アンケートでG7広島サミットについての設問では「サミット誘致を評価しない」「サミットに期待しない」という趣旨の回答をさせていただきました。

ところが、自民党、公明党はもちろん、立憲民主党、日本共産党に至るまで、既成政党系の候補者は全員、「サミット誘致を評価する」「サミットに期待する」というご回答をされていました。特に総理の軍拡にあれほど熱心に反対しておられる日本共産党の県議候補お二人がお二人とも「サミット誘致を評価する」スタンスで回答されていたのには腰を抜かすほど驚きました。特に安佐南区で筆者と議席を争った女性候補については、彼女の市議時代は、筆者も公選はがきを百枚単位で書かせていただくなど支援をさせていただいただけに衝撃は大きい。結果として筆者は当選に至らなかったが筆者が立候補しなければ、県民に対して選択肢を示すことはできなかったと痛感しました。

G7広島サミットに被爆者・当事者が僅かなのぞみをかけるのはよくわかります。サミットが行われる以上、そこに来る首脳にガツンと伝えるべきことは伝えないといけない。

しかし、サミットを誘致する立場(総理、知事、市長の行政トップ)、あるいはそれを議会で予算や法律などの面からチェックすべき政治家は「サミット開催が核兵器廃絶に資するかどうか」ということを精査する義務がある。そして残念だが、県議に関していえば、自民から共産まで精査した形跡がないのです。

◆「法の支配」が聞いてあきれる広島・日本の腐敗しきった行政

今回のサミットは、中国に対抗して、「法の支配」を推進するということもテーマでした。

しかし、足元の広島、日本の政治や行政は「法の支配」をえらそうに語れる状態でしょうか?

例えば、広島県の平川理恵教育長。外部の弁護士の調査でも地方自治法違反、官製談合防止法違反を指摘された上、「高すぎる」タクシー代についても虚偽答弁が発覚したにも関わらず、居座っておられます。彼女に代表されるような腐りきった県政は、「法の支配」とは程遠いものがあります。

また、日本の裁判所は住民vs行政の裁判では、ほとんど行政の主張をうのみにする場合が多い。原発、産業廃棄物、労働問題など。これで「法の支配」が行き届いていると言えるのでしょうか?

◆過剰警備や「お願い」に過ぎぬ過剰規制も「法の支配」と程遠く

また、前後を含むサミット期間中の過剰警備・過剰規制には筆者も含む広島都市圏住民は悩まされました。

特に、廿日市市宮島には、識別証を持たない人は入れない、という報道がされていました。ところが、筆者の友人が「規制が始まる」18日12時を過ぎてから宮島に渡ろうとして「規制」とやらの法的根拠を現場の外務省職員に問うたら法的根拠はなく「お願い」をしているだけだというのです。そしてそのお願いに基づいて、宮島ではお店に休業してもらっている。そして補償もしないという。これもまた「法の支配」とは程遠いものがあります。

◆明白だった平和都市としての「ヒロシマ」と旧白人帝国主義国本位の「G7」の「矛盾」

そもそも、戦後の広島という都市は建前では日本政府とも違うスタンスでした。繰り返しになりますが、日本政府は核兵器禁止条約そのものに反対だし、核兵器先制使用禁止をアメリカが打ちだそうとした際にはこれを阻止したのはむしろ日本政府でした。アジアに位置しながら、西側の一員として、日本政府は存在しました。しかし、広島という都市は、陣営を超えて、核というものは二度とわれてはいけん、なくさんといけん、というスタンスで建前はやってきたのです。

一方で、G7は西側=旧白人帝国主義国家に偏った集団です。所詮は旧白人帝国主義国家+脱亜入欧だった日本から構成されるものです。さらに、筆者も市民団体のアンケートでもふれたのですが、日本政府自体が、G7で名誉白人扱いされて舞い上がっているだけの感もあるのではないでしょうか?

