納骨の前日、住職から電話がある。
「戒名代が30万、納骨の式の費用が10万、計40万円、明日お支払いいただけますね」
支払いの確認だ。
始めから分かっていたことだが、これは宗教的儀式などではなく、ビジネスそのものであることを、住職自ら明らかにした。

当日、寺の近くの地下鉄高田駅に着くと、親戚達と出会う。
父が事業に失敗してから、親戚と会うことはなくなっていた。ほとんど20年ぶりだ。
若い頃革命運動に没頭していた私に、女性とのデートのしかたも分からないだろうからと、食事につきあってくれたことのある、従姉妹もいる。
たわいのないことを話しながら川沿いの道を歩き、浄泉寺に着く。

「墓を見ましょう。僕もまだ見てないんですよ」
忙しかったので、立ち上げにも立ち会わなかったのだ。
親戚達を伴って、墓に行く。小さい墓になるが、石はいいものだ、と石屋は言っていた。
こじんまりとした丸みを帯びた墓は、普通の角張った墓よりも、可愛らしくお洒落にさえ見える。

先に来ていた弟が出てきて、立て替えてくれる40万円を手渡してくれる。
ネットで作法を調べたらしく、100円ショップで買ったという袱紗で包んである。
寺務所に入っていくと、住職が待ちかまえている。
「先に、精算のほうをお願いします」と言う。
「え? 普通、式の後じゃないですか?」
それは、ネットで調べてあった。
「いえ前です。普通は前です。前です、普通は……。普通はだいたいそうです」
住職は、焼くだけね、と言った時と、同じような抑揚をつけて繰り返す。

小部屋に招き入れられる。
もちろん、袱紗に包んだまま渡すのが、礼儀なのだろう。
だが、これはもはや単なる支払いだという思いになり、ついつい、袱紗から取り出して白封筒を手渡す。
「父からこの寺を継いだ時は、檀家が少なくて苦労しましてね」
白封筒を握ったまま、住職は苦労話を始める。式の開始時間まで10分ほどだというのに、話は延々と続く。
話の区切り目で、私は言った。
「念のため、中をお確かめください」
「はい」
住職はさっと封筒から札を取り出すと、慣れた手つきで数え始めた。
その私の言葉を待っていたのだろう。
もうこれは、完全にビジネスにおける、支払いだ。
「受け取りいただけますか」と訊く。
「式の後でいいですか」
「ええ、かまいませんよ」
「それでは」と立ち上がり、廊下を抜けてお堂に向かう。

この間に、待合室にいた母は、親戚達が待つ間、言っていった。
「息子が遅れている。なんだってこんな大事な時に遅れるんだ。式が遅くなってしまう」
住職と打ち合わせしてるんだ、と教えても、私をずっと詰り続けていたという。

(FY)

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