所属する芸能プロダクションに反旗を翻したタレントには、苛烈な報復が待ち受けている。

安室奈美恵独立騒動と少し遅れて江角マキコのスキャンダルが持ち上がったが、こちらも元所属事務所からの報復ではないかと囁かれている。

『週刊文春』(2014年9月4日号)の報じるところによると、2012年12月30日、新築同前の長嶋一茂邸の真っ白な壁が「バカ」「アホ」「バカ息子」などと赤いラッカースプレーで落書きされるという事件が起きたが、その犯人は大手芸能事務所、研音に勤務する江角のマネージャー、A氏だったという。

江角は娘が学校で長島一茂の子からイジメにあっていることに憤り、信頼しているマネージャーに一茂邸に「バカ息子」と書くよう依頼。実際に依頼が実行されると江角は、マネージャーに「スプレー代」として10万円を支払ったという。

落書きは器物損壊罪という犯罪であり、5年以下の懲役が下る。一茂邸への落書きを指示したという報道が事実とすれば、江角は重大な罪を問われることになるが、報道に対して堅く口を閉ざし、「女優生命の危機」という言葉も囁かれている。

◆スキャンダル暴露でタレントを潰す芸能事務所

では、なぜこのような騒動が持ち上がったのだろうか。

そのことを考える上で重要なのは、今年3月に江角は長年所属していた芸能事務所、研音を退社し、新たにインクワイヤーという個人事務所を立ち上げ、独立していたという事実だ。問題のマネージャーは、江角と一緒に後を追うことも考えたそうだが、結局、思いとどまって研音に残った。

研音は唐沢寿明や天海祐希などが所属する大手事務所。江角が研音を離れた理由の1つには天海祐希に対する江角のライバル心があるという説もあるが、研音にとって『ショムニ』などの代表作を持つ江角が抜ければ、その分、売上は落ちる。また、独立の動きが他の所属タレントにまで伝染する事態は何としても避けたいところだろう。

人は誰でも人に知られたくない弱みを持っている。特にイメージが売りのタレントにとって、スキャンダルの暴露は死活問題だ。日本の芸能事務所は、所属するタレントを公私ともに監視できる立場にあり、その気になればスキャンダルの暴露でタレントを潰すことは難しいことではない。

◆沢尻エリカ、セイン・カミュでも「法則」発動?

事務所からの独立を機にタレントがスキャンダルをぶつけられたケースは、これまでにも何度もあった。

2009年9月にスターダストプロモーションから契約を解除された女優の沢尻エリカは、2010年、当時、夫の高城剛とともにスペインに個人事務所を設立し、芸能活動の道を模索したが、あらゆるメディアから、バッシングされ、立ち往生を余儀なくされた。

沢尻がスターダストから契約解除された直後から、芸能界復帰の条件として高城との離婚が取り沙汰されていた。その理由は、「女性タレントや女優に、仕事に口を出すようなオトコがつくと面倒が起きるというのは定説」(『週刊ポスト』2009年10月30日号)だからだという。

後の報道で分かったことだが、沢尻は薬物検査で大麻の陽性反応が出たことがきっかけとなり、スターダストから契約を解除されたという。その情報は、スターダストからエイベックスに伝えられ、2010年4月中旬、スターダスト、エイベックス、バーニングの各プロダクション首脳による会談で、沢尻がエイベックスに移籍した上で芸能活動に復帰させ、利益の一部をスターダストにキックバックするという合意ができたという。

その後、沢尻は高城と離婚し、エイベックスに移籍し、芸能界復帰を許された。

2005年に事務所を移籍したセイン・カミュも、旧所属事務所から大麻スキャンダルをぶつけられ、大きくイメージを悪化させた。

セイン・カミュはギャラの配分をめぐる対立から14年間所属した事務所を辞め、友人らとともに芸能事務所を設立したが、旧事務所は「本来入るべき収入がなくなった」としてセインに1億円を求める訴訟を提起した。

一審で敗訴した旧所属事務所は、控訴し、その判決がでる直前の2007年12月、週刊誌でセインの大麻疑惑が報じられた。記事の内容は、セインがテレビデビューしたNHKの『やさしい英会話』で大麻使用疑惑が持ち上がり、番組を降板させられてというもの。控訴審判決でも敗訴が予想されていた旧所属事務所による意趣返しとして記事が出た可能性がある。

そうしたスキャンダルを正当化するわけではないが、事務所がタレントの私生活を監視し、スキャンダルを握って支配することは重大な人権侵害を生む危険性がある。

アメリカでは、タレントに仕事を斡旋するエージェントを取り締まる「タレント・エージェンシー法」があり、法律によってエージェントがマネジメントやレッスンなど雇用の斡旋目的以外の名目でサービスを提供し、対価を得ることが禁じられている。そのため、アメリカのタレントは個人でマネージャーを雇う。

日本の芸能界では、時々、マネージャーがタレントの弱みを握って金銭を要求する事件が起きるが、本来、タレントの私生活の秘密を知りうる立場にあるマネージャーは、よほど信頼出来る人物でなければ任せられるものではないのではないだろうか。

(星野陽平)

《脱法芸能01》私が『芸能人はなぜ干されるのか?』を書いた理由

《脱法芸能02》安室奈美恵「独立騒動」──なぜ、メディアは安室を叩くのか?

《脱法芸能03》安室奈美恵の「奴隷契約」発言は音事協「統一契約書」批判である

《脱法芸能04》安室「奴隷契約」問題が突きつける日米アーティストの印税格差

 

業界水面下で話題沸騰6刷目!『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占禁止法違反』