こうした背景がある以上、G7はG7の論理で会議を進め結論を出すし、それはどうしても広島の思いとはかけはなれるのはわかりきったことです。

しかし、無理に広島でG7サミットを開催したことで、広島がG7による抑止力という名の軍拡を容認した形になってしまいました。自民から共産までの県議の皆様もそれを結果として後押ししてしまったのです。

また、世界は大きく変わっており、日米欧の世界経済などに占める割合は格段に落ちてきています。今回、グローバルサウスを呼んだのもそのことを日米欧も認めているということです。G7そのものが前世紀の遺物であることを自白しているということです。この点からもG7には期待できないし、広島サミットにも期待できないのは当然です。

◆市民が対抗して声を上げたのが「成果」

G7サミットは毎回そうですが、はっきり言って首脳たちによって庶民にプラスになるような成果はほとんどなかったというべきです。しかしながら、市民がサミットに対抗して声を上げていく(いわば反作用)に意義があったと言えるでしょう。

5月14日に原爆ドーム前で行われたG7サミットに反対する市民集会
 
5月14日の市民集会に参加した筆者

筆者も、G7サミット開催を目前にした5月14日に原爆ドーム前で行われたG7サミットに反対する市民集会に参加しました。グローバルサウスからフィリピンの元国会議員。そして今回、尹大統領も参加される韓国人で広島在住の方。そして台湾有事という名の軍拡合戦で犠牲を強いられることが予想される沖縄から参加、挨拶をいただきました。

また、多くの若者の皆様も、今回のG7サミットをしっかりチェックしていただいています。(https://twitter.com/Kakuwaka

そして、サミットに期待・サミット誘致を評価していたような政党の政治家も、「広島ビジョン」を見て、失望や怒りに変化しています。

筆者は、今後とも、総理の選挙区でもある広島からガツンと為政者(中央政府)に対して物申していく決意です。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

『人権と利権』刊行にあたって 森 奈津子

本日5月23日、森奈津子編『人権と利権』(定価990円[税込])が書店に並ぶ。LGBT、Colabo、しばき隊といった人権運動の影の部分を浮き彫りにする一冊だ。いやがらせ、特に出版差し止めを警戒しつつ、関係者一同、3月から秘密裏に進めてきた企画でもある。

ここではまえがきを公開し、皆様にその概要を把握していただきたいと思う。

*     *     *

まえがき  フェミニスト、しばき隊、LGBTの裏にあるもの

 
森 奈津子編『人権と利権 「多様性」と排他性』

2022年秋、いわゆる「Colabo問題」が浮上した。元ゲームクリエイターの暇空茜氏が、フェミニスト仁藤夢乃代表の若年被害女性支援団体・Colaboの会計に不明な点があると指摘、住民監査請求を東京都に提出するに至る。それに対し、Colabo側はすぐさま会計関連書類を公開するわけでもなく、暇空氏を名誉毀損で提訴したのだった。しかも、弁護団として七人もの弁護士(角田由紀子、神原元、太田啓子、端野真、堀新、中川卓、永田亮)をそろえ、提訴記者会見にのぞんだ。

ところが、その場で、神原元弁護士が大失言をしてしまう。暇空氏による住民監査請求を「リーガルハラスメント(法的いやがらせ)」と批判してしまったのだった。これは、大いに炎上した。住民監査請求をハラスメントとは何事ぞ、と。弁護士たちからも批判が続出した。

暴力的極左集団などとかっこよく表現されることもあるが、まともな左翼と差別化するための「パヨク」なる呼称のほうがポピュラーなC.R.A.C.(旧レイシストをしばき隊)を中心とする運動体のダークサイド、特に「しばき隊リンチ事件」を追ってきた本書版元・鹿砦社は、もちろん、Colabo問題にも注目していた。ミスター・リーガルハラスメントこと神原弁護士は、初期のしばき隊メンバーでもあり、これまで鹿砦社とは、しばき隊系活動家の代理人弁護士として法廷闘争を繰り広げてきた御仁だ。

