その後もタイトルのタイプミスやアメリカだけで発売されるなど紆余曲折ありながらも徐々に販売を続けていった。小さなトラブルが起こるたびに榛野氏はkindleが日本上陸したばかりで不安定ということを言っていたが、実際は榛野氏のミスかシステムの不安定かどちらかはわからない。確かにシステムが不安定な部分はあったが、榛野氏のことなので自分のミスもシステムの不安定にしてしまうこともありそうである。半ば榛野氏のことを真剣に悩むのは馬鹿らしいと諦めていたので、メールが来るたびに「そうなのですね」と相槌のようなメールを返していた。

しかし、契約をしてしまっているのだから発売はしなくては。と、少しずつ直しては1冊ずつ販売していく。その中で私にとっては嬉しい出来事も少しずつ起こってゆく。
まずは知人から少しずつ感想メールをもらうということから始まり、売り上げも徐々に上がり、kindleレビューサイトにて良い紹介の仕方をしてもらえ、Twitterのフォロワー数・ブログのアクセス数が増えてゆくなど多くの人に読まれていることを実感する出来事が続いた。良い反応をもらえるたびに私の心にも変化が起こり、榛野氏のことは気にせず、自分は自分なりの小説を発表してゆけば良いと思えるようになっていた。榛野氏と関わるのはこの10冊だけである。ストレスが溜まる部分はもちろんあるが、そこには目を瞑り前に進もうと考えた。毎日、イライラしていては他の仕事に支障が出るということもあってのことだが、多くの人に小説を読んでもらえているということは決して悪い気はしない。
表紙と内容紹介は全て出来上がり、私の直しが終われば販売という状態になっていた。榛野氏は気にしないと決めると仕事も進むものである。別の仕事もあるので合間に時間を作りながら少しずつ直しを行っていった。

そんなある日、榛野氏からライターとして文章のリライトを頼まれた。同じことを繰り返しているような文章なのでそういった部分を削除し、すっきりさせれば良いかなというようなものであった。内容も専門的なものや難しいものではなく、文章自体も短い。時間もかからなさそうだ。お金もリライトだけということで考えれば決して悪いものではない。この頃は榛野氏に対する警戒心が少し薄れていたのもあったのだと思うが、引き受けることにした。そういえば、初めて会った時にライターの仕事についてどういったことをしているのかと詳しく聞かれた気がする。個人的にライターの仕事も依頼したかったのだと思うと納得した。
その仕事は他の仕事をしながらも2~3日で終わり原稿入稿後、即、請求書を提出し、お金もすぐに支払ってもらった。修正なども一切無かったため、ライターの仕事で榛野氏と付き合っていくのは悪くないなとは思ってしまった。かといって、警戒心を全く解いてしまってはダメだということも含めつつだが……。

さてkindleはというと残り3冊というところまで販売されていた。しかし、そこで長編の直しが入ったことで一気に時間が落ちた。
榛野氏もそのことに気付いたらしく「研修生の子が修正してくれた原稿があるので、オフィスに来ませんか?」という連絡を受けた。研修生の校正か……実際、役立たないだろうとは思ったが誤字脱字は榛野氏より丁寧に直している気がする。と思い、原稿だけ取りにという形で再び榛野氏に会うことになった。

(但野仁・ただのじん)

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