ミャンマー(ビルマ)は、7つの政府管区と7つの少数民族州で形成されている。少数民族州の1つ、カチン州で、昨年12月よりミャンマー政府軍による空爆攻撃が行われている。
多民族国家のミャンマーでは、多数派のビルマ族と、ほか少数民族との対立・軍事衝突が絶えないでいる。カチン州における、ミャンマー政府軍とカチン族の人々による武力衝突は、1961年から始まっている。1994年にミャンマー政府軍とカチン独立軍(KIA)の間で停戦協定が結ばれたものの、2011年に協定は破たん。紛争再開によって多数の難民が発生した。
今年1月、テインセイン大統領はミャンマー軍に停戦を命じたが、軍は空爆を続けていると報道されている(BBCビルマ語放送より)。国連の潘基文事務総長は、ミャンマー政府に対し、市民生活を脅かす行動の停止と、この問題における政治的和解を求めている。
カチン州は豊富な翡翠などの天然資源を抱え、水力発電が可能な河川を持ち、かつてよりミャンマーを支援してきた中国と国境を接する地の利もある。つまりここは,ミャンマー政府が,少数民族の人権を無視してでも掌握することを願う要素がそろっているのだ。

私のミャンマー周遊の旅で、その一端を垣間見たのは、ミャンマー第二の都市、マンダレーの高台で景色を眺めているときだった。畑や住居が広がる景色のなかに、一筋だけ、非常にきれいに街路樹が植えられている道が、北に伸びている。街路樹によって、道路の様子を見ることができない。ガイドにその道について尋ねると、「ルビーの産地,モゴックにつながる道だ」という。
モゴックはかつて、カチン族の土地だった。ミャンマー軍事政権により、政府管区に編入されてしまった経緯がある。
「航空写真では、ルビー産地に向かう人の動きがまったく分からないな……」
富の掌握につながる場所だけは、とても几帳面に整備される,この社会の特徴を見た気がした。

「マンダレーのセドナホテル」は、マンダレーで最高級の宿泊施設だ。しかしそれ以上に、このホテルがミャンマー人にとって誇り高いものとして語られるのは、昨年7月,香港のアクションスター、ジャッキー・チェンが宿泊したからである。彼はユニセフ親善大使として、児童の人身売買撲滅を訴えるべくミャンマーにやってきた。映画好きなミャンマー人にとって、どんな理由であれジャッキーの訪問は興奮する出来事だった。
ミャンマー人の夫は、ハリウッドで成功したアジア人のジャッキーを敬愛している。
「マンダレーのセドナホテルがどのようなサービスを提供するか、つまりジャッキー・チェンに対するホテルのサービスはどの程度だったか、チェックするように」と私に厳命した。
ホテルにチェックインしてから、手荷物を運ぶベルボーイがやってきた。彼は私とエレベータに乗りこむと、おもむろにスマートフォンを取り出し、私用電話を始めた。ほとんど宿泊部屋の説明もせず、荷物を置いて部屋を出ていくベルボーイ。この件を報告すると、夫は激怒した。
「ジャッキー・チェンを泊めたホテルが、そんなふざけた対応をするなんて! 国際レベルのサービスを提供してしかるべきなのに……今後のミャンマーの発展のために,英語のメールで、セドナホテルにクレームしろ!」
面倒くさいので,私は,夫のこの要求を無視している。
ほかにも,朝食バイキングレストランで、ホテル職員が、客に聞こえるようにホテル改善の会議を行っていたとか、スタッフは客が来るまでレセプションデスクでおしゃべりをしていたとか、逐一、夫に報告したところ、彼はこう言った。
「ミャンマー人の、客へのサービスはまだまだだ。でも、これからいくらでも成長できる」
参考までに、マンダレーのセドナホテルは、屋外プールやインターネットルームを完備する、とてもよいホテルだ。仕事におけるサービス精神をどう育むかは、このホテルだけでなく、今後ミャンマーのサービス業全般において課題になるかもしれない。(続く)

参考文献
「無援孤立 カチンランド戦争と避難民」ビルマ・コンサーン著
「ビルマ(ミャンマー)軍によるカチン州での空爆、人権侵害に対する声明」ヒューマンライツ・ナウ
「ビルマ: カチン州での無差別攻撃 停止せよ 危機的状態の住民への人道援助を認めよ」ヒューマン・ライツ・ウォッチ

(深山沙衣子)

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