ミャンマー(ビルマ)では、2013年4月に、政府による新聞や雑誌の検閲が完全撤廃される予定だ。それを受けて、民主化活動を長く続けてきた現在の最大野党、国民民主連盟(NLD)が新聞を発行することになっている。新聞検閲撤廃に対するミャンマー国民の期待は高い。
現在、ミャンマーの日刊紙は、ミャンマー政府が発行する新聞「チェーモン(ビルマ語で「鏡」の意)」のみ。

ミャンマー国民はチェーモンを読む。だが、その一方で、ミャンマー政府が発行する新聞の信憑性を疑う声も存在する。そこで日刊紙のほかに、週刊のタブロイド紙も購読している。しかし政府の検閲があるため、週刊紙といえど、リアルタイムの情報を載せるのが難しいようだ。タブロイド紙は掲載情報が古いと評判である。
日刊紙は信用ならず、週刊紙は情報発信が遅い。その結果、国民は日々のニュースをラジオから入手している。イギリスやアメリカなどにいるミャンマー人が制作したラジオ番組が、ミャンマー以外の国の短波を借りて発信されているのだ。
これらのラジオ番組は、ミャンマー軍事政権の弾圧を受けて海外に逃亡した民主化活動家が制作しているため、ミャンマー政府の批判内容が多く含まれる。そこでミャンマー政府はかつて、ミャンマー国内でラジオ番組を増やす試みに着手した。これによって、民主化活動よりの番組リスナーを減らす考えだった。

ところが、つい最近、こうした海外から発信されるラジオ番組のレポーターが、ミャンマーに入国できるようになった。アメリカ発信のラジオ番組「ボイス・オブ・アメリカ」はヤンゴンに事務所を構えた。
こうした動きは、アウンサンスーチー氏が国会議員に当選したのちに起こっている。報道規制の緩和は、ミャンマー政府が「民主化」したと内外にアピールする一環だ。今後は検閲撤廃の詳細を注視する必要があるが、民主化活動家のレポーターがミャンマーに入国できるようになったことは、歓迎すべき出来事である。

私は最近、タブロイド紙などに記事を寄稿する民主化活動家に会った。1990年のミャンマー総選挙で議員に選出された、エイターアウン氏だ。
1990年の総選挙は、1988年の民主化動乱後の選挙として注目され、民主化活動勢力のNLDが圧勝した。しかし軍事政権が一度も議会を召集せず、国民が投票した選挙結果は無視された。
そこでアウンサンスーチー氏ら当選議員が中心になって、代行議会を結成。エイターアウン氏もこれに参加したが、その結果、軍事政権により投獄の憂き目にあう。
獄中生活の拷問で片足をひどく痛めたようで、自力で歩くのにとても苦労している。また拷問により、声帯を潰されたことも伺えた。彼はかすれ声しか出すことができない。
エイターアウン氏に、現在のミャンマーの民主化の進展具合を聞いてみた。
「ミャンマー人は今まで、軍事政権下で耳をふさがれ、目を閉じた状態で生きろと言われてきた。『民主化』後、すぐに耳をすませて、目を開けてと言われても、簡単にできるものではない」
彼はこう述べた。つまり、ミャンマー国民は、自国の民主化の動きをなかなか信用できず、直視するのが怖いと思っているのだ。
そして、民主化が少し進みそうな希望が見えてきた今こそ、ミャンマー国民の目を開くべく、啓蒙活動の一環である執筆活動を続けているという。
私は何人か、軍事政権に投獄されたミャンマー人と会ってきたが、彼らは共通して、目と表情が、他の人と異なっている。人間が人生でまったく見る必要のない恐怖を実感してしまったことが、彼らの目と表情から、透けて見えるのだ。こうした人々が身近にいるミャンマー国民が、ミャンマー政府の民主化を信じられなくても、うなずけるのである。

(続く)

(深山沙衣子)

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