「よりによって震災で一番つらい地域の電気料金をあげるとは、いったい復興税は何に使われているというのかね」(いわき市住民)
ついにパンドラの箱を開けてしまった。東北電力が家庭向け電気料金の平均11.41%引き上げを政府に申請したのだ。
東京電力は、昨年値上げを実施。関西電力、九州電力、四国電力が値上げ申請をしている。
どれも納得のいくものではないが、被災地を多く抱える東北電力の値上げ申請は、電力会社というものの体質を浮き彫りにしている。

東北電力は値上げの理由として、被災そのものを挙げている。原町火力発電所や多賀城変電所が津波で損壊。多数の送電用鉄塔や配電柱も折損し、その復旧に費用がかかったという。
「私のところは津波で工場が全壊し、なんとか別の場所に工場を建てて再開した。受注は震災以前の半分にも満たない。うちらのような中小企業が、再建にかかった費用を価格に上乗せできますか? 仮設住宅から通っている従業員もいて、生活再建のためにもなんとか給料を上げてやりたいが、電気料金を上げられたら、それも難しくなる」(岩手県大船渡・工場主)
災害復旧にかかった費用を電力会社が料金に転嫁できるのは、言うまでもなく、独占企業だからだ。
東北電力は、「電気料金は公平に負担していただくのが原則」として被災者や被災企業への特例的措置は取らない方針だ。ただでさえ、冬はより寒く夏はより暑い仮設住宅で、冷暖房費を切りつめなければならない。

「さらに、東北電力は、国に申請した電気料金の値上げで、東通原発1号機(東通村)を2015年7月に再稼働するとしています。長期停止となる予定なのですが、安全基準がクリアできるかどうかは微妙なところです」(東北電力関係者)

東通原発については、原子力規制委員会の専門家会合が昨年12月、敷地内に活断層があると認定。規制委は、放射性物質を除去するフィルター付きベント(排気)装置などの設置を義務付ける新安全基準の骨子案を今年1月に示しており、基準を満たさなければ再稼働を認めない方針を打ち出している。

原発が停止しているために、火力発電所を新設し、燃料費も倍増した、と東北電力は説明している。
「他にも東北電力が口にしていない理由が一つある。原発は稼働していなくても、莫大な維持費がかかる。発電しないで費用がかかる原発がお荷物になっているのだ。今や、原発が安全だというウソも、原発の電力は安いというウソも、バレた。だから、その理由を口にすれば、最初から原発など作らなければよかったのだ、という結論になるから、口に出せないんだよ」(経済アナリスト)

地元にいながら、被災者の苦渋など微塵も感ずることなく、自分たちの生活のために値上げを行おうとする、東北電力。これが、おしなべて電力会社というものだと、世に知らしめているかのようだ。

(鹿砦丸)