しばき隊系の弁護士が、なぜ、Colaboの弁護を?──と、しばき隊ウォッチャーにたずねれば「そういうことだ」とこたえるだろう。すなわち「しばき隊とColaboには、なんらかのつながりがある」と。

バイセクシュアルである私は、以前から、しばき隊とLGBT活動家が共闘している事実を批判してきた。LGBTの運動に「寄生」したしばき隊系活動家は、なにかというと「差別だ! 差別だ!」の大合唱で、集団ネットリンチに及ぶ。その多くは異性愛者であり、知識も乏しく、まともに議論もできない。なのに、それを恥じることもなく、暴言、恫喝を繰り返す。

LGBTのイメージを悪化させている「無能な味方」である彼らを、なぜかLGBT活動家は諌めない。なので、一作家にすぎない私が、そのズブズブの関係を指摘し、大いに批判させていただいている。

ここに、ひとつの山がある。ふもとから続く道は、三本。それぞれ「フェミニスト」「しばき隊」「LGBT活動家」と名づけられた道だ。その三つの異なる「人権の道」をたどると、やがて共通の「利権の頂上」に行き着く。本書を手にとってくださった皆様には、そんな読書体験をお約束したいと思う。

*     *     *

なお、あとがきのタイトルは「本書を嚆矢とする類書の刊行を望む」だ。マスコミが人権運動に対しては萎縮し、負の部分を批判できないという不健全な状況を、なんとか打破したいという思いを、そのタイトルに込めた。

このテーマが読者に受け、本の売れ行きも好調となったら、今後、他社からも類書が刊行されることだろう。個人的には、パクリ本と言われるような本でも大歓迎だ。そうして、議論が活発になり、人権運動が浄化されることを、心から望む。

▼森 奈津子(もり・なつこ)
作家。1966年東京生。立教大学法学部卒。1990年代よりバイセクシュアルであることを公言し、同性愛をテーマにSFや官能小説、ファンタジー、ホラー等を執筆。
ツイッターアカウント:@MORI_Natsuko

【お断り】本書は本日発売ですが、発売以前から好評で予約が殺到し、すでにAmazonなどのネット書店では品切れ状態(数日内に補充予定)ですので、
①書店店頭でお探しのうえお求めになるか、
②Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0C5GCZM7G/などネット書店に予約入れておいていただくか、
③直接鹿砦社販売部sales@rokusaisha.comにご注文ください。

一部にご不自由をおかけしますが、何卒ご容赦の上、ご購読のほどよろしくお願い申し上げます。

森奈津子編『人権と利権 「多様性」と排他性』
amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0C5GCZM7G/

【近刊のお知らせ!】5月23日発売 森奈津子=編『人権と利権 「多様性」と排他性』 鹿砦社代表 松岡利康   

いわゆる「LGBT理解増進法案」が今国会に上程され審議に入ろうとしています。立場、党派によって求めるものが異なり3種類の法案が提出されました。これに合わせたわけではありませんが、森奈津子=編『人権と利権 「多様性」と排他性』が完成し23日に発売となります。

 
5月23日発売開始 森 奈津子編『人権と利権 「多様性」と排他性』

「LGBT理解増進法案」、これに賛成し推進するのが「左派」「リベラル」で、反対するのが「保守」という構図として、立憲、共産、社民、れいわなど「左派」「リベラル」といわれる政党はなべて賛成・推進派です。どちらかというと「左派」「リベラル」的な考えを持ち、社会運動に関わったりされている、この通信をご覧になっている方々の多くが賛成・推進派かもしれません。しかし、ちょっと待ってください!「性自認至上主義」(トランスジェンダリズム)の危険性など、本当に判った上で賛成し推進しようとしているのか? このかん私なりに調べていく中で疑問が湧いてきました。

