キックボクシング、リングで有利に導くために

堀田春樹

2021年5月23日に「あまり重要視されないリング幅の駆引き!」に続く、リングに纏わるお話です。

※ここではキャンバス=リング表面を覆う布製生地。マット=キャンバスとフェルトを含む柔軟性ある厚み。フェルト=リング床面基盤に敷かれるクッションと表現します。

◆試合前の最後の仕上げ、リングのチェック

ベストコンディションで試合に臨むも、リングとの相性が合わなければ思わぬ苦戦や、実力を発揮出来ず、怪我に繋がる恐れもあるので事前チェックが必要です。後楽園ホールに於いては慣れた感覚も、地方や海外では何が起こるか解りません。

開場前にリングでウォーミングアップする選手は多くいますが、戦略と共にリング全体のの感触も感じているでしょう。

開場前、リング上でウォーミングアップする選手たち(2025年10月5日)

◆マットの硬さとロープの張り具合

投げ技有る競技はマットが柔らかいのが通常です。平成初期頃の真樹ジム主催の格闘技の祭典では、後楽園ホールで通常のボクシングリングが使われたので、プロレスから参戦したザ・グレート・サスケがリングチェックで受け身を試み、「うわっ!硬い!」と言葉を漏らしたことがありました。その他のレスラーも渋い顔だったことが思い出されます。

タイでは以前の二大殿堂のルンピニースタジアムやラジャダムナンスタジアムのリングはキャンバスを指で押してもへこまない土俵のように硬く、他のスタジアムは比較的軟らかいマットが多かったようです(2017年に私が観たラジャダムナンスタジアムでの記憶は曖昧!)。

石井宏樹も戦ったラジャダムナンスタジアムのマットは硬くて蹴り易い(2000年12月)

日本に於いては「リングで爪先立ちし、マットを圧したり擦ったりして、キャンバスが乾いていて滑り易いともの凄く不安になって焦りました。」という元・選手の意見もありました。

マットが柔らかいと蹴りを出す際に踏み込み難く、タイミングがズレて威力がやや落ちてしまうといった意見があるようです。

プロボクサーはリングに上がる際、リングシューズでリング下にあるマツヤニを踏み込んでリングに上がるので滑り具合はあまり気にならないかもしれません。柔らかいマットだとキックボクサー同様にフットワーク使う選手には不利で、更にはロープの張り具合が緩いとロープ際に詰められた際の攻撃を避けるためのボディーワークには影響が出るかもしれないという元・ボクサーの意見がありました。

キックボクシングでは、ボルネオで試合経験がある鴇稔之氏は「ロープ際に押し込まれた際にタックルされて、ロープが緩くてリング下に落とされて頭打ったが10分程インターバル与えられて、そのまま続行しました。」というロープに纏わる経験談から、ロープの張り具合も戦略に入れる必要がありそうです。

◆レフェリーまで滑りまくったリング

今から20年程前、後楽園ホールでの治政館興行で、ビニール製のキャンバスが敷かれたことがありました。すでに嫌な予感はしていました。これより少し前に別会場でのNJKF興行で同じ素材のキャンバスがあった状況からでした。選手らの汗やインターバルで被った水が滴り落ち、キャンバス上は水浸し状態。タイムストップしてレフェリーや役員がキャンバスを拭きまくった状況がありました。通常の布製キャンバスなら水は浸み込みますが、ビニール製では浸み込むことはありません。

選手は蹴ろうとして滑ってバランス崩す。フットワーク使って滑って転ぶ。レフェリーまで立って居るだけで滑って転ぶ。当時メインイベントの武田幸三氏もやり難かったでしょう。こんなキャンバスは常識的には二度と使われないでしょう。

これは大雑把な水撒き。「満遍なく撒いて」とは他のレフェリーより(2026年7月19日)

古い昭和の時代から、リング上で水が撒かれる光景を見たことある観戦者は多いかと思います。照明による熱で乾ききった布製のキャンバスは滑り易く、赤・青コーナーで選手に被せた水でキャンバスがビショビショに濡れた場合、ここでも滑り易くなります。それで水受け皿が用意された時期もありましたが、現在の後楽園ホールでは使用されていません。

キャンバスの下がゴム製の薄いフェルトで、キャンバスが濡れ過ぎると水の行き場が無く、水浸しになるだけです。乾き過ぎると滑る。濡れ過ぎても滑る。適度に湿った状態がベストで、レフェリー等が水を細かく撒いているのはそのためです。

レフェリー竜矢氏のペットボトルを使った噴射するような上手い水撒き(2025年6月20日)

キャンバスは無地がいちばん良いところ、近年のリングキャンバスは問題点が一つありました。広告等が入るペイント部分は水を弾く(吸わない)場合があります。以前それでスリップした長谷川穂積氏、スリップ気味ながらノックダウン扱いされた徳山昌守氏も災難経験者でしょう。それも問題視され、現在は解消されたペイントキャンバスに改善されていますが、全てのキャンバスが改善されているかは不明なので、リングチェックはしておいた方がいいでしょう。キックボクシングの場合、足の裏に滑り止めスプレーを掛けることは会場内のフロアーを汚す恐れから、団体によっては禁止されています。

◆プロレスのリングは使えるか

近年のキックボクシングではボクシングの規定を満たしているリングが多いものの、細かい規定は無いので、過去には「これプロレスのリングだな!」といった三本ロープでキャンバス上が狭い、見た目で解るリングもありました。

ボクシングルール的に言えば、「条件を満たさない場合でも安全管理上支障が無いと判断した時は試合を許可することが出来る」と柔軟解釈しても、リングは魔物が住む、理不尽な展開も起こり得る戦いの場。対戦相手がリング上でウォーミングアップしていると「早く終わらせろよ!」と思いながら遠くで待っていたという選手も居ましたが、後楽園ホールでは昼夜の入れ替え制で、開場までの時間が少ない中、セレモニーのリハーサルも重要ながら、開場前の選手のリングチェック時間はなるべく長く用意してあげて欲しいものです。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」