オフィスへ行った話は2月の中旬だ。
その後もkindleの出版というもの自体にやる気が起きないまま別の仕事中心に過ごしていた。だが、今更、断るということはできない状況になっているのはわかっている。いつかはやらなければいけない。

その間にもAmazonに載せるための内容紹介文、他の作品の表紙などが送られてくる。内容紹介文は誤字脱字が多かったのでいくつか修正をかけた。また、読者目線に立ってあまり読みたいと思わないものに関しては大幅に修正をかけた。その場合、メールの文章はできる限り丁寧に送った。その頃の私は榛野氏に対して心で思っているよりも強気に出ることはなかった。いろいろと問題はあるとはいえ仕事だと思うと強気には出られない。それに問題のある仕事は今回に限ったことではなく、他のライター仕事でもある。そういった中の一つという風に捉えている部分もまだあった。

しかし、内容紹介文を先に作られると、修正のために現在持っている作品の大幅な内容変更はできない。内容紹介文を作るのは作品修正後にしてほしいと思ったが、表紙も内容紹介文も出来ているので後は原稿だけだ。という見えないプレッシャーをかけているつもりなのかもしれない。急かされるように、読み返してみてこれ以上修正のしようが無いと思った2作品を早めに送った。

榛野氏の対応は早かった。すぐにkindleの形になり私の元へ送られてくる。kindleはアプリで読めるので私はその頃使っていたAndroidにアプリをダウンロードして読んでみるとやはり誤字は見つかった。Wordで推敲していても気付かなかったが、別の端末で読むと見つかるものである。やはり校正なんてされていないと改めて思う。2作品ともに誤字があったので、これからチェックはしっかりしなければいけないなと思った。文章の上手い、下手は個性として読める部分もあるが誤字はシャレにならない。自分が悪いのか、校正をすると言ってしていない豊穣出版が悪いのか……どちらも責めることができず、情けない気分になってくる。

しかし、豊穣出版側が明らかに悪い部分もある。2作品とも1字下げが全くなっていないのだ。下がっている部分もあれば、半角下げ、もしくは全く下がっていないというバラバラの状態である。今にして思えば、原稿をWordから別のソフトに変換するために起こる問題かと思うがどう見ても原稿に違和感があるので1回読めば気付く……これは、kindle版原稿を明らかにチェックしていないと言えるのではないだろうか。

kindle版原稿が納得できないとなると、いつまでも強く言えないとばかり言ってはいられない。誤字の他、気になる部分については全て直してもらうようにメールにて要請をした。すると、本当に直したのだろうか? という速さで返事が来る。私の言った修正箇所は直してあるようだったので、そのまま『こちらで問題ないです』という内容でメールを送った。すると『これから販売申請を行います』という返事も素早く送られて来た。

販売申請を行うと言い一週間もしない内に『販売されました』との連絡が来る。早いと驚いたが電子書籍とはこういうものなのかと思いながら、わかりましたと返事をしてFacebook、Twitterなどで宣伝をするがほとんど売れなかった。最初の1週間で2冊ほどだろうか。やはりこんなものか……しかし、ショックを受けている暇もない。その1週間の間に追加の表紙と内容紹介文が次々と送られてくる。急かされるように短編なども含めて5作品程を送った。誤字脱字だけはないようにと細心の注意を払ったが、kindleで読むと必ずと言って良い程、誤字脱字を発見してしまう。私のkindle作家としてのデビューは、急かされるなか納得行かずに始まった。

(但野仁・ただのじん)

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