◆「LGBT理解増進法案」に疑問

LGBT、これの「理解増進」を促すという法律とは何か? 「性の多様性」「性的マイノリティの人権」「ジェンダー平等」などと、耳触りの良い言葉で語られるものの実態とは何か? 私(たち)は全く理解していませんでした。おそらく国民全体がそうだろうと思います。

なのに、一部の行政(埼玉県、東京都渋谷区、新宿区など)では条例を策定したり先走り、女性専用トイレを廃止し、いわゆる「ジェンダーレストイレ」が導入され、世の女性・子どもの人権、安心・安全が蔑ろにされつつあります。実際に、ちらほらトラブルが報じられています。一例を挙げれば、東京新宿歌舞伎町に4月に鳴り物入りでオープンした「東急歌舞伎町タワー」2Fのトイレ、オープン初日から混乱し、これを避けるため急遽男女2つに分け、遂に改築になるとのことです。やれやれ、大金を使って何をやってんですか。

どの法案が通るかどうかわかりませんが、どれが通っても今後そのようなトラブルは必至です。

トイレについて付言すれば、世の中に女性トイレは元々なく、ずっと共同便所(ジェンダーレストイレとどう違うのか?)で、戦後、ある小学校で女児が強姦・殺人されたことを契機として生まれたという悲しい経緯がありますが、またまた元の共同便所に戻れということでしょうか。さらに女湯も廃止、男女混浴に。更衣室もジェンダーレスに、今後、介護施設、病院、部活などでトラブルが起きることが懸念されます。

「性の多様性」結構、「性的マイノリティの人権」結構、同性婚もいいでしょう。しかし、国民的な議論、周知、合意もなく、一気に共同便所、男女混浴はいかがなものでしょうか。

「それは誤解だ」と仰る方もおられますが、私たちが「誤解」するほど、まだまだまともに議論されていませんし、国民的な合意がなされているとも言えません。いずれにしろ拙速に事を進めるのだけはやめにしていただきたい。

◆Colabo問題に対し“酷税”に苦しむ中小企業経営者として怒り心頭

また、昨年末あたりから「一般社団法人Colabo(コラボ)」という団体の公金の使い道と利権に不正があるということで、これを暇空茜(ひまそらあかね)という元ゲームクリエーターが問題にし、住民監査請求をしました。住民監査請求とは、市民に与えられた権利で、行政に問題や疑問を覚えたらこれを行使することは当然のことで、公金(この原資は税金!)を特定の団体に「補助金」の名でぽんぽん1千万円単位で出す利権構造に問題はないのでしょうか?

これに対し、私たちと長年裁判闘争を繰り広げた神原元弁護士は、暇空氏の請求を不当とし記者会見まで開き「リーガル・ハラスメント」なる言葉で詰り提訴しましたが、なにをかいわんやです。

ところが、おそらくこれで怯むと思っていたのか、暇空氏はネットで支援を訴え7千万円とも8千万円ともいう予想外に巨額のカンパを集め対決姿勢を強め、いまだ一歩も引かず対峙しています。

◆「大学院生リンチ事件」加害者側人脈の者らが絡むことに胡散臭さを感じる

私たちがなぜ、そうしたことに注視していたかというと、これは他の人たちとはいささか異なるところですが、LGBT問題にしろColabo問題にしろ、私たちが2016年以来7年間も血のにじむ想いで被害者支援と真相究明に関わってきた「カウンター大学院性リンチ事件」(別称「しばき隊リンチ事件」)の加害者側人脈(しばき隊、日本共産党含む)が中心になっていることも大きな要因としてあります。リンチ事件で加害者側の弁護を中心になって担った神原元弁護士は、そうした問題でも中心になって動いていますし、リンチに連座し高裁判決で「道義的責任」を判示された李信恵や、彼女の後見人的存在の辛淑玉らも名を連ねています。リンチ事件の加害者側人脈の人たちの動きには、裁判がすべて終わったとはいえ、それなりに注視してきましたが、彼らの言動にはなにか魂胆があり胡散臭いと思っています。

