新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的とした緊急事態宣言の解除に向けて〝終息ムード〟が漂う中、PCR検査を積極的に行わない行政への不満も多い。福島県福島市も市内の保育園や大学学生寮で感染者が見つかりながら、他の園児や入寮生などのPCR検査は「症状が出ていない」として一部を除いて実施していない。なぜPCR検査を行わないのか。福島市保健所の勝山邦子副所長が取材に応じた。

◆なぜ濃厚接触者にあたらないとPCR検査をしないのか

PCR検査に消極的な福島市保健所。無症状だと非濃厚接触者として検査していない

「濃厚接触にあたらないので塾の名前は公表しません。消毒など対策も講じられているし、生徒さんの特定も出来ています。その代わり、感染が分かった大学生に教わっていた生徒さんの健康状況は念のために把握させていただきます。濃厚接触者がいないという意味では保育園のケースと同じです」

陽性判定を受けた大学生(福島市内で家族と同居)は、福島市内の塾で講師のアルバイトをしていた。この大学生と同じ塾で講師のアルバイトをしている友人(大学内の学生寮で生活)を濃厚接触者としてPCR検査を実施したところ陽性だった。しかし、福島市保健所は個人指導である点と対面指導では無い点に着目。2人から指導を受けていた生徒は濃厚接触者には該当しないと判断した。

「お子さんは壁に向かって座り、先生(大学生)は脇から指導する形です。確かに先生と生徒の間にアクリル板が立っているわけではありませんが、対面していないために飛沫を浴びる可能性は大きく下がります。新型コロナウイルスは空気感染するものでは無いですから、同じ部屋にいるからといって感染するものではありません。大事なのは『飛沫』と『接触』です。それらを総合的に判断して濃厚接触者とは判断しませんでした」

なぜ濃厚接触者にあたらないとPCR検査をしないのか。検査を実施し、陰性であればひとつの安心材料になるではないか。しかし、勝山副所長は「無症状であれば健康観察にとどめる」との姿勢を崩さない。

「ひとつは症状が出ていないという事。万が一、症状が出てくれば検査を実施する事もあるかなとは思います。中には無症状で陽性になる方もいますが、症状が無いという事は一般的にはウイルス量が多くないので陰性になる可能性が高いのです。その代わりと言っては何ですが、この大学生から指導を受けていた生徒さんには、念のための健康観察として発熱や咳、味覚障害、倦怠感が生じたら連絡をいただくようにお願いしています。濃厚接触者に準じる形で最終接触日から2週間です。2週間経っても体調に異変が現れない場合は、基本的には安心していただいて良いと思います」

◆「PCR検査は『総合的な判断』で実施しています」

福島市内では、保育園に通う男児の感染も明らかになっている。同居する父親の感染が判明したため濃厚接触者とされ、無症状だったが検査をしたら陽性だと分かった。しかし、他の園児や保育士などは「濃厚接触者には該当しない」として健康観察にとどめ、PCR検査は実施されなかった。木幡浩市長は園児の感染が判明した直後の記者会見で「(保育園は)感染の広がりが懸念される状況ではありません」などと断言。市議からは批判の声があがった。

保育園も学生寮も、結果として集団感染に発展しなければもちろん良い。しかし、今のやり方ではそれはあくまで結果論。まるで〝ギャンブル〟だ。なぜ接触機会の少ない人も含めて積極的にPCR検査を行わないのか。それが安心につながるのではないのか。

大学の学生寮には145人が入寮(帰省などで寮を一時的に離れている学生も含む)しているが、福島市保健所がPCR検査を実施したのは濃厚接触者と判断した3人のうち、症状のあった1人だけ(結果は陰性)。保育園は2週間の健康観察期間が終了。結果として当該園児以外に感染したと思われる子どもは(公式には)いないとして、勝山副所長は胸をなでおろした。だが、県民からは積極的なPCR検査の実施を望む声もある。検査を実施するだけの能力もあるが、勝山副所長は検査に消極的な理由を明言しない。

「無症状の場合は検査をしても……。医師である中川昭生所長の判断で検査をする場合もありますが、症状が無いとなると検査をしても陰性と判定される可能性がかなり高いのです。もちろん可能性であって絶対ではありません。状況によっては必要な場合があると思います。濃厚接触ですね。同じ学生寮で暮らしていても当該学生と全く接点の無い学生は検査をする必要は無いのかなと思います。濃厚接触者だからといって全部検査しているわけではありません。PCR検査は『総合的な判断』で実施しています」

感染が分かった大学生が暮らす学生寮には145人が入寮しているが、PCR検査を実施したのはわずかに1人だけ

とにかく「濃厚接触」。そして「症状の有無」。なぜその定義から抜け出す事が出来ないのか。なぜ検査数を抑えようとするのか。飛沫と接触さえ気を付けていれば、マスクと手洗いさえ入念にしていれば、県境をまたいだ往来をしても問題無い事になってしまう。しかし、勝山副所長も認めているように、どれだけ気を付けていても100%、絶対という事はあり得ない。それでも感染してしまう事は十分にあり得る。だから自粛が呼びかけられ、多くの人がそれに従っている。しかし、PCR検査の実施という話になると、様々な「要件」が顔を出して来てしまう。「ゼロでは無いから健康観察をし、症状が出たら検査をする」と勝山副所長。話を聴けば聴くほど、まるでPCR検査を実施しないための理由を探しているかのようだ。

「保護者の方々の気持ちは理解出来ます」と勝山副所長。しかし、現実にはPCR検査は積極的に実施されず、情報もほとんど明らかにされない。例えば、感染の分かった大学生は「公共交通機関」を利用して寮から学習塾まで通っていたが、それが電車なのかバスなのか。そこは伏せられている。

「言うまでもありませんが、感染した事は責められるべき事ではありません。私だって感染する可能性はあるのですから。でも、これまで会社名など具体的に公表する事によってとても大変な目に遭っているのも事実です。これまで市内の会社が従業員の感染を公表したケースがありましたが、感染した方と接触が無い方も含めて困るような場面もあったようです。ある事無い事を言われたり…。公表してみると困る事があるのも事実なのです」

であればなおさら、徹底してPCR検査をするべきだが、それもなされない。〝ギャンブル〟のような健康観察が続くばかりなのだ。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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