青山学院大学(高校・中学を含む)教職員の285人(総数の約2割)の人々が原告になり、同学校法人を相手取り一時金の減額を巡り、提訴がなされていたことが明らかになった。

毎日新聞の報道によると、「教職員の一時金は1953年以降、就業規則で定める規定に基づいた額が支給されていた。しかし学院側は2013年7月、『財務状況が非常に厳しい。取り崩し可能な資金にも余裕がない』などとして、規定の削除と一時金の減額を教職員の組合に提案。その後、組合の合意を得ないまま就業規則から規定を削除した。2014年夏の一時金は、規定より0.4カ月分低い2.5カ月分にとどまった。学院側は教職員側に対し、少子化や学校間の競争激化を理由に挙げ、『手当の固定化は時代にそぐわない』などと主張。一方、教職員側は『経営状態の開示は不十分で、一方的な規定削除には労働契約法上の合理的な理由がない。学院と教職員が一体となって努力する態勢が作れない』などと訴えている」そうだ。(毎日新聞2014年12月25日付

なるほど。組合との合意がないままの一方的一時金の減額というのが表面上事件の様相だ。

このような「一時金」あるいは「給与」の一方的カットは、本当に経営状態が思わしくない大学では、珍しいことではない。だが青山学院大学は定数割れを起こしている学部があるわけでもなく、「MARCH」(明治、青山学院、立教、中央、法政)と呼ばれる東京の人気私大の一角を占める、いわば「勝ち組」大学だ。ではなぜ青山学院でこのような争議が起こっているのか。

◆国会議員、ファンド、裏社会まですり寄ってきた青学経営陣の拝金主義

私は「《大学異論12》大学ゴロ──学生確保の裏で跋扈する悪徳業者たち」(2014年10月16日)の中で名前を「AG大学」と伏せて青山学院大学の不祥事を予告していた。

青山学院大学の理事会と理事長は数年前から視野狭窄、拝金主義に走っていた。とりわけ理事長周辺には実に多彩な人間がすり寄っていた。現職の国会議員や新興ファンドの経営者、果ては裏社会の人間までが列をなしているという話を議員会館で何度も耳にした。私にこう教えてくれた人物は自身も企業の社長を務める民主党の議員だった。「金に汚いですよ」と顔に書いてあったし、その腹の内も隠さなかった。彼もおこぼれにあずかろうと息まいていたが、今では落選し落ち穂拾いをしているようだ。理事長はここ10年で数人代わっているけれども、その中でも青山学院の経営を大きく方向転換させたのは2005年から2010年まで理事長を務めた松澤建氏だった。

歴史があり、偏差値も高く、ましてやセンスがいい大学という評判の青山学院大学は、普通の経営をしていれば「財政状況が非常に厳しく」なることはない。大学の財務諸表は、専門知識のある人であれば、収入と支出を簡単に操作できるので、実際は安定的な財政状況であっても、短期的に「厳しく」見える指標を作り出すのはいとも簡単な操作である。が、2012年と2013年の青山学院の財政状況を見たが、収入、支出とも前年度より伸びており、特段の問題は見当たらない。「厳しい」どころかむしろ「拡大路線」まっしぐらだ。

◆拡大路線が引き起こす大学の瓦解

だとすると、ここで起きていることは、この連載コラムの第1回(8月19日)第2回(8月20日)でも紹介した立命館大学での事件、川本八郎氏が引き起こした「一時金減額」事件と同様の性格を帯びていると考えるべきだろう。大学内での歪な権力集中、経営者の暴走が止まらないのだ。

青山学院大学は2015年4月から「地球社会共生学部」を発足させるという。学部のコンセプトとして「青学らしいグローバル人材育成」と謳われている。今年、新興宗教団体である幸福の科学が大学を設立しようと文科省に申請をしたが却下された、設立を目指した幸福の科学大学の学部名には「人間幸福学部」や「経済成功学部」があった。「地球社会共生」も学部に冠する名前としては、不思議な語感と匂いが漂う。幸福の科学大学に似ていなくもない。混迷に陥った大学でしばしば起こる現象ではある。「独りよがり」によりバランス感覚を失ってしまうのだ。

私の知人に青山学院大学の「地球社会共生学部」の受験を考えている人がいれば、迷わず止める。もう合格票を手にしていても他大学への進学を勧める。

青山学院のスキャンダルはこの事件に止まらないだろう。

青山学院は理事長の専制と理事会の正常化が図られなければ、数年以内に凋落が明らかになることは明白だ。「青学ブランド」を経営者自らが壊すのはもったいない話である。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

《大学異論01》「度を越した」改革で立命館が一線を越える日(前編)
《大学異論02》「度を越した」改革で立命館が一線を越える日(後編)
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