詳しくは文中の「解題」で記述していますが、そうした由々しき問題が罷り通るなら、戦後この国が培ってきた社会規範や常識、倫理、価値観などが崩れかねないという危機感もあり、私たちなりに多少なりとも発言すべくと思い、『人権と利権』の出版企画を立案し、以前にリンチ事件追及第6弾『暴力・暴言型社会運動の終焉』に寄稿いただいた森奈津子さんに編纂していただきました。

ちなみに、森さんは、作家業の傍ら、結婚後すぐにお連れ合いが難病に罹り、この介護、またご本人も乳がんで片方の乳房を切除し再発の懸念の中、口にする人の人格、人間性を疑うような罵詈雑言にも屈せず頑張っておられます。

不思議なことに、「LGBT」「ジェンダー平等」「性の多様性」「性的マイノリティの人権」等々、目新しく耳触りの良い言葉に惑わされ、これを持ち上げる本は少なからずあれど、真っ向から異議を唱えた本はほとんどありませんでした。わずかに芥川賞作家で5年前からLGBT問題に異議を唱え文壇から追放された笙野頼子さんの著作『発禁小説集』(2022年、鳥影社)、『女肉男食――ジェンダーの怖い話』(2023年、同)があるぐらいです。笙野さんは、元々共産党の熱心な支持者でしたが、このことによって離れています。

本書『人権と利権』は、こうした情況に堂々と議論の材料を提供すべき一冊です。

私たちは自分の眼と頭で学び、疑問に感じたことを森さんはじめ5人の方に語っていただきました。反論があれば、まず読んでからにしていただきたい。読みもしないで「差別者」呼ばわりはやめていただきたい。大学院生リンチ事件についての本でも、ケチをつけたり口汚く罵るばかりで、6冊も出してもまともな反論はありませんでした。罵り合いはご法度です。賛否両論、異論反論、甲論乙駁、どんどん出し合い、将来的に益になる前向きな議論を望みたい。私の言っていることは間違っていますか?

『人権と利権』は、いよいよ5月23日発売です。自信を持ってお薦めする一冊です。どうか、今すぐご予約お願いいたします!

(松岡利康)

5月23日発売開始 森奈津子編『人権と利権 「多様性」と排他性』
amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0C5GCZM7G/

計量失格のその後、ウェイト競技の難しい現状! 堀田春樹

以前、「ウェイト競技の宿命、試合に向けた最後の仕上げ、計量後のリカバリー!」というテーマで計量後のエピソードを取り上げましたが、今回、計量失格に関わるテーマで語りたいと思います。

対戦相手の秤の目盛りを見つめる梅野源治(2014年2月10日)
全裸での計量も多いパターン(アンディー・サワーの例)(2015年2月10日)

◆確信犯?!

近年、プロボクシングやキックボクシングで時折問題となるのが、ウェイトオーバーによる計量失格です。昔からそんな事態はごく少数的にありましたが、我々は直接の計量風景を見ていないせいか、あまり耳にしない話でした。プロボクシングの世界戦に於いては試合までの全てが注目されるので計量も映し出されますが、少々200~300グラムぐらいのオーバーはあっても2時間以内の猶予の中で落とすという流れは昔も今も、キックボクシングにおいても存在します。問題は最初から2kg以上のオーバーでやって来て、全く落とす気が無い選手が世界戦においても居ることでしょう。

昨年のあるキックボクシング興行で、既定の2時間の猶予が与えられた後も2.0kgオーバーで失格した選手において、試合開催へ協議はされるも条件が合わず中止となったところが、その計量失格した選手がタイの選手との代打試合が行われたことには前代未聞の展開に周囲は驚き、ルールの基本形が細部まで明確にされていなかったことが問題だったでしょう。

◆明確に模範となるプロボクシングルールでは

プロボクシングで、JBCのウェイトオーバーに関する規定では、計量失格となったボクサーに関してペナルティーの規定が明確に存在します。

公式計量において、リミットオーバーが契約体重の3パーセント以上の場合、再計量2時間以内の猶予は無く、計量失格となって試合出場不可となります(フライ級ならば50.8kgリミットで52.32kg超えは即失格)。リミットオーバーが契約体重の3パーセント未満の場合、再計量2時間枠の猶予が与えられ、この再計量でもリミットオーバーの場合は計量失格となりますが、試合を中止しない選択肢は残され、開催の場合は当日朝に再計量を義務付けられます。再計量時の体重が契約体重を8パーセント以上超過した場合、試合出場は不可。ペナルティーについては、試合を中止する場合、ファイトマネー相当額の制裁金や、1年間のライセンス停止処分と次戦以降は一階級以上の階級転向を義務付けられ、更に計量失格となったボクサーのマネージャーを戒告処分があります。

試合を中止しない場合、ファイトマネー相当額の20%を制裁金や6ヶ月のライセンス停止処分があります。マネージャーには厳重注意処分があります。

試合中止となった場合、いちばん困るのは対戦者で、コンディションを整えてきた長い日々の努力や、試合におけるファンの前でのパフォーマンスが披露出来なくなる精神的失望感があり、勝利に相当する待遇を受けても、チケットを買ってくれたファンへのお詫びと払い戻しがあったりとなかなか受け入れられるものではないと言えます。

シュートン(タイ)の計量、通常はこんな計量風景(2022年3月19日)
計量失格でレフェリーが減点を宣告する試合開始直前のリング上(2017年10月22日)

◆計量失敗の原因

キックボクシングにおいても当日計量から前日計量への移行が大半を占める現在、衰弱した身体のリカバリーの時間が丸一日ある為、当日計量ならバンタム級リミットが限界でも、前日計量なら減量リミットをより無理して設定し、スーパーフライ級まで落としてもリカバリー出来るだろうといった思惑が上手くいかなかったという事態もあるようです。そんな階級が細分化されたことも一因でしょう。

昔はジムワーク中に水を飲むことなど許されなかった時代もありましたが、現在は水分を摂りながら練習しているのはごく普通で、大量に水分を摂る選手は、最後の数日間で水抜きに入り、体調が良ければ順調に落ちる見込みも風邪を引いてしまったり、どこかちょっと怪我したりと、想定外の事態が起こると最後の追い込みに狂いが生じ、減量失敗している例はあるようです。

◆ペナルティー問題

女子選手においては難しい問題も存在します。生理中は胎盤を守る抵抗力が働いて、減量では水分を抜き難く、そういう事態で大幅オーバーという失態があっても試合出場を控えたプロとしては失格。公正なルールの下ではペナルティーが科せられることは仕方無いところ、ウェイト競技としての女子だけの苦悩でしょう。

あるライト級元・選手の減量エピソードでは、
「普段ジムワークしている上での平常ウェイトが71kgぐらいだったので更なる10kgの減量でした。昭和や平成初期はとにかく食べないだけだったのでキツかったですね。63.0kgぐらいまで落ちながら、あと2kgがなかなか落ちずに気が狂いそうでした。どうしてもアイスクリームの大きいサイズのレディーボーデンが食べたくて、コンビニで買って来て一気に食べて、すぐに喉に指突っ込んで吐いたこともありました。あの苦しみはもう味わいたくないですね。」

現役当時だったら周囲に言えないであろうエピソードも多そうですが、幾つもの我慢を重ねて計量に向かう一方、大幅にオーバーして来る選手にはペナルティーはより厳しくすべきかは女子の例も含めて難しい判断でしょう。

現在有るペナルティーは、キックボクシングでは罰金と試合における減点。それらの幅は団体や興行によって差があります(例として100グラム毎に1万円、500グラム毎にマイナス1点など)。ペナルティーは矛盾点も出て来る場合があり、グローブハンディーはサイズが大きく重くなる分、逆効果という意見があって、現在では採用されない場合が多いようです。減点は1点と2点の場合とラウンド数との比率も大きく影響する部分があり、減点だけで開始前から勝負が偏ってしまう点が考えられます。

試合に向けて身を削って、計量後のリカバリーで体格的に優位に立つ為の試合前の闘いが、効力を発揮したりしくじったり、永遠のテーマとなる減量物語は今後も続くのでしょう。

現在も使われる天秤式計量秤(2022年9月24日)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランスとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家した。

中核派現役区議会議員、洞口朋子氏に聞く「LGBT法案」の問題点〈1〉「性の多様性」の名の下に、これまで女性が勝ち取ってきたものが解体されようとしているのではないか 田所敏夫

本通信ですでにお伝えした通り「LGBT平等法」が国会で審議されている。国政政党の中に明確な「反対」は見当たらず、自民党から共産党までがこの法案に関しては「推進勢力」である。時あたかも「広島G7」。「G7の中でLGBT法がないのは日本だけ」との言説も聞かれるが、果たして「グローバルスタンダード」(?)はこの国のひとびとを幸せにするのだろうか。

ある筋から「中核派がLGBT法に反対しているよ」と教えてもらった。マスコミでは「過激派」と称される中核派であるが、中核派が「LGBT平等法」に反対する理由はどのようなものだろうか。中核派であることを隠すことなく杉並区会議員として2期目の再選を果たしたばかりの洞口朋子さんに電話でお話を伺った。

 
洞口朋子=杉並区議会議員

◆なぜ「LGBT法案」に反対なのか?

田所 杉並区議会議員に2期目の当選をされた洞口さんにお伺いいたします。今の国会に「LGBT平等法」を成立させようとの動きが、野党、与党双方からあります。洞口さんは「LGBT法案」に反対の立場を明らかにされたと伺いました。その理由を教えて頂けますか。

洞口 杉並区議会においても今年の春の議会でひとつの焦点になりました。杉並区ではこの4月から「杉並区性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例」通称「性の多様性条例」が施行されました。それには私の所属する「都政を革新する会」、「中核派」も反対です。

この条例の問題点は様々ありますが、「多様性」との表現はいかようにも取れる、ということです。多くの女性が訴えていることでもありますが、女性が歴史的に勝ち取ってきた部分と衝突しうる。今の社会の中で厳然として存在している「女性差別」の問題を度外視している。性的少数者の方たちの権利を私たちはもちろん守らなければいけない、という立場ですが、それと「女性の権利」、「女性の安全」が衝突してしまうという問題が大きいと思います。歴史的に見ても「男女雇用機会均等法」や「労働者派遣法」とセットで「男女平等」をうたいながら女性労働者を安価な労働現場に送っている。

また「男女平等」や「多様性」は一貫していまの政府にとって都合の良いものとして使われてきたと思います。女性が勝ち取ってきた「保護規定」などが女性が家庭から引っ張り出されることにより、労働者全体の雇用が破壊され、結局女性に「賃金労働」と「家内労働」の両方が押し付けられる。この構造とまったく同じです。

「LGBT法」は女性差別を固定化してゆくものにしかならないし、性的マイノリティーのみなさんが生きやすい社会を作ることになるとは思えない。「女性差別を無視してはいけない」という立場です。

田所 性的マイノリティーの問題を無視するわけではないけれども、それ以前に「女性差別」が度外視される問題の立て方はおかしいのではないか、とお考えであるということでしょうか。

洞口 そうですね。一言で言えば資本主義社会において、「多様性」や「男女平等」は欺瞞である、と。

田所 ちょっと、洞口さんそのお話は次にお伺いしますので。ごめんなさい。

洞口 はい、ごめんなさい。

◆杉並区の「性の多様性条例」は女性差別や女性被害の歴史を踏まえていない

田所 先ほどお伺いした杉並区の通称「性の多様性条例」に「多様性」の名でこれまで女性が勝ち取ってきた様々な権利が無視されている、これが反対をなさる根拠の一つでしょうか。

洞口 はい、そうです。

田所 私は「LGBT」法案について日本共産党にお尋ねしましたが、お答えは曖昧でした。「LGBT」との言葉は耳にしますが、「性の多様性」というときに固定的な概念で括れる人たちばかりではないのではないか、と疑問を持ちます。日本においては性の問題と「家制度」、「家父長制」は不可分であると感じますが、いかがでしょうか。

洞口 私もまったく同じ問題意識があります。杉並区議会でも「パートナーシップ制度」の創設を求める陳情が出されました。「事実婚を認めるべきだ」、「同性婚を認めるべきだ」との内容です。これは私も大賛成、重要だと思います。

「性の多様性条例」と「パートナーシップ制度」がかなり混乱して語られていることに問題があると思います。「パートナーシップ制度」と「多様性条例」が同じであるかのように「洞口は反対した!」と結構、雑な言われ方をします。

「性の多様性」条例の核心的は問題は、私有財産制度や今の社会の政治、経済的な基盤である「家族制度」で、女性が産む性であるがゆえに「子産み道具」や「家内奴隷」という言い方もされますが抑圧されている、実際に社会の中で性暴力や差別を受けているのが99%以上女性だとの歴史と現実をまったく踏まえていない。「性の多様性条例」を作れば問題が解決するかのように、ある意味幻想を煽っている。女性差別や女性被害の歴史を踏まえていないことが問題だと考えています。

田所 実態と乖離しているといことでしょうか。

洞口 そうですね。それどころか差別が固定化されてしまう、と考えています。

◆LGBTすべての人たちが「性自認至上主義」を望んでいるかと言えば必ずしもそうではない

田所 「マイノリティー」という言葉は日本でも定着しているように感じます。少数者に対する懐の深い考え方である一方、「マイノリティー」を名乗れば「保護の対象とされてしかるべきだ」と議論を飛ばして結果に行き着く傾向がありはしないかと感じます。

洞口 性的マイノリティー当事者の声を聞くことがあります。身体的な性差よりも性自認を上位に置いてしまうと、結局犯罪に繋がる。それをしてしまうとLGBTと言われますが、様々あるわけです。LGBTすべての人たちが「性自認至上主義」を望んでいるかと言えば必ずしもそうではない。いまの社会の抑圧構造、この社会の現実について声を上げるべき相手を見誤るような動き、本来であれば性的マイノリティーの人たちも、女性も「家制度」や「家族イデオロギー」にそぐわないということで、ともに声を上げていく人たちが対立させられている状況があると思います。

「性の多様性条例」も誰が差別者、非差別者と認定するのか。条例全体で曖昧なので非常に危機感を持っています。実際女性スペースに身体男性が「心は女性なんだ」と、いまオールジェンダーレストイレとかありますが、女性が勝ち取ってきたものが解体されようとしているのではないかとの危惧があります。(つづく)

◎中核派現役区議会議員、洞口朋子氏に聞く「LGBT法案」の問題点
〈1〉「性の多様性」の名の下に、これまで女性が勝ち取ってきたものが解体されようとしているのではないか
〈2〉絶えざる差別・抑圧を産み出す今の社会を表層的に変えれば良くなるとのものの見方は、甘いのではないか

◎洞口朋子(ほらぐち ともこ) 1988年宮城県生まれ。法政大学経済学部除籍。革命的共産主義者同盟全国委員会(中核派)幹部。都政を革新する会(旧:杉並革新連盟)メンバー。2019年より杉並区議会議員(2期目)。公式HP https://horaguchitomoko.jp